1


「そんなに言うなら、この像はもう売らない。金輪際、この扉は開かないぞ!」
「ああ、ま、まってください、リオネちゃん!」
 リオネと呼ばれた少女が細い腕で、腰の丈もあるボルニア蛮族の神像を持ち上げようとするのに、少年はため息をつく。
(こういうときだけは、本気になるんだから)
 蛮族らしい日焼けした肌。
 まとめられた長い髪。
 かもしかのように躍動感ある身体。
 甲高い声は子供のように響くが、それでも名の知れた商人であると少年は聞いていた。
「リオネ、いいかげん値段を決めてくれよ。外で2人が待っているんだ」
「イコウは、商売に口を出すな!」
 リオネは素早く振り返り、トパーズ色の瞳をらんらんと輝かせて、イコウと呼ばれた少年を射貫く。
 そう、それは美しいのだ、芸術的なほどに。それで、なんとなく許してしまう。
 案外、他の商人たちも、そんなリオネとの商談を喜んでいるのかも知れない、とイコウは思う。
 それがリオネが、商人として成功している理由の一つなんじゃないかって。
「リオネちゃん、こうしよう。お願いをひとつ聞いてくれるなら、その値段でいい」
 息も絶え絶えの故買屋の提案に、リオネはきょとんとする。
「なに?」
「ああ、実は、今日商人さまに届け物があってね。それについてきて欲しいんだ」
 トパーズの瞳を大きく動かして、リオネはあわてる。
「ここ、サディスだよ!? 東岸諸国の商人はあたしたちシド商人嫌ってるじゃん!?」
「いや、そこをなんとか・・・」
 弱り切る故買屋を見かねて、イコウは口を開いた。

 どうする?


  ■えーと、なにを届けるんですか?  2  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■なにか、リオネじゃないとできないことがあるんですか?  3  【出現条件】:  【消失条件】:
    



2


「えーと、なにを届けるんですか?」
 故買屋はこれぞ助け船とばかりに、息をつく。
「ああ、イコウくん、でしたよね。その様子だと、トラン人?」
「ええ、ヒューメリック・ギルドの浮遊船乗りです」
 差し出された手を握る。
 故買屋はあわてて革の鞄を引き寄せ、その中からビロードに包まれたモノを取り出す。
「実は、ある商人さまがもう10年も探していたモノでしてね。いや、高いモノじゃない。パイプなんです。ただのパイプじゃない、琥珀のパイプなんですよ」
 丁寧に布を開くと、えらく使い込まれたパイプが姿を現す。
「ね、おもむきあるでしょう?」
「パイプぐらい、届ければいいじゃん、あたしが行く必要はないよ」
「ああ、リオネちゃん、そんな・・・」
 イコウは聞く。
「なにか、事情があるんだね?」
「ああ、イコウくん、そのとおり。実は出元が話せないんですよ。いわくがありまして。そこで、リオネちゃんがシドで見つけたと言ってほしいんですよ。〈トパーズの眼〉はサディスでも名が通っています。〈トパーズの眼〉なら見つけてくるだろうと誰もが思います」
「うーん、こういうときはお互い様かな」
 リオネは腕組みをし、首を左右に傾けながら言う。
「あ、でも、これ盗品じゃないよね?」
「ええ、もともと盗まれたものなのですが、返ってきたのは正統なルートです」
「よっし、リオネが引き受けた!」
 リオネは軽くジャンプし、右こぶしを上げる。
「おい、リオネ、勝手に引き受けるな!」
 故買屋は話は決まったと金貨を取り出し、リオネに言い値を渡し、ごそごそと準備を始める。
「もう夕刻ですしね、今日中に済ませたいんですよ」
 昼頃に入ったはずの骨董店は、すっかり夕焼けに、赤々と染まっていた。


  ■骨董店の外へ出る。  6  【出現条件】:  【消失条件】:
    



3


「なにか、リオネじゃないとできないことがあるんですか?」
 故買屋は、ぎょっとしてイコウを見る。それを見たリオネは、ニシシと口もとを歪め、指をその鼻がしらに近づける。
「あーあ、図星だなぁ。よくないなぁ、隠し事は」
「か、隠し事なんて、めっそうもない! お話しするつもりでしたよ、ええ」
「じゃあ、聞こうか。あたし、聞いちゃうよ」
 額の汗を拭い、故買屋は革の鞄を引き寄せる。
「実は、出元が話せない品物でして・・・、それで・・・」
「じゃあ、さらに1000グロア追加ね!」
「ちょ、ちょっとそれは・・・」
 故買屋は逡巡するが、諦めたように話し始める。
「お届けするモノは、とある商人さまの家から10年ほど前に盗まれたモノなのです」
「へ? 盗品?」
「ええ、高いモノではないのですが、思い出の品だったとかで。パイプなのです」
 革の鞄からビロードに包まれたモノを取り出し、丁寧に布を開くとえらく使い込まれたパイプが姿を現す。
「琥珀のパイプなのです」
「へー、これまた年季の入ったパイプだねえ」
 リオネとイコウはまじまじと、その縞模様の入ったパイプを見つめる。
 ふと聞く。


  ■そんなものがよく見つかったね  4  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag004  故買屋協力的
  ■どこで見つかったの?  5  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag005  故買屋超協力的



4


「そんなものがよく見つかったね」
 イコウが聞くのに、故買屋は一息つく。
「ええ、まあ、筋というものがありますから」
「こうみえても、このおっちゃん、この世界では有名なんだよ。あちこちの商人に声を掛けて見つけたら教えてくれるように頼むのさ。信頼なのさ、商人の。ひとりで探したら、こんなの見つけるのたいへんだよ」
 イコウはリオネの説明にふんふんと頷く。
 まだ見ぬ、そして見えるはずがない商人たちのネットワークに思いをはせるが、なにか世の中のからくりのひとつに触れたようで、壮大な大洋に波を越えて全世界に広がっていく商人たちの絆へと思いをはせる。
 リオネもそのひとりなのかと思うとふしぎな感じがした。
「それさ、もしかして、また、やばい筋でも絡んでるの?」
「ええ、ああ、やばいと言えばやばいですねぇ。どちらかというとデリケートな話で」
「この前なんて、王族の借金のかたを捌いてくれなんて、よく、そんなやばい筋ばっか掴んで来るよな、おっちゃんさぁ」
 故買屋は疲れ切ったという顔をしながら、水を飲み、汗を拭く。
「そこで、リオネちゃんがシドで見つけたと言ってほしいんですよ」
「へ? あたし?」
「〈トパーズの眼〉はサディスでも名が通っています。〈トパーズの眼〉なら見つけてくるだろうと誰もが思います」
「なるほどねぇ。うーん、こういうときはお互い様かな」
 腕組みをし、首を左右に傾けながら言う。
「あ、でも、これ盗品じゃないよね?」
「ええ、もともと盗まれたものなのですが、返ってきたのは正統なルートです」
「よっし、リオネが引き受けた!」
 リオネは軽くジャンプし、右こぶしを上げる。
 それから故買屋の鼻がしらに指を突きつける。
「だけど、貸しだからな。これ、貸しだぞ」
「おい、リオネ、勝手に引き受けるな!」
 故買屋は話は決まったと金貨を取り出し、リオネに言い値を渡し、ごそごそと準備を始める。
「もう夕刻ですしね、今日中に済ませたいんですよ」
 昼頃に入ったはずの骨董店は、すっかり夕焼けに、赤々と染まっていた。


  ■骨董店の外へ出る。  6  【出現条件】:  【消失条件】:
    



5


「どこで見つかったの?」
 故買屋は取り乱す。
「ど、ど、どこでって・・・、え、あ、ああ、えーと」
「あやしいなあ、怪しい怪しい! これ、盗品だよねぇ」
 リオネがにやにやして、故買屋を追い詰める。
「あ、いえ、もともと盗まれたものですが、返ってきたのは正統なルートでして」
「盗まれたモノが、正統なルートで戻ってくるとは、これいかに」
 得意げに腰に片手を当てる。
 故買屋は苦しげに言う。
「そ、そこで、リオネちゃんがシドで見つけたと言ってほしいんです。〈トパーズの眼〉はサディスでも名が通っています。〈トパーズの眼〉なら見つけてくるだろうと誰もが思います」
「イシシ、そう来たか。それは高くつくよぉ、べらぼうだよぉ、大丈夫? おっちゃん、幾らまでなら出せる? リオネに嘘をつけって、ひさびさだなぁ」
「あ、ちょ、ちょっと、それは・・・」
 うれしそうなリオネは両手をパンとたたく。
「でも、面白そうだから、特別に一枚噛んでやってもいい」
「ほ、ほんとですか?」
 リオネは故買屋の鼻がしらに指を突きつける。
「ただし、貸しだからな! 貸しだぞ! 絶対に迷惑かけるなよ! 絶対だぞ!」
「は、はい。たしかに」
「よっし、リオネが引き受けた!」
 リオネは軽くジャンプし、右こぶしを上げる。
「おい、リオネ、勝手に引き受けるな!」
 故買屋は話は決まったと金貨を取り出し、リオネに言い値を渡し、ごそごそと準備を始める。
「もう夕刻ですしね、今日中に済ませたいんですよ」
「へへ、イコウ、面白いものが見れそうだぞ? しかもチケット代はタダでいいって言うんだ。ついてるな、あたしたち。サディスまで来た甲斐があったってもんだよ」
 イコウはあきれてため息をつく。
 昼頃に入ったはずの骨董店は、すっかり夕焼けに、赤々と染まっていた。


  ■骨董店の外へ出る。  6  【出現条件】:  【消失条件】:
    



6


 眩しいばかりの白壁に、澄み渡るブルーの真四角の扉、軒先にはピンクの花々。
 東岸諸国独特の、乾いたさわやかな海風が吹き抜ける。
 背後にそびえるエレミア山脈の急斜にへばりつくように在するサディスは、涼やかな夕闇に沈みつつあった。
「きれい。ねえ、ロット、ほら明かりが灯った」
「つぎつぎと灯るよ。サディスは夜景も美しいと聞く」
 ロットと呼ばれた少年は、給仕を呼ぼうかどうかと迷う。
 しかし、いつものことではあるのだが、リオネが商談に向かうと長い。
 サディスの中腹にある海を見下ろすカフェ。
 港湾以外は斜面にある商業都市サディスはほとんどの建物が「海を見下ろす」のであるが、気のよい運搬屋に聞いたテラスのカフェは、その中でも格別の部類に属するように思えてしまう。
「風がすごいね。気持ちいい。花の匂いが」
 シャリーは振り返ったその顔を輝かせる。
 その少女の表情がこれほど明るくなるのはたったひとつの理由しかあり得ない。
「まったく、ずいぶんのんびりしていたものだ」
 イコウとリオネ、そして見知らぬ小太りの男を連れていた。
「わるいわるい、ずいぶん待たせた」
「リオネさん、こんなはした金の商談なんて、あっと言う間に片付けてくるって言っていたじゃないですか」
 リオネは恥ずかしそうに舌を出した。
 4人は浮遊船パオペラでトラン人がよくするように気ままな旅を続ける仲間たち。
 それぞれに特別な訓練を受け、特殊な能力を持っている。
 イコウは高飛び、重力を弱め、数十メートル、場合によっては数百メートル飛べる。
 ロットは千里眼、遠くのものを見通せ、壁に遮断された向こうを見ることができる。
 シャリーは共感者、人の感情をおぼろげに見ることができ、それを操れる。
 そして、リオネは途中からちん入した名うての商人少女、世界中に顔が利くとはじめて会ったときに恥ずかしげに説明されたが、今のところ顔が利かなかった事はなく、浮遊船パオペラのマネージャー格にとりあえず居座っている。
 幼馴染みの3人と、わるがきのようにつるむ、もう1人。
 サディスは、リオネの馴染みの故買屋がいると言うことで逗留していて、すぐにでも、トラン人の浮遊船が集まる、同じ東岸諸国の一大商都シャビへと向かうはずであったのだが、どうも事情が変わったよう。
 シャリーがふしぎそうに首を傾げて聞く。
「イコウ、どうしたの?」
「あー、予定が変わったんだ。リオネが調子に乗って仕事を受けちゃって・・・」
 イコウは顛末を話す。
「まあ、届けるだけだし」
 頭をかくイコウに、2人はあきれてため息をついた。
「い、いつもどおり」
「い、いつもどおりね」
 リオネは、むっとしていう。
「届けるだけだよ。簡単じゃん! さあ、さっさと片付けてしまおうよ!」
 さて、どうなることやら。

 細い路地を上り、階段で子供とすれ違い、ワインを飾る商店の間を歩く。
 オレンジのひかりに、路行く人々はのどやか。
 足を向ける先で待っているであろう今宵のシーフードを想っているのか、心なしか浮かれているように見えた。
「なに、食べたんだ? 東岸の料理はどうだった? 辛いのか? 甘いのか?」
「海みてたかな。ピンクの花がきれいで、ロットが、イコウはもうすぐ来るからって」
 シャリーの言葉にイコウはがっくりくる。
「別に先に食べててもよかったんだぜ」
「頼もうか迷っていた所だった」
 ロットの言葉にそうかと答える。
 イコウはサディスの雰囲気に舞い上がっていた。
 フェスティバルとまでは行かなくても、なごやかな空気と東岸独特の透明なひかり、活気溢れる街路の様子は、北国であるトランの若者たちには、素敵な異世界に思えてくる。
 白壁の街並みに、オーシャンブルーを基調にカラフルな原色のおしゃれなトッピングが街のあちこちに散りばめられる。それが、ごちゃごちゃと入り組むと、魅惑の商業都市サディスのできあがりだった。
 見上げると、この街のシンボルでもある、風車がゆったりと回る。
 イコウはそれがパオペラからは十基は見えたなと思いだし、たしかに空から見た街を歩いていることを確認するのだ。
「まったく、こんなのどかな所に住んでたら、外を飛び回る気もなくなるよね。故郷が一番いいんだから」
「リオネちゃん、サディスは北方諸国のお偉方の別荘が多いんですよ?」
 故買屋がたしなめる。
「あたしは、そういう商売は嫌いだからね。誘われてもやんない。そっか、おっちゃん、それでサディスに店かまえているんだぁ。初耳だなぁ。おっちゃんならラスペでも、帝都でもやれると思ってたけど」
「穴場なんです。サディスは」
 リオネはうんうんと頷く。
「そういえばさ、どんなやつなんだ? 届けに行くの。商人?」
 故買屋はうーんと悩む。
「まあ、あんまりいい噂は聞きませんね。でもまあ他の連中も五十歩百歩です」
「サディス商人なんて弱小すぎて、あんまり表には出てこないからねえ」
「抜け荷が多いのでしょう。この辺は禁制品や専売品を定める国が多いのです」
 その言葉をイコウは聞きとがめて、聞いた。

 どうする?


  ■どういう意味? 奴隷を運んでいるとか?  7  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■サディス商人って、悪い人たちなの?  8  【出現条件】:  【消失条件】:
    



7


「どういう意味? 奴隷を運んでいるとか?」
「いやいやいや、まさか、サディスの商人にそんな度胸はありませんよ」
 両手を大袈裟に振って故買屋は否定する。
「それは悪徳シド商人さ、イコウ」
「シド商人ってわるいやつなのか?」
 リオネはうーんと考える。
「あ、そうそう、タルボットだっけ? タルボット・ギルドみたいなもんだよ。悪いことは繁栄を誇っていないとしにくいんだ。明らかに禁止されているのに、奴隷船が尽きないのは、その悪徳商人が力があって、誰もがそれを糾弾しにくいからなんだよ」
 なるほどと頷く。
「この東岸近辺には、酒を禁制品としている国があります。また、塩の専売制、つまり塩の売買を王が決めた商人にのみ任せる事が多いのです」
「ははぁ、それを隠れて運んでいるんだな?」
 まるでネズミだね、とリオネが呟く。それをちろりと故買屋は見る。
「言わない方がいいですよ。傷つきます。〈トパーズの眼〉に言われれば嫌みにしか思えません。窮鼠猫を噛むなんて事になりますよ。まあ、運んでいるものは我々からしてみれば日常的なものではあるのですが、各国の法に触れてはいるのです」
「まあね。正規ルートはシドが押さえてるからね。そうなると闇しかなくなる」
 リオネは上の空で見上げた。ゆったりとした風車の旋回を見ていて気付く。
「でもさ、この取引は割に合わないかなあ」
 歩きながら背を反らし、その風車の羽に何かがあるかのように、見つめ続ける。
「え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 困るんです! そんなんでは!」
 リオネはひょいと無理な体勢を直し、ぴょんと故買屋の鼻がしらに近づく。
「だって、相手のホームグラウンドだよ? しかもその家に行こうって言うんだ。そこで、嘘の証言をする。文句を言われて反論はできないよね」
 故買屋は弱り切る。
「この取引は、実入りが悪い割に、いいことがない。そうだろう?」
 リオネはイコウを振り返る。
「どう思う?」

 どうする。


  ■リオネの言うとおり、この取引はかしこい感じはしないな、嘘つくんだろう?  9  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■リオネの心配のしすぎじゃないか? ちょっと行って帰ってくればいいんだよ。  10  【出現条件】:  【消失条件】:
    



8


「サディスの商人たちって悪い人たちなの?」
「いえ、悪いって言いますか・・・、まあ、後ろ指をさされる事ぐらいはあるでしょうが」
「そーだねぇ、ちょっとずるしているって感じかな?」
 リオネが言うのに頷く。
「この東岸近辺には、酒を禁制品としている国があります。また、塩の専売制、つまり塩の売買を王が決めた商人にのみ任せる事が多いのです」
「ははぁ、それを隠れて運んでいるんだな?」
 まるでネズミだね、とリオネが呟く。それをちろりと故買屋は見る。
「言わない方がいいですよ。傷つきます。〈トパーズの眼〉に言われれば嫌みにしか思えません。窮鼠猫を噛むなんて事になりますよ。まあ、運んでいるものは我々からしてみれば日常的なものではあるのですが、各国の法に触れてはいるのです」
「まあね。正規ルートはシドが押さえてるからね。そうなると闇しかなくなる」
 リオネは上の空で見上げた。ゆったりとした風車の旋回を見ていて気付く。
「でもさ、この取引は割に合わないかなあ」
 歩きながら背を反らし、その風車の羽に何かがあるかのように、見つめ続ける。
「え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 困るんです! そんなんでは!」
 リオネはひょいと無理な体勢を直し、ぴょんと故買屋の鼻がしらに近づく。
「だって、相手のホームグラウンドだよ? しかもその家に行こうって言うんだ。そこで、嘘の証言をする。文句を言われて反論はできないよね」
 故買屋は弱り切るのを見て、ロットが笑う。
「リオネさんが怖じ気づくの、はじめて見たな」
「東岸諸国の商人たちはシド商人を嫌ってるんだよ。シド商人はどうとも思ってないけどさ」
 むっとふくれる。
「この取引は、実入りが悪い割に、いいことがない。そうだろう?」
 リオネはイコウを振り返る。
「どう思う?」


  ■リオネの言うとおり、この取引はかしこい感じはしないな、嘘つくんだろう  9  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■リオネの心配のしすぎじゃないか? ちょっと行って帰ってくればいいんだよ。  10  【出現条件】:  【消失条件】:
    



9


「うーん」
 イコウは考える。
「リオネの言うとおり、この取引はかしこい感じはしないな、嘘つくんだろう?」
「よっし! じゃあ、決まり! この話はなかったことで!」
「ま、ま、ま、待ってくださいよ。リオネが引き受けたんじゃないんですか!」
 リオネは渋々金貨袋を取り出し、いくら返せばいいと聞く。
 気が気でない故買屋をちらっと見て、ロットが言う。
「まあ、こんなのどかな港町にいても、いいことなさそうだし」
「な、な、な、なんてことを言うんですか、これだから、トラン人は!」
 ごたごたとする中、イコウはシャリーの表情が沈んでいることに気付く。
「どうしたんだ、シャリー?」
 シャリーは言いよどむが、やがておずおずと口を開く。
「あのね、イコウ、もし、リオネさんが言ってくれなかったら」
「なに?」
「帰らないのかなぁ? イコウ? 10年も待っているのに」
 なんとかつかみ取ろうとする。
「そうか、大切なものが帰ってくるんだね?」
「そう、イコウ! とても大切なものが帰ってくるの!」
 シャリーは嬉しそうにはしゃぐが、イコウは一方で困ってしまう。
(たしかに大切そうなんだけど、話がまったく見えないんだよなぁ・・・)
 子供がイコウたちを押しわけていく。
 気付くと、細い路地に立ち止まって邪魔になっていた。
「あのう、この街の方ですか?」
 振り返ると、裕福そうな恰幅のよい商人。帽子をとってお辞儀をする。
「ディアマンテさんの邸宅をご存じないですか?」
「え、ああ、えーと・・・」
「わたしたちもディアマンテさんのお宅へお伺いするところなんですよ」
 とうとつに故買屋が割り込むのに、リオネが抗議する。
「ちょ、ちょっと!」
「私はとなりのルヘシラから参ったのです。あなた方も、ミリーの天気予報を聞きに来たんですか?」
「いえいえ、わたしどもは琥珀のパイプを届けるところです。もう10年も帰ってなかったパイプなのです」
 ほうと商人は感心し、にこやかに笑う。
「10年も。さぞかし待ち焦がれたでしょう。放蕩息子の帰還のようなものです」
「え? ええ、そうそう、そんなモノです」
 なごやかな風は東岸の空気の色なのか、どうしても割り込みにくい。
「では、案内をお願いできますか?」
「ぜひとも」
 イコウは、瞳を輝かせてうんうん頷くシャリーにため息をつき、うぇーとうんざりなため息をつくリオネの肩をたたいた。


  ■ディアマンテの邸宅へ、ミリーの天気予報を聞きにいく隣国の商人を案内する。  25  【出現条件】:  【消失条件】:
    



10


「うーん」
 イコウは考える。
「リオネの心配のしすぎじゃないか? ちょっと行って帰ってくればいいんだよ」
「しかたない・・・か・・・」
 とぼとぼとついてくるリオネを尻目に坂を登っていく。
 サディスは宵闇に包まれ、あちこちにランプが灯る。
 とおりは高級住宅街へと変貌し、大きなヴィラが煌々と照らされるのが見える。
 故買屋は足を止め、ふうふうと息を切らせた。
「あれです、なかなかでしょう」
 ひときわ大きな邸宅はサディスでは贅沢な緩慢な斜面に、都合、三階建てとなっており、ちらほらときらめく灯りが見えた。白壁の中にパステルブルーの扉が、それがほのかなあかりに浮かんでいる。
 故買屋が呼び鈴を鳴らすと、りんと鳴る。
 しばらくして、かちゃりと開く。
 顔を出した召使いが、故買屋の顔を見てはっとする。
「おとどけに参りました。10年もかかってしまいました」
 ばたばたと召使いは邸内に戻り、立派な身なりの人物を連れてきた。それは、イコウたちと同じぐらいの年齢の少年。
「ぱ、パイプをお持ち頂いたとか」
「え、ええ。失礼ですがあなたは?」
 少年は、はっとして大急ぎで乱れた身なりを正し、ネクタイをきゅっと絞って、しゃきっと姿勢を直す。
「わたくしめは、このディアマンテ家の家令を申しつけられております、ジョゼフと申します。ご主人様へのご用はわたくしめがお聞きおります」
 あまりの取り乱し方に、シャリーが、ぷっと吹き出す。
 それにつられてイコウも、くくくと笑い出す。
「お、おかしかったですか!?」
「い、いやさ、ごめん。無理する必要ないよ。いつもそんなにかしこまってるのかい?」
 ジョゼフと名乗った少年は顔を真っ赤にして、頭をかく。
「い、いえ、旦那さまがたいへん厳しいもので、それで」

 打ち解けてみると、ジョゼフは物腰が柔らかく、気の利く好青年だった。
 邸内に案内され、故買屋はイコウたちを紹介する。
「イコウです。トランのヒューメリック・ギルドの浮遊船乗りです」
「実は、パイプを発見してくださったのは彼らなのですよ。それでお連れしたのです」
 故買屋の説明に、はい、とジョゼフは了承する。若いのでぴんと来ないのだが、たしかに家令としてこの邸宅の一切をこの少年が取り仕切っているよう。イコウは聞く。
「それで、このパイプはいったいなんなんだ?」
「はい、そうですね。あちらの絵を見て頂くのが一番早いでしょう」
 ジョゼフが手を向けたところには、よくありがちな家族の肖像画。おそらくディアマンテさんであろう商人、奥さん、そしてちいさな少年の姿が描かれている。その一点を見て、イコウは納得する。その商人の手には琥珀のパイプが握られているのだ。
「旦那さまと奧さまの思い出の品なのです。盗まれたのですが帰ってきました」
 ジョゼフは表情をかげらせて、イコウを見る。
「だいたい15年ほど前の肖像画です。とても幸せそうでしょう? ですが、この二年後に奥さまが産褥でお亡くなりになります。そしてその三年後には息子さんも出奔され、旦那さまとご病気のお嬢さまだけが残されます。旦那さまはこのパイプが戻ってくれば、幸せだった過去が戻ってくると信じているのです」
 故買屋が神妙に帽子を降ろした。
「そのような由来がありましたとは」
「いえ、もう十年も前の話です」
 イコウはふと聞いた。


  ■息子が出奔した? もしかして、そのパイプは?  11  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag011  ジョゼフ、出奔した兄をひどい裏切り行為と
  ■娘さんはいま、13歳ぐらいだなあ。  12  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■なぜ、その若さで家令などをしているんだ?  13  【出現条件】:  【消失条件】:
    



11


「10年前に息子さんが出奔した? じゃあ、もしかして、そのパイプは息子さんが持ち出したんじゃないのか?」
 ジョゼフは黙り込む。
「わかりません。旦那さまはそう仰っていますが、それではひどい裏切りです、あんまりです」
 イコウはロットを見るが、無言で肩をすくめるだけだった。
「しかし、どこで手に入れたのです? そのパイプを」
「あ、あたしが見つけたんだよ。そしたら、おっちゃんが飛びついてさ」
 リオネがあわてて説明する。
「みつけたのはどこです?」
「ラスペかな。こういう骨董品はかなりの数を扱うんだ。さすがにひとつひとつまでは覚えてられないよ」
「そうですか」
 がっくりと肩を落とす。
「旦那さまは、それが息子さんの手がかりだと思っているのです。残念です」
 リオネはイコウをちらりと見るが、今度はイコウが肩をすくめる番だった。
(たしか、出元は言えないんだよなぁ・・・)
 なんとなくパイプが出てきた理由が偶然ではない事はわかるのであるが、その意志の姿がまったく見えてこない。気付くとシャリーがそわそわとし始めている。不幸な状態が解消されないのじゃないかと、不安で不安でしかたないのだ。
「そういえば、旦那さま、ディアマンテさんは?」
「あ、そうでした。旦那さまは書類仕事に取りかかっておりまして、もうしばらく」
 ジョゼフが言いかけたところで呼び鈴が鳴り、扉を開くと、裕福そうな恰幅のよい商人。帽子をとってお辞儀をする。
「ジョゼフ少年、元気そうじゃないか。ミリーちゃんの天気予報を聞きに来たんだ」
「どうしたんですか? 出航ですか? 最近いらっしゃらないと思っていたら」
 満面の笑みを浮かべて、大袈裟な身振りで、近況を語り合う。
 ロットは首をひねって不思議がる。
「天気予報? 天気がわかるのか? リオネさん?」
「初耳さ。聞いたことがないよ」
「この東岸諸国ではミリーの天気予報はよく当たると評判なのです」
 故買屋がこっそり話すのに、リオネとロットが眉根をひそめた。
 まさか。
「まさか難破したりはしないよ。ミリーちゃんがおれたちを守ってくれるからね」
「どうぞ、ご案内しましょう。みなさん方もいかがです?」
 言外に、よそ者にここにいられるよりも、一緒に来た方が助かると言っていた。

 どうする?


  ■ここで、旦那さまを待つ  19  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag019  ディアマンテ、息子には返ってきて欲しい
  ■お言葉に甘えて、ミリ―を見に行く  14  【出現条件】:  【消失条件】:
    



12


「その娘さんはいま、13歳ぐらいなんだね」
「ええ、たしかにお嬢さまは13歳ですが・・・」
 沈みがちになるジョゼフ少年に、リオネがきょとんとする。
「なになに、どうしたの? なんかあったの?」
「いえ、たいへんお身体がお弱くて」
「病気なんだ」
「お医者さまはどこも悪くないと仰っているのですが・・・」
 イコウは気付く。
(これは、心の病だ、きっと)
 そして、すぐ隣でそわそわとしている少女のおかっぱ頭に目が行く。
 イコウは、かがみっこんで、その髪をかき上げてシャリーに耳打ちをする。
「なあ、シャリーなら治せるんじゃないか?」
 硬直してシャリーはイコウを見つめ返す。その瞳は恐怖で震えていた。
「いやーーーーー!!! だめぇ!! ぜったいにいやーーー!!」
 ホール中に響き渡る大声でシャリーは悲鳴を上げる。
「ど、どうしたんですか」
 目を丸くするジョゼフにイコウは説明する。
「シャリーは共感者なんだ。訓練所でも成績優秀で」
「と、トランの共感者!? まさか、こんな幸運が!」
 満面の喜びを浮かべるジョゼフをふしぎそうに見ていたリオネが聞く。
「なに? シャリー、治せるの?」
「ああ、トランの共感者は心の病気を治せる事で有名なんだ」
「いや! ぜったいにいや!」
 当のシャリーはイコウの足下にしゃがみ込んで、いまにも泣き出しそうな様子でぶるぶると震えている。イコウはため息をつく。
「シャリー、宝の持ち腐れじゃないか。せっかく助けられる子がいるのに」
「わたし、治せないもん! そんな力持ってないもん!」
 まるっきりだだっ子だった。ジョゼフもふうと息をついた。
 ジョゼフがなにかを言いかけたところで呼び鈴が鳴る。
 扉を開くと、裕福そうな恰幅のよい商人が立っていた。
 商人は帽子をとってお辞儀をする。
「ジョゼフ少年、元気そうじゃないか。ミリーちゃんの天気予報を聞きに来たんだ」
「どうしたんですか? 出航ですか? 最近いらっしゃらないと思っていたら」
 満面の笑みを浮かべて、大袈裟な身振りで、近況を語り合う。
 そうするうちにシャリーのだだもおさまってくる。
 ロットが首をひねって不思議がった。
「天気予報って言ったか? 天気がわかるのか? リオネさん?」
「初耳さ。あたし、聞いたことがないよ」
「この東岸諸国ではミリーの天気予報はよく当たると評判なのです」
 故買屋がこっそり話すのに、リオネとロットが眉根をひそめた。
 まさか。
「まさか難破したりはしないよ。ミリーちゃんがおれたちを守ってくれるからね」
「どうぞ、ご案内しましょう。みなさん方もいかがです?」
 言外に、よそ者にここにいられるよりも、一緒に来た方が助かると言っていた。

 どうする?


  ■ここで、旦那さまを待つ  19  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag019  ディアマンテ、息子には返ってきて欲しい
  ■お言葉に甘えて、ミリ―を見に行く  14  【出現条件】:  【消失条件】:
    



13


「なぜ、その若さで家令なんてやっているんだ?」
 ジョゼフは戸惑う。
「え? わ、わたくしですか?」
 そこにいる誰もが頷く。
「な、なぜっていわれても・・・」
 伏せ目がちにきょろきょろしたが、興味津々の視線を向けられ観念する。
「わたしは孤児だったのです。両親の死についてはなにも聞かされていません。成人まで話さない決まりなのです。そう、あと二年は」
 イコウは口を開こうとしてつぐむ。
 なにかをとどめてはならない気がした。
「孤児院にいたわたしは、旦那さまにこの邸宅に連れてこられたのです。貰われたのです」
「どれぐらい前?」
 たまらずリオネが聞く。
「じゅ、10年ぐらい前です。それでいつの間にかわたしが使用人の中で最古参になってしまいました。それでこのような・・・」
「じゃあ、息子替わりだね」
「そんな、滅相もない!」
 リオネはにやにやと意地悪そうに笑う。
「本人の意志とか、旦那さまの意志とか、そーいうの無視で進むからねぇ、こーいうの。そのお嬢さまとかなんやらとめでたくご成婚なんて、ありじゃない?」
「や、やめてくだい!」
 リオネは冗談めかしているが、話しているのがリオネだけに、そういう既定路線が着々と敷かれているような気がしてきてしまう。そういえば使用人達はそう思っているように思えたし、このジョゼフという少年は、とても性格がよく、気が利く。商人としての才覚は不明だが、この年齢でこの邸宅の一切を切り盛りしているのは尋常ではない。
 イコウは、それが微笑ましくて、嬉しくなる。
「そういえば、旦那さま、ディアマンテさんは?」
「あ、そうでした。旦那さまは書類仕事に取りかかっておりまして、もうしばらく」
 ジョゼフが言いかけたところで呼び鈴が鳴った。
 扉を開くと、裕福そうな恰幅のよい商人が立っていた。
 商人は帽子をとってお辞儀をする。
「ジョゼフ少年、元気そうじゃないか。ミリーちゃんの天気予報を聞きに来たんだ」
「どうしたんですか? 出航ですか? 最近いらっしゃらないと思っていたら」
 満面の笑みを浮かべて、大袈裟な身振りで、近況を語り合う。
 なにかイコウにはそれが、とても暖かい姿に見えてくる。
 ロットが首をひねって不思議がった。
「天気予報って言ったか? 天気がわかるのか? リオネさん?」
「初耳さ。あたし、聞いたことがないよ」
「この東岸諸国ではミリーの天気予報はよく当たると評判なのです」
 故買屋がこっそり話すのに、リオネとロットが眉根をひそめる。
 まさか。
「まさか難破したりはしないよ。ミリーちゃんがおれたちを守ってくれるからね」
「どうぞ、ご案内しましょう。みなさん方もいかがです?」
 言外に、よそ者にここにいられるよりも、一緒に来た方が助かると言っていた。

 どうする?


  ■ここで、旦那さまを待つ  19  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag019  ディアマンテ、息子には返ってきて欲しい
  ■お言葉に甘えて、ミリ―を見に行く  14  【出現条件】:  【消失条件】:
    



14


 ジョゼフがランプを持ち、庭へ出る。
 潮騒と風が木々を揺らす。
「外階段なのです」
 振り返った少年家令が説明する。
「あの、えーと」
「はい」
 ふしぎそうなイコウにジョゼフはきょとんとする。
「天気予報、なのか? それに、ミリーちゃんって?」
「ああ、お嬢さまです。この周辺海域の天気がおわかりになるのです」
「ミリーちゃんの天気予報はこの東岸諸国では当たると評判なんだ」
 斜面の緩やかな傾斜にあわせててゆるく幅広の石の階段があり、ランプで照らしながらそれを登る。
 商人は得意げだった。
「おれたち、商人は船が難破したら終わりだ。だから聞きに来るんだ」
 二階にはエントランスがあり、パステルブルーの長方形の扉がある。
「そういえば、東岸の商船は難破しないと有名だね」
 リオネが思わず反応する。
 ジョゼフは鍵束を取り出してそれを開け、中へ入っていく。
「あー、おまえ、見たことがあると思ったら! ミナルダ商会の後継ぎ、」
「あたしと商会はなんにも関係ない!」
「た、たしかに家出中らしいが、それでもあちこちで大きな商談をまとめるから、商会は総帥に迎えたいと、あー、ややこしい! 〈トパーズの眼〉と言えば北方中でうわさだらけだ」
 白壁の廊下に緑の鉢植えが所々にあって映える。
 イコウたちはふたりの言い争いにへいへきするが、邸内はとても落ち着いていて、灯されているひかりの揺らぎが、そのすてきな雰囲気をぐんと引き出していた。
「そうさ、あたしはリオネさ。でも、あんた達のなわばりを荒らすつもりはない」
「ま、待ってください。ミリーさまの寝室前です。ここではどなたでも絶対中立と誓ったはずです。お忘れになりましたか?」
 気がつくと、目の前にブルーの扉がある。
 商人はいらだちながらもしぶしぶ頷き、ジョゼフは静かにするようにと諭した。
「へー、すごいね、ミリーちゃんって。東岸の聖域だね、ここは」
「茶化さないでください」
 にらみつけるジョゼフに、リオネはごめんと謝る。
 少年は、ノックをして、扉を開いた。


  ■ミリーの寝室へ  15  【出現条件】:  【消失条件】:
    



15


 風が吹いているのは窓が開いているからだった。
 放たれた窓の向こうには、灯火が散りばめられたサディスの夜景。
 こんなところまで上昇気流に乗ってくるのか、海鳥の鳴き声が至近に聞こえた。
「お嬢さま」
 夜着姿の少女が振り返る。視界を遮るほど長い前髪をかき分けて、商人をぼんやりと見る。室内には書きかけの絵がイーゼルに掛けられている。もう一枚のカンバスが、背を見せて壁に立てかけられている。
 その線の細さに、かぼそさにイコウは戸惑う。
「フネルさん、出航です? どちらへ?」
「ミリーちゃん、リーズデルです。急ぎの荷でね」
 ミリーは両耳に両手をあて、開け放たれた窓際へ身体を起こす。
 そして、その空気に溶けるようにして、静かな呼吸をした。
「そう、ありがと」
 ミリーは呟く。
「あいにく、スークルさまの大祭は見送りですよ、今年は」
「リーズデルのどちらへ?」
 商人は言葉にできずに、それをにごす。まあ、いろいろと。
「では、サディスで2日待ちなさい。今後2日はリーズデルは荒れます。でも、その後はよいでしょう。航海日和ですよ」
 商人はほっと息をつく。
「そうしましょう」
 ミリーはふしぎそうにジョゼフを見た。
「その方たちは?」
「ああ、トラン人の方々です。なんでも浮遊船で世界中を旅して回っているとか」
 ミリーは首を傾げて、そのはかなげな様子から想像もつかないぐらいの好奇の視線をイコウに向ける。
「どうして鳥たちは空を飛べるの? 翼があるから? あなたの船にも翼があるの?」
 イコウは戸惑う。わからないのだ。
 トラン人は発掘したふしぎな物たちを使いこなすが、その原理をわからずに使っている。
 イコウは、ひとりのシド貴族に聞いた話を思い出す。そして、高飛びの石を握る。
「おれ、実は高飛びなんだ。とても高くジャンプする事ができる。見てて」
 イコウは軽くジャンプする。
 ふわふわとイコウは舞い上がり、すぐに天井に達して、またふわふわと降りてくる。
「すごい」
「この石を握ると身体が軽くなるんだ。それで高くジャンプできるようになる。浮遊船も同じだよ。軽くなるんだとてもとても。鳥とは違うんだ。だからなぜ鳥が飛べるのかわからないんだ、ごめんよ」
 ミリーは微笑する。イコウも同じように笑ってみせる。
 ふと思う。
(イザベラのようにサウスの本を読めばわかるようになるんだろうか?)
「降りたところはどうなっているの? あの海の向こうはどうなっているの? ううん、お話は聞くの。だけどむずかしくてわからないの。リーズデルってどんな国?」
「ごめん、それもわからないんだ。おれたちは、シドの方から来たんだ。ジャングルっていってたくさん木があって、変な鳥がいてぎゃあぎゃあ鳴く、それに暑い、竜もいる。そこに街があるんだ。リーズデルはこれから行くんだ。戻ってきたら、話しに来るよ」
「うん」
 嬉々として頷くミリーを見て、ジョゼフはなにかを考える。
「イコウさん、もしよろしかった頼まれてくれませんか?」
 ふしぎそうなイコウに、ジョゼフは嬉しそうに言う。
「実は2日後に大祭がありまして、野焼きがハイライトなのです。そこでぜひお嬢さまを浮遊船へ乗船させて頂けないでしょうか。いわば遊覧飛行です。お礼は致します」
「遊覧飛行って」
「お嬢さまは気分転換が必要なのです。それにこんなに嬉しそうなお嬢さまを久しぶりに見ました。ですから」
「なんで、この邸宅にトラン人がいるんだ!」
 怒声がして誰もが振り返る。
 戸口には、怒りで表情を歪ませた男。おそらくディアマンテであろう。
「おい、天気予報代払ったか」
「いえいえ、はじめから払うつもりでしたよ」
 おお、いやだと肩をすくめ、商人は金貨をディアマンテに渡す。
「もう一度聞く、なぜ、この邸宅にトラン人がいるんだ!」
 ジョゼフは恐ろしさに縮み上がっている。イコウは仕方なく言った。

 どうする?


  ■リオネがパイプを発見したんです。  16  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag016  ディアマンテ、息子には返ってきて欲しい
  ■今、大祭の遊覧飛行を頼まれたところです。  17  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■僕らもミリーの天気予報をお願いしたいと  18  【出現条件】:  【消失条件】:
    



16


「リオネがパイプを発見したんです」
 イコウが紹介するままに視線の動かし、ディアマンテはぎょっとした。
「と、〈トパーズの眼〉か? なぜ、うちに?」
「わたくし、この方と取引がありまして、琥珀のパイプを発見されて持ち込んだのです」
 故買屋の言葉に頷いたディアマンテは、リオネに歩み寄り、押し殺した声で聞く。
「このパイプを、どこでみつけた?」
「そんなのいちいち覚えてないさ、扱う商品の量がべらぼうだからねえ」
「誤魔化すな! 〈トパーズの眼〉はそんなやわな商人じゃない。取り扱っている商品ひとつひとつの仕入れ値はもちろん、どういう交渉で手に入れたか、そのとき相手をいくら儲けさせたか、次に頼んだ事はなにかを、全部覚えている! おれの知っている〈トパーズの眼〉はそういう一流の商人なんだ! おまえは〈トパーズの眼〉なのだろう!」
「そうさ、リオネさ。あんたが呼んでいる名前は知らないけどさ、誰もがあたしをそう呼ぶのは知っている。でも、あたしはリオネ、それ以外の名前はない」
 リオネはディアマンテをにらみ返す。
「その眼が目立ちすぎるんだ。どこで手に入れた、このパイプ!」
「おっと。それだけ商売がわかっているなら、わかっているはずさ。やばい筋の話はそう簡単にできるものじゃない。だけど、もしいくらか積んでくれるんだったら・・・、じゃなかった、いくら積んでもダメだね」
「倍額を積もう」
「え? うーん」
 ディアマンテの熱意にリオネは押されはじめる。

 リオネはあれこれ考え始める。
「本当に倍積むの? 総額三倍だよ? 計算できてる?」
「ああ」
 リオネは仕方ないという様子で口を開く。
「それなら、ひとつだけヒントを教えてあげる。その人はこの東岸では誰もが知っている人物。誰だかは言わないよ」
 イコウがあわてて止めようとするのを、リオネは片手をひらひらさせて追っ払う。
(リオネだって誰がパイプを持ってきたか知らないはずじゃないか)
 なにか考えがあるのか、それとも心当たりがあるのか。
 リオネが有名な商人であるなら、任せた方がいいことはわかる。
(でもなあ・・・)
「あ、あいつが? 東岸では誰もが知っている?」
「あいつ?」
 リオネがにやにやするのに、ディアマンテははっとして、また怒気をはらませる。
 腰の金貨袋をほどき、袋のままに投げつける。
「少し多いが、貸しておいてやる、いつか返せよ!」
「まいど!」
 商談成立とばかりにリオネはにこやかに笑う。
「旦那さま、実は先ほどこの方たちにお願いしていたところなのです。お嬢さまを乗せて大祭の遊覧飛行をできないかって」
 ジョゼフの言葉に眉をしかめる。
「また勝手なことを! あのミリーの肖像を描いている画家だって!」
「ディシュさまは、東岸随一の画家です。それがサディスにいらっしゃったんですよ?」
「きまぐれの旅だろう。画家って言うのは勝手な生き物なんだ」
「ですが、お嬢さまの肖像を描いてくださっています。みなさん楽しみにしていて」
 ディアマンテはフンと鼻で笑う。
「勝手にしろ!」
「いーですよね? えーと、」
 嬉々とするジョセフに、イコウは手を差し出した。
「イコウ、浮遊船パオペラの船長をやっている。高飛びだ」
「すごい、〈トパーズの眼〉が仲間の船なんて、いったいどんな船なんですか?」
 満面の好奇心を浴びて、イコウはリオネと顔を合わせて、照れてしまう。
 ロットを見ると肩をすくめていた。
 シャリーはミリーがジョゼフを見て、心の底から嬉しそうな微笑みを浮かべているのを見る。ふっと笑って、呟いた。
「よかったね」
 故買屋はビロードに包まれた琥珀のパイプを渡す。
「たしかに。しかし、まさかシド商人の手助けを借りるとはな」
 突き刺さるような嫌みに、イコウはむっとした。

 どうする?


  ■ちいさな子に大人の世界を見せるのはよくないんじゃないか?  28  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■あまり子供の前でとげとげしくするのはよくないんじゃないか?  29  【出現条件】:  【消失条件】:
    



17


「今、大祭の遊覧飛行を頼まれたところです」
 イコウの言葉にジョゼフが付け加える。
「旦那さま、先ほどからこの方たちにお願いしていたところなのです。お嬢さまを乗せて大祭の遊覧飛行をできないかって」
 ジョゼフの言葉に眉をしかめる。
「また勝手なことを!」
「で、ですが旦那さま。お嬢さまには気晴らしが必要です。毎日のようにこのような大役をされていては気が休まるときがありません」
 ディアマンテは苛立つ。
「あのミリーの肖像を描いている画家に、今度はトラン人か!」
「ディシュさまは、東岸随一の画家です。それがサディスにいらっしゃったんですよ?」
「きまぐれの旅だろう。画家って言うのは勝手な生き物なんだ」
 ディアマンテは吐き捨てる。
「ですが、お嬢さまの肖像を描いてくださっています。みなさん楽しみにしていて」
 ディアマンテはフンと鼻で笑う。
「勝手にしろ!」
「いーですよね? えーと、」
 嬉々とするジョセフに、イコウは手を差し出した。
「イコウ、浮遊船パオペラの船長をやっている。高飛びだ」
「すごい、〈トパーズの眼〉が仲間の船なんて、いったいどんな船なんですか?」
 満面の好奇心を浴びて、イコウはリオネと顔を合わせて、照れてしまう。
 ロットを見ると肩をすくめていた。
 シャリーはミリーがジョゼフを見て、心の底から嬉しそうな微笑みを浮かべているのを見る。ふっと笑って、呟いた。
「よかったね」
 故買屋はビロードに包まれた琥珀のパイプを渡す。
「たしかに。しかし、まさかシド商人の手助けを借りるとはな」
 突き刺さるような嫌みに、イコウはむっとした。

 どうする?


  ■ちいさな子に大人の世界を見せるのはよくないんじゃないか?  28  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■あまり子供の前でとげとげしくするのはよくないんじゃないか?  29  【出現条件】:  【消失条件】:
    



18


「僕らもミリーの天気予報をお願いしに来たのです」
 イコウがとりなすのにディアマンテが、ふんと鼻で笑った。
「トランの浮遊船に天気予報が必要なものか。浮遊船乗りと海の男は違う」
「あー、いえ。トラン人といってもおれたち新米で、実はトランからシドを経由してサディスに立ち寄ったばかりなのです。だからなにも知らないのです。たとえばこの東岸諸国の事とか、シャビの事とか」
「それで?」
 ディアマンテはいくらか機嫌を直す。
「えーと、リーズデルでしたっけ? どんなところなのですか?」
 ディアマンテがリオネをちらりと見る。
 リオネはぽんと胸をたたく。
「あたしは縄張りを荒らすようなまねはしないよ」
「本当だな?」
「商売は信用第一だろう? あたしは、安請け合いはしないさ」
 えらそうに言うのに、ディアマンテは頷く。
「リーズデルは北の島国だ。4つの王国があって、互いにいがみ合っている。高原人が住むマゴン、妖精の住むフィッケ、キュディス移民の国マーシア、そして正統王が統べる大国ヘースティン」
「妖精が住んでいるの?」
「言い伝えだ。住民が信じているだけだ。サディス商人で見たことがある者はいない。東岸諸国に比べればのどかな島だが、あれはあれでいいところだ。竜もキュディスから翼竜が飛んでくるぐらいだからな」
「へー、行ってみたいな」
 リオネがおそるおそる言う。
「でも、キュディス領が近いんだろう? 移民もいるって。トランの浮遊船と仲悪いんじゃないのか、キュディスは」
 リオネとイコウが振り返って、ロットは戸惑うが、すぐに答える。
「一概にキュディスと言っても、あの国は北方蛮族の寄せ集めみたいな国なんだ。キュディス西部の蛮族はたしかにトランとはしょっちゅうやり合っているけど、東部の蛮族はどうなんだろう? キュディス東部にはアドレルというシドの交易都市があるほどだ。それほど閉鎖的というほどでも」
 リオネは嫌そうな顔をする。
「あー、アドレルね。評判最悪なんだよね、あの都市、シドでは」
 ディアマンテは機嫌を直して、リオネに笑いかける。
「そうか、アドレルってシドでも評判が悪いのか。東岸諸国もあいつらにしょっちゅうやられるんだ。それでみんなシド嫌いになってしまうのさ」
「あんなのをシドと一緒にしないでほしいものだよ」
 頃合いを計っていたジョゼフが切り出す。
「そうだ、旦那さま、実は先ほどこの方たちにお願いしていたところなのです。お嬢さまを乗せて大祭の遊覧飛行をできないかって」
 ディアマンテは眉をしかめる。
「また勝手なことを。あのミリーの肖像を描いている画家だって」
「ディシュさまは、東岸随一の画家です。それがサディスにいらっしゃったんですよ?」
「きまぐれの旅だろう。画家って言うのは勝手な生き物なんだ」
「ですが、お嬢さまの肖像を描いてくださっています。みなさん楽しみにしていて」
 ディアマンテはフンと鼻で笑う。
「勝手にしろ」
「いーですよね? えーと、」
 嬉々とするジョセフに、イコウは手を差し出した。
「イコウ、浮遊船パオペラの船長をやっている。高飛びだ」
「すごい、〈トパーズの眼〉が仲間の船なんて、いったいどんな船なんですか?」
 満面の好奇心を浴びて、イコウはリオネと顔を合わせて、照れてしまう。
 ロットを見ると肩をすくめていた。
 シャリーはミリーがジョゼフを見て、心の底から嬉しそうな微笑みを浮かべているのを見る。ふっと笑って、呟いた。
「よかったね」
 故買屋はビロードに包まれた琥珀のパイプを渡す。
「たしかに。しかし、シド商人の手助けを借りるとはな」
 ライバル心むき出しの言いように、イコウはむっとした。

 どうする?


  ■ちいさな子に大人の世界を見せるのはよくないんじゃないか?  28  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■あまり子供の前でとげとげしくするのはよくないんじゃないか?  29  【出現条件】:  【消失条件】:
    



19


「ここで待つよ。旦那さま、やってくるんだろう?」
「では、行きましょう」
 ジョゼフは商人を伴って庭へと出る。
 イコウは、ふうと息をつき、姿勢を崩した。
「なあ、ロット。天気を予想なんてできるのか?」
「やっているのだから、できるのだろう。そうとしか言えない」
 ロットは楽しそうに考えを巡らす。
「うん、できないことはない」
「そうなのか?」
「もし、雲よりはやく船が走れば、どんな雲がどちらに向かっているのかわかる」
 イコウは首を傾げて、意味を掴もうとした。
「浮遊船の速い船は、向こうはどんな天気だったかって聞かれるんだ」
「雲を先回りするわけか」
「そう、結果的にそうなる。どの速度でどの方向へ雲は向かっていたか、それで天気はわかると言えなくもない。もし、どうだろう? そんな浮遊船が数百隻もあれば?」
 イコウは考える。
「天気予報をしているのはちいさな女の子だ」
「そう、だけど忘れていないか? ときには浮遊船よりも速く飛ぶ者たちを」
「鳥か」
 イコウはその結論に戸惑った。空を浮遊しているのは自分たちだけだと思っていたのだ。
「そう、海鳥を見ているのだろう。彼らは頻繁に渡る」
「と、鳥と話せるのか?」
「信じがたいが不可能とは言えない。おそらく個体を把握して、その鳥が普段どのようなところへ行くのかを把握して、その様子を観察して、」
 とうとつにせわしない音が響く。
 騒がしく扉が開かれて、初老の男が姿を現した。
「ディアマンテさん」
「本当にみつけたのだな?」
 故買屋はビロードの袋を取り出し、その中の琥珀のパイプを差し出した。
「たしかに、」
 がたっと、その男は、両膝を床について、それを握りしめた。

「ど、どこで見つけたんだ、どうやって手に入れた?」
「そ、それが」
 故買屋はしがみつかれて困った顔をする。
「リオネがパイプを発見したんです」
 イコウが言う、ディアマンテはぎょっとした。
「と、〈トパーズの眼〉か? なぜ、うちに?」
「わたくし、この方と取引がありまして、琥珀のパイプを発見されて持ち込んだのです」
 頷いたディアマンテは、リオネに歩み寄り、押し殺した声で聞く。
「このパイプを、どこでみつけた?」
「そんなのいちいち覚えてないさ、扱う商品の量がべらぼうだからねえ」
「誤魔化すな。〈トパーズの眼〉はそんなやわな商人じゃない。取り扱っている商品ひとつひとつの仕入れ値はもちろん、どういう交渉で手に入れたか、そのとき相手をいくら儲けさせたか、次に頼んだ事はなにかを、全部覚えている。そういう商人なんだ。おまえは〈トパーズの眼〉なのだろう?」
 リオネは平静を装う。
「そうさ、リオネさ。でも、あたしはリオネ、それ以外の名前はない」
 リオネはディアマンテにクールな視線を返す。
「その眼が名前以上に目立つだけだ。どこで手に入れた、このパイプ」
「商売がわかっているなら、わかるだろ? やばい筋の話はそう簡単にできるものじゃない。だけど、もしいくらか積んでくれるんだったら・・・、じゃなかった、いくら積んでもダメだね」
「倍額を積もう」
「え? うーん」
 ディアマンテの熱意にリオネは押されはじめる。

 リオネはあれこれ考え始める。
「本当に倍積むの? 総額三倍だよ? 計算できてる?」
「ああ」
 リオネは仕方ないという様子で口を開く。
「それなら、ひとつだけヒントを教えてあげる。その人はこの東岸では誰もが知っている人物。誰だかは言わないよ」
 イコウがあわてて止めようとするのを、リオネは片手をひらひらさせて追っ払う。
(リオネだって誰がパイプを持ってきたか知らないはずじゃないか)
 なにか考えがあるのか、それとも心当たりがあるのか。
 リオネが有名な商人であるなら、任せた方がいいことはわかる。
(でもなあ・・・)
「あ、あいつが? 東岸では誰もが知っている?」
「あいつ?」
 リオネがにやにやするのに、ディアマンテははっとして、平静を装う。
 腰の金貨袋をほどき、袋のままに投げつける。
「少し多いが、貸しておく、いつか返せ」
「まいど!」
 商談成立とばかりにリオネはにこやかに笑った。
 それをみていたシャリーがそわそわと落ち着かないのにイコウは気付く。
 すこし顔を寄せると、シャリーは背伸びをして、イコウの耳元でささやいた。
「よくないよ、イコウ。知りたいこと隠しているの、わたしたち」
 イコウはまいったなと頭をかく。

 どうする?


  ■しかし、なんでそんなに出元を気にするんだ?  20  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag020  ディアマンテ、ジョゼフを立派な商人にすることを生き甲斐に
  ■これ、奥様の片身なんですってね。  21  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■そういえば、お嬢さんご病気とか。じつはシャリーは共感者でして  22  【出現条件】:  【消失条件】:
    



20


「しかし、なんでそんなに出元を気にするんだ?」
 ディアマンテはイコウを振り返って、躊躇する。
「おまえたちには関係のないことだ」
「10年前のことが関係あるんだね? ジョゼフからすこしは聞いています」
 ためらいを振り切れず、しばらく立ち尽くしていたが、諦めたように話し始める。
「このパイプをここから持ち出したのは息子なんだ」
「息子?」
「その絵に描かれている。これはそう、8歳の時だから15年も前になる。ミリーが生まれる前だ。妻はミリーが生まれたときに死んだ」
 がっくりと肩を落とすと、ディアマンテは失った過去に捕らわれ続ける男だった。パイプを震える手で掴み、それを凝視していた。
「これでもサディスで名の通った商人だったのだよ。財産を築き、息子の尊敬を受け、妻を愛し、娘を授かるはずだった。しかし、妻を失った。わたしはそれに耐えられなかったのだ。わたしは荒れ、酒に溺れ、商売をすることを忘れた」
 誰もがしんとして聞く。
「3年経った頃だった。息子がわたしを叱ったのだ。過去のあの立派なお父さんはどこへ行ったのかと。わたしにはもう商売ができないことは分かっていた。あの荒海を越えていく勇気をくれていたのは、妻だったことに気付いたからだ。そんな不甲斐ない父に絶望した息子はこのパイプを持ち出して、家を出たんだ」
 シャリーが呟くように聞く。
「息子さんがそれを手放すわけがないと思っているのですね?」
「あ、いや。しかし、そうではなかったようだ」
 イコウが不思議そうに聞く。
「しかし、今のあなたはそれほどひどいようには見えませんが?」
「当たり前だ。妻を失い、息子を失う、それ以上失ってたまるか。あれ以来、やけ酒はやめて、せめて家だけでも立て直した。ジョゼフを貰ってきた。それ以来、あいつを立派な商人に仕込む事だけを生き甲斐にしている。幸いにも財産は残っている」
 イコウは目の前の男を見直す。
 男の意地ってやつだね、とリオネが呟く。
「しかし、今度はミリーが・・・」
 掬おうとしても何かがこぼれ落ちていくもどかしさがこの男の人生にはある。

 誰もが声を掛けづらい中、明るい声が響く。
「みなさん、残ってらっしゃいましたか! よかった!」
 ジョゼフがミリーの部屋から戻ってくる。
「あれ、どうなされたんですか? ああ、そうイコウさん、頼まれて欲しいのです」
 ホールの微妙な空気に首を傾げながら、嬉々とした表情をイコウに向ける。
「なんだい?」
「お嬢さまにみなさんのお話をしましたところ、とてもご興味があるようでして。お嬢さまは病に伏せっておりますが、あれほどの好奇心を見せてくださるのは、初めてで」
「それで?」
 ジョゼフは大袈裟な身振りで、説明する。
「実はこのサディスは、二日後にスークル神の大祭を控えています。ハイライトの野焼きは東岸中から見物客が来るほどで、そこで、その際、お嬢さまを浮遊船に乗せてあげて欲しいのです。いわば遊覧飛行です。お願いできないでしょうか」
 その人なつっこい笑顔にイコウは思わず笑みが漏れてしまう。
 シャリーが袖にすがって、嬉しそうにうんうんと頷く。
 ロットは肩をすくめ、リオネは好奇心をいっぱいににやにやしている。
 イコウの視線に気付いたリオネはウィンクをして見せる。
「タダでいいって言うみたいだからねえ」
 意味不明の事を言う。
「ディアマンテさん、よろしいのですか?」
 ディアマンテは、苦虫を潰したような顔で、まったく勝手に、と呟く。
「ええ、イコウさん。ミリーには気分転換が必要です。ミリーがそうしたいと言うなら」
「ということだよ、ジョゼフくん」
 満面の笑みを浮かべ、ジョゼフは意気揚々と案内する。
「お嬢さまにお会いください。二階にご案内します」


  ■ミリーに会いに行く。  23  【出現条件】:  【消失条件】:
    



21


「それ、奥さんの形見なんですってね?」
 ディアマンテは不愉快な表情をイコウに向ける。
「まったく、べらべらと・・・」
「そうなんですよね?」
「ああ、結婚前に妻に贈られたものだ。だから帰ってきて嬉しい」
 いらだちを隠そうとせず、装うように言葉を走らせる。イコウはその奇妙さに首を傾げるが、なにかもっと別の理由があるような気がするのだが、それは分厚い時というベールに姿を隠したままだった。
 誰もが声を掛けづらい中、明るい声が響く。
「みなさん、残ってらっしゃいましたか! よかった!」
 ジョゼフがミリーの部屋から戻ってくる。
「あれ、どうなされたんですか? ああ、そうイコウさん、頼まれて欲しいのです」
 ホールの微妙な空気に首を傾げながら、嬉々とした表情をイコウに向ける。
「なんだい?」
「お嬢さまにみなさんのお話をしましたところ、とてもご興味があるようでして。お嬢さまは病に伏せっておりますが、あれほどの好奇心を見せてくださるのは、初めてで」
「それで?」
 ジョゼフは大袈裟な身振りで、説明する。
「実はこのサディスは、二日後にスークル神の大祭を控えています。ハイライトの野焼きは東岸中から見物客が来るほどで、そこで、その際、お嬢さまを浮遊船に乗せてあげて欲しいのです。いわば遊覧飛行です。お願いできないでしょうか」
 その人なつっこい笑顔にイコウは思わず笑みが漏れてしまう。
 シャリーが袖にすがって、嬉しそうにうんうんと頷く。
 ロットは肩をすくめ、リオネは好奇心をいっぱいににやにやしている。
 イコウの視線に気付いたリオネはウィンクをして見せる。
「タダでいいって言うみたいだからねえ」
 意味不明の事を言う。
「ディアマンテさん、よろしいのですか?」
 ディアマンテは、苦虫を潰したような顔で、まったく勝手に、と呟く。
「ええ、イコウさん。ミリーには気分転換が必要です。ミリーがそうしたいと言うなら」
「ということだよ、ジョゼフくん」
 満面の笑みを浮かべ、ジョゼフは意気揚々と案内する。
「お嬢さまにお会いください。二階にご案内します」


  ■ミリーに会いに行く。  23  【出現条件】:  【消失条件】:
    



22


「そういえば、お嬢さんがご病気とか」
 ディアマンテはイコウを睨むが、即座にそれを否定する。
「病気ではない。医者はどこも悪くないと言っている。気が塞いでいるだけだ」
「実は、シャリーならなんとかできるかも知れないのです。シャリーは共感者で」
 イコウは躊躇したが、切り出した。
 見るとシャリーの表情が真っ青になり、硬直していく。
「い、イコウ!? だめ-! いや!」
「きょ、共感者?!」
 ディアマンテの表情も青ざめていくのを見て、あわててイコウは付け足す。
「あー、ご安心ください。共感者が被る帽子があるんです。その帽子を被っていなければシャリーは共感者の能力を発揮できません。ご安心ください。しかし、逆に言えば、帽子を被っているときは筒抜けですので、それは知っておいてください」
 黙って頷く。
 イコウの袖につかまって、やらないやらないと呟いているシャリーの顔を、覗き込んでディアマンテは聞いた。
「ほんとに治せるのか? ミリーを?」
「いやーー!! ぜったいにやらないもん!」
 ディアマンテは、諦めたようにふっと笑う。
「まだ若い共感者だ。ほんとうにそんな力があるのか?」
「ええ、まあ、書類上はできることになっているのですが」
 イコウもつられて笑う。
(しかも、上級クラスの力があることになっているんだけど・・・)
 青ざめた表情で震えているシャリーを見ているととても信じられないのだが。

 誰もが言葉を発しづらい中、明るい声が響く。
「みなさん、残ってらっしゃいましたか! よかった!」
 ジョゼフがミリーの部屋から戻ってくる。
「あれ、どうなされたんですか? ああ、そうイコウさん、頼まれて欲しいのです」
 ホールの微妙な空気に首を傾げながら、嬉々とした表情をイコウに向ける。
「なんだい?」
「お嬢さまにみなさんのお話をしましたところ、とてもご興味があるようでして。お嬢さまは病に伏せっておりますが、あれほどの好奇心を見せてくださるのは、初めてで」
「それで?」
 ジョゼフは大袈裟な身振りで、説明する。
「実はこのサディスは、二日後にスークル神の大祭を控えています。ハイライトの野焼きは東岸中から見物客が来るほどで、そこで、その際、お嬢さまを浮遊船に乗せてあげて欲しいのです。いわば遊覧飛行です。お願いできないでしょうか」
 その人なつっこい笑顔にイコウは思わず笑みが漏れてしまう。
 シャリーが袖にすがって、嬉しそうにうんうんと頷く。
 ロットは肩をすくめ、リオネは好奇心をいっぱいににやにやしている。
 イコウの視線に気付いたリオネはウィンクをして見せる。
「タダでいいって言うみたいだからねえ」
 意味不明の事を言う。
「ディアマンテさん、よろしいのですか?」
 ディアマンテは、苦虫を潰したような顔で、まったく勝手に、と呟く。
「ええ、イコウさん。ミリーには気分転換が必要です。ミリーがそうしたいと言うなら」
「ということだよ、ジョゼフくん」
 満面の笑みを浮かべ、ジョゼフは意気揚々と案内する。
「お嬢さまにお会いください。二階にご案内します」


  ■ミリーに会いに行く。  23  【出現条件】:  【消失条件】:
    



23


 ジョゼフがランプを持ち、庭へ出る。
 潮騒と風が木々を揺らす。
「外階段なのです」
 振り返った少年家令は説明する。
「あの、えーと」
「はい」
 ふしぎそうなイコウにジョゼフはきょとんとする。
「天気予報、をやっているのか? それを目当てで東岸中から商人がやってくる?」
「ああ、お嬢さまは東岸中で知られています。周辺海域の天気がおわかりになるのです」
「ミリーは鳥に聞くと言っている。鳥が教えてくれると」
 斜面の緩やかな傾斜にあわせててゆるく幅広の石の階段があり、ランプで照らしながらそれを登る。ディアマンテの言葉にイコウは聞き入る。
「サディスの商人は船とその積み荷が財産のすべてだ。嵐で沈めばすべてを失う危険な旅だ。内海と違って、東方の海は荒れる。だから天気が知りたい。全財産を守るためなら、高い謝礼を払う。ミリーの天気予報は東岸中で当たると評判だ」
 二階にはエントランスがあり、パステルブルーの長方形の扉がある。
「そういえば、東岸の商船は難破しないと有名だね」
 リオネが思わず反応する。
 ジョゼフは鍵束を取り出してそれを開け、中へ入っていく。
 ディアマンテはリオネをぎろりと睨んだ。
「あんた達のなわばりを荒らすつもりはないさ。ミリーちゃんだって、偶然に知っただけだし、もしかして、スパイかなんかだと疑っているの?」
「おまえ、本当に〈トパーズの眼〉なのか? 北方中おまえの噂だらけなんだ」
 白壁の廊下に緑の鉢植えが所々にあって映える。
 イコウたちはふたりの言い争いにへいへきするが、邸内はとても落ち着いていて、灯されているひかりの揺らぎが、そのすてきな雰囲気をぐんと引き出していた。
 リオネは胸をはって、その瞳をらんらんとさせる。
「そうさ、あたしはリオネ。世界を股に掛ける商人さ。でも、あんたのいう名前は知らない。勝手な名前で呼ぶのは自由だけど、あたしは浮遊船パオペラで気ままな旅をする、4人の仲間のひとりで、それ以上ではないんだ。買いかぶりだよ」
「ついこの間も、ジャングルで大きな商談をまとめたと聞いた」
「ま、待ってください。ミリーさまの寝室前です。ここではどなたでも絶対中立と誓ったはずです。お忘れになりましたか?」
 気がつくと、目の前にブルーの扉がある。
 ディアマンテはいらだちながらもしぶしぶ頷き、ジョゼフは静かにするようにと諭した。
「へー、すごいね、ミリーちゃんって。東岸の聖域だね、ここは」
「茶化さないでください」
 にらみつけるジョゼフに、リオネはごめんと謝る。
 少年は、ノックをして、扉を開いた。


  ■ミリーの寝室へ  24  【出現条件】:  【消失条件】:
    



24


 風が吹いているのは窓が開いているからだった。
 放たれた窓の向こうには、灯火が散りばめられたサディスの夜景。
 こんなところまで上昇気流に乗ってくるのか、海鳥の鳴き声が至近に聞こえた。
「お嬢さま」
 夜着姿の少女が振り返る。視界を遮るほど長い前髪をかき分けて、イコウたちをぼんやりと見る。室内には書きかけの絵がイーゼルに掛けられている。もう一枚のカンバスが、背を見せて壁に立てかけられている。
 その線の細さに、かぼそさにイコウは戸惑う。
「この方たちがトランの方々です」
 ミリーは身体を起こして、そのはかなげな様子から想像もつかないぐらいの好奇の視線をイコウに向ける。
「どうして鳥たちは空を飛べるの? 翼があるから? あなたの船にも翼があるの?」
 イコウは突然の言葉に戸惑った。
 ひとりのシド貴族に聞いた話を思い出す。そして、高飛びの石を握る。
「おれ、実は高飛びなんだ。とても高くジャンプする事ができる。見てて」
 イコウは軽くジャンプする。
 ふわふわとイコウは舞い上がり、すぐに天井に達して、またふわふわと降りてくる。
「すごい」
「この石を握ると身体が軽くなるんだ。それで高くジャンプできるようになる。浮遊船も同じだよ。軽くなるんだとてもとても。鳥とは違うんだ。だからなぜ鳥が飛べるのかわからないんだ、ごめんよ」
 ミリーは微笑する。イコウも同じように笑ってみせる。
「降りたところはどうなっているの? あの海の向こうはどうなっているの? ううん、お話は聞くの。だけどむずかしくてわからないの。リーズデルってどんな国?」
 きょとんとした目をイコウは覗き込む。
「ごめん、それもわからないんだ。おれたちは、シドの方から来たんだ。ジャングルっていってたくさん木があって、変な鳥がいてぎゃあぎゃあ鳴く、それに暑い、竜もいる。そこに街があるんだ。リーズデルは知らないんだ。でも行ったら、話しに来るよ」
「うん」
 嬉々として頷くミリーを見て、ジョゼフは微笑んだ。
「お嬢さま。実は、お嬢さまを浮遊船に乗せて頂けるようお願いしました。スークルさまの大祭の日です。野焼きを空から見ることができるのです」
「ほんと?」
 そのぱっと明るくなるミリーの顔を見てしまうと、イコウは断れる気がしない。
「ええ、たいした船じゃないけど。ジョゼフさん、手配をお願いするよ」
 嬉々とするジョセフに、イコウは手を差し出した。
「イコウ、浮遊船パオペラの船長をやっている。高飛びだ」
「すごい、〈トパーズの眼〉が仲間の船なんて、いったいどんな船なんですか?」
 満面の好奇心を浴びて、イコウはリオネと顔を合わせて、照れてしまう。
 ロットを見ると肩をすくめていた。
 シャリーはミリーがジョゼフを見て、心の底から嬉しそうな微笑みを浮かべているのを見る。ふっと笑って、呟いた。
「よかったね」

「おや、来客かな?」
 イコウたちが浮遊船の話に花を咲かせる中、戸口にひとりの男が立った。
 つば広の帽子を被り、立派な身なり、大きな鞄を持っていた。
「ディシュさま」
 ジョゼフがあわてて駆け寄るのを見て、リオネはへーと呟く。
「なんだ? 知っているのか?」
「まあ、イコウが知らないのは仕方ないけど、ディシュと言えば、今売り出し中の画家だよ。東岸でそうだねえ、三本の指に入るんじゃないかな? あたし、はじめて見たよ」
 そういえばカンバスがあったなと思い出す。
「引っ張りだこのはずだけどね、よく引き受けてくれたね。まあ、これも東岸中の商人の天気予報をしているミリーちゃんの人徳かなぁ。ミリーを描くと言えば、どんな横柄な商人だって自分の順番の譲るだろうからねぇ」
 なにか分かったようにうんうんと頷く。
 鼻の上にちょこんと載せた眼鏡や、長く伸ばした髪には風格を感じはするが、落ち着いた物腰の節々には、はつらつとした若さが隠れているように思える。
「申し訳ありませんが、本日はお嬢さまがお疲れです」
「それは、しかたないね」
「ですので、代わりに一緒にお食事でもいかがでしょう?」
「そうしよう」
 有名な画家というにしては、なんとも掴み居所のない人だった。

 広間に降り、準備が整った食台に誰もが着席する。
 つぎつぎと運ばれてくる料理を口にするが、イコウ待望のシーフードもその味さえ分からない気がしてくる。誰もが無言で食べる。ジョゼフが明るく料理の説明をするのだが、どうしても乗ることができない。
 もてなす側であるディアマンテが、永遠に解けないのではないかと思える不機嫌の中にいるからだ。
 隣でフォークを使って魚のムニエルを口に運ぶシャリーの表情が蔭ってくる。
(まったく、よわったなあ)
 イコウは口を開いた。
「ディシュさんは、東岸一の画家なのだそうですね?」
 興味深そうにディシュはイコウに視線を向け、自然体のゆったりした様子で答える。
「そういう人もあるでしょう。でもそれは、当てになりません。明日には変わっているかもしれませんし、千年後には確実に変わっているでしょう」
 とらえどころがない。
 仕方なく、切り出す。

 どうする?


  ■サディスにはどのようなご用で?  30  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ミリーさんの絵を描くことを引き受けたのはなぜ?  31  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■普段はどんな食事をされているのですか?  32  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag032  ディシュが、シナモンが嫌いでディアマンテが反応



25


「しかし、いつになく賑やかですなあ、サディスは」
「スークルの大祭が間近なのです」
「おお、そうでした」
 商人は故買屋と穏やかに会話する。
「あー、また目付けられちゃうよ、商人稼業は足を洗ったつもりなのに」
 とぼとぼとついてくるリオネを尻目に坂を登っていく。
 イコウはぶつぶつと呟くリオネの言葉に、耳を疑うが、あえて気にしないことにする。
(しかし、このパイプ、いったい何なんだ?)
「大丈夫、あの商人さん、悪い人じゃないみたいだから」
 シャリーの言葉に、上の空で頷いた。
 サディスは宵闇に包まれ、あちこちにランプが灯る。
 とおりは高級住宅街へと変貌し、大きなヴィラが煌々と照らされるのが見える。
 故買屋は足を止め、ふうふうと息を切らせた。
「あれです、なかなかでしょう」
「ご立派な邸宅ですな」
 ひときわ大きな邸宅はサディスでは贅沢な緩慢な斜面に、都合、三階建てとなっており、ちらほらときらめく灯りが見えた。白壁の中にパステルブルーの扉が、それがほのかなあかりに浮かんでいる。
 故買屋が呼び鈴を鳴らすと、りんと鳴る。
 しばらくして、かちゃりと開く。
 顔を出した召使いが、故買屋の顔を見てはっとする。
「おとどけに参りました。10年もかかってしまいました」
 ばたばたと召使いは邸内に戻り、立派な身なりの人物を連れてきた。それは、イコウたちと同じぐらいの年齢の少年。
「ぱ、パイプをお持ち頂いたとか」
「え、ええ。失礼ですがあなたは?」
 少年は、はっとして大急ぎで乱れた身なりを正し、ネクタイをきゅっと絞って、しゃきっと姿勢を直す。
「わたくしめは、このディアマンテ家の家令を申しつけられております、ジョゼフと申します。ご主人様へのご用はわたくしめがお聞きおります」
 あまりの取り乱し方に、シャリーが、ぷっと吹き出す。
 それにつられてイコウも、くくくと笑い出す。
「お、おかしかったですか!?」
「い、いやさ、ごめん。無理する必要ないよ。いつもそんなにかしこまってるのかい?」
 ジョゼフと名乗った少年は顔を真っ赤にして、頭をかく。
「い、いえ、旦那さまがたいへん厳しいもので、それで」
 ジョゼフはすぐに商人にも気付く。
「えーと、たしかルヘシラの」
「ええ、天気予報を聞きに来ました」
 少年は太陽のように笑った。

 打ち解けてみると、ジョゼフは物腰が柔らかく、気の利く好青年だった。
 邸内に案内され、故買屋はイコウたちを紹介する。
「イコウです。トランのヒューメリック・ギルドの浮遊船乗りです」
「実は、パイプを発見してくださったのは彼らなのですよ。それでお連れしたのです」
 故買屋の説明に、はい、とジョゼフは了承する。若いのでぴんと来ないのだが、たしかに家令としてこの邸宅の一切をこの少年が取り仕切っているよう。イコウは聞く。
「それで、このパイプはいったいなんなんだ?」
「はい、そうですね。あちらの絵を見て頂くのが一番早いでしょう」
 ジョゼフが手を向けたところには、よくありがちな家族の肖像画。おそらくディアマンテさんであろう商人、奥さん、そしてちいさな少年の姿が描かれている。その一点を見て、イコウは納得する。その商人の手には琥珀のパイプが握られているのだ。
「旦那さまと奧さまの思い出の品なのです。盗まれたのですが帰ってきました」
 ジョゼフは表情をかげらせて、イコウを見る。
「だいたい15年ほど前の肖像画です。とても幸せそうでしょう? ですが、この二年後に奥さまが産褥でお亡くなりになります。そしてその三年後には息子さんも出奔され、旦那さまとご病気のお嬢さまだけが残されます。旦那さまはこのパイプが戻ってくれば、幸せだった過去が戻ってくると信じているのです」
 故買屋が神妙に帽子を降ろした。
「そのような由来がありましたとは」
「いえ、もう十年も前の話です」
 イコウはふと聞いた。


  ■息子が出奔した? もしかして、そのパイプは?  26  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag026  
  ■なぜ、その若さで家令などをしているんだ?  27  【出現条件】:  【消失条件】:
    



26


「10年前に息子さんが出奔した? じゃあ、もしかして、そのパイプは息子さんが持ち出したんじゃないのか?」
 ジョゼフは黙り込む。
 ちらと商人を見て躊躇するが、すぐに口を開く。
「わかりません。旦那さまはそう仰っていますが、それではひどい裏切りです、あんまりです」
 イコウはロットを見るが、無言で肩をすくめるだけだった。
「しかし、どこで手に入れたのです? そのパイプを」
「あ、あたしが見つけたんだよ。そしたら、おっちゃんが飛びついてさ」
 リオネがあわてて説明する。
「みつけたのはどこです?」
「ラスペかな。こういう骨董品はかなりの数を扱うんだ。さすがにひとつひとつまでは覚えてられないよ」
「そうですか」
 がっくりと肩を落とす。
「旦那さまは、それが息子さんの手がかりだと思っているのです。残念です」
 リオネはイコウをちらりと見るが、今度はイコウが肩をすくめる番だった。
(たしか、出元は言えないんだよなぁ・・・)
 なんとなくパイプが出てきた理由が偶然ではない事はわかるのであるが、その意志の姿がまったく見えてこない。気付くとシャリーがそわそわとし始めている。不幸な状態が解消されないのじゃないかと、不安で不安でしかたないのだ。
「そういえば、旦那さま、ディアマンテさんは?」
「あ、そうでした。旦那さまは書類仕事に取りかかっておりまして、もうしばらく」
「では、先に天気予報を済ませてしまいましょう」
 商人が言うのにジョゼフは頷く。
「では、こちらです」
「邪魔じゃないのか? ちいさな子のところへ、こんなに大勢で」
 イコウの言葉にジョゼフがにっこり笑う。
「わたしもいますから」


  ■お言葉に甘えて、ミリ―を見に行く  14  【出現条件】:  【消失条件】:
    



27


「なぜ、その若さで家令なんてやっているんだ?」
 ジョゼフは戸惑う。
「え? わ、わたくしですか?」
 そこにいる誰もが頷く。
「な、なぜっていわれても・・・」
 伏せ目がちにきょろきょろしたが、興味津々の視線を向けられ観念する。
「わたしは孤児だったのです。両親の死についてはなにも聞かされていません。成人まで話さない決まりなのです。そう、あと二年は」
 イコウは口を開こうとしてつぐむ。
「孤児院にいたわたしは、旦那さまにこの邸宅に連れてこられたのです。貰われたのです」
「どれぐらい前?」
 たまらずリオネが聞く。
「じゅ、10年ぐらい前です。それでいつの間にかわたしが使用人の中で最古参になってしまいました。それでこのような・・・」
「じゃあ、息子替わりだね」
「そんな、滅相もない!」
 リオネはにやにやと意地悪そうに笑う。
「本人の意志とか、旦那さまの意志とか、そーいうの無視で進むからねぇ、こーいうの。そのお嬢さまとかなんやらとめでたくご成婚なんて、ありじゃない?」
「や、やめてくだい!」
 リオネは冗談めかしているが、話しているのがリオネだけに、そういう既定路線が着々と敷かれているような気がしてきてしまう。そういえば使用人達はそう思っているように思えたし、このジョゼフという少年は、とても性格がよく、気が利く。商人としての才覚は不明だが、この年齢でこの邸宅の一切を切り盛りしているのは尋常ではない。
 イコウは、それが微笑ましくて、嬉しくなる。
「そういえば、旦那さま、ディアマンテさんは?」
「あ、そうでした。旦那さまは書類仕事に取りかかっておりまして、もうしばらく」
「では、先に天気予報を済ませてしまいましょう」
 商人が言うのにジョゼフは頷く。
「では、こちらです」
「邪魔じゃないのか? ちいさな子のところへ、こんなに大勢で」
 イコウの言葉にジョゼフがにっこり笑う。
「わたしもいますから」


  ■お言葉に甘えて、ミリ―を見に行く  14  【出現条件】:  【消失条件】:
    



28


「ちいさな子に、大人の、しかも商人の世界を見せるのはよくないんじゃないか?」
 怒気をはらんだ声にディアマンテが睨み返す。
「よそ者がずいぶんえらそうなものだな。東岸はミリーで持っている、天気予報のおかげでサディス、そして東岸諸国はなんとかやっていけているんだ」
「そういう問題じゃないだろ」
 ディアマンテはなおも続ける。
「それに商人修行は早ければ早いほどいい。〈トパーズの眼〉だって、若い頃から」
「あたし? あたしは14までは田舎にいたさ。兄貴が遭難しなければ18まではそこで育てられるはずで」
「その幸運があったからこそ」
「や、やめてください! もうやめてください! ここはお嬢さまの寝室です!」
 ジョゼフがその言い争いに割ってはいる。
「イコウさん、大祭の遊覧飛行、お願いしますね。部屋を手配します」
 イコウは恥ずかしくて顔を赤くする。
 どうもこの邸宅の中で一番大人なのは、目の前の少年のようなのだ。
「おや、来客かな?」
 重苦しい空気の中、戸口にひとりの男が立っていた。
 つば広の帽子を被り、立派な身なり、大きな鞄を持っている。
「ディシュさま」
 ジョゼフがあわてて駆け寄るのを見て、リオネはへーと呟く。
「なんだ? 知っているのか?」
「今売り出し中の画家ディシュだよ。東岸でそうだねえ、三本の指に入るんじゃないかな? あたし、はじめて見たよ」
 そういえばカンバスがあったなと思い出す。
 鼻の上にちょこんと載せた眼鏡や、長く伸ばした髭には風格を感じはするが、落ち着いた物腰の節々には、はつらつとした若さが隠れているように思える。
「申し訳ありませんが、本日はお嬢さまがお疲れです」
「それは、しかたないね」
「ですので、代わりに一緒にお食事でもいかがでしょう?」
「そうしよう」
 有名な画家というにしては、なんとも掴み居所のない人だった。

 広間に降り、準備が整った食台に誰もが着席する。
 つぎつぎと運ばれてくる料理を口にするが、イコウ待望のシーフードもその味さえ分からない気がしてくる。誰もが無言で食べる。ジョゼフが明るく料理の説明をするのだが、どうしても乗ることができない。
 もてなす側であるディアマンテが、永遠に解けないのではないかと思える不機嫌の中にいるからだ。
 隣でフォークを使って魚のムニエルを口に運ぶシャリーの表情が蔭ってくる。
(まったく、よわったなあ)
 イコウは口を開いた。
「ディシュさんは、東岸一の画家なのだそうですね?」
 興味深そうにディシュはイコウに視線を向け、自然体のゆったりした様子で答える。
「そういう人もあるでしょう。でもそれは、当てになりません。明日には変わっているかもしれませんし、千年後には確実に変わっているでしょう」
 とらえどころがない。
 仕方なく、切り出す。

 どうする?


  ■サディスにはどのようなご用で?  30  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ミリーさんの絵を描くことを引き受けたのはなぜ?  31  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■普段はどんな食事をされているのですか?  32  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag032  ディシュが、シナモンが嫌いでディアマンテが反応



29


「あまり、子供の前でとげとげしくするのはよくないんじゃないか?」
 怒気をはらんだ声にディアマンテが睨み返す。
「なんだと?」
「だ、旦那さま。申し訳ありませんがそのとおりです。できればお嬢さまの前ではそのような感情をお見せするのは避けて欲しいのです」
 その怒気はジョゼフへと向かう。
「うるさい。おまえ何様のつもりだ! 孤児院から拾ってやったのを忘れたのか。おまえに仕事の仕方を教えてやっているのを、忘れたのか。いつでもこの邸宅から追い出してやってもいいんだぞ」
「す、すみません、旦那さま」
 うなだれるジョゼフにディアマンテはなおも追い打ちを掛けようとする。
「だいたい、」
「やめて! もうやめて! ジョゼフをいじめないで!」
 振り向くとミリーが哀しみの表情を、絶望的な暗さをにじませていた。
 ディアマンテはそれを見て、ミリーと同じように絶望を浮かべる。
 そのまま、なにも言わずに部屋の外へ出る。
「イコウさん、大祭の遊覧飛行、お願いしますね。部屋を手配します」
「あ、ああ」
 イコウはこの少年に深く同情する。
 この邸内がなんとかやっていけているのは、この少年の献身のおかげなのだ。
「おや、来客かな?」
 重苦しい空気の中、戸口にひとりの男が立っていた。
 つば広の帽子を被り、立派な身なり、大きな鞄を持っている。
「ディシュさま」
 ジョゼフがあわてて駆け寄るのを見て、リオネはへーと呟く。
「なんだ? 知っているのか?」
「今売り出し中の画家ディシュだよ。東岸でそうだねえ、三本の指に入るんじゃないかな? あたし、はじめて見たよ」
 そういえばカンバスがあったなと思い出す。
 鼻の上にちょこんと載せた眼鏡や、長く伸ばした髪には風格を感じはするが、落ち着いた物腰の節々には、はつらつとした若さが隠れているように思える。
「申し訳ありませんが、本日はお嬢さまがお疲れです」
「それは、しかたないね」
「ですので、代わりに一緒にお食事でもいかがでしょう?」
「そうしよう」
 有名な画家というにしては、なんとも掴み居所のない人だった。

 広間に降り、準備が整った食台に誰もが着席する。
 つぎつぎと運ばれてくる料理を口にするが、イコウ待望のシーフードもその味さえ分からない気がしてくる。誰もが無言で食べる。ジョゼフが明るく料理の説明をするのだが、どうしても乗ることができない。
 もてなす側であるディアマンテが、永遠に解けないのではないかと思える不機嫌の中にいるからだ。
 隣でフォークを使って魚のムニエルを口に運ぶシャリーの表情が蔭ってくる。
(まったく、よわったなあ)
 イコウは口を開いた。
「ディシュさんは、東岸一の画家なのだそうですね?」
 興味深そうにディシュはイコウに視線を向け、自然体のゆったりした様子で答える。
「そういう人もあるでしょう。でもそれは、当てになりません。明日には変わっているかもしれませんし、千年後には確実に変わっているでしょう」
 とらえどころがない。
 仕方なく、切り出す。

 どうする?


  ■サディスにはどのようなご用で?  30  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ミリーさんの絵を描くことを引き受けたのはなぜ?  31  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■普段はどんな食事をされているのですか?  32  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag032  ディシュが、シナモンが嫌いでディアマンテが反応



30


「サディスへはどのようなご用で?」
 ディシュはとうわくした様子をつかみ所のない表情にわずかに浮かべ、逆に聞く。
「あなた方は?」
「ああ、シャビへ向かう途中なのです。そこでリオネが知り合いの故買屋に売るものがあったからと。それで、いろいろと」
 ディシュはわずかに笑う。
「わたしもいろいろです。でも、いつもあてのない旅をしているのです。このサディスははじめてですが、なかなかいいところですね。料理もおいしいし。このソテーとか」
「あ、ええ、たしかに」
 あまり味わっていなかった自分にイコウは気付く。
 好奇心で落ち着かないリオネが聞く。
「ねえ、どんな絵を描くの? ディシュって名前は聞いたことあるけど、絵はないんだ」
「肖像画ですね、商人や貴族の。あとは壁画。神殿も多いです」
「要するに頼まれれば何でもやるんだね」
 ディシュはまばたきをして、リオネを見る。
「あなたはおもしろい人ですね。ぜひ描いてみたい、そう思いますよ」
「へ? あたし? あたしはいいよ。めんどくさいじゃん」
 微笑する。
「わたしが描きたくなる人は、たいてい描かれるとは思っていないし、それが好きでないのです。絵になどなるより、自分のいる世界を歩きたいのでしょう、しかしそれが絵になる。むずかしいものですね」
「ミリーちゃんは?」
 シャリーが嬉々として聞く。
「あのお嬢さんも、描かれたがっているわけではないのですが、周りがどうしても」
「まあ、東岸のアイドルだもんね」
 ディシュはリオネににこやかに微笑んだ。
「そのとおり」

 食事が終わるとイコウたちはジョゼフに部屋を割り与えられる。
 3階の主人の執務する区画に隣接する客間の2つがそれだった。
「ずいぶん、好待遇なんだな、客人扱いだ」
 夜着に着替えるロットが袖の布地をつまんでみて、言う。
「シルクだ。1階が使用人たち、2階が家族の区画、そして3階が主人と客人。けっこうな持ち上げようだよ」
「たしかに、こんなふかふかのベッド、何ヶ月ぶりだよ。パオペラのハンモックも悪くないけれど」
 イコウがはしゃいで、ベッドに勢いよく倒れ込む。
 室内は白壁のところどころにキャンドルの照明が、窓から吹き込む潮風に揺れていた。ロットはそれを見て苦笑し、ため息をついた。
「しかし、まいったな。完全に足止めだ。こんなことしても何にもならないぞ」
「でも、あの女の子、かわいそうじゃないか」
 ロットは困ったようにイコウを見る。
「1日2日で変わるなら、誰も苦労はしない」
「ロットはつめたいなぁ」
「つめたいんじゃない。奇跡なんて簡単に起こるものか。それが現実なんだ」
 コンコンとノックがして、扉をあけるとシャリーが立っている。
「あの、イコウ?」
 つい見とれてしまう。
 馬子にも衣装と脳裏を言葉がよぎるが、シャリーの夜着姿は可憐だった。
「お、おう、なんだ? どうした?」
「あのね、イコウ? わたし、使ってみようと思うの、共感者の力」
「え? あんなに嫌がっていたし、これまでだって」
 すっとロットの手がイコウの言葉を止め、首を横に振る。
「可能性があるとすれば、これだ」
 シャリーに言葉をかけようとしたが、不意に廊下の方でがたっと音が鳴った。

 どうする?


  ■外を見に行ってみる。  33  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag033  ボタンを入手
  ■シャリーの話を聞く。  34  【出現条件】:  【消失条件】:
    



31


「ミリーさんの絵を描くことを引き受けたのはどうしてですか?」
 ディシュはとうわくした様子をつかみ所のない表情にわずかに浮かべる。
「そうですね、ほとんど偶然と言ってもよいかもしれません」
 ナイフでソテーを切り分け、それを口に運ぶ。
 長い間、ゆっくりとそれを租借し、ワインに口をつける。
「このサディスの酒場で食事をしていたところで、ジョゼフくんに出会いまして」
「あ、お、お酒を飲みに行ったのではありませんよ」
 あわてて弁解するジョゼフをディシュはにこやかに眺める。
「サディスでも指折りの穴場のお店と聞いていたのです」
「ずっと昔から、この邸宅の酒類を納入して頂いてるお店なのです。このワインだって、わざわざ帝国東方から仕入れて頂いたのです」
「まあ、サディスはお金持ちの別荘が多いらしいからね」
 リオネがなにかしたり顔で頷く。
 少年は必死に弁解する。
「そこで、ディシュさまがいらっしゃっていると聞きまして」
「熱烈に頼まれましたよ。なんでも東岸中から慕われていると。そんなふしぎな子ならお会いしたいと、描きたくなる子でした」
 イコウはふとなぜジョゼフがそれほどミリーの肖像画を欲しがったのかと思う。
 しかし、それはすぐには分からずに、すぐに諦めてしまう。
(シャリーなら分かるんじゃないかな)
 イコウはいつもそうだった。

 食事が終わるとイコウたちはジョゼフに部屋を割り与えられる。
 3階の主人の執務する区画に隣接する客間の2つがそれだった。
「ずいぶん、好待遇なんだな、客人扱いだ」
 夜着に着替えるロットが袖の布地をつまんでみて、言う。
「シルクだ。1階が使用人たち、2階が家族の区画、そして3階が主人と客人。けっこうな持ち上げようだよ」
「たしかに、こんなふかふかのベッド、何ヶ月ぶりだよ。パオペラのハンモックも悪くないけれど」
 イコウがはしゃいで、ベッドに勢いよく倒れ込む。
 室内は白壁のところどころにキャンドルの照明が、窓から吹き込む潮風に揺れていた。ロットはそれを見て苦笑し、ため息をついた。
「しかし、まいったな。完全に足止めだ。こんなことしても何にもならないぞ」
「でも、あの女の子、かわいそうじゃないか」
 ロットは困ったようにイコウを見る。
「1日2日で変わるなら、誰も苦労はしない」
「ロットはつめたいなぁ」
「つめたいんじゃない。奇跡なんて簡単に起こるものか。それが現実なんだ」
 コンコンとノックがして、扉をあけるとシャリーが立っている。
「あの、イコウ?」
 つい見とれてしまう。
 馬子にも衣装と脳裏を言葉がよぎるが、シャリーの夜着姿は可憐だった。
「お、おう、なんだ? どうした?」
「あのね、イコウ? わたし、使ってみようと思うの、共感者の力」
「え? あんなに嫌がっていたし、これまでだって」
 すっとロットの手がイコウの言葉を止め、首を横に振る。
「可能性があるとすれば、これだ」
 シャリーに言葉をかけようとしたが、不意に廊下の方でがたっと音が鳴った。

 どうする?


  ■外を見に行ってみる。  33  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag033  ボタンを入手
  ■シャリーの話を聞く。  34  【出現条件】:  【消失条件】:
    



32


「そういえば、ディシュさんは普段はどんな食事をされているのですか?」
 ディシュは目をしばたかせる。
「食事ですか?」
「ええ、さぞかしおいしいものを食べているんじゃないかって」
「いえいえ、ごちそうになる以外は質素なものです。今日のような魚料理はとても好きですし、そうそう東岸でよく使われるシナモンが使われていないので助かります。わたしはあれが大の苦手なのです」
 少年のようにいたずらっぽく笑う。
 がたっと大きな音が突然になる。
「だ、旦那さま?」
 ディアマンテが立ち上がっていた。
「どうなされたのですか? ディアマンテさん」
「い、いや、失礼した。食事を続けてください」
 ふしぎそうに首を傾げるディシュのまねをするようにシャリーも首を傾げる。
 リオネが好奇心でらんらんと瞳を輝かせていた。

 食事が終わるとイコウたちはジョゼフに部屋を割り与えられる。
 3階の主人の執務する区画に隣接する客間の2つがそれだった。
「ずいぶん、好待遇なんだな、客人扱いだ」
 夜着に着替えるロットが袖の布地をつまんでみて、言う。
「シルクだ。1階が使用人たち、2階が家族の区画、そして3階が主人と客人。けっこうな持ち上げようだよ」
「たしかに、こんなふかふかのベッド、何ヶ月ぶりだよ。パオペラのハンモックも悪くないけれど」
 イコウがはしゃいで、ベッドに勢いよく倒れ込む。
 室内は白壁のところどころにキャンドルの照明が、窓から吹き込む潮風に揺れていた。ロットはそれを見て苦笑し、ため息をついた。
「しかし、まいったな。完全に足止めだ。こんなことしても何にもならないぞ」
「でも、あの女の子、かわいそうじゃないか」
 ロットは困ったようにイコウを見る。
「1日2日で変わるなら、誰も苦労はしない」
「ロットはつめたいなぁ」
「つめたいんじゃない。奇跡なんて簡単に起こるものか。それが現実なんだ」
 コンコンとノックがして、扉をあけるとシャリーが立っている。
「あの、イコウ?」
 つい見とれてしまう。
 馬子にも衣装と脳裏を言葉がよぎるが、シャリーの夜着姿は可憐だった。
「お、おう、なんだ? どうした?」
「あのね、イコウ? わたし、使ってみようと思うの、共感者の力」
「え? あんなに嫌がっていたし、これまでだって」
 すっとロットの手がイコウの言葉を止め、首を横に振る。
「可能性があるとすれば、これだ」
 シャリーに言葉をかけようとしたが、不意に廊下の方でがたっと音が鳴った。

 どうする?


  ■外を見に行ってみる。  33  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag033  ボタンを入手
  ■シャリーの話を聞く。  34  【出現条件】:  【消失条件】:
    



33


「話はあとだ。なにか起きたぞ」
 イコウが飛び出していくのにシャリーはふてくされる。ロットは苦笑する。
「まあ、高飛びらしいよ、シャリー、不足かもしれないけどぼくが聞く」
 飛び出した廊下は真っ暗で、その闇を足音だけが駆けていく。
(なんだ、侵入者か?)
 扉がばたんと閉まり、足音は外階段を下りていく。
 イコウは、しかたなく追いかける。
(賊か? サディスって治安が悪いのか?)
 扉を開き、外階段まで出るが、すでに足音は消え、潮騒が潮風に乗って聞こえるだけ、完全に見失っている。一階まで降り、庭に出ると、ランプの灯りがイコウを照らした。
「どうなされたのです?」
 眠そうなジョゼフが、夜着姿でねむけまなこをこする。
「わからない。侵入者があったんだ」
 足音がして、外階段をランプが下りてくる。ディアマンテだった。同じように眠そうな目をし、深夜に起こされたせいか不機嫌にする。近づくと酒臭かった。
「私の書斎に、何者かが侵入したようだ。一瞬だった。気付かないはずはないのだが」
 怪訝に首を傾げる。
「寝てらっしゃったんではないのですか?」
「寝室で支店の報告書に目を通していた。だから気付かないはずがない。私の部屋は重大な契約書類もあるし、金庫もある。だから厳重な鍵がかかっている。こじ開けようとすれば気付くに決まっている」
 なるほど、それはおかしいとイコウが首を傾げるのをジョゼフが制止する。
「明朝にしましょう。追いかける手がかりがありません。旦那さま、重要なものは無事なのですよね?」
「ざっとしか見ていないが、おそらく」
 ではとジョゼフがきびすを返すのを合図に、ディアマンテも戻っていく。
 イコウは、静かになった庭で風に耳を澄ませ、あたりを凝視しようとするが、ふうと息をつき、しかたなく戻っていく。
 外階段を登ると、からんと足先に何かが当たる。
 イコウはかがみ込んで手探りすると、やがて円形の固いものを見つける。
(ボタン、かな?)
 指の感触だけで、形を探るが、どうも大きめのボタンのよう。
 明るい寝室へ戻ると、ロットがその指先のボタンを見て、おやという顔をする。
「シャリーは部屋に戻った。共感者の力を使うには早く寝た方がいいそうだ。なんだったんだ? それはなんだ?」
 顛末を聞き、ロットは首をわずかに傾げる。
「変な話だ。そのボタンは年代物だな。集める者もあるだろう。しかし高値がつくものではないな。なんだ、納得行かないのか?」
「いや、なんかヘンなことが、立て続けに起こってないか?」
 ロットは、うーんと考える。
「ここはサディスだからかな。東岸には東岸の、ここ独自の風習があるのかもしれない」
 イコウは無理矢理納得し、眠りにつくことにした。


  ■翌朝へ  35  【出現条件】:  【消失条件】:
    



34


「きっと鳥かなにかだ。シャリー、どうしたんだ? やりたくないんじゃないのか?」
 シャリーはその表情を翳らせ、うつむく。
「わたしね、うそついてたの。出来るの、心を動かすの、見るの。でも・・・」
「でも・・・?」
 イコウはシャリーの肩が震えているのに気付き、軽くたたく。それだけでもびくりと怯え、しばらく口を閉ざす。勇気を出してシャリーはイコウを見つめる。
「でもね、それはすごく怖いの。全部分かってしまうの、なにもかも」
「そうか」
 イコウはなにかシャリーが怯えている何かが分かるような気がした。
「わたし、訓練所でみたの、すごくこわいの。先生も注意していたのに」
「きっと、シャリーの力は強すぎるんだ。押さえ込む方法を知らないで、強い力に振り回されてしまうんだ。その力が指導員の想定を超えてしまって」
 イコウは頷く。
「おれも付き合うから、大丈夫だよ、すぐに助けるから」
「ありがとう、イコウ」
 シャリーは肩に乗った手を握る。
「もう寝るね。早く起きるから」
 シャリーが扉を開けると、そこでディアマンテに出くわす。扉から覗き込む。
「どうかされたんですか?」
 その呼気はだいぶ酒臭く、足元が心許ない。
「いや、私の書斎に侵入者があった。なにか気付かなかったか?」
 イコウはうーんと考え、思い当たる。
「そういえば、さっき物音がした気が」
「・・・やはり」
「なにか盗まれたのですか? お金とか?」
「いや、それよりも、こんな遅くに済まなかった」
 主人は考え事をしながら帰っていき、ぼそっと呟く。
「おかしい。鍵がかかっていたはずなのに? 東岸一の職人の鍵だぞ?」
 イコウは、ふうと息をつき、ロットを見る。
「なんか、ここへ来てからヘンなことばかりだ。それに天気予報だなんて」
 ロットは、うーんと考える。
「ここはサディスだからかな。東岸には東岸の、ここ独自の風習があるのかもしれない」
 イコウは無理矢理納得し、眠りにつくことにした。


  ■翌朝へ  35  【出現条件】:  【消失条件】:
    



35


 朝は潮風と乗ってきた海鳥の声ではじまる。
 窓を開くと、レースのカーテンがゆらりとたなびく。
「おはよう」
 寝ぼけ眼のロットを振り返り、イコウは声を掛ける。
「もう、みんな起きてるぞ」
「港町は朝が早いんだ、それに合わせていたら身が持たない」
 大あくびをするロットにあきれながらも、階下から聞こえてくる食器の音やら、駆け回る音やら、使用人たちの話し声に耳を傾ける。
 コンコンと小さなノックがして、シャリーが顔を出す。
「イコウ? あ-、ロット、まだ着替えてない」
「シャリーまで」
 ためいきをつくロットに着替えを渡し、おそらく本日の主役たる少女は部屋を出る。
「やる気満々だな、イコウ?」
「今日は、シャリーのデビューの日。当たり前じゃないか」
 なるほどねとつぶやき、袖に腕を通す。
(よくやるなんて言い出したよな、シャリー)
 ベルトを締めると、いつでも旅立つ準備が出来る。
(これまで、いつも最年少だったからか)
「お姉さんなんだ、シャリー、今日は」
 イコウがあっと口を開く。
「そっか、気付かなかった」
 ロットはおかしくて、くすっと笑った。

 ジョゼフが朝食を運んでくると、はかったように作戦会議が始まる。
「なあ、ジョゼフ? いいんだろ? お嬢さまを治しちゃって」
「え? ええ。トランの共感者ともなれば、このサディスを訪れるのは数年に一度。ここには浮遊船団が寄港できる宿はありません。あなた方のような一隻で旅する船などは」
 イコウは頷く。
「弱小ヒューメリック・ギルドの浮遊船乗りぐらいだ。ギルドに共感者はいたか、ロット?」
「2、3人なら知っているけど」
 優秀な共感者なら、すぐにでも船団に引き抜かれる。シャリーのように力の強い共感者がこの港町で少女を治そうとするなんて、ほとんどあり得ないことなのだ。
 シャリーの資格証を見れば、貴族だって頼み込む、娘をお願いします、って。
 ただ、シャリーはその強すぎる力を訓練以外では使ったことがないのだけど。
 イコウはためいきをつく。
「冷めますよ、コーヒー。それにパンも」
 シャリーとリオネは、パンにはちみつだの、ジャムだのをつけて、それにハムやチーズまで載せてむしゃむしゃとやるが、ロットはあくびばかり、イコウは気が気ではなかった。
(失敗したら、力を使うなんて二度と言ってくれなくなるからなぁ)
「そうだ、これはジョゼフにも聞いて欲しいのだけど、シャリー、共感者の力って、いったいなにをやるんだ?」
 ハムをぺろりと食べたシャリーは、コーヒーをすすって、息をつく。
「うーん・・・。共感者のね、ちからって誤解されていると思う」
 朝食を進めていた手たちが止まる。
「あのね、色なの、見えるの、考えが分かるんじゃなく」
「色? シャリー、色が見えるの?」
 リオネがきょとんとして聞く。
「そう、感情がいくつもの色の混じり合ったカンバスみたいに見えるの。見えた色の解釈の仕方みたいな訓練もある。上級の共感者はその色の移り変わりを見るだけで、なにを考えているか掴んでしまうの。だから、誤解されるの、共感者は考えを読めるんだって」
 ロットも興味津々だから、あまり話されない事なのだろう。
「でね、心の病気は、その色がおかしくなっているの。そこに色を塗るの。赤や、青や、緑や、黄色を。そうすると、色を思い出すの。上手くいけば、自分の色を自然に発するようになる」
 イコウが首を傾げるのにロットが言う。
「高飛びの訓練みたいなやつだよ。フォームを教わって、それを真似してみる」
「なるほど」
 ぽんとイコウは手を叩くと、ジョゼフが遠慮がちに聞いた。
「あの、それでおかしくなると言うことはないのですか? 治療を受けた人が」
「あ、うーん。ずっと笑っている人っていないでしょ? 怒るにはその源があって、嬉しさにも源があって、哀しみにも源がある。共感者がいじるのはその源でないの。赤い水が湧き出す泉を作ることはできないの。水を赤くするだけなの」
 シャリーの話は抽象的でつかみ所がない。
 それでも、ジョゼフは分かったのか、ゆっくりと頷いた。
「イコウさん、お願いします」

「あとはお任せします。私も付いている訳にはいかないですし」
 ミリーの寝室まで案内すると、ジョゼフはきっぱりという。
「いいのか? 赤の他人だぞ、おれたち」
「ディシュさまも他人です。それでも、お任せしています。責任はこのジョゼフが一切引き受けます。この邸宅はそれで回っているのです」
 きびすを返すジョゼフをイコウはぽかんと見送る。
「イコウは鈍いねぇ」
 イシシとリオネが笑うのにむっとする。
「ジョゼフはこの家を継ぐと思われているんだよ? あれぐらい当たり前さ。ああ、そうそう、あたしたち、サディス観光だから。まあ、敵情視察みたいなもん」
「あたし、たち?」
「ああ、おれもサディスは初めてだから、見て回りたいんだ」
 じゃあねと手を振るリオネに、勝手にしろとイコウはむくれるが、たしかにロットやリオネに手伝えることはないのかもしれない。
 寝台に座るミリーへの説明を終えたシャリーは、ふうと大きく息をついた。
「イコウ、わたし、はじめるね」
「ああ」
 シャリーは共感者のベレー帽を握りしめ、意を決してそれを被り、ゆっくりと視線を上げる。
「ミリーちゃん? 私が分かる? 私は誰?」
「シャリーさん。イコウさんのお友達でしょう?」
 シャリーの表情が硬直し、目に見えて青ざめていく。イコウにはその焦りが手に取るように伝わる。シャリーはどうしていいか分からなくなっているのだ。
「シャリー?」
「イコウ! この子、感情がないの! ほとんど。こんな気持ちじゃ、いつか死んじゃう! どうしよう! イコウ!」
 あわてるシャリーに、イコウはとっさに言った。


  ■喜ばせてみたら?  36  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■怒らせてみたら?  44  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag044  ディアマンテはジョゼフを後継ぎに、ジョゼフは商人になりたい
  ■哀しませてみたら?  48  【出現条件】:  【消失条件】:
    



36


「え、色を塗るんだろう? だったら嬉しい方がいいんじゃないか?」
「そ、そうか」
 シャリーはミリーの側にしゃがみ込み、その胸の辺りで右手を握る。
「来て、イコウも。ミリーちゃん、いい? はじめるよ?」
 ミリーの表情は長い前髪に隠れてうかがいにくい。
 こくりと頷く。
 ぴんとシャリーの人差し指がはねる。
 潮風に、前髪がさわさわと揺れた。
「な、なにも起こらないぞ?」
「ん・・・、あれ?」
 そのとき、ミリーのくちもとがぴくと動いたのにイコウは気付く。
 ミリーの小さな口はゆっくりと横に広がり、とうとつに眩しい笑顔が輝いた。
「うわ、なに、なに、なに! うっわー、お天気いい!」
 ミリーの身体がぴょんと跳び上がり、素足でベッドの上に立ち上がる。
「ほら、海鳥来てるよ、シャリー。あれは、リーズデルのギースくん、ほら、シドから来ている鳥もいる。おーい! ミナレル! キミだよだ、キミ! どうしたの、帝都から帰ったのぉ!!」
 大きく窓の外に向かって手を振るミリーを見上げながら、シャリーは尻餅をついて腰を抜かす。その燦然と輝く太陽のような嬉々とした表情を信じられないとばかりに見る。
「き、効いたぁ・・・」
 どすんと大きな音を立てて、ミリーがベッドから飛び降りる。
 足踏みをして、心がうずくのか、どうしたものかきょろきょろする。そのうち両腕を広げて部屋を駆け回りはじめる。
「シャリー、なに、これ? なにをしたの?」
 外で海鳥が鳴き声を上げ出すと、シャリーの返事も聞かずに、びゅんとご機嫌な声を上げて、外のテラスへ駆けだしていく。
「うはぁ、まっぶしー!! こらまて、ブルック! この前はどうした!」
 ぽかんとするイコウは、シャリーに聞いた。
「せ、性格、変わり過ぎじゃないか?」

 描いていた餌台の海鳥が飛び立ち、ディシュは顔を上げる。
(み、ミリー、か?)
「ねえ、チャム! 空は楽しい? わたしも飛びたいな、びゅーんって潮風に乗って!」
 両腕を広げて、滑空する海鳥を見上げ、その様子を真似て、風を捉えようとする。
 ディシュは、イコウとシャリーがあわてて海鳥のテラスへ飛び出してくるのに得心する。
(あのトラン人たちの中に共感者がいたのか)
 帽子をかぶっているのは、小さな少女の方。では、少年は共感者ではないことになる。
 イコウがディシュに気付いて申し訳なさそうにする。
 ためいきをつくが、同時にたまらなく愉快になる。
「海鳥がみんな逃げてしまいました」
「スケッチしていたんですね、あ、シャリー、頼んだぞ、お姉さんなんだから!」
 イコウは、おろおろしていたシャリーが、振り向いて頷くのに、息をつく。
「ふう、騒がしいんです、うちの船の連中は」
 まったくと、頭をかいてイコウはあきれる。
「イコウさん、でしたよね。浮遊船パオペラの船長さん」
「ええ。シャビまで飛ぶ途中に寄ったんです」
 イコウはディシュが眩しいものを見るような眼をするのに戸惑う。
 スケッチブックをめくり、ディシュは好奇の視線をイコウに向ける。
「イコウさん、スケッチをさせてくださいませんか? 5分もかかりません」
「え? スケッチ? なんで、おれ?」
「鳥の替わりですよ。イコウさんも飛ぶのでしょう、空を。なら同じです」
 ディシュはにこっと笑う。
「あ、ああ、たしかに高飛びだけど、なんで知っているの?」
 微笑みをたやさずに、ディシュは嬉々として筆を走らせはじめる。
(たく、意味がわからないな、この人。まあ話はしてくれそうだけど)
 イコウは5分も口を開かずに過ごすつもりにはなれなかった。

 どうする。


  ■東岸がこんなに美しいところだとは思わなかった。  37  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■どうして絵かきなんかになったんだ?  38  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんて、貫禄あるけれどだいぶ若いですよね?  39  【出現条件】:  【消失条件】:
    



37


「しかし、東岸がこんなにうつくしいところだとは思わなかったなぁ」
 イコウはその海鳥のテラスから見渡せる、サディスの海と街のひかりに目を細める。
 ディシュもその視線を追い、オーシャンブルーを全身に採リ込む。
「北方諸国のサファイアと評する人もいるぐらいです」
「だれです? それ言ったの?」
 ディシュはいたずらっぽく笑う。
「わたしの師匠。北方諸国を旅して、東岸に工房を開いて一生住むことにしたと聞きました。わたしはそこに転がり込んだんです」
「なるほど。住みたくなるよ、おれだってさ」
 ディシュは筆を走らせる。
「でも、わたしは充分満喫しました、東岸は。だからむしろ、トランやキュディス、北の山野をみたいんです。さぞかし壮大でしょう。それに大スカイ河。東岸は狭っ苦しいのです、地形的に」
 なるほどとイコウは頷くが、いじわるっぽく言う。
「だけど、寒いだけだよ? トラン。冬なんかどこをみても雪で真っ白だし」
「雪、みたことないんですよ、わたし」
 イコウは意外に思う。

 どうする?


  ■ディシュさんって、どこの出身なんですか?  40  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag040  ディシュはサディスの出身
  ■ディシュさんほどの方なら、いくらでもいけるでしょう。  41  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag041  ディシュ、やめろ、ミリーと叫ぶ



38


「どうして、ディシュさんは画家なんかになったんだ?」
 不思議そうに聞くイコウをディシュは不思議そうに見る。
 涼やかな瞳を向ける。
「絵が描けたからです。彫刻が出来れば彫刻家に仕上げられていたでしょう。でも、わたしは彫刻は出来ず、絵が出来ました。建築も出来なかった。出来たのが絵なんです」
 イコウはむりやり納得するが、それでも聞く。
「でも、ディシュさんはこの東岸で三本の指に入る画家なんでしょう?」
 ディシュはああと得心して、笑う。
「イコウさん、それは他人の評価です。それはうつろうものです」
「うつろう?」
 ディシュは、描いていたスケッチをイコウに見せる。
「どうですか?」
 イコウは描かれた少年の姿を見るが、それはなにか居心地が悪かった。
「どうって言われても、その、恥ずかしいだけだ」
「なら、このスケッチはイコウさんにとっては恥ずかしいだけのものですね。いま、イコウさんはそう言いました、そうでしょう?」
 ディシュは微笑む。
「わたしはこの絵が欲しいですね。側にあって欲しい。だから描いているのです」
「ふーん」
 イコウが分かったような分からないような顔をするのを、ディシュは笑う。
「イコウさんは、悪魔の絵は好きですか? とてもグロテスクな地獄絵です」
「いや、気味が悪いだけじゃないか」
「そう、そうなんですよ」
 ディシュは楽しそうに言葉を続ける。
「でも、この東岸で一番高い値が付く絵はそういう地獄絵。退廃的な貴族が好んで求めるのです。でもそのような気持ちの悪い絵を描く画家は限られている。だから、値段が高くなる。東岸一と言われる画家はそのような画家。これが他人の評価。つまらないものでしょう?」
 イコウは、このディシュがどのような絵を描くことで高い評価を得ているかを聞こうと思ってやめることにした。きっと、ディシュがいま描いているスケッチのような絵ではなさそうだからだ。
 なにかはぐらかされたような気がしないでもないが、ディシュのスケッチはまだ完成してはいなかった。

 どうする?


  ■東岸がこんなに美しいところだとは思わなかった。  37  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんて、貫禄あるけれどだいぶ若いですよね?  39  【出現条件】:  【消失条件】:
    



39


「ディシュさんって、貫禄があるように見えるけど、だいぶ若いですよね」
 涼やかなディシュの瞳がすこしだけ蔭る。
 いいわけをするように口を開く。
「画家の仕事というのもたいへんなのです。わがままな貴族や商人たちと渡り歩かなければなりません、仕事ですから。ときには一ヶ月も」
 イコウはディシュの苦労がすこしだけ分かった。
「だから、どうしても必要になってしまうのでしょうね。すこしでも貫禄があるように見せる必要が。染みついているのでしたら、それは職業病です」
「あー、いや」
 イコウは、なにか悪いことを聞いた気持ちになる。
「でも、それは方便です。そういう仕事を上手くやり過ごすための。別に貫禄があるわけではありませんよ。でも、身分がら体裁を整えなければならない人もあります。貴族や王族ともなると、方便が自分自身を縛り付けてしまうんです、がんじがらめに」
 イコウは、旧知のシド貴族を思い出す。
(あの人も縛られていたのだろうか?)
 ジャングルで過ごした生気に満ちた表情の数々を思い出す。
(まさかね。あんなにいきいきとしていたし)
 気付くと、ディシュの瞳がイコウにほほえみかけていた。
「イコウさんはいいですよね、自由で」

 どうする?


  ■ディシュさんは自由じゃないの?  42  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag042  ディシュ、やめろ、ミリーと叫ぶ
  ■ミリーちゃん、大変だよね、あんなに小さいのに  43  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag043  ディシュ、ミリーが自由になってから選べばいいと発言



40


「ディシュさんって、どこの出身なんですか?」
 イコウの言葉に、え? と視線を上げる。
「東岸です。だから、転がり込んだんです、師匠のところへ」
「東岸のどこ? 東岸諸国って地図でしか見てないけど、街の名前は覚えたんだ」
 ひとなつこいイコウの瞳から目をそらし、ディシュは視線をスケッチに向ける。
 肩を落とし、またその涼やかな瞳でイコウみる。
「サディスです。この街の出身なのです、わたし」
「そ、そっか。でもさ、そういうのって秘密なのか?」
 ああ、とディシュは苦笑する。
「これは秘密です。いいですか、このディシュのお願いです。どうか、これは話さないでください。画家の工房に転がり込む見習いなど、だれでも訳ありなのです。そうでなければ少年の頃から工房に住み込むことなどありえません」
「そうか」
「もし、出身を話せば、ゆかりのある人にそれが伝わってしまいます。わたしのような立場の画家なら、その出生を話したくなくなるのもなんとなく分かるでしょうか?」
 イコウはなるほどと頷く。
「息子に違いないって名乗る人がたくさん出てくるものね?」
「違います。噂が広がれば、わたしの知りたい消息が届かなくなるのです、遠慮で」
 イコウは、そのディシュの戸惑うような表情を意外そうにみるが、シャリーの声でそれも中断させられてしまう。
「やめて、ミリーちゃん! やめて、お願い、ミリーちゃん」
 振り返ると、ミリーが手すりの上に立ち、両腕を広げて走っている。
「大丈夫、シャリー! わたし、チャムに飛び方教わったから!」
 イコウが高飛びの石を握るのと、ディシュの顔が青ざめたのは同時だった。
「やめろ! ミリー!」
 イコウが、えっ? と振り返るとの同時だった。
「ほら、みて、シャリー」
 ミリーの身体が宙を舞う。
 しかし、海鳥チャムの教えもむなしく階下に落下する。
 イコウは飛んだ。
(だめだ、間に合わない)
 ミリーの身体はそのまま一階の土の上に叩き付けられ、はねるところをイコウが抱き留める。シャリーが悲鳴を上げながら、階下へ駆け下りてくる。ディシュは、目の前で起こったことにぼうぜんとした。
「と、飛ぶのか、ほんとに、イコウさん。どおりで」
 スケッチのイコウをディシュは見つめる。
「風のようだ」
 シャリーがミリーの元にたどり着いても、ミリーはまだ嬉々としていた。
「シャリー、飛んだでしょ、わたし」
「ミリーちゃん、血、血、血が出てるのよ、こんなに」
「あはは、ほんとだ、血が出てる。こんなのはじめて!」
 さすがにイコウも気持ち悪くなってくる。
 シャリーがイコウをすがるように見ている。
 イコウは手早く処置を施し、言う。

 どうする?


  ■怒らせてみる。  51  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag051  
  ■哀しませてみる。  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック



41


「ディシュさんほどの方なら、どこへでもいけるでしょう」
 イコウの言葉に、ディシュは寂しげに視線を伏せる。
「まだ早い、でも行きたい」
 ディシュの涼やかな瞳がイコウを捕らえる。
「そういうわけには行かないのです。仕事も抱えていますし、わたしは東岸を離れればまったくの無名ですから」
「でもさ、仲のよい商人の商船に乗せてもらうとかさ、そういう人いるんだろ?」
 ディシュは首を横に振る。
「東岸諸国の船で行ける範囲なんて限られていますよ、そう、せいぜい帝都ぐらい、西はシスティア止まりでしょう」
 イコウはリオネに聞いた、弱小との言葉を思い出す。
 どちらにしても、大洋を制しているのはシドの商船なのだ。
「トランやエストはさらに遠い。トランまで荷を運ぶ船など、シドのガレオン船団しかありませんよ。そう、ミナルダ商会の船団とか。しかし、そんなつてはわたしにはありません」
 寂しげなディシュにイコウの心も沈む。
(あれ? でも、ミナルダ商会って、たしかリオネの実家?)
「あ、あの」
 イコウの言葉は、シャリーの声で中断させられてしまう。
「やめて、ミリーちゃん! やめて、お願い、ミリーちゃん」
 振り返ると、ミリーが手すりの上に立ち、両腕を広げて走っている。
「大丈夫、シャリー! わたし、チャムに飛び方教わったから!」
 イコウが高飛びの石を握るのと、ディシュの顔が青ざめたのは同時だった。
「やめろ! ミリー!」
 イコウが、えっ? と振り返るとの同時だった。
「ほら、みて、シャリー」
 ミリーの身体が宙を舞う。
 しかし、海鳥チャムの教えもむなしく階下に落下する。
 イコウは飛んだ。
(だめだ、間に合わない)
 ミリーの身体はそのまま一階の土の上に叩き付けられ、はねるところをイコウが抱き留める。シャリーが悲鳴を上げながら、階下へ駆け下りてくる。ディシュは、目の前で起こったことにぼうぜんとした。
「と、飛ぶのか、ほんとに、イコウさん。どおりで」
 スケッチのイコウをディシュは見つめる。
「鳥のようだ」
 シャリーがミリーの元にたどり着いても、ミリーはまだ嬉々としていた。
「シャリー、飛んだでしょ、わたし」
「ミリーちゃん、血、血、血が出てるのよ、こんなに」
「あはは、ほんとだ、血が出てる。こんなのはじめて!」
 さすがにイコウも気持ち悪くなってくる。
 シャリーがイコウをすがるように見ている。
 イコウは手早く処置を施し、言う。

 どうする?


  ■怒らせてみる。  51  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag051  ディアマンテ、ジョゼフがくじけるリスクを悟る
  ■哀しませてみる。  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック



42


「え? ディシュさんは自由じゃないの? 旅して回っているんだろ?」
 ディシュは、戸惑った。
「ああ、ええ、まあ。自由と言えば自由、不自由と言えば不自由。まあ、その、旅をしていても仕事の予定はありますし、おつきあいというものがあります」
 イコウは、考え込むが、唐突に分かった気がした。
「そっか、そういうのに縛られたくないから、ふらふらしているのか」
「ご名答。これは秘密ですよ」
 ディシュはにこっと笑うが、シャリーの声で中断させられてしまう。
「やめて、ミリーちゃん! やめて、お願い、ミリーちゃん」
 振り返ると、ミリーが手すりの上に立ち、両腕を広げて走っている。
「大丈夫、シャリー! わたし、チャムに飛び方教わったから!」
 イコウが高飛びの石を握るのと、ディシュの顔が青ざめたのは同時だった。
「やめろ! ミリー!」
 イコウが、えっ? と振り返るとの同時だった。
「ほら、みて、シャリー」
 ミリーの身体が宙を舞う。
 しかし、海鳥チャムの教えもむなしく階下に落下する。
 イコウは飛んだ。
(だめだ、間に合わない)
 ミリーの身体はそのまま一階の土の上に叩き付けられ、はねるところをイコウが抱き留める。シャリーが悲鳴を上げながら、階下へ駆け下りてくる。ディシュは、目の前で起こったことにぼうぜんとした。
 シャリーがミリーの元にたどり着いても、ミリーはまだ嬉々としていた。
「シャリー、飛んだでしょ、わたし」
「ミリーちゃん、血、血、血が出てるのよ、こんなに」
「あはは、ほんとだ、血が出てる。こんなのはじめて!」
 さすがにイコウも気持ち悪くなってくる。
 シャリーがイコウをすがるように見ている。
 イコウは手早く処置を施し、言う。

 どうする?


  ■怒らせてみる。  51  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag051  ディアマンテ、ジョゼフがくじけるリスクを悟る
  ■哀しませてみる。  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック



43


 イコウは、ディシュの言葉を反芻する。
(自由か。)
「でもさ、」
 イコウはたまらなくなる。
「ミリーちゃん、たいへんだよね、あんなにちいさいのに」
 ディシュの筆が止まる。
 涼やかな瞳がイコウを見つめた。
 そして、また筆が走り始める。
「ミリーがそれを選んでいるのならばいいのです。問題はない。わたしが画家をやるように、天気予報をする。それは人命を守る尊い仕事です。よほど画家よりはいい。あのように天気を予報して、東岸諸国の商船を守る、そんな役を生き甲斐に出来る人もあるでしょう」
 イコウはうなだれる。
「東岸諸国中から必要とされているものね」
 ディシュはそんなイコウを見て微笑む。
「でも、わたしも、ミリーはそうじゃないという気がするのです。がんじがらめになって、身動きができない状態なんじゃないかって、そう思うのです。ミリーは少なくとも選ぶことができる。もし嫌ならば天気予報を言わなければいいのです。分からないと言えばいい」
 イコウは、はっとしてシャリーを振り返る。
 テラスを駆け回るミリーを追うシャリーは、とにかく共感者の力を使うのを恐れて、使えないと嘘まで言って拒否をしていた。
「でも、ミリーは天気予報をしている」
(でも、シャリーはミリーを救おうとしている)
 そこにあるのはいったい何なのだろう?
 それがイコウには分からなかった。
「イコウさんたちはミリーを自由にしたいのですよね?」
「だって、あのままじゃあ、ミリーが死んじゃうって言うから!」
「自由になってからミリーが選べばいいのですよ、イコウさん」
 ディシュは笑う。
「わたしだって、あんな状態のミリーを見れば、救いたくなります。それに」
 ディシュの言葉は、シャリーの声で中断させられてしまう。
「やめて、ミリーちゃん! やめて、お願い、ミリーちゃん」
 振り返ると、ミリーが手すりの上に立ち、両腕を広げて走っている。
「大丈夫、シャリー! わたし、チャムに飛び方教わったから!」
 イコウが高飛びの石を握るのと、ディシュの顔が青ざめたのは同時だった。
「やめろ! ミリー!」
 イコウが、えっ? と振り返るとの同時だった。
「ほら、みて、シャリー」
 ミリーの身体が宙を舞う。
 しかし、海鳥チャムの教えもむなしく階下に落下する。
 イコウは飛んだ。
(だめだ、間に合わない)
 ミリーの身体はそのまま一階の土の上に叩き付けられ、はねるところをイコウが抱き留める。シャリーが悲鳴を上げながら、階下へ駆け下りてくる。ディシュは、目の前で起こったことにぼうぜんとした。
 シャリーがミリーの元にたどり着いても、ミリーはまだ嬉々としていた。
「シャリー、飛んだでしょ、わたし」
「ミリーちゃん、血、血、血が出てるのよ、こんなに」
「あはは、ほんとだ、血が出てる。こんなのはじめて!」
 さすがにイコウも気持ち悪くなってくる。
 シャリーがイコウをすがるように見ている。
 イコウは手早く処置を施し、言う。

 どうする?


  ■怒らせてみる  51  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag051  ディアマンテ、ジョゼフがくじけるリスクを悟る
  ■哀しませてみる  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック



44


「え、色を塗るんだろう? だったら怒った方がいいんじゃないか?」
「そ、そう?」
「たまっているものあるだろうし、はき出した方が」
 シャリーはミリーの側にしゃがみ込み、その胸の辺りで右手を握る。
「来て、イコウも。ミリーちゃん、いい? はじめるよ?」
 ミリーの表情は長い前髪に隠れてうかがいにくい。
 こくりと頷く。
 ぴんとシャリーの人差し指がはねる。
 潮風に、前髪がさわさわと揺れた。
「な、なにも起こらないぞ?」
「ん・・・、あれ?」
 そのとき、ミリーの右こぶしがぎゅうと握られるのにイコウは気付いた。
 白く小さな手はほのかに紅く染まり、ミリーの口もとが固く結ばれていく。
 イコウは、長い前髪の向こうに激怒に染まる輝く瞳をみて、思わず尻餅をつく。
「あ、あ、あ……、あのやろう!」
 その可憐な顔は真っ赤に紅潮し、やわらかな頬さえも、決心に引き締まっていく。
「絶対にゆるせねえ!!」
 ぶんと拳を振るミリーを見上げながら、シャリーは尻餅をついて腰を抜かす。そのいままさに正義の鉄槌を振り下ろさんばかりの表情を信じられないとばかりに見る。
「あ、あわわ、き、効いたぁ・・・」
 ミリーはどすんと床に飛び降り、地団駄を踏む。
「父親にだってやっていいことと、やってはならないことがあるってこと、」
 その表情に決心が固まる。
 ミリーは激怒をまとって駆けだす。
「思い知らせてやる!!!」
「ま、待って、ミリーちゃん!」
 ぽかんとするイコウは、シャリーに聞いた。
「せ、性格、変わり過ぎじゃないか?」

 邸内が不穏な空気に満ちるのを、ジョゼフはいち早く察知した。
(あれ? なんだろう? 階下が混乱している)
「ジョゼフ! 聞いているのか! 会計書類のミスだぞ! 何度教えていると思っているんだ! 私が見過ごしていたら、とんでもない損害になっていたんだぞ!」
「だ、旦那さま、申し訳ありません。なにか階下で起こっているようなのです」
 邸宅の3階にある主人の区画。
 そこでジョゼフは説教を食らっていたのであった。
 ディアマンテの瞳が怒りに燃える。
「使用人の問題は使用人が解決すればいい! 契約書! 会計書類! 報告書! 指示書! この邸宅を維持する利益をなにが生み出していると思っているんだ! 各地の代理人に直接会うことはできないんだ! この書類がすべてだ! これが商人のすべてなんだ! なぜそれが分からない! これは単なる紙ではないんだ!」
「分かっています」
「いや、身体の隅々までそれが染みついていない!」
 いまのところジョゼフに染みついているのはこの邸宅内を平穏に保つことのよう。
(来た。物凄い勢いで外階段を駆け上がってくる)
「来ました! 旦那さま!」
 ディアマンテは訝しげな表情をする。
「なに? なにが来たんだ?」
「わ、わかりません!」
 ばんと勢いよく主人の区画のドアが開かれ、激怒に染まるミリーが姿をあらわす。
 ディアマンテの胸元まで一息で迫り、真っ赤に染まった細い指を突きつけた。
「おい、親父! ジョゼフになにをしているんだ! なぜいじめるんだ!」
「み、ミリー」
 ぽかんとするディアマンテに、ミリーはなおも迫る。
「なにをしているんだって聞いているだ! 答えろ!」
「お、お嬢様、これは、商人の修行の一環で……」
「ジョゼフは黙ってろ! お前には聞いていない!」
「は、はい……」
 ミリーの背後からイコウとシャリーが息を切らせて現れ、ディアマンテはぎょっとする。
 シャリーはあわてて気付いて、頭にちょこんと乗せたベレー帽を取った。
「み、ミリーちゃん!」
「ジョゼフ、お前また勝手に!」
「あ、報告がまだ……」
「おい! お前はおれと話しているんだ! このミリーと話をしているんだ! お前はジョゼフをなじるってばかりだ、朝から晩まで! それしか能がないのか!」
 ディアマンテはその鬼気迫る怒気に、思わずひるむ。
「じょ、ジョゼフの言うとおり、商人の修行で……」
「やり方に問題があるって言ってるんだよ! お前のせいでどんだけこの家の空気が悪くなっていると思う? ジョゼフがいなければ、世界は真っ暗だ! 使用人も辞めるぞ!」
「な、なるほど……、もっともだ」
 ミリーは拳を横振りに壁に叩き付ける。
「分かってない! ジョゼフはお前のようなろくでなしの所にやって来て、おれの旦那になってくれるんだぞ! 船に乗れない商人の落ちこぼれが、私の生き甲斐だとか言って、ジョゼフに賭けてるのは知ってんだよ。だが、やり方だ! ジョゼフが挫けたらどうする。怒鳴るしか能のないお前にジョセフは引き留められないだろ! わかってんのか!」
「た、たしかに……」
「そうなったら、だれが責任取れるって言うんだ! おれも出てくぞ、ジョゼフを追って、そして、絶対にお前を一生許しはしないからな!」
「お、お嬢様! おやめください!!」
 ジョゼフが顔を真っ赤にしてミリーに飛びつく。
 ミリーはその激怒の矛先をジョゼフに向ける。
「お前はなんであんなろくでなしの言いなりになっているんだ、意気地がないのか!」
「お嬢さま……、旦那さますごい方です。たまたま船に乗れなくなっただけで。商人として一流なんです。ですから、それに少しでも近づきたいと」
「お前が、そんなんだから、舐められるんだよ! お前も同罪だ! わかってるのか!」
 なおも続くジョゼフへの怒りのぶちまけの隙に、ディアマンテはイコウを別室へ呼ぶ。
 ほうと息をつくディアマンテにイコウは状況を説明した。
「なんだ、あれは。追及がいちいちもっともすぎる……」
「ミリーちゃんはずっとそう思っていたんです、きっと」
 シャリーの言葉にディアマンテはぼうぜんとした。
「共感者がすることが出来るのは感情を与えるだけ。考えは与えられないから」
「そうか……」
 意気消沈するディアマンテにイコウは言う。

 どうする?


  ■ミリーはジョゼフの嫁になるつもりみたいだけど結婚させるつもりか?  45  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ミリーのいうとおりだ、ジョゼフが挫けたら終わりだ。  46  【出現条件】:flag000*flag020  【消失条件】:
  flag046  ディアマンテ、ジョゼフがくじけるリスクを悟る
  ■ミリーのいっていることはほんとうなのか? 後継ぎにするって。  47  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag047  ディアマンテ、ジョゼフがくじけるリスクを悟る



45


「ミリーちゃんはジョゼフくんと結婚するつもりみたいだけど、ディアマンテさんはどう思っているの」
 ディアマンテは視線をイコウに向け、言い捨てる。
「子供の頃にそう思い込むことはある」
「じゃあ、」
「婚期になってみないと分からない。いまはそんな不確かなことをあてには出来ない。しかし、いまジョゼフが出ていったら、ミリーは確実に追いかける」
 落胆するディアマンテにイコウはあわてて言葉を継ぐ。
「この邸宅内の使用人はみんな、ジョゼフくんをこの家を継ぐものとして従っているんだ。この邸内ではそれが既成事実となっているんだよ」
「そんなに簡単ではない」
 ディアマンテの言葉にイコウは口をつぐむ。
 その鋭い眼が見つめ返す。
「商家を継ぐことが出来るのは、商人だけだ。家令は商家を継ぐことは出来ない」
「なるほど」
「ジョゼフが商人として一人前になれなければ一生家令だ。見てみろ、この会計書類。ひどいミスだ。こんな書類を書いているようでは、とうてい商人にはなれない」
 イコウは、ディアマンテの考えが分かったような気がした。
「それであんなにしごいているのか」
「私は教えているだけだ。それをものにするのは私じゃない」
 イコウはほっとする。
(案外いい人なんだな)
「や、やめてください、お嬢様! 使用人に罪はありません!」
「うるさい! あいつらにもがつんと言ってやるんだ! ジョゼフに頼るなって!」
 扉の向こうからジョゼフとミリーの声がして、イコウははっとする。
「シャリー!」
「え、あ、え? イコウ、どうしよう?」
 イコウは扉の向こうに飛びだし、あがくミリーを、ジョゼフと一緒に押さえつける。
「シャリー! 早く!」

 どうする?


  ■哀しませてみる。  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック
  ■楽しませてみる。  56  【出現条件】:  【消失条件】:
    



46


「話してくれたよね、ディアマンテさん。ジョゼフくんを一人前の商人にするのが生き甲斐だって」
 ディアマンテは視線を上げる。
「ああ、あいつには素質がある。商人としての。それは間違いない」
「そうか」
「しかし、商人として大成するには素質だけではダメだ。見てみろ、この会計書類。ひどいミスだ。こんな書類を書いているようでは、とうてい商人にはなれない。少なくとも私が商人として飛び回りはじめた頃ぐらいにはならないと、まったく安心できない」
 イコウはほっとする。
(案外いい人なんだな)
「でも、ミリーちゃんが言うとおりジョゼフが挫けてしまったら?」
「ミリーは出ていくだろうな、そう言っているのだから。もし、ジョゼフが駄目なら商家の次男坊を養子にもらい受けるつもりだった。あてはある。他は知らないが東岸諸国ではそれが普通だ。それに一から育てる必要もない」
「ミリーちゃんは?」
「養子だ。別にミリーと結ばれる必要はない。出ていくのを止めることは出来ない」
 シャリーがぽつりと言う。
「さびしいね、そうしたら」
「ああ。シャリーさん、でもそれは自業自得。所詮、私はそれだけの人間なんだ」
 寂しく笑うディアマンテに、イコウは口をつぐむ。
 なにか、立ち入るべきでない場所がディアマンテにはあるように思えたからだ。
 ディアマンテは意気消沈して呟く。
「しかし、ジョゼフがミリーのことを想っていたとは。商人として慕われていたのは知っていたつもりだが、修行に耐えられていたのは、もう一つ理由があったのか」
「ミリーちゃん、ジョゼフくんにつらく当たられるのが耐えられないんだ。それがいくらミリーちゃんのためになる事だとしても。ジョゼフくんが挫けてしまうんじゃないかって、不安になるんだ」
 ディアマンテはすこし笑う。
「そのようだ」
「や、やめてください、お嬢様! 使用人に罪はありません!」
「うるさい! あいつらにもがつんと言ってやるんだ! ジョゼフに頼るなって!」
 扉の向こうからジョゼフとミリーの声がして、イコウははっとする。
「シャリー!」
「え、あ、え? イコウ、どうしよう?」
 イコウは扉の向こうに飛びだし、あがくミリーを、ジョゼフと一緒に押さえつける。
「シャリー! 早く!」

 どうする?


  ■哀しませてみる。  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック
  ■楽しませてみる。  56  【出現条件】:  【消失条件】:
    



47


「ミリーちゃんのいっていることはほんとうなのか? 後継ぎにするってさ」
 ディアマンテはイコウをみる。
「ああ、そのために貰ってきた、息子の替わりだ」
「そうか」
「妻を失い3年間飲んだくれた。そして息子は出ていった。はじめはすぐに帰ってくるだろうと気にもしなかったんだ。しかし、一ヶ月経ち、季節が変わり、半年も経った頃にようやっと気付いた。息子はもう二度と帰ってこないのだと。耐え難い上に耐え難かった。なにかをせずにはいられなかった」
「だから、ジョゼフくんを貰ってきたの?」
 ディアマンテは頷く。
「知り合いに一人娘を病気で失った商人がいる。はた目にもあれはひどい状態だった。しかし、親戚のすすめで孤児を養子に貰うことにしたんだ」
「元気になったんだね?」
「昔には戻らない。でもだいぶマシになった」
 ディアマンテはうすく笑う。
「ジョゼフには素質がある、商人としての。ジョゼフに出会ったとき、胸が熱くなった。私にはジョゼフを立派な商人に育てることができるのだと」
「そうか」
「しかし、商人として大成するには素質だけではダメだ。見るんだ、この会計書類。ひどいミスだ。こんな書類を書いているようでは、とうてい商人にはなれない」
 イコウはほっとする。
(案外いい人なんだな)
「しかし、ジョゼフがミリーのことを想っていたとは。商人として慕われていたのは知っていたつもりだが、修行に耐えられていたのは、もう一つ理由があったのか」
「ミリーちゃん、ジョゼフくんにつらく当たられるのが耐えられないんだ。それがいくらミリーちゃんのためになる事だとしても。ジョゼフくんが挫けてしまうんじゃないかって、不安になるんだ」
 ディアマンテはすこし笑う。
「そのようだ」
「や、やめてください、お嬢様! 使用人に罪はありません!」
「うるさい! あいつらにもがつんと言ってやるんだ! ジョゼフに頼るなって!」
 扉の向こうからジョゼフとミリーの声がして、イコウははっとする。
「シャリー!」
「え、あ、え? イコウ、どうしよう?」
 イコウは扉の向こうに飛びだし、あがくミリーを、ジョゼフと一緒に押さえつける。
「シャリー! 早く!」

 どうする?


  ■哀しませてみる。  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック
  ■楽しませてみる。  56  【出現条件】:  【消失条件】:
    



48


「え、色を塗るんだろう? だったら哀しい方がいいんじゃないか?」
「そ、そう?」
「たまっているものあるだろうし、はき出した方が」
 シャリーはミリーの側にしゃがみ込み、その胸の辺りで右手を握る。
「来て、イコウも。ミリーちゃん、いい? はじめるよ?」
 ミリーの表情は長い前髪に隠れてうかがいにくい。
 こくりと頷く。
 ぴんとシャリーの人差し指がはねる。
 潮風に、前髪がさわさわと揺れた。
「な、なにも起こらないぞ?」
「ん・・・、あれ?」
 そのとき、ミリーの頬を伝い、丸っこい顎から何かが落ちるのにイコウは気付いた。
 そのちいさい肩が震えはじめ、嗚咽となり、ミリーは両手で顔を覆う。
「うう、ううう、うわーん! えーん、おかーさん! うわー」
 ミリーは大きく口を開けて、天井を仰ぎ見る。
 顔を紅潮させて号泣する。
「ひどいよ! ひどいよ! なんで死んじゃったの! なんでミリーひとりなの!」
 喉を枯らして、絞り出すように叫ぶミリーを見上げながら、シャリーは尻餅をついて腰を抜かす。うつぶせになって床を叩くうちに、涙で濡れていく。
「あ、あわわ、き、効いたぁ・・・」
 シャリーが思い出したように、背でもさすろうとすると、ミリーはよろよろと立ち上がり、鳴き声を上げながらふらふらと部屋を出て行ってしまう。
「ま、待って、ミリーちゃん!」
 ぽかんとするイコウは、シャリーに聞いた。
「せ、性格、変わり過ぎじゃないか?」

 ミリーは寝室を出てすぐの所にある、ラウンジのような広間のソファーで泣いている。
 イコウは知らないが、このラウンジは家族が集まる場所として設けられ、現在はミリーの天気予報を聞きにくる商人たちの、待合場所になっていた。
 ミリーは泣きじゃくる。
「うわーん、おかーさんはわたしのせいで死んじゃったんだ!!」
「み、ミリーちゃん……」
 シャリーはあまりに心配になっておろおろするが、なぐさめようにも、引っ込み思案のシャリーはとまどう以外が出来ないのだ。見かねたイコウはシャリーの肩をたたく。
「泣かせてあげよう。これまで哀しくても泣けなかったんだろう?」
 こくんと頷く。
 シャリーは3歳で兄まで出ていったミリーの境遇を想う。
「泣く余裕なんて、なかったんだよね」
 一歩足を出して、シャリーはミリーの背中をさする。
 ミリーはすがるようにシャリーの胸に飛び込んで、ひっくひっくと嗚咽する。
「ずっと一人だったんだよ……、おかーさんも、おにいちゃんもいなくて、お父さんは怖くて、……、ジョゼフだけは笑ってくれるの。でも、それしかしてくれないの」
 シャリーは両腕をその小さな背にまわし、ぎゅうと抱きしめる。
「きっと、遠慮しているの。ミリーちゃんはお嬢さんだから」
「そうなの?」
 長い前髪の向こうから、涙に濡れた瞳がシャリーを見つめる。
「そうなの。もう十年も一緒に暮らしているんでしょ?」
「うん」
「だったら家族。これまでも、これからもずっと」
「うん! でも……、ジョゼフがいなくなっちゃったら……」
 また、ミリーはぐずぐずと鳴き始める。
 シャリーは戸惑ってイコウを振り返るが、イコウはあきれたように肩をすくめる。
(おねえさんなんだろ、シャリー、今日は)
 イコウの口がそう動いた。

「おや、見ない顔だね」
 イコウが振り返ると、小太りの人のよさそうな商人が立っている。
 帽子を胸の前に持ち、イコウに握手を求める。
「イコウです。トランの浮遊船乗りです。この家の遊覧飛行を頼まれて、大祭の」
「タリファのロケ、近く船団が出航するんですよ、それでミリーの天気予報を。しかし、トラン人とは。シャビでは見るが、サディスでははじめて見たよ。東岸諸国ははじめてかね?」

 どうする?


  ■こんなよいところとは思いませんでした。これからシャビへ向かいます。  49  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■これからたびたび寄ることになりそうです。ミリーちゃんと約束してしまって。  50  【出現条件】:  【消失条件】:
    



49


「シャビへ向かう途中に立ち寄ったのですが、こんなによいところだと思いませんでした」
 イコウの言葉にロケと名乗った商人は頷く。
「シャビは東岸であって東岸ではないからねぇ。サディスに寄ったのは幸運だった。どうだい? 東岸の空気はいいだろう? 出世したらぜひサディスに別荘を建てるといい」
「ええ」
 イコウは恥ずかしくなってはにかむ。
(ぼくらが別荘だって? まさか)
「このサディスにはそういう人が多いのですか?」
「多いとも」
 ロケは鷹揚に頷く。それから指を折って並べ立てる。
「貴族、王族、豪商、傭兵隊長に、画家もよく別荘を建てる」
「へえ」
「わしらのいいお客さんでね。そうさなあ、いないのはシド商人ぐらいだ」
 ロケのボディランゲージはめまぐるしい。
「そういえば、いまはディシュが来ているらしいね。人気の肖像画家だよ。なんでも、ミリーちゃんの肖像を描いているとか」
「ええ、昨晩も食事をご一緒しました」
「まだ、この邸内にいるかな?」
「え? あ、いらっしゃると思いますが」
 期待に胸を膨らませ、ロケは夢中になる。
「上客なんだよ。ディシュのお近づきになれたら、どんなにいいか。東岸はそれで持っているようなものだからね。大切にしないと東岸は干上がってしまう」
 ぽんぽんと肩を叩いて、ロケは言う。
「君たちも出世して、ぜひ東岸の上客になって欲しいなぁ。なんたって君たちは、いまのままでも、このミリーの邸宅の主賓なんだからね」
 あっと、イコウは気付く。
(気付かなかった。おれたち、ディシュさんと同じ待遇で遇されているんだ……)
 ふっとイコウは笑う。
(リオネがいるから、あんまり粗末に扱えないだけだとは思うけど)
 もちろんイコウの勘違いも甚だしく、イコウとシャリーこそが、この邸宅の主ミリーを治すことが出来、この邸宅にある不幸を払拭できると期待されているだけであるのだが、その判断をしているのは、ジョゼフであったりするのである。
 なにごとも込み入っている。
「そう言えば、ミリーちゃんはどうしたんだい? 気分が悪いのかな?」
 シャリーの胸の中で泣きじゃくるミリーを見る。
「あー、いえ、取り込み中でして」
「取り込み中?」
 イコウは困って頬をかく。
「トランの浮遊船には稀に共感者が乗っていまして、……頼まれまして」
「きょ、共感者?!」
 ぎょっとするロケを見て、シャリーはにこっと笑う。
「いいひとだよ、この人」
「ば、ばか! ミリーをなんとかしなきゃ!」

 どうする?


  ■怒らせてみる。  51  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag051  ディアマンテ、ジョゼフがくじけるリスクを悟る
  ■喜ばせてみる。  55  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag055  「だって、お兄ちゃんみたいなんだもん! 優しくて!」
  ■楽しませてみる。  56  【出現条件】:  【消失条件】:
    



50


「ええ、ですけど、これからたびたび寄ることになりそうです。約束してしまって、ミリーちゃんと」
 ロケと名乗った商人は、ほうと感心する。
「ミリーちゃんに好かれるとは羨ましい。私にはぜんぜん笑ってくれなくて」
「難しい言葉が分からないんです、ミリーちゃん。もう少し易しい言葉で話してあげてください。おれもたびたび報告をしてあげないと可哀想だと思っているんですけど」
「なるほど、承ろう」
 ロケは右の拳で自分の胸を叩く。
「イコウくんと言ったね」
「はい」
 ロケは感心しながらなにやら思案する。
「もし、ミリーちゃんに報告するためにサディスに寄るなら、その足でタリファにも寄ってくれないかなあ」
「はぁ」
 不思議そうに首を傾げるイコウを安心させるようにロケは言う。
「見ての通りの商人でね。たまに早荷が出るんだ。もしよかったら、頼まれて欲しい仕事があるかもしれない。なくても土産話を聞かせて欲しい」
「そういうことでしたら、おやすいご用です」
 イコウはロケの差し出された手を握り返す。
「船団に所属しないトラン人と知り合えるなんて、私は運がいい」
「そ、そうですかね……」
(まあ、うちのギルドは弱小だからなぁ……)
「そう言えば、ミリーちゃんはどうしたんだい? 気分が悪いのかな?」
 シャリーの胸の中で泣きじゃくるミリーを見る。
「あー、いえ、取り込み中でして」
「取り込み中?」
 イコウは困って頬をかく。
「トランの浮遊船には稀に共感者が乗っていまして、……頼まれまして」
「きょ、共感者?!」
 ぎょっとするロケを見て、シャリーはにこっと笑う。
「いいひとだよ、この人」
「ば、ばか! ミリーをなんとかしなきゃ!」

 どうする?


  ■怒らせてみる。  51  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag051  ディアマンテ、ジョゼフがくじけるリスクを悟る
  ■喜ばせてみる。  55  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag055  「だって、お兄ちゃんみたいなんだもん! 優しくて!」
  ■楽しませてみる。  56  【出現条件】:  【消失条件】:
    



51


「怒りを呼び覚ましてみよう。たまっているものあるだろうし、はき出した方が」
「う、うん」
 ぴんとシャリーの人差し指がはねる。
 ミリーの握られた小さな手がほのかに紅く染まり、口もとが固く結ばれていく。
 イコウは、長い前髪の向こうに激怒に染まる輝く瞳をみて、思わず尻餅をつく。
「あ、あ、あ……、あのやろう!」
 その可憐な顔は真っ赤に紅潮し、やわらかな頬さえも、決心に引き締まっていく。
「絶対にゆるせねえ!!」
 ぶんと拳を振るミリーを見上げながら、シャリーは尻餅をついて腰を抜かす。そのいままさに正義の鉄槌を振り下ろさんばかりの表情を信じられないとばかりに見た。
「父親にだってやっていいことと、やってはならないことがあるってこと、」
 その表情に決心が固まり、ミリーは激怒をまとって駆けだす。
「思い知らせてやる!!!」
「ま、待って、ミリーちゃん!」
 イコウはぼうぜんと立ち尽くす。
「なんか、ぜんぜん性格違うんだけど?」

 邸内が不穏な空気に満ちるのを、ジョゼフはいち早く察知した。
(あれ? なんだろう? どたばたしている)
「ジョゼフ! 聞いているのか! 夕食のメニューぐらい料理人任せにするな!」
「も、申し訳ありません。なにか起こっているようなのです」
 邸宅の1階にある厨房の区画。
 使用人がせわしなく働くなか、ジョゼフは説教を食らっていたのであった。
 ディアマンテの瞳が怒りに燃える。
「食事はもてなしの基本だぞ! 料理人はもてなす相手を知らないんだ!」
「あ、あの…」
「なんだ!」
 脇から声を掛けた料理人はその剣幕にびくりとする。
(来た。物凄い勢いで外階段を駆け下りてくる)
「来ました! 旦那さま!」
 ディアマンテは訝しげな表情をする。
「なに? なにが来たんだ?」
「わ、わかりません!」
 ばんと勢いよく厨房のドアが開かれ、激怒に染まるミリーが姿をあらわす。
 ディアマンテの胸元まで一息で迫り、真っ赤に染まった細い指を突きつけた。
「おい、親父! ジョゼフになにをしているんだ! なぜいじめるんだ!」
「み、ミリー」
 ぽかんとするディアマンテに、ミリーはなおも迫る。
「なにをしているんだって聞いているだ! 答えろ!」
 ミリーの背後からイコウとシャリーが息を切らせて現れ、ディアマンテはぎょっとする。
 シャリーはあわてて、頭にちょこんと乗せたベレー帽を取った。
「ジョゼフ、お前また勝手に!」
「あ、報告がまだ……」
「おい! お前はおれと話しているんだ! このミリーと話をしているんだ! お前はジョゼフをなじるってばかりだ、朝から晩まで! それしか能がないのか!」
 ディアマンテはその鬼気迫る怒気に、思わずひるむ。
 その隙に、ジョゼフは怯えていた料理人をつかまえる。
「旦那さまもああ言っている。昨日は魚料理だったから、別の」
「新鮮な貝が入っています。いまからでも夕食に間に合いますが……」
「そう、それでいこう。あと、客人にシナモンが苦手な人がいる。それだけ気をつけて」
 ジョゼフがにこっと笑うと、料理人は安心して持ち場に戻っていく。それを見送りながらジョゼフははぁとためいきをついた。
 ディアマンテは、ミリーに対峙する。
「じょ、ジョゼフに客のもてなし方を教えて……」
「やり方に問題があるって言ってるんだよ! お前のせいでどんだけこの家の空気が悪くなっていると思う? ジョゼフがいなければ、世界は真っ暗だ! 料理人も辞めるぞ!」
「な、なるほど……、もっともだ」
 ミリーは拳を横振りに壁に叩き付ける。
「分かってない! ジョゼフはお前のようなろくでなしの所にやって来て、おれの旦那になってくれるんだぞ! 船に乗れない商人の落ちこぼれが、私の生き甲斐だとか言って、ジョゼフに賭けてるのは知ってんだよ。だが、やり方だ! ジョゼフが挫けたらどうする。怒鳴るしか能のないお前にジョセフは引き留められないだろ! わかってんのか!」
「た、たしかに……」
「そうなったら、だれが責任取れるって言うんだ! おれも出てくぞ、ジョゼフを追って、そして、絶対にお前を一生許しはしないからな!」
「お、お嬢様! おやめください!!」
 ジョゼフが顔を真っ赤にしてミリーに飛びつく。
 ミリーはその激怒の矛先をジョゼフに向ける。
「お前はなんであんなろくでなしの言いなりになっているんだ、意気地がないのか!」
「お嬢さま……、旦那さますごい方です。たまたま船に乗れなくなっただけで。商人としても、ホスト役としても一流なんです。ですから、それに少しでも近づきたいと」
「お前が、そんなんだから、舐められるんだよ! お前も同罪だ! わかってるのか!」
 なおも続くジョゼフへの怒りのぶちまけの隙に、ディアマンテはイコウに耳打ちする。
 イコウは状況を説明した。
「なんだ、あれは。追及がいちいちもっともすぎる……」
「ミリーちゃんはずっとそう思っていたんです、きっと」
 シャリーの言葉にディアマンテはぼうぜんとした。
「共感者がすることが出来るのは感情を与えるだけ。考えは与えられないから」
「そうか……。ミリーのいう事ももっともだ」
 ディアマンテは調理する料理人を見つめるが、緊張する厨房を見回して、ふと気付く。
「そうだ、今晩はすこし蒸し暑い晩餐になる。マリネを一品、メニューに入れておいてくれ。いつも通りのすてきなやつを頼む」
 料理人がおそるおそる頷くのを見て、イコウはディアマンテを見直した。
(この邸宅に人が集まるのは、あながちミリーちゃん一人のおかげではないんだ)
「や、やめてください、お嬢様! 使用人に罪はありません!」
「うるさい! あいつらにもがつんと言ってやるんだ! ジョゼフに頼るなって!」
 ジョゼフとミリーの声がして、イコウははっとする。
「シャリー!」
「え、あ、え? イコウ、どうしよう?」
 イコウは飛びだし、あがくミリーを、ジョゼフと一緒に押さえつける。
「シャリー! 早く!」


  ■哀しませてみたら?  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック
  ■楽しくしたら?  65  【出現条件】:  【消失条件】:
    



52


「哀しみを呼び覚ましたらどうだ? 哀しみは、はき出した方が」
「う、うん」
 ぴんとシャリーの人差し指がはねる。
 ミリーの頬を伝い、丸っこい顎から何かが落ちる。
 そのちいさい肩が震えはじめ、嗚咽となり、ミリーは両手で顔を覆う。
「うう、ううう、うわーん! えーん、おかーさん! うわー」
 ミリーは大きく口を開けて、天井を仰ぎ見て、顔を紅潮させて号泣する。
「ひどいよ! ひどいよ! なんで死んじゃったの! なんでミリーひとりなの!」
 喉を枯らして叫ぶ。うつぶせになって床を叩くうちに、涙で濡れていく。
 シャリーが背でもさすろうとすると、ミリーはよろよろと立ち上がり、鳴き声を上げながらふらふらと歩いて行ってしまう。
「ま、待って、ミリーちゃん!」
 あぜんとするイコウは呟く。
「変わりすぎだろ……、いくらなんでも」

「そうだね、およそ三百年前、この東岸諸国のタリファという都市国家でお家騒動あってタリファは二分された、王弟派と王女派に。王女派はタリファにしがみつき醜く相争うならば、新天地を目指すと、大船団を組んで西を目指したのさ」
「へー、ロット、よく知ってるね。その王女が」
「それが、海洋の覇権国家シドの起源」
 2階にある、ミリーの部屋の前のラウンジ。
 物知りなロットの話を、好奇心をらんらんにひからせてリオネが聞く。
「あたし、そのタリファも見てみたいなぁ。なにで有名なの?」
「タリファは真珠かな。それに海産物。もともとタリファは商港というよりも、一大漁港だったんだよ。良質な漁場が近くに多くて」
 盛大な鳴き声が聞こえ、ロットとリオネはそちらを向く。
 泣きべそをかくミリーが二人のすぐ側のソファーに飛び込み、ワンワンと泣く。
 ロットは、シャリーとイコウが駆けてくるのを見て、感心する。
 ミリーは泣きじゃくる。
「イコウ! あたし、タリファ行くからな! 寄ってくぞ、タリファ!」
「いま、それどころじゃないんだ!」
「考えておいてくれよ! それでさ、ロット、なんかおいしいものあるの?」
「そうだね、やはり東岸は海のものだね。小魚の掻き揚げとか」
 シャリーはそのロットから立ち昇るピンク色の何かに圧倒される。
(ろ、ロットってリオネさんのことを、す、好きなの?!)
 リオネは対照的なほどにはっきりとした感情が見えず、本当にお気楽に会話を楽しんでいる。しかし、シャリーはすぐに気付く。ロットのもやもやはどこかかなたへ向かっており、少なくともロットはリオネをそのお相手を重ねて話しているだけなのだ。
(あれ? ロットって誰かのことをこんなに好きだったんだ……。え? だれ?)
「うわーん、おかーさんはわたしのせいで死んじゃったんだ!!」
 シャリーは現実に戻される。
「み、ミリーちゃん……」
 シャリーはあまりに心配になっておろおろするが、なぐさめようにも、引っ込み思案のシャリーはとまどう以外が出来ないのだ。見かねたイコウはシャリーの肩をたたく。
「泣かせてあげよう。これまで哀しくても泣けなかったんだろう?」
 こくんと頷く。
 とたん、ミリーはがばっと起き上がり、だっと走り出す。
 ミリーの寝室を通り過ぎ、その隣の部屋へ。ドアを開いて、飛び込む。
 イコウとシャリーが追いかけると、そこは男の子部屋。
 大きな船の模型が、ぴかぴかに磨かれて置いてあり、見ると、部屋の隅にいくつものスケッチブックが立てかけてある。
「わーん、お兄ちゃんが出ていったから、帰ってこないから、お兄ちゃんのせいだ!」
 清潔に保たれているこの部屋は、ミリーの兄の部屋のよう。
 使用人が掃除しているのだろう。
 まったく時間が止まったように、サディスのやわらかなひかりが差し込む。
 イコウは、その船の模型をわくわくと見つめる少年の姿を想像してみようとした。
(いま、どこでなにをしているんだろう?)
 気付くと、背後にディアマンテが立っているのにイコウは気付く。
「ディアマンテさん……」
 シャリーが呟く。
「この人、泣いてる。こんなに深く……」
 シャリーの言葉にディアマンテはぎょっとした。
 イコウはその隙に口を挟む。

 どうする?


  ■息子に帰ってきて欲しいんだろ? ほんとは。  53  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■このボタンに見覚えがありますか?  54  【出現条件】:flag000*flag033  【消失条件】:
  flag054  ディアマンテ、息子のボタンを確認



53


「帰ってきて欲しいんだろ? ほんとは。息子さんに」
 ディアマンテのきつい視線がシャリーに向く。
「帽子を取れ。考えを読むな」
 シャリーがおずおずと帽子を取ると、ディアマンテはがっくりと肩を落とす。
「しかし、いま帰ってきても、あいつの居場所はない」
「で、でも」
「いまさら、家族に戻りたいなど、虫がよすぎる」
 ミリーがディアマンテに駆け寄り、抱きついて、ぐずぐずと泣く。
 顔を上げると、ディアマンテをミリーの涙顔が突き刺した。
「でも、お兄ちゃんが帰ってくれば、家は幸せに戻るんだよ」
 涙声で必死に訴えるミリーの頭をディアマンテがやさしくなでる。
「そう、そう教えてしまったな……。でも、ミリー、聞いてくれ。ジョゼフがやって来たとき、もうそうではなくなったんだ。新しい家族がはじまったんだ」
「お父さんの馬鹿!」
 ミリーは代わりにシャリーの胸に飛び込み、そこで泣きじゃくる。
 ディアマンテはいたたまれなくなる。
「ミリーを頼む」
 そう言って立ち去る。
「イコウ!」
「どうにも出来ないよ! 泣かせてあげよう」
 シャリーはしかたなくミリーに胸を貸すが、しばらくするとシャリーはその不幸に耐えられなくなり、そわそわとし始める。
(しかたないなあ)

 どうする?


  ■喜ばせてみたら?  55  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag055  「だって、お兄ちゃんみたいなんだもん! 優しくて!」
  ■楽しくしてみたら?  65  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■怒らせてみたら?  72  【出現条件】:  【消失条件】:
    



54


「もしかして、このボタンに見覚えがありますか?」
 ディアマンテのきつい視線がシャリーに向く。
「帽子を取れ。考えを読むな」
 シャリーがおずおずと帽子を取ると、ディアマンテはイコウの差し出したボタンを子細に調べる。
 懐疑的だったディアマンテの視線が、目に見えて真剣になっていく。
「どこで、これを手に入れた!」
「昨夜の騒ぎです。外階段に落ちいていたのです」
 ディアマンテの肩が震える。
「まさか、あいつがこの邸内にいる?」
 それは呟きだったが、はっきりとイコウには聞こえた。
「やはり息子さんのなのですね?」
 頷くが、ディアマンテはそれでもがっくりと肩を落とす。
「しかし、いま帰ってきても、あいつの居場所はない」
「で、でも。和解の絶好の機会だよ!」
「なぜ、こそこそしている? 盗みに入るなんて、きっと食いっぱぐれて、戻ってくる気になったんだ。いまさら、家族に戻りたいなど、虫がよすぎる」
 ミリーがディアマンテに駆け寄り、抱きついて、ぐずぐずと泣く。
 顔を上げると、ディアマンテをミリーの涙顔が突き刺した。
「でも、お兄ちゃんが帰ってくれば、家は幸せに戻るんだよ」
 涙声で必死に訴えるミリーの頭をディアマンテがやさしくなでる。
「そう、そう教えてしまったな……。でも、ミリー、聞いてくれ。ジョゼフがやって来たとき、もうそうではなくなったんだ。新しい家族がはじまったんだ」
「お父さんの馬鹿!」
 ミリーは代わりにシャリーの胸に飛び込み、そこで泣きじゃくる。
 ディアマンテはいたたまれなくなる。
「ミリーを頼む」
 そう言って立ち去る。
「イコウ!」
「どうにも出来ないよ! 泣かせてあげよう」
 シャリーはしかたなくミリーに胸を貸すが、しばらくするとシャリーはその不幸に耐えられなくなり、そわそわとし始める。
(しかたないなあ)

 どうする?


  ■喜ばせてみたら?  55  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag055  「だって、お兄ちゃんみたいなんだもん! 優しくて!」
  ■楽しくしてみたら?  65  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■怒らせてみたら?  72  【出現条件】:  【消失条件】:
    



55


「喜ばしてみよう、シャリー。こんなに哀しければ気分転換になるさ」
「そうか」
 ぴんとシャリーの人差し指がはねる。
 ミリーの細い肩がぴくっと動いた。
 じっと表情をうかがうイコウとシャリーの前で、ぱっとひまわりのような笑顔が輝く。
 ばねのようにミリーの身体がぴょんと跳ね、ぐぐぐと大きな伸びをする。
「うっはー! 気分爽快! シャリー、いくよ!」
「い、行くって、どこ? ミリーちゃん!」
 駆け出そうとするミリーは、シャリーの手を取って、満面の笑みを浮かべる。
「どっか! ここじゃない、どっか!」
 びゅーんと、ご機嫌の声を上げて、ミリーはシャリーを連れて駆けだしていく。
 外への扉を開け、
「まぶしー! もう夏が来る! シャリー、港行こう!」
 海鳥のテラスで海鳥たちをからかって、
「こらこら! そんなに取り巻いたら、もう餌あげないぞ、あはは」
 外階段を駆け下りていく。
「びゅーん! 一段抜かしだっ!」
「み、ミリーちゃん!」
 イコウは脱力して、床にへたり込む。
「ま、まいったな……。元気が良すぎるよな……」

 ミリーに連れられて、シャリーは邸内を駆け回る。
 厨房に顔を出して使用人たちに笑顔を振りまき、食堂のテーブルの上を走り、そのまま窓から庭へと飛び降りる。シャリーはなんとかついていこうとするが、ミリーほどにはこの邸内の勝手が分かっていない。
「置いてくぞ、シャリー! あははは!」
「待って……」
 芝生の上で両手を広げながらくるくる回るミリーは心底嬉しそうで、その姿を見ているだけでもシャリーの心は哀しくなってくる。
(何年こんなに笑ってなかったのかな? お兄さんが出ていった時から?)
 それは3歳だと気付いて、シャリーは怖くなる。
(……、生まれて初めてなのかも、こんなに笑ったの)
 シャリーは、テラスで手をかざすミリーの眩しい姿を、見つめる。
「発見! シャリー、急行だ!」
「あ、あ、うん、待って、ミリー!」
 シャリーが追いつくと、ミリーは応接間に突入していた。
 応接間にはディアマンテとディシュ、ふたりで静かに紅茶をすすっている所だった。
 ミリーのお目当てはディシュ、その証拠にその胸に飛び込んでいく。
「み、ミリー、ちゃん……」
「会いに来ちゃった!」
 その胸に頬を寄せるミリーにディアマンテは驚愕するが、シャリーにはミリーが恋心からそうしているのではないことが分かる。
(甘えているのね。甘えられる人が、ディシュさんしかいないんだ)
 シャリーが帽子を脱いで応接間に入っていくと、ディシュにもディアマンテにも事情は分かったよう。ディアマンテが聞く。
「ディシュさんは、子供に好かれるのですか、よく?」
「いえ、あんまり子供を描くことはないのです」
 ディシュは戸惑って答える。シャリーが聞く。
「ミリーは、ディシュさんが好きなの?」
「うん、好き! だって、お兄ちゃんみたいなんだもん! 優しくて!」
 ディシュの顔が、真っ紅に染まっていく。
「だって、声が羽毛みたいにやわらかいし、撫でてくれる手も優しいし」
「な、撫でたのか!」
「な、撫でてません。一度も!」
 シャリーはイコウがやっと追いついたのに気付く。
「こうやって、抱きついてるとお日様の匂いがするし、わたしを見てくれるまなざしが」
「み、見つめたのか!」
「み、見ないで、どうやって描くんですか!」
 真っ赤になったディシュを見ながら、シャリーはイコウに耳打ちする。
「ど、どうしよう」
 真っ青になっていくディアマンテの表情を見て、イコウはげんなりとする。
「そうだなぁ、まず止めよう」
 イコウが応接間に入ると、ディシュもディアマンテもほっとした表情を見せる。
「ミリーちゃん、あんまりディシュさんを困らせてはだめだよ」
「わたし、すごく嬉しいよ? イコウ?」
 首を横に振る。
「それを自分の力で取り戻さなければいけないんだよ」
「うん、取り戻す! すぐにでもいまにでも、だからイコウ!」
 イコウはミリーをディシュから引き離し、申し訳なさそうな顔をするシャリーの元に立たせる。
「……、イコウ……」
「お姉さんだろ、シャリー、今日は」
 シャリーは頷く。

 どうする?


  ■怒らせてみたら?  72  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■楽しくしてみたら?  65  【出現条件】:  【消失条件】:
    



56


「楽しくなるのいいんじゃないか、シャリー。こんな気持ちのままじゃあ」
「そうね」
 ぴんとシャリーの人差し指がはねる。
 ミリーの細い肩がぴくっと動いた。
 じっと表情をうかがうイコウとシャリーの前で、にこっとした笑顔が咲く。
 びくびくとするシャリーをにこにこして見上げる。
「シャリー、サンルーフ、行こう? ここ暗いから。お日様が気持ちいいよ」
「え、ええ」
 ぼうぜんとする面々を残して、ミリーはお行儀良くシャリーを連れていく。
 外へ出て、外階段を降りていく。
 イコウはがっくりと肩を落として、安堵する。
「ふうぅ。やっと、落ち着いた……」

 ミリーは一階まで降り、テラスからサンルーフへ入っていく。
 それはガラス張りの心地の良い空間で、紅茶かコーヒーで一息つくのにおあつらえ向きの椅子とテーブルが片隅で、日差しを浴びながらのどかな会話の主を待っていた。
 ミリーは、窓ガラスに一番近い床にちょこんと座り、日光を独り占めしながら、足を交互に上げ下げする、まるで歌でも歌うように。
 ときおり海鳥の鳴き声が聞こえ、上の海鳥のテラスで餌の取り合いが起こる。
 それさえも楽しんでいるように見えた。
 ふいにちいさな歌声が聞こえる。
 かわいらしい鼻歌だった。
 シャリーはイコウがやってくるのを見て、しぃと人差し指を立てる。
 イコウはシャリーに耳打ちする。
「ずいぶん静かじゃないか」
「うん。でも、ほんとうに楽しいのかな?」
「シャリー、見えているんじゃないのか?」
「うーん、でも、とっても静かすぎて…」
 イコウは暴風雨のようなミリーを思い出し、うんうんと頷く。
「おや、先客が。ミリーちゃん、ご一緒させてくださいよ」
 振り返ると、杖をつき腰の曲がった老人がよろよろと椅子に座ろうとしていたところだった。
「どうぞ、ご遠慮なく」
「ミリーの許可が出ましたね」
 奥から、紅茶を載せた盆を持ったディシュが顔を出す。盆を静かに老人の前に置き、すぐそばの椅子に腰を掛ける。
「ひさびさですか、サディスは」
「ああ、そうじゃな。ディシュが来ていると聞けば、来る気にもなる」
「持ち上げないでください」
 ミリーの鼻歌をバックに、にこやかで親密な雑談がはじまる。
 イコウはそれを横目で見ているのが、なにか特別なことのように思えてくる。
(騒がしいもんな、おれたち)
「しかし、ディシュくんがサディスでミリーちゃんを描くとはねぇ」
「いろいろ縁がありまして」
 ディシュが恥ずかしそうに謙遜するが、ふと気付いてイコウを見る。
「そうだ、イコウさん、シャリーさん」
 ディシュの手招きに誘われて、その輪に加わる。
「今度の大祭で遊覧飛行をしてくださるんですよ、トラン人の」
「イコウくんとシャリーさんだね。浮遊船で旅しているなんて羨ましい。わしも浮遊船は好きで、乗せてもらうんだよ、シャビで。最近は旅も一苦労になってしまったが」
 ディシュがイコウを見て、にこやかにいう。
「せっかくだから乗せてもらいましょう、わたしも」
「あ、ああ。ジョゼフに文句はないと思うけど」
 話はいつしか、昔日のディアマンテの話になる、老人は感慨深くためいきをつく。
「ディアマンテくんは、奥さんをたいそう愛しておった。心配になるほどにだ。しかし、不運からはだれも逃れられん」
 老人は胸に手を当てて祈る。
「どうか、スークルさまのご加護を。信心深くなっていかんね、年寄りは」
 老人が苦々しく笑うのに、イコウはふと思いつく。


  ■ディアマンテさんはどんな商人だったのですか?  59  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■息子さんは今どこでなにをしているのでしょう。  57  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag057  ディシュ、息子の話題で戸惑う



57


「ディアマンテさんの息子さんは、いまどこでなにをしているのでしょう?」
 とうとつな言葉にディシュは、え? と戸惑うが老人はふぅと息を吐く。
「さあねぇ。わしはディアマンテくんは知っているが、その息子さんは知らないのだよ」
 老人の優しいまなざしがイコウを見る。
「そうですか」
「しかしだ、知っているかね、東岸にはこんな格言がある。放蕩息子は旅をさせろ。子を成せば親心を知り、戻ってくる、とな」
「はあ」
 イコウは同じようにきょとんとするシャリーと目を合わせる。
「ずいぶん、気の長い話ですね……」
「さよう、ながい、ながい。東岸の商人は気が長い」
 老人はおかしそうに笑う。
「それに、商人たちはみな家族、商人たちにとってはどこも家みたいなもの。もし東岸を旅立っていようと、かならず恋しくなって舞い戻る」
 イコウは、まるで自分がせっかちな人間であるかのように思えてくる。
(せっかちなんだろうか?)
 しかし、イコウがこのミリーの家に滞在するのは明日までなのだ。
 イコウは、思わず口にする。

 どうする?


  ■実は、このディアマンテさんの所にパイプが戻ってきたんです。  58  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■息子さん帰ってくると、ミリーちゃんもすこしは楽になるのに。  62  【出現条件】:  【消失条件】:
    



58


「実は、このディアマンテさんの所にパイプが戻ってきたんです」
 老人はいぶかしげに、まゆをひそめる。
「パイプ? なんじゃね、それは?」
 イコウが事情を説明すると、老人は得心がいったと頷く。
「そうか、あのパイプか。あれは紛失していたのか」
「ええ、それが10年ぶりに戻ってきたんです。息子さんが戻ってきたのではないでしょうか」
 イコウはなぜこれほどまでに焦っているのだろうと、ふと思う。
(おれたちが、パイプで嘘をつこうとしたからかな)
 妙な因縁ではある。
 ディシュが助け船を出す。
「イコウさんたちが見つけてきたのですよね」
「え? ええ、まあ」
 老人はすこし愉快そうに笑う。
「イコウくん。しかし、どうじゃな? たしかなことはなにもないのじゃないかな? パイプが戻ってきたという以外に」
「ええ」
「もし、その息子さんが戻ってきたのなら、なぜ戻ってきたのじゃろう?」
「あ、いえ」
「なぜ、名乗らないのじゃろう?」
「あの」
 老人は続ける。
「分からないじゃろう? 何事もそうじゃよ、イコウくん。もしそうだとしてもなにか事情があるんだ。当の本人にしか分からないことがあるんじゃよ。まずそこを分かろうとしなければなぁ」
「はい」
 うなだれるイコウをよそにその話は途切れ、別の話題に花が咲く。やがて、積もる話も尽きて、ディシュと老人はサンフールを去る。
 ミリーは床に寝そべってにこにこする。
 イコウはそれをぼんやりとながめながら、うとうとする。
 ふいに音がして、イコウは目を覚ます。
「あら、まだいらしたのですか?」
 見ると、使用人が掃除道具を抱えている。窓を拭くのだろう。
 シャリーが眠たそうにイコウを見る。
「イコウ、どうしよう?」
「そ、そうだな、たくさん色が合った方がいいんだったよな」
「うん」

 どうする?


  ■哀しませてみたら?  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック
  ■怒らせてみたら?  72  【出現条件】:  【消失条件】:
    



59


「ディアマンテさんはどんな商人だったのですか?」
 イコウの言葉に、老人はおやという顔をするが、記憶の糸を寄り合わせるように宙を見つめる。
「熱意じゃな。まず熱意。たいへん熱意のある商人じゃったよ、ディアマンテくんは。まあ、海のことしか頭にない男じゃったが」
 深く息をついて、紅茶を飲む。
「シドの商船の届かない海域へ。それがディアマンテくんの合い言葉じゃった。東の大陸への航路を開こうとしておった。それ以来、その航路を開こうとした商人はとんと聞かない。いまでもあの海域については、世界で一番知っている男なんじゃないかね」
 感慨深げな老人にディシュが聞く。
「東岸諸国の商船はせいぜいリーズデル止まりですね」
「ああ、あの海域は荒れるのじゃ。だから、よほど勇敢な男じゃなければ、踏み込むことはできんよ。あの海を渡れるのは、トランの浮遊船団だけなのじゃ」
 イコウはなにか特権を独り占めしている気分で、居心地が悪くなる。
 ふと気付くと、隣の椅子にミリーが座っていた。
「おじいちゃん、その海のお話、ミリーにしてほしい」
 にこにこした孫ほどの年齢のスマイルに老人はきわめて弱い。
 たちまちご機嫌になった老人は、嬉々として語りはじめる。
「おお、ミリーちゃん、海の話が聞きたいとな。さすがディアマンテくんの娘じゃな。血は争えん。そうさな。まずは風じゃ。サディスでも風は吹く、しかし、あの海域の風はいつも強い。いつも同じ風が吹いている。凪ぐことのない、くるくると方向の変わる風が吹いているのじゃ」
「強い風なの?」
 老人はにこにことする。
「そうじゃよ。サディスでもときおり嵐が来る。あの風じゃ。あれが年がら年中吹き荒れており、商船の帆をときには引きちぎってしまうのじゃ。ディアマンテくんは、帆走の名手じゃ。あの風と戦うというよりも戯れるのが好きだったのじゃろう。商船中がディアマンテくんの指示に従い、一糸乱れず、あの風に立ち向かったのじゃ」
 ミリーの瞳が目に見えて輝いてくる。
「しかし、風だけではないのじゃ。風が吹けば、波は大きくなる。ざばんざばんと船体は波にたたかれ、波頭から波底まで船は落下する。波の間をすべるのではない。持ち上げられて、そしてまた落ちるのじゃ。ざばーん。落ちると大きな水飛沫が、甲板を襲う。だからディアマンテくんの船は普通の商船より頑丈で、甲板にいる者は、ロープで身体を縛りあっている。片方が波に落ちたとき、もう一人が助けられるように。その甲板に鋭い目をひからせていたのはディアマンテくんじゃった」
「すごいね、お父さん」
 ああ、そうじゃよと老人は優しくいい、そんなことをしながら、ディアマンテはあちこちの島々に補給地を築いていったことを話す。
「渡ってみたくなりました、その海」
 とうとつな言葉にだれもがディシュを見る。
「あ? おかしいですか? 画家が海を渡っては?」
 恥ずかしそうなディシュを、老人は愉快そうに笑う。
「おや、ディシュくんは、海の話を聞くと血がたぎるのかい?」
「はい、そのようです」
「では、あの海域に踏み込む勇気を持った商人をみつけるのじゃな」
「はい、……」
 ディシュはうつむいて複雑そうな顔するが、すぐに顔を上げる。
「実はもう目星はついているんです」
「それはよかった」
 イコウは、口を開く。


  ■そのときは、おれたちも呼んでくれよ、なにか手伝えるかも知れない。  60  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんって静かにしているけど、けっこう熱い人なんだね。  61  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag061  海の話で熱くなるディシュ



60


「そのときは、おれたちも呼んでくれよ、なにか手伝えることがあるかもしれない」
「よ、呼ぶってどうやって?」
 ふしぎそうに首を傾げるディシュに、イコウは言う。
「おれ、ミリーちゃんとお話を聞かせる約束をしたんだ。ときどき旅から帰ってきて、ミリーちゃんにどんなところだったかを、お話をさ」
「ミリー、楽しみだからね」
 にこにこしながらミリーは言う。
「だからさ、あんまりたくさんは来れないけれど、ここに来るからさ、言付けてよ、ミリーちゃんに。それならいいだろう?」
 ディシュはぽかんとする。
「あなたは、……、不思議な人ですねぇ……」
「いいだろう?」
 ディシュは、にっこりと笑顔を浮かべる。
「約束しましょう」
 わいわいと盛り上がっているうちに別の話題に花が咲く。やがて、積もる話も尽きて、ディシュと老人はサンフールを去る。
 ミリーは床に寝そべって幸せそうに、にこにこする。
 イコウはそれをぼんやりとながめながら、うとうとする。
 ふいに音がして、イコウは目を覚ます。
「あら、まだいらしたのですか?」
 見ると、使用人が掃除道具を抱えている。窓を拭くのだろう。
 シャリーが眠たそうにイコウを見る。
「イコウ、どうしよう?」
「そ、そうだな、たくさん色が合った方がいいんだったよな」
「うん」


  ■哀しませてみたら?  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック
  ■怒らせてみたら?  72  【出現条件】:  【消失条件】:
    



61


「ディシュさんっていつも静かにしているけど、けっこう熱い人なんだね」
 とうとつに言われて、ディシュはためらう。
 老人はおかしそうに笑った。
「イコウくん、わしの知っているディシュくんは、いつも熱いぞ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、ディシュくんの話は大きくて、深い。ディシュくんが芸術論に熱くなるのは分かるのだが、海の話に熱くなるとは。船乗りの血でも引いているのかね?」
 戸惑いながらもディシュは言う。
「あ、いえ、東岸諸国に生まれれば誰しも船乗りの血を引いています」
「なるほど、たしかにそうじゃ。東岸の子が船乗りの血を引いていないはずがない」
 イコウは、この東岸諸国を満たしている親しげな空気の姿が垣間見た気がした。
 だれもが海とつながり、海へ乗り出していく。
 狭い海岸線に点々ときらめく海洋都市を繋げるものは海しかない。
(だれもが海の子なんだ。東岸諸国の人たちは)
 それは老いも若いも、女も男も。
 それがずっと続き、つながり続けている。
 老人が嬉しそうな笑みを浮かべて、ミリーを見る。
「ミリーちゃんは、こんな立派なお父さんの子なんだよ。ミリーちゃんのお父さんは、いまでも立派だが、昔はだれもが尊敬する東岸一立派な男だったんだよ」
 老人が胸に手を当て、神妙な表情をする。
「だが、海よりも奥さんを愛していた。それを失った不運と、哀しみの深さを思ってあげて欲しい。出ていったお兄さんも、きっと立派になっているはずだよ」
 ミリーはこくりと頷く。
 イコウは口を開く。


  ■実は、このディアマンテさんの所にパイプが戻ってきたんです。  58  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■息子さん帰ってくると、ミリーちゃんもすこしは楽になるのに。  62  【出現条件】:  【消失条件】:
    



62


「息子さんが帰ってくると、ミリーちゃんもすこしは楽になるのに」
 老人とディシュはミリーを見る。
「ミリー、お兄ちゃんが帰ってきたら嬉しい」
 嬉々とした声で言うミリーにあわててディシュが聞く。
「ミリーはジョゼフくんと結婚したいんじゃなかったの?」
「うん。ミリー、ジョゼフのお嫁さんになる。そして、ジョゼフは商人になる」
 ミリーはディシュを見て、にこにこと笑う。
「お、お兄ちゃんはどうするの?」
「ジョゼフのお友達になるの」
 にこにこするミリーの言葉に、老人は愉快そうな笑い声を上げた。
「ミリーちゃんの夢はきっとかなうよ」
「うん」
「でも、大人の世界はもうちょっとだけ難しいんだ。うまくいかないかもしれない。でもそれはけっしてミリーちゃんのせいじゃない。なにもかもね」
 ミリーは分かったのか分からないのか首を傾げるが、うんと頷いた。
(おれも子供の頃はこんなこと言っていたのかな)
 イコウは微笑ましい心地で、ミリーを見るが、ふと気付く。
「でも、お兄ちゃんはまだ帰ってきていないみたいだけどね」
「そうなの?」
 素朴に首を傾げるミリーにイコウはあわてる。
「え、だってさ」


  ■息子なんだから顔みれば分かるだろう?  63  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■いくら何でも帰ってきたら名乗りぐらいするだろう?  64  【出現条件】:  【消失条件】:
    



63


「息子なんだから、顔を見れば分かるだろう?」
 イコウの言葉にサンルーフが静まりかえる。
「あれ? どうしたの?」
 沈黙をといたのは、老人だった。
「イコウくん、海の男には海の男なりの事情があるのじゃよ」
 きょとんとするイコウに、ディシュがためいきをつきながら助け船を出す。
「わたしの絵が好まれるのは、まさにその事情のせいなのです」
「へ? どういうこと?」
 老人とディシュが顔を見合わせる。
「海の男は数ヶ月も航海に出る、時には何年も、分かるかね?」
「え、ええ」
「ディアマンテくんは熱心な商人だったから、息子にもあまり会わなかった。商人たちがこぞって肖像画を求めるのはそのためなんじゃ」
 イコウは首を傾げる。
「どういうこと?」
「息子にお父さんの顔を忘れられないようにするためなんじゃ。朝食、夕食、お母さんは子供たちに、お父さんに挨拶をするようにしつける」
 イコウはあっと気付く。
「肖像画に……」
「そう、わたしの絵が好まれるのはその写実性のせいです」
 ディシュの言葉に、イコウは目の前の画家が分かった気がした。
「つまり、本人そっくりに描けることが、仕事が絶えない理由なのです。商人は東岸中にあふれるほどいます。そのだれもがディシュの肖像画を求めるのです」
「そ、そうか……」
「肖像画があり、そこにディシュと署名がある。その署名を求めるのです、絵のよしあしではなく。ディシュの署名がその肖像画が本人そっくりである証であり、子供と海の男をつなぐ唯一の絆となるのです」
 イコウはぽかんとする。
「つ、つまり、ディアマンテさんは肖像画で息子の顔を覚えている!?」
「ええ、そのとおり。そして、」
「その画家がへたくそだったら!!」
 シャリーも事態に気付いてびっくりする。
「息子の顔が分からないんだ!!! ディアマンテさん!!!」
 ディシュは悲しげに笑った。
「そのとおり」
 老人はゆっくりと立ち上がって、ディシュを促す。
「またくるよ」
 ディシュと老人はサンフールを去る。
 ミリーは床に寝そべって幸せそうに、にこにこする。
 イコウはそれをぼんやりとながめながら、うとうとする。
 ふいに音がして、イコウは目を覚ます。
「あら、まだいらしたのですか?」
 見ると、使用人が掃除道具を抱えている。窓を拭くのだろう。
 シャリーが眠たそうにイコウを見る。
「イコウ、どうしよう?」
「そ、そうだな、たくさん色が合った方がいいんだったよな」
「うん」


  ■哀しませてみたら?  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック
  ■怒らせてみたら?  72  【出現条件】:  【消失条件】:
    



64


「いくらなんでも帰ってきたら、名乗りぐらいするだろう?」
 イコウの言葉にサンルーフが静まりかえる。
「あれ? どうしたの?」
 沈黙をといたのは、老人だった。
「イコウくん、イコウくん。喧嘩別れした二人、その二人が和解する、これは難しい。とてもとても、そう、東の大陸まで航路を開くのと同じぐらい。とても大きな隔たりなのじゃ。ちいさくはない、おおきいのだよ」
 イコウはその言葉を神妙に老人の言葉を聞く。
「10年も離別して、決裂していた関係が、そう簡単に和解できるかね? しかも親子だ。親と子の間には、複雑な感情のやりとりがある。直に接していなくても、忘れていても、離ればなれになっていても、、切れない絆の間には、一方通行のむすうの数え切れないほどの感情のやりとりがあるのじゃ」
 老人は静かに、それはとても美しいものだが、とぽつりと呟く。
「わからない」
「そう、分からないんじゃ。だから、生きている甲斐がある」
 老人はゆっくりと立ち上がって、ディシュを促す。
「またくるよ」
 ディシュと老人はサンフールを去る。
 ミリーは床に寝そべって幸せそうに、にこにこする。
 イコウはそれをぼんやりとながめながら、うとうとする。
 ふいに音がして、イコウは目を覚ます。
「あら、まだいらしたのですか?」
 見ると、使用人が掃除道具を抱えている。窓を拭くのだろう。
 シャリーが眠たそうにイコウを見る。
「イコウ、どうしよう?」
「そ、そうだな、たくさん色が合った方がいいんだったよな」
「うん」


  ■哀しませてみたら?  52  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag052  兄貴の部屋にスケッチブック
  ■怒らせてみたら?  72  【出現条件】:  【消失条件】:
    



65


「楽しいのがいいんじゃないかな?」
「うーん、じゃあ、やるね」
 ぴんとシャリーの人差し指がはねる。
 ミリーの表情に笑顔が広がっていく。
 じいいっと見つめていたイコウとシャリーの目の前で手を振る。
「シャリー、イコウ、どうしたの?」
 小首を傾げる。
「あー、いや」
「シャリー、お庭に行こうよ、お花が咲いているよ」
「う、うん」
 ミリーはお行儀良くスカートの裾を上げ、とことことシャリーを引いていく。
「イコウも、早く!」
 ぽかんとしていたイコウは生返事をする。
「あ、ああ」
 並んで歩くミリーとシャリーについていきながら、イコウは首を傾げる。
(どうも、慣れないんだよなあ…)

 サンダルを履いて庭に出ると、ミリーはのびのびとする。
 シャリーを連れて花壇へ、
「ほら、お花。匂いがするのかな?」
 ミリーはそのちいさな鼻を花弁へ近づける。
「いい匂い。ほら、シャリーも」
「え、ああ。あ、ほんと、いい匂いね、ミリーちゃん」
「でしょ」
 にこっと微笑む。
「あ、蝶々。夏なのに」
 大きなむらさき色の蝶が潮風の微風をふらふらと、すこしずつ高いところへ行こうとするのをミリーは両手を伸ばして掴もうとする。しかし、それが届かないと分かると、額に手をかざして、言う。
「どこまで行くのかなぁ。ねえ、シャリー、あの蝶はどこへ行くの?」
「ど、どこって」
「きっとシャビにおうちがあるのよ」
「そ、そうね」
 ミリーはしばらく見上げていたが、あきらめたのか、芝生からひょろりと伸びる草の花を覗きこむ。雑草の可憐な花をつつき、そこにやってきたてんとう虫を珍しそうに見つめる。しまいには芝生に寝そべり、両脚をぶらぶらさせながら、付近を行き来する虫たちの動きを眺めている。
 とうとつに羽根音がして、海鳥の鳴き声がすると、ミリーはひょこっと立ち上がる。
「こらー、ブルック! ここにいる虫たちをたべに来たのか!」
 冗談のつもりなのだろう、両腕をめちゃくちゃに振り回すが、ブルックくん(ちゃん?)というらしい海鳥は付き合ってられないとばかりに、飛び去って、空中で旋回をする。
「ずるいなぁ、ブルックは、いつも空に逃げちゃうんだもの」
 あははとミリーは笑う。
 ブルックを掴もうと、芝生の上で何度も一生懸命ジャンプしてみるのだが、海鳥に手が届くのは、このサディスでは、イコウぐらいかもしれない。
 ミリーは芝生に仰向けに寝そべって、青空を見上げる。
 白い入道雲を見ても、ミリーはそれすら気にせずに、空の青いところを見つめる。
 潮風が髪を揺らすが、それすらも気にせずに、放心する。
「シャリー」
「なに? ミリーちゃん、なに?」
「お庭って楽しいね」
 シャリーは言葉に詰まる。
 イコウはぐっと言葉を呑み込んだ。
(違うよ、ミリー。世界中が楽しいんだ)
 言葉を堪えて、イコウは言葉を選ぶ。
「ミリーちゃん、サディスの街はもっと楽しいよ」
「ちょ、ちょっと、イコウ!」
 シャリーの抗議に、イコウは答える。

 どうする?


  ■だって、ずっとこのままって訳にもいかないだろう?  68  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■サディスで刺激を受けた方がいいに決まっているよ。  66  【出現条件】:  【消失条件】:
    



66



「サディスで刺激を受けた方がいいに決まっているよ!」
 ミリーがぴょこっと身体を起こす。
「イコウ、サディスへ出るの?」
「ああ、庭と同じぐらい楽しいぞ」
 シャリーが恨むような視線をイコウに向ける。
「イコウ! 遊びじゃないのよ。ミリーちゃんになにかあったらどうするつもりなの?」
「そんなに縛り付けちゃ、可哀想だよ。ミリーが天気予報を出来なければそんなことをシャリーは言わないだろう」
「いう、……と思う」
 シャリーが思いのほか真剣な表情なのを見て取って、イコウは考える。


  ■じゃあ、ミリーちゃんがどんな感情だったら安全かを考えよう。  67  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■名前を呼びながら追いかければ、みんなミリーちゃんを守ってくれるよ。  70  【出現条件】:  【消失条件】:
    



67


「じゃあ、ミリーちゃんがどんな感情だったら安全かを考えよう」
「あ、そうか」
 シャリーは、はっと気付く。
 イコウはしばらく考え、ふと思いつく。
「そうだ、興味津々になればなんでも面白く感じるはずだよ」
「き、危険じゃない!」
 顔を青ざめさせるシャリーに、イコウのほうがびっくりしてしまう。
「そ、そうか? え? だめか? シャリーはどう思うんだ?」
「え、ああ、うーん、勇気を持つとか、勇敢になるとか……」
「い、いや、そっちの方があぶなそうだと……」
 ふたりで腕組みして、うんうん悩むがイコウが、ふと聞いた。
「そうだ、ミリーちゃんは、どんな風になればサディスが楽しいと思う?」
「ミリー、ジョゼフみたいになりたい」
 にこにことして言うミリーの言葉に、イコウは悩む。
「あ、うーん、陽気になるってこと?」

 どうする?


  ■好奇心を持たせる。  79  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag079  好奇心を持たせた
  ■勇気を持たせる。  80  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag080  勇気を持たせた
  ■陽気にする。  81  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag081  陽気にした



68


「だって、ずっとこのままって訳にもいかないだろう?」
「それは、そうだけど」
 シャリーはしょげかえる。
 イコウは、シャリーが引っ込み思案で、ひとりでは滅多に街を歩かないのを思い出す。
(シャリー、怖がりだからなぁ)
 ちょっとした買い物もイコウに付いてくるようにせがむ、子供の頃のシャリーを思い出すと、シャリーがなにを危惧しているのかが分かるような気がする。
「サディスは、トランの首府と違って危険な街ではないよ」
「海賊だっているんでしょ? 東岸って!」
 シャリーが必死に言う。
「い、いるのかな?」
「きっといる」
 シャリーが意固地なのに、イコウは考える。

 どうする?


  ■ミリーちゃんはおれとシャリーで守るんだろう?  69  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■じゃあ、ミリーちゃんがどんな感情だったら安全かを考えよう。  67  【出現条件】:  【消失条件】:
    



69


「ミリーちゃんはおれとシャリーで守るんだろう?」
「それは、そうだけど……」
 シャリーはおずおずとする。
「でも、これまでこの邸内でも、置いてけぼりになってたじゃない」
「そ、それはそうなんだけど」
 イコウはうーんと考える。
 シャリーはなおもまくし立てる。
「やはり危険よ! だって、ミリーちゃん、サディスの街に出たことないんでしょ? 迷子になったら帰って来れなくなっちゃう!」
「そ、そんなことないよ。だって、サディスの人はみんなミリーちゃんのことを知ってるはずだし」
「そうか、でも」
 イコウははっと思いつく。


  ■名前を呼びながら追いかければ、みんなミリーちゃんを守ってくれるよ。  70  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ロットがいたら、助けてもらえばいいよ。  71  【出現条件】:  【消失条件】:
    



70


「名前を呼びながら追いかければ、みんなミリーちゃんを守ってくれるよ」
 シャリーはイコウの名案に鼻白む。
「そ、そう、か」
「きっと上手くいくさ。なんたって、サディスだけじゃなくて、東岸中がミリーちゃんの味方なんだからさ。みんな、ミリーちゃんがサディスの街に出ていると知れば、助けてあげようと思うに決まっているよ」
 シャリーはしぶしぶと頷く。
「じゃあ、勇気凛々にするから」
「あ、いや、シャリー、それは余計危ないような。何事にも興味津々な方が」
 そうかなぁとシャリーが悩んでいると、ミリーがめざとく言う。
「ミリー、ジョゼフみたいになりたい」
 にこにことしたミリーの言葉に、イコウは悩む。
「あ、うーん、陽気になるってこと?」

 どうする?


  ■好奇心を持たせる。  79  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag079  好奇心を持たせた
  ■勇気を持たせる。  80  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag080  勇気を持たせた
  ■陽気にする。  81  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag081  陽気にした



71


「ロットがいたら、助けてもらえばいいよ。千里眼ならなんとでもなる」
 シャリーはうーんと悩む。
「ロット、そんな簡単に見つかるかな?」
「ロットのいそうなところなんて、いくらでも思いつく」
 シャリーは、それはどこにいるのか分からないってことでは、と思うが口をつぐむ。
 しぶしぶと頷く。
「じゃあ、勇気凛々にするから」
「あ、いや、シャリー、それは余計危ないような。何事にも興味津々な方が」
 そうかなぁとシャリーが悩んでいると、ミリーが言う。
「ミリー、ジョゼフみたいになりたい」
 にこにことしたミリーの言葉に、イコウは悩む。
「あ、うーん、陽気になるってこと?」

 どうする?


  ■勇気を持たせる。  80  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag080  勇気を持たせた
  ■好奇心を持たせる。  79  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag079  好奇心を持たせた
  ■陽気にする。  81  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag081  陽気にした



72


「怒りをがいいんじゃないか?」
「そうかな」
「だって、ほら、たまっているものが多そうだし」
「うーん、わかった」
 ぴんとシャリーの人差し指がはねる。
 ミリーの長い前髪の奥にある瞳に力が漲りはじめる。
 右拳が握られ、それが強烈に左の手のひらに叩き付けられた。
「ちくしょう、なんでこんなことになっているんだ!」
 くそっと呟き、ミリーは駆け出す。
「ま、待って、ミリーちゃん!」
 イコウは首を傾げた。
「今度はなにに怒っているのだろう?」

 ミリーは庭に駆けだし、その真ん中に仁王立ちをする。
 両拳をぐっと握りしめ、青空を見上げる。
 シャリーが追いつくと、ミリーは泣いていた。
(え? なに? 哀しみなんて、いまは与えていないのに)
 激しい怒りが渦巻く中に、悔しさと、哀しみが絡み合うのがシャリーには見えた。
「どうした?」
「戻ってきている! ミリーちゃん、泣いているの」
 追いついてきたイコウを振り向き、シャリーは言う。
 イコウは意味が分からず首を傾げるが、その姿が生気に満ちていることだけは分かる。
「なんで、こんなになっちゃったんだよ! なにが悪いんだよ!」
 両脚を踏みしめ、ミリーは叫ぶ。
「お父さんが悪いの? お兄ちゃんが悪いの? ジョゼフが悪いの? 死んだお母さんが悪いの? お母さんを死なせたミリーが悪いの? なにがいけなかったの? 教えてくれよ! 誰か教えてくれよ!」
 シャリーはいたたまれなくなり、イコウに寄り添う。
 13歳の少女が抱え込むには、それは過酷すぎることなのだ。
「イコウ!」
 その複雑な感情が交じる瞳が、イコウの胸を突き刺す。
「教えてくれよ! どうしてこうなっちゃったんだよ!」
 イコウは答えようもなく、うなだれる。
「シャリー!」
「え、ああ、わからない……。わからないの、ミリーちゃん」
 ミリーはばしんと右拳を手のひらにぶつけるが、その怒りを向ける先が見あたらないのだ。くそ、とミリーは呟く。そして、潮風と日差しの中にたたずむサディスの街並みを、キッとにらみつけ、叫ぶ。
「ちくしょう!!」
 なんども、なんども、なんども、なんども。
 まるで、喉を潰そうとするように。
「ミリー、ちゃん?」
 叫び疲れたミリーにイコウは声を掛ける。
 ふいに、ミリーは腹の底から湧いてくるような低い声で呟く。
「あいつだ……。あいつは知っているに違いない……」
 不穏な言葉に戸惑うが、ミリーはイコウに聞く。
「イコウ、ディシュはどこにいると思う?」
「ディシュさん? なんでディシュさんなんだ?」
 ふしぎがるイコウにミリーは言う。
「あいつ、おれに言ったんだ。この絵を描くことであなたを助けてあげることが出来ればいいのだけどって、描き始めるとき」
「しかし、ディシュさんは」
「うるさい! イコウ、教えろ! ディシュはどこにいる!」

 どうする?


  ■海鳥のテラスにいるんじゃないか?  74  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんの部屋があるだろう、そこでは?  73  【出現条件】:  【消失条件】:
    



73


「え、ディシュさんの部屋があるだろう? そこにいるんじゃないか?」
「そうか!」
 ミリーは花咲き、緑の茂る庭を駆けだし、両脇にカラフルな花の植木鉢が置かれた広い外階段を駆け上がっていく。
 海鳥の舞う、そのミリーの部屋の前のテラスには見向きもせず、その潮風に舞う海鳥たちがミリーに戯れようとするのも気にせず、まっしぐらに三階のディシュの部屋を目指す。イコウとシャリーはそれをただ追うしかない。
 がむしゃらに、その怒りに身を任せ、ミリーのちいさなスカート姿が駆けていく。
(ミリーちゃんは今度こそ、たどり着けるのだろうか?)
 イコウは、その感情豊かなミリーの姿を見ていることが、好きになりはじめていることに気付く。
(ディシュさんはほんとうにミリーちゃんを助けようとしていたのだろうか?)
 なぜ?
 それがわからない。
 シャリーの息が上がるのに気付き、イコウはシャリーの手を引く。
 ミリーは三階に達し、その水色の扉を勢いよく開く。
 そして、白壁の所々に花々が飾られた廊下を駆け抜ける。
 ディシュの部屋に鍵は掛かっていなかった。
「み、ミリーちゃん?」
 扉の前で仁王立ちするミリーにイコウは声を掛ける。
 肩越しにディシュの部屋が見える。
 とても慎ましい生活が伺えるような、簡素な部屋にいくつものスケッチブックが立てかけてある。その部屋の窓辺にはイーゼルが立てられ、そこには水彩で彩色された描きかけの絵が立てかけられていた。
 はっとするような、サディスの絶景が、その窓からの光景が焼き付いてる。
「すごい……」
 シャリーが呟く。
「ああ」
 サディスのうつくしさにはっとさせられるようだった。
 窓からの光景が、ディシュの目を通して、イコウに迫るようだった。
「いない!」
 ミリーの言葉で、イコウは我に返る。
 その燃えるような瞳が見上げる。
「ああ、そうか」


  ■主人の区画にいるんじゃないか?  77  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag077  ディアマンテは、ジョゼフに継がせる気
  ■家族の広間にいるんじゃないか?  78  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag078  ディシュは、絵の具を買いにサディスへ出ている。



74


「海鳥のテラスにいるんじゃないか?」
 ミリーは海鳥のテラスを見上げるが、庭からではその様子はうかがえない。
 海鳥がそのミリーの部屋の前のテラスを舞っているだけだった。
「ほんとにいるのか?」
「あ、いや、ディシュさん、鳥描くの好きそうだし」
「そうか!」
 ミリーは花咲き、緑の茂る庭を駆けだし、両脇にカラフルな花の植木鉢が置かれた広い外階段を駆け上がっていく。まっしぐらに海鳥のテラスを目指す。イコウとシャリーはそれをただ追うしかない。
 がむしゃらに、その怒りに身を任せ、ミリーのちいさなスカート姿が駆けていく。
 ミリーは二階に達するが、その光景を仁王立ちして見つめる。
「いない!」
 緩やかな風に乗った海鳥たちの声が、ミリーと戯れようとする。
 ミリーはそれを振り切って、テラスを駆け回り、その怒りのぶつけどころを探す。
「いない、いない、いない、いない!」
 イコウは、それをただ見つめる。
(今度こそ、たどり着けるのだろうか?)
 イコウは、その感情豊かなミリーの姿を見ていることが、好きになりはじめていることに気付く。
(ディシュさんはほんとうにミリーちゃんを助けようとしていたのだろうか?)
 なぜ?
 それがわからない。
 シャリーが隣で息を切らすのを見て、イコウはその背中を撫でる。
「イコウ! いないぞ!」
「あ、ああ、いないね、ごめん」
 その燃えるような瞳が見上げる。
「ああ、そうか」


  ■応接間にいるんじゃないか?  75  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag075  おれたちの幸せの秘密だ! でジョゼフが勘違い
  ■主人の区画にいるんじゃないか?  77  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag077  ディアマンテは、ジョゼフに継がせる気



75


「応接間は見た方がいいんじゃないか?」
「うん、そうだな」
 ミリーは意を決して、海鳥のテラスを飛び出し、外階段を今度は駆け下りていく。
 きれいな芝生には目もくれず、優美なアーチをくぐり、レンガ敷きのテラスを駆け抜ける。ぱっぱとサンダルを脱ぎ捨て、あたたかな陽差しが差し込むしずかなサンルーフを駆け抜ける。
「お、お嬢さま!」
 廊下でばったりとジョゼフと出くわし、ミリーは真剣な目でその家令を見つめる。
「ジョゼフ、ディシュを見なかったか? あいつが秘密を握っているんだ」
「ディシュさまですか? いえ、しばらく見ていませんが」
 首を傾げながらジョゼフは言う。
「なんの秘密を握っているんですか?」
「ばか、おれたちの幸せの秘密だ! 幸せな家に戻る秘密だ!」
 ジョゼフは勘違いをしたのか、顔を赤くするが、ミリーはジョゼフが知らない事はわかったようで、そのまま置き去りにして、応接間の扉を開く。
 ミリーは仁王立ちしたまま、その光景を見つめる。
 豪奢とは言えないが、心地よい白をベースとしたカラフルな色彩の、ゆったりとした部屋。テラスに開けた大きな窓から入る陽光はレースのカーテンに和らげられ、漂う潮風が、ゆるやかなひかりと相まって、ミュージックを奏でているように見えた。
 イコウとシャリーが追いつく。
「み、ミリーちゃん?」
「いない!」
 その大声に、掃除をしていた使用人がびっくりして振り返り、その雑巾を落としてしまう。
「お、お嬢さま……、掃除中ですので……。どなたをお探しで?」
「ディシュ」
「いえ、見ておりませんが……」
「ならいい」
 ミリーの瞳がイコウを見つめる。


  ■ディシュさんの部屋があるだろう、そこでは?  76  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■主人の区画にいるのでは?  77  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag077  ディアマンテは、ジョゼフに継がせる気



76


「え、ディシュさんの部屋があるだろう? そこにいるんじゃないか?」
「そうか!」
 ミリーは応接間を飛び出し、テラスに出て、庭を横切り、外階段からまっしぐらに三階のディシュの部屋を目指す。イコウは、ミリーのその必死さを見て、なにかを取り戻そうとしているのだと気付く。
(幸せな家? ディシュさんはその秘密を握っている?)
 ほんとうなんだろうか?
 じゃあ、ディシュさんって?
 シャリーの息が上がるのに気付き、イコウはシャリーの手を引く。
 ミリーは三階に達し、その水色の扉を勢いよく開く。
 そして、白壁の所々に花々が飾られた廊下を駆け抜ける。
 ディシュの部屋に鍵は掛かっていなかった。
「み、ミリーちゃん?」
 扉の前で仁王立ちするミリーにイコウは声を掛ける。
 肩越しにディシュの部屋が見える。
 とても慎ましい生活が伺えるような、簡素な部屋にいくつものスケッチブックが立てかけてある。その部屋の窓辺にはイーゼルが立てられ、そこには水彩で彩色された描きかけの絵が立てかけられていた。
 はっとするような、サディスの絶景が、その窓からの光景が焼き付いてる。
「すごい……」
 シャリーが呟く。
「ああ」
 サディスのうつくしさにはっとさせられるようだった。
 窓からの光景が、ディシュの目を通して、イコウに迫るようだった。
「いない!」
 ミリーの言葉で、イコウは我に返る。
 その燃えるような瞳が見上げる。
「ああ、そうか」


  ■主人の区画にいるんじゃないか?  77  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag077  ディアマンテは、ジョゼフに継がせる気
  ■家族の広間にいるんじゃないか?  78  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag078  ディシュは、絵の具を買いにサディスへ出ている。



77


「主人の区画にいるんじゃないか?」
 ミリーはいぶかしげな顔をする。
「なんで、そんなところに?」
「あー、いや、ディアマンテさんも見かけないし、ふたりで話しているんじゃないか?」
 てきとうなイコウの言葉に、しぶしぶながらミリーは頷いた。

 ディアマンテの区画は、ディシュに割り当てられた客間の隣にある。
 しかし、このディアマンテ家の商売に関する重要書類が置いてある区画だけに、その扉は頑丈な鍵によって閉ざされていた。ある意味、この区画こそが、商家のすべてであり、そこを管理するのはいまのところディアマンテだけなのだ。
「開かない」
 ふてくされるミリーに、イコウはあわてて言う。
「ミリーちゃんの願いなら、ディアマンテさんも扉を開いてくれるよ」
 ミリーは頷いて、そのドアをノックする。
 しばらくすると、覗き窓が開き、いぶかしげなディアマンテが顔を出す。
「どうしたんだ、ミリー。いま書類を整理しているところなんだ」
「入れてくれ、親父。仕事をしている親父が見たい」
 その燃えるような瞳に気圧され、ディアマンテはしぶしぶ扉を開く。
「ミリーが見ても、面白いものはなにもない」
 その言葉も聞かずに、ミリーは中に入っていく。
 イコウとシャリーも続こうとすると、ディアマンテはまゆをしかめたが、釘を刺した。
「書類は読まないでくれ。商売の秘密が書いてある。あちこちの商品の価格、積んでいる荷の中身、代理人との通信文、各地の情報。欲しがるやつらはたくさんいる」
「ええ、約束します」
 イコウが入ると、目の前に広い樫のどっしりした机が、その上に整理仕掛けの大量の書類を載せて、在していた。この部屋はこれまで見たどの部屋よりも広く、その光が差し込む窓は厳重な二重窓になっている。
 壁の一面には巨大な北方、そして東岸の地図が張り出されており、そのあちこちにちいさなメモ書きがカラフルなピンで留められている。
 まったく持って実務的な部屋で、その隅には、ディアマンテの書斎机があり、書きかけの書類が乗っている。
「すごいですね。これが商人の仕事場」
「船に乗っているときはありがたみが分からなかったが、いまはここでする仕事が気に入っている」
 ディアマンテが自負するように答える。
 奥には書類庫と、ディアマンテの寝室、そしてちいさなラウンジがあるが、おそらく、これは商人同士で内密の話をするときに使う部屋だろう。
 あちこち見て回ったミリーが、感心して言う。
「この部屋は立派だな。なにが書いてあるかさっぱり分からないが、ここで仕事しているんだな」
「そうだ、ジョゼフはこれを覚えなければ商人はなれない」
 ミリーはそれがそれなりに高い壁であることに気付いたようで、しぶしぶ頷く。
 ふとディアマンテは聞く。
「それで、ミリー、なにをしに来たんだ?」
 ミリーは不機嫌そうに答える。
「ディシュを探している」
「ディシュさん? ああ、彼なら、痛んでいる絵があるからと、修復してくれているはずだが」
 ミリーの顔に真剣さがみなぎる。
「どこで?」
「家族の広間だが」
 ミリーが、ディアマンテに目もくれず、主人の区画を飛び出していく。
 ディアマンテは、不思議そうに首を傾げる。
「ディシュさんが、なにかあったのか?」
 イコウは、苦笑いをするしかなかった。


  ■ミリーを追って、家族の広間へ向かう  78  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag078  ディシュは、絵の具を買いにサディスへ出ている。



78


 ミリーが家族の広間にたどり着くと、そこには広げられた画材道具が並んでいた。
 壁には修復中の風景画。
 港に停泊する商船を描いた絵、ミリーは知らないがそれはディアマンテが大洋を駆けていた頃に所有していた、快速船のいわば肖像画なのだ。
 ミリーはぐっと悔しさを噛みしめて、その広間を歩く。
 すぐ近くにあるミリーの寝室に戻ってもいい。
 そこでいつものように眠ってもいい。
「ちくしょう」
 呟くようにはき出す。
 イコウとシャリーが追いついてくる。
「ミリーちゃん」
 シャリーの呼びかけに、ミリーは怒りをあらわにする。
「なんで、あいつはいないんだ! 探し始めると、いつもこうだ。いったい、どこへ行ったというんだ! ひょっこり現れて、風のように去っていく。なんなんだよ!」
 シャリーは申し訳なさそうにするが、シャリーのせいではないことは明らか。
 イコウは画材道具を見ていて、ふと気付く。
「ミリーちゃん、ディシュさん、サディスへ絵の具を買いに行ったんじゃないかな?」
「なんで分かる!」
 イコウは、その机の上に乗った画材道具とパレットを指す。
「ほら、青がない。青がなければ、海は描けないじゃないか」
 ミリーはそれに気付いたようで、毅然と顎を上げた。
「サディスへ行く」
「ちょ、ちょっとミリーちゃん! その気持ちのままではいけないわ! だって、ミリーちゃん怒っているのよ?」
「じゃあ、どうすればいい!」
 イコウとシャリーは顔を見合わせる。
 シャリーはしぶしぶと言う。
「じゃあ、勇気凛々にしようか?」
「あ、いや、シャリー、それは余計危ないような。何事にも興味津々な方が」
 そうかなぁとシャリーが悩んでいると、ミリーがいらだたしげに言う。
「なんでもいい! そうか、ジョゼフはサディスに良く行く。ジョゼフのようにしてくれ。ジョゼフの気持ちが知りたい」
 ミリーの真剣な言葉に、イコウは悩む。
「あ、うーん、陽気になるってこと?」

 どうする?


  ■勇気を持たせる。  80  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag080  勇気を持たせた
  ■好奇心を持たせる。  79  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag079  好奇心を持たせた
  ■陽気にする。  81  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag081  陽気にした



79


「やっぱり、好奇心いっぱいの方がいいよ。ミリーちゃん、サディスははじめて?」
 ミリーは無言で頷く。
「じゃ、決まり」
「勇気凛々の方が……」
 まだぶつぶつと呟くシャリーは、ミリーの胸の前で右手を握り、人差し指を跳ねさせる。
 イコウとシャリーは、その長い前髪の奥を覗き込む。
 らんらんと輝く瞳が、右に、左に動く。
「きゃ! シャリー、なにしたの? なにこれ?」
 きょろきょろと瞳を動かすミリーはいてもたってもいられないといった風情で、そわそわとする胸の鼓動を押さえきれずにいる。
「これから、サディスへ行くんだ。見たことある? ミリーちゃん?」
「あ、そうか。わたし、はじめてだった。え? なにがあるの? 行ってもいいの?」
 シャリーに引かれてミリーは、おそらく生まれて初めて、その邸宅を出る。
 海まで下る長い坂道に立つと、ミリーは見たことない光景に胸を躍らせる。
「すごい! これ、歩いて行けるの?」
「ああ、どこへ行ってもいいんだ、ミリーちゃんは」
 イコウを振り返って、ミリーは頷く。
 はじめは、一歩一歩だったが、それが歩くようになり、両腕を振ってマーチを歌いだす。あちこちの花やら、邸宅だのを立ち止まって眺め、すごいねと呟く。
「ほんとうに見たことがないんだ……」
 シャリーが胸を苦しそうにする。
 イコウはたまらずに言った。
「よし、ミリー! じゃあ、サディスの中心まで競争だ!」
 きゃあぁと喜んで、ミリーはサディスの長い坂を駆け下りはじめる。
 イコウもそれを追いかけていく。
「ちょっと、イコウ! どうするつもり!」
「追いかけて来いよ、シャリー!」
 振り返って手を振るイコウに、シャリーは叫ぶ。
「イコウのばかぁ!!!」
 とぼとぼと坂道を下り、シャリーは呟く。
「ばか」
 シャリーはイコウがいなくなった途端に襲ってきた心細さに震える。
 両手を握って、しかたなく坂道を早足で下りはじめる。
 それでも、震えは止まらない。
 けっして、見知らぬ街で道さえ分からず、イコウには置いてけぼりにされて、もしかしたら、もうパオペラの仲間と出会えないかもなどとは、絶対に思わない、そうシャリーは不安を吹き払おうとする。
 抵抗のように呟く。
「ほんとにばかなんだから、イコウは……」

 繁華な区域まで来ると、ミリーの目の色が変わる。
 ラッパだの、ヴァイオリンだのが並ぶ商店に駆け込み、その並べられた楽器たちを奏ではじめる。もちろん、ミリーに奏でることがができる楽器は存在しないのだが、その無秩序な音は、イコウを商店の主人の前で平謝りにさせ、ミリーを楽器から隔離しなければならないだけの旋律を奏でた。
「はあ、まったくもう……」
 ためいきをつくイコウをよそに、ミリーはオルゴールに夢中になる。
 月夜を想わせるうつくしい旋律にミリーは聴き惚れる。
「お買い上げですか?」
「い、いえ、持ち合わせが」
 パオペラの会計は当然ながらリオネが管理しており(そして、毎日のように増加しているのだが)、日常の費用分を預かっているのはシャリーなのだ。イコウひとりが不自由しない分は、とてもミリーが夢中になるオルゴールの値段には届かなかった。
 ミリーの手を引き、商店を出る。
 好奇心いっぱいの少女はすぐに好奇の対象を見つけて、かけだしていく。
 続いて入ったのは花屋、その次は魚屋といった風情で、次々と好奇の対象を変えていく。
 もう何件目か分からない商店で、ミリーがつまみ食いしたお菓子の代金を払いながら、ぺこぺこするイコウをシャリーは見つける。
「や、やっと見つけた……。イコウ、たいへんだったんだから」
 顔面が恐怖で引きつっているシャリーを見て、イコウは思わず、吹き出す。
「こ、怖かったんだから!」
「ご、ごめん。シャリー、よく頑張った」
 ぽんぽんと肩を叩く。
 シャリーはほっとしたのもつかの間、すぐに表情が青ざめていく。
「い、イコウ。ミリーちゃんは?」
「え? あ、うわー!!」
 あわてて周囲を探すが、雑踏しか見えない。
 おろおろとするシャリーをなだめる。
「探そう。そんなに遠くへは行っていないはずだ」
 シャリーはきょろきょろする。
「どこを?」

 どうする?


  ■市場を探す  85  【出現条件】:flag000*flag079  【消失条件】:
    
  ■港を探す  92  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag092*flag080
  flag092  港を探した
  ■広場を探す  98  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag098*flag081
  flag098  広場を探した
  ■カフェを探す  102  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag102
  flag102  カフェを探した
  ■故買屋へいく  103  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag103
  flag103  故買屋へ行った



80


「わかった。勇気を持てるようにしようよ。ミリーちゃん、サディスははじめてだろ?」
 ミリーは無言で頷く。
「じゃ、決まり」
「よし、勇気凛々にするね!」
 シャリーの言葉にイコウははらはらするが、ミリーに感情を与えるのはシャリーだ。どちらにしてもシャリーの思い描いている通りにしかならない。
「た、たのむよ……」
 シャリーはミリーの胸の前で右手を握り、人差し指を跳ねさせる。
 イコウとシャリーは、その長い前髪の奥を覗き込む。
 まっすぐな瞳がイコウを見て、それからシャリーを見る。
 すっくと立ち上がり、サディスの遠景が見えるところまで、ミリーは歩いた。
 潮風がミリーを迎え、それに応えるように、ミリーは身体をぶるっと震わせる。
 右手をまっすぐに伸ばし、その街並みを掴もうとする。
「こんなにさ……」
「え? なに? ミリーちゃん、なに?」
 ミリーのまなざしがシャリーを刺す。
「こんなに近かったんだ。わたし、もっと遠くにあると思ってた。サディスを遠ざけていたのは、わたしなんだ。いまはっきりと、それが分かる」
 ちいさな手がシャリーの手を握る。そして、引く。
「いこう、シャリー、サディスへ。わたし、勘違いしていた」
「え? うん」
 ミリーはシャリーと駆けていく。
「お、おい、ミリーちゃん!」
「イコウ、おいてくぞ!」
 イコウはきょとんとするが、それからあきらめたように、ためいきをつく。
「どうも馴れないんだよな、これ……」

 坂道をミリーは駆けていく。
 左右に広がる邸宅に視線を向けながら、息を切らす。
 はっ、はっとはき出す呼気に、額を流れる汗、簡素なスカートが場違いに思えてくるほどに躍動する自分の身体も、ミリーには新鮮だった。
「まって! ミリーちゃん!」
 同じようにシャリーが坂道を下ってくる。
 ミリーは立ち止まって、膝に両手をついた。
「シャリー、おそい!」
 息を切らし、シャリーがミリーの足元に倒れ込むと、ミリーははればれと笑う。
「私より遅いなんて、どうかしてる、シャリー」
「そ、そうね……」
「わたし、知らなかったなぁ、こんなの」
 腰に手を当て、ミリーは上空を見上げる。その輝く瞳がゆっくり旋回するのに気付いて、シャリーも上をみると、サディスのシンボルである風車が回っている。
「こんなに近くで見たのははじめてだよ、シャリー」
「うん」
 ミリーの嬉しさをたたえた瞳がシャリーを見つめる。
「なんか疲れちゃった」
「急に走り出すから」
「そうみたい」
 二人は歩き出す。
 やがて坂道は繁華な区域にさしかかり、ひとごみが包み込みはじめる。
 シャリーはわくわくとした心を隠そうとしないミリーを見ながら、きっとイコウに妹がいたらこんなだろうなと、ぼんやりと思う。
(そっかぁ、わたし、イコウみたいな感情をミリーちゃんにあげたんだ……)
 はっとして横目でミリーを見るが、まっすぐと見つめるミリーの力強い視線は、たしかに似ている。
「シャリー、どうしたの? そうだ、なにか食べようよ、ほら、屋台」
 見ると、フルーツを売り出す露天がある。
 ミリーはお金を持っていないだろうと気付いて、シャリーはその列に並ぶ。
「はい、お嬢ちゃん、2グロアね」
 代金を渡して、人込みを離れると、ミリーは消えていた。
 シャリーの顔色が青ざめていく。
「み、ミリーちゃん! ミリーちゃん! どこ!」
 必死に叫ぶが、返事が返ってくる様子がない。
「どうしたんだ、シャリー」
 すたっと、イコウが上空から降りてくる。
「イコウ!」
「やっとみつけたよ、シャリー。ミリーちゃんは?」
 不思議そうにするイコウにシャリーはしがみつく。
「探して、イコウ! 目を話した隙にどこかへ行ってしまったの!」
 イコウはあきれる。
「探すって、いったいどこを?」
 シャリーは凍り付くが、サディスのひとごみがその困難さを悟らせる。
「どっか! どこかよ! サディスのどこか!」

 どうする?


  ■市場を探す  82  【出現条件】:  【消失条件】:flag082*flag079
  flag082  市場を探した
  ■港を探す  93  【出現条件】:flag000*flag080  【消失条件】:
    
  ■広場を探す  98  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag098*flag081
  flag098  広場を探した
  ■カフェを探す  102  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag102
  flag102  カフェを探した
  ■故買屋へ行く  103  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag103
  flag103  故買屋へ行った



81


「わかった。ミリーちゃんがそう言うなら、陽気に。ミリーちゃん、はじめてだよね、サディスは?」
 ミリーは無言で頷く。
「じゃ、決まり」
「勇気凛々の方が……」
 まだぶつぶつと呟くシャリーは、ミリーの胸の前で右手を握り、人差し指を跳ねさせる。
 イコウとシャリーは、その長い前髪の奥を覗き込む。
 きょとんとした瞳が、イコウを見つめる。
「も、もしかして、失敗……?」
「ぶはははははは、イコウ、おかしーぃ、あははははは」
 ミリーはぽかんとするイコウをよそに、腹を抱えてげらげらと笑う。
「な、」
「だって、イコウったらさ、はははは、そんなさ、うはははははは、あー、おかしい、涙が出る、くくくく、だってさ、イコウが、はははは」
 まったく会話にならない。
「なんだよ、ミリーちゃん、なにがおかしいんだ?」
「ひひひ、ふふふ、ははは、イコウったらさ、」
 しばらく笑うが、ようやっとおさまったようで、腹を押さえて、ひぃひぃと言う。
「そんなまじめな顔でさ、くく、ミリーを見てさ、それで、失敗? だって、くくく、なんでそんな深刻な顔してさ、失敗? だよ? くくく、ぶははははは」
 イコウはあっけにとられるが、とりあえず面白かったらしい。
「これってさ、なんか違わないか?」
「え? だって、イコウ、陽気だって言ったし」
 むくれて弁解するシャリーもちょっと勝手が違った事だけは分かっているよう。
「ミリーちゃん、歩ける? ほら、サディスへ行くよ?」
「くくく、あんなまじめな顔して、うははは、失敗とか、くくく」
 なにかミリーにしか分からない笑いのツボにはまったようなのだが、ここで笑っていてもしかたないので、ミリーの手を引いて邸宅を出る。
 三人で坂道を歩いて下る頃になると、ミリーの笑いもだいぶおさまり、ふんふんと鼻歌交じりの陽気な女の子にもどる。こうなると、確かにジョゼフのようにも見えてきて、イコウはほっと息をつく。
「一時はどうなるかと思ったよ」
「わたし、ちゃんとやった」
 サディスへ行ってどうするかを決めている訳ではないことを、思い出す。
「ミリーちゃん、サディスへ行ったらどうしようか?」
「お散歩しよ、お天気いいし」
 ミリーはにこにことした笑顔を向けた。
(お散歩、ねえ……)
 イコウは途方にくれた。

 繁華な区域までやって来て、人込みに包まれる。
 サディスの人並みは、のどやかな夕涼みのようで、ゆったりと笑みをたたえながら流れていく。東岸の空気というのはとても不思議で、まるでだれもが海の子とでもいったような親近感に満ちている気がしてしまうのだ。
 ミリーはその中に自然と溶け込むようで、イコウとシャリーだけが浮き上がっているような気がしてくる。
「イコウ、あれおっかしいね。へんな看板」
「ん、そうだね」
 ミリーは街中のあちこちに指をさし、その愉快さを教えてくれる。
「ははは、このお店、大人気だ。なに売ってるのかなあ」
 窓から覗き込もうとするミリーの首根っこを押さえ、イコウは首を横に振る。
 ミリーはまたすぐさま別のおかしいものを見つけ、それをおかしむ。
 イコウはむくれたままのシャリーを見る。
「なあ、なんかへんだよ」
「そー、かなぁ」
 シャリーは視線をそらす。
「だって、ジョゼフくんってあんなんじゃないし」
「でも、わたし、陽気にしたよ?」
 うーんとイコウは悩むが、もともとシャリーは経験はないが、すこぶる優秀な共感者という評価だけは間違いがないのだ。イコウはミリーを改めてミリーを見るが、ミリーはちょうど、魚をくわえた野良猫を見つけたところだった。
「く、ははは、うははははは、くくく、うははは、ははは、はっはっはっは!」
 突然のように笑いの発作が起こる。
「み、ミリー、ちゃん?」
「うはは、野良猫が、くくくく、ははは、魚、魚、はは、さかな、くっく」
 通りを歩くだれもが、ミリーを振り返る。
「また、はじまったか」
 イコウは頭をかくが、この笑いがおさまるのを待つ以外ないことはイコウには分かった。じっとシャリーを見る。
「これ、なんとかならないのか?」
「だって、陽気なんでしょ? しかたないじゃない」
「ははははははははははは、ははは、イコウ、さかなだよ、うはははは」
「でも、おかしいじゃないか。異常だよ!」
「わたしはちゃんとやってる」
「ひひひ、うう、はははは、猫が、くっくっく」
「これがちゃんと?」
 シャリーは哀しい顔をする。
「イコウのばか!」
 背を向けて走り出すシャリーをイコウは追う。その手首を掴み、ごめんと言った。
 シャリーのつらそうな顔を見て、イコウは気付く。
「なんなんだろうね? なにか、ミリーちゃんの本来の性格と関係があるのかもしれない」
 シャリーはその言葉にはっとして、神妙に頷く。
「そうかも」
 イコウは振り返るが、そこにミリーがいないことに気付く。
「いない!」
 人込みに視線をめぐらすが、ミリーの姿は見あたらなかった。
「どうしよう!」
「ど、どうしようって、探すしか!」
 シャリーは躊躇した。
「どこを?」

 どうする?


  ■市場を探す  82  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag082*flag079
  flag082  市場を探した
  ■港を探す  92  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag092*flag080
  flag092  港を探した
  ■広場を探す  99  【出現条件】:flag000*flag081  【消失条件】:
    
  ■カフェを探す  102  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag102
  flag102  カフェを探した
  ■故買屋へ行く  103  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag103
  flag103  故買屋へ行った



82


 イコウとシャリーはサディスのバザールへと向かう。
 東岸諸国の盟主シャビ風の、通りに天蓋を張り出したちいさな商店が建ち並び、店主と客が価格交渉をする声が響く。
「高いな。昨日は2グロア半だったじゃないか」
「最近、悪天候でね。漁船が出ないんだよ」
 そわそわとするシャリーをイコウは見とがめる。
「みたことない野菜」
「そりゃ、」
(そっか、そう言えばトラン以外の市場へ来たのって、はじめてか、おれたち)
 突然に、自分は異国に来ているのだという実感が湧いてくる。
 知らない野菜、知らない魚、知らない香辛料、知らない果物。
 もともとイコウはしないが、いったいどう料理するのだろうと、首を傾げるものまである。どんな味がするのだろう? それは旨いのだろうか?
 魚が跳ねるのを見て、イコウは思わず聞いた。
「おばちゃん、この魚、どうやって食うんだ? このちっこいのだ」
 怪訝そうな顔をするが、にーっと笑う。
「なんだい、あんちゃん、東岸ははじめてかい?」
「トランの浮遊船乗りさ」
「じゃあ、知らないねぇ。この小魚は掻き揚げにすると絶品でね、魚醤で味付けて、そうだね好みのスパイスをひとつまみ、仕上げは柑橘のさっぱりしたやつを掛けてやるんだ。旨いよ」
 話を聞いているだけで、イコウはよだれが出てくる。
 もともと漁民だったトラン人の食卓はシーフードが並ぶことが多く、数多くのトラン人の類に違わず、イコウはシーフードさえ食わせておけば文句を言わない少年なのである。
「スパイスはなにを使うんですか?」
「可愛らしい子だねえ。なんだい、彼女かなんかかい?」
 おばちゃんはにやにやして言う。
「あ、いや、船で料理を作るのはシャリーなんだ」
「へぇ、ちいさいのに関心だねぇ」
 おばちゃんは、シャリーに細かく作り方を教え、どこでなにを買えばいいかを説明する。
「ありがとう、おばちゃん。じゃあ、4人分」
「ああ、15グロアだよ」
 イコウとシャリーは顔を見合わせる。
(高い、思いっ切り高い、ぜったいぼられてる…)
(やっぱり、レシピ代もとるって事なのかなぁ)
 おばちゃんは見越したようににやにやして言う。
「東岸では大人気の小魚だからねえ」
 イコウの腹が大きくなった。

「相場なんて分からないからなあ…。これじゃあぼったくられ放題だ」
「イコウ、あれ、レシピ代も入っていたんだと思う」
 むじゃきに答えるシャリーにイコウはためいきをつくが、シャリーは魚商のおばちゃんに言われたとおりに材料を揃えていく。聞くと、夜食を作ると言う。サディスは朝早く目覚め、夕闇早々に夕食となり、就寝も早い。それに合わせることが出来ないのが旅人というものなのだ。
 材料がそろうと、シャリーは買いもの袋を抱えて、嬉しそうにする。
「厨房、貸してくれるかな?」
「貸してくれるんじゃないか?」
 気のないイコウにシャリーはむくれる。
 街並みはバザールを離れ、立派な門構えの商店が建ち並びはじめるメインストリートへとさしかかる。気付くと、レンガ敷きの通りを歩く人たちの姿も、和気藹々としたものからよそ行きへと変わっている。
 イコウはシャリーが抱える買い物袋が、なんとなく場違いな気がして、居心地が悪くなる。足早に通り過ぎようとすると、声が掛かった。
「イコウさんじゃないですか? どうしたんですか?」
 振り返るとジョゼフが立っていた。
「ジョゼフさん、お魚買ったの。今夜、夜食作るの」
「ああ、厨房ですね。話しておきますね」
 シャリーはにっこりと笑う。イコウの困ったような表情を見てジョゼフは察する。
「お嬢さまはご一緒じゃないのですか?」
「ああ、ちょっと見失ってしまって……」
 ジョゼフは困ったような顔をする。
「私はこれから用事が立て込んでいまして、手伝うことが出来ないのですが、そうですね、その荷物はお預かりしましょう。お嬢さまをお願いできますか?」
 イコウは頷く。
 ふとイコウは思った。


  ■ミリーちゃんの行きそうなところに心当たりはないか?  83  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフはなんの用事で来たんだ?  84  【出現条件】:flag000*flag078  【消失条件】:
    



83


「ミリーちゃんの行きそうなところに心当たりはないかな?」
 ジョゼフは面食らって、語気を荒くする。
「お嬢さまはサディスに出たことなどありません! その行き先なんて……」
 弱ってためいきをつくが、必死になって考える。
「バザールと、港と、広場ですか。他には思い当たりません」
「じゃあ、そうするよ」
 イコウが言うと、ジョゼフはほっと息をはく。
「頼みますよ、お嬢さま、サディスに出たことがないのですから」
「あ、おれたちもはじめてなんだけどね」
 イコウのいたずらっぽい笑いに、ジョゼフはがっくりと肩を落とすが、それでもひきつった笑みを浮かべ、視線だけはまじめに向ける。
「なぜ、あなたを信頼してしまうのか分からないです。でも、預けましたから。必ず返してください。約束してください」
 イコウは神妙に頷きながら、思う。
(こういうとき、どう約束したらいいのだろう?)
 ふと、跳ね飛ぶリオネの姿が脳裏に浮かぶ。
 イコウは、右拳で胸をたたいた。
「このイコウが約束した!」

 どうする?


  ■港を探す  92  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag092*flag080
  flag092  港を探した
  ■港を探す  93  【出現条件】:flag000*flag080  【消失条件】:
    
  ■広場を探す  98  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag098*flag081
  flag098  広場を探した
  ■広場を探す  99  【出現条件】:flag000*flag081  【消失条件】:
    
  ■カフェを探す  102  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag102
  flag102  カフェを探した
  ■故買屋へ行く  103  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag103
  flag103  故買屋へ行った



84


「ジョゼフくんはなんの用事でサディスに来たんだ?」
 ジョゼフは紙袋をいっぱいになった両腕で指す。
「ディシュさんの使いでして、なんでも油彩につかう油がないとかで、それで画材屋に買いに来たのです」
「画材か。画材屋さんがあるんだね?」
「ええ、そこの店です」
 気安く答えるジョゼフに感謝の言葉を告げ、イコウはシャリーを連れて画材屋へと向かう。そのドアをくぐると、ディシュが店主と気安く話している姿に出くわした。
「あれ、イコウさん、奇遇ですね?」
「そこで、ジョゼフくんに」
 ディシュは、ああ、なるほどと頷く。
「青の絵の具がなくなってしまって。あとで気付いたんです。ジョゼフくんには申し訳ないことを」
 イコウは逡巡する。
「ミリーちゃんが探しているんだ、ディシュさんを」
「わたしを? なぜ?」
 怪訝そうなディシュに言う。
「ミリーちゃんは、ディシュさんが、幸せな家に戻る秘密を持っているって思っているんだよ。ディシュさん、ミリーちゃんに言ったんだろ? この絵を描くことであなたを助けてあげることが出来ればいいのだけどって」
 ディシュの表情が目に見えて青ざめていく。
 まるで、手にした海の絵の具のように。
 ディシュは二三歩歩き、イコウの肩に手を置く。
「それは子供らしい想像だけど、わたしは画家なんです。それぐらい言います」

 どうする?


  ■例え子供でもミリーちゃんの気持ちを大事にしてあげろよ。  90  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag090  「わたしには、その資格がないのです。その資格があったのに、なにもかもわたしは捨て去ってしまったのですから」
  ■今、ミリーちゃんには、たぶん、あなたが必要なんだ。  91  【出現条件】:  【消失条件】:
    



85


 ミリーはサディスのバザールにやって来て、駆けだす。
 色彩鮮やかなフルーツや、物珍しい土産物、きれいな布地、水槽を泳ぐ魚たち。
 そのどれもがミリーにははじめてみるものだらけで、ミリーは駆けながら左右の商店に好奇の視線を向ける。
 鮮魚屋の前に急停止、そこに並んだ水槽の魚やら、貝やら、海老やらを丸い目を輝かせて見つめる。
「お嬢ちゃん、ひとりかい? お母さんは?」
 ミリーは、魚屋のおじさんを見上げて、嬉しそうな笑顔を向ける。
「これ、見てていい?」
「あ、ああ、見るだけなら、タダだよ、お嬢ちゃん」
 ミリーはすぐさま、ハサミをちょきちょきとする海老にちょっかいを出し、威嚇するように両のハサミを持ち上げる海老に瞳を輝かせる。
「挨拶してる!」
「怒っているんだよ、お嬢ちゃん。あんまりいじめないでくれよ、売り物なんだから」
「怒っているんだ。こんなにちっこいのに」
「ちっぽけだから、余計怖がるんですよ、お嬢ちゃん。だから怒るんです」
「そっか!」
 魚屋のおじさんはそれで和んでしまったのが敗因だった。
 ミリーは、思いっ切り筋金入りの、いたずら少女になっているのである。
「この貝、目があるよ、ほらここ」
「ああ、そこは」
 説明をしようとして、それに意味がないことに気付く。
「こんにちわ。あなたはどこから来たの? わたしが見える? あなた、お名前は?」
 もちろんのこと、貝は返事をしない。
 しかし、ミリーは今度は、水槽の魚に棒でちょっかいを出し始める。
「こら、フィリップ。走りが遅いぞ。もうちょっと実力を見せてみろ。びゅーんって泳いで見せろ」
「か、勝手に名前つけないでください! あ、売り物なので」
「かわいい! ちょうど、ワッペンが欲しかったとこなの!」
 ミリーは、小さいヒトデを胸に飾って、意気揚々とする。
 そして、次の犠牲者を捜しに店を離れてしまう。

 イコウとシャリーがサディスのバザールに着いて、ミリーを見つけるのは難しい事ではなかった。
「あちゃー」
「ミリーちゃんすごい……、イコウ、どうしよう?」
 なんたって、大量の被害を受けた商店の店主を従えているのだから。
「わあぁ。この石、赤いよ。赤い……」
 ミリーはむじゃきに手にしたイヤリングを太陽にかざして、透かしてみる。
「お、お、お、お。……お客さま。そのイヤリングは石榴石でして、とても高級、……とまでは行かないのですが……、まあまあ高い品でして……」
 若い宝石商の女は、戦々恐々としてミリーをなだめる。
「ミリーのうちにも赤い石あるよ。こんなにたくさんないけど」
 宝石商はそれでミリーがたいそうな商家の娘であると悟る。
 見れば、身なりも商家の娘、しかも世の中をあまりにも知らなすぎる。
 きっと、そのうちこの子の親が出てきて弁償してくれる、そう思ってしまった時点で敗北であることは、ミリーを逃すまいと多数の商店主を引き連れている事で明らかなのだ。
「それよりも、お客さま、こちらの紫色の石の方がお安く、……、いえ、たいへん大きなものがそろっておりまして……」
「ミリー、赤が好き!」
 そんな笑顔を向けられると、追っ払う意気も消沈してしまう。
 しかし、とミリーの行状を見て、宝石商はたじろいでしまうのだ。
 首には色鮮やかなシルクの、おそらくショールだと思うのだが、それをスカーフ然と首に巻き付け、それを斜めにかけられた真鍮の懐中時計がネックレス替わり、履いているのは男物のブーツでキザっぽい、被る帽子はつば広の豪奢なブーケの付いた真っ白な帽子、そして胸に付いているのは、ヒトデ?
 めちゃくちゃなのだが、そんな下品な感じはしない。
 いや、ヒトデはいくら何でも……。
「ミリー、これつけたい! ねえ、どうしたらいいの?」
「え? ええ。それでしたら」
 宝石商はわくわくするミリーの両耳にイヤリングをつけ、鏡の前に立たせる。
「お似合いですよ」
 にっこりと笑うと、ミリーも微笑み返して、そのまま、わーっと店を飛び出す。
「お、お客さま! 代金! お代をお支払いください!!!」
 イコウは、店主たちの囲みを割って、ミリーの前に立つ。
「ミリーちゃん……」
「イコウ! ほら、いいでしょう? ミリー、きれい?」
「あー、いや……」
 イコウは背後から突き刺さる視線を背にひやあせを流した。
「このお嬢さんのお知り合いですね! 実は、お支払いがまだでして!」
「うちは、金無垢のブローチだぞ! 200グロアは下らない品で!」
「わたしのところは、珍しい南海のフルーツを1ダースはお平らげになりまして!」
 振り返ると、頭に血が上った20はくだらない店主たちの請求の声。
 イコウはたじろいだ。

 どうする?


  ■請求書はディアマンテさんの家へまわしてください!  86  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag086  ジョゼフは、家を継ぐつもり
  ■支払いは待ってください。あとで必ず払いますから!  87  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag087  ジョゼフは、家を継ぐつもり



86


「せ、請求書はディアマンテさんの家へまわしてください!」
 イコウが叫ぶと、声がやむ。
 店主たちはお互いに顔を見合わせ、首をひねる。
「ディアマンテさんといえば、天気予報をやっているところじゃないか」
「ああ、ミリーの天気予報と言えば、東岸中から名だたる商人たちがやってくる……」
 あぜんとして、ナイスで奇抜なファッションの少女を見る。
 イコウは、ほっと息をついて、肩をなで下ろす。
 ミリーはにこにこと笑うが、店主たちは懐疑の視線を向ける。
「ですが、ミリーちゃんはお病気で、一歩もお部屋から出ないとか」
「たいへん不憫な娘さんなんですよね……」
「それが、なんでこんなところにいるんだ! おかしいじゃないか!」
「よりによって、ミリーちゃんの名をかたって誤魔化すなんて!」
「そうだ! 即金で払ってもらうまで離さないぞ!」
 あわててなだめようとするが、完全に逆効果。
「こ、これは、ミリーちゃんを元気にする療法の一環で!」
「誤魔化すな! さっさと払え、このペテン師め!」
 激怒する店主たちに、ミリーは不思議そうに首を傾げる。
 ミリーが弁解をしようとすると、ふいに声が掛かる。
「おや、ミリーちゃんじゃないか。なんでバザールを出歩いているのだね?」
 見ると、立派な口ひげをたたえた、裕福な商人が立っていた。
 ミリーの顔に笑顔が戻る。
「あ、クオンさん、タリファから戻ったの? お天気当たった?」
「ええ、ミリーの天気予報は外れたことがありませんよ。おかげで商売も順調です」
 クオンと呼ばれた商人は、ミリーの姿を見て微笑む。
「すてきな衣装ですね? ミリーちゃんが選んだんですか?」
「そう! ミリー、かっこいい? かっこいいでしょ?」
「ええ、とても。ディアマンテくんもそうだが、奥さんはとてもセンスのある方でしたからね。きっとミリーちゃんもそれを受け継いでいるのでしょう」
 ミリーは恥ずかしそうに笑う。
 商人は居並ぶ店主たちを眺めてははぁと笑う。
「支払いはこのクオンが致しましょう。なんたって我らがミリーのため。おのおのの商品を教えてください。それと値段も。ちょっとぐらい色はつけますが、ごまかしは効きませんよ」
 それを聞いて店主たちはしぶしぶそれに従った。

「お、お嬢さま! なにをなされているんですかあ!」
 息をつくのもつかの間、イコウは耳慣れた声を聞き、顔を上げる。
 ミリーが駆け寄る先は、もちろんジョゼフだった。
「ジョゼフ、どうしたの? なんのよう? あ、どう、きれい?」
「どうって言われましても……」
 少年であっても家令らしい身だしなみのジョゼフは、とても令嬢とは言えないぶっ飛んだミリーの着こなしを眺めて、言葉に困る。
「かっこいいって、言ってくれないの?」
「か、かっこ、イイと思います、お嬢さま……」
 むくれるミリーをよそに、商店主たちをさばく商人がジョゼフに気付く。
「おや、きみは、たしか、ディアマンテさんのところで家令を務めている……」
「ジョゼフだよ。わたし、ジョゼフと結婚するんだぁ」
 騒がしいバザールの喧噪までが、野次馬や商店主たちも含めて、静まった気がした。
 ぽかんとあいた口々に、ジョゼフが耳たぶまで真っ赤になっていく。
「ミリーちゃん、ジョゼフくんは家令で……」
「そう、でもお父さんに教わって商人になって、家を継いで、ミリーと結婚するの!」
 クオンはうむむとうなる。
「なるほど。ディアマンテくんにはそんな考えがあったとは」
「ち、違います! まだ決まったことはなにもないんです! こんな話が広まったら!」
 とりみだすジョゼフに、ミリーはきょとんとする。
「ジョゼフは、ミリーと結婚してくれないの?」
「い、いえ。しかし私は孤児で旦那様に拾って頂いただけで、そんな恐れ多い!」
「ジョゼフは、商人になってミリーと結婚してくれないの?」
「い、いえ。しかし、そんなに簡単に商人になれるならだれも苦労は!」
「ジョゼフは、」
 なおも、食い下がるミリーに、ジョゼフはイコウに聞く。
「い、いったい、どうなっているんですか。お嬢さまは!」
「あー、えーと、なんと言ったらいいか…」
 イコウは口ごもる。
「いま、ミリーちゃんはジョゼフくんの気持ちが知りたくてしかたないんだ」
「そ、そんな…。こんな公衆の面前で…。なんとかならないのですか!」
「え、えーと」

 どうする?


  ■別のことに興味を持ってもらうとか  88  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■やっぱり本心を話すしか  89  【出現条件】:  【消失条件】:
    



87


「し、支払いは待ってください! あとで必ず払いますから!」
 イコウが叫ぶと、声がやむ。
「イコウ!」
「リオネが預かっている分がとんでもない額になっているはずだ、払えるよ」
 シャリーがしがみつくのに、イコウは耳打ちをする。頷く。
 商店主たちはそれでも疑いの目をイコウたちに向け、ひそひそとなにか話し始める。
「しかし、きみが払えるって保障はどこにあるんだ?」
「払うと言って、引き倒されるのだけはごめんなんだけどねえ」
「きみ、きみ、そんなに若い君たちに払える額ではないんだよ?」
 詰め寄る商店主たちをなだめながら、イコウはたじろぐ。
「は、払えます。なんと言ってもパオペラには有名な商人が乗っていて」
「商人? 名前を言ってみろ」
 イコウは焦りできょろきょろとする。
(リオネのやつ、嫌がるだろうなあ……。敵地だって言ってたもんなぁ)
「言えないのか? 言えないんだろう?」
 イコウは正直に言う。
「〈トパーズの眼〉って呼ばれているらしい、んだけど……」
 一瞬の静まりは、大きな笑い声に変わる。
「と、トパーズの眼だってさ! 馬鹿も休み休み言えよ! 他に商人を知らなくて、適当に言ったんだろう!」
「シド商人が、しかも〈トパーズの眼〉が、あんなに目立つやつが来るわけないじゃないか! ここはサディス、シャビじゃないんだぞ、あー、おかしい」
 イコウは、ムキになって口を開こうとしたところに、ふいに声が掛かる。
「おや、ミリーちゃんじゃないか。なんでバザールを出歩いているのだね?」
 見ると、立派な口ひげをたたえた、裕福な商人が立っていた。
 ミリーの顔に笑顔が戻る。
「あ、クオンさん、タリファから戻ったの? お天気当たった?」
「ええ、ミリーの天気予報は外れたことがありませんよ。おかげで商売も順調です」
 クオンと呼ばれた商人は、ミリーの姿を見て微笑む。
「すてきな衣装ですね? ミリーちゃんが選んだんですか?」
「そう! ミリー、かっこいい? かっこいいでしょ?」
「ええ、とても。ディアマンテくんもそうだが、奥さんはとてもセンスのある方でしたからね。きっとミリーちゃんもそれを受け継いでいるのでしょう」
 ミリーは恥ずかしそうに笑う。
 商人は居並ぶ店主たちを眺めてははぁと笑う。
「支払いはこのクオンが致しましょう。なんたって我らがミリーのため。おのおのの商品を教えてください。それと値段も。ちょっとぐらい色はつけますが、ごまかしは効きませんよ」
 それを聞いて店主たちはしぶしぶそれに従った。

「お、お嬢さま! なにをなされているんですかあ!」
 息をつくのもつかの間、イコウは耳慣れた声を聞き、顔を上げる。
 ミリーが駆け寄る先は、もちろんジョゼフだった。
「ジョゼフ、どうしたの? なんのよう? あ、どう、きれい?」
「どうって言われましても……」
 少年であっても家令らしい身だしなみのジョゼフは、とても令嬢とは言えないぶっ飛んだミリーの着こなしを眺めて、言葉に困る。
「かっこいいって、言ってくれないの?」
「か、かっこ、イイと思います、お嬢さま……」
 むくれるミリーをよそに、商店主たちをさばく商人がジョゼフに気付く。
「おや、きみは、たしか、ディアマンテさんのところで家令を務めている……」
「ジョゼフだよ。わたし、ジョゼフと結婚するんだぁ」
 騒がしいバザールの喧噪までが、野次馬や商店主たちも含めて、静まった気がした。
 ぽかんとあいた口々に、ジョゼフが耳たぶまで真っ赤になっていく。
「ミリーちゃん、ジョゼフくんは家令で……」
「そう、でもお父さんに教わって商人になって、家を継いで、ミリーと結婚するの!」
 クオンはうむむとうなる。
「なるほど。ディアマンテくんにはそんな考えがあったとは」
「ち、違います! まだ決まったことはなにもないんです! こんな話が広まったら!」
 とりみだすジョゼフに、ミリーはきょとんとする。
「ジョゼフは、ミリーと結婚してくれないの?」
「い、いえ。しかし私は孤児で旦那様に拾って頂いただけで、そんな恐れ多い!」
「ジョゼフは、商人になってミリーと結婚してくれないの?」
「い、いえ。しかし、そんなに簡単に商人になれるならだれも苦労は!」
「ジョゼフは、」
 なおも、食い下がるミリーに、ジョゼフはイコウに聞く。
「い、いったい、どうなっているんですか。お嬢さまは!」
「あー、えーと、なんと言ったらいいか…」
 イコウは口ごもる。
「いま、ミリーちゃんはジョゼフくんの気持ちが知りたくてしかたないんだ」
「そ、そんな…。こんな公衆の面前で…。なんとかならないのですか!」
「え、えーと」

 どうする?


  ■別のことに興味を持ってもらうとか  88  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■やっぱり本心を話すしか  89  【出現条件】:  【消失条件】:
    



88


「別のことに好奇心を持ってもらうとかさ……、それぐらいしか……」
 ジョゼフはイコウの言葉を聞いて、ミリーに対峙する。
「ジョゼフは、」
「お嬢さま。そんなことよりも、お花屋に行きましょう。ぜひともお嬢さまにお見せしたいお花があるのです」
 真顔で言うジョゼフの言葉に、周囲は凍り付く。
(花か…。ジョゼフくんって、ミリーちゃんに花を贈っていたんだ、さりげなく)
 ぽかんとするイコウを、シャリーは不機嫌そうに見上げる。
「すてきじゃない?」
「いや、うん、わるくない……」
(ロマンチックすぎるけど……)
 ミリーは、まぶたをしばたいてジョゼフを見る。
「そろそろ、ユリの季節です。きれいなユリの花が、いえ、お嬢さま、お店いっぱいのお花を見に行きませんか? 馴染みの店があるのです」
 ミリーは逡巡するが、きっぱりとジョゼフにそのまなざしを向ける。
「ジョセフは、ミリーを好きなの?」
 少年家令は、その無邪気な迫力に息を呑む。
「ええ、好きですよ。お嬢さまのことは好きです」
「それは、愛しているってことなの?」
 どこからそんなませた言葉が出てくるのかと、ジョゼフは焦る。
「もちろん、家族のように」
「それはもちろん、お嫁さんってこと?」
 ジョゼフは凍り付く。
 その凍り付いた姿をバザール中が固唾を飲んで見つめている。
 ジョゼフの両拳が握りしめられ、それがわなわなと震えはじめる。
「ねえ、ジョゼフ? ミリー、ジョゼフのお嫁さんになるの」
 ジョゼフは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「そんなの約束できるわけないじゃないですか! 私は孤児、旦那様に拾われてご厚意に遇しているだけなんです! お嬢さまに釣り合うためには、最低でも商人にならないといけないんです! お嬢さまは東岸諸国中の希望なんです! 私みたいな未熟者が、どうやったら旦那様みたいな立派な商人になれるか! それが出来るなんて、ぜったいに言えないんです!」
 静寂に包まれるバザールで、イコウはジョゼフの背をたたく。
「ジョゼフは、きっとたどり着くよ。大丈夫だよ、ミリーちゃん?」
 ミリーはにこりと笑う。
 ジョゼフの鋭い視線がイコウに向かう。
「これを続けるのですか?」
「いや、ごめん……」
 イコウはばつが悪くなる。
 シャリーと視線を合わせる。
「なんかさ、元気なのはいいんだけど、元気ありすぎな気がするのだけど?」
 シャリーは申し訳なさそうにするが、そもそも、これはミリーがサディスに出るのははじめてという事で、選んだ感情であるのではあるのだ。
「じゃあ、どうするの? イコウ?」
 イコウは、うーんと考える。
「なんだろう、もうちょっと、女の子らしくというか、勇ましすぎるだろ?」
 シャリーは考える。

 どうする?


  ■女の子らしくしてみたらどうだ?  104  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag104  女の子らしくしてみた
  ■お嬢さまらしくしてみたらどうだ?  105  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag105  お嬢さまらしくしてみた



89


「やっぱり本心を話すしか」
 ジョゼフはイコウの言葉を聞いて、ミリーに対峙する。
「ジョゼフは、」
「お嬢さま。私は、お嬢さまとご一緒になれたらどんなにいいかと、そう思います。しかし、そのように簡単ではありません。お嬢さまご令嬢であり、私は一介の家令です。少なくとも、私がお嬢さまに見合う存在にならねば……」
 ミリーは、その表情を硬化させる。
「ジョゼフは、ミリーと結婚したくないの?」
「い、いえ、そんなことは。お嬢さまのような方なら、引く手あまたでしょう」
「ミリーは、ジョゼフがいいの」
 ジョゼフは凍り付く。
 その凍り付いた姿をバザール中が固唾を飲んで見つめている。
 ジョゼフの両拳が握りしめられ、それがわなわなと震えはじめる。
「ねえ、ジョゼフ? ミリー、ジョゼフのお嫁さんになるの」
 ジョゼフは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「そんなの約束できるわけないじゃないですか! 私は孤児、旦那様に拾われてご厚意に遇しているだけなんです! お嬢さまに釣り合うためには、最低でも商人にならないといけないんです! お嬢さまは東岸諸国中の希望なんです! 私みたいな未熟者が、どうやったら旦那様みたいな立派な商人になれるか! それが出来るなんて、ぜったいに言えないんです!」
 静寂に包まれるバザールで、イコウはジョゼフの背をたたく。
「ジョゼフは、きっとたどり着くよ。大丈夫だよ、ミリーちゃん?」
 ミリーはにこりと笑う。
 ジョゼフの鋭い視線がイコウに向かう。
「これを続けるのですか?」
「いや、ごめん……」
 イコウはばつが悪くなる。
 シャリーと視線を合わせる。
「なんかさ、元気なのはいいんだけど、元気ありすぎな気がするのだけど?」
 シャリーは申し訳なさそうにするが、そもそも、これはミリーがサディスに出るのははじめてという事で、選んだ感情であるのではあるのだ。
「じゃあ、どうするの? イコウ?」
 イコウは、うーんと考える。
「なんだろう、もうちょっと、女の子らしくというか、勇ましすぎるだろ?」
 シャリーは考える。

 どうする?


  ■女の子らしくしてみたらどうだ?  104  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag104  女の子らしくしてみた
  ■お嬢さまらしくしてみたらどうだ?  105  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag105  お嬢さまらしくしてみた



90


 立ち去ろうとするディシュの手首をイコウは掴む。
 驚きに染まるディシュの瞳をイコウは睨む。
「例え子供でもミリーちゃんの気持ちを大事にしてあげろよ」
 ディシュの真剣な瞳がイコウを見つめ返す。
 それはひどく哀しげで、涼しげだった。
 いや、とイコウは思う。
 これを見たことがあると、思い出す。
(ディアマンテさんと同じだ)
 あえていえば深い絶望の色。
 ディシュはぽんとイコウの肩を叩く。
「わたしには、その資格がないのです。その資格があったのに、なにもかもわたしは捨て去ってしまったのですから」
 え? と戸惑う隙に、ディシュは手首をふりほどき、軽く片手を上げて挨拶する。
「邸宅で待っています。ミリーと話しましょう。だから連れ戻してください」
「あ、ああ」
 ぽかんとするイコウはシャリーと顔を合わすが、シャリーが思い出したように言う。
「ミリーちゃん、探さなくちゃね」
「ああ」

 どうする?


  ■港を探す  92  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag092*flag080
  flag092  港を探した
  ■港を探す  93  【出現条件】:flag000*flag080  【消失条件】:
    
  ■広場を探す  98  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag098*flag081
  flag098  広場を探した
  ■広場を探す  99  【出現条件】:flag000*flag081  【消失条件】:
    
  ■カフェを探す  102  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag102
  flag102  カフェを探した
  ■故買屋へ行く  103  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag103
  flag103  故買屋へ行った



91


 立ち去ろうとするディシュの手首をイコウは掴む。
 驚きに染まるディシュの瞳をイコウは睨む。
「今、ミリーちゃんには、たぶん、あなたが必要なんだ」
 戸惑う。
「なぜ?」
「分かるわけないだろう! ミリーちゃんがあなたを探している、あなたがあの家の秘密を持っていると思っている、あなたが助けてくれると思っている、それで充分じゃないか!」
 ディシュは考えにふけり、それから言う。
「わかりました」
 え? と戸惑う隙に、ディシュは手首をふりほどき、軽く片手を上げて挨拶する。
「邸宅で待っています。ミリーと話しましょう。だから連れ戻してください」
「あ、ああ」
 ぽかんとするイコウはシャリーと顔を合わすが、シャリーが思い出したように言う。
「ミリーちゃん、探さなくちゃね」
「ああ」

 どうする?


  ■港を探す。  92  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag092*flag080
  flag092  港を探した
  ■港を探す。  93  【出現条件】:flag000*flag080  【消失条件】:
    
  ■広場を探す  98  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag098*flag081
  flag098  広場を探した
  ■広場を探す  99  【出現条件】:flag000*flag081  【消失条件】:
    
  ■カフェを探す  102  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag102
  flag102  カフェを探した
  ■故買屋へいく  103  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag103
  flag103  故買屋へ行った



92


 市街から、大きなアーチに囲まれたホールを抜けると、海風が吹いた。
 ちょうど商船の接岸があったのか、岸壁は荷分けする水夫たちで混雑していた。
 イコウとシャリーは、力自慢の男たちの間を掻き分け、桟橋に係留された東岸諸国の商船を見上げる。
「これで、海を越えるの?」
 イコウはシャリーの声も聞かずに、木製の桟橋を歩く。
 広い桟橋には、船倉から積荷を下ろす水夫たちがせわしなく行き来をしており、樽やら、木箱やら、布袋やらが運ばれていく。
「なあ、どこから来たんだ?」
 水夫の一人が、荷を下ろしふうと汗を拭く。
「シャビだよ。なんだ、商人の小姓か? 香辛料が届くって聞いて来たのか?」
「いや、ただ聞いてみたかっただけなんだ、邪魔だったかな?」
 水夫はにっかりと笑う。
「なんだ、兄ちゃん、商船に乗りたいのか? 海はきついぞ? 女とも会えないしな」
「そうじゃなくて、」
 イコウは本来の用事を思い出して、ミリーを見なかったか訪ねる。
「ちいさな女の子? さあ、今日着いたばかりだからなあ。おい、おまえら、ちいさな女の子見たか? こんぐらいの子だ」
 甲板の水夫たちは、首を傾げたり、横に振ったりする。
「港に女の子は来ないぜ」
 シャリーを見かけて、水夫たちはひゅーひゅーと口笛を吹く。
「イコウ」
「んー、この辺にはいないみたいだけど」
 イコウが周囲に視線を向けると、いかつい男たちに混じって、少年がなにやら水夫と話をしているのを見かける。おやと思うまでもなく、ロットだった。
「行こう、シャリー、ロットだ」
 その手を引いた。

「へぇ、シャビに船団が着いたんですか? どこのギルドです?」
「さあな、たんまり香辛料を積んでたから、おそらくエルゴスだろう。ありゃ、第三船団だな。たんまり儲けたな、あいつらさ」
「なるほど、エルゴスのサードなら、商売が辛いかもしれません」
「あいつら、在庫がなくなる頃を見計らってやってくるからな」
 水夫は、がははと笑う。
 ロットは困ったように笑った。
「ロット!」
「イコウ、どうしたんだ? シャリーまで」
 ロットは驚いて振り返るが、おおよその事情を察して、顎に手を当ててなにかを考える。
「じつはさ」
「見失ったんだろう? ミリーさんを? でも、港では姿を見ていない」
「そうか」
 がっくりするイコウに笑顔を向けて、港の奥の建物を指す。
「商館かもしれないな。商人の子だったら、荷を眺めるよりも、商談の方が馴れている。まだ、商館の方は行ってないんだ」
 見ると市街と港を隔てる城壁に埋まるように、青い屋根の大きな建物が建っている。
 ロットは水夫に軽く挨拶をして、イコウたちを連れ立って商館へ向かう。
 シャリーが聞く。
「ねえ、ロットって」
「なに?」
 聞きにくいことを聞くかのように、シャリーは言い出しにくそうに聞く。
「ロットって、いつもどこかへ行っちゃうけど、こんなことしてたの?」
 ロットは、きょとんとするが、おかしそうにくくっと笑う。
「別にヘンな事じゃないよ。情報収集。世界は刻一刻と変わっているからね。別に隠しているわけじゃないよ、シャリー。ただ、あちこち聞いて回るから、みんなでいくと疲れちゃうし?」
「うん、そうね」
 シャリーははにかんだ。
 商館は、さながら商人たちのサロンのようで、サディス中の商人とその小姓たちの交わす会話で熱気に満ちていた。
 ロットは馴れた様子で、さもどこぞかの商人の使いのように振る舞い、商館の使用人たちに聞いて回る。しかし、その結果はあきらかでどの使用人たちも首を横に振る。しばらくするとロットも結論が出たようで、イコウに告げる。
「来てないようだね」
「そうか」
 ロットはふっと笑い、背を向けて片手を上げる。
「もうちょっとここで話を聞いていくから」
 イコウは遠ざかるロットの背中を見ながら、うーんと悩む。
「いったいどこへ行ったんだろう?」
「ねえ、イコウ、どこを探す?」

 どうする?


  ■市場を探す  82  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag082*flag079
  flag082  市場を探した
  ■市場を探す  85  【出現条件】:flag000*flag079  【消失条件】:
    
  ■広場を探す  98  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag098*flag081
  flag098  広場を探した
  ■広場を探す  99  【出現条件】:flag000*flag081  【消失条件】:
    
  ■カフェを探す。  102  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag102
  flag102  カフェを探した
  ■故買屋へいく  103  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag103
  flag103  故買屋へ行った



93


 市街から、港へ入るには、港を隔ている街壁を越える。
 サディスの港湾の入り口は、積荷を仕分けるホール状になった門で、大きないくつものアーチが上品にその高い天井を支えている。
 ミリーは仕分けに忙しい水夫たちの間を、颯爽と歩き抜ける。
 両の拳を握り、構えるほどでもないのだが、それでもミリーは海が湧いた。
 城壁を越えると海風がミリーを迎える。
 その歓迎に、ひそやかだったミリーの想いは溢れる。
 海を越えたい。
 波間の向こうになにがあるのか、見てみたい。
 この海に乗り出したい。
 それにはどうしたらいいのか。
 幼いミリーにはそれがさっぱりと分からず、ただただ、商船の接岸に湧く港を一直線に歩いて行く。
 桟橋を渡り、接岸したばかりの商船の真ん前に立ち、それを見上げる。
 シャビからの航海より帰還した船体をつぶさに眺め、港のゆるやかな波にゆれる木造船の曲線のうつくしさに見とれる。
「お嬢ちゃん、お父さんでも待ってるのかい?」
 振り返ると、水夫が心配そうにミリーを見下ろしている。
「ううん、違う。船を見に来た」
 そうかと頷く水夫を横目に、ミリーはタラップから商船へと歩いて行く。
「お、おい、お嬢ちゃん! そっちは危ないから!」
「大丈夫、私、船乗りの子だから」
 ミリーは振り返って、ウインクする。
「そのお嬢さんを止めてくれ、誰か! 船に乗ろうとしている!」
 水夫の声にだれもが振り向くが、ミリーはタラップを渡りきり、甲板へと飛び降りる。
「すごいね、これシャビから来たんだ」
 近寄ってくる水夫たちから逃げるように、ミリーは甲板を走り、その太いマストに触れ、頬を寄せる。
「風でぎしぎしいっている。すごいね、お前。嵐の風もお前が受けるの?」
 マストはなにも応えないが、たたまれた帆が海風にぐらぐらと揺れる。
 ふふ、とミリーは微笑んで、楽しそうに甲板をスキップする。
「お嬢さん、船は危ないから」
 そういう水夫ににっこりと笑いかけ、操舵はどこ? と聞く。その笑顔に気圧されるように、水夫はあぜんと指さすと、ミリーは操舵輪へと駆け寄る。
「これかぁ。これで船を動かすんだ!」
 びゅーんと言ってミリーはそれをまわしてみると、子供の力ではそれは回らず、力を込めてまわそうともがいているところを、水夫に囲まれる。
「お嬢ちゃん、困らせないでくださいよ。これでも荷下ろしで忙しいんですから」
 ミリーはむっとして水夫たちをにらみつける。
「おい、荷下ろしはどうした? 日が暮れるぞ」
 ふいに船倉から上がってきた、この船の船長らしき商人が顔を出し、水夫たちの様子がおかしいのを咎める。
「子供でさー、船長。子供が乗りこんでいるですよ」
「子供?」
 船長は水夫を掻き分け、ミリーに話しかけようとする。
「お嬢さん、この船は……」
 船長の表情が凍っていくのを水夫たちはいぶかしげに見た。
「み、ミリー、ミリーちゃんじゃないか! なんでこんなところにいるんだ!」
「別に、ミリーがどこへいてもいいだろう? 船に乗ってもさ」
 船長は驚いて甲板に尻餅をつく。
「ミリーだ! ミリーの天気予報だ! ミリーがこの船に乗っている!」
 船長の言葉は絶大だった。その噂は水夫たちの間にあっと言う間に広がり、サディスの港がミリーの話題で沸騰していく。水夫たちは、自分たちの乗りこむ船の幸運の女神をひとめでも見ようと、積荷も放り出して桟橋へと駆け寄る。
「おれにも見せろ!」
「ミリーを見たものは、航海で幸運に恵まれるんだ!」
「あらしから守ってくれ、ミリーちゃん!」
 港は騒然とする。
 ミリーはあまりの騒ぎに一瞬戸惑うが、どうも自分が呼ばれていると気付き、甲板から顔を出し、大きく手を振った。
「みんなー! 天気予報、当たってる?」
 うぉーとずぶとい声が響き、やがてコールが始まり、ミリーを歓呼する声で染まっていく。その狭間に、ふと思いついた隣の商船の船長が、叫ぶ。
「ミリー! こっちの船にも来てください! ミリーが触った船はどんなあらしでもけっして沈まないんです!」
 ミリーはきょとんとするが、幼いミリーには、あらしにあっても沈まないという船員たちへの暗示がどれほど大切か、という事が分からない。それでも、ミリーはタラップを降り、歓呼の声の間を歩いて行く。
 サディスの港がこれほどの熱狂に包まれたのは、もちろんはじめてだった。

 サディスの港にイコウとシャリーが着いて、ミリーをいとも簡単に見つけることができたのは、言うまでもない。
「あちゃー」
「そりゃぁ、ミリーの天気予報だものね……」
 港中がミリーを歓呼する大合唱に包まれていたのだから。
「どうしよう、イコウ?」
 イコウは迷わず、叫ぶ。
「ミリーちゃん! 探したんだぞ!」
 ミリーがイコウに気付いて、視線を左右にきょろきょろとする。
「イコウ、私、帰らないからな! 私はこの船に乗って、シャビへ行くんだ!」
 騒然としていた港が静まりかえる。
 え? それはどういう事だと、だれもが顔を見合わせる。
「ミリーちゃん、そうしたら天気予報はだれがするんだよ!」
「私は、この船に乗って海を越えたいの! シャビへ行くまで帰らないし、天気予報もしないから!」
 そう言って、桟橋を駆けて、タラップを走り、別の船の甲板に走り込む。
「つかまえなくちゃ。ほんとうにシャビまで行くつもりだ」
「う、うん、イコウならぜったいにそう言って聞かないものね……」
 シャリーは愕然とするが、イコウは高飛びの石を握り、身を沈めた。

 どこへ飛ぶ?


  ■ミリーの乗った船のタラップへ降りる  94  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ミリーの乗った船の甲板に降りる  95  【出現条件】:  【消失条件】:
    



94


 イコウが飛ぶと、港中が騒然とする。
 高さ10メートルものところを少年が飛んでいる姿を見れば、トランの高飛びを見たことがなければ、だれだって驚くのは当然だ。
 イコウは空中で姿勢を制御しながら、横目でミリーを追う。
 ミリーは、寝室で見たイコウの高飛びを思い出し、そのイコウのジャンプが身体を軽くするだけで、ゆっくりとふわふわと降りてくるだけにすぎないのを思い出し、タラップへ駆け寄ろうとするが、それもあきらめて、甲板を右往左往する。
 ミリーは、帆げたからたれるロープに気付いて、それの確かさを確かめて意を決する。
 幸いにも隣の船はすぐ近くだ。
「ミリーちゃん、やめるんだ!」
 ミリーはロープを握って、甲板を横切り長さを確かめる。
 イコウがタラップにすとんと降りるのとミリーが駆け出すのは同時だった。
「いっけー!」
 水夫たちが見守る中、ミリーは甲板を元気よく走りながら、ロープを身体に巻き付け、その甲板の端から、飛んだ。
 ミリーの身体が宙に浮くのをだれもがぼうぜんと見上げる。
 そのちいさな身体は、ロープにつられ、ミリーがそれを離すと、隣の商船の甲板に転げ落ちた。
 いててと呟いて、ミリーは膝を立てる。
「ミリーちゃん……」
「どうだ、飛べるのはイコウだけじゃないんだ!」
 Vサインをイコウに向けて、いししと笑う。
「たく、勇気凛々なんかにするから。ほんとにシャビまで行っちゃいそうじゃないか」
 イコウは苦虫を噛みしめて、高飛びの石を握る。

 どうする?


  ■ミリーの乗った船の甲板に降りる  95  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■空中で高飛びの石の力を切って、自由落下する。  96  【出現条件】:  【消失条件】:
    



95


 イコウは甲板を目指して飛ぶ。
 港中が、その姿に騒然とするとが、高飛びである以上、トラン人を知らない人たちに驚かれるのはイコウは馴れていた。
 ミリーが甲板の上で駆け回るのをイコウは目で追うが、いかんせん、高飛びのジャンプは高くは飛べても、速くは飛べない。ミリーはそれを見越して、イコウがミリーのいる甲板に降りてくるのを推測し、だっとタラップを走り、桟橋を走った。
「くそ、すばしこい」
 イコウは、すとんと甲板に降りるが、ミリーはすでに隣の船へ、まったくのもぬけの殻になっていた。
「へへ、イコウ、このミリーは、いくらイコウでも、つかまえられないよ!」
 腰に手を当てて、得意げに胸をはる。
 このままではらちがあかない事は明らかだった。
 イコウは苦々しい思いで、ミリーを見るが、ミリーはイコウの高飛びの弱点を見抜いているだけにやっかいだった。
(こうなったら、ミリーちゃんが見たことのない手を使うか)
 イコウは意を決して、高飛びの石を握る。

 どうする?


  ■隣の船のマストを使って方向転換する。  97  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■空中で高飛びの石の力を切って、自由落下する。  96  【出現条件】:  【消失条件】:
    



96


(これ、危険なんだけどなあ…)
 イコウは逡巡するが、ミリーをつかまえないことには事態は収拾しない。
 角度を慎重に読み、ミリーの行動を予測して、口もとを引き締める。
 イコウは飛ぶ。
 ミリーは、イコウのジャンプの軌跡が甲板を目指しているものだと目算し、またタラップを駆け下りようとする。イコウは、自分の身体が、そのタラップの真上を通過するところで、高飛びの石の力を切る。
 ずどん。
 イコウの身体は数メートルの高さから自由落下し、タラップの上に飛び降りる。
 目の前には、驚愕するミリー。
「いてて、くそ……」
「ず、ずるいぞ! そんなことが出来るなんて、教えてくれなかった」
 イコウはミリーの右手首を握る。
「教えていたら、シャビまで追いかけなければならなかったかもな。でも捕まえた」
 笑いかけると、ミリーはむすっとする。
「さあ、おとなしく……」
「いやだぁ! 私はシャビまで行くんだ! この海を越えるんだ! ぜったいに行くんだ!」
 だだをこねるミリーにイコウは困り果てるが、ふと思いつく。
「一人で行く気かい? そうなったら、家族はどうするんだい? ミリーちゃんはひとりでシャビへ行きたいのかい?」
「でも、こんなに海が好きなのに! いまなら行けるのに!」
 イコウは寂しく笑って、ミリーの頭をぽんぽんと叩く。
 シャリーがやってくると、ミリーは嫌そうに、イコウの背後に隠れる。
「まったく、小さい頃のおれみたいだ。親父を良く困らせた」
 シャリーは赤面するが、ミリーの頬を撫でて言う。
「ミリーちゃん、取り戻せるよ。すぐに思い出せると思う。だからね、いまは」
 ミリーはしぶしぶと頷く。
 シャリーは微笑んだ。
「ちょっと待てよ! おれたちの船には、まだミリーが触れていない!」
 ふいに、かわいらしい捕り物劇をあぜんと見ていた水夫たちから声が上がる。
「そうだ、そうだ! ミリーを独り占めにするな!」
 それはサディスの港中に広がり、大きな声の渦になっていく。
 ミリーは手を振るが、イコウはためいきをつく。
「じゃあ、それが済んでからで」

 水夫たちとの握手やら、船での歓待だのがとりあえず一通り終わると、イコウはぐったりしていた。
「なんかさ、元気なのはいいんだけど、元気ありすぎじゃないか?」
 シャリーは申し訳なさそうにするが、そもそも、これはミリーがサディスに出るのははじめてという事で、選んだ感情であるのではあるのだ。
「じゃあ、どうするの? イコウ?」
 イコウは、うーんと考える。
「なんだろう、もうちょっと、女の子らしくというか、勇ましすぎるだろ?」
 シャリーは考える。

 どうする?


  ■女の子らしくしてみたらどうだ?  104  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag104  女の子らしくしてみた
  ■お嬢さまらしくしてみたらどうだ?  105  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag105  お嬢さまらしくしてみた



97


(これ、危険なんだけどなあ…)
 イコウは逡巡するが、ミリーをつかまえないことには事態は収拾しない。
 角度を慎重に読み、ミリーの行動を予測して、口もとを引き締める。
 イコウは飛ぶ。
 ミリーは、イコウのジャンプの軌跡が甲板を目指しているものだと目算し、またタラップを駆け下りようとする。イコウはマストまで飛び、マストに達すると、それを力一杯蹴って反転する。
 タラップを駆け下り、桟橋を走るミリーに背後から飛びついた。
 二人はそのまま水夫たちの壁にぶつかって止まる。
「いてて、くそ……」
 それでも胸の中のミリーを確認してほっと息をつく。
 ミリーのするどい視線がイコウを刺す。
「ず、ずるいぞ! そんなことが出来るなんて、教えてくれなかった」
 イコウはミリーを立たせてあげながら、しっかりとその手首を握る。
 ぼうぜんとする水夫たちにイコウは軽く謝り、ミリーに正対する。
「教えていたら、シャビまで追いかけなければならなかったかもな。でも捕まえた」
 笑いかけると、ミリーはむすっとする。
「さあ、おとなしく……」
「いやだぁ! 私はシャビまで行くんだ! この海を越えるんだ! ぜったいに行くんだ!」
 だだをこねるミリーにイコウは困り果てるが、ふと思いつく。
「一人で行く気かい? そうなったら、家族はどうするんだい? ミリーちゃんはひとりでシャビへ行きたいのかい?」
「でも、こんなに海が好きなのに! いまなら行けるのに!」
 イコウは寂しく笑って、ミリーの頭をぽんぽんと叩く。
 シャリーがやってくると、ミリーは嫌そうに、イコウの背後に隠れる。
「まったく、小さい頃のおれみたいだ。親父を良く困らせた」
 シャリーは赤面するが、ミリーの頬を撫でて言う。
「ミリーちゃん、取り戻せるよ。すぐに思い出せると思う。だからね、いまは」
 ミリーはしぶしぶと頷く。
 シャリーは微笑んだ。
「ちょっと待てよ! おれたちの船には、まだミリーが触れていない!」
 ふいに、かわいらしい捕り物劇をあぜんと見ていた水夫たちから声が上がる。
「そうだ、そうだ! ミリーを独り占めにするな!」
 それはサディスの港中に広がり、大きな声の渦になっていく。
 ミリーは手を振るが、イコウはためいきをつく。
「じゃあ、それが済んでからで」

 水夫たちとの握手やら、船での歓待だのがとりあえず一通り終わると、イコウはぐったりしていた。
「なんかさ、元気なのはいいんだけど、元気ありすぎじゃないか?」
 シャリーは申し訳なさそうにするが、そもそも、これはミリーがサディスに出るのははじめてという事で、選んだ感情であるのではあるのだ。
「じゃあ、どうするの? イコウ?」
 イコウは、うーんと考える。
「なんだろう、もうちょっと、女の子らしくというか、勇ましすぎるだろ?」
 シャリーは考える。

 どうする?


  ■女の子らしくしてみたらどうだ?  104  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag104  女の子らしくしてみた
  ■お嬢さまらしくしてみたらどうだ?  105  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag105  お嬢さまらしくしてみた



98


 歓声が聞こえたと思ったとたんに、街並みが開ける。
 ひろびろとしたというよりは、いかつい石造りの建物の中に現れたぽっかりとした空間で、大きな建物の階段やら、木製の臨時ベンチやらに腰掛けて涼をとる姿が目に入る。
 中央にはささやかな噴水が、子供たちの水遊びの場となっており、きゃっきゃとした嬌声の発生源は明らかにそこだった。
 シャリーの表情がぱあぁと明るくなり、すぐにでも、その輪に加わって遊びたそうにする。
「ねえ、イコウ、たのしそうだね」
 うずうずとする心を抑えられないとでも言いたげに、シャリーは心を弾ませるが、イコウの関心がそこにないことは、もちろん明らかだ。
 広場の一隅にはフルーツを売る露天が出てて、それをみてシャリーはイコウを見る。
「ねえ、イコウ? 喉渇かない? フルーツ食べようよ」
 シャリーはイコウの返事も聞かずに、駆けていき、露天に並びながら戯れる子供たちの列に加わる。イコウは、木製のベンチの間を歩き、ミリーの姿を探した。
「いないなあ、どこへ行ったのだろう?」
 噴水の前では、カラフルな衣装を着たピエロたちが、ヴァイオリンやら、ギターやら、アコーディオンやらをかき鳴らし、背の小さいピエロが、ひょいひょいと軽業を披露するのをはやし立てている。
 いくつものボールを投げ上げながら、宙返りをし、ボールを巧みにキャッチし、また投げ上げる。連続的なバク転が決まり、すべてのボールがその着地点で、ピエロの手におさまると、歓声と拍手が湧いた。
 パントマイムで観衆に感謝を示すピエロたちに、イコウもさやかな拍手を送った。
「はい、イコウ。これ、イコウの分」
 シャリーが冷えたメロンを棒に差したものを差し出す。
「ありがとう。ミリーは、」
「わたし、ひどい目に遭っちゃったよ。もう、あの子たちったら、他の人も並んでいるっていうのに」
 ぶつぶつとつぶやき、メロンをしゃぶるシャリーをみて、イコウはおかしくなってくる。
「なに? なにか、おかしい? イコウ」
 シャリーはきょとんとする。
「いや、なんか危機感ないよな、おれたち」
「そう?」
「きっと、リオネの脳天気がうつったんだ」
 シャリーは意味が分からなそうにするが、メロンを食べ終え、舌で口もとを拭う。
「イコウ、早く食べないとつめたくなくなっちゃうよ?」

 広場の周囲は商人たちの派出所が建ち並んでいて、外向きの格好をした商人たちが商談をしている。
 めでたく商談が成立して肩をたたき合う陽気な商人たち、喧々がくがくの値段交渉をする商人たち、その脇でかりかりと書き物をする小姓たち、それらの間をイコウとシャリーは歩く。
 その中に見慣れた顔を見つけて、イコウは立ち止まった。
「しかし、ディアマンテさん、ここのところの悪天候続きは知っているでしょう? システィアからの船がまだ帰らないのですよ。その積荷をさばけば、そのお金は必ず」
 ディアマンテは厳しい表情で、重々しく口を開く。
「商人たるもの、お金の約束は絶対だ。それで信頼は揺らぐ。待ってもいいが、あなたとは二度と取引が出来なくなる、証文は裁判に掛ける、それでもいいか?」
「しかし、まさか船が着かないとは」
 青ざめる商人にディアマンテは厳しい視線を向ける。
「船は着くか着かないかは分からないが、返済期限は確実に来ることが分かっていたのでは? それに備えないのは、誠意がなかったと思われてもしかたない。返せなくなるかもしれなかったでは、困る。それでは、わたしも同じように他の商人に、まさか返済がされなくなるとは思わなかったと言わなければならない」
「はい……」
「そうなれば、その商人も別の商人に同じ事を言うことになる。商売が止まってしまう。それは誰の得にもならない。わかるな? お金の約束は厳格に守る。それが出来なければ、商人をやめた方がいい」
 意気消沈する商人に、ディアマンテは考えを巡らす。
「では、半額の返済をいまここで。残りは積荷の権利を私に譲り、あなたがそれをさばく。そのお金の私の取り分を回収したら、残りはあなたにお返しする、では?」
 不承不承頷く。
「では、証文を」
 青ざめた顔をして商人は、建物へ入っていく。
(けっこう、ディアマンテさんって厳しいけど、しっかりしているんだな)
 イコウは、まったくリオネ任せにしているのだが、商人の世界の厳しさの一端を見たような気がした。
「ディアマンテさん」
 ディアマンテはイコウの呼びかけに、視線を向ける。
「立ち聞きは良くないな。ミリーはどうした?」
「あー、いえ、いま、共感者の力で元気にしている最中で、その、元気が良すぎて」
 しどろもどろになるイコウにディアマンテはため息をつく。
「この件はジョゼフに任せてある。私が口を挟むことではないが、父としてミリーに何かがあったら」
「わ、分かっている! 当然だよ。ちゃんと無事に、連れて帰りますから!」
「当たり前だ!」
 ディアマンテは戻ってきた商人との商談に戻る。
「イコウ……」
 怯えるシャリーに、イコウは苦笑する。
「だから、危機感ないんだよ、おれたち」

 どうする?


  ■市場を探す。  82  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag082*flag079
  flag082  市場を探した
  ■市場を探す。  85  【出現条件】:flag000*flag079  【消失条件】:
    
  ■港を探す。  92  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag092*flag080
  flag092  港を探した
  ■港を探す。  93  【出現条件】:flag000*flag080  【消失条件】:
    
  ■カフェを探す  102  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag102
  flag102  カフェを探した
  ■故買屋へ行く  103  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag103
  flag103  故買屋へ行った



99


 黒猫を追いかけていたミリーは、ふと目の前が開けたのに気付く。
「ははは、チョビったら、あんなところで、のんびりしてるや、あははは」
 のどやかに広場を行き交う人々の間を駆け抜け、どうやらチョビと名付けたらしい魚をくわえた黒猫を追いかける。
 黒猫は、もうミリーには馴れたようで、ふんと気取って魚を石段に置き、後ろ足で毛繕いをする。それから、魚のにおいを嗅ぎ、おもむろにそれにしゃぶりつく。
「チョビ、おいしい?」
 まじまじと間近で見つめるミリーに、むしゃむしゃとやっていたチョビは顔を上げ、にゃんと鳴く。それで、ミリーの腹の中におかしさがこみ上げてくる。
「あははは、にゃんだって、くくく、チョビ、おいしいんだ、あははは、そんなに身繕いして、ふふふ、気取って、ははは、くくくく、あー、おかしい」
 笑い転げるミリーにあきれたのか、チョビは魚を平らげると、ひょこひょこと広場を横切っていってしまう。
「あ、チョビ」
 ミリーが振り返ると、そこにはカラフルな色彩をまとったピエロたちが跳ね飛んでいた。

 大道芸人たちは広場の中央にある噴水の前に観衆を集め、ヴァイオリンやら、ギターやら、アコーディオンやらをかき鳴らし、背の小さいピエロが、ひょいひょいと軽業を披露するのをはやし立てる。
 いくつものボールを投げ上げながら、宙返りをし、ボールを巧みにキャッチし、また投げ上げる。連続的なバク転が決まり、すべてのボールがその着地点で、ピエロの手におさまると、歓声と拍手が湧いた。
 ミリーはそのはじめてみる、不思議な格好の芸人たちの方へふらふらと歩き、気付くとその観衆の最前列に立っていた。
 ピエロたちは、観衆の拍手にパントマイムで感謝の意を示す。
「ねえ? あなたたちお話しできないの?」
 ミリーの声に気付いたピエロはミリーの前まで歩いてきて、大袈裟なパントマイムで、しゃべれなくて困っているんだよ、と身振り手振りで説明して、最後によよよと泣き出す。
 それがどうもミリーには面白かったようなのだ。
「あはははは、くくく、おじちゃん、しゃべれないんだ、あははは、それで、そんなに身振りで、くくくく、泣かないでよ、あはははは、おかしー! くくく」
 ピエロは調子に乗ったのか、嬉しかったのか、何回もバク転して見せ、バラの花を一輪取り出して見せ、それをミリーに差し出す。
「あー、ミリーにくれるの? ふふふふ、嬉しいんだ、おじさん、くくく」
 ピエロは、おじさん恋に落ちちゃったよ、とふざける。
「あはははは、もらうよ、もらってあげる、くくくく、あははは、ミリー、人気あるのかな、くくく」
 それを聞いた、商談中の商人がミリーに気付いて、ふと噴水の方を振り返る。
 サディスの広場の周囲は、商人たちの派出所が取り囲むように立ち並び、そこでは商談が行われている。外向きの格好をした商人たちが、商談成立を喜んで肩をたたき合ったり、値段交渉で喧々がくがくになっていたりする。
「ミリーじゃないか。ミリーの天気予報のお嬢さんが、なぜ、広場に?」
 その声がフォーマルな商人たちに与えた影響は絶大だった。
「ほんとうだ、ミリーだ。本物だ」
「ミリー? ミリーちゃん?」
 ひとりの商人が駆けだし、ミリーのところへ行き、信じられないという表情で、きょとんとするミリーを見つめる。
「ミリーちゃん、身体は大丈夫なのですか」
 商人は真剣な表情をするが、思わず取り乱したせいか、残念なことになっていた。
「くくく、あはははは、うわぁははははは、おっかしいー! そんなまじめな顔で!」
「な、なんです? ミリーちゃん?」
 腹を抱えるミリーは苦しがって応えられないが、仲間の商人が気の毒そうに囁く。
「か、カツラが、その、カツラがずれておりまして」
 商人ははっとして、そのずれてしまっていたカツラを直すが、後の祭りであることは誰の目にも明らかだった。
「くくく、はははは、かつら、かつら、くくく、ハゲ、ハゲ、知らなかった、あはははは、まぶしい、うわぁははははは!」
 商人は赤面するが、しかし意を決して、そのカツラを脱ぎ去る。
 燦然と太陽に輝く頭皮が、広場中の人々にひかりを投げかける。
「うははははは、そっちの方が似合ってるよ、ははははは」
「やっぱりそう思いますか? ミリーちゃん?」
「うははははは、ははははは」
 ミリーは笑い転げる。
「む、無理しなくても」
「いや、ミリーちゃんが笑ってくれたんだ。きっとミリーの幸運がこの頭には宿る」
 おお、そうかと、スーパーポジティブな見解に誰もが頷き、商人たちは我こぞってとミリーに自分の恥をさらけ出す。
「実は、ミリーちゃん、私、ほんとうは背が低いんです、ブーツでかさ上げしていて」
「うははははは、ちびが無理しちゃって、くくく、でかくないと水夫に、うははははは、ばかにされると思ってるんだ、くくくくく、おっかしー」
「ミリーちゃん、わたし、実は名家の出身の振りをしているのですが、実は」
「うはははは、生まれなんて気にしているんだ、ははは、くくく、ばっかでー、うわぁははははは、ちゃんと商売できてるのは嘘の生まれのせいだと思っているんだ、くくく」
「実はわたしの、この懐中時計は著名な大商人のものだったということになっているのですが、」
「くくくくく、偽物を本物だと言ってるんだ、くくくく、うわぁはははは、はははは、おっかしいー、時計なんて単なる時計なのに、ははははは」
 その青年商人は、笑い転げるミリーの言葉に、顔を真っ赤にする。
「でも、この時計はミリーちゃんが笑ってくれた、幸運の時計です」

 イコウとシャリーがミリーを見つけるのに、さしたる苦労を必要としなかったのは言うまでもない。
「あちゃー」
「そりゃぁ、ミリーの天気予報だものね……」
 参列する商人たちに囲まれ、そのご利益があるとされるミリーの笑いを提供していたのだから。イコウとシャリーは人波を掻き分け、ミリーの側まで行く。
「あ、イコウ!」
「ミリーちゃん、帰ろう。たいへんな事になっているよ」
 イコウの言葉を聞きつけた商人たちは、一斉に抗議する。
「ミリーの笑いを取り上げるな! なんてひどいやつだ!」
「あー、いや、これはミリーちゃんが元気になるための一環でして」
 しどろもどろになるイコウに、商人たちが詰め寄った。

 どうする?


  ■これ以上、ミリーちゃんに笑わせると、疲れ切ってしまいます!  100  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■これは共感者の力で生み出しているもので、ご利益なんて……。  101  【出現条件】:  【消失条件】:
    



100


「これ以上、ミリーちゃんを笑わせると、疲れ切ってしまいます!」
 イコウの言葉に、商人たちは、ぐっと言葉を飲むが、ミリーはおかしそうに腹を抱えて笑う。
「ははははは、イコウったら、わたしこと、くくくく、心配して、ふふふふ、こんなにみんな喜んでいるのに、ははははは」
「ミリーちゃん……」
 商人たちは、自分たちの身勝手に気付き、うつむいて恥じる。
「はははは、みんなも心配して、くくく、そんな、はははは」
 ふと、イコウはミリーの瞳に笑い涙が浮かぶのに気付く。
 戸惑っていると、イコウはふと脇にディアマンテが立ていることに気付く。
 ディアマンテは、ミリーの前に仁王立ちになった。
「ミリー、これでは商売にならない。大切な商談の最中なんだ」
 ミリーはディアマンテをみて、きょとんとするが、また腹を抱えはじめる。
「うはははは、ひひひひ、こいつ、船に乗れないだ、くくくく、それで商人を名乗って、うわぁはははは、いまだにお母さんが死んだことを哀しんで、ははははは、泣いても帰ってこない事ぐらい分かっているのに、くくくく」
 ディアマンテの顔が激怒で真っ赤になる。
「ミリー、言っていいことと、悪いことがある!」
 それでもミリーが笑うのをやめないのに、困惑するが、ディアマンテはイコウたちにするどい視線を向ける。
「なんとかしろ!」
「ディアマンテさん、待ってください! まだご利益をわたしはえていないのです!」
 そうだそうだと飛ぶ声に、ディアマンテはぐっと我慢する。
「勝手にしろ!」

 商人たちのミリー詣でが一巡すると、イコウはぐったりしていた。
「なんかさ、元気なのはいいんだけど、元気ありすぎじゃないか?」
 シャリーは申し訳なさそうにするが、そもそも、これはミリーがサディスに出るのははじめてという事で、選んだ感情であるのではあるのだ。
「じゃあ、どうするの? イコウ?」
 イコウは、うーんと考える。
「なんだろう、もうちょっと、女の子らしくというか、勇ましすぎるだろ?」
 シャリーは考える。

 どうする?


  ■女の子らしくしてみたらどうだ?  104  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag104  女の子らしくしてみた
  ■お嬢さまらしくしてみたらどうだ?  105  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag105  お嬢さまらしくしてみた



101


「こ、これは共感者の力で生み出しているもので、ご利益なんて……」
 イコウの言葉に、商人たちは、ぐっと言葉を飲むが、ミリーはおかしそうに腹を抱えて笑い転げている。商人たちはそれを、哀しい表情をして見つめる。
「でも、」
 ひとりの青年商人がイコウに詰め寄る。
「私にはご利益がありました。なんて馬鹿だったんだろうって。こんな偽りの懐中時計を持って、それを本物だなんて、言いふらして、自分もそう思い込もうとしたんです」
「あ、」
 イコウは、笑い転げるミリーを見て、気付く。
「でも、この時計は本物です。ほんとうにミリーが笑ってくれた時計です。商人は海を越えます。それには勇気が必要なんです。でも、もう、それをもらいました。ミリーはこの時計を笑ってくれたんです。もういつでも、この時計をみれば、ミリーちゃんがこのサディスで天気予報をして、笑顔を浮かべてくれると信じることが出来ます」
 商人たちは、お互いに頷き合う。
(そうか、ミリーちゃんは、アイドルなんだ、東岸中の)
 戸惑っていると、イコウはふと脇にディアマンテが立ていることに気付く。
 ディアマンテは、ミリーの前に仁王立ちになった。
「ミリー、これでは商売にならない。大切な商談の最中なんだ」
 ミリーはディアマンテをみて、きょとんとするが、また腹を抱えはじめる。
「うはははは、ひひひひ、こいつ、船に乗れないだ、くくくく、それで商人を名乗って、うわぁはははは、いまだにお母さんが死んだことを哀しんで、ははははは、泣いても帰ってこない事ぐらい分かっているのに、くくくく」
 ディアマンテの顔が激怒で真っ赤になる。
「ミリー、言っていいことと、悪いことがある!」
 それでもミリーが笑うのをやめないのに、困惑するが、ディアマンテはイコウたちにするどい視線を向ける。
「なんとかしろ!」
「ディアマンテさん、待ってください! まだご利益をわたしはえていないのです!」
 そうだそうだと飛ぶ声に、ディアマンテはぐっと我慢する。
「勝手にしろ!」

 商人たちのミリー詣でが一巡すると、イコウはぐったりしていた。
「なんかさ、元気なのはいいんだけど、元気ありすぎじゃないか?」
 シャリーは申し訳なさそうにするが、そもそも、これはミリーがサディスに出るのははじめてという事で、選んだ感情であるのではあるのだ。
「じゃあ、どうするの? イコウ?」
 イコウは、うーんと考える。
「なんだろう、もうちょっと、女の子らしくというか、勇ましすぎるだろ?」
 シャリーは考える。

 どうする?


  ■女の子らしくしてみたらどうだ?  104  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag104  女の子らしくしてみた
  ■お嬢さまらしくしてみたらどうだ?  105  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag105  お嬢さまらしくしてみた



102


 運ばれてきたカップに目を輝かせ、リオネは砂糖壺を引き寄せ、まずはその香りを胸一杯に嗅ぐ。
 はあとためいきをはき出しながら、嬉々とした表情で砂糖を入れ、しゃれた意匠のティースプーンをゆっくりとまわす。チンと鳴らして、リオネはにんまりと笑う。ミルクを注ぐと白い雲はゆるやかにまわりながら、紅茶のなかに溶けていく。
 それをすすると幸せになる。
 リオネは、大きく、大袈裟に息をついて、猫のように机に頬を寄せる。
 横からそのティーカップの絵柄を見つめ、爪さきでそれを叩く。
 ひょこっと起き上がり、両腕を大きく上げて伸びをする。
 リオネはその視線の端に、イコウとシャリーが入ってくるのを捉える。
「おーい! イコウ! シャリー! こっちこっち!」
 イコウたちはリオネに気付いて、同じ机に座る。
 あきれた様子でイコウはがっくりと肩を落とし、しかたなくウェイターを呼ぶ。
「なに? どうなったの? ミリーちゃんは?」
「見失った……」
「あれ? じゃあ、こんなところで油うっている場合じゃないじゃん」
「まあ、そうなんだけどさ」
 シャリーはそわそわと上の空、イコウはコーヒーを待ちながら、いらいらと頭をかく。
「わかんないんだ。どうしたらいいかさ」
 リオネは瞳をくりくりとさせ、首を横に傾げて、楽しそうになにか考えるが、かなり無責任に言い放つ。
「なんかできると思ってたの?」
「な、じゃあ、ミリーちゃんをあのままにしておけっていうのかよ!」
 イコウが怒るのに、リオネは指を横に振る。
「なやんだってしかたないよ。なるようにしかならないんだから。それよりもイコウはミリーちゃんやほかの人たちを思い通りにできると思っているの?」
「いや……」
 リオネはにこっと笑う。
「そういうこと。それよりもさ、パイプを持ち込んだ主、分かるかも」
「ほんとか?」
 リオネは楽しげに紅茶をすする。
「あの故買屋のおっちゃんさ、あれでも身持ちは堅いんだ。だから、ちょっとやそっと積まれたぐらいじゃ、あんな事をしないんだよ。だから、あのパイプを持ち込んだのは、それなりの人で、東岸中に知られているぐらいの人。たとえば、そーだねー、ディシュとかあれぐらいの人」
 イコウは考える。
「まったく根拠にならないよ、ディシュさんがパイプを実際に持ち込んだとしても」
「そーなんだよね、違いますっていえばいいんだもん。簡単、簡単」
 イコウはその脳天気なリオネにむっとする。
「じゃあ!」
「んー、まあ、あたし、いろいろ調べてみるつもりだったからさ、夜にでも話すよ。それでいい?」
 イコウがしぶしぶと頷くと、ちょうどコーヒーとフルーツジュースが運ばれてくるところだった。

 ロットが合流したのは、イコウのカップが半分空いた頃で、3人が揃っているのを見て、ははぁと笑う。
「見失ったんだってさ、ミリーちゃん」
 ロットは席に腰を下ろし、ウェイターにオーダーを出す。
 腰の鞄からノートを取り出し、カリカリとなにやら書き始める。
「カフェには来ないよ」
「わかっているさ。リオネやロットが見なかったかって思って」
 ペンの端を顎につけ、なにやら推敲する。
「みなかった」
「そうか」
 ロットの静かな瞳がイコウを見る。
「見つかるよ。ディアマンテさんの邸宅、すごい騒ぎだったじゃないか」
 イコウが考えはじめるのを尻目に、またペンを走らせる。
 シャリーは、そーっとそれを見るが、なにやらサディスの様子を記録しているよう。
 へーと感心するシャリーに笑いかける。
「小さい頃からの癖なんだ。そういえばはじめて見せたかも」
「でも、ってことはさ、サディスでもすごい騒ぎになっているって事だ」
「そのとおり」
「たっく、ロットは他人事なんだから……」
 運ばれてきたコーヒーを、一口すする。
「千里眼が必要そうなら手伝うけど、必要か?」
 イコウは、ミリーがとんでもない騒ぎを起こしている光景を想像して、背筋が冷えてくる。たしかにかくれんぼでもしない限り、ロットの力を借りる必要はない。
 コーヒーの残りをぐっと飲み干しイコウは立ち上がる。
「いこう、シャリー。ミリーちゃんが心配だ」
「え? わたし、ぜんぜん飲んでないよ?」
 イコウはいらだたしげに、席に座る。
「おれたちって、なんでこんなにお気楽なんだ?」
 シャリーは言う。
「イコウがせっかちなだけ」
「焦っていいことなんてないからねぇ」
 リオネの言葉を聞いて、イコウはロットを見る。
 全員の視線が集まっているのに気付き、ロットは、ああ、と考える。
「自然体が一番だよ。それがお気楽なら、しかたない」
 リオネはくっくと笑う。
「お気楽は、悪くないよ」
 イコウはぎっとリオネを見るが、それもため息のなかに消える。
「まー……、しゃーないか」

 どうする?


  ■市場を探す。  82  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag082*flag079
  flag082  市場を探した
  ■市場を探す。  85  【出現条件】:flag000*flag079  【消失条件】:
    
  ■港を探す。  92  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag092*flag080
  flag092  港を探した
  ■港を探す。  93  【出現条件】:flag000*flag080  【消失条件】:
    
  ■広場を探す。  98  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag098*flag081
  flag098  広場を探した
  ■広場を探す。  99  【出現条件】:flag000*flag081  【消失条件】:
    
  ■故買屋へ行く  103  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag103
  flag103  故買屋へ行った



103


 件の故買屋は、メインストリートの繁華な中にあり、それなりの門構えで入りづらい。
 イコウは、リオネがいないことが心細く思ったが、それとて、イコウの勝手な気持ちであるのだ。
「イコウ?」
「聞こう。パイプの秘密を知らないとさ」
 シャリーがこくりと頷く。
 イコウは意を決して、その故買屋の扉を開く。
「いら、ああ、来ましたか」
「ああ、でも話せないんだろう?」
 各国のとびきりを集めたその骨董店は、さながらミュージアムのようで、なかなかに踏み込みづらい。それでも、主人は腰掛け椅子をふたつ用意してくれて、イコウたちは、その好意に遇する。
「来るとは思っていたんですよ。リオネさんの仲間ですし」
 しょげかえる故買屋にイコウは聞く。
「あのパイプ、いったい何なんだ? なんで、手に入った?」
「あ、あ、あ、ああ、イコウさん。私たちの商売は信頼で成り立っています。もし、私があなたに出元を話してしまって、それがその方に伝わればどうなるしょう? この人はそんな秘密も守れない人、と思われるのは必然です」
「そうしたら商売にならない?」
 故買屋は汗を拭く。
「そう」
 イコウは考える。
「リオネは知っているっぽいけど……」
 故買屋は、視線をきょろきょろとして、それから言う。
「〈トパーズの眼〉です。そういうところは敏感です。といいますか、なんであなたたちのところにリオネさんが居ついているのです?」
 なんでと言われて、イコウは困る。
「な、なんでだろう?」
 故買屋は笑う。
「どのみち、〈トパーズの眼〉が来るでしょう。それからでも遅くない。あなたのことは好きなんです」
 にっこりと笑う。
「でも、時間の無駄です」

 どうする?


  ■市場を探す。  82  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag082*flag079
  flag082  市場を探した
  ■市場を探す。  85  【出現条件】:flag000*flag079  【消失条件】:
    
  ■港を探す。  92  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag092*flag080
  flag092  港を探した
  ■港を探す。  93  【出現条件】:flag000*flag080  【消失条件】:
    
  ■広場を探す。  98  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag098*flag081
  flag098  広場を探した
  ■広場を探す。  99  【出現条件】:flag000*flag081  【消失条件】:
    



104


「女の子っぽくしてみたらどうだ?」
 イコウのまっすぐストレートな発言に、シャリーはあぜんとする。
「い、イコウ? それってどういうのを言っているの?」
 イコウはなやむ。
「ん、んー、ん…。優しいとか?」
「イコウは男の子だけど優しいよ? いつも、ずっと」
 シャリーは赤面して、あわてて付け加える。
「ロットも、リオネさんも」
 イコウはまたもやなやむが、どうにも答えが出ずに、悩み続ける。
「わからないよ! シャリー、女の子だろ? シャリーの方が知っているはずだよ」
 シャリーはなんともなげやりまるなげな言葉を飲み込み、悩んだ。
 実のところ、シャリーはあまり共感者の力を使ったことがないので、どういう色が女の子っぽいのかが分からないのだ。
 シャリーは意を決して、共感者の帽子を握る。
「ミリーちゃん、いい? わたしっぽくしてみる。怖くしないから……」
 無言で頷く。
 胸の前で右手を握り、人差し指を跳ねさせる。
 ミリーは胸の前に手を握り、きょろきょろとする。
「シャリー、わたし……」
「こ、怖くないから、ミリーちゃん」
 ミリーはこくりと頷くと、シャリーの手を握った。

 イコウたちは、ミリーを連れてサディスの中心の方へやってくる。
 サディスも繁華な商業地区を離れると旅行者も少なくなり、政務を司る建物やら、聖堂やら、公のいかつい建物が建ち並ぶ。
 リンゴンと鐘が鳴り、聖堂から明日のスークル神の大祭の準備なのか、多くの正装した
人々がせわしなく出入りする。
「お祭り、明日なんだね」
 ミリーが頷いて、イコウを見上げる。
「スークルさまは海の神さまなの。あしたのお祭りは、くようなんだって」
「供養?」
「海で死んだ船乗りたちの魂に、サディスの場所を教えてあげるの。そうすると年に一度だけ、魂たちはサディスに戻ってこれるの」
「だから野焼きなのか」
 こくりと頷く。
「ねえ、ミリーのお母さんも帰ってくるのかなぁ」
 切実なきらきらした瞳を向けられて、イコウは戸惑う。
「返ってくるよ、ミリーちゃん。だからわたしと一緒に供養しよう?」
「うん」
 シャリーに頭を撫でられて、ミリーは嬉しそうにする。
 メインストリートは大賑わいで、垂れ幕やら、ひな壇やら、中心街を装飾する準備で忙しい。あくせくと走り回る人々を掻き分けながら、のんびりと歩く。
「ごめんよ、通るよ!」
 目の前を半ば組み立てられた木枠の段が、えっさおいさと運ばれていく。
 ごんとそれが当たり、思わずイコウは拳を上げる。
「おい、気をつけてくれよ!」
「すまんすまん、猫の手も借りたいところでね」
 船乗りらしい頑丈の体つきの男が、布きれで額の汗を拭き、息をつく。
「なんだい、トラン人、珍しいねえ」
「明日の遊覧飛行を頼まれてね」
 男はひげ面に笑顔を浮かべて、口笛を吹く。
「そりゃいい。広場で商売すれば、きっと一儲けできるぜ、おや、彼女かい?」
「そんなんじゃないさ」
 むくれるイコウを横目に、男はシャリーに言い含める。
「お嬢ちゃん、明日はスークルさまの神事だからねえ、誘惑しちゃだめだぜ?」
 シャリーが耳まで真っ赤に染まっていく。
「そ、そんなんじゃありません!」
 はははと、男は快活に笑い、からかい飽きたのかよいしょと荷を担ぐ。
 イコウとシャリーは恥ずかしげに視線を合わせるが、はっとシャリーが気付く。
「み、ミリーちゃんは!」
「し、しまった」
 イコウはあわてて周囲を探すが、祭りの舞台を設営する人たちに阻まれて、ミリーの姿はまったく見えない。
「ま、迷子にしちゃった」
「探そう!」
 イコウが走り出そうとするのをシャリーが引き留める。
「イコウ、どこを探すの?」

 どうする。


  ■花屋を探す。  107  【出現条件】:flag000*flag104  【消失条件】:flag000*flag107
  flag107  花屋を探した
  ■洋服屋を探す。  108  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag108*flag105
  flag108  洋服屋を探した
  ■カフェを探す。  110  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag110*flag105
  flag110  ディアマンテ、ミリーが奥さんの生き写しという
  ■聖堂を探す。  113  【出現条件】:flag000*flag104  【消失条件】:
    
  ■故買屋へいく  114  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag114
  flag114  故買屋へ行った



105


「お嬢さまっぽくしてしてみたらどうだ?」
 イコウのまっすぐストレートな発言に、シャリーはあぜんとする。
「い、イコウ? それってどういうのを言っているの?」
 イコウはなやむ。
「ん、んー、ん…。気品があるとか?」
「ロットはお嬢さまじゃないけれど、気品があるよ」
 イコウはまたもやなやむが、どうにも答えが出ずに、悩み続ける。
「わからないよ! シャリー、女の子だろ? シャリーの方が知っているはずだよ」
 シャリーはなんともなげやりまるなげな言葉を飲み込み、悩んだ。
 実のところ、シャリーはあまり共感者の力を使ったことがないので、どういう色がお嬢さまっぽいのかが分からないのだ。
 シャリーは意を決して、共感者の帽子を握る。
「ミリーちゃん、いい? わたしの知っている人っぽくしてみる」
 無言で頷く。
 胸の前で右手を握り、人差し指を跳ねさせる。
 ミリーはつんと小さな鼻をあげた。
 意志の強い瞳がシャリーを見つめ、イコウをじろりと見る。
「シャリー、いこう? 日が暮れちゃうよ」
「ま、待って、ミリーちゃん」
「シャリー、ちゃんはやめて。ミリーって呼んでいいから」
「ミリー……」
 ミリーは微笑む。シャリーの手を握り、天使のような笑顔をシャリーに向ける。
 取り残されたイコウは唖然とする。
「せ、性格が変わりすぎて……」

 ミリーとシャリーは、サディスの中心街へやってくる。
 サディスも繁華な商業地区を離れると旅行者も少なくなり、政務を司る建物やら、聖堂やら、公のいかつい建物が建ち並ぶ。
 リンゴンと鐘が鳴り、聖堂から明日のスークル神の大祭の準備なのか、多くの正装した
人々がせわしなく出入りする。
「明日、お祭りだものね」
「そう、スークルさまの大祭。シャリー、野焼きを空から見せてくれるんでしょう?」
「え、ええ。ミリーがみたいなら」
 ミリーはうれしそうに胸をはしゃがせる。
 それをイコウは後ろからついて行くが、まるで従者のように見向きもされないのにため息をつく。
「そうだ、シャリー。花、浮遊船からまこうよ」
「え? なんで?」
 ミリーは瞳を輝かせて、にんまりと笑う。
「スークルさまの大祭は花をまくの。みんなでサディスを花でいっぱいにするの。それなら空からまいたらみんな喜ぶ! ね、いいでしょう? どうかな?」
「い、いいかも……」
「ふふ、じゃあ、ジョゼフに言っておくね。花をたくさん買ってきてって」
 ミリーはその光景を想像してか、わくわくとスキップをする。
 メインストリートは大賑わいで、垂れ幕やら、ひな壇やら、中心街を装飾する準備で忙しい。あくせくと走り回る人々を掻き分けながら、ミリーは跳ね飛ぶように歩く。
「ごめんよ、通るよ!」
 目の前を半ば組み立てられた木枠の段が、えっさおいさと運ばれていく。
 それによろめき、ミリーはむっとする。
「ちょっと、失礼じゃないかしら?」
「すまんすまん、猫の手も借りたいところでね」
 船乗りらしい頑丈の体つきの男が、布きれで額の汗を拭き、息をつく。
「お嬢ちゃん、見ない顔だね? サディスの子?」
「あなたにそんなことを教える必要はないわ」
 つんと鼻をあげる、ミリーの前にイコウは慌てて飛び出す。
「あー、いや、明日の大祭の遊覧飛行に招待されているんだ」
「なんだい、お嬢さまかい」
 男はひげ面に笑顔を浮かべて、口笛を吹く。
「そりゃいい。広場で商売すれば、きっと一儲けできるぜ、おや、彼女かい?」
「そんなんじゃないさ」
 むくれるイコウを横目に、男はシャリーに言い含める。
「お嬢ちゃん、明日はスークルさまの神事だからねえ、誘惑しちゃだめだぜ?」
 シャリーが耳まで真っ赤に染まっていく。
「そ、そんなんじゃありません!」
 はははと、男は快活に笑い、からかい飽きたのかよいしょと荷を担ぐ。
 イコウとシャリーは恥ずかしげに視線を合わせるが、はっとシャリーが気付く。
「み、ミリーちゃんは!」
「し、しまった」
 イコウはあわてて周囲を探すが、祭りの舞台を設営する人たちに阻まれて、ミリーの姿はまったく見えない。
「ま、迷子にしちゃった」
「探そう!」
 イコウが走り出そうとするのをシャリーが引き留める。
「イコウ、どこを探すの?」

 どうする。


  ■花屋を探す。  106  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag106*flag104
  flag106  邸内の使用人たちはジョゼフに継いで貰わないとこまる
  ■洋服屋を探す。  109  【出現条件】:flag000*flag105  【消失条件】:flag000*flag109
  flag109  洋服屋を探した
  ■カフェを探す  111  【出現条件】:flag000*flag105  【消失条件】:
    
  ■聖堂を探す。  112  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag112*flag104
  flag112  聖堂を探した
  ■故買屋へ行く  114  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag114
  flag114  故買屋へ行った



106


「うーん。花屋、とか? なんかサディスって花好きが多そうじゃないか?」
「そ、そうかも……」
 シャリーは釈然としないよう。
 それでも、あてもなく探すのもと、周囲をきょろきょろとするイコウについていく。
「あの、お花はどこで買えますか?」
 シャリーが聞くと、親切そうなおばさんが指をさす。
「聖堂の方へいってごらん。すぐにわかるから。お供えかい?」
「ええ、まあ」
 シャリーはイコウの袖を引っ張り、指さす。
「あっちだって。お供えのお花屋さんがあるんだって」

 それは花屋というよりは、花の小市場で、聖堂脇のこぜまい路地の両脇に競うように夏の花束が、色とりどりの新鮮さで、その路地を埋め尽くしていた。
 路地に入ると、みずみずしい香りで胸がいっぱいになる。
「すごいね」
 シャリーはひとごみのなかを心躍らせて歩く。
 イコウは、混雑をかきわけて閉口するが、たしかにサディスのひとたちの花好きは間違いなさそう。しかし、その尋常ではない混雑は、おそらく明日に迫ったスークルの大祭と関わりがありそうだった。
(お供えか。花を飾るのかな)
 イコウは、ピクニックにでも来たかのようなシャリーをよそにミリーを探す。
 しかし、小柄なミリーをこの混雑で探すのは至難のわざで、おもわずためいきが出てきそうだった。
「あー、どうしたんですか」
 シャリーの声に振り返ると、大きなユリの花束を抱えた若い女性が、きょとんとしている。たしか、ディアマンテの邸宅の使用人のひとり。
「あ、トランからいらした方。どうしてこんなところへ」
 シャリーが経緯をはなすと、はあとつぶやき、お嬢さまはお花が好きですからね、と得心したようだった。
「このユリもお嬢さまの寝室に飾るんですよ。お嬢さま、外にでれなくておかわいそうですから。でも、ご自身でいらっしゃれるなら、さぞかし喜んでいるでしょうね」
 気のない返事をする。
「ジョゼフさんが選んでいるんですか?」
「ええ、毎週毎週、もうジョゼフさんの悩みは、いつもそれで」
 くすりと笑う。
「迷うとどの花がいちばんきれいか見てきてくれだなんて」
「す、すてき」
 シャリーもあぜんとするが、ともかくジョゼフにとっては、ミリーへ贈る花に対する情熱は尋常でないようなのだ。イコウ、ふと気付いて聞く。
「そういえば、ジョゼフくんって、あんなに若いのに家令で」
 使用人はイコウの言いたいことに気付く。
「ええ、でも最古参ですし、使用人に文句はでません」
「気のいいやつだしね」
 それもありますが、とふしめがちに、使用人は呟く。
 イコウが不思議そうに見つめていると、言いにくそうに、使用人は口を開く。
「かばってくれるんです、私たちを」
 イコウはなるほどと思う。
「いつも、怒られるのはジョゼフさん、いつも、いつも、いつも。旦那様はいつもお怖くて、それで助かっているんです、私たち、みんな。旦那様もジョゼフさんしか怒りませんし。ですから家令をお務めになっても誰も文句を言いません」
「誰もあんなに怖く怒られたくないからね」
 使用人はうなずく。
(それで信頼されているんだ、ジョゼフくん)
「ジョゼフさんが家令になる前は、使用人が居つかなかったとも聞きます」
「立派だ、ジョゼフくん。やっぱりあの家を継ぐことになるのかな?」
 さりげなくイコウは聞く。
 しかし、使用人はとたんに真剣な表情で、イコウに迫る。
「そうなってもらわないと困ります! そうならなかったらどうしたらいいか!」
「え……、な、なんで?」
「私、この邸宅、五軒目なんです! 三年で五軒目ですよ! まったく、商家はどこも人使いが荒くて、横柄で、粗末に扱われるんです、私たち! むち打つための驢馬のように、ほんとうにひどい……」
 うつむく使用人をイコウは慌ててなだめる。
「ジョセフさんはそんなことは絶対にしません! だから継いでほしい。その為ならなんだってします。花だって、見に行きます、どれが一番美しいか知るために。お嬢さまはジョゼフさんのご好意を受けるべきなんです! 私はこの邸宅で一生働きたいんです!」
 使用人は顔を真っ赤にして、ユリの花束を抱えて、立ち去る。
 イコウはぽかんとして、シャリーをみる。
「ど、どうしようか?」


  ■洋服屋を探す。  109  【出現条件】:flag000*flag105  【消失条件】:flag000*flag109
  flag109  洋服屋を探した
  ■カフェを探す。  111  【出現条件】:flag000*flag105  【消失条件】:
    
  ■聖堂を探す。  112  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag112*flag104
  flag112  聖堂を探した
  ■故買屋へいく  114  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag114
  flag114  故買屋へ行った



107


 ミリーは聖堂までやってくると、その大きな建物を見上げる。
 十三歳の女の子が見上げるには、それは山のよう。
 目を丸くして、驚嘆で立ち尽くすが、胸の前に握った両手をおろせずにいた。
 一歩、二歩とあるいて、また見上げる。
 雑踏はちらと見るが、迷子に声をかけるまでには至らない。
 ミリーは心許なく人混みを歩くが、ふと、瞳の中に見慣れたものたちが飛び込んでくる。溢れるような色彩と、胸一杯に広がる芳香。それが狭い路地いっぱいに広がっている。
 聖堂脇の狭い路地は、日常的に生花を商う、ちょっとした花市場。
 軒を連ねる生花商の露天には、色とりどりの夏の花束が、そのみずみずしい香りを競うように咲き誇っていた。
 ミリーは、路地の花束の中に迷い込み、スクールの大祭用の花を求める雑沓に紛れた。
 路地の両側に飾られた新鮮な花たち、それをぼうと見つめる。
「お嬢ちゃん、お花がほしいの? なにがほしいの? さがしましょうか?」
 気づいた露天商が声をかける。
 ミリーはびっくりして後ずさる。
 やれやれと息をついた露天商は、花を物色するおじさんに声をかける。
「お祭りの花ですか?」
 おじさんは、その優しげな顔を上げる。
「いやね、お供えでね。聖堂で楽団のリハーサルがあるんだよ。息子がバイオリンを弾くんだ」
「へえ、それりゃあいい」
「手ぶらで訪ねるのもどうかと思ってね」
「それなら、カーネーションがいいでしょう」

 イコウとシャリーは、聖堂脇の花市場へやって来て、その雑沓にミリーを見つける。
 カーネーションの花束を受け取る中年の男と話しているところだった。
「お嬢ちゃん、ひとりかい? お母さんは? お父さんは?」
 ミリーは、おずおずと口を開く。
「お兄ちゃんと、お姉ちゃんがあとから来るの。それまでお花をみてるの」
 それを聞いてイコウが出て行こうとするのを、シャリーは止める。
「なんで? 待ってるって言ってるじゃないか、ミリーちゃん」
「だめ。なんか、あったら出て行けばいいんだから」
 イコウはふしぎそうな顔をするが、シャリーはミリーをみて微笑むだけ。
 ミリーは、おじさんに手を振り、ぽつんと露天の前にひとり立つ。
「あの、」
「ん? なになに? どのお花がほしいの?」
 露天商にミリーは話しかける。
「わたし、カーネーション、知ってる。これも、これも、カーネーション」
「そう。すごいわね」
 ミリーはすこし微笑んで、露天中の花を指し始める。
「月夜見草、ひな鳥花、ユリ、スズラン、ソノヒグラシ、バラ」
 次々と名前を当てていくたびに、露天商はうなずき、それを横目で見ながら、ミリーは得意げで花を指していく。
「すごい! 全部当たってる! よっぽどお母さんが、お花好きなのね?」
 ミリーははにかんで顔を紅くする。
 その可憐な口を開く。
「ジョゼフが教えてくれるの、お花の名前。全部教えてくれたの」
 露天商はなるほどとうなずくが、ふと気づく。
「ジョゼフさんって言えば、うちでもよく、確かディアマンテさんのところの」
 ミリーは、とたんに怖くなり、二三歩後ずさる。
 そして、そのまま雑沓の中に駆けだしていく。
「あ、待って! え? もしかして、ミリーちゃん? ほんもの?」
 首をかしげる露天商を尻目に、イコウはシャリーを見る。
「逃げちゃったじゃないか。ど、どうするんだよ」
「ど、どうするって……、追いかけなきゃ」

 どうする?


  ■洋服屋を探す。  108  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag108*flag105
  flag108  洋服屋を探した
  ■カフェを探す。  110  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag110*flag105
  flag110  ディアマンテ、ミリーが奥さんの生き写しという
  ■聖堂を探す。  113  【出現条件】:flag000*flag104  【消失条件】:
    
  ■故買屋へ行く  114  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag114
  flag114  故買屋へ行った



108


「うーん、洋服屋とかさ、女の子だし」
「ミリーちゃん、お金持ってないと思うけど……」
 釈然としないシャリーにイコウは言う。
「見るだけだよ! きっと見ているんだよ」
「そっか、なあ……」
 不承不承といった感じでシャリーは頷き、駆け出そうとするイコウの手首を握る。
「道、聞かないと」
 シャリーは中央通りをゆく通行人を捕まえ、あれこれと道を聞く。
「あっちだって。服屋さんが集まっている区画があるんだって」

 サディスの中心街を聞いたとおり行くと、やがて仕立屋が建ち並ぶ区画にやってくる。
 シャリーはきょろきょろとするが、あそこは淑女向け、あそこは紳士向け、あそこは……、とぶつぶつとつぶやく。イコウはそれを退屈そうに見るが、シャリーは熱心に窓越しに見える服の品揃えを確かめていく。
「ここ! ここだ。イコウ、きっとここ」
 期待に胸ふくらませて、シャリーは呼び鈴のついた扉を開く。
 リンリンと鳴る入り口をくぐって居並ぶ服を見ると、シャリーの表情が輝いた。
「ほら、イコウ、ドレス! コート! ほら、この帽子すてき」
 スキップするように店内を巡り、そのひとつひとつを見て、うわーとなる。
 振り返って、自分の服装を気にして、しゅんとする。
 シャリーはイコウを振り返るが、イコウは無残にも首を横に振るだけだった。
 とたんに曇るシャリーをなだめるように言う。
「おれたち、冒険してるんだぜ? いつ着るんだよ?」
 シャリーは開き直る。
「イコウのばか! イコウは、いつもそう!」
「ど、ドレスを着た浮遊船乗りがあるか! リオネだって!」
「リオネさん、すてきだもん。あれやすくないよ、きっと」
「そりゃ、リオネは王族とだって会うって言うし」
「わたしたち、今、ディアマンテさんにお呼ばれしているの!」
「おれたちは遊覧飛行を頼まれただけで!」
「ロットはすてきなのに、イコウは全然服装気にしないもん!」
「おれがなにを着ても、そんなのどうでもいいだろ!」
「わたしは気にする! せめてそれなりの共感者らしく。これじゃあ、立派な浮遊船乗りじゃなくて」
 イコウはシャリーの言わんとしていることはわかる。
 確かにシャリーは、トランでイコウたちと遊んでいた頃の服装そのままで、いかにも夢見る少女と言った出で立ちなのだ。もっともイコウも当時と変わらず、その点ではシャリーと同様なのだが、実のところイコウの魅力はそのざっくばらんさであるのではある。
「あのぅ……」
 いがみ合う二人に見かねて、洋服店の主人が声を掛ける。
 イコウとシャリーが振り返るのを苦笑で迎え、その女主人はおそるおそる聞く。
「トランの方からいらっしゃったのですか? 浮遊船乗り?」
「ええ、遊覧飛行を頼まれまして」
 イコウのあっけらかんとした返事を受けて、主人は安心させるように言う。
「では、ドレスはさすがにお召しになりませんね?」
「ええ、そうなんですが、言っても聞かなくて……」
 お待ちくださいねと言葉を残して、主人は店の奥の方へ行く。しばらくして戻り、シャリーとイコウに上品なほほえみを浮かべる。
「でしたら、このようなものはいかがでしょう?」
 手には、赤い珊瑚のついたきれいな髪留めが乗っている。
 イコウはそれを四方から眺めてみるが、あまりにもシンプルすぎて、素っ気なく見える。
 きれいと喜ぶシャリーをつれて鏡の前に座らせ、女主人は、そのシャリーの黒髪にやさしくその髪留めをとめた。
 イコウは、その赤のアクセントが一瞬にしてシャリーを華やかにするのを見て、目をしばたかせる。
「いかがです? これなら冒険の邪魔にはなりませんわ?」
「うん、イコウ?」
 イコウはその輝くようなシャリーの笑顔を見て観念する。
「い、いくらです?」
「本来なら、2000グロア頂いているところなのですが、この髪留めはお嬢さんにしか似合いません。ほとほと困っていたところなのですよ。なので、1500グロアで」
 イコウは手痛すぎる出費をなくなく払う。
 シャリーははにかみながら、イコウに微笑んだ。

 どうする?


  ■花屋を探す。  107  【出現条件】:flag000*flag104  【消失条件】:flag000*flag107
  flag107  花屋を探した
  ■カフェを探す。  110  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag110*flag105
  flag110  ディアマンテ、ミリーが奥さんの生き写しという
  ■聖堂を探す。  113  【出現条件】:flag000*flag104  【消失条件】:
    
  ■故買屋へ行く。  114  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag114
  flag114  故買屋へ行った



109


 ミリーは仕立屋が建ち並ぶ区画にやってくると、すました顔でその窓を覗いていく。
 つま先をあげて歩き、腕を後ろに組む。
 それで興味津々に見るが、それが紳士用だったり、淑女用だったりすると、興味なさそうにぷいとそっぽを向く。
 店の主人が客を送り出しながらミリーに視線をよこすが、ミリーはそれに軽く手を振る。
 そうやって、ミリーは鼻歌を歌いながら、中心街を歩く。
 そうしているうちに、とうとつにミリーの表情がぱあっと明るくなる。
 リンリンと鳴る扉を開いて、ミリーは夕闇の街角から、明るい店内へと入っていく。
 いらっしゃいと迎える女主人をよそに、ミリーは掛けられた服を注意深く見つめる。
 その生地を手に取り、手触りを確かめる。
「いい生地ね。シャリーなら似合うかも」
 つぶやくミリーは、別の服を手に取り、目を丸くする。
「このボタン、おもしろい。はやっているのかなぁ」
 遠くから眺めてみて、それでもやはり合わないと、別の服に視線を移す。
「面白いシルエット……。でもわたしには長すぎるかなぁ」
 じっくりと品定めをしていくミリーに、女主人はじれてくる。
「お嬢さま? もしよろしかったら、おすすめいたしますが?」
「ありがとう。だけど、自分で選びたいの」
 ミリーはすました表情を女主人に向けてすこしだけ微笑む。
 女主人は、それではごゆっくりとほほえみを浮かべながらも、げっそりする。
 これだから、お嬢さまは。
 そうやって、仕立て屋中を品定めして回っていたミリーは、あるブローチを見つけて、瞳をきらきらさせる。透きとおる紅玉をあしらったかわいらしいブローチで、それを取り上げてあちこちから見てうんうんと頷く。
「よろしければ、おつけになってみますか?」
 女主人はため息をつきながらミリーよりブローチを受け取り、それをミリーの胸元に飾り、手鏡を渡す。ミリーに満面の笑みが広がっていく。
「タリファの名工のもので、若干お値段が張りますが」
 それを聞いているのかいないのか、ミリーは、肩をすぼめて、ふふっと笑う。
 女主人を振り返り、嬉々とした表情で、言う。
「代金はジョゼフにもらってほしいの」
「は、ジョゼフさん? ジョゼフさん?」
 女主人はしきりに考えるが、はっと気づいて、手をたたく。
「ああ、ジョゼフさん。ディアマンテさんのところ。で、でしたら、あなた」
 ミリーは慌ててブローチをはずし、それを女主人の手に返す。
「また来ます。誰にも売らないでね、それ!」
 そう言って、ミリーは店を飛び出す。
 イコウとシャリーが見たミリーは、まさにその飛び出すミリーだった。
「イコウ、ミリーちゃん、いた!」
「ど、どこだ?」
 シャリーが指さす方を見るが、小柄な背中はすぐに雑沓の中に消えてしまう。
「みうしなっちゃった……」

 どうする?


  ■花屋を探す。  106  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag106*flag104
  flag106  邸内の使用人たちはジョゼフに継いで貰わないとこまる
  ■カフェを探す。  111  【出現条件】:flag000*flag105  【消失条件】:
    
  ■聖堂を探す。  112  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag112*flag104
  flag112  聖堂を探した
  ■故買屋へ行く  114  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag114
  flag114  故買屋へ行った



110


「うーん、カフェとか?」
「ミリーちゃん、お金持ってないと思うけど……」
 釈然としないシャリーにイコウは言う。
「だから余計に心配じゃないか。ロットやリオネがいるかもしれないし」
 シャリーは納得いかなそうに頷き、駆け出すイコウのあとを追う。
(ミリーちゃん、コーヒーなんて飲めるのかなぁ)
 自分がミックスジュースを頼んでいたことを棚に上げでシャリーは想う。
(でも、案外、あのすてきなカフェなら、くるかも)

 海を見下ろす、テラスがすてきなカフェは、いつも通りに混雑していた。
 イコウとシャリーは客席に視線を巡らせるが、リオネの溌剌とした元気さも、ロットの知的な修道僧のような空気を発するテーブルはない。ただ、華やかに、東岸のすみきったひかりの中にまどろむ常客たちがたむろするだけであった。
 イコウはテーブルの間を歩くが、その手首が握られて立ち止まる。
 緊張した様子のシャリーが一方向を見つめる。
 それを追うと、ディアマンテがテラスの一番よい席に陣取っていた。
 カップを持ち上げ、その紅茶に口をつける。
 視線は常に海とサディスに向かい、追憶とでも旅しているのか、心は全く現世にはないようだった。
 ため息をつく。
 全くディアマンテらしくない。
 そんな姿を見て、イコウは動揺してしまう。それを見越したようにシャリーがその耳元で囁いた。
「きっと、奥さんとの思い出があるの、ディアマンテさん」
 イコウはうなずく。
 しかし、それは盗み見をしているようで、気分が悪い。
 ディアマンテの視線がイコウたちに気づいて、こちらを向く。
 その鋭い視線に射貫かれると、申し訳なささがこみ上げてくる。
 イコウは、ディアマンテのテーブルまで行く。
「あの、これは偶然でして」
「わかっている。だが、盗み見はよくない。ミリーの客人だから怒らないようなものだ」
 シャリーがやさしく聞いた。
「思い出があるんですよね? 奥さんとの」
 ディアマンテは一瞬戸惑うが、シャリーの瞳を見て、破顔する。
 イコウはディアマンテの笑顔を初めて見たような気がして、とまどうのであるが、進められるままに、その席に座る。イコウとシャリーが落ち着くのを見て、オーダーを出し、そのまま海に視線を向ける。
「あれは、タリファの出でね」
 おもむろにディアマンテは切り出し、いつくしむように街並みを眺める。
「このサディスの光景が好きだった。一日中ここで飽きずに眺めていた。よくも飽きずにと思った。ここで数え切れないぐらい話をした」
 シャリーは遠慮がちに言う。
「きっと、サディスの朝が好きだったんだと思うんです」
 ん? という感じでディアマンテは視線を向ける。
「そして、サディスの昼が、午後三時のサディスが、夕焼けのサディスが、夕闇が、街灯がつき始める頃のサディスが、宵闇のサディスが、眠りにつくサディスが。全部」
 シャリーの言葉はとらえどころがない。
 それでもディアマンテはわかったようで、ああとうなずいて遠い過去を眺める。
「シャリーさん、きっとそうだ。いまやっとわかった」
 微笑むシャリーに、ディアマンテは頷く。
「シャリーさんがミリーを元気にしたとき、まるで生き返ったように思ったのだ。ミリーはまるで生き写しで、戸惑ってしまった。驚いた」
(それで懐かしんでいるのか)
 イコウは運ばれてきたコーヒーを飲みながら、得心がいく。
「ミリーちゃんを元気にさせてあげてください。あまり怒らないで」
「あ、ああ、努力しよう」
 ディアマンテは戸惑いがちに頷く。
「それと、お兄さんは許してあげて」
「その、そうすれば、ミリーが元気になる?」
「きっと」
 頷くシャリーに、どうもディアマンテは絶大な信頼を置いているようだった。
「しかし、あいつはいったいどういうつもりで?」
「きっと、名乗り出ます。目の前に姿を現します」
 ディアマンテはしきりになにかを考えるが、ふとカフェの入り口に視線を向け、低い声で囁く。
「待ち合わせの客が来たようだ」
 視線を向けると、商人らしき数人の男たち。きっと商談が始まるのだろう。
 イコウとシャリーはディアマンテに礼を言い、カフェをあとにした。

 ・どうする?


  ■花屋を探す。  107  【出現条件】:flag000*flag104  【消失条件】:flag000*flag107
  flag107  花屋を探した
  ■洋服屋を探す。  108  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag108*flag105
  flag108  洋服屋を探した
  ■聖堂を探す。  113  【出現条件】:flag000*flag104  【消失条件】:
    
  ■故買屋へ行く  114  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag114
  flag114  故買屋へ行った



111


 ミリーが坂道を駆けていると、ふいにふしぎな扉が通りにあることに気づく。
 真っ白なしっくいに、真四角のパステルブルーの扉。
 ピンクのサルビアの鉢植えがすてきなアクセントになっていて、カフェであることを告げる看板が下げられていた。
 ミリーは得意になってその扉を開く。
 にぎやかな談笑と、海からの心地よい風。
 サディスの断崖に開かれたテラスから夕方のひかりが差し込んでいた。
「お嬢さん、お一人で? お待ち合わせですか?」
「あの席にしてもらえる?」
 ミリーはテラスの席の中で唯一空いている、潮風が心地よさそうな席を指す。
「どうぞ、ご案内しましょう。ちょうど空いたところなのです」
 にこやかなウェイターにミリーはその笑顔を向ける。
 椅子に座ると、夕方になろうとしているサディスの光景が一望にできた。
 そのすばらしい景色にミリーはぼうぜんとする。
「ごめんなさい。紅茶を」
 上の空でミリーは告げる。
 いつもの青。
 海の、屋根の、風車の、扉たちの、そして紫に浸食されつつある空の。
 その混じり合うブルーを、ミリーはその全身で受け止める。
 潮風がその短い髪を揺らす。
 花の香りがする。
 ピンクの花の香り。
 それに紅茶の香りが混じる。
「お待たせしました」
 カチャリとティーカップが置かれる。
 ミリーは放心したままウェイターを見上げる。
「すてきな景色」
「ええ、そのお席をお気に入りにされているお客様はたくさんいらっしゃいますよ」
 にこっりと笑う。
「たとえば?」
「たとえば、そうですね、ディアマンテさんなどはその筆頭でしょうね。今も週に何度かはいらっしゃいますが、奥様がお亡くなりになる前はほぼ毎日、陸にいるときは。なかむつまじくおうらやましい限りでした。ディアマンテさんが航海にでいるかそうでないのかは、この席をみればわかりました。奥様がたいへんお気に入りだったのです」
「ありがと」
 ミリーが言うと、ウェイターは一礼してさがる。
 みたことのない母親が好きだったという景色を見てミリーは想う。
 わたしは、この景色が好きだ、と。
 この席になら、一日中でもいられると。
 目の前に父であるディアマンテが座っているような気がしてくる。
 その父はどんな顔をしていたのだろう?
 いまのように怒鳴ってばかりの父ではなかったはずだ。
 そう信じることができるような気がした。
「すてき……」
 潮風が紅茶の香りをミリーの鼻まで届ける。
 あわててミリーはティーカップに砂糖を入れ、ミルクを注ぐ。
 それを口に運ぶと、眼下で街灯がまたたき始めたのに気づく。
 サディスに、その夕闇に沈む街並みの中に、星のようにいくつもの街の灯が音もなくつぎつぎと点っていく。海鳥が上空から滑空してきて、ミリーはそれがどこの海鳥だったか思い出す。
 海に開けたテラスは東岸中に、世界中に開けた、船乗りたちを見渡せる窓だった。
「すてき」

 イコウとシャリーがカフェでミリーを見つけたのは、そんなときだった。る。
 イコウはミリーに気づかれないように、静かに歩く。
「ミリーちゃん、探したよ。そろそろ帰ろう、もう夕方だし」
 はっとミリーはイコウを見上げ、それから申し訳なさそうにするシャリーを見る。
 驚きをたたえた瞳が、恐怖に染まっていく。
 がたんとミリーは立ち上がり、そのまま駆け出す。
「み、ミリーちゃん、シャリー、見失わないでくれ」
「お、お客様!」
「あ、ああ、お代ですね、ちょっと待って。シャリー頼むぞ!」
 イコウは、ポケットから銀貨をつかみだし、それをウェイターに渡す。
「確かに。しかし、お嬢さま、たいへん感激されていたようなのですが」
 イコウはとたんに胸が締め付けられるような痛みを覚える。
「今日だけなんだ……。今日だけ、特別なんだ」
 耐えられなくなって、カフェの外へ飛び出す。
「どっちへ行った?」
 シャリーの指さす方へ飛ぶ。
 軒を蹴り、屋根に降り、上からミリーを探し、石畳を走るシャリーに方向を教える。
 それから、また、その小さな背中を追って、またジャンプ、空中の人になった。
(ミリーちゃん、このままの方がいいんじゃないだろうか?)
 ふとわいた疑念に、イコウは慌てて首を振る。
(シャリーの力が強すぎるから、持続しているだけだ)
 イコウはわかっている。
 魔法はいつか消える。
 屋根に着地すると、イコウはミリーを見失っていた。

「イコウ、もう日が暮れるよ?」
「わかってるさ! でも、見つけないわけにはいかないじゃないか!」
 カリカリするイコウは、シャリーがついてきていないことに気づく。
 数十メートル後方で、立ちすくんでいる。
 イコウはため息をつき、シャリーの元へゆっくり歩いて行く。
「イコウ、怖い……」
「ごめん、ついさ。ごめんな」
 泣き出しそうになるシャリーをなだめる。
 頭をなでると、少し落ち着く。
 シャリーが落ち着くのを見ると、イコウも冷静さが戻ってくる。
「どこ行っちゃったんだろう? ミリーちゃん」
「うん」
 シャリーがいじけながらついてくる。
 ふいにシャリーの足が止まる。
 またかと振り返ると、シャリーの表情は輝いていた。
 その方向を見ると、人の輪ができている。
 人々がしきりに女の子がとつぶやくのを聞いて、イコウはあわてて、その人の輪をかき分けた。
 小さな路地にちょこんと座る少女。
 そのあどけない姿は、すやすやと寝息を立てていた。
 シャリーが追いついて、それからふっと笑う。
「疲れちゃったんだね」
 ミリーが眠っていた。


  ■邸宅へ戻る。  115  【出現条件】:  【消失条件】:
    



112


「うーん、聖堂なんてどうだろう?」
「まあ、明日お祭りだし」
 シャリーは、納得いかない様子でうなずく。
 イコウは人混みの中をきびすを返し、その中心街にそびえる聖堂の尖塔へ向かう。
「ほんとに、お祭り……」
「ああ、運がいいよおれたちさ、リオネのわがままにつきあって……」
 そこまで言ってふと気がつく。
(あれ? リオネ、そのこと知ってたんじゃないか?)
 リオネのわがままはもう馴れてきたのだが、たいていは損のないように計算され尽くしているような気がする。パオペラの船内で戦利品を売るからサディスへ寄ろうと言い出した時から、リオネはこのスークル神の大祭を満喫するつもりだったんじゃないかと、思えてくるのだ。
「リオネさん、知ってたのかなぁ、お祭りがあるって」
 きょとんとするシャリーの瞳を見て、イコウは首を横に振る。
「ぐーぜん、偶然。リオネはいつも行き当たりばったりなんだから、行こう、行こう!」
「あ、待って、イコウ!」
 走り出したイコウをシャリーはあわてて追った。

 スークル神の聖堂はサディスでももっとも大きな建造物で、質素な彫刻で飾られた荒い石造りの姿がいかにも無骨に見える。
 新興国のシドなどとは違い、海洋民族の発祥である東岸諸国は、まるで本家はこちらだと言わんばかりに古いめいた建物が多い。聖堂はその代表ともいえ、サディスを守護するスークルの住処は過ぎ去った長い年月を感じさせる質素なものだった。
 イコウは祭りの準備にせわしない人々をかき分け、聖堂の内部へ入っていく。
(だから、花で飾るのか)
 高い天井の丸いドームを見上げ、むき出しの石の素朴さに、スクールの大祭がどのようなものであるのか、分かるような気がしてくる。
「おいついた。イコウ、急に走るから」
 振り返るとふいに、人混みの向こうから楽器の音色が聞こえてくる。
 ヴァイオリンに導かれるようにギターの重奏が続き、フルートの旋律がメロディーを漂わせ始める。打楽器はない。リズムを刻むのはギター。ふしぎと荘厳で、イコウの聞いたことのない音楽が奏でられる。
「楽団の練習かな?」
「ほんとうはお祭りの日まで聞いちゃいけないんだから」
 ぷいとふくれるシャリーを尻目に、人混みの中にミリーを探す。
 祭りの準備に明け暮れる人々の中を歩くと、楽団の音楽を鼻歌にする人があることに気づく。見ると、誰もがそのリズムに乗っているような気がしてくる。リハーサル中の楽団に、みな心を重ねている。イコウはふいにうれしくなって、あちこちにミリーを探す。
(パオペラに乗せてあげるんだものな、迎えに行かなくちゃ)
 スークルの大祭がどのようなものでも、イコウはそれが待ち遠しくなった。
 ふと見慣れた顔を見つけて、イコウは足を止める。
(あれ? ディシュさん?)
 みると、祭壇の花束の近くの司祭らしき老人と、親しげに会話している。
 それもやがて終わり、二人は握手をする。
「どうしたの、イコウ? あ、ディシュさん」
 シャリーの顔が明るくなる。
 それに気づいたのか、ディシュも片手を上げ、意気揚々と歩いてくる。
「やあ、」
「絵ですか、ディシュさん? 描くんですか」
 ディシュは微笑して、少し照れるようにほほをかく。
「肖像画ですが……、司祭さまの」
「じゃあ、しばらくサディスにいることになるんだね、ディシュさん」
「ええ、まあ」
 鷹揚にうなずき、それから聖堂の天蓋を仰ぎ見る。
 ディシュは、感慨深そうにためいきをついた。
 それから楽しそうに笑い、照れたような表情をする。
「勘違いしてしまいましたよ。絵を描いてほしいなんていうから」
「勘違い?」
 ディシュは瞳をきょろきょろとする。
 それから諦めたようにため息をつく。
「夢なんです、子供の頃からの。ここの聖堂を絵で埋め尽くすのが」
 しばらくぽかんとしていたがイコウはその意味に気づく。
 確かにこの聖堂の内装を新しく仕立てるなら、絵画で埋め尽くされることになるだろう。
「ディシュさんなら、いつ描いてもおかしくないよ」
 ディシュは慌てた。
「ば、馬鹿なことをいわないでください。もっと腕を上げてからでいいのです。死ぬまでにできればいいんです。それに、わたしは工房の人間です」
 ディシュは用事があるからと立ち去る。
 その足取りは、気のせいか軽く見えた。
「イコウ、ミリーちゃんいないよ?」
「あ、ああ、そうか」

 どうする?


  ■花屋を探す。  106  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag106*flag104
  flag106  邸内の使用人たちはジョゼフに継いで貰わないとこまる
  ■洋服屋を探す。  109  【出現条件】:flag000*flag105  【消失条件】:flag000*flag109
  flag109  洋服屋を探した
  ■カフェを探す。  111  【出現条件】:flag000*flag105  【消失条件】:
    
  ■故買屋へ行く  114  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag114
  flag114  故買屋へ行った



113


 ミリーは聖堂にやってくると、祭りの準備に忙しい人々の間を歩く。
 正門をくぐり、その石造りの巨大な空間を見上げると圧倒される。
 高い天井の丸いドーム。
 その窓から差し込む夕日に照らされる、素朴なむき出しの石肌の陰影。
 広く厳粛なところを大勢の人々が汗を流して、歩き回っている。
 ミリーが一歩足を進めると、ふいに音楽が鳴った。
 高い旋律のバイオリンが聖堂を漂い、それに導かれるようにギターの重奏が続き、フルートの旋律がメロディーを漂わせ始める。打楽器はない。リズムを刻むのはギターだった。ふしぎと荘厳で、どこかで聞いたことのあるような気がする音楽だった。
 ミリーは導かれるように、楽団のリハーサルへと歩いて行く。
 すこしゆくと人混みは切れ、整然と木製のベンチが並ぶ。
 その向こうで楽団は奏でていた。
 ミリーは、そのそばに、花束を携えたおじさんがいることに気づく。
 司祭らしき老人に、そのカーネーションを手渡し、司祭はそれをそっと花瓶に生ける。
 祭壇はお供えの、カラフルな花々に埋め尽くされており、司祭は花瓶をその一角に置いた。
 おじさんは二三こと、言葉を交わした後、おそらく息子であろう少年に手を振る。
 それからゆったりとした物腰で歩み、木製のベンチの最前列にゆっくりと座る。
 楽団の奏では、春から夏に移り、ギターが豪雨を響かせる。
 ミリーは、ずっと立ち尽くしたまま、それをしばらく聴いていた。
 フルートの雷鳴が鳴る。
 背筋をふるわせてミリーは聴き、ゆっくりと歩き出し、ベンチの最前列の、おじさんの隣に座る。
 おやという様子で気づいたおじさんに、ミリーはにこっと笑う。
「まいごかな? じゃあ、おじさんと話す時間はあるね?」
「うん」
 ミリーはほっとして、胸の前に握ったままだった両手を膝の上におろす。
「息子でね。バイオリンに抜擢された」
 おじさんはミリーにわかるように、大人たちに紛れてバイオリンを弾く少年を指さす。
 ミリーはきょとんと、懸命に重役を果たす少年を見つめる。
「心配でねえ、それで見に来たんだ。ひとりで心細いんじゃないかって思ってね」
「うん」
「お嬢ちゃんも、一緒に見守ってくれるんだね?」
「うん」
「それは心強い」
 おじさんはにっこりと微笑み、ミリーはそれに笑顔を返す。
「ミリー、みんな見守っているよ?」
 おやという顔をして、おじさんはミリーを見つめる。
 ふと見ると、少年がおじさんとミリーに気づき、その頬を赤らめる。
 おじさんはくっくと笑った。
「あいつ、勘違いしたようだ」
 おかしそうに笑う。
「ミリーちゃんと言ったね? 明日の大祭も息子を見守ってあげてくれないかな。聞きに来るまではしなくてもいいから、そう、心の中で、一瞬だけでもいいから、がんばれって、そう思ってほしいんだよ」
「うん!」
「おじさんと約束だ」
 差し出された手を、ミリーの小さな手が握った。

 イコウとシャリーは聖堂に入り、ミリーをようやっとのことで見つける。
 楽団のリハーサルを聞きながら、中年の男となにやら親しげに話をしている。
 イコウはミリーに気づかれないように、静かに歩く。
「ミリーちゃん、探したよ。そろそろ帰ろう、もう夕方だし」
 はっとミリーはイコウを見上げ、それから申し訳なさそうにするシャリーを見る。
 驚きをたたえた瞳が、恐怖に染まっていく。
 がたんとミリーは立ち上がり、そのまま駆け出す。
「み、ミリーちゃん、シャリー、見失わないでくれ」
 イコウは残念そうな中年の男を見つめる。
「振られてしまいましたねえ」
「ミリーちゃん、とても楽しげだった」
 男は寂しく笑う。
「とてもいい子だった」
 イコウはとたんに胸が締め付けられるような痛みを覚える。
「今日だけなんだ……。今日だけ、特別なんだ」
 耐えられなくなって、高飛びの石を握りジャンプ、ふわりとその人々のはるか上をゆっくりと飛ぶ。すたっと、正門の近くに降り、驚く人々を背にシャリーに聞く。
「どっちへ行った?」
 シャリーの指さす方へ飛ぶ。
 軒を蹴り、屋根に降り、上からミリーを探し、石畳を走るシャリーに方向を教える。
 それから、また、その小さな背中を追って、またジャンプ、空中の人になった。
(ミリーちゃん、このままの方がいいんじゃないだろうか?)
 ふとわいた疑念に、イコウは慌てて首を振る。
(シャリーの力が強すぎるから、持続しているだけだ)
 イコウはわかっている。
 魔法はいつか消える。
 屋根に着地すると、イコウはミリーを見失っていた。

「イコウ、もう日が暮れるよ?」
「わかってるさ! でも、見つけないわけにはいかないじゃないか!」
 カリカリするイコウは、シャリーがついてきていないことに気づく。
 数十メートル後方で、立ちすくんでいる。
 イコウはため息をつき、シャリーの元へゆっくり歩いて行く。
「イコウ、怖い……」
「ごめん、ついさ。ごめんな」
 泣き出しそうになるシャリーをなだめる。
 頭をなでると、少し落ち着く。
 シャリーが落ち着くのを見ると、イコウも冷静さが戻ってくる。
「どこ行っちゃったんだろう? ミリーちゃん」
「うん」
 シャリーがいじけながらついてくる。
 ふいにシャリーの足が止まる。
 またかと振り返ると、シャリーの表情は輝いていた。
 その方向を見ると、人の輪ができている。
 人々がしきりに女の子がとつぶやくのを聞いて、イコウはあわてて、その人の輪をかき分けた。
 小さな路地にちょこんと座る少女。
 そのあどけない姿は、すやすやと寝息を立てていた。
 シャリーが追いついて、それからふっと笑う。
「疲れちゃったんだね」
 ミリーが眠っていた。


  ■邸宅へ戻る。  115  【出現条件】:  【消失条件】:
    



114


「故買屋へ行ってみようよ、ミリーちゃんはいないと思うけど」
「え? どうして?」
 首をかしげるシャリー。
「パイプを誰が持ち込んだのか知りたくないのか?」
 なるほどと頷くシャリーをつれて、イコウはメインストリートへと向かう。
 件の故買屋はその繁華な中にあり、なかなか格式のある門構えで入りがたい。
 イコウが意を決して、扉を開こうとすると、扉は自然に開き、その向こうにらんらんとした見慣れた瞳がふしぎそうに見つめていた。
「イコウ、どうしたんだ?」
 リオネだった。
 その商人少女は得意げに頬を上気させ、いまにもなにかを話したそうだった。
「あ、いや、リオネも来ていたのか」
 リオネは、口を右手の平で覆って、いっしっしと笑う。
「いろいろわかっちゃったよ」
「そ、そうなのか?」
 リオネの細身の身体がイコウの横をすり抜ける。
「あとで話す。込み入っているからさ」
 背中越しにひらひらと手を振るリオネを仕方なく見送るが、イコウは内心むっとする。
「わかったよ!」

 どうする?


  ■花屋を探す。  106  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag106*flag104
  flag106  邸内の使用人たちはジョゼフに継いで貰わないとこまる
  ■花屋を探す。  107  【出現条件】:flag000*flag104  【消失条件】:flag000*flag107
  flag107  花屋を探した
  ■洋服屋を探す。  108  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag108*flag105
  flag108  洋服屋を探した
  ■洋服屋を探す。  109  【出現条件】:flag000*flag105  【消失条件】:flag000*flag109
  flag109  洋服屋を探した
  ■カフェを探す。  110  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag110*flag105
  flag110  ディアマンテ、ミリーが奥さんの生き写しという
  ■カフェを探す。  111  【出現条件】:flag000*flag105  【消失条件】:
    
  ■聖堂を探す。  112  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag112*flag104
  flag112  聖堂を探した
  ■聖堂を探す。  113  【出現条件】:flag000*flag104  【消失条件】:
    



115


 ミリーを寝かしつけたジョゼフが食堂に戻ってくる。
 すでに始まっているディナーが順調に進んでいることを見て、ジョゼフはおおげさにため息をついた。
「客の前だ、ジョゼフ」
「は、はい、申し訳ありません。つい。大変だったので」
 ディアマンテの厳しい視線を受け、ジョゼフは背筋を伸ばす。
 イコウは料理の貝と格闘しながら、昼の騒ぎを思い出し、シャリーにささやく。
「ちゃんとできたじゃないか、シャリー。立派だった」
 シャリーは頬を赤らめうつむくが、それでもぼそっと言った。
「そうかな?」
「シャリー、初めてなんだろ? じゃあ、失敗もするさ。気にする必要ないさ」
 もぐもぐと口を動かしながらリオネが言う。
 なおもうつむくシャリーを見て、ロットがディアマンテに訪ねる。
「なにかご不満な点がありましたか?」
 ディアマンテは食事の手を止め、しきりになにかを考えるが、いや、と呟く。
「まるで、生前の家内が生き返ったみたいだった。シャリーさん、ありがとう」
「は、はい」
 そのせいだろうか、今夜のディアマンテからは不機嫌さはみじんも感じられることなく、その地位にふさわしい厳格な商人の姿をしていた。

 ディアマンテはジョゼフに聞く。
「それで、ミリーはどうなんだ?」
「おやすみになられています、が」
「続けろ」
 ジョゼフはなにかを躊躇するが、誰もの視線を受けて口を開く。
「蛾が、蛾がと。なにか悪い夢を見られているようなのです」
 ディアマンテは怪訝な顔をする。
「その話は、わたしも聞いたことがありますよ」
 一同の視線がディシュを向く。ディシュはきょとんとしたが、ああ、と口を開く。
「ミリーと話をするのです、表情を作らなければならないので。それがいつだったか、その夢の話をしてくれたのです。蛾の夢です。ミリーによればこの家には蛾が住んでいて、それが夜な夜なミリーの寝室へ忍び込み、その元気を吸うのだそうです。おそらくその夢を見ているのでしょう」
 淡々としたディシュの言葉を噛みしめディアマンテは真剣なまなざしをディシュに向ける。
「そうか、ありがとう」
「なんでも、パイプが返ってくれば、その夢は終わるのだと、そうとも言っていました。なにか心当たりが?」
「パイプは返ってきた!」
「なるほど、それはぜひ拝見したいですね」
 イコウがその意味深な会話に首を傾げていると、リオネが好奇心に瞳を輝かせているのを見とがめる。リオネはイコウの視線に気付いて声に出さず口を動かす。
「あとで」
(ちぇっ、リオネの奴、なにか隠してるなぁ)
「よし、では皆さんにお見せしよう。と、イコウさんたちは、このパイプをお持ち頂いたのだったな」
「あ、ああ、そ、そうだった」
 なにかそれは遙か昔だったような気さえしてくる。

 退出するディアマンテを見送り、イコウはほっとするジョゼフに聞く。
「大丈夫? ミリーちゃん。連れ回しちゃったからさ」
「お疲れのようです。しかし、ほんとうによくなるのでしょうか?」
 イコウはシャリーを見るが、シャリーは自信なさげに言う。
「本当なら、共感者は定期的になおしたい人を観るの。でも今回は、これっきり、今日だけ。だから……」
「そうですか……。致し方ありません。いつまでもいて頂く訳にはいきませんし」
「サディスには寄るからさ! おれ、ミリーちゃんと約束したんだ、あちこち見て回ってミリーちゃんに報告に来るって!」
 イコウが思わず立ち上がるのに、ディシュはにこっと笑う。
「わたしも、しばらくサディスには逗留することになりそうです。聖堂の司祭さまの肖像を描くことに」
 それを聞いてジョゼフはほっと息をつく。
「では、邸内にお部屋をご用意いたしましょう」

「ない! パイプがない! どこかへ行ってしまった!」
 血相をかえたディアマンテが戻ってきたのはしばらくしてからだった。
 すでにディナーは食事を終え、デザートを終え、軽い談笑になっていた。
 ジョゼフが緊張するが、他は戸惑うしかなかった。
「やはりあのときですね、ディアマンテさん?」
 イコウが昨晩のことを聞くが、ディアマンテは取り乱し、なにやらぶつぶつと呟くだけ。ジョゼフはおろおろと心配して、声を掛けようとする。
「だ、旦那様。本日はもう夜も遅いですし、おやすみになられた方が」
「うるさい! 私に指図するな! 家令の分際で! 何様のつもりだ!」
 ジョゼフはひるむが、ディシュとイコウたちに退出を促す。
 食堂を出て、廊下を歩きながら、イコウは聞く。
「なんか知ってるんだろう? リオネ?」
「へ? ああ、部屋までまとうよ」
 にやにやするリオネにちぇっとイコウは毒づく。
「イコウ、わたし、夜食作ってくるね? ジョゼフさん、まだ残っているかなあ?」
 シャリーは食堂へ戻っていった。


  ■作戦会議をする  200  【出現条件】:  【消失条件】:
    



116


 気付くと大祭の朝は明けていた。
 さわがしい子供の嬌声、もうすっかり慣れた海鳥の鳴き声、ばたばたと潮風にはためくレースのカーテン。
(もうすこし寝たい)
 頭の芯がずんずんと痛む。
 きっと昨晩は頭を使いすぎたんだ。
 ロットは、ベッドで寝返りをうち、重いまぶたをぼんやりと開く。
(し、信じられない)
 がばっと起き上がり、窓から下の子供たちとなにやら大声で話しているイコウの背中を見つめる。
「やっと、起きたか。スークルの大祭、もう始まってるぞ」
 寝ぼけ眼で事態を把握する。
(まだ、朝食前じゃないか)
「おーい、次はどこへ行くんだ? 上の方は行ってきたのか?」
 イコウの大声が頭に響く。
「あー、ロット、まだ着替えてない! イコウ、朝食は食堂だって」
 扉が開いて、シャリーが入ってくる。着替えをロットに渡し、ぷりぷりと怒って部屋を出て行く。ベッドからのろのろと出て、袖を通す。イコウは手を振って、ばたんと窓を閉め、まぶしいものでも見たような顔で笑った。
「たっく、ロットが弱いのって、朝ぐらいだよな」

「おっはよー、ロット!」
 部屋を出ると、いつになく元気なリオネ。
 居ても立ってもいられない様子で、廊下を歩く。
「スークルの大祭をこんなゲストハウスで味わえるなんて、ついてるな、あたしたち」
 客室のある三階から食堂の一階までは外階段で、イコウたちは挨拶にやって来た商人たちの列に会う。誰もが捧げの花束を携え、ちいさく祈りの言葉を、そしてささやかな会話をする。
(人気なんだ、ミリーちゃん)
 順番を待つ列は心なしか華やいでいるが、帰る商人は心なしか沈んでいた。
「元気になったと聞いていたら・・・・・・」
「なにもかわらない、東岸はいつもそうですよ」
 花、花、花。
 スークルの大祭はカラフルな花の洪水のようだった。
(ミリーちゃんの寝室はさぞかし壮観だろう)
 ロットは、祭りの雰囲気に華やぐイコウたちのようには、なぜかはしゃげないでいる。
 一階まで来て、テラスからサンルーフに上がると、邸内のどたばたが聞こえてくる。
 すれ違う使用人たちは、ワインやら、テーブルクロスやら、食器かごやらを腕に抱えて、イコウたちに気付くと、決まって同じ事を言った。
「おはようございます、スークルさまのご加護を、今日ぐらいは」
「急げ、時間がないぞ! イコウさん、おはよう」
 ディアマンテが使用人たちに矢継ぎ早に指示を、鋭い視線を飛ばす。
 玄関では、ジョゼフが花束を携えた子供たちにキャンディーを渡すのに忙しい。
「おやようございます、イコウさん? いい天気ですよ。スークルの大祭に相応しい」
 にっこりと笑顔を浮かべるが、積み上がる花束の山を見て、せわしく頭をかく。
 廊下では、ディシュが商人たちに囲まれている。
 なにやら軽く芸術論をたたかわせているようで、それはディシュを心楽しくさせるようだった。視線がイコウやロットをちらりと見て、にこっと笑って手を振る。
 食堂には、シーフードのリゾットが湯気を立てており、イコウはスプーンを握って真っ先に飛びついた。ロットがゆっくりと座ろうとするのに、舞い上がったリオネが言う。
「すごい、スークルの大祭、こんなだったか。花だらけじゃん」
(リオネさんが舞い上がるなんて珍しい)
 ロットはゆっくりとスプーンを持ち上げる。
「でもね、こんなに人が来たら、心配。ミリーちゃん、大丈夫かな?」
 シャリーが表情をかげらせるのに、イコウが顔を上げる。
「なにいってんだよ、おれたちでなんとかするんだろう?」
「そーだよ、シャリー、昨日あんなに話したじゃん」
 リゾットを口に運び、租借して、ロットは誰もの視線が自分に向いているのに気付く。
 その瞬間、リゾットの温かさが腹に落ち、胸に広がり、とつぜんにロットは、自分がスークルの大祭のまっただ中にいるのだと気付いて、目が覚める。
「あ、ああ」
(そっか、みんなやる気なんだ)
 ごくりと飲み干すと、全身が温かくなってくる。
(ならば、このスークルの大祭に相応しい結果にしなければ。ハッピーエンドに)
 ロットは笑顔になる。
「じゃあ、昨日の算段通りに」


  ■ディシュに話をつけに行く  118  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  143  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフに話をつけに行く  128  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■スケッチブックを確認しに行く  117  【出現条件】:flag000*flag214  【消失条件】:
    
  ■とくになにもせずお昼を待つ  139  【出現条件】:  【消失条件】:
    



117


「まずは、スケッチブック」
 イコウの言葉に頷き、商人たちで溢れかえる外階段を上る。
 むせかえるような花の香りに戸惑うが、2階のミリーの寝室前の家族の広間に入ると、それがさらに増したような気がした。
 記帳する商人たちをよそに、その商人たちの交通整理に忙しいジョゼフに声を掛ける。
「ジョゼフくん、お兄ちゃんの部屋、覗かせて貰うよ?」
「え? はい、なんですか?」
「昨日気になるものを見た気がしたんだ。いいかな?」
「ええ、どうぞ」
 首を傾げるジョゼフをよそに、イコウは兄の部屋に足を踏み入れる。
「あった! あったじゃん。イコウ、すごいじゃん」
 リオネが、部屋の片隅に立てかけてあるスケッチブックに瞳を輝かせる。
 朝のすがすがしいひかりに、スークルの大祭の香りの中に、十年もそのままになっていた十冊以上のスケッチブック。イコウは、しずかに歩いて、それを取り上げる。
 そのほこりをはたく。
(どういう気分だったんだろうなぁ)
「なになに? 見ないの?」
 リオネは別の一冊を取り上げて、それをぺらぺらとめくる。
 その猫のような瞳が、らんらんと輝いていく。
 その手が、まるで止まらないというように、リオネはためいきをつきながらページをつぎつぎとめくる。
 イコウは、思い切って、その扉を開く。
 とびこんできたのは、若く勇敢そうなひとりの男。
 それは知っている男だった。
「す、すごい……。とっても、うまい」
 シャリーの言葉はかなり控えめだと、イコウには分かった。
「若い頃のディアマンテさんか。やはりあの玄関の肖像画は結構正確なんだ」
「ああ」
 これを、今のディシュが描いたと言われても、イコウには違うと気づけないだろう。
 溢れるような光彩で、その自信に満ちた男を、羨望のまなざしを持って少年は描いていた。
「あ!」
 ひとり、つぎつぎとスケッチブックを制覇していたリオネが驚きの声を上げる。
 満足そうにリオネはにやにや笑い、いたずらっぽい視線を3人に向ける。
「なんだ? リオネ?」
「あはは、あたし、お手柄だ」
 リオネは、そのスケッチブックを、反転させてみせる。
 まっすぐ見つめる少年がそこにはいた。
 すこし憂い、それでも風のようにさわやかで、不安に沈んでいる。
 若かりし頃のディシュが、その自画像が、その水彩の色彩の中で問いかけていた。
(どうしたらいいのだろう?)
 イコウにはその少年にかけてあげることのできる言葉はない。
 そして、イコウはその少年がその後どうしたかを、そして今なにをしているかを知っている。
「決まりだ」
 ロットが興奮気味に呟く。
 イコウはふと気付く。
「まってくれよ、肖像画の少年とぜんぜん似てない。そうだろ?」
 ロットはにこっと笑って、イコウの背中をたたく。
「それは本人の口から聞いた方がいいよ」


  ■ディシュに話をつけに行く  119  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  143  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフに話をつけに行く  128  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■とくになにもせずお昼を待つ  139  【出現条件】:  【消失条件】:
    



118


 大祭の挨拶をする商人たちに混じって、なにやら忙しそうな使用人を捉まえる。
「え? ディシュさんですか? えっと、お嬢様の肖像画の仕上げをしているのではないでしょうか? 今日、できあがって、お披露目と言ってましたから」
 きょとんとした使用人を置き去りに、商人たちで溢れかえる外階段を上る。
 むせかえるような花の香りに戸惑うが、2階のミリーの寝室前の家族の広間に入ると、それがさらに増したような気がした。
 記帳する商人たちをよそに、その商人たちの交通整理に忙しいジョゼフに声を掛ける。
「ディシュさんはどこかな?」
「ええ、ディシュさんなら、寝室でお嬢様の肖像画を。最後の仕上げです。ああ、話してなかったですね。本日、肖像画のお披露目パーティーがあるのです。遊覧飛行の前に」
 イコウたちはたえない列を横目に、ミリーの寝室へ入る。
 ふっと潮風が香った。
 花香に染まりピンクにも、ブルーにも、イエローにも、パープルにもなった色鮮やかなサディスの潮風が、ミリーの寝室をなでる。
 寝台で無表情にするミリーの元に商人たちは日頃の感謝を、ミリーはそれに無言を返していた。涼しげなディシュはカンバスの向こうで、絵筆を走らせる。その瞳には、秘めたる熱意が潜んでいるよう、イコウには見えた気がした。
 イコウが近づくと、ディシュは視線でそれを制す。
「お披露目はまだなんです」
 ちらちらとディシュは、イコウとカンバスとミリーへと視線を散らす。
「いつ終わるかな?」
 ディシュは破顔して、絵筆をおろす。それからためいきをついて、わらう。
「まあ、昼までには。待ちますか」
「ああ」

 話してみると、ディシュはとても饒舌だった。
 その声はいつも涼やかなのだけれど、鋭かったり、好奇心に満ちていたり、奥ゆかしかったり、繊細だったり、さまざまな表情を見せる。
「それで、どうなったんですか? 親父さんを怒らせてしまったんでしょう?」
「ああ、だけど親父は忘れてたんだ、おれに昨日高飛びの石の置き場所を教えてしまっていたことを。それで、急いでそれを持ち出して、飛んだ」
「飛んだ? 飛びたった浮遊船に?」
「60mぐらいあったんじゃないかな? 高さ。それでもまんまと船尾にしがみついた。たしかあれが初めて飛んだ日だった」
 ディシュはくくくと笑う。
 きっと慣れているのだろう、雑談をしながらも絵筆は動く。
 もっぱら話すのはイコウの昔話、それでもイコウはディシュがそれを楽しんで聞いているのを見てくつろいだ。なにか、何時間も話しているうちに、こんな親友がいたんじゃなっかったっけ? という心地になる。
 イコウは、ちらりと尽きない列を見てうんざりとする。
「しかし、勝手なものだよな。ミリーちゃんが元気になった途端さ」
「まあ、そういうものですよ、人ですから」
 ディシュは見慣れているのか、ためいきさえしない。
 ふと、筆を止めて、ディシュは気付いて笑う。
「イコウさんは、そうじゃないんですね。なんたって元気にしたのですから、まるっきり逆です。そうか」
 満足そうに、にこにこと笑うディシュを、イコウは怪訝に思ったが、唐突にそれは破られる。
 広間の方から、大声が聞こえ、なにやら騒がしくなる。
(ばか、リオネだ。たく、こんなところで!)
「な、なんだと!?」
「おまえら、自分が弱いからって、頼ってんじゃない。よく見てみろ、目を見開いて。おまえらがすがっている相手は、もっとか弱い女の子なんだぞ! 逆だろ、ふつう! そんなことも分からないのか!」
 ディシュを見ると視線が合う。
 イコウが部屋の外へ歩き出すと、ディシュが声を掛けた。
「今度描かせてください。お礼はします」
 イコウは背中越しに手を振り了承する。ディシュは首を傾げて、ひとりごちる。
「わかってるのかな。あなたたち4人を、なのだけど……」

 イコウが広間へ出ると、あたふたとしたジョゼフがイコウを見る。
 それにつられるように商人たちの険悪な視線がイコウに向かった。
 壁際で見ていたシャリーははらはらと、ロットは腕を組んで静観していた。
 イコウは口を開く。
「リオネ、謝るんだ。ここはサディスだぞ。しかもお祭りじゃないか。穢すのか?」
 リオネはその怒気をはらんだ瞳をイコウに向け、ばつが悪そうに視線を伏せる。
「わかったよ。ごめん、謝る。あたし調子に乗ってた。すまない。傷つけるつもりはなかったさ。これは借りだ、なにかあったらちゃんと返す」
 しおらしい〈トパーズの眼〉の言葉に、商人たちは戸惑いながらも、言葉を投げる気力が消えていく。
 その視線が、ふたたびイコウをむく。


  ■リオネはミリーちゃんを助けたいだけなんだ。悪気はないんだ。  120  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■リオネは、東岸の商人がうらやましいだけなんだ。暖かくて。人の繋がりを大切にして。  121  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■今日はスークルさまの大祭でしょう? きっとなにかいいことが起こる日なんです? 悪いことはきっと起こらない。  122  【出現条件】:  【消失条件】:
    



119


 兄の部屋を出て、家族の広間まで来るが、商人たちの波は途切れることがない。
 その中をせせこましく歩き回っているジョゼフをイコウは止める。
「ありがとう。済んだよ。ディシュさんはどこかな?」
「ええ、ディシュさんなら、寝室でお嬢様の肖像画を。最後の仕上げです。ああ、話してなかったですね。本日、肖像画のお披露目パーティーがあるのです。遊覧飛行の前に」
 イコウたちはたえない列を横目に、ミリーの寝室へ入る。
 ふっと潮風が香った。
 花香に染まりピンクにも、ブルーにも、イエローにも、パープルにもなった色鮮やかなサディスの潮風が、ミリーの寝室をなでる。
 寝台で無表情にするミリーの元に商人たちは日頃の感謝を、ミリーはそれに無言を返していた。涼しげなディシュはカンバスの向こうで、絵筆を走らせる。その瞳には、秘めたる熱意が潜んでいるよう、イコウには見えた気がした。
 イコウが近づくと、ディシュは視線でそれを制す。
「お披露目はまだなんです」
 ちらちらとディシュは、イコウとカンバスとミリーへと視線を散らす。
「いつ終わるかな?」
 ディシュは破顔して、絵筆をおろす。それからためいきをついて、わらう。
「まあ、昼までには。待ちますか」
「ああ」
 ディシュの視線が、イコウの持つスケッチブックにむいて、止まる。
 そして、苦笑した。
「どんな話をしたいのですか? このディシュと?」
「いろいろさ、たくさん、そう、たくさんの話を」

 話してみると、ディシュはとても饒舌だった。
 その声はいつも涼やかなのだけれど、鋭かったり、好奇心に満ちていたり、奥ゆかしかったり、繊細だったり、さまざまな表情を見せる。
「それで、どうなったんですか? 親父さんを怒らせてしまったんでしょう?」
「ああ、だけど親父は忘れてたんだ、おれに昨日高飛びの石の置き場所を教えてしまっていたことを。それで、急いでそれを持ち出して、飛んだ」
「飛んだ? 飛びたった浮遊船に?」
「60mぐらいあったんじゃないかな? 高さ。それでもまんまと船尾にしがみついた。たしかあれが初めて飛んだ日だった」
 ディシュはくくくと笑う。
 きっと慣れているのだろう、雑談をしながらも絵筆は動く。
 もっぱら話すのはイコウの昔話、それでもイコウはディシュがそれを楽しんで聞いているのを見てくつろいだ。なにか、何時間も話しているうちに、こんな親友がいたんじゃなっかったっけ? という心地になる。
 イコウは、ちらりと尽きない列を見てうんざりとする。
「しかし、勝手なものだよな。ミリーちゃんが元気になった途端さ」
「まあ、そういうものですよ、人ですから」
 ディシュは見慣れているのか、ためいきさえしない。
 ふと、筆を止めて、ディシュは気付いて笑う。
「イコウさんは、そうじゃないんですね。なんたって元気にしたのですから、まるっきり逆です。そうか」
 満足そうに、にこにこと笑うディシュを、イコウは怪訝に思ったが、唐突にそれは破られる。
 広間の方から、大声が聞こえ、なにやら騒がしくなる。
(ばか、リオネだ。たく、こんなところで!)
「な、なんだと!?」
「おまえら、自分が弱いからって、頼ってんじゃない。よく見てみろ、目を見開いて。おまえらがすがっている相手は、もっとか弱い女の子なんだぞ! 逆だろ、ふつう! そんなことも分からないのか!」
 ディシュを見ると視線が合う。
 イコウが部屋の外へ歩き出すと、ディシュが声を掛けた。
「今度描かせてください。お礼はします」
 イコウは背中越しに手を振り了承する。ディシュは首を傾げて、ひとりごちる。
「わかってるのかな。あなたたち4人を、なのだけど……」

 イコウが広間へ出ると、あたふたとしたジョゼフがイコウを見る。
 それにつられるように商人たちの険悪な視線がイコウに向かった。
 壁際で見ていたシャリーははらはらと、ロットは腕を組んで静観していた。
 イコウは口を開く。
「リオネ、謝るんだ。ここはサディスだぞ。しかもお祭りじゃないか。穢すのか?」
 リオネはその怒気をはらんだ瞳をイコウに向け、ばつが悪そうに視線を伏せる。
「わかったよ。ごめん、謝る。あたし調子に乗ってた。すまない。傷つけるつもりはなかったさ。これは借りだ、なにかあったらちゃんと返す」
 しおらしい〈トパーズの眼〉の言葉に、商人たちは戸惑いながらも、言葉を投げる気力が消えていく。
 その視線が、ふたたびイコウをむく。

 どうする?


  ■リオネはミリーちゃんを助けたいだけなんだ。悪気はないんだ。  121  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■リオネは、東岸の商人がうらやましいだけなんだ。暖かくて。人の繋がりを大切にして。  122  【出現条件】:  【消失条件】:
    



120


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「でも、リオネはミリーちゃんを助けたいだけなんだ。悪気はないんだ」
 だから許して欲しいというと、商人たちはリオネと同じようにばつの悪そうな表情をする。イコウはためいきをつく。
「ミリーちゃんはなんで天気予報をやってるんだろ? 別にやりたくないって言ったっていいのに。なんで、あんなに元気がないのに、こんなに頑張っているんだろう?」
 商人たちは顔を見合わす。
 なぜ?
 なぜと言われても。
 イコウはシャリーを見る。
「シャリーは、なぜ、ミリーちゃんを元気にしようと、あれだけ怖がって使いたくないと言っていた共感者の力を使った? それが知りたいんだ。なんで、シャリーはそうしたの? それをしようと思った?」
 シャリーは頬を染め、集まる視線に耐える。
 おずおずとのどから発声しようと努力し、それから言った。
「わ、わたし、それしかできないから。足手まといで、変なことばかり言って」
「シャリーは足手まといじゃない。ロットは最高の仲間だって言っている」
 シャリーはすこし照れながら、言葉を選ぶ。
「それしかできないから、できることからやるの」
 イコウは納得して、頷く。
「あ、あたしだって、あたし、シャリーみたいな特別な力はないし、他にできることと言ったら、これぐらいしか」
 リオネの言葉に、商人たちはリオネの真意を悟る。
 それと同時に、浮き彫りになってくる自分たちの姿におののく。
 イコウは笑う。
「なので許して欲しいんだ。それしかできなかっただけなんだよ。他に方法がなくて、それをやるしかなかったんだよ。ミリーも、シャリーも、リオネも」

 イコウが騒ぎを収めて帰ってくると、ディシュは微笑む。
「ディシュさんもそうですよね? できることがこれしかなかった?」
 ディシュは好奇の視線をイコウに向け、それからいたずらっぽくくすっと笑う。
「絵描きの仕事は絵を描くことですからね」

 ディシュの絵は完成し、ディシュはそのカンバスに覆いの布を掛ける。
 ほっと息をついて、それからイコウを見た。
「話があるんですよね? では、隣の部屋を借りることにしましょう」
 イコウが出てくると、ロット、シャリー、リオネは、それを迎える。
「どうする? リオネも来るか?」
「あたしは、また失敗しそうだ」
 にこにこと笑うリオネに納得し、傍らにたたずむロットを見る。
 準備万端。
 こういうときのロットほど、すべてを託すに相応しい奴はいなかった。
「ディシュさん、ではこちらへ」
 兄の部屋に入り、ベッドに座る。
 ロットはディシュに軽く挨拶をし、それから握手をする。
「聞きたいことがあるんです」


  ■お兄さんのことを教えてほしいんだ  123  【出現条件】:flag000*flag211*flag213  【消失条件】:
    
  ■実は、ディシュさんがお兄さんだと思っているんだ  124  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフくんの事を思っているのは分かっているけど杞憂なんだ  125  【出現条件】:flag000*flag240  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんは兄で、それで名乗り出るつもりなんだろう?  124  【出現条件】:flag000*flag227  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんは兄で、それで名乗り出ないつもりなんだろう?  126  【出現条件】:flag000*flag228  【消失条件】:
    



121


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「リオネは、東岸の商人がうらやましいだけなんだ。暖かくて。人の繋がりを大切にして。嫉妬している。東岸のやり方が分からなくて。シドやトランじゃあ考えられないことだから。そうだろ? リオネ?」
 リオネは鼻白んで、イコウをにらむが、やけばち気味に商人たちに言う。
「だったら、もっとミリーちゃんを大切にしてやんなよ!」
「リオネ、分かれよ。ここは東岸諸国なんだ。みんな家族なんだ。娘が親を心配する、そんなの当たり前じゃないか」
「だったら、その親だってさ!」
「まだ慣れないだけなんだよ、とつぜんに娘ができたようなものなんだから」
 悔しそうにリオネはうつむく。
 リオネの言葉に、商人たちはその真意を悟る。
 それと同時に、浮き彫りになってくる自分たちの姿におののく。
 イコウは笑う。
「なので許して欲しいんだ。リオネはここのやり方が分からないんだ。すまない」

 イコウが騒ぎを収めて帰ってくると、ディシュは微笑む。
「ミリーは東岸の商人全員の娘とは大きいですね」
 イコウはけろりと聞く。
「ちがうの?」
「いえ、わたしも思い出しました。東岸がどういうところだったのかを」
 ディシュはご機嫌で絵筆を走らした。

 ディシュの絵は完成し、ディシュはそのカンバスに覆いの布を掛ける。
 ほっと息をついて、それからイコウを見た。
「話があるんですよね? では、隣の部屋を借りることにしましょう」
 イコウが出てくると、ロット、シャリー、リオネは、それを迎える。
「どうする? リオネも来るか?」
「あたしは、また失敗しそうだ」
 にこにこと笑うリオネに納得し、傍らにたたずむロットを見る。
 準備万端。
 こういうときのロットほど、すべてを託すに相応しい奴はいなかった。
「ディシュさん、ではこちらへ」
 兄の部屋に入り、ベッドに座る。
 ロットはディシュに軽く挨拶をし、それから握手をする。
「聞きたいことがあるんです」


  ■お兄さんのことを教えてほしいんだ  123  【出現条件】:flag000*flag211*flag213  【消失条件】:
    
  ■実は、ディシュさんがお兄さんだと思っているんだ  124  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフくんの事を思っているのは分かっているけど杞憂なんだ  125  【出現条件】:flag000*flag240  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんは兄で、それで名乗り出るつもりなんだろう?  124  【出現条件】:flag000*flag227  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんは兄で、それで名乗り出ないつもりなんだろう?  126  【出現条件】:flag000*flag228  【消失条件】:
    



122


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「今日はスークルさまの大祭でしょう? きっとなにかいいことが起こる日なんです? 悪いことはきっと起こらない」
 だから許して欲しいというと、商人たちはリオネと同じようにばつの悪そうな表情をする。イコウはためいきをつく。
「そうでしょう? ミリーちゃんにも、サディスにも、みなさんにも、リオネにもいいことが起きる日なんです。スークルさまのご加護を、今日ぐらいは」
 あわてて商人たちは祈りの言葉を呟く。
(うらやましい)
 イコウは羨望の視線を向けている自分に気付いた。

 イコウが騒ぎを収めて帰ってくると、ディシュは微笑む。
「うっかり忘れますね、今日がどんな日か」
 イコウはけろりと聞く。
「わすれてたの? 今日はディシュさんにもいい日だよ」
 ディシュは微笑む。
「スークルさまのご加護を、今日ぐらいは」
 ディシュはご機嫌で絵筆を走らす。

 ディシュの絵は完成し、ディシュはそのカンバスに覆いの布を掛ける。
 ほっと息をついて、それからイコウを見た。
「話があるんですよね? では、隣の部屋を借りることにしましょう」
 イコウが出てくると、ロット、シャリー、リオネは、それを迎える。
「どうする? リオネも来るか?」
「あたしは、また失敗しそうだ」
 にこにこと笑うリオネに納得し、傍らにたたずむロットを見る。
 準備万端。
 こういうときのロットほど、すべてを託すに相応しい奴はいなかった。
「ディシュさん、ではこちらへ」
 兄の部屋に入り、ベッドに座る。
 ロットはディシュに軽く挨拶をし、それから握手をする。
「聞きたいことがあるんです」


  ■お兄さんのことを教えてほしいんだ  123  【出現条件】:flag000*flag211*flag213  【消失条件】:
    
  ■実は、ディシュさんがお兄さんだと思っているんだ  124  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフくんの事を思っているのは分かっているけど杞憂なんだ  125  【出現条件】:flag000*flag240  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんは兄で、それで名乗り出るつもりなんだろう?  124  【出現条件】:flag000*flag227  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんは兄で、それで名乗り出ないつもりなんだろう?  126  【出現条件】:flag000*flag228  【消失条件】:
    



123


「お兄さんのことを教えて欲しいんだ」
 イコウの言葉に、ディシュは一瞬怪訝そうな表情をする。
「い、意味が分からない、のですが? 失礼だけど」
「パイプだよ、パイプ。あのパイプ、故買屋に持ち込んだのはディシュさんだろ? それ、ミリーちゃんのお兄さんから預かったんだろ? そうじゃないのか? 今、この家には、お兄さんが必要なんだ!」
 ディシュははっとして、呟く。
「〈トパーズの眼〉ですね?」
「ええ」
 ロットが鋭い視線を向けるのに、ディシュは愉しそうな表情を浮かべる。
「なぜ、彼女があなた方と行動をともにしているのか、ずっとふしぎだったんです。でも、わかりました、さっき。それと、いま」
 ロットとイコウは視線を合わす。
「失礼。しかし、これは彼との約束で秘密なのです。彼には言われました。こっそり家の様子を見てきてほしいと」
「様子を見てきてほしい?」
「ミリーの噂を聞いて、おそらく、天気予報の、それででしょう」
「それで?」
 冷静なロットの言葉にディシュは迷う。
「助けが必要かどうかを」
 ロットは腕を組んで、あらぬ方向をにらむ。
「それは、近いうちに和解することを考えていると、とっていいのかな?」
「さ、さあ?」
 ディシュは肩をすくめた。
「それは、わたしが決めることではありませんし、ただ見てきてほしいと」
 ロットが歯がゆそうにあごを指先でいじる。
「手紙を持っていると思っていました。あなたが。メッセンジャーとして」
「て、てがみ?」
 ディシュは心底意味が分からないと言ったようにぽかんとする。
「お兄さんから家族へのメッセージです。せめて生きているから心配はないと」
 ディシュははっとする。
「10年も音信不通だったんです。はじめてやってきたチャンスです。そこでなにもメッセージがないならば、今後の10年もないかも知れない。きっと、そう思います」
 あきらかな狼狽がディシュを支配し、その顔色が蒼白になっていく。
「え、ええ。ええ、そうです。手紙、それを忘れていました……。たしかに預かっているんです。渡すかどうかは、わたしが決めてほしいと言われていたのですが、どうやら、わたしも重大な話を気軽に受けてしまったようです。渡した方がよいのでしょう」
 怪訝そうなイコウは首を傾げるが、ディシュが落ち着き始めるのに安堵する。
「ディシュさん、約束だ。おれと約束してくれ。手紙は渡すって」
 ディシュは微笑む。
「ええ、かならず」
 ロットがその鋭い視線を緩めるとディシュの表情から緊張が消え、ほっと一息つく。
「やれやれ、大変なことになりました」
 ディシュは冷や汗を見せながら、おどけるが、窓の外の天気をみながら、歌うように言う。
「これからお昼がすんだら、お気に入りの場所へいくのです」
「へー、いいね」
 イコウが応えるのに、ディシュはにっこりと笑う。
「見晴らしのいいところで、風景画を。イコウさんたちはお昼のあとはどうなさりますか? スークルの大祭が始まるまで、だいぶ時間がありますし。もしよろしかったら、ご一緒しませんか?」
 きょとんとしてロットはイコウを見る。
 イコウは迷う。

 どうする?


  ■ディシュと一緒に行く  127  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  156  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフに話をつけに行く  158  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■とくになにもせず祭りが始まるを待つ  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



124


「実は、ディシュさんがお兄さんだと思っているんだ」
 イコウの言葉に、ディシュはぎょっとする。
 もともと色白のその肌が青ざめていく音が聞こえるようだった。
「いま描いている絵ってさ、ミリーちゃんを救う絵なんだろう?」
「な、なにを言っているんですか、あなたたちは? ちょっと意味が」
「パイプだよ、パイプ。あのパイプ、故買屋に持ち込んだのはディシュさんだろ? じゃあ他にいないじゃないか。今、この家には、ディシュさんが必要なんだ!」
 ディシュははっとして、呟く。
「〈トパーズの眼〉ですね?」
「ええ」
 ロットが鋭い視線を向けるのに、ディシュは愉しそうな表情を浮かべる。
「なぜ、彼女があなた方と行動をともにしているのか、ずっとふしぎだったんです。でも、わかりました、さっき。それと、いま」
 ロットとイコウは視線を合わす。
 イコウは頷いた。
「名乗り出てくれるんだろう? ディシュさん。これは兄が描いた絵だって」
 沈黙が兄の部屋を満たす。
 ディシュの視線が、その部屋の壁際に飾ってある船の模型を見つめる。
 そしてすぐに視線を外す。
「そう、分かってはいるのです」
 ロットの言葉に、ディシュは現実を思い出す。
「そう簡単にはいかないとは分かっています。時間がかかるでしょう。だけど、たまに訪れるだけでもいいのです。この邸宅へ。たぶん嫌な思い出の残っている、この家へ。兄だと言わなくても、それですこしは」
 ディシュはきょとんとするが、それはやがて苦笑にかわり、笑い声にかわる。
「おかしいかい?」
 笑いをこらえながらディシュは言う。
「ええ、ディシュならばおかしいと思うでしょう。このディシュに、ミリーのお兄さん役をやれと、と。でも違うのです。おかしいのはわたしです。どこかでおかしくなってしまったんです。貴族の仕事ばかりをしているのがよくないのかも知れない。なにか大切なものを忘れてしまっているのかも知れない」
 イコウが心配そうな表情で見つめる。
「しばらく滞在するぐらいできるんだろう?」
「ええ」
「それならば、時々ご機嫌伺いをするだけでいいんだ」
 ロットの言葉にふっと笑う。
「分かりました。実は聖堂の司祭さまの肖像画を描くことになったのです。いつもなら、これに街の商人の仕事が続くはずです。その間でよければ。」
「ディシュさん、約束だ。おれと約束してくれ」
 ディシュは晴れやかな顔で微笑む。
「ええ、かならず」
 ロットがその鋭い視線を緩めるとディシュの表情から緊張が消える。
 ほっと一息つく。
「やれやれ、予定が大幅に変わってしまいましたよ」
 ディシュは冷や汗を見せながら、おどけるが、窓の外の天気をみながらのびをし、歌うように言う。
「これからお昼がすんだら、お気に入りの場所へいくのです、実は」
「へー、いいね」
 イコウが応えるのに、ディシュはにっこりと笑う。
「見晴らしのいいところで、風景画を。イコウさんたちはお昼のあとはどうなさりますか? スークルの大祭が始まるまで、だいぶ時間がありますし。もしよろしかったら、ご一緒しませんか?」
 きょとんとしてロットはイコウを見る。
 イコウは迷う。


  ■ディシュと一緒に行く  127  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  156  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフに話をつけに行く  158  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■とくになにもせず祭りが始まるを待つ  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



125


「ディシュさんが、ジョゼフくんの事を思っているのは分かっているけど杞憂なんだ」
 イコウの言葉に、ディシュは一瞬怪訝そうな表情をする。
「い、意味が分からない、のですが? 失礼だけど」
「パイプだよ、パイプ。あのパイプ、故買屋に持ち込んだのはディシュさんだろ? じゃあ他にいないじゃないか、お兄さん。今、この家には、ディシュさんが必要なんだよ」
 ディシュははっとして、呟く。
「〈トパーズの眼〉ですね?」
「ええ」
 ロットが鋭い視線を向けるのに、ディシュは愉しそうな表情を浮かべる。
「なぜ、彼女があなた方と行動をともにしているのか、ずっとふしぎだったんです。でも、わかりました、さっき。それと、いま」
 ロットとイコウは視線を合わす。
 ロットが切り出す。
「昨晩、ぼくらで考えたのです。とてもたくさんのことを。それでディシュさんがお兄さんであることはほぼ間違いと断定できたのです。とぼけてもぼくらには無駄です」
 ディシュはしきりになにかを考える。
「なるほど、それで?」
「しかし、ディシュさんはそれを隠すだろうと、つまり兄だと名乗りでないだろうという結論に達したのです。あなたはとても優しい人です。あなたの不自然でちぐはぐな行動を考えるうちに分かったのです。ディシュさんは、この十年間あなたの代わりにこの邸宅とミリーちゃんを守ってきた、ジョゼフくんのことを考えているのですよね?」
 ディシュは茫然とロットの瞳を見る。
 無意識にディシュは左手を握り、また開く。
「でも、違うんだよ、ディシュさん! それは杞憂なんだよ、ディシュさんの。だって、わかるだろ? もうこの邸宅はジョゼフくんが継ぐしかないなんだよ。あなたが名乗っても。だれもディシュさんを後継ぎにしようとしないし、ディシュさんだっていやだろ? 画家じゃなくなるの? だけどさ、この家はジョゼフくんだけじゃだめなんだ。お兄さんが必要なんだよ。ディシュさんの助けが必要なんだ」
 ディシュは沈黙を続けた、というよりは口を開くことができなかった。
 グー、パー、グー、パー、グー。
 それはなにか、指先の感覚を取り戻す儀式のようで、ディシュの身体になにか神経を取り戻すような、そんな儀式に思えた。
 グー、パー、グー。
「いや」
 ディシュが口を開く。青ざめた表情ですがるようにイコウとロットを見る。
「イコウさん、だめなんです。それはだめなんです。イコウさんがよくても」
「ディシュ、さん?」
 首を傾げるイコウをロットが視線で制す。
 その鋭さに圧されてイコウはうんと頷く。
「分かりました、解決します、それも」
 ディシュの瞳が驚愕に満ちていく。
「なに、を?」
「わかりません。ですがなにかを」
「きみたちが、どうやって?」
 イコウがいらだたしげに言う。
「だからさ。わかるわけないだろ? ディシュさん。わからないんだよ。なにもかも。ぜんぜんわからないんだ。ちっとも、まったく、ぜんぜん。だけどさ、なんとかなるんだ。なんだかよくわからないけど、うまくいくんだ、ふしぎとね。今日は大祭の日だしさ」
 イコウの言葉にディシュはぽかんとするが、それがおかしくて、ディシュは笑う。
「なぜ、あなたたちはそんなにも楽観的なのですか?」
「よくわからないけれども、うまくいくからです」
 真剣なロットの瞳を見て、ディシュは笑う。
「あなたたちは風ですね、まったく。風はよくわからないうちに物事を動かす。よくわからないうちに吹いてきて、なにもかもをほぐしてしまう。そう、風です、まったく」
 ロットは頬を赤らめるが、それでも表情を引き締める。
「そう簡単にはいかないとは分かっています。時間がかかるでしょう。だけど、たまに訪れるだけでもいいのです。この邸宅へ。たぶん嫌な思い出の残っている、この家へ。兄だと言わなくても、それですこしは」
 ディシュは頷く。
 はればれとした、すがすがしい表情で頷く。
「しばらく滞在するぐらいできるんだろう?」
「ええ」
「それならば、時々ご機嫌伺いをするだけでいいんだ」
 ロットの言葉に笑う。
「分かりました。実は聖堂の司祭さまの肖像画を描くことになったのです。いつもなら、これに街の商人の仕事が続くはずです。その間でよければ」
「ディシュさん、約束だ。おれと約束してくれ」
 ディシュは晴れやかな顔で微笑む。
「ええ、かならず」
 ロットがその鋭い視線を緩めるとディシュの表情から緊張が消える。
 ほっと一息つく。
「やれやれ、予定が大幅に変わってしまいましたよ」
 ディシュは冷や汗を見せながら、おどけるが、窓の外の天気をみながらのびをし、歌うように言う。
「これからお昼がすんだら、お気に入りの場所へいくのです、実は」
「へー、いいね」
 イコウが応えるのに、ディシュはにっこりと笑う。
「見晴らしのいいところで、風景画を。イコウさんたちはお昼のあとはどうなさりますか? スークルの大祭が始まるまで、だいぶ時間がありますし。もしよろしかったら、ご一緒しませんか?」
 きょとんとしてロットはイコウを見る。
 イコウは迷う。


  ■ディアマンテに話をつけに行く  156  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフに話をつけに行く  158  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■とくになにもせず祭りが始まるを待つ  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



126


「ディシュさんは兄で、それで名乗り出ないつもりなんだろう?」
 イコウの言葉に、ディシュはぎょっとする。
 もともと色白のその肌が青ざめていく音が聞こえるようだった。
「いま描いている絵ってさ、ミリーちゃんを救う絵なんだろう?」
「な、なにを言っているんですか、あなたたちは? ちょっと意味が」
「パイプだよ、パイプ。あのパイプ、故買屋に持ち込んだのはディシュさんだろ? じゃあ他にいないじゃないか。今、この家には、ディシュさんが必要なんだ!」
 ディシュははっとして、呟く。
「〈トパーズの眼〉ですね?」
「ええ」
 ロットが鋭い視線を向けるのに、ディシュは愉しそうな表情を浮かべる。
「なぜ、彼女があなた方と行動をともにしているのか、ずっとふしぎだったんです。でも、わかりました、さっき。それと、いま」
 ロットとイコウは視線を合わす。
 ロットが切り出す。
「昨晩、ぼくらで考えたのです。とてもたくさんのことを。それでディシュさんがお兄さんであることはほぼ間違いと断定できたのです。とぼけてもぼくらには無駄です」
 ディシュはしきりになにかを考える。
「なるほど、それで?」
「しかし、ディシュさんはそれを隠すだろうと、つまり兄だと名乗りでないだろうという結論に達したのです。あなたはとても優しい人です。あなたの不自然でちぐはぐな行動を考えるうちに分かったのです。ディシュさんは、この十年間あなたの代わりにこの邸宅とミリーちゃんを守ってきた、ジョゼフくんのことを考えているのですよね?」
 ディシュは茫然とロットの瞳を見る。
 無意識にディシュは左手を握り、また開く。
 ロットは表情を引き締める。
「名乗りでない方がいい事はわかっています。それに、そう簡単にはいかないとは分かっています。時間がかかるでしょう。だけど、たまに訪れるだけでもいいのです。この邸宅へ。たぶん嫌な思い出の残っている、この家へ。兄だと言わなくても、それですこしは」
 ディシュは頷く。
 それでいい。それこそ望むところだ。ディシュの真剣な頬はそう言っているようだった。
 イコウが心配そうに聞く。
「しばらく滞在するぐらいできるんだろう?」
「ええ」
「それならば、時々ご機嫌伺いをするだけでいいんだ」
 ロットの言葉に笑う。
「分かりました。実は聖堂の司祭さまの肖像画を描くことになったのです。いつもなら、これに街の商人の仕事が続くはずです。その間でよければ」
「ディシュさん、約束だ。おれと約束してくれ」
 ディシュは晴れやかな顔で微笑む。
「ええ、かならず」
 ロットがその鋭い視線を緩めるとディシュの表情から緊張が消える。
 ほっと一息つく。
「やれやれ、予定が大幅に変わってしまいましたよ」
 ディシュは冷や汗を見せながら、おどけるが、窓の外の天気をみながらのびをし、歌うように言う。
「これからお昼がすんだら、お気に入りの場所へいくのです、実は」
「へー、いいね」
 イコウが応えるのに、ディシュはにっこりと笑う。
「見晴らしのいいところで、風景画を。イコウさんたちはお昼のあとはどうなさりますか? スークルの大祭が始まるまで、だいぶ時間がありますし。もしよろしかったら、ご一緒しませんか?」
 きょとんとしてロットはイコウを見る。
 イコウは迷う。


  ■ディシュと一緒に行く  127  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  156  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフに話をつけに行く  158  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■とくになにもせず祭りが始まるを待つ  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



127


 イコウたちはディシュにつれられて、サディスの街路を上へ上へと向かう。
 閑静だった邸宅街は、やがて貴族の屋敷やら、国外かやって来たお偉方の別荘へと変貌し、深閑としてくる。レンガ敷きの街路が土くれに変わるのは、エレミア山脈の麓が終わったと思わせる急斜な山道の入り口からだった。
 イコウは、北方諸国最大の山岳地帯の懐に入ったことを悟って、ぶるりと震える。
「はじめてですか? エレミアの山路は」
 ディシュがにこやかに振り返って聞く。
「え、ああ、そうかも」
「トランの船団なら、エレミアも超えるでしょう?」
 イコウはロットを見る。
「エルゴスぐらいじゃないかな? エルゴスの快速船団なら、きっとエレミアを突っ切ることを考えるはず。エレミア山脈を越える高度となると息が苦しくなるんです」
 説明するロットをふしぎそうに見る。
「エルゴス?」
「あ、ああ。トランのギルドだよ。トランの浮遊船団は5つのギルドに別れていて、みんな仲が悪いんだ。一番大きいのが悪名高いタルボットギルド、エルゴスは規模は中堅だけどどっちかというと少数精鋭って感じで存在感がある。タルボットとエルゴスが争ったらどっちが強いだろうって?」
 ロットがあきれるのに、イコウはあわてて話を元に戻す。
「そしておれたち浮遊船パオペラは、ヒューメリックギルド、残念ながら、トラン最弱」
 ディシュはくっくと笑う。
「東岸諸国みたいですね」
「え、ええ、そんな感じ。ヒューメリックは船団を組まないで、あちこちまわる、残り物の寄せ集めなんだ」
「残り物ではありませんよ」
 ディシュは笑う。
 やはりエレミアに鍛えられるのだろうか、その健脚ぶりはまぶしいぐらいで、重い画材道具を背負い、なお余力があるように見えた。
 イコウは息が切れてくるのを感じる。
 心配してシャリーを振り返るが、肩で息をしている。
「もうすぐです。ついたら一休みしましょう」
「あんがい近かったねぇ」
 元気いっぱいのリオネはけろりというが、そのたびに浮遊船乗りの運動不足に、イコウは思いはせる。
(高飛びがこれじゃあなあ……)

 ディシュが画材道具を下ろしたのは、曲がりくねる山路から開けた所だった。
 きらめくサディスの街並みが、おそらく大祭の準備に、花々に埋もれる準備をする人々が走り回るサディスが、斜面にへばりつく。オーシャンブルーの大洋には幾隻かの商船の白帆が映え、潮風が駆け上がってくる。
 ディシュは、声も出ないイコウたちを振り返る。
「この上はもう森になってしまいます。この辺までなのです、焼いて牧草地にするのは」
 遮るもののないその舞台の最前列に、イーゼルを立てディシュはサディスと向き合う。
 なにも言わずに、筆を走らせ始める。
 イコウは、その光景をただただ見つめる。
「すごいね?」
「ああ」
(もし、石を握ったら飛べるのだろうか?)
 イコウは高飛びの石を握り、その光景を独り占めして、サディスまで飛びたい心地になる。まぶたを閉じるとその光景が鮮明に浮かんでくる。ひとり鳥のようにその街並みまでジャンプする光景。海鳥がたわむれ、ぐんぐんと街並みが近づいてくる。
 イコウはまぶたを開けると、指をしめらせ、それを風に立てる。
「ちぇっ、逆風だ」
「あー、イコウ、飛ぼうとしたの!? ほんとイコウたら、ばかなんだから!」
「ば、ばかってなんだ」
 くすくすとロットは笑い、リオネがあきれる。
「降りる手間はかからないかもね」
「いくら高飛びでも、よっぽどの順風じゃないと」
「わかってる」
 それでも、イコウはいつかこの距離を飛びたいと願う。
 気付くと、ディシュが微笑ましそうに、見つめていた。
「イコウさんも、ここへ来るとサディスへ飛び込みたくなるのですね? 実はわたしもそうなんです。だからここなんです」
 潮風に髪を揺らし、ディシュはぽつりと言う。
「もう、何年もここからの絵を描きたいと思っていました。懐かしい場所なんです。何度も描きました。何度も。でも、目の前の景色を見てしまうと、描いた絵のことなど忘れてしまいました」
「ディシュさん、子供の頃も上手かったんでしょ?」
 リオネの言葉にディシュは首を横に振る。
「背伸びしていただけなんです。でも、いま、ここに立ってわかるんです。自分は描けるんだって。この光景を描けるようになったのだって」
 ディシュはリオネに笑いかける。
「わかりますか? 大人になれたんです。もう、子供じゃない。意地も、羨望も、なにもかも捨て去って、その光景を写し取る。まっすぐにサディスに向き合う。そんな絵が描けるようになったんです」
「なるほどね」
 わかったのかわからないのか、リオネは素っ気なく言う。
「あの頃はたぶん遠い、でも近い。それで帰ってきたんです。この景色を描けたら、子供は卒業だって思って。意地を張っていた10年は終わりだって。描けるかもしれないって」
「やはり、お兄さんなんですね?」
 柔らかいロットの言葉にディシュは頷く。
「時間がかかるでしょう。いまである必要はないんです。だから」
「黙っていろと」
 ディシュは微笑んだ。

「それでさ、おやじったらそれっきりなんだよ、出かけてくるって、それっきり」
 いつしか雑談はイコウたちの冒険譚に移り、そしてイコウの父親の話になる。
「帰ってこないんだ。いったいどこをうろつき回っているんだろう?」
 無邪気にいうイコウをディシュはふっと笑う。
「帰ってきますよ。きっと10年後ぐらいに。ひょっこりと、お土産を持って」
「そうかな?」
 ディシュのいたずらっぽい瞳がイコウを見る。
「だって、イコウさんのお父さんでしょう? なら、大丈夫」
 照れるイコウをよそにディシュは太陽を見上げる。
「そろそろ、スークルの大祭が始まる頃です。この絵はまだ掛かりますから、先に下山してください。道はわかると思いますが?」
 3人がイコウを見る。

 どうする?


  ■ディシュの絵が完成するまでここにいる。  160  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフに話をつけに行く  164  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りを見に行く。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



128


 大祭の挨拶をする商人たちに混じって、なにやら忙しそうな使用人を捉まえる。
「え? ジョゼフさんですか? えっと、お嬢様の寝室ではないでしょうか」
 きょとんとした使用人を置き去りに、商人たちで溢れかえる外階段を上る。
 むせかえるような花の香りに戸惑うが、2階のミリーの寝室前の家族の広間に入ると、それがさらに増したような気がした。
 記帳する商人たちをよそに、その商人たちの交通整理に忙しいジョゼフに声を掛ける。
「話をすること、できないかな?」
「え? ええ? ちょっ、ちょっと」
「わかったよ、来客が途切れるのを待つよ」
 イコウの言葉にジョゼフはほっとして頷き、すぐさま、来客整理にせわしない。
 肩をすくめると、ロットは困ったように笑った。

 4人はすこし廊下の奥へ引きこもり、壁に寄りかかって、家族の広間の様子を眺める。
 しかし、商人たちの波は途切れる気配を見せず、次から次へと親しげな商人が扉の向こうから現れる。
 イコウはあくびをかみ殺しながらそれを見ていたが、変わることのない人の波に、ついに大あくびをする。
「しっかしさぁ、東岸中の商人がやって来ているんじゃないか?」
「来てるだろうね。年に一度の大祭とあっては」
 ロットはその様子を見ながらかりかりとノートにペンを走らせる。
 リオネがめずらしくびくびくしているのを見て、ロットはそっとリオネが影になるように立ち変える。
「あんま目立つと困るんだよねぇ」
 リオネがにかっとするのに、ロットは困ったように笑う。
 シャリーはぽかんとしてその商人たちを見つめる。
(うわー、商人ってこんなにいるんだ!)
 来る人来る人、だれもが一癖あって、シャリーの眼には新鮮に映る。
 豪華に着飾ってでっぷりと太った商人(両手に数え切れないほどの指輪付き)、初老のシックなたたずまいの背筋の伸びた商人(ブーツが軍用)、若く質素ではあるが熱意だけはある青年(襟の飾りが背伸びすぎ)、中年で小太りでありながら服がちょっと時代遅れな商人(貴金属を一切つけていない)。
 羽振りの良さそうな者から、そうでない者まで。
 それは、たとえるまでもなく東岸の商人名鑑で、そのどこかおかしみのある人々を見ているだけで、シャリーはその好奇心を満たされるのだ。
 シャリーは、ふと自分たちを見ている商人がいるのに気付く。
 その男はつかつかとこちらへ近づき、指をさして怒鳴る。
「おまえ、おまえだ。おまえ、〈トパーズの眼〉だろ! なぜ、サディスにいるんだ!」
 その声に家族の広間はしんとする。
 ジョゼフがあわててなだめようとするが、リオネは売られた喧嘩を買わないでいるほど臆病ではなかった。
「ちぇっ、なんだよ静かにしてたのにさ。スークルの大祭は観光客も受け入れているんだろ? そう聞いたけど?」
 本物の〈トパーズの眼〉だとわかると広間は騒然とする。
「シド商人だけは別だ。この小汚い商人のくずどもめ!」
 リオネがむっとして広間に歩み寄ると、それを商人たちが取り囲む。
 イコウはあわてた。

 どうする?


  ■リオネをなだめる。  129  【出現条件】:flag000*flag079  【消失条件】:
    
  ■リオネに守ろうとする。  129  【出現条件】:flag000*flag079  【消失条件】:
    
  ■リオネをなだめる。  130  【出現条件】:flag000*flag080  【消失条件】:
    
  ■リオネに守ろうとする。  130  【出現条件】:flag000*flag080  【消失条件】:
    
  ■リオネをなだめる。  131  【出現条件】:flag000*flag081  【消失条件】:
    
  ■リオネに守ろうとする。  131  【出現条件】:flag000*flag081  【消失条件】:
    



129


「リオ……」
「イコウさん、ですよね?」
 その声に振り返ると、立派な身なりの商人。イコウはふとどこかで会った気がして、首を傾げる。
「ほら、バザールで」
「あー、クオンさん、でしたっけ?」
「ええ」
 ナイスグレーの髭の商人は上品に笑う。
「支払いは、いいのですか?」
「え? ええ。ミリーちゃんにはいつも我々の方が助けられていますから。あれぐらいや安いものですよ」
 クオンは商人たちの織りなすさまを見て、嘆かわしいとためいきをつく。
「ミリーちゃんの様子を見てきたのですが、ひどいものです。こんなに大勢で訪ねるなんて」
「まったくだよ。シャリーの力で元気になっていただけなのに」
 腕組みしてむっとするイコウを見て、クオンはなにやら考える。
「イコウさん、それを説明してあげてくれませんか?」
「はい?」

 クオンは、イコウをつれて広間にいる商人たちに紹介をしていく。
「やや、クオンさん。この前はご協力ありがとうございました。で、こちらの方は?」
「ああ、こちらの方はトラン人で、実はミリーちゃんを元気にしようとトランからやって来た方なのですよ。聞いたことがあるでしょう。トラン人のふしぎな力を持つもので」
 紹介された商人は頭を巡らす。
「ああ、共感者とか。なんでも心の病が治せるとか」
「イコウさんの仲間の一人がそれなのです」
 なるほど商人は頷き、興味津々でイコウを見る。
「そうなんだ、昨日のミリーちゃんは共感者の力で元気になっていただけなんです。ですから、こんなに大勢で押しかけたら、ミリーちゃん、つかれてしまいます。元気になってからならともかく」
「ははぁ、なるほど」
 クオンにつれられて、何人かに説明すると、徐々にその話は商人たちの間に広まっていく。
「え? じゃあ、〈トパーズの眼〉とトラン人はミリーちゃんを助けようとしていた?」
「なんかどうもそうらしいなぁ」
 リオネを囲む敵意の輪が徐々に弱まってくるのを見て、リオネはすかさず反撃に出る。
「だからいってるだろ! このとんちんかんども! 東岸商人はこんなのばかりか、この弱虫どもめ! おまえら、それでも商人か! おまえらこそこそと荷を運びやがって! おまえらなんか大洋のネズミだ、ネズミ! ドブネズミだ! いくら弱いからといっても、助けてくれる子に群がるんじゃない、頼るな、自分の力でなんとかしろ! よく見てみろ、目を見開いて。おまえらがすがっている相手は、もっとか弱い女の子なんだぞ! 逆だろ、ふつう! そんなことも分からないのか!」
 商人がいきり立つのを見て、あわててイコウはリオネの前に立つ。
 商人たちの険悪な視線がイコウに向かった。
 壁際で見ていたシャリーははらはらと、ロットは腕を組んで静観していた。
 イコウは口を開く。
「リオネ、謝るんだ。ここはサディスだぞ。しかもお祭りじゃないか。穢すのか?」
 リオネはその怒気をはらんだ瞳をイコウに向け、ばつが悪そうに視線を伏せる。
「わかったよ。ごめん、謝る。あたし調子に乗ってた。すまない。傷つけるつもりはなかったさ。これは借りだ、なにかあったらちゃんと返す」
 しおらしい〈トパーズの眼〉の言葉に、商人たちは戸惑いながらも、言葉を投げる気力が消えていく。
 その視線が、ふたたびイコウをむく。

 どうする?


  ■リオネはミリーちゃんを助けたいだけなんだ。悪気はないんだ。  132  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■リオネは、東岸の商人がうらやましいだけなんだ。暖かくて。人の繋がりを大切にして。  133  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■今日はスークルさまの大祭でしょう? きっとなにかいいことが起こる日なんです? 悪いことはきっと起こらない。  134  【出現条件】:  【消失条件】:
    



130


「リオ……」
「イコウさん、ですよね?」
 その声に振り返ると、ラフな格好をした商人。イコウはふとどこかで会った気がして、首を傾げる。
「ほら、港で。ミリーちゃんの立ち回り、拝見して」
「あー、いろいろ騒ぎになっちゃって」
「いえいえ、水夫の連中、あのあと大はしゃぎでしたよ」
 潮風に焼かれた恰幅のいい商人船長は笑う。
 船長は商人たちの織りなすさまを見て、嘆かわしいとためいきをつく。
「ミリーちゃんの様子を見てきたのだは、あれはひどい。こんなに大勢で訪ねるなんて」
「まったくだよ。シャリーの力で元気になっていただけなのに」
「やはり。さすがにミリーちゃんでもあれだけの大活躍はおかしいと」
 腕組みしてむっとするイコウを見て、船長はなにやら考える。
「イコウさん、それ、説明してやってくれませんか?」
「はい?」

 船長は、イコウをつれて広間にいる商人たちに紹介をしていく。
「やや、船長さん。この前の積み荷、ちゃんと届きました。で、こちらの方は?」
「ああ、こちらの方はトラン人で、実はミリーちゃんを元気にしようとトランからやって来たんだ。聞いたことがあるだろう。トラン人のふしぎな力を持つもので」
 紹介された商人は頭を巡らす。
「ああ、共感者とか。なんでも心の病が治せるとか」
「イコウさんの仲間の一人がそれで」
 なるほど商人は頷き、興味津々でイコウを見る。
「そうなんだ、昨日のミリーちゃんは共感者の力で元気になっていただけなんです。ですから、こんなに大勢で押しかけたら、ミリーちゃん、つかれてしまいます。元気になってからならともかく」
「ははぁ、なるほど」
 船長につれられて、何人かに説明すると、徐々にその話は商人たちの間に広まっていく。
「え? じゃあ、〈トパーズの眼〉とトラン人はミリーちゃんを助けようとしていた?」
「なんかどうもそうらしいなぁ」
 リオネを囲む敵意の輪が徐々に弱まってくるのを見て、リオネはすかさず反撃に出る。
「だからいってるだろ! このとんちんかんども! 東岸商人はこんなのばかりか、この弱虫どもめ! おまえら、それでも商人か! おまえらこそこそと荷を運びやがって! おまえらなんか大洋のネズミだ、ネズミ! ドブネズミだ! いくら弱いからといっても、助けてくれる子に群がるんじゃない、頼るな、自分の力でなんとかしろ! よく見てみろ、目を見開いて。おまえらがすがっている相手は、もっとか弱い女の子なんだぞ! 逆だろ、ふつう! そんなことも分からないのか!」
 商人がいきり立つのを見て、あわててイコウはリオネの前に立つ。
 商人たちの険悪な視線がイコウに向かった。
 壁際で見ていたシャリーははらはらと、ロットは腕を組んで静観していた。
 イコウは口を開く。
「リオネ、謝るんだ。ここはサディスだぞ。しかもお祭りじゃないか。穢すのか?」
 リオネはその怒気をはらんだ瞳をイコウに向け、ばつが悪そうに視線を伏せる。
「わかったよ。ごめん、謝る。あたし調子に乗ってた。すまない。傷つけるつもりはなかったさ。これは借りだ、なにかあったらちゃんと返す」
 しおらしい〈トパーズの眼〉の言葉に、商人たちは戸惑いながらも、言葉を投げる気力が消えていく。
 その視線が、ふたたびイコウをむく。

 どうする?


  ■リオネはミリーちゃんを助けたいだけなんだ。悪気はないんだ。  132  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■リオネは、東岸の商人がうらやましいだけなんだ。暖かくて。人の繋がりを大切にして。  133  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■今日はスークルさまの大祭でしょう? きっとなにかいいことが起こる日なんです? 悪いことはきっと起こらない。  134  【出現条件】:  【消失条件】:
    



131


「リオ……」
「イコウさん、ですよね?」
 その声に振り返ると、はにかんだ青年商人。イコウはふとどこかで会った気がして、首を傾げる。
「ほら、広場で」
「あー、偽物の懐中時計の人、でしたっけ?」
「ええ」
 青年商人は懐から懐中時計を取り出して照れたように笑う。
「これは宝物です」
 青年商人は商人たちの織りなすさまを見て、嘆かわしいとためいきをつく。
「ミリーちゃんの様子を見てきたのですが、ひどいものです。こんなに大勢で訪ねるなんて。わたしも人のことは言えませんが」
「まったくだよ。シャリーの力で元気になっていただけなのに」
 腕組みしてむっとするイコウを見て、青年商人はなにやら考える。
「イコウさん、それを説明してあげてくれませんか?」
「はい?」

 青年商人は、イコウをつれて広間にいる商人たちに紹介をしていく。
「やや、この前は資料ありがとう。助かったよ。で、こちらの方は?」
「ああ、こちらの方はトラン人で、実はミリーちゃんを元気にしようとトランからやって来た方なのですよ。聞いたことがあるでしょう。トラン人のふしぎな力を持つもので」
 紹介された商人は頭を巡らす。
「ああ、共感者とか。なんでも心の病が治せるとか」
「イコウさんの仲間の一人がそれなのです」
 なるほど商人は頷き、興味津々でイコウを見る。
「そうなんだ、昨日のミリーちゃんは共感者の力で元気になっていただけなんです。ですから、こんなに大勢で押しかけたら、ミリーちゃん、つかれてしまいます。元気になってからならともかく」
「ははぁ、なるほど」
 青年商人につれられて、何人かに説明すると、徐々にその話は商人たちの間に広まっていく。
「え? じゃあ、〈トパーズの眼〉とトラン人はミリーちゃんを助けようとしていた?」
「なんかどうもそうらしいなぁ」
 リオネを囲む敵意の輪が徐々に弱まってくるのを見て、リオネはすかさず反撃に出る。
「だからいってるだろ! このとんちんかんども! 東岸商人はこんなのばかりか、この弱虫どもめ! おまえら、それでも商人か! おまえらこそこそと荷を運びやがって! おまえらなんか大洋のネズミだ、ネズミ! ドブネズミだ! いくら弱いからといっても、助けてくれる子に群がるんじゃない、頼るな、自分の力でなんとかしろ! よく見てみろ、目を見開いて。おまえらがすがっている相手は、もっとか弱い女の子なんだぞ! 逆だろ、ふつう! そんなことも分からないのか!」
 商人がいきり立つのを見て、あわててイコウはリオネの前に立つ。
 商人たちの険悪な視線がイコウに向かった。
 壁際で見ていたシャリーははらはらと、ロットは腕を組んで静観していた。
 イコウは口を開く。
「リオネ、謝るんだ。ここはサディスだぞ。しかもお祭りじゃないか。穢すのか?」
 リオネはその怒気をはらんだ瞳をイコウに向け、ばつが悪そうに視線を伏せる。
「わかったよ。ごめん、謝る。あたし調子に乗ってた。すまない。傷つけるつもりはなかったさ。これは借りだ、なにかあったらちゃんと返す」
 しおらしい〈トパーズの眼〉の言葉に、商人たちは戸惑いながらも、言葉を投げる気力が消えていく。
 その視線が、ふたたびイコウをむく。

 どうする?


  ■リオネはミリーちゃんを助けたいだけなんだ。悪気はないんだ。  132  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■リオネは、東岸の商人がうらやましいだけなんだ。暖かくて。人の繋がりを大切にして。  133  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■今日はスークルさまの大祭でしょう? きっとなにかいいことが起こる日なんです? 悪いことはきっと起こらない。  134  【出現条件】:  【消失条件】:
    



132


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「でも、リオネはミリーちゃんを助けたいだけなんだ。悪気はないんだ」
 だから許して欲しいというと、商人たちはリオネと同じようにばつの悪そうな表情をする。イコウはためいきをつく。
「ミリーちゃんはなんで天気予報をやってるんだろ? 別にやりたくないって言ったっていいのに。なんで、あんなに元気がないのに、こんなに頑張っているんだろう?」
 商人たちは顔を見合わす。
 なぜ?
 なぜと言われても。
 イコウはシャリーを見る。
「シャリーは、なぜ、ミリーちゃんを元気にしようと、あれだけ怖がって使いたくないと言っていた共感者の力を使った? それが知りたいんだ。なんで、シャリーはそうしたの? それをしようと思った?」
 シャリーは頬を染め、集まる視線に耐える。
 おずおずとのどから発声しようと努力し、それから言った。
「わ、わたし、それしかできないから。足手まといで、変なことばかり言って」
「シャリーは足手まといじゃない。ロットは最高の仲間だって言っている」
 シャリーはすこし照れながら、言葉を選ぶ。
「それしかできないから、できることからやるの」
 イコウは納得して、頷く。
「あ、あたしだって、あたし、シャリーみたいな特別な力はないし、他にできることと言ったら、これぐらいしか」
 リオネの言葉に、商人たちはリオネの真意を悟る。
 それと同時に、浮き彫りになってくる自分たちの姿におののく。
 イコウは笑う。
「なので許して欲しいんだ。それしかできなかっただけなんだよ。他に方法がなくて、それをやるしかなかったんだよ。ミリーも、シャリーも、リオネも」

 イコウが騒ぎを収めると商人たちは、だれからというのでもなく、すごすごと家族の広間から退出していく。その話は階下にも伝わったのか、ぽつりぽつりとだけ訪れていた訪問客も途絶え、ジョゼフはほっと息をついた。
 ジョゼフが目を輝かしてイコウを見上げる。
「すごいですね。イコウさん、すごい」
「いや、たいしたことでは……」
 イコウはトランで喧嘩の仲裁ばかりやっていたのを思い出す。
(あんなのが役に立つとはなあ……)
 苦笑いしてしまうのだ。
「それよりもさ、ジョゼフくん、すこし話ができないかな?」
 ジョゼフは入り口の方を見るが、訪問客がやってくる気配はない。
 使用人にすこし外すと言って、兄の部屋へと向かう。
「どうする? リオネも来るか?」
「あたしは、また失敗しそうだ」
 にこにこと笑うリオネに納得し、傍らにたたずむロットを見る。
 準備万端。
 こういうときのロットほど、すべてを託すに相応しい奴はいなかった。
「ジョゼフくん、ちょっときつい話になるかもしれない」
「はい」
 兄の部屋に入り、ベッドに座る。
 ロットはジョゼフににっこりと微笑み、それから真剣な表情をした。
「聞いて貰いたいことがあるんだ」


  ■ミリーの天気予報、やり方変えられないかな?  135  【出現条件】:flag000*flag220*flag239  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフにディシュに名乗り出てほしいと言うように説得する  136  【出現条件】:flag000*flag242  【消失条件】:
  flag136  ジョゼフは確約が欲しい
  ■実はミリーちゃんのお兄ちゃんが近くにいるかも知れないんだ  137  【出現条件】:flag000*flag211*flag213  【消失条件】:
    
  ■実はディシュさんがお兄ちゃんなんだ  138  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    



133


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「リオネは、東岸の商人がうらやましいだけなんだ。暖かくて。人の繋がりを大切にして。嫉妬している。東岸のやり方が分からなくて。シドやトランじゃあ考えられないことだから。そうだろ? リオネ?」
 リオネは鼻白んで、イコウをにらむが、やけばち気味に商人たちに言う。
「だったら、もっとミリーちゃんを大切にしてやんなよ!」
「リオネ、分かれよ。ここは東岸諸国なんだ。みんな家族なんだ。娘が親を心配する、そんなの当たり前じゃないか」
「だったら、その親だってさ!」
「まだ慣れないだけなんだよ、とつぜんに娘ができたようなものなんだから」
 悔しそうにリオネはうつむく。
 リオネの言葉に、商人たちはその真意を悟る。
 それと同時に、浮き彫りになってくる自分たちの姿におののく。
 イコウは笑う。
「なので許して欲しいんだ。リオネはここのやり方が分からないんだ。すまない」

 イコウが騒ぎを収めると商人たちは、だれからというのでもなく、すごすごと家族の広間から退出していく。その話は階下にも伝わったのか、ぽつりぽつりとだけ訪れていた訪問客も途絶え、ジョゼフはほっと息をついた。
 ジョゼフが目を輝かしてイコウを見上げる。
「すごいですね。イコウさん、すごい」
「いや、たいしたことでは……」
 イコウはトランで喧嘩の仲裁ばかりやっていたのを思い出す。
(あんなのが役に立つとはなあ……)
 苦笑いしてしまうのだ。
「それよりもさ、ジョゼフくん、すこし話ができないかな?」
 ジョゼフは入り口の方を見るが、訪問客がやってくる気配はない。
 使用人にすこし外すと言って、兄の部屋へと向かう。
「どうする? リオネも来るか?」
「あたしは、また失敗しそうだ」
 にこにこと笑うリオネに納得し、傍らにたたずむロットを見る。
 準備万端。
 こういうときのロットほど、すべてを託すに相応しい奴はいなかった。
「ジョゼフくん、ちょっときつい話になるかもしれない」
「はい」
 兄の部屋に入り、ベッドに座る。
 ロットはジョゼフににっこりと微笑み、それから真剣な表情をした。
「聞いて貰いたいことがあるんだ」


  ■ミリーの天気予報、やり方変えられないかな?  135  【出現条件】:flag000*flag220*flag239  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフにディシュに名乗り出てほしいと言うように説得する  136  【出現条件】:flag000*flag242  【消失条件】:
  flag136  ジョゼフは確約が欲しい
  ■実はミリーちゃんのお兄ちゃんが近くにいるかも知れないんだ  137  【出現条件】:flag000*flag211*flag213  【消失条件】:
    
  ■実はディシュさんがお兄ちゃんなんだ  138  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    



134


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「今日はスークルさまの大祭でしょう? きっとなにかいいことが起こる日なんです? 悪いことはきっと起こらない」
 だから許して欲しいというと、商人たちはリオネと同じようにばつの悪そうな表情をする。イコウはためいきをつく。
「そうでしょう? ミリーちゃんにも、サディスにも、みなさんにも、リオネにもいいことが起きる日なんです。スークルさまのご加護を、今日ぐらいは」
 あわてて商人たちは祈りの言葉を呟く。
(うらやましい)
 イコウは羨望の視線を向けている自分に気付いた。

 イコウが騒ぎを収めると商人たちは、だれからというのでもなく、すごすごと家族の広間から退出していく。その話は階下にも伝わったのか、ぽつりぽつりとだけ訪れていた訪問客も途絶え、ジョゼフはほっと息をついた。
 ジョゼフが目を輝かしてイコウを見上げる。
「すごいですね。イコウさん、すごい」
「いや、たいしたことでは……」
 イコウはトランで喧嘩の仲裁ばかりやっていたのを思い出す。
(あんなのが役に立つとはなあ……)
 苦笑いしてしまうのだ。
「それよりもさ、ジョゼフくん、すこし話ができないかな?」
 ジョゼフは入り口の方を見るが、訪問客がやってくる気配はない。
 使用人にすこし外すと言って、兄の部屋へと向かう。
「どうする? リオネも来るか?」
「あたしは、また失敗しそうだ」
 にこにこと笑うリオネに納得し、傍らにたたずむロットを見る。
 準備万端。
 こういうときのロットほど、すべてを託すに相応しい奴はいなかった。
「ジョゼフくん、ちょっときつい話になるかもしれない」
「はい」
 兄の部屋に入り、ベッドに座る。
 ロットはジョゼフににっこりと微笑み、それから真剣な表情をした。
「聞いて貰いたいことがあるんだ」


  ■ミリーの天気予報、やり方変えられないかな?  135  【出現条件】:flag000*flag220*flag239  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフにディシュに名乗り出てほしいと言うように説得する  136  【出現条件】:flag000*flag242  【消失条件】:
  flag136  ジョゼフは確約が欲しい
  ■実はミリーちゃんのお兄ちゃんが近くにいるかも知れないんだ  137  【出現条件】:flag000*flag211*flag213  【消失条件】:
    
  ■実はディシュさんがお兄ちゃんなんだ  138  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    



135


「ミリーの天気予報、やりかた変えられないかな?」
 ジョゼフはロットの言葉を聞くとうつむく。
 やっと絞り出すように言う。
「……なるほど、言いたいことはわかります……」
 見つめ返すと、ロットの瞳は残酷なほど冷静で、その単刀直入さは冷酷にも思える。
 しかし、そのロットをイコウが心底信頼しているのは明らかで、イコウたちがどうやって旅をし、どんなことをして、なにを見てきたかは、さきほどのイコウやリオネの立ち回りで明らかだった。
 ロットやイコウは、ミリーを救いたいのだ。
 ジョゼフの脳裏にリオネの言葉が浮かぶ。
(おまえらがすがっている相手は、もっとか弱い女の子なんだぞ! 逆だろ、ふつう! そんなことも分からないのか!)
 あの怒りは正当だったと、それはジョゼフにもわかる。
「ですが……。それは何度も試みたのです。しかし、最後の最後は、旦那様に直談判されてしまって、すべて覆るのです。東岸のために。それですべてが覆ってしまいます」
「でもさ、それじゃあ、ミリーちゃんが弱るばかりだよ」
 ジョゼフは両拳をぎゅうと握る。
「本当にそうなんでしょうか? ぼくにはわからないんです。イコウさんの言うように」
 ロットがイコウを制する。
 そして、ぽんぽんと肩をたたく。
「ジョゼフくん。きみはとてもすごい。ずっと頑張ってきたんだ。だからね、ジョゼフくん、ミリーちゃんを守れるのはきみだけだと思う」
 ジョゼフは拍子抜けしたようにぽかんとする。
「だけど、ひとりの力には限界があると思うんだ。ぼくらだって4人いるからなんとかなるわけで、リオネだって、シャリーだって、イコウだって、ぼくだって、それなりにはひとりでなんとかできるけれど、ミリーちゃんを1人で守れるとは思えないんだ。わかるかい?」
「あ、ああ……」
 そうかとジョゼフは思う。
「だから、誰か協力してくれる人を探すんだ、ジョゼフくん。もしだれか手をさしのべる人があったら、その人の協力を拒んではいけないよ。それは使用人でもいい、商人の中にいるかもしれない。さっきの商人とか、話せば絶対に助けてくれる。そういう人たちの協力を積極的に貰うんだ」
(ぼくはお嬢様に協力的な人を拒んできたのか……、お嬢様が好きだから)
 そう思うとその身勝手さが、明らかになるようで怖くなる。
 ロットが微笑む。
「ジョゼフくん? きみは立派な、ミリーちゃんが頼りにする唯一の男の子だよ。それをもう十年もやってきたんだから、これからももうそれは永久に変わらない。わかるかい?」
 胸が熱くなってくるのをジョゼフは感じる。
「ぼくがお嬢様を苦しめ続けてきた?」
「ちがう、やり方がわからなかっただけだ。きみはなにも悪くない。これまでも、これからも。だから、ジョゼフくん、もうきみ以外の誰かがミリーちゃんを守ろうとするのを拒んではいけないよ? 事態はどんどん好転していくよ? ジョゼフくん?」
 ジョゼフは泣きじゃくっているのに気付く。
 はなをずるりとすすり、絞り出すように言った。
「はい」
 イコウの手が力強くその肩をたたく。
「がんばれ、もう十年も守ってきたんだろ?」
 イコウの笑顔を見ていると、ジョゼフの心が解きほぐされるようだった。
 ジョゼフは涙をそのままに笑う。
「ありがとう。そろそろ行かないと」
 部屋を出て行く、ジョゼフを見送りながら、イコウはロットに聞く。
「うまくいくのかな?」
「もらった言葉を使うのは、言葉を渡した方じゃないよ」
 イコウはむっとして、ロットを見る。
「冷たいな、ロットは」
「冷たいんじゃない。それが現実なんだ」
 ロットは立ち上がる。
「さ、まだ仕事が残ってる」


  ■ディシュに話をつけに行く。  157  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  156  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭が始まるまでぶらぶらする。  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



136


「実は、パイプの件でいろいろ調べてみたんだ、ぼくらで」
「え? でも、パイプは〈トパーズの眼〉が見つけてきたんじゃ」
 おどろきの表情で見つめるジョゼフをみて、ロットは首を横に振る。
「だから、すこし後ろ暗い心地になってね。あのパイプは故買屋がぼくたちにみつけたことにしてほしいと言われたものだったんだ」
「じゃ、じゃあ? もしかして?」
 ロットは頷く。
「だから、調べたんだ。あのパイプはディシュさんが故買屋に持ち込んだ事がわかった。たしかな筋の話だから、そうか、わかるよね。リオネが〈トパーズの眼〉がそれを突き止めた。いろいろ考えたけれど、ディシュさんがお兄さんであることは間違いない」
 愕然とするジョゼフを気の毒そうに見つめ、ロットは言葉を切った。
 わなわなと小刻みに震えるジョゼフを見ていると、イコウも気の毒に思えてくる。
「ロット?」
「ディシュさんは、この邸宅がどこで酒を買っているかを知っていた。馴染みの店を」
 震えるジョゼフは絞り出すように言う。
「それに、まんまとぼくは乗ってしまった?」
 イコウはあわててロットを見る。
「まんまじゃない、ジョゼフくん。ミリーちゃんを助けたかったんだ、ディシュさんは」
「まんまじゃないですか!」
 ジョゼフは叫ぶ。
 普段からは想像もできないほど大きな声で。
「あの人は、この邸宅に帰ってきて、全部取り戻す気じゃないですか! なにもかもほったらかしにして、好きな絵を描いて、苦労もしないで、ぶらぶらとほっつき歩いて、十年も。そんなにですよ、十年もですよ、それがいまさら、いまさら」
 ジョゼフはロットをきっとにらむ。
「なんで帰ってきたんですか、なんのために! 画家でいいじゃないですか。高名な画家で充分じゃないですか! なにが不満なんですか! 住むところがほしくなったんですかあ! ぼくからなにもかもを奪い取るために、帰ってきたんですか! ぼくがなにを!」
 イコウはあわててなだめる。
「ジョゼフくん、落ち着いて聞いてほしい、話を聞いてほしいんだよ」
「落ち着いてなんて、いられませんよ! もう十年ですよ! ぼくがこの邸宅にやって来て、お嬢様に出会って、守ってあげたいと思ってから。もうそんなになるんです、それがいまさら!」
 パンッと、大きな音が響く。
 ロットが右手のしびれを気にするようにさするのを信じられないと言うように、ジョゼフは平手でたたかれた頬を押さえた。
 ロットは、心の底から苦しそうな表情を浮かべる。
「ごめん」
 ロットは言う。
「時間がないんだ」
「時間?」
 愕然とするジョゼフにロットははき出すように言う。
「本当なら、一年でも二年でも取り乱すべき事なんだ。それはわかっている。だけど、このチャンスしかない。だから信じて」
「な、なにを、ですか?」
 ロットはきっとジョゼフを見つめる。
「ディシュさんは、おそらく名乗らず、そのまま出て行く」
「なぜ?」

 ロットは息を吐き出す。
「きみのために。ジョゼフくんの気持ちは正当だよ。十年もこの邸宅を守ってきたきみを、ミリーちゃんを守ってきたきみを、危ないめに遭わせたくないんだ」
「なぜ? お嬢様のお兄さんなのでしょう? パイプだって」
「ディシュさんは、きみこそがこの邸宅を継ぐのに相応しいと思っているんだ」
「信じませんよ、そんなの! ぼくは孤児ですよ! 孤児が商家を継いだなんて話!」
「だから、よけい名乗れないんじゃないか」
 ジョゼフは未だになにが起こっているのかがわからないというように首を横に振る。
「ジョゼフくん、お兄ちゃんが帰ってくればこの邸宅はすこし幸せな方向へ好転する、それはわかるよね? そしてディアマンテさんはきみにこの邸宅を継がせること以外は考えていない。ディシュさんは商人の修行をしていないし、商人より画家がいいと思っている。だからディシュさんが帰還しても、ジョゼフくんがこの家を継ぐのは変わらない」
 ジョゼフは涙で潤む瞳が、ひたむきな瞳が、なにかを守ろうと吠えるけもののような眼がイコウを見返す。
「どうしたら、そんなに都合のいい話を信じられるって言うんですか!」
「ジョゼフくん、ディシュさんに名乗り出てほしいって言ってくれないか?」
「できませんよ! そんなこと!」
 ロットは視線でイコウを制する。
 イコウが口をつぐむと、ロットはジョゼフの前にかがみ込み、柔らかい声で言う。
「じゃあ、なぜそう思うかだけ話させて貰うよ。聞いてほしいんだ。話を聞いてくれるだけでいい。それで、考えてほしいんだ」
 ジョゼフはなおも抵抗するように言う。
「わかりました。あなたの話はわかりました。でも分からない事があるんです。あなたたちはなんでこんな事をするのですか? なんの得にもならないのに。ほっといてもいい事なのに、なぜです?」
 イコウとロットは視線を合わせる。
 イコウの口から出てきた言葉は、ジョゼフの心を落ち着かせるのに充分だった。
 それはしごく正常で、充分な動機のように思えた。
「シャリーが哀しむからだよ」

 イコウはロットの話が終わったのを確認して、静かに立ち上がる。
 ロットは落ち着いたジョゼフに微笑みかけ、肩をたたく。
「また来るよ。いろいろ話さないといけないみたいなんだ、今日は」
 イコウの言葉にジョゼフは無言で頷く。
 にっと笑った。
「今日はさ、スークルさまの大祭じゃない? きっと奇跡が起こる、そう思えるんだ」
 立ち去ろうとすると、ジョゼフかが背後から声を掛ける。
「待ってください。取ってほしいんです」
「え?」
「旦那様の約束を取ってほしいんです。名乗ってもディシュよりぼくを取るって」
 イコウは戸惑いながら笑いかける。
「もう、だれにもきみがこの邸宅を継ぐのは止められない。それだけは分かっているんだ。きみ以外がこの邸宅を継ぐことはあり得ない。だけどそれを信じていないのは、きみなんだ」
 ふっと笑う。
「約束する、このイコウが」


  ■ディシュに話をつけに行く。  157  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  156  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭が始まるまでぶらぶらする。  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



137


「実はミリーちゃんのお兄ちゃんが近くにいるかも知れないんだ」
 単刀直入なロットの言葉にジョゼフは、愕然とする。
 え、だってと、口をもごもごとさせていると、ロットは続ける。
「実は、パイプの件でいろいろ調べてみたんだ、ぼくらで」
「え? でも、パイプは〈トパーズの眼〉が見つけてきたんじゃ」
 ロットはうつむいて首を横に振る。
「だから、すこし後ろ暗い心地になってね。あのパイプは故買屋がぼくたちにみつけたことにしてほしいと言われたものだったんだ」
「じゃ、じゃあ? もしかして?」
 ロットは頷く。
「だから、調べたんだ。あのパイプはディシュさんが故買屋に持ち込んだ事がわかった。そう、たしかな筋の話だから……、そうか、わかるよね。リオネが〈トパーズの眼〉がそれを突き止めた」
 うなだれるジョゼフを横目に、ロットは続ける。
「ディシュさんがそのパイプをどこで手に入れたかはわからない。だけど、もしかしたら、ディシュさんがお兄さんの消息を知っているかもしれない」
 ジョゼフは両の拳を握り、小刻みに震える。
「い、いまさら……」
「だから、ちょっとだけなにかがあるかも知れないって、話しておきたかった」
 さらりというロットにジョゼフはぽかんとする。
「な、なるほど。あ、ありがとうございます」
 イコウは、ジョゼフの肩をぽんとたたき、微笑む。
「ジョゼフくん、お兄ちゃんなんだぞ? ミリーちゃんをさらっては行かないよ」
「か、からかわないでください」
 耳たぶまで真っ赤にして、ジョゼフは抗議する。
「あはは、ごめんごめん」
 ジョゼフはむくれてイコウをにらむが、イコウの無邪気な笑顔を見ている心が晴れてくる。
「あ、そうだ、そろそろ行かないと」
 ジョゼフは用事を思い出して、立ち上がる。
「ああ、ごめん、引き留めてしまった。ただ、心にとどめておいてほしかったんだ」
「はい、ありがとうございます」
 そういって、笑顔のかけらを残して出て行くジョゼフは、いつも通りのジョゼフだった。


  ■ディシュに話をつけに行く。  157  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  156  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭が始まるまでぶらぶらする。  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



138


「実は、パイプの件でいろいろ調べてみたんだ、ぼくらで」
「え? でも、パイプは〈トパーズの眼〉が見つけてきたんじゃ」
 おどろきの表情で見つめるジョゼフをみて、ロットは首を横に振る。
「だから、すこし後ろ暗い心地になってね。あのパイプは故買屋がぼくたちにみつけたことにしてほしいと言われたものだったんだ」
「じゃ、じゃあ? もしかして?」
 ロットは頷く。
「だから、調べたんだ。あのパイプはディシュさんが故買屋に持ち込んだ事がわかった。たしかな筋の話だから、そうか、わかるよね。リオネが〈トパーズの眼〉がそれを突き止めた。いろいろ考えたけれど、ディシュさんがお兄さんであることは間違いない」
 愕然とするジョゼフを気の毒そうに見つめ、ロットは言葉を切った。
 わなわなと小刻みに震えるジョゼフを見ていると、イコウも気の毒に思えてくる。
「ロット?」
「ディシュさんは、この邸宅がどこで酒を買っているかを知っていた。馴染みの店を」
 震えるジョゼフは絞り出すように言う。
「それに、まんまとぼくは乗ってしまった?」
 イコウはあわててロットを見る。
「まんまじゃない、ジョゼフくん。ミリーちゃんを助けたかったんだ、ディシュさんは」
「まんまじゃないですか!」
 ジョゼフは叫ぶ。
 普段からは想像もできないほど大きな声で。
「あの人は、この邸宅に帰ってきて、全部取り戻す気じゃないですか! なにもかもほったらかしにして、好きな絵を描いて、苦労もしないで、ぶらぶらとほっつき歩いて、十年も。そんなにですよ、十年もですよ、それがいまさら、いまさら」
 ジョゼフはロットをきっとにらむ。
「なんで帰ってきたんですか、なんのために! 画家でいいじゃないですか。高名な画家で充分じゃないですか! なにが不満なんですか! 住むところがほしくなったんですかあ! ぼくからなにもかもを奪い取るために、帰ってきたんですか! ぼくがなにを!」
 イコウはあわててなだめる。
「ジョゼフくん、落ち着いて聞いてほしい、話を聞いてほしいんだよ」
「落ち着いてなんて、いられませんよ! もう十年ですよ! ぼくがこの邸宅にやって来て、お嬢様に出会って、守ってあげたいと思ってから。もうそんなになるんです、それがいまさら!」
 ロットとイコウは視線を合わせる。
「ディシュさんがなにをするつもりなのかはわからない。だから、ちょっとだけなにかがあるかも知れないって話しておきたかったんだ」
 ジョゼフはロットの言葉をぽかんと聞く。
 それから、あわてて身なりを整え、落ち着き払おうと、深い息をする。
「わかりました……。ありがとうございます」
 イコウは、ジョゼフの肩をぽんとたたき、微笑む。
「ジョゼフくん、お兄ちゃんなんだぞ? ミリーちゃんをさらっては行かないよ」
「か、からかわないでください」
 耳たぶまで真っ赤にして、ジョゼフは抗議する。
「あはは、ごめんごめん」
 ジョゼフはむくれてイコウをにらむが、イコウの無邪気な笑顔を見ていると、多少心が晴れてくる。
「そろそろ行かないと」
 ジョゼフは用事を思い出して、立ち上がる。
「ああ、ごめん、引き留めてしまった。ただ、心にとどめておいてほしかったんだ」
「はい、ありがとうございます」
 そういって、笑顔のかけらを残して出て行くジョゼフは、いつも通りのジョゼフに戻っていた。


  ■ディシュに話をつけに行く。  157  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  156  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭が始まるまでぶらぶらする。  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



139


 邸内で挨拶をする商人たちを横目に見ながら、イコウたちは邸内を散策する。
「まあ、落ち着くまで待つしかないか」
 イコウはためいきをつくが、蜂の巣をたたいたようにと言うよりは蜜蜂たちのパーティーのようにディアマンテの邸宅はにぎやかなおしゃべりと、駆け回る使用人たちで混雑しており、なにかの目当てを達成するのは困難に思えるのだ。
 気付くと、ロットもリオネもどこかへ消え、イコウはしがみつくようなシャリーをつれて、ぶらぶらとしていた。
「ミリーちゃんに渡して!」
「このお花をミリーちゃんのお見舞いに」
 玄関口では、あふれるほどの子供たちがキャンディー目当てに、色とりどりの花束を差し出し、せわしなく使用人はその花束とキャンディーを交換する。
「スークルさまのご加護を、今日ぐらいは」
「あなたにも、スークルさまのご加護を、今日ぐらいは」
 そのはじけるような笑顔を見ていると、幸せになる。
 シャリーを見ると、同じような眼で見つめ返していた。
「イコウ、お祭りなんだね、今日は」
「ああ、スークルの大祭なんて聞いたこともなかったけど」
 イコウはふっとひとりごちる。
(こんなすてきなお祭りが、世界中のひとつひとつの街にあるんだろうな)
 それはとてもありふれた想像で、それでもそこに住む人たちはどのように年に一度の祭りを楽しむのだろうと思うと、一生かかってもそれを確認できないことを悟る。
(のんびりなんてしてられないな)
 イコウらしい想いが世界に向けて走っていく、飛んでいく。
 その街々の人々、幸せ、楽しみ、そしておいしいもの。
 そういったものをすべて味あわなければ満足できないのがイコウの性分で、いま、この瞬間も、どの瞬間もなにか無駄にしているのではという焦燥感に駆られるのだ。
 庭まで来て、イコウは聞く。
「そう言えばさ、シャリー?」
 ん? と小首を傾げるシャリーの背後から唐突に怒号が聞こえた。
 イコウはすぐにわかる。
「リオネだ! ミリーちゃんの部屋の方だ! まったく!」
 イコウは二三歩走って、高飛びの石を握る。
「いくら弱いからといっても、助けてくれる子に群がるんじゃない、頼るな、自分の力でなんとかしろ! よく見てみろ、目を見開いて。おまえらがすがっている相手は、もっとか弱い女の子なんだぞ! 逆だろ、ふつう! そんなことも分からないのか!」
(ばか……。おまえだって女の子じゃないか)
 イコウは飛ぶ。
 外階段に並ぶ商人たちを飛び越え、海鳥のテラスを飛び越え、二階のエントランスへ。
 そこまで押し出されてきたリオネと商人たちの間に入る。
 商人たちの険悪な視線がイコウに向かった。
 イコウは口を開く。
「リオネ、謝るんだ。ここはサディスだぞ。しかもお祭りじゃないか。穢すのか?」
 リオネはその怒気をはらんだ瞳をイコウに向け、ばつが悪そうに視線を伏せる。
「わかったよ。ごめん、謝る。あたし調子に乗ってた。すまない。傷つけるつもりはなかったさ。これは借りだ、なにかあったらちゃんと返す」
 しおらしい〈トパーズの眼〉の言葉に、商人たちは戸惑いながらも、言葉を投げる気力が消えていく。
 その視線が、ふたたびイコウをむく。

 どうする?


  ■リオネはミリーちゃんを助けたいだけなんだ。悪気はないんだ。  140  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■リオネは、東岸の商人がうらやましいだけなんだ。暖かくて。人の繋がりを大切にして。  141  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■今日はスークルさまの大祭でしょう? きっとなにかいいことが起こる日なんです? 悪いことはきっと起こらない。  142  【出現条件】:  【消失条件】:
    



140


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「でも、リオネはミリーちゃんを助けたいだけなんだ。悪気はないんだ」
 だから許して欲しいというと、商人たちはリオネと同じようにばつの悪そうな表情をする。イコウはためいきをつく。
「ミリーちゃんはなんで天気予報をやってるんだろ? 別にやりたくないって言ったっていいのに。なんで、あんなに元気がないのに、こんなに頑張っているんだろう?」
 商人たちは顔を見合わす。
 なぜ?
 なぜと言われても。
 イコウは階下のシャリーに聞く。
「シャリーは、なぜ、ミリーちゃんを元気にしようと、あれだけ怖がって使いたくないと言っていた共感者の力を使った? それが知りたいんだ。なんで、シャリーはそうしたの? それをしようと思った?」
 シャリーは頬を染め、集まる視線に耐える。
 おずおずとのどから発声しようと努力し、それから言った。
「わ、わたし、それしかできないから。足手まといで、変なことばかり言って」
「シャリーは足手まといじゃない。ロットは最高の仲間だって言っている」
 シャリーはすこし照れながら、言葉を選ぶ。
「それしかできないから、できることからやるの」
 イコウは納得して、頷く。
「あ、あたしだって、あたし、シャリーみたいな特別な力はないし、他にできることと言ったら、これぐらいしか」
 リオネの言葉に、商人たちはリオネの真意を悟る。
 それと同時に、浮き彫りになってくる自分たちの姿におののく。
 イコウは笑う。
「なので許して欲しいんだ。それしかできなかっただけなんだよ。他に方法がなくて、それをやるしかなかったんだよ。ミリーも、シャリーも、リオネも」

 イコウが騒ぎを収めると商人たちは、だれからというのでもなく、すごすごと家族の広間から退出していく。その話は階下にも伝わったのか、ぽつりぽつりとだけ訪れていた訪問客も途絶え、ジョゼフはほっと息をついた。
 ジョゼフが目を輝かしてイコウを見上げる。
「すごいですね。イコウさん、すごい」
「いや、たいしたことでは……」
 イコウはトランで喧嘩の仲裁ばかりやっていたのを思い出す。
(あんなのが役に立つとはなあ……)
 苦笑いしてしまうのだ。
「まったく、大変な目にあったよ」
 いらいらというリオネに、ジョゼフは笑いかける。
「さすがにシド商人相手では、みなさん、警戒します。この邸内は東岸の商人ばかりですから、どうです? お祭りでも見てきたら?」
 リオネはイコウを見る。

 どうする?


  ■ディシュに話をつけに行く。  157  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  156  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフと話をつける。  158  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りを見に行く。  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



141


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「リオネは、東岸の商人がうらやましいだけなんだ。暖かくて。人の繋がりを大切にして。嫉妬している。東岸のやり方が分からなくて。シドやトランじゃあ考えられないことだから。そうだろ? リオネ?」
 リオネは鼻白んで、イコウをにらむが、やけばち気味に商人たちに言う。
「だったら、もっとミリーちゃんを大切にしてやんなよ!」
「リオネ、分かれよ。ここは東岸諸国なんだ。みんな家族なんだ。娘が親を心配する、そんなの当たり前じゃないか」
「だったら、その親だってさ!」
「まだ慣れないだけなんだよ、とつぜんに娘ができたようなものなんだから」
 悔しそうにリオネはうつむく。
 リオネの言葉に、商人たちはその真意を悟る。
 それと同時に、浮き彫りになってくる自分たちの姿におののく。
 イコウは笑う。
「なので許して欲しいんだ。リオネはここのやり方が分からないんだ。すまない」

 イコウが騒ぎを収めると商人たちは、だれからというのでもなく、すごすごと家族の広間から退出していく。その話は階下にも伝わったのか、ぽつりぽつりとだけ訪れていた訪問客も途絶え、ジョゼフはほっと息をついた。
 ジョゼフが目を輝かしてイコウを見上げる。
「すごいですね。イコウさん、すごい」
「いや、たいしたことでは……」
 イコウはトランで喧嘩の仲裁ばかりやっていたのを思い出す。
(あんなのが役に立つとはなあ……)
 苦笑いしてしまうのだ。
「まったく、大変な目にあったよ」
 いらいらというリオネに、ジョゼフは笑いかける。
「さすがにシド商人相手では、みなさん、警戒します。この邸内は東岸の商人ばかりですから、どうです? お祭りでも見てきたら?」
 リオネはイコウを見る。


  ■ディシュに話をつけに行く。  157  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  156  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフと話をつける。  158  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りを見に行く。  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



142


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「今日はスークルさまの大祭でしょう? きっとなにかいいことが起こる日なんです? 悪いことはきっと起こらない」
 だから許して欲しいというと、商人たちはリオネと同じようにばつの悪そうな表情をする。イコウはためいきをつく。
「そうでしょう? ミリーちゃんにも、サディスにも、みなさんにも、リオネにもいいことが起きる日なんです。スークルさまのご加護を、今日ぐらいは」
 あわてて商人たちは祈りの言葉を呟く。
(うらやましい)
 イコウは羨望の視線を向けている自分に気付いた。

 イコウが騒ぎを収めると商人たちは、だれからというのでもなく、すごすごと家族の広間から退出していく。その話は階下にも伝わったのか、ぽつりぽつりとだけ訪れていた訪問客も途絶え、ジョゼフはほっと息をついた。
 ジョゼフが目を輝かしてイコウを見上げる。
「すごいですね。イコウさん、すごい」
「いや、たいしたことでは……」
 イコウはトランで喧嘩の仲裁ばかりやっていたのを思い出す。
(あんなのが役に立つとはなあ……)
 苦笑いしてしまうのだ。
「まったく、大変な目にあったよ」
 いらいらというリオネに、ジョゼフは笑いかける。
「さすがにシド商人相手では、みなさん、警戒します。この邸内は東岸の商人ばかりですから、どうです? お祭りでも見てきたら?」
 リオネはイコウを見る。


  ■ディシュに話をつけに行く。  157  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに話をつけに行く  156  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフと話をつける。  158  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りを見に行く。  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



143


 大祭の挨拶をする商人たちに混じって、なにやら忙しそうな使用人を捉まえる。
「あー、旦那様ですか……」
 げんなりとした様子の使用人は、無言で厨房の方をさす。
「なんです?」
「え、本日、お嬢様の肖像画のお披露目パーティーがあるんです。それで」
「ああ、それで張り切って」
 イコウたちはだいぶご愁傷様になりつつある使用人を横目に、厨房に入ると大きな怒鳴り声が聞こえた。
「急げ! 時間がないんだぞ、ゆっくりするな!」
 そこには颯爽としたディアマンテが、陣頭指揮よろしく使用人たちに指示を飛ばしており、そこを駆け回る使用人たちが、かごいっぱいの野菜、魚、食器などを抱えてせわしく歩き回っている。
「戻りました! 旦那様、ご指定の銘柄は」
「うむ、これなら、口に合うだろう。ご苦労」
 使用人が持ち帰ったワインボトルを満足そうに確認し、また次の使用人に指示を飛ばしに行く。ワインを抱えた使用人は座り込み、ほっと一息をつく。
「よ、よかった……」
 イコウは、あわててディアマンテを追った。
「あの、手が空いたら、話をさせてもらえませんか?」
 イコウの声を聞いて、ディアマンテは一喝する。
「あとだ! いま忙しい!」
 しかし、ディアマンテはそれがイコウだったことを思い出し、付け加えた。
「分かった。もう少しで片付く」

 4人はテラスから庭に出て、ベンチに座って、邸宅の様子を眺める。
 しかし、商人たちの波は途切れる気配を見せず、次から次へと親しげな商人が訪ねてくる。
 イコウはあくびをかみ殺しながらそれを見ていたが、変わることのない人の波に、ついに大あくびをする。
「しっかしさぁ、東岸中の商人がやって来ているんじゃないか?」
「来てるだろうね。年に一度の大祭とあっては」
 ロットはその様子を見ながらかりかりとノートにペンを走らせる。
「あれ、リオネは?」
 と聞こうとして、ロットには分からないだろうなあとためいきをついた。
 シャリーはぽかんとしてその商人たちを見つめる。
(うわー、商人ってこんなにいるんだ!)
 来る人来る人、だれもが一癖あって、シャリーの眼には新鮮に映る。
 豪華に着飾ってでっぷりと太った商人(両手に数え切れないほどの指輪付き)、初老のシックなたたずまいの背筋の伸びた商人(ブーツが軍用)、若く質素ではあるが熱意だけはある青年(襟の飾りが背伸びすぎ)、中年で小太りでありながら服がちょっと時代遅れな商人(貴金属を一切つけていない)。
 羽振りの良さそうな者から、そうでない者まで。
 それは、たとえるまでもなく東岸の商人名鑑で、そのどこかおかしみのある人々を見ているだけで、シャリーはその好奇心を満たされるのだ。
「そう言えばさ、シャリー?」
 ん? と小首を傾げるシャリーの背後から唐突に怒号が聞こえた。
 イコウはすぐにわかる。
「リオネだ! ミリーちゃんの部屋の方だ! まったく!」
 イコウは二三歩走って、高飛びの石を握る。
「いくら弱いからといっても、助けてくれる子に群がるんじゃない、頼るな、自分の力でなんとかしろ! よく見てみろ、目を見開いて。おまえらがすがっている相手は、もっとか弱い女の子なんだぞ! 逆だろ、ふつう! そんなことも分からないのか!」
(ばか……。おまえだって女の子じゃないか)
 イコウは飛ぶ。
 外階段に並ぶ商人たちを飛び越え、海鳥のテラスを飛び越え、二階のエントランスへ。
 そこまで押し出されてきたリオネと商人たちの間に入る。
 商人たちの険悪な視線がイコウに向かった。
 イコウは口を開く。
「リオネ、謝るんだ。ここはサディスだぞ。しかもお祭りじゃないか。穢すのか?」
 リオネはその怒気をはらんだ瞳をイコウに向け、ばつが悪そうに視線を伏せる。
「わかったよ。ごめん、謝る。あたし調子に乗ってた。すまない。傷つけるつもりはなかったさ。これは借りだ、なにかあったらちゃんと返す」
 しおらしい〈トパーズの眼〉の言葉に、商人たちは戸惑いながらも、言葉を投げる気力が消えていく。
 その視線が、ふたたびイコウをむく。

 どうする?


  ■リオネはミリーちゃんを助けたいだけなんだ。悪気はないんだ。  144  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■リオネは、東岸の商人がうらやましいだけなんだ。暖かくて。人の繋がりを大切にして。  145  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■今日はスークルさまの大祭でしょう? きっとなにかいいことが起こる日なんです? 悪いことはきっと起こらない。  146  【出現条件】:  【消失条件】:
    



144


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「でも、リオネはミリーちゃんを助けたいだけなんだ。悪気はないんだ」
 だから許して欲しいというと、商人たちはリオネと同じようにばつの悪そうな表情をする。イコウはためいきをつく。
「ミリーちゃんはなんで天気予報をやってるんだろ? 別にやりたくないって言ったっていいのに。なんで、あんなに元気がないのに、こんなに頑張っているんだろう?」
 商人たちは顔を見合わす。
 なぜ?
 なぜと言われても。
 イコウは階下のシャリーに聞く。
「シャリーは、なぜ、ミリーちゃんを元気にしようと、あれだけ怖がって使いたくないと言っていた共感者の力を使った? それが知りたいんだ。なんで、シャリーはそうしたの? それをしようと思った?」
 シャリーは頬を染め、集まる視線に耐える。
 おずおずとのどから発声しようと努力し、それから言った。
「わ、わたし、それしかできないから。足手まといで、変なことばかり言って」
「シャリーは足手まといじゃない。ロットは最高の仲間だって言っている」
 シャリーはすこし照れながら、言葉を選ぶ。
「それしかできないから、できることからやるの」
 イコウは納得して、頷く。
「あ、あたしだって、あたし、シャリーみたいな特別な力はないし、他にできることと言ったら、これぐらいしか」
 リオネの言葉に、商人たちはリオネの真意を悟る。
 それと同時に、浮き彫りになってくる自分たちの姿におののく。
 イコウは笑う。
「なので許して欲しいんだ。それしかできなかっただけなんだよ。他に方法がなくて、それをやるしかなかったんだよ。ミリーも、シャリーも、リオネも」

 イコウが騒ぎを収めると商人たちは、だれからというのでもなく、すごすごと家族の広間から退出していく。その話は階下にも伝わったのか、ぽつりぽつりとだけ訪れていた訪問客も途絶え、ジョゼフはほっと息をついた。
 ジョゼフが目を輝かしてイコウを見上げる。
「すごいですね。イコウさん、すごい」
「いや、たいしたことでは……」
 イコウはトランで喧嘩の仲裁ばかりやっていたのを思い出す。
(あんなのが役に立つとはなあ……)
 苦笑いしてしまうのだ。
「なにがあった?」
 階下から騒ぎを聞きつけたディアマンテが上がってきて、ジョゼフから説明を聞く。
「なるほど、それは済まなかったな。ちょうど手空きになったところだ」
 ディアマンテが外階段へと出ようとすると、立派な身なりの男が数人、そこに立っていた。
「ラディア卿、わざわざこんなところまで」
「すこし話ができるかね?」
 ディアマンテの口ぶりから、このサディスの貴族階級の者のようだった。ディアマンテは二三言、話をし、それから三階へとラディア卿と言うらしい貴族たちを、案内していく。
「内密な話だ。ついてくるな」
 ディアマンテの険しい表情を、見返して、ロットは言う。
「部屋に戻るのですよ。お話長そうですし」
「勝手にしろ」

 イコウたちの部屋へ戻ると、4人はすることもなく暇をもてあます。
 シャリーとイコウは、窓から祭りの様子を見下ろして、なにやらたのしげに話すが、こういった待ち時間が苦手なのはリオネだった。
 リオネは、ノートに筆を走らすロットを退屈そうに眺めていて、ふと思いつく。
「ねえ、ロット。ロットなら、あの中覗けるんだろ?」
「千里眼ですか、まあ、できないことは」
 ロットはわくわくするリオネを尻目に千里眼の珠を取り出すが、それでも気が引ける。
「あまり趣味がよくないと思うのだけど」
「だって、ロット、千里眼だよね? それが仕事だよね?」
 リオネが自分の提案を通そうとするときのやっかいさはロットにはよく分かっている。なんたって手練れの商人なのだ。ロットはためいきをついた。
「まあ、この際仕方ありませんか……」
 ロットは千里眼の珠を前方に構え、それに意識を集中する。
 リオネはロットの言葉に耳を傾ける。
「口論になっている。結構激しく。なんだろう? ディアマンテさん、怒ってるなあ」
「なんの話?」
「さあ、読唇術はあまり得意じゃないんだ。えーと、ミリー? んー、大祭? それから、スピーチ?」
 リオネはきょとんとして聞く。
「え? スークルの大祭で、ミリーちゃんにスピーチさせるの? 無理だよそれ」
 あまりにもおかしいというように、リオネは腹を抱えて笑う。
「あー、いや、ぼくの読唇術はあまり頼りにしてほしくないのだけど……」
 ロットが弱り切っている間にも、口論は続き、やがてそれは決裂し、ディアマンテの仕事場から、憤慨した貴族たちが出てくる。
「まったく! 彼の強情には困ったものだ!」
 それはロットがくちびるを読むまでもなく、イコウたちの部屋にも、響き渡ってくる。
 貴族たちの気配が消え、イコウたちは廊下へ出る。
「なんです?」
 憤慨するディアマンテにイコウは聞いた。
「あいつら、ミリーをなんだと思っているんだ!」
 ぽかんとするイコウを見て、ディアマンテはその激怒した瞳を和らげる。
「しかし、どうも君たちはちがうようだ。話があるんだったな。カフェで食事でもしながら話そう。もう昼時だ」


  ■ディシュに話をつけに行く。  157  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテと一緒にカフェへ行く。  147  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフと話をつける。  158  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りを見に行く。  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



145


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「リオネは、東岸の商人がうらやましいだけなんだ。暖かくて。人の繋がりを大切にして。嫉妬している。東岸のやり方が分からなくて。シドやトランじゃあ考えられないことだから。そうだろ? リオネ?」
 リオネは鼻白んで、イコウをにらむが、やけばち気味に商人たちに言う。
「だったら、もっとミリーちゃんを大切にしてやんなよ!」
「リオネ、分かれよ。ここは東岸諸国なんだ。みんな家族なんだ。娘が親を心配する、そんなの当たり前じゃないか」
「だったら、その親だってさ!」
「まだ慣れないだけなんだよ、とつぜんに娘ができたようなものなんだから」
 悔しそうにリオネはうつむく。
 リオネの言葉に、商人たちはその真意を悟る。
 それと同時に、浮き彫りになってくる自分たちの姿におののく。
 イコウは笑う。
「なので許して欲しいんだ。リオネはここのやり方が分からないんだ。すまない」

 イコウが騒ぎを収めると商人たちは、だれからというのでもなく、すごすごと家族の広間から退出していく。その話は階下にも伝わったのか、ぽつりぽつりとだけ訪れていた訪問客も途絶え、ジョゼフはほっと息をついた。
 ジョゼフが目を輝かしてイコウを見上げる。
「すごいですね。イコウさん、すごい」
「いや、たいしたことでは……」
 イコウはトランで喧嘩の仲裁ばかりやっていたのを思い出す。
(あんなのが役に立つとはなあ……)
 苦笑いしてしまうのだ。
「なにがあった?」
 階下から騒ぎを聞きつけたディアマンテが上がってきて、ジョゼフから説明を聞く。
「なるほど、それは済まなかったな。ちょうど手空きになったところだ」
 ディアマンテが外階段へと出ようとすると、立派な身なりの男が数人、そこに立っていた。
「ラディア卿、わざわざこんなところまで」
「すこし話ができるかね?」
 ディアマンテの口ぶりから、このサディスの貴族階級の者のようだった。ディアマンテは二三言、話をし、それから三階へとラディア卿と言うらしい貴族たちを、案内していく。
「内密な話だ。ついてくるな」
 ディアマンテの険しい表情を、見返して、ロットは言う。
「部屋に戻るのですよ。お話長そうですし」
「勝手にしろ」

 イコウたちの部屋へ戻ると、4人はすることもなく暇をもてあます。
 シャリーとイコウは、窓から祭りの様子を見下ろして、なにやらたのしげに話すが、こういった待ち時間が苦手なのはリオネだった。
 リオネは、ノートに筆を走らすロットを退屈そうに眺めていて、ふと思いつく。
「ねえ、ロット。ロットなら、あの中覗けるんだろ?」
「千里眼ですか、まあ、できないことは」
 ロットはわくわくするリオネを尻目に千里眼の珠を取り出すが、それでも気が引ける。
「あまり趣味がよくないと思うのだけど」
「だって、ロット、千里眼だよね? それが仕事だよね?」
 リオネが自分の提案を通そうとするときのやっかいさはロットにはよく分かっている。なんたって手練れの商人なのだ。ロットはためいきをついた。
「まあ、この際仕方ありませんか……」
 ロットは千里眼の珠を前方に構え、それに意識を集中する。
 リオネはロットの言葉に耳を傾ける。
「口論になっている。結構激しく。なんだろう? ディアマンテさん、怒ってるなあ」
「なんの話?」
「さあ、読唇術はあまり得意じゃないんだ。えーと、ミリー? んー、大祭? それから、スピーチ?」
 リオネはきょとんとして聞く。
「え? スークルの大祭で、ミリーちゃんにスピーチさせるの? 無理だよそれ」
 あまりにもおかしいというように、リオネは腹を抱えて笑う。
「あー、いや、ぼくの読唇術はあまり頼りにしてほしくないのだけど……」
 ロットが弱り切っている間にも、口論は続き、やがてそれは決裂し、ディアマンテの仕事場から、憤慨した貴族たちが出てくる。
「まったく! 彼の強情には困ったものだ!」
 それはロットがくちびるを読むまでもなく、イコウたちの部屋にも、響き渡ってくる。
 貴族たちの気配が消え、イコウたちは廊下へ出る。
「なんです?」
 憤慨するディアマンテにイコウは聞いた。
「あいつら、ミリーをなんだと思っているんだ!」
 ぽかんとするイコウを見て、ディアマンテはその激怒した瞳を和らげる。
「しかし、どうも君たちはちがうようだ。話があるんだったな。カフェで食事でもしながら話そう。もう昼時だ」


  ■ディシュに話をつけに行く。  157  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテと一緒にカフェへ行く。  147  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフと話をつける。  158  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りを見に行く。  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



146


 その商人たちの視線を受けて、イコウは言う。
「今日はスークルさまの大祭でしょう? きっとなにかいいことが起こる日なんです? 悪いことはきっと起こらない」
 だから許して欲しいというと、商人たちはリオネと同じようにばつの悪そうな表情をする。イコウはためいきをつく。
「そうでしょう? ミリーちゃんにも、サディスにも、みなさんにも、リオネにもいいことが起きる日なんです。スークルさまのご加護を、今日ぐらいは」
 あわてて商人たちは祈りの言葉を呟く。
(うらやましい)
 イコウは羨望の視線を向けている自分に気付いた。

 イコウが騒ぎを収めると商人たちは、だれからというのでもなく、すごすごと家族の広間から退出していく。その話は階下にも伝わったのか、ぽつりぽつりとだけ訪れていた訪問客も途絶え、ジョゼフはほっと息をついた。
 ジョゼフが目を輝かしてイコウを見上げる。
「すごいですね。イコウさん、すごい」
「いや、たいしたことでは……」
 イコウはトランで喧嘩の仲裁ばかりやっていたのを思い出す。
(あんなのが役に立つとはなあ……)
 苦笑いしてしまうのだ。
「なにがあった?」
 階下から騒ぎを聞きつけたディアマンテが上がってきて、ジョゼフから説明を聞く。
「なるほど、それは済まなかったな。ちょうど手空きになったところだ」
 ディアマンテが外階段へと出ようとすると、立派な身なりの男が数人、そこに立っていた。
「ラディア卿、わざわざこんなところまで」
「すこし話ができるかね?」
 ディアマンテの口ぶりから、このサディスの貴族階級の者のようだった。ディアマンテは二三言、話をし、それから三階へとラディア卿と言うらしい貴族たちを、案内していく。
「内密な話だ。ついてくるな」
 ディアマンテの険しい表情を、見返して、ロットは言う。
「部屋に戻るのですよ。お話長そうですし」
「勝手にしろ」

 イコウたちの部屋へ戻ると、4人はすることもなく暇をもてあます。
 シャリーとイコウは、窓から祭りの様子を見下ろして、なにやらたのしげに話すが、こういった待ち時間が苦手なのはリオネだった。
 リオネは、ノートに筆を走らすロットを退屈そうに眺めていて、ふと思いつく。
「ねえ、ロット。ロットなら、あの中覗けるんだろ?」
「千里眼ですか、まあ、できないことは」
 ロットはわくわくするリオネを尻目に千里眼の珠を取り出すが、それでも気が引ける。
「あまり趣味がよくないと思うのだけど」
「だって、ロット、千里眼だよね? それが仕事だよね?」
 リオネが自分の提案を通そうとするときのやっかいさはロットにはよく分かっている。なんたって手練れの商人なのだ。ロットはためいきをついた。
「まあ、この際仕方ありませんか……」
 ロットは千里眼の珠を前方に構え、それに意識を集中する。
 リオネはロットの言葉に耳を傾ける。
「口論になっている。結構激しく。なんだろう? ディアマンテさん、怒ってるなあ」
「なんの話?」
「さあ、読唇術はあまり得意じゃないんだ。えーと、ミリー? んー、大祭? それから、スピーチ?」
 リオネはきょとんとして聞く。
「え? スークルの大祭で、ミリーちゃんにスピーチさせるの? 無理だよそれ」
 あまりにもおかしいというように、リオネは腹を抱えて笑う。
「あー、いや、ぼくの読唇術はあまり頼りにしてほしくないのだけど……」
 ロットが弱り切っている間にも、口論は続き、やがてそれは決裂し、ディアマンテの仕事場から、憤慨した貴族たちが出てくる。
「まったく! 彼の強情には困ったものだ!」
 それはロットがくちびるを読むまでもなく、イコウたちの部屋にも、響き渡ってくる。
 貴族たちの気配が消え、イコウたちは廊下へ出る。
「なんです?」
 憤慨するディアマンテにイコウは聞いた。
「あいつら、ミリーをなんだと思っているんだ!」
 ぽかんとするイコウを見て、ディアマンテはその激怒した瞳を和らげる。
「しかし、どうも君たちはちがうようだ。話があるんだったな。カフェで食事でもしながら話そう。もう昼時だ」


  ■ディシュに話をつけに行く。  157  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテと一緒にカフェへ行く。  147  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフと話をつける。  158  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りを見に行く。  162  【出現条件】:  【消失条件】:
    



147


 イコウたちは、ディアマンテとサディスの街を歩く。
 それはなにやらふしぎな光景で、イコウには現実感のない、夢の中の光景のように思えてしまう。
 はじめてあったとき、とイコウは思い出す。
 あの恐ろしげな怒鳴り声、永久に尽きないかと思った不機嫌、それらはたしかにいまもときどきぶつけられるけれど、それでもそれは確実に減りつつある。なにか高い、栄光の日々の残光で生きるようなディアマンテに生気が戻り、それが地に足をつけて目の前を歩いている。
 イコウはそのふしぎな背中を見つめながら、この男の過去を想像してみようとする。
 しかしそれはすることができず、ただ、この男の未来が見えて来るのだった。
 ただし、それはこれからの数時間でどうなるのかが決するのであるが。
 イコウはゴクリと生唾を飲み込む。
(ディアマンテさんは過去が戻ってくると思っていたのかな?)
 もちろん、それを諦めている事は明らかだった。
 ではなんだろう?
(ディアマンテさんは自分の未来にお兄さんを含めたいのかな?)
 分からない。
「でもさ、サディスって白とブルーだろ? だから花が似合うんじゃない?」
 リオネの無邪気な言葉に、ロットが悩む。
「どういう意味? 青は似合うの?」
「ちがう、白と青だ。寒色だ、それにオーシャンブルーこれも寒色。分かるか? サディスはひかりの加減で気付きにくいが、実は殺風景な色味で構成されている」
 ディアマンテ、静かな口調でいうのに、リオネは驚いて聞く。
「そうだ、それだねぇ。あんた、詳しいね?」
「これでも、昔油絵を描いていたんだ。船に乗る前だ。画家になりいたいと真剣に考えていた事もあった。親の反対で駄目になった。だから絵の善し悪しはおおよそ分かる」
 リオネはふーんと納得する。
「ちょっと、待ってください。それで、なぜ花が映えるのですか?」
 分からないというようにロットが首を傾げる。
「寒い色のところに暖かい色が来るとぱっと目立つ。一度カンバスでやってみるといい。寒暖の補色の関係になる。そうだな。真っ暗な森の中にぽっと灯りが点るととても明るく見える。それと同じだ。殺風景な色味の街だから、カラフルな花を飾って映える」
 ディアマンテの色彩講義が続く間に、カフェが見えてくる。
 そのままカフェの入り口をくぐり、大祭の客に賑わう見馴れた店内に入っていく。
 見ると、予約でもしてあったのか、ディアマンテの席が空いている。
 ウェイターがディアマンテに気付いて会釈する。
「5人だ。椅子が足りない」
 すぐさまにウェイターは椅子を運び込み、シャリーがそこに座る。
 いつも商談で使ってるぐらいだから、ディアマンテは上客中の上客なのだろう。
 カフェからしてみればお金持ちのお客様をいつも紹介して貰っているようなものだ。それならサービスも気持ちが入るだろう。それがさらに心地よさにつながる。
 ディアマンテは、簡単にオーダーをする。
「このカフェは、亡くなった家内のお気に入りでね」
 思い出話をするうちに、前菜が運ばれてくる。
 ディアマンテはウェイターが立ち去るのを待って切り出した。
「話を聞こう」


  ■息子さんが帰ってきたら、和解してほしいんだ。  148  【出現条件】:flag000*flag221  【消失条件】:
    
  ■あまりとげとげしくしないで欲しいんだ、ミリーちゃんのためにも。  149  【出現条件】:flag000*flag211*flag213*flag218  【消失条件】:
    
  ■あの約束守って欲しいんだ。とげとげしくしないって。  150  【出現条件】:flag000*flag219  【消失条件】:
    
  ■息子さんに返ってきて欲しいんだろ? 和解して欲しいんだ。  151  【出現条件】:flag000*flag226  【消失条件】:
    
  ■実はディシュさんが息子なんだ。  152  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに、ディシュに、ジョゼフを跡取りにすると告げて貰う。  153  【出現条件】:flag000*flag241  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフくんを跡継ぎにする? するならディシュに。  154  【出現条件】:flag000*flag243  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフくんに、後継ぎにすると確約して欲しいんだ。  155  【出現条件】:flag000*flag136  【消失条件】:
    



148


 真正面に座っているロットがおもむろに切り出す。
「息子さんが帰ってきたら、和解をしてほしいのです」
 ロットの言葉をいぶかしげに聞いていたディアマンテはすこし考えて、聞く。
「なぜ、そのようなことを言う?」
「パイプです」
 ロットの答えは明快だった。
「パイプがなくなりました。ディアマンテさんは邸宅の近くに息子さんが潜んでいると考えているのではないのですか?」
 ディアマンテは不敵に笑う。
「なにか知っていることがあるのだな」
「ええ、そう、実は」
 ロットの口元が楽しそうに弾む。
「実は、パイプの件でいろいろと調べてみたのです」
「つまり、あのパイプは〈トパーズの眼〉が、いや失礼、リオネさんが見つけたのではない、ということだな?」
「ええ、そのとおり。だからすこし後ろ暗かったのです、ぼくらは。あなたの大切なものに嘘をついていた。それはまず謝ります」
「それはいい。つづけて」
 ディアマンテの表情が興味深いものをみるものに変わる。
 気付いたように前菜にフォークを入れると、だれもが思い出したようにそれを口に運ぶ。
「あのパイプは、故買屋にぼくらが見つけたことにしてくれと言われたものなのです」
「ありそうな話だ。それで、パイプはどこから?」
 ロットは、租借をしながら首を横に振る。
 飲み込むと同時に口を開く。
「でも、再び盗まれた以上、息子さんがいるかも知れない。そう考えるのは普通でしょう?」
 ディアマンテが考えるうちに、ウェイターがメインディッシュを運んでくる。
 湯気を立てる魚の蒸し料理に、リオネは話そっちのけで、表情を輝かせる。
「もっともな話だ」
 ウェイターが立ち去ると、ディアマンテはそういう。
「しかし、あいつの居場所はない。後継ぎはジョゼフだ」
「でもさ、そういうことにして和解できないかな? 息子さんだって完全に元通りになるなんて思っていないよ。だけど、息子さんがいないより、いた方がいいよ」
 イコウに視線を向け、ディアマンテは素っ気なく言う。
「言いたいことはよく分かった。その話は考えておく」

 考えてみればディアマンテは昔も今も一線級の商人であり、毎日を交渉毎で暮らしているのである。話を閉ざしたディアマンテは、多少の居心地の悪さを許容し、食事は最後までするようだった。
 ふいにカフェの入り口が騒がしくなり、見るとジョゼフがあわててやってくる。
 ディアマンテはナプキンで口を拭き、汗だくのジョゼフを見る。
「どうした?」
 息を切らし、ジョゼフは言う。
「いえ、旦那様もお会いになられたと思うのですが」
「ラディア卿、だな?」
「ええ、ですが、お受けになるべきです。スークルの大祭でのスピーチ、こんな晴れがましい場所で、お嬢様の現状を訴えることができるのです。これはチャンスです」
 ディアマンテは、貴族たちの考えを読んでいるのか黙りこくる。
「その話は断ったはずだ」
「いえ、旦那様。お聞きください。ラディア卿は条件を飲んだのです。スピーチだけでいいと。お嬢様が姿を現す必要はない。表彰される必要はないと」
 ディアマンテは、きょとんとする。
 それから震える手をジョゼフの頭におく。
「おまえ、よく……」
 ジョゼフは嬉しそうに笑う。
「ですから、なんの心配もいりません。お受けください、旦那様」
「さすが、私の後継者。ミリーに相応しくなってきたな」
 その言葉を聞いて、ジョゼフは赤面し、準備がありますからと、あわててカフェから飛び出していく。イコウには、2人にしか見えない絆が一瞬見えたような気がして、微笑んでしまう。
「とにかく、今日の話は分かった。息子がどこでどうしていようと、帰ってくるのもかまわない。だが、私はジョゼフ以外の者に、継がせることはしない」
 言い放ち、イコウの微笑みに気付いて、ディアマンテはきょとんとする。
「安心しました」
 イコウの言葉に、ディアマンテはあわてて立ち上がり、準備があるからと言って、カフェを立ち去る、まるでジョゼフのように。


  ■ディシュを探す。  161  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテのスピーチを待つ。  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフを探す。  164  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りが始まるのを待つ。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



149


 真正面に座っているロットがおもむろに切り出す。
「あまりとげとげしくしないで欲しいのです、ミリーちゃんのために」
 ディアマンテは、きょとんとして聞く。
「そんなことを言いに来たのか?」
「ええ、あれはあまりよくないと思うんです、商人が邸宅に自由に出入りするのと同じように」
 ディアマンテはかちんと来たのか無言になるが、しばらく前菜を食しているうちに、思い出したように告げる。
「ミリーの天気予報は、東岸の希望になっている」
「しかし、それではミリーちゃんが」
 ディアマンテが考えるうちに、ウェイターがメインディッシュを運んでくる。
 湯気を立てる魚の蒸し料理に、リオネは話そっちのけで、表情を輝かせる。
 ディアマンテは素っ気なく言う。
「言いたいことはよく分かった。その話は考えておく」

 考えてみればディアマンテは昔も今も一線級の商人であり、毎日を交渉毎で暮らしているのである。話を閉ざしたディアマンテは、多少の居心地の悪さを許容し、食事は最後までするようだった。
 ふいにカフェの入り口が騒がしくなり、見るとジョゼフがあわててやってくる。
 ディアマンテはナプキンで口を拭き、汗だくのジョゼフを見る。
「どうした?」
 息を切らし、ジョゼフは言う。
「いえ、旦那様もお会いになられたと思うのですが」
「ラディア卿、だな?」
「ええ、ですが、お受けになるべきです。スークルの大祭でのスピーチ、こんな晴れがましい場所で、お嬢様の現状を訴えることができるのです。これはチャンスです」
 ディアマンテは、貴族たちの考えを読んでいるのか黙りこくる。
「その話は断ったはずだ」
「いえ、旦那様。お聞きください。ラディア卿は条件を飲んだのです。スピーチだけでいいと。お嬢様が姿を現す必要はない。表彰される必要はないと」
 ディアマンテは、きょとんとする。
「おまえ、よく……。わかった。しかたない」
 ジョゼフは嬉しそうに笑い、準備がありますからと、カフェから飛び出していく。
 食事を終えたディアマンテも同じように立ち上がり、準備があるからと言って、カフェを立ち去った。


  ■ディシュを探す。  161  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテのスピーチを待つ。  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフを探す。  164  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りが始まるのを待つ。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



150


 脇に座っているイコウが言う。
「あの約束守ってほしいんだ。あまりとげとげしくしないって」
 ディアマンテは、きょとんとして聞く。
「そんなことを言いに来たのか?」
「ええ、約束してほしいのです」
 ディアマンテは無言になるが、しばらく前菜を食しているうちに、思い出したように告げる。
「たしかにそう言った」
「じゃあ」
 ディアマンテが考えるうちに、ウェイターがメインディッシュを運んでくる。
 湯気を立てる魚の蒸し料理に、リオネは話そっちのけで、表情を輝かせる。
 ディアマンテは素っ気なく言った。
「言いたいことはよく分かった。その話は考えておく」

 考えてみればディアマンテは昔も今も一線級の商人であり、毎日を交渉毎で暮らしているのである。話を閉ざしたディアマンテは、多少の居心地の悪さを許容し、食事は最後までするようだった。
 ふいにカフェの入り口が騒がしくなり、見るとジョゼフがあわててやってくる。
 ディアマンテはナプキンで口を拭き、汗だくのジョゼフを見る。
「どうした?」
 息を切らし、ジョゼフは言う。
「いえ、旦那様もお会いになられたと思うのですが」
「ラディア卿、だな?」
「ええ、ですが、お受けになるべきです。スークルの大祭でのスピーチ、こんな晴れがましい場所で、お嬢様の現状を訴えることができるのです。これはチャンスです」
 ディアマンテは、貴族たちの考えを読んでいるのか黙りこくる。
「その話は断ったはずだ」
「いえ、旦那様。お聞きください。ラディア卿は条件を飲んだのです。スピーチだけでいいと。お嬢様が姿を現す必要はない。表彰される必要はないと」
 ディアマンテは、きょとんとする。
「おまえ、よく……。わかった。しかたない」
 ジョゼフは嬉しそうに笑い、準備がありますからと、カフェから飛び出していく。
 食事を終えたディアマンテも同じように立ち上がり、準備があるからと言って、カフェを立ち去った。


  ■ディシュを探す。  161  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテのスピーチを待つ。  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフを探す。  164  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りが始まるのを待つ。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



151


 真正面に座っているロットがおもむろに切り出す。
「息子さんに帰ってきてほしいのですよね? それで、和解をしてほしいのです」
 ロットの言葉をいぶかしげに聞いていたディアマンテはすこし考えて、聞く。
「なぜ、そのようなことを言う?」
「パイプです」
 ロットの答えは明快だった。
「パイプがなくなりました。ディアマンテさんは邸宅の近くに息子さんが潜んでいると考えているのではないのですか?」
 ディアマンテは不敵に笑う。
「なにか知っていることがあるのだな」
「ええ、そう、実は」
 ロットの口元が楽しそうに弾む。
「実は、パイプの件でいろいろと調べてみたのです」
「つまり、あのパイプは〈トパーズの眼〉が、いや失礼、リオネさんが見つけたのではない、ということだな?」
「ええ、そのとおり。だからすこし後ろ暗かったのです、ぼくらは。あなたの大切なものに嘘をついていた。それはまず謝ります」
「それはいい。つづけて」
 ディアマンテの表情が興味深いものをみるものに変わる。
 気付いたように前菜にフォークを入れると、だれもが思い出したようにそれを口に運ぶ。
「あのパイプは、故買屋にぼくらが見つけたことにしてくれと言われたものなのです」
「ありそうな話だ。それで、パイプはどこから?」
 ロットは、租借をしながら首を横に振る。
 飲み込むと同時に口を開く。
「でも、再び盗まれた以上、息子さんがいるかも知れない。そう考えるのは普通でしょう?」
 ディアマンテが考えるうちに、ウェイターがメインディッシュを運んでくる。
 湯気を立てる魚の蒸し料理に、リオネは話そっちのけで、表情を輝かせる。
「もっともな話だ」
 ウェイターが立ち去ると、ディアマンテはそういう。
「しかし、あいつの居場所はない。後継ぎはジョゼフだ」
「でもさ、そういうことにして和解できないかな? 息子さんだって完全に元通りになるなんて思っていないよ。だけど、息子さんがいないより、いた方がいいよ。ミリーちゃんだって元気になるよ」
 イコウに視線を向け、ディアマンテは笑う。
「その通りかも知れない。きみの言う通りかも知れない。分かった。その話は考えておく」

 それからのディアマンテはやけに饒舌で、昨日のミリーは妻が生き返ったみたいだったとまで言った。
 懐かしむように、思い出話を語り、イコウたちはその話を楽しく聞く。
 香草で蒸した海魚は、トランの料理とは一風ちがいながらも懐かしい味をしていて、それを食しながら、イコウはその暖かな空気にしあわせに浸る。
 ふと傍らのシャリーを見ると、おずおずと恥ずかしそうにはにかむ。
 喜んでいるのだ。
 イコウにはそれが分かった。
 ふいにカフェの入り口が騒がしくなり、見るとジョゼフがあわててやってくる。
 ディアマンテはナプキンで口を拭き、汗だくのジョゼフを見る。
「どうした?」
 息を切らし、ジョゼフは言う。
「いえ、旦那様もお会いになられたと思うのですが」
「ラディア卿、だな?」
「ええ、ですが、お受けになるべきです。スークルの大祭でのスピーチ、こんな晴れがましい場所で、お嬢様の現状を訴えることができるのです。これはチャンスです」
 ディアマンテは、貴族たちの考えを読んでいるのか黙りこくる。
「その話は断ったはずだ」
「いえ、旦那様。お聞きください。ラディア卿は条件を飲んだのです。スピーチだけでいいと。お嬢様が姿を現す必要はない。表彰される必要はないと」
 ディアマンテは、きょとんとする。
 それから震える手をジョゼフの頭におく。
「おまえ、よく……」
 ジョゼフは嬉しそうに笑う。
「ですから、なんの心配もいりません。お受けください、旦那様」
「さすが、私の後継者。ミリーに相応しくなってきたな」
 その言葉を聞いて、ジョゼフは赤面し、準備がありますからと、あわててカフェから飛び出していく。イコウには、2人にしか見えない絆が一瞬見えたような気がして、微笑んでしまう。
「とにかく、今日の話は分かった。息子がどこでどうしていようと、帰ってくるのもかまわない。だが、私はジョゼフ以外の者に、継がせることはしない」
 ディアマンテはイコウの微笑みを確認するように見て、同じように笑う。
「安心しました」
 イコウの言葉に、ディアマンテはゆっくりと立ち上がり、準備があるからと言って、カフェを立ち去った、まるでジョゼフのように。


  ■ディシュを探す。  161  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテのスピーチを待つ。  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフを探す。  164  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りが始まるのを待つ。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



152


 真正面に座っているロットがおもむろに切り出す。
「実は、パイプの件でいろいろ調べてみたのです」
「つまり、あのパイプは〈トパーズの眼〉が、いや失礼、リオネさんが見つけたのではない、ということだな?」
 ディアマンテが答えるのに、ロットは視線をそらす。
「ええ、まあ。そのとおりです。だからすこし後ろ暗かったのです、ぼくらは。あなたの大切なものに嘘をついていた。それはまず謝ります」
「それはいい。つづけて」
 ディアマンテの表情が興味深いものをみるものに変わる。
 気付いたように前菜にフォークを入れると、だれもが思い出したようにそれを口に運ぶ。
「あのパイプは、故買屋にぼくらが見つけたことにしてくれと言われたものなのです」
「ありそうな話だ。それで、パイプはどこから?」
 4人が一斉に緊張する。
 ロットは先陣を切るように、口火を切った。
「あのパイプはディシュさんが故買屋に持ち込んだ事が分かりました。たしかな筋です。分かりますよね。〈トパーズの眼〉が突き止めた」
 リオネが説明をしようとするが、ディアマンテにはその必要はないように思えた。
「あいつが? ディシュ? 東岸一の肖像画家?」
「ええ。なんと言ったらいいのか。息子さんは夢を叶えました。それは本来であれば祝福すべき事。でも、それよりもその考えに至った経緯を話しましょう」
 ロットの話は枯れきったように淡々としていて、無駄がなく、説得力がある。ロットはその話し方が一番伝わることを知っているようなのだ。普段あまりしない話し方に、イコウは感心する。
(ロットはどれだけ場数を踏んでいるのだろう?)
 イコウは、その頼もしい仲間を心強く思いはするのだが、ディアマンテのような手練れの商人と差しで渡り歩いている姿を見ると、なにか遠い存在のように思えてきて、寂しくなるのだ。
 さめた熱意に満ちた瞳を、ディアマンテは信頼して見つめ返し、静かに聞く。
 ウェイターがメインディッシュを運んでくる。
 湯気を立てる魚の蒸し料理に、リオネは話そっちのけで、表情を輝かせる。
「もっともな話だ」
 ウェイターが立ち去ると、ディアマンテはそういう。
「しかし、あいつの居場所はない。後継ぎはジョゼフだ」
「それは分かっていると思うのです。ディシュさんは商人の修行をしていませんし、商人より画家をしている方がいいと思っている。無責任にふらふらしている方がいいと」
 ディアマンテは苦笑する。
「その通りだ。それで?」
「ディシュさんを動かしているのは、ミリーちゃんを助けたいという想いです。他に動機がまったく見あたらない。それは分かりますよね?」
「ああ」
「では、それを大切にしてあげてくれませんか?」
 ディアマンテは考え込む。
「きみは、充分に信頼に足る人間だ。しかし、どうしても解せない。きみはなぜそのようなことをいう? ディシュくんがなにをする気か分からないのに、それを信用しろと?」
 ロットは鼻白んだ。
 ああ、と思う。そこが決定的な違いなのだと気付く。
 ロットは言った。
「仲間が、ぼくの仲間がそう思っているからです。イコウが、シャリーが。だから話を。言い分だけでも聞いてください。それで受け入れることができるなら受け入れてください」
 ディアマンテは素っ気なく言う。
「言いたいことはよく分かった。その話は考えておく」

 考えてみればディアマンテは昔も今も一線級の商人であり、毎日を交渉毎で暮らしているのである。話を閉ざしたディアマンテは、多少の居心地の悪さを許容し、食事は最後までするようだった。
 ふいにカフェの入り口が騒がしくなり、見るとジョゼフがあわててやってくる。
 ディアマンテはナプキンで口を拭き、汗だくのジョゼフを見る。
「どうした?」
 息を切らし、ジョゼフは言う。
「いえ、旦那様もお会いになられたと思うのですが」
「ラディア卿、だな?」
「ええ、ですが、お受けになるべきです。スークルの大祭でのスピーチ、こんな晴れがましい場所で、お嬢様の現状を訴えることができるのです。これはチャンスです」
 ディアマンテは、貴族たちの考えを読んでいるのか黙りこくる。
「その話は断ったはずだ」
「いえ、旦那様。お聞きください。ラディア卿は条件を飲んだのです。スピーチだけでいいと。お嬢様が姿を現す必要はない。表彰される必要はないと」
 ディアマンテは、きょとんとする。
 それから震える手をジョゼフの頭におく。
「おまえ、よく……」
 ジョゼフは嬉しそうに笑う。
「ですから、なんの心配もいりません。お受けください、旦那様」
「さすが、私の後継者。ミリーに相応しくなってきたな」
 その言葉を聞いて、ジョゼフは赤面し、準備がありますからと、あわててカフェから飛び出していく。イコウには、2人にしか見えない絆が一瞬見えたような気がして、微笑んでしまう。
「とにかく、今日の話は分かった。息子がどこでどうしていようと、帰ってくるのもかまわない。だが、私はジョゼフ以外の者に、継がせることはしない」
 言い放ち、イコウの微笑みに気付いて、ディアマンテはきょとんとする。
「安心しました」
 イコウの言葉に、ディアマンテはあわてて立ち上がり、準備があるからと言って、カフェを立ち去る、まるでジョゼフのように。


  ■ディシュを探す。  161  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテのスピーチを待つ。  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフを探す  165  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りが始まるのを待つ。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



153


 真正面に座っているロットがおもむろに切り出す。
「実は、パイプの件でいろいろ調べてみたのです」
「つまり、あのパイプは〈トパーズの眼〉が、いや失礼、リオネさんが見つけたのではない、ということだな?」
 ディアマンテが答えるのに、ロットは視線をそらす。
「ええ、まあ。そのとおりです。だからすこし後ろ暗かったのです、ぼくらは。あなたの大切なものに嘘をついていた。それはまず謝ります」
「それはいい。つづけて」
 ディアマンテの表情が興味深いものをみるものに変わる。
 気付いたように前菜にフォークを入れると、だれもが思い出したようにそれを口に運ぶ。
「あのパイプは、故買屋にぼくらが見つけたことにしてくれと言われたものなのです」
「ありそうな話だ。それで、パイプはどこから?」
 4人が一斉に緊張する。
 ロットは先陣を切るように、口火を切った。
「あのパイプはディシュさんが故買屋に持ち込んだ事が分かりました。たしかな筋です。分かりますよね。〈トパーズの眼〉が突き止めた」
 リオネが説明をしようとするが、ディアマンテにはその必要はないように思えた。
「あいつが? ディシュ? 東岸一の肖像画家?」
「ええ。なんと言ったらいいのか。息子さんは夢を叶えました。それは本来であれば祝福すべき事。でも、それよりもその考えに至った経緯を話しましょう」
 ロットの話は枯れきったように淡々としていて、無駄がなく、説得力がある。ロットはその話し方が一番伝わることを知っているようなのだ。普段あまりしない話し方に、イコウは感心する。
(ロットはどれだけ場数を踏んでいるのだろう?)
 イコウは、その頼もしい仲間を心強く思いはするのだが、ディアマンテのような手練れの商人と差しで渡り歩いている姿を見ると、なにか遠い存在のように思えてきて、寂しくなるのだ。
 さめた熱意に満ちた瞳を、ディアマンテは信頼して見つめ返し、静かに聞く。
 ウェイターがメインディッシュを運んでくる。
 湯気を立てる魚の蒸し料理に、リオネは話そっちのけで、表情を輝かせる。
「もっともな話だ」
 ウェイターが立ち去ると、ディアマンテはそういう。
「しかし、あいつの居場所はない。後継ぎはジョゼフだ」
「それは分かっていると思うのです。ディシュさんは商人の修行をしていませんし、商人より画家をしている方がいいと思っている。無責任にふらふらしている方がいいと」
 ディアマンテは苦笑する。
「その通りだ。それで?」
「ディシュさんは名乗りでないかも知れないと思っているのです。名乗れば、ジョゼフくんの努力を無にする恐れがある。たった1%でも可能性があれば、その好意が結実するはずの結果を壊してしまう恐れに思い至るでしょう」
 ロットの言葉に、ディアマンテはふっと笑う。
「きみたちはあれを買いかぶりすぎだ」
「そうではありません、ディアマンテさん。息子さんは、あなたの期待以上に立派になって帰還しているのです。それで、壊すことができない事情を察して立ち去ろうとしているのです」
「そうか。親が強情なら、子も強情だ。それでは、どうしたらいい?」
 ディアマンテの投げ出すような態度にひるむことなく、ロットは言う。
「ディシュさんに伝えてくれませんか? ジョゼフを跡取りにするから、安心して欲しいと」
 ディアマンテは微笑んだ。
「喜んでそうさせて貰おう」

 それからのディアマンテはやけに饒舌で、昨日のミリーは妻が生き返ったみたいだったとまで言った。
 懐かしむように、思い出話を語り、イコウたちはその話を楽しく聞く。
 香草で蒸した海魚は、トランの料理とは一風ちがいながらも懐かしい味をしていて、それを食しながら、イコウはその暖かな空気にしあわせに浸る。
 ふと傍らのシャリーを見ると、おずおずと恥ずかしそうにはにかむ。
 喜んでいるのだ。
 イコウにはそれが分かった。
 ふいにカフェの入り口が騒がしくなり、見るとジョゼフがあわててやってくる。
 ディアマンテはナプキンで口を拭き、汗だくのジョゼフを見る。
「どうした?」
 息を切らし、ジョゼフは言う。
「いえ、旦那様もお会いになられたと思うのですが」
「ラディア卿、だな?」
「ええ、ですが、お受けになるべきです。スークルの大祭でのスピーチ、こんな晴れがましい場所で、お嬢様の現状を訴えることができるのです。これはチャンスです」
 ディアマンテは、貴族たちの考えを読んでいるのか黙りこくる。
「その話は断ったはずだ」
「いえ、旦那様。お聞きください。ラディア卿は条件を飲んだのです。スピーチだけでいいと。お嬢様が姿を現す必要はない。表彰される必要はないと」
 ディアマンテは、きょとんとする。
 それから震える手をジョゼフの頭におく。
「おまえ、よく……」
 ジョゼフは嬉しそうに笑う。
「ですから、なんの心配もいりません。お受けください、旦那様」
「さすが、私の後継者。ミリーに相応しくなってきたな」
 その言葉を聞いて、ジョゼフは赤面し、準備がありますからと、あわててカフェから飛び出していく。イコウには、2人にしか見えない絆が一瞬見えたような気がして、微笑んでしまう。
「とにかく、今日の話は分かった。息子がどこでどうしていようと、帰ってくるのもかまわない。だが、私はジョゼフ以外の者に、継がせることはしない」
 ディアマンテはイコウの微笑みを確認するように見て、同じように笑う。
「安心しました」
 イコウの言葉に、ディアマンテはゆっくりと立ち上がり、準備があるからと言って、カフェを立ち去った、まるでジョゼフのように。


  ■ディシュを探す。  161  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテのスピーチを待つ。  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフを探す  165  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りが始まるのを待つ。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



154


 真正面に座っているロットがおもむろに切り出す。
「お尋ねしたいのは、後継ぎの事です。ディアマンテさんはジョゼフくんを後継ぎにするつもりなのかどうか、それが聞きたいのです」
 ロットの言葉をいぶかしげに聞いていたディアマンテはすこし考えて、聞く。
「なぜ、そのようなことを聞く? 後継ぎはジョゼフしかいない」
「もし、息子さんが帰ってきても、ですか?」
 ディアマンテはなにかを悟ったのかそわそわするが、すぐに答えを出す。
「あいつは商人修行をしていない。いまの歳となっては、もはや手遅れだ」
 ロットは頬を緩める。
「それを聞いて安心しました。実は、パイプの件でいろいろ調べてみたのです」
 ふんと鼻を鳴らす。
「やはり、あのパイプは〈トパーズの眼〉が見つけてきたのではないのだな」
「そのとおりです。だからすこし後ろ暗かったのです、ぼくらは。あなたの大切なものに嘘をついていた。それはまず謝ります」
「なるほど」
 ディアマンテの表情が興味深いものをみるものに変わる。
 気付いたように前菜にフォークを入れると、だれもが思い出したようにそれを口に運ぶ。
「あのパイプは、故買屋にぼくらが見つけたことにしてくれと言われたものなのです」
「ありそうな話だ。それで、パイプはどこから?」
 一斉に緊張が走った。
 ロットは口火を切った。
「あのパイプはディシュさんが故買屋に持ち込んだ事が分かりました。たしかな筋です。分かりますね。〈トパーズの眼〉が突き止めた」
 リオネが説明をしようとするが、ディアマンテにはその必要はないように思えた。
「あいつが? ディシュ? 東岸一の肖像画家?」
「ええ。なんと言ったらいいのか。息子さんは夢を叶えました。それは本来であれば祝福すべき事。でも、それよりもその考えに至った経緯を話しましょう」
 ロットの話は枯れきったように淡々としていて、無駄がなく、説得力がある。ロットはその話し方が一番伝わることを知っているようなのだ。普段あまりしない話し方に、イコウは感心する。
(ロットはどれだけ場数を踏んでいるのだろう?)
 イコウは、その頼もしい仲間を心強く思いはするのだが、ディアマンテのような手練れの商人と差しで渡り歩いている姿を見ると、なにか遠い存在のように思えてきて、寂しくなるのだ。
 さめた熱意に満ちた瞳を、ディアマンテは信頼して見つめ返し、静かに聞く。
 ウェイターがメインディッシュを運んでくる。
 湯気を立てる魚の蒸し料理に、リオネは話そっちのけで、表情を輝かせる。
「もっともな話だ」
 ウェイターが立ち去ると、ディアマンテはそういう。
「しかし、あいつの居場所はない。後継ぎはジョゼフだ」
「それは分かっていると思うのです。ディシュさんは商人の修行をしていませんし、商人より画家をしている方がいいと思っている。無責任にふらふらしている方がいいと」
 ディアマンテは苦笑する。
「その通りだ。それで?」
「ディシュさんは名乗りでないかも知れないと思っているのです。名乗れば、ジョゼフくんの努力を無にする恐れがある。たった1%でも可能性があれば、その好意が結実するはずの結果を壊してしまう恐れに思い至るでしょう」
 ロットの言葉に、ディアマンテはふっと笑う。
「きみたちはあれを買いかぶりすぎだ」
「そうではありません、ディアマンテさん。息子さんは、あなたの期待以上に立派になって帰還しているのです。それで、壊すことができない事情を察して立ち去ろうとしているのです」
「そうか。親が強情なら、子も強情だ。それでは、どうしたらいい?」
 ディアマンテの投げ出すような態度にひるむことなく、ロットは言う。
「ディシュさんに伝えてくれませんか? ジョゼフを跡取りにするから、安心して欲しいと」
 ディアマンテは微笑んだ。
「喜んでそうさせて貰おう」

 それからのディアマンテはやけに饒舌で、昨日のミリーは妻が生き返ったみたいだったとまで言った。
 懐かしむように、思い出話を語り、イコウたちはその話を楽しく聞く。
 香草で蒸した海魚は、トランの料理とは一風ちがいながらも懐かしい味をしていて、それを食しながら、イコウはその暖かな空気にしあわせに浸る。
 ふと傍らのシャリーを見ると、おずおずと恥ずかしそうにはにかむ。
 喜んでいるのだ。
 イコウにはそれが分かった。
 ふいにカフェの入り口が騒がしくなり、見るとジョゼフがあわててやってくる。
 ディアマンテはナプキンで口を拭き、汗だくのジョゼフを見る。
「どうした?」
 息を切らし、ジョゼフは言う。
「いえ、旦那様もお会いになられたと思うのですが」
「ラディア卿、だな?」
「ええ、ですが、お受けになるべきです。スークルの大祭でのスピーチ、こんな晴れがましい場所で、お嬢様の現状を訴えることができるのです。これはチャンスです」
 ディアマンテは、貴族たちの考えを読んでいるのか黙りこくる。
「その話は断ったはずだ」
「いえ、旦那様。お聞きください。ラディア卿は条件を飲んだのです。スピーチだけでいいと。お嬢様が姿を現す必要はない。表彰される必要はないと」
 ディアマンテは、きょとんとする。
 それから震える手をジョゼフの頭におく。
「おまえ、よく……」
 ジョゼフは嬉しそうに笑う。
「ですから、なんの心配もいりません。お受けください、旦那様」
「さすが、私の後継者。ミリーに相応しくなってきたな」
 その言葉を聞いて、ジョゼフは赤面し、準備がありますからと、あわててカフェから飛び出していく。イコウには、2人にしか見えない絆が一瞬見えたような気がして、微笑んでしまう。
「とにかく、今日の話は分かった。息子がどこでどうしていようと、帰ってくるのもかまわない。だが、私はジョゼフ以外の者に、継がせることはしない」
 ディアマンテはイコウの微笑みを確認するように見て、同じように笑う。
「安心しました」
 イコウの言葉に、ディアマンテはゆっくりと立ち上がり、準備があるからと言って、カフェを立ち去った、まるでジョゼフのように。


  ■ディシュを探す。  161  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテのスピーチを待つ。  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフを探す  165  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りが始まるのを待つ。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



155


 真正面に座っているロットがおもむろに切り出す。
「お尋ねしたいのは、後継ぎの事です。ディアマンテさんはジョゼフくんを後継ぎにするつもりなのかどうか、それが聞きたいのです」
 ロットの言葉をいぶかしげに聞いていたディアマンテはすこし考えて、聞く。
「なぜ、そのようなことを聞く? 後継ぎはジョゼフしかいない」
「もし、息子さんが帰ってきても、ですか?」
 ディアマンテはなにかを悟ったのかそわそわするが、すぐに答えを出す。
「あいつは商人修行をしていない。いまの歳となっては、もはや手遅れだ」
 ロットは頬を緩める。
「それを聞いて安心しました。それをジョゼフくんに確約して欲しいのです」
 ディアマンテはあごの前で両手を組む。
「話を聞こう」
 ロットはすこしだけ微笑んだ。
「では」

「実は、パイプの件でいろいろ調べてみたのです」
 ふんと鼻を鳴らす。
「やはり、あのパイプは〈トパーズの眼〉が見つけてきたのではないのだな」
「そのとおりです。だからすこし後ろ暗かったのです、ぼくらは。あなたの大切なものに嘘をついていた。それはまず謝ります」
「なるほど」
 ディアマンテの表情が興味深いものをみるものに変わる。
 気付いたように前菜にフォークを入れると、だれもが思い出したようにそれを口に運ぶ。
「あのパイプは、故買屋にぼくらが見つけたことにしてくれと言われたものなのです」
「ありそうな話だ。それで、パイプはどこから?」
 一斉に緊張が走る。
 ロットは口火を切る。
「あのパイプはディシュさんが故買屋に持ち込んだ事が分かりました。たしかな筋です。分かりますね。〈トパーズの眼〉が突き止めた」
 リオネが説明をしようとするが、ディアマンテにはその必要はないように思えた。
「あいつが? ディシュ? 東岸一の肖像画家?」
「ええ。なんと言ったらいいのか。息子さんは夢を叶えました。それは本来であれば祝福すべき事。でも、それよりもその考えに至った経緯を話しましょう」
 ロットの話は枯れきったように淡々としていて、無駄がなく、説得力がある。ロットはその話し方が一番伝わることを知っているようなのだ。普段あまりしない話し方に、イコウは感心する。
(ロットはどれだけ場数を踏んでいるのだろう?)
 イコウは、その頼もしい仲間を心強く思いはするのだが、ディアマンテのような手練れの商人と差しで渡り歩いている姿を見ると、なにか遠い存在のように思えてきて、寂しくなるのだ。
 さめた熱意に満ちた瞳を、ディアマンテは信頼して見つめ返し、静かに聞く。
 ウェイターがメインディッシュを運んでくる。
 湯気を立てる魚の蒸し料理に、リオネは話そっちのけで、表情を輝かせる。
「もっともな話だ」
 ウェイターが立ち去ると、ディアマンテはそういう。
「しかし、あいつの居場所はない。後継ぎはジョゼフだ」
「それは分かっていると思うのです。ディシュさんは商人の修行をしていませんし、商人より画家をしている方がいいと思っている。無責任にふらふらしている方がいいと」
 ディアマンテは苦笑する。
「その通りだ。それで?」
「ディシュさんは名乗りでないかも知れないと思っているのです。名乗れば、ジョゼフくんの努力を無にする恐れがある。たった1%でも可能性があれば、その好意が結実するはずの結果を壊してしまう恐れに思い至るでしょう」
 ロットの言葉に、ディアマンテはふっと笑う。
「きみたちはあれを買いかぶりすぎだ」
「そうではありません、ディアマンテさん。息子さんは、あなたの期待以上に立派になって帰還しているのです。それで、壊すことができない事情を察して立ち去ろうとしているのです」
「そうか。親が強情なら、子も強情だ。それでは、どうしたらいい?」
 ディアマンテの投げ出すような態度にひるむことなく、ロットは言う。
「実は朝方、ジョゼフくんにこの話をしました。ディシュさんが心を配っているのは、ジョゼフくんの気持ちです。ですから本人の許しを得なければなりません」
 ディアマンテは不敵に笑う。
「だから、ジョゼフくんからディシュさんへ名乗り出てほしいと、言ってほしいと」
「それはなかなか受け入れがたい話だと思うが」
 ロットはディアマンテを見つめて、笑う。
「その通りでした。考えが甘かった。彼は怖がっているのです。あなたが自分ではなく、ディシュさんを選ぶのではないかと。彼は確約をほしがっています。それが条件だと」
 ディアマンテは愕然とする。
「ばかな、私がジョゼフではなくディシュを選ぶなどあり得ない! 後継ぎはジョゼフだ。他にはいない」
「では、そう告げてもらえませんか? あとはそこだけなのです」
 ディアマンテは微笑む。
「まさかそこまで話をつけているとはな。わかった。喜んでそうさせて貰おう」

 それからのディアマンテはやけに饒舌で、昨日のミリーは妻が生き返ったみたいだったとまで言った。
 懐かしむように、思い出話を語り、イコウたちはその話を楽しく聞く。
 香草で蒸した海魚は、トランの料理とは一風ちがいながらも懐かしい味をしていて、それを食しながら、イコウはその暖かな空気にしあわせに浸る。
 ふと傍らのシャリーを見ると、おずおずと恥ずかしそうにはにかむ。
 喜んでいるのだ。
 イコウにはそれが分かった。
 ふいにカフェの入り口が騒がしくなり、見るとジョゼフがあわててやってくる。
 ディアマンテはナプキンで口を拭き、汗だくのジョゼフを見る。
「どうした?」
 息を切らし、ジョゼフは言う。
「いえ、旦那様もお会いになられたと思うのですが」
「ラディア卿、だな?」
「ええ、ですが、お受けになるべきです。スークルの大祭でのスピーチ、こんな晴れがましい場所で、お嬢様の現状を訴えることができるのです。これはチャンスです」
 ディアマンテは、貴族たちの考えを読んでいるのか黙りこくる。
「その話は断ったはずだ」
「いえ、旦那様。お聞きください。ラディア卿は条件を飲んだのです。スピーチだけでいいと。お嬢様が姿を現す必要はない。表彰される必要はないと」
 ディアマンテは、きょとんとする。
 それから震える手をジョゼフの頭におく。
「おまえ、よく……」
 ジョゼフは嬉しそうに笑う。
「ですから、なんの心配もいりません。お受けください、旦那様」
「さすが、私の後継者。ミリーに相応しくなってきたな」
 その言葉を聞いて、ジョゼフは赤面し、準備がありますからと、あわててカフェから飛び出そうとする。
「まて」
 ディアマンテの声がカフェに響く。
 ジョゼフの身体が硬直し、そしておそるおそるそれが振り返る。
「分かっているのだろう? 話は全部聞いた。ここに立つんだ。もっと、しゃっきり」
「はい」
 ディアマンテはいつくしむような視線をジョゼフに向ける。
「立派になったな、ジョゼフ。ディシュも立派になったが、ジョゼフも立派になった。ディシュとジョゼフ、どちらを選ぶかなど、すぐにでも分かりそうなものだ」
「はい……」
「おまえに継いでほしい。ふらふらする画家より、邸宅とミリーを一生懸命守ってきたジョゼフ、おまえこそが相応しい。ディアマンテ家を継いでほしい。おまえは私の息子だ」
 ジョゼフはぐっと堪える。
 そして、あえぐように息をして、必死に言葉を絞り出す。
「ですが、ですが、旦那様。修行がまだぜんぜん、ですから」
 ディアマンテはジョゼフの肩に手を置く。
「よし分かった。ひとりだちできるまで、頑張ってみろ。もし、だめなようであれば他を探す。しかし、ディシュは戻ってきても後継ぎにはしない。本人も望んでいない」
 それでいいかと聞くと、ジョゼフは涙を堪えて頷く。
 準備がありますから、とジョゼフはカフェを出て行く。
 それを感慨深そうにディアマンテはためいきをつく。
「私は息子を完全に失ったものと思っていた。しかし、違った。気付けば立派になった息子が二人もいた。いつのまに」
 視線がイコウとロットにむく。
「感謝する、君たちには」
 イコウは微笑む。
 ディアマンテは、スピーチを思いだし、時間がないことに気付き、挨拶もそこそこでカフェをたちさろうとする。その背にイコウは言葉を投げた。
「スークルさまのご加護を!」
 ディアマンテが大きく手を振った。
「今日ぐらいは」


  ■ディシュを探す。  161  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテのスピーチを待つ。  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフを探す  166  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りが始まるのを待つ。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



156


 昼前の邸内をうろつき、4人はディアマンテを探す。
「旦那様ですか。本日はスークルさまの大祭ですから、おそらくカフェかなにかでは」
 ぼんやりという使用人に礼を言い、イコウたちは邸宅を出る。
 リオネはすっかりお疲れ気味、とぼとぼと歩く。
「はあ、優雅なものだねぇ、まったく……」
 毒づきも鳴りを潜める。
 そんなリオネを見て、ロットはくすくすと笑う。
「なんだよ、ロット、趣味悪いぞ!」
「あー、いや、そんなにしょっげこんでいるリオネさん、久しぶりに見るなぁって」
 リオネはがっくり肩を落とす。
「これだから嫌なんだよ、商売は。いつも、縄張り争い、縄張り争い、縄張り争い。それであと考えているのは、金儲けの話だけ。もううんざりだ……」
 それでもロットは、リオネの商売人魂が不屈なことを知っている。
 ただ、それを燃やしたときに起こるいざこざにうんざりしているのだ。
 4人でぶらぶらとしながら、飾り立てられていくメインストリートを散策するのは、存外にたのしい。
 イコウはふと気付いて聞く。
「そういえばさ、朝、リオネ言ってなかった? スークルの大祭をこんなゲストハウスで迎えられるなんてラッキーだって」
 リオネはきょとんとする。
「へ? 言ったっけ?」
「いったさ。リオネさ、はじめからそのつもりだったんじゃないか?」
「ぐ、偶然だよ。そりゃー、スークルの大祭ぐらいは頭にあったさ。でもさ、こんなひなびた港町で運良く仕事にありつけるだなんて思う? 思わないよ、ふつう」
 じとっとした眼で見つめるイコウの視線をかわし、リオネは大げさに言う。
「さっさ、ほらほら、カフェ。ついたよ。イコウ、話つけなきゃ、あたしたちさ」
 イコウは腕組みをして、ぽつりという。
「話をつけるのはロットなんだけどね」

 カフェはほぼ満席に近く、大祭の客に賑わっていた。
 テラスの見晴らしの良さそうな席だけが予約でも入っているのかぽつりと空いて、それ以外はテーブルに盛られら色とりどりの料理と、それを彩どる豪勢な花々の競演に埋まっているように見えた。
「来てないね。ディアマンテさん。早すぎたのかな?」
「うーん、どうしよう?」
 イコウが首を傾げていると、入り口の扉が開いてディアマンテが入っている。
「あー、ほら、やっぱり早すぎたんだよ!」
 はしゃぐシャリーや、イコウたちを見てディアマンテは戸惑う。
「話があるんです」
「ああ、分かった。食事にしよう」
 ロットに笑って見せ、ディアマンテはウェイターに椅子を一つよこすように言う。
 5人で着席すると、オーダーを出し終えたディアマンテは、イコウたちを頼もしげに見つめて、言う。
「商人たちを追っ払ってくれたらしいじゃないか? ジョゼフから話を聞いた」
「ああ、それなら、リオネのお手柄だよ」
「え? そ、そうかな?」
「度胸いるだろ? あれだけ敵に回してさ」
「あ、は、まあね」
 リオネもまんざらではない様子。
 ディアマンテは、それをほほえましく聞き、このカフェはなくなった奥さんのお気に入りの店なんだなどなど、思い出話を披露する。
 和やかになった頃を見計らって、前菜が運ばれてくる。
 ウェイターが完全に立ち去ったのを見計らって、ディアマンテは切り出した。
「話を聞こう」


  ■息子さんが帰ってきたら、和解してほしいんだ。  148  【出現条件】:flag000*flag221  【消失条件】:
    
  ■あまりとげとげしくしないで欲しいんだ、ミリーちゃんのためにも。  149  【出現条件】:flag000*flag211*flag213*flag218  【消失条件】:
    
  ■あの約束守って欲しいんだ。とげとげしくしないって。  150  【出現条件】:flag000*flag219  【消失条件】:
    
  ■息子さんに返ってきて欲しいんだろ? 和解して欲しいんだ。  151  【出現条件】:flag000*flag226  【消失条件】:
    
  ■実はディシュさんが息子なんだ。  152  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテに、ディシュに、ジョゼフを跡取りにすると告げて貰う。  153  【出現条件】:flag000*flag241  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフくんを跡継ぎにする? するならディシュに。  154  【出現条件】:flag000*flag243  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフくんに、後継ぎにすると確約して欲しいんだ。  155  【出現条件】:flag000*flag136  【消失条件】:
    



157


 昼ご飯を食べて、4人はディシュを探す。
「ディシュさん? さあ? どこかで絵でも書いているんじゃないでしょうか?」
 きょとんと言う使用人をおいて4人は商人や訪問客がまばらになった邸内を探し回る。
 海鳥のテラスまでやってくると、あいもかわらず、えさ台に海鳥たちが飛びかってくる。潮風に吹かれながら、イコウはそのテラスにディシュがいないことを確認する。
「どこへ行ってしまったのかな? ディシュさん」
「昨日は、家族の広間の絵を修復していたよ、ディシュさん」
 シャリーが言うのに、そのままイコウたちは家族の広間へと向かう。
 しかし、先ほどまでの騒然とした広間はいまは静まりかえり、その一隅に修復された快速船の絵が掛かっているだけだった。
「お兄ちゃんの部屋とか」
 ノックをして、扉を開ける。
 大きな商船の模型のあるその部屋は、10年もの年月が、ゆるやかに降り積もるように午後ののんびりとした日差しの沈殿が、支配していた。
「いない」
「ディシュさんの部屋かも」
 またもノック。
 鍵はかかっておらず、質素にかたづけられた部屋が迎える。
 イーゼルも画材道具もその部屋にはなく、ディシュがどこかへ絵を描きに行ったのは明らかだった。それもおそらく邸外へ。
「どこへいったのかな?」
 イコウの視線を受けてロットは肩をすくめる。
「まあ、大祭のサディスへでてもいいんじゃない?」
 リオネはディシュのことなどそっちのけで、祭りが気になるようだった。

 サディスの街区は祭り前の、えもいえない活気に満ちていて、飾り立てられていくメインストリートを散策するのは、存外にたのしかった。
「うわー、もうあたし楽しみになって来ちゃったよ」
 舞い上がり始めたのを隠そうとしなくなったリオネをイコウはたしなめる。
「ディシュさんを探しているんだぞ」
「わかってるよ、イコウ、でもさ、ついでに楽しまなきゃ損だよ、イコウ」
 むくれるイコウをロットはくすくすと笑う。
 聖堂の前の広場まで来ると、ひな壇が設置され、そのまえに花で埋められた大きなスペースができている。おそらく聖堂のご神体かなにかが設置されるのだろう。忙しく走り回る人々を見ながら、楽団が席に着き始め、楽器の調律を始めるのを、イコウは眺めながらその中にディシュの姿を探す。
 おそらくイーゼルを立てて絵を描いている。
 でもそれはどこなのだろう?
 ディシュが、このスークルの祭りの日に、10年ぶりの帰還の日に、イーゼルを立てて向き合うのはどこなのだろう? それは、なぜかイコウの知らない、もっとどっか、遠くの遠くの、少年時代のディシュの心を癒すところであったはずだと、思えてくるのだ。
 それはきっとディシュの秘密の場所で、それはサディスではないかもしれなかった。
「どうしよう?」
 焦る気持ちをあらわに聞く。
「あとは港くらいか?」
 自信なさげにロットが言うのに、イコウは走り出したい気持ちを抑える。
 アーチをくぐると、サディスの港の岸壁が海に向けて広がる。
 港はいままさに東岸各国からの船が着くラッシュで、スークルの大祭を満喫しようとする人々にあふれていた。王侯貴族などもあるのだろう、ときおり現れる見慣れない豪奢な衣装にぎくっとする。
 なにか場違いな気がしてしまうのだ。
 それでも、にこやかに祭りを楽しみにする人々の顔を見ていると、イコウはなにかほっとする心地になる。
「いないな」
 ロットが冷たく言う。
「わかっているさ」
 カランカランと鐘の音がし、1人の召使いのような格好をした(しかし豪奢な)男が現れ、図太くよく通る声でふれて回る。
「まもなく、スークルの大祭が始まります! お急ぎください」
 カラン、カラン、カラン、カラン
「まもなく、スークルの大祭が始まります! 花束の準備を」
 カラン、カラン、カラン、カラン
 リオネが、うかつだったというように、はっとする。
「花束、必要なんだ。知らなかった」


  ■まだディシュを探す。  161  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテを探す。  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフを探す。  164  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りを楽しむ。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



158


 イコウは使用人を捉まえて聞く。
「ジョゼフくんは?」
「はい? ジョゼフさんですか? あ、さっき厨房で見た気が。でも、忙しいですよ。パーティーの準備中なんです」
「パーティー?」
 イコウが驚くのに、使用人はあれと首を傾げて言う。
「聞いてませんか? お嬢様の肖像画のお披露目パーティーですよ」

 厨房は戦場のようで、ジョゼフの指示の元、厨房中がダンスを踊っているようにさえ見えた。
 膨大な量の料理が作られていく。
 メモを眺めながら冷や汗を垂らし、必死にあれこれ相談するジョゼフにイコウは声を掛けてみる。
「あのさ、ジョゼフくん、話せないかな?」
「い、忙しいんです!」
 身も蓋もない。
 たしかに、ディアマンテ家の厨房はいままさに蜜蜂たちの饗宴のようで、働き者たちがぶんぶんとせわしく駆け回っている。
 ワインを用意し、グラスを磨き、ソテーをフライパンで焼き、マリネの仕込み具合を見る。チーズをそろそろソースにし始め、香草を切る包丁の音が止まることはない。生クリームを裏ごしにする、空豆がそろそろゆであがり、それはポタージュになる。フライにする小魚は下ごしらえに余念がない。デザートはおそらくシャーベット。
 戦場だった。
 イコウはシーフードサラダが百皿も仕上がっていくのを見ながら、ごくりとつばを飲む。
「じゃま、じゃない?」
 シャリーが袖を引いて、ようやっとイコウは気付いた。

 廊下にたたずむように、ジョゼフの手が空くのを待つ。
 邸内は朝方の忙しなさとは打って変わって静かで、数人の商人たちが親しく会話しているだけだった。
 静寂。
 それが普通と言えば普通なのではあるが、イコウにはそれが逆に耐え難い。
 いらいらとするイコウを見て、シャリーは優しくそっという。
「ミリーちゃんとお話しない? たぶん疲れているけれど。誰も来てくれないって、つらいと思う。ミリーちゃん、話をするの好きなの。だけど話し方が分からないの。でも、イコウなら多分大丈夫。ね?」
 にっこりと微笑むシャリーにイコウは迷うが、飽き飽きとしているロットとリオネを見れば、それが最善に思えてくる。
 ミリーの寝室の前に立ちノックする。
 はいと答えがあり、イコウは入っていく。
 目の前に見えるのは、完全に心がつぶれてしまった少女。それがとても痛ましくイコウには思える。イコウはミリーの側に寄り、その手を掴む。
「大丈夫? あー、いや、大丈夫でないことは分かっているんだ。だけどさ、ジョゼフくんとか、いろいろな人に頼っていいだぜ? もちろん、おれにも」
 ミリーは戸惑う。
 その心を必死に伝えようとする。
 イコウはそれを見て、ふっと笑う。
「大丈夫。分かっているから。でもそれはジョゼフくんに伝えなきゃ。ミリーちゃんには伝えるべき人がいるだろう? それはとても幸せな事だよ? 勇気をもって。時間はたくさんあるから」
 イコウが部屋から出てくると、リオネたちはイコウをじっと見つめる。
「な、なんだよ?」
 ロットが苦笑する。
「妬いてるんですか?」
「ちがう!」
「そんなことない!」
 声が上がるのは同時だった。

 階下に降りると、ジョゼフが貴族らしい服装の人々に囲まれているところだった。
 ジョゼフは丁重にそれをお迎えし、応接間の方へ案内する。
 イコウたちはそれを、見送り、同じような時間を過ごす。
 それは退屈で、徒労で、意味がない。
 ジョゼフが貴族たちと握手して出てくる。
 まったく蚊帳の外だった、イコウはジョゼフに声を掛けようとした。
 それでも言われてしまったのだ。
「済みません! とても忙しいのです!」


  ■ディシュを探す。  161  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテのスピーチを待つ。  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフを探す。  164  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りが始まるのを待つ。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



159


 サディスのメインストリートに楽団の演奏が響く。
 両側を埋めた人並みはいまかいまかと待ちながら、花束を解いて、いつでも投げられるように待機する。
 スークル神へと捧げる音楽が聖堂から、広場へと姿を現すと、だれもがその花を空へ投げる。カラフルな花々がサディス中で一斉に宙へ放り投げられ、街は花の香りと花びらでいっぱいになる。
 スークルのご神体が聖堂から姿を現すと、一転敬虔な信徒になる。
 スークルさまのご加護を、今日ぐらいは。
 楽団の音楽がじゃんとなると、うわぁあと歓声が沸いた。
 それからのことは、たえず投げられる花のベールに包まれて夢の中にいるよう。
 イコウは、困ったように頭をかく。
「どこ行っちゃったんだろ、ディアマンテさん」
「イコウ、そんなのどうでもいいじゃん? スピーチだろ? それが終わったらいくらでも話せるよ」
 一緒になって花のベールを作るのにはしゃぐリオネはにべもない。
 ご神体はゆっくりとメインストリートを練り歩き、その両側で花のシャワーが巻き上がる。イコウはロットを横目で見るが、その視線に気付いたロットは千里眼の珠を下ろして、首を横に振る。
「千里眼に期待しないでくれよ? それよりも上から見た方がいいんじゃないか?」
 ロットが上を見上げて指を指すが、大量に降ってくる花びらを浴びて、あわててそれを払う。シャリーはそれを見て、遠慮がちに笑った。
「わ、笑わないでよ、シャリー。真剣なんだから」
「ごめんね、ロット。でもおかしかったの」
 ロットは、腰に手をあてて困ったような表情で、よそ見をする。
「イコウ、スピーチ、あそこだな? ほら、貴族たちが出てきた。あのひな壇だ」
「もう始まる?」
「待って」
 ロットは千里眼の珠を前方に伸ばす。
「いた。あれだ。ディアマンテさんもいる。緊張しているみたいだ」
 ロットとイコウは頷く。
「おい、リオネ~! おれたちいっちゃうぞ! 一緒に来ないか?」
「へ? なになに? なんかあったの?」
 リオネは堪能したとばかりに、嬉々として、イコウの顔を見た。

 ひな壇の前にご神体が設置されると、広場はしんと静かになる。
 その周りにも、サディスの貴族階級の者たちが列席し、その周囲を来賓たちが埋める。商人たちの華美な姿に見馴れたイコウでさえ、その豪奢さは見たこともない王宮を想像させた。
「お偉方が勢揃いか?」
「そりゃあ、東岸のハイライトなんでしょう? リオネさん?」
 ひそひそと談笑する貴族たち見ながら、リオネは明るく言う。
「へ? ああ、まあねぇ。やめてよね、ああいう雰囲気のところ、あんまり好きじゃないんだよ。ろくな事がないからねぇ」
 いたずらっぽく舌を出すが、たぶん嫌な思い出でもあるのだろうとイコウは踏む。
 もしかすると、嫌な思い出のある知り合いの姿でも見つけたのかも知れない。
 ひな壇に老貴族が上ると、広場中が耳を澄ます。
 ぼそぼそとその老貴族はなにかを話し、ディアマンテを紹介すると広場にささやかな拍手が起こる。
「いよいよだね」
「しっ」
 イコウは、その男がなにを話すかに全身を研ぎ澄ます。
(ディアマンテさん、どうするのだろう?)
 その表情が遠目にも緊張しているように見えるのだ。
「みなさん。今日は父として、ミリーの代役を頼まれました。天気予報のミリーは私の娘です。ふがいなくはありますが、私はその父です」
 ディアマンテの声は、しんとした広場に、よく通る。
「本日は突然のお話を頂き、この壇上に上らせて頂くことになりました。このような事は初めての経験なのですが、今日はあることに関する3つのことを話したいと思います。キーワードは「つながり」です」
 ディアマンテはペーパーさえ持たず、淡々と話す。
「まずは、海です。
 私は、はるかむかし、海を駆ける商人でした。
 ご存じのように東岸諸国の商人たちはその大半が船乗りです。しかし、私はどうやら商人でもある船乗りだったようなのです。それほど、海へ出るのが好きでした。
 私は、海へ出ると、サディスから別の都市へつながるのを感じました。
 サディスからタリファへ、タリファからシャビへ、シャビからリーズデルへ。
 航海に出るたびに、私は世界につながっていくのを感じ、喜びを感じました。
 儲けなどそっちのけです。
 海へ出て、世界中とつながっていき、儲けはそのあとについてくるものでした。
 しばらくするうちに、東にある大陸とのつながりも持ちたいと思うようになりました。
 未だに、シドの商船が達していないのは東の大陸だけ。
 ならばその偉業を成し遂げよう。私はそう誓ったのです。
 しかし、ご存じかも知れませんが、リーズデルより東の海域はたいへんに荒れる海域が続きます。嵐のような暴風雨が10日も続いたかと思えば、まったくの凪が20日も続く。名だたる船乗りが超えることのできなかった海域です。過酷な航海に夢中になりました。
 それもそのはずで、私のささやかな快速船には頼もしい仲間がいたのです。
 どんな大荒れの海も、仲間たちとならば乗り越えられると思いました。
 私たちはどんなときも、つながり、苦難をともにし、そのつながりは年を追うごとに強まっていきました。
 私はこれをどれほど誇らしく思ったか。
 私は海を通じて東岸諸国とつながり、海を通じて仲間とつながっていました。
 船乗りとして、商人として、東岸に生まれた人間としてこれほど誇らしく思ったことはありませんでした。
 これがひとつめのつながりです」

 広場中がディアマンテのスピーチにのめり込み、固唾を飲んで聞いている。
 サディスの人たちはそのディアマンテの物語がどうなったのか知っているのだ。
 イコウは、その異様な雰囲気に、生唾飲む。

「次に妻です。
 タリファの友人に自慢の妹がいて、彼の家に招待されたときにはじめて会いました。
 なにごとにもくすくすと笑う女性でした。またとても元気のよい女性でした。
 二言三言話しただけで、夢中になってしまったのを覚えています。
 妻はサディスの景色を見るのがたいへん好きでした。
 カフェのテラスの席に座り、一日中その景色を飽きずに見ていたものです。
 私は他にすることもないので、妻と一日中話してばかりでした。
 しかし、いまになって気付くのです。
 そうやって話しているうちに妻と私はつながってしまっていたのだと。
 妻がそれほどまでにサディスの景色に夢中にならなければ、私はそれほど妻と話してなかったかも知れない。
 そうであれば、妻と私をつなげたのはこのすばらしいサディスの街なのです。
 結婚をし、すばらしい家族を持てたのもこのサディスでした。
 息子が生まれ、家族のつながりが生まれました。
 私は航海ばかりでしたが、海にあり、絶望的な大波にたたきつけられているときも、私は家族とつながっていました。
 いつか、私は妻や息子とのつながりをなしに、航海へ出ることができるとは思えなくなっていきました。
 東岸諸国の船乗りたちは、商人たちは、いや、東岸に住むすべての人々はそういった、海や、仲間や、家族とのつながりを大切にし、その中で生き、そして大波にあらがうだけの勇気を貰っています。
 それはとても大切なつながりだと私は痛感しています。
 とても痛く思っています。
 そう忘れていました。
 これがふたつめのつながりです」

 イコウはシャリーがそわそわし出すのに気付く。
 シャリーはこの後の不幸を聞くのさえ怖いのだ。
 イコウはその手を握る。

「最後に、そのすべてが途切れてしまったのが今の私です。
 妻はミリーを生んだとき、その命を引き替えにしました。
 それで私から、妻と、そして海とのつながりが消えました。
 自然と仲間とのつながりも。
 これほどひどくつらいものだとは、まったく思わず、あれほどの大波さえ超えることができた私は、その一波に飲まれて、海底に漂う死体となったのです。
 その後の荒れた生活は今でも話せるものではありません。
 絶望と、絶望と、絶望と、むすうの絶望と私は暮らしていました。
 つながりを一切持たずに、ただ絶望していたのです。
 そのうちに息子は出て行きました。
 今でさえどこでなにをしているかさえ分かりません。
 息子とのつながりさえも失ってしまったと気付いたとき、私は立ち上がらなければと気付きました。
 ジョゼフを貰い、息子の代わりに育てようと決心しました。
 三歳になったミリーを育てるために商人家業を再開しました。
 しかし、打撃が大きすぎたのかも知れません。
 今でも私は、ミリーやジョゼフとうまくつながれている気がしてこないのです。
 今でも私は、自分がいびつだと思うのです。

 そうするうちにミリーが天気予報ができることに気付きました。
 うわさはあっという間に広がり、ミリーの天気予報は今や東岸中から商人たちが集まってくるほどになりました。
 ですが、いま、ミリーは元気がありません。
 昨日、トラン人の共感者がミリーを人為的に元気にしました。
 みなさんの中にもご迷惑をおかけしてしまった方もあったかも知れません。
 ですが、そのミリーを見て、私は悟ったのです。
 ミリーは元気がないのは、うまくつながれていないからだと。
 私がかつてできていたように、海とつながり、サディスとつながり、東岸の商人たちとつながり、私とつながり、ジョゼフとつながる、それができていないのだと。
 私ができなかったように、ミリーもうまくつながることができなかったのでしょう。
 だから、いま、私がたったひとつだけほしいものがあれば、それはチャンスなのです。
 ミリーが、私と、みんなと、東岸の商人たちとうまくつながれるためのチャンスが欲しいのです。
 だからみなさん、ご協力頂けないでしょうか?
 みなさんがこの東岸のあらゆるものとつながているように、
 ミリーにもつながって欲しいのです」

 ディアマンテが一礼をすると、広場はショックで静まりかえった。
 ざわめき。
 そして、ささやかな拍手。
 長い拍手は、やがてうねるように広場中に広まり、それは雷雨のとどろきのような大拍手となって鳴り響く。ディアマンテが壇上を降り、代わりに貴族が立っても、その拍手は鳴り止むどころから、足踏みや歓声さえも交えるようになった。
 鳴り止まない拍手の中、イコウたちはディアマンテの元へ行く。
 ディアマンテは、照れたように笑う。
 それから、その手をシャリーの小さな手に重ねる。
「ありがとう、シャリーさん。あなたのおかげで、分かった」
 シャリーが微笑むと、ディアマンテも笑顔になる。
 気付くとジョゼフがミリーをつれて現れる。
 ミリーがよろよろと歩いて、ディアマンテの胸に抱きつく。
 ディアマンテはそれを必死に抱きしめ、ぼろぼろと涙を流した。
「ごめんな、ミリー、お父さん、うまくできてなかった。お父さん、頑張ってみる」
 ミリーが弱々しく微笑む。
 それを見ていたジョゼフが申し訳なさそうに言った。
「旦那様、そろそろパーティーの時間ですが」
 拍手は鳴り止まなかった。


  ■パーティーへ   169  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    
  ■パーティーへ  170  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag209*flag210
    



160


「ディシュさんの絵が完成するまでここにいるよ」
 イコウの言葉にディシュは頷く。
 カンバスに向かったディシュの表情が目に見えて真剣になる。
 イコウはその様子をしばらく眺めていたが、声を掛けづらい雰囲気に、やがて話をするのを諦める。
 シャリーが呟く。
「すごいね、ディシュさん」
「迫力あるよねぇ。一流と言われている画家だもんねえ」
 のんきな二人にイコウはためいきをつくが、見るとロットはすやすやと寝息を立てていることに気付いて、がっくりと来た。
 空を走る雲が速い。
 イコウはそれを見上げて、それからスークルの大祭に沸く、サディスを見下ろす。
(こんなの、ディシュさんじゃなくても、飛び込みたくなるよ)
 きらきらとした海の反射に眼を細めた。
(順風だったらなぁ……)

 ディシュの絵が完成したのに気付いたのは、シャリーだった。
 画材道具を片付け始めるディシュに気付いて、聞く。
「終わったの?」
「ええ」
 微笑むディシュをよそにリオネとイコウはそのカンバスを覗き込んだ。
 色彩豊かな水彩のサディス。
 まどろむようでいて、それでいて元気でもあった。
「ディシュさん、東岸でしか通用しないなんて、うそだよ」
 感嘆するように言うイコウに、片付けながらディシュは答える。
「世界は広いんです。東岸はやはり狭い。リオネさん、あなたはたくさんの名画を見ているんでしょう? あちこちの屋敷や、王宮で」
「へ? ああ、うーん、そうだねぇ。でも買ってもいいのはこれぐらいかな?」
「これは売り物ではありませんよ」
 きっぱりというディシュにリオネはあわてる。
「冗談だって」
 そんな笑い声のにようやっとロットも眼を覚まし、寝ぼけ眼で聞く。
「もう降りるんですか?」
「ええ、そろそろ野焼きの準備が始まります。この辺まで火の手が来るはずです。だから焼かれる前に来たかったのです。祭りに沸くサディスは年に一度しかありませんから」
 ディシュがいたずらっぽく笑うと、それが合図だった。
 乾ききらないカンバスを慎重にディシュは抱え、5人は下山した。

 華やかなはずの祭りは、静まりかえっていて、イコウたちはメインストリートに落ちた花の絨毯を歩きながら首を傾げる。
「なんだろう?」
「さあ?」
 ロットは肩をすくめる。
 気がつくと広場の方から、なにやら声が響いてくる。

「結婚をし、すばらしい家族を持てたのもこのサディスでした。
 息子が生まれ、家族のつながりが生まれました。
 私は航海ばかりでしたが、海にあり、絶望的な大波にたたきつけられているときも、私は家族とつながっていました。
 いつか、私は妻や息子とのつながりをなしに、航海へ出ることができるとは思えなくなっていきました」

 イコウはその声がだれの声か知っていた。
「ディアマンテさんだ」
「なんでスピーチなんてしてるの?
 リオネが鋭く言う。
「しっ」

「東岸諸国の船乗りたちは、商人たちは、いや、東岸に住むすべての人々はそういった、海や、仲間や、家族とのつながりを大切にし、その中で生き、そして大波にあらがうだけの勇気を貰っています。
 それはとても大切なつながりだと私は痛感しています。
 とても痛く思っています。
 そう忘れていました。
 これがふたつめのつながりです」

「最後に、そのすべてが途切れてしまったのが今の私です。
 妻はミリーを生んだとき、その命を引き替えにしました。
 それで私から、妻と、そして海とのつながりが消えました。
 自然と仲間とのつながりも。
 これほどひどくつらいものだとは、まったく思わず、あれほどの大波さえ超えることができた私は、その一波に飲まれて、海底に漂う死体となったのです。
 その後の荒れた生活は今でも話せるものではありません。
 絶望と、絶望と、絶望と、むすうの絶望と私は暮らしていました。
 つながりを一切持たずに、ただ絶望していたのです。
 そのうちに息子は出て行きました。
 今でさえどこでなにをしているかさえ分かりません。
 息子とのつながりさえも失ってしまったと気付いたとき、私は立ち上がらなければと気付きました。
 ジョゼフを貰い、息子の代わりに育てようと決心しました。
 三歳になったミリーを育てるために商人家業を再開しました。
 しかし、打撃が大きすぎたのかも知れません。
 今でも私は、ミリーやジョゼフとうまくつながれている気がしてこないのです。
 今でも私は、自分がいびつだと思うのです」

 イコウは愕然とするディシュの横顔を見る。
(いや違う、息子さんはこんなに立派な画家になって)
 そう叫ぼうとするが、それもできなかった。
 ディアマンテのスピーチは佳境に入っていた。

「そうするうちにミリーが天気予報ができることに気付きました。
 うわさはあっという間に広がり、ミリーの天気予報は今や東岸中から商人たちが集まってくるほどになりました。
 ですが、いま、ミリーは元気がありません。
 昨日、トラン人の共感者がミリーを人為的に元気にしました。
 みなさんの中にもご迷惑をおかけしてしまった方もあったかも知れません。
 ですが、そのミリーを見て、私は悟ったのです。
 ミリーは元気がないのは、うまくつながれていないからだと。
 私がかつてできていたように、海とつながり、サディスとつながり、東岸の商人たちとつながり、私とつながり、ジョゼフとつながる、それができていないのだと。
 私ができなかったように、ミリーもうまくつながることができなかったのでしょう。
 だから、いま、私がたったひとつだけほしいものがあれば、それはチャンスなのです。
 ミリーが、私と、みんなと、東岸の商人たちとうまくつながれるためのチャンスが欲しいのです。
 だからみなさん、ご協力頂けないでしょうか?
 みなさんがこの東岸のあらゆるものとつながているように、
 ミリーにもつながって欲しいのです」

 ディアマンテが一礼をすると、広場はショックで静まりかえった。
 ざわめき。
 そして、ささやかな拍手。
 長い拍手は、やがてうねるように広場中に広まり、それは雷雨のとどろきのような大拍手となって鳴り響く。ディアマンテが壇上を降り、代わりに貴族が立っても、その拍手は鳴り止むどころから、足踏みや歓声さえも交えるようになった。
 シャリーはディシュが涙を流しているのに気付く。
「ディシュさん?」
 ハンカチを渡すと、ディシュは微笑んだ。
「あれでいいんだ」
 しばらくすると、イコウたちを見つけたジョゼフがやってくる。
「イコウさん、ディシュさん、どちらへ行かれていたのですか? ああ、そろそろパーティーです。ディシュさん、お願いしますね?」
 ディシュは表情を険しくし、頷いた。


  ■パーティーへ   169  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    
  ■パーティーへ  170  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag209*flag210
    



161


 サディスのメインストリートに楽団の演奏が響く。
 両側を埋めた人並みはいまかいまかと待ちながら、花束を解いて、いつでも投げられるように待機する。
 スークル神へと捧げる音楽が聖堂から、広場へと姿を現すと、だれもがその花を空へ投げる。カラフルな花々がサディス中で一斉に宙へ放り投げられ、街は花の香りと花びらでいっぱいになる。
 スークルのご神体が聖堂から姿を現すと、一転敬虔な信徒になる。
 スークルさまのご加護を、今日ぐらいは。
 楽団の音楽がじゃんとなると、うわぁあと歓声が沸いた。
 それからのことは、たえず投げられる花のベールに包まれて夢の中にいるよう。
 イコウは、困ったように頭をかく。
「どこ行っちゃったんだろ、ディシュさん」
「こんな混雑じゃあ、見つからないよ」
 一緒になって花のベールを作るのにはしゃぐリオネはにべもない。
 ご神体はゆっくりとメインストリートを練り歩き、その両側で花のシャワーが巻き上がる。イコウはロットを横目で見るが、その視線に気付いたロットは千里眼の珠を下ろして、首を横に振る。
「千里眼に期待しないでくれよ? それよりも上から見た方がいいんじゃないか?」
 ロットが上を見上げて指を指すが、大量に降ってくる花びらを浴びて、あわててそれを払う。シャリーはそれを見て、遠慮がちに笑った。
「わ、笑わないでよ、シャリー。真剣なんだから」
「ごめんね、ロット。でもおかしかったの」
 ロットは、腰に手をあてて困ったような表情で、よそ見をする。
「イコウ、スピーチ、あそこだな? ほら、貴族たちが出てきた。あのひな壇だ」
「もう始まる?」
「ああ」
 イコウは、焦りだしていた。

 ひな壇の前にご神体が設置されると、広場はしんと静かになる。
 その静けさの中をイコウたちはディシュを探して走る。
 ひな壇に老貴族が上ると、広場中が耳を澄ます。
 ぼそぼそとその老貴族はなにかを話し、ディアマンテを紹介すると広場にささやかな拍手が起こった
「はじまっちゃうよ、イコウ」
「しっ、分かっている」
 シャリーをなだめ、必死になってイコウは観客の中にディシュを探す。
「みなさん。今日は父として、ミリーの代役を頼まれました。天気予報のミリーは私の娘です。ふがいなくはありますが、私はその父です」
 ディアマンテの声は、しんとした広場に、よく通った。
「本日は突然のお話を頂き、この壇上に上らせて頂くことになりました。このような事は初めての経験なのですが、今日はあることに関する3つのことを話したいと思います。キーワードは「つながり」です」
 ディアマンテはペーパーさえ持たず、淡々と話す。
「まずは、海です。
 私は、はるかむかし、海を駆ける商人でした。
 ご存じのように東岸諸国の商人たちはその大半が船乗りです。しかし、私はどうやら商人でもある船乗りだったようなのです。それほど、海へ出るのが好きでした。
 私は、海へ出ると、サディスから別の都市へつながるのを感じました。
 サディスからタリファへ、タリファからシャビへ、シャビからリーズデルへ。
 航海に出るたびに、私は世界につながっていくのを感じ、喜びを感じました。
 儲けなどそっちのけです。
 海へ出て、世界中とつながっていき、儲けはそのあとについてくるものでした」

 それはディアマンテの若い頃のエピソードだった。
 おそらくディシュも知らない若い若い頃のディアマンテ。
 イコウにはそれが息子に対して語りかけるように聞こえてくるのだった。

「しばらくするうちに、東にある大陸とのつながりも持ちたいと思うようになりました。
 未だに、シドの商船が達していないのは東の大陸だけ。
 ならばその偉業を成し遂げよう。私はそう誓ったのです。
 しかし、ご存じかも知れませんが、リーズデルより東の海域はたいへんに荒れる海域が続きます。嵐のような暴風雨が10日も続いたかと思えば、まったくの凪が20日も続く。名だたる船乗りが超えることのできなかった海域です。過酷な航海に夢中になりました。
 それもそのはずで、私のささやかな快速船には頼もしい仲間がいたのです。
 どんな大荒れの海も、仲間たちとならば乗り越えられると思いました。
 私たちはどんなときも、つながり、苦難をともにし、そのつながりは年を追うごとに強まっていきました。
 私はこれをどれほど誇らしく思ったか。
 私は海を通じて東岸諸国とつながり、海を通じて仲間とつながっていました。
 船乗りとして、商人として、東岸に生まれた人間としてこれほど誇らしく思ったことはありませんでした。
 これがひとつめのつながりです」

 広場中がディアマンテのスピーチにのめり込み、固唾を飲んで聞いている。
 サディスの人たちはそのディアマンテの物語がどうなったのか知っているのだ。
 イコウは、その異様な雰囲気に、生唾飲む。

「次に妻です。
 タリファの友人に自慢の妹がいて、彼の家に招待されたときにはじめて会いました。
 なにごとにもくすくすと笑う女性でした。またとても元気のよい女性でした。
 二言三言話しただけで、夢中になってしまったのを覚えています。
 妻はサディスの景色を見るのがたいへん好きでした。
 カフェのテラスの席に座り、一日中その景色を飽きずに見ていたものです。
 私は他にすることもないので、妻と一日中話してばかりでした。
 しかし、いまになって気付くのです。
 そうやって話しているうちに妻と私はつながってしまっていたのだと。
 妻がそれほどまでにサディスの景色に夢中にならなければ、私はそれほど妻と話してなかったかも知れない。
 そうであれば、妻と私をつなげたのはこのすばらしいサディスの街なのです」

 イコウはせわしなく周囲に視線を向けるが、ふとロットが立ち止まって千里眼をしているのに気付いて駆け寄る。
「いたぞ。向こう側だ」
「よし。シャリー、リオネ」
 ささやくと二人ともついてくる。

「結婚をし、すばらしい家族を持てたのもこのサディスでした。
 息子が生まれ、家族のつながりが生まれました。
 私は航海ばかりでしたが、海にあり、絶望的な大波にたたきつけられているときも、私は家族とつながっていました。
 いつか、私は妻や息子とのつながりをなしに、航海へ出ることができるとは思えなくなっていきました。
 東岸諸国の船乗りたちは、商人たちは、いや、東岸に住むすべての人々はそういった、海や、仲間や、家族とのつながりを大切にし、その中で生き、そして大波にあらがうだけの勇気を貰っています。
 それはとても大切なつながりだと私は痛感しています。
 とても痛く思っています。
 そう忘れていました。
 これがふたつめのつながりです」

 イコウはシャリーがそわそわし出すのに気付く。
 シャリーはこの後の不幸を聞くのさえ怖いのだ。
 イコウはその手を握って小走りに走る。
「ディシュさん?」
 視線だけがイコウを見る。
「しっ」
 真剣なディシュの表情を見て、イコウは口を出すまいと決める。
 これは父と子の対決の一環なのだ。それにようやっと気付いて。

「最後に、そのすべてが途切れてしまったのが今の私です。
 妻はミリーを生んだとき、その命を引き替えにしました。
 それで私から、妻と、そして海とのつながりが消えました。
 自然と仲間とのつながりも。
 これほどひどくつらいものだとは、まったく思わず、あれほどの大波さえ超えることができた私は、その一波に飲まれて、海底に漂う死体となったのです。
 その後の荒れた生活は今でも話せるものではありません。
 絶望と、絶望と、絶望と、むすうの絶望と私は暮らしていました。
 つながりを一切持たずに、ただ絶望していたのです。
 そのうちに息子は出て行きました。
 今でさえどこでなにをしているかさえ分かりません。
 息子とのつながりさえも失ってしまったと気付いたとき、私は立ち上がらなければと気付きました。
 ジョゼフを貰い、息子の代わりに育てようと決心しました。
 三歳になったミリーを育てるために商人家業を再開しました。
 しかし、打撃が大きすぎたのかも知れません。
 今でも私は、ミリーやジョゼフとうまくつながれている気がしてこないのです。
 今でも私は、自分がいびつだと思うのです」

 イコウは愕然とするディシュの横顔を見る。
(いや違う、息子さんはこんなに立派な画家になって)
 そう叫ぼうとするが、それもできなかった。
 ディアマンテのスピーチは佳境に入っていた。

「そうするうちにミリーが天気予報ができることに気付きました。
 うわさはあっという間に広がり、ミリーの天気予報は今や東岸中から商人たちが集まってくるほどになりました。
 ですが、いま、ミリーは元気がありません。
 昨日、トラン人の共感者がミリーを人為的に元気にしました。
 みなさんの中にもご迷惑をおかけしてしまった方もあったかも知れません。
 ですが、そのミリーを見て、私は悟ったのです。
 ミリーは元気がないのは、うまくつながれていないからだと。
 私がかつてできていたように、海とつながり、サディスとつながり、東岸の商人たちとつながり、私とつながり、ジョゼフとつながる、それができていないのだと。
 私ができなかったように、ミリーもうまくつながることができなかったのでしょう。
 だから、いま、私がたったひとつだけほしいものがあれば、それはチャンスなのです。
 ミリーが、私と、みんなと、東岸の商人たちとうまくつながれるためのチャンスが欲しいのです。
 だからみなさん、ご協力頂けないでしょうか?
 みなさんがこの東岸のあらゆるものとつながているように、
 ミリーにもつながって欲しいのです」

 ディアマンテが一礼をすると、広場はショックで静まりかえった。
 ざわめき。
 そして、ささやかな拍手。
 長い拍手は、やがてうねるように広場中に広まり、それは雷雨のとどろきのような大拍手となって鳴り響く。ディアマンテが壇上を降り、代わりに貴族が立っても、その拍手は鳴り止むどころから、足踏みや歓声さえも交えるようになった。
 シャリーはディシュが涙を流しているのに気付く。
「ディシュさん?」
 ハンカチを渡すと、ディシュは微笑んだ。
「あれでいいんだ」
 しばらくすると、イコウたちを見つけたジョゼフがやってくる。
「イコウさん、ディシュさん、どちらへ行かれていたのですか? ああ、そろそろパーティーです。ディシュさん、お願いしますね?」
 ディシュは表情を険しくし、頷いた。


  ■パーティーへ   169  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    
  ■パーティーへ  170  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag209*flag210
    



162


 イコウたちは大祭の準備に忙しいサディスへと出る。
 4人でぶらぶらとしながら、飾り立てられていくメインストリートを散策するのは、存外にたのしい。ロットはそれを見ながらメモを取るが、リオネはもはや舞い上がる気持ちを隠すことをしなくなっていた。
「うわー、もうあたし楽しみになって来ちゃったよ」
 商店はどこも店先をあふれるほどの花で飾り、その香りが潮風に混じって漂う。
 その行き先を眺めていたリオネは、上空をゆっくりと回る風車にたどり着く。
「あのお花、まくのかなぁ?」
 シャリーが無邪気に聞くのに、リオネが嬉々として言う。
「まくんだよ、シャリー! みんなで花のシャワーのようにまくだって、スークルの大祭って。もう、おしげなくさ。花だって安くはないのに、大祭ばかりは散財の日だって、それがサディス商人の心意気だって、スークルさまに捧げるんだって。すごい香りになるらしいんだよ」
「リオネさん、よく知ってますね?」
 ロットが顔を上げるのに、リオネははしゃぐ。
「そりゃぁさ、スークルの大祭だよ!? 東岸のハイライトだよ!? 知らなきゃ商人失格だよ!」
 ロットはそんなリオネを見て、くすくすと笑う。
 そんな様子をイコウは頭の後ろで手を組んで、のんびりと聞いていたが、ふと街角で商人たちが話し込んでいるのに気付いて、おやと思う。見るとその商人たちだけでない。注意深く見ながら歩くと、商人たちはだれもがみななにかを話し合っているのだ。
「あれ、なにかな?」
 イコウが視線で示唆すると、リオネは首を傾げる。
「なんだろうね? ああ、祭りの相談じゃないの? 花が足りないとかさ」
「なんか、真剣に話し込んでるように見えるんだけど」
「そりゃさ、大切なお祭りだからねえ」
 はしゃぐリオネは、にべもない。

 聖堂の前の広場まで来ると、ひな壇が設置され、そのまえに花で埋められた大きなスペースができている。
 おそらく聖堂のご神体かなにかが設置されるのだろう。
 忙しく走り回る人々を見ながら、楽団が席に着き始め、楽器の調律を始めるのを、イコウはほほえましくながめる。
 スークルの大祭が始まる。
 それを身体で、その目で、耳で、その花の香りをおもいっきり吸い込むことで、それを満喫し、イコウは確かめる。
「なんでも、ミリーのお父さんのスピーチがあるらしいですよ」
 風の噂にそんな声が聞こえてくる。
 リオネが目を輝かして、イコウを見る。
「聞いた?」
「ああ、そんなのおくびにも出していなかったのに」
 シャリーが心配そうに呟く。
「大丈夫かな、ミリーちゃん」


  ■ディシュを探す。  161  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテのスピーチを待つ。  159  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ジョゼフを探す。  164  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■祭りが始まるのを待つ。  163  【出現条件】:  【消失条件】:
    



163


 サディスのメインストリートに楽団の演奏が響く。
 両側を埋めた人並みはいまかいまかと待ちながら、花束を解いて、いつでも投げられるように待機する。
 スークル神へと捧げる音楽が聖堂から、広場へと姿を現すと、だれもがその花を空へ投げる。カラフルな花々がサディス中で一斉に宙へ放り投げられ、街は花の香りと花びらでいっぱいになる。
 スークルのご神体が聖堂から姿を現すと、一転敬虔な信徒になる。
 スークルさまのご加護を、今日ぐらいは。
 楽団の音楽がじゃんとなると、うわぁあと歓声が沸いた。
 それからのことは、たえず投げられる花のベールに包まれて夢の中にいるよう。
 一緒になって花のベールを作るのにリオネははしゃぐ。
 ご神体はゆっくりとメインストリートを練り歩き、その両側で花のシャワーが巻き上がる。
「上から見た方がいいんじゃないか?」
 ロットが上を見上げて指を指すが、大量に降ってくる花びらを浴びて、あわててそれを払う。シャリーはそれを見て、遠慮がちに笑った。
 ロットは、腰に手をあてて困ったような表情で、よそ見をする。
「イコウ、スピーチ、あそこだな? ほら、貴族たちが出てきた。あのひな壇だ」
「もう始まる?」
「待って」
 ロットは千里眼の珠を前方に伸ばす。
「いた。あれだ。ディアマンテさんもいる。緊張しているみたいだ」
 ロットとイコウは頷く。
「おい、リオネ~! おれたちいっちゃうぞ! 一緒に来ないか?」
「へ? なになに? なんかあったの?」
 リオネは堪能したとばかりに、嬉々として、イコウの顔を見た。

 ひな壇の前にご神体が設置されると、広場はしんと静かになる。
 その周りにも、サディスの貴族階級の者たちが列席し、その周囲を来賓たちが埋める。商人たちの華美な姿に見馴れたイコウでさえ、その豪奢さは見たこともない王宮を想像させた。
「お偉方が勢揃いか?」
「そりゃあ、東岸のハイライトなんでしょう? リオネさん?」
 ひそひそと談笑する貴族たち見ながら、リオネは明るく言う。
「へ? ああ、まあねぇ。やめてよね、ああいう雰囲気のところ、あんまり好きじゃないんだよ。ろくな事がないからねぇ」
 いたずらっぽく舌を出すが、たぶん嫌な思い出でもあるのだろうとイコウは踏む。
 もしかすると、嫌な思い出のある知り合いの姿でも見つけたのかも知れない。
 ひな壇に老貴族が上ると、広場中が耳を澄ます。
 ぼそぼそとその老貴族はなにかを話し、ディアマンテを紹介すると広場にささやかな拍手が起こる。
「いよいよだね」
「しっ」
 イコウは、その男がなにを話すかに全身を研ぎ澄ます。
(ディアマンテさん、どうするのだろう?)
 その表情が遠目にも緊張しているように見えるのだ。
「みなさん。今日は父として、ミリーの代役を頼まれました。天気予報のミリーは私の娘です。ふがいなくはありますが、私はその父です」
 ディアマンテの声は、しんとした広場に、よく通る。
「本日は突然のお話を頂き、この壇上に上らせて頂くことになりました。このような事は初めての経験なのですが、今日はあることに関する3つのことを話したいと思います。キーワードは「つながり」です」
 ディアマンテはペーパーさえ持たず、淡々と話す。
「まずは、海です。
 私は、はるかむかし、海を駆ける商人でした。
 ご存じのように東岸諸国の商人たちはその大半が船乗りです。しかし、私はどうやら商人でもある船乗りだったようなのです。それほど、海へ出るのが好きでした。
 私は、海へ出ると、サディスから別の都市へつながるのを感じました。
 サディスからタリファへ、タリファからシャビへ、シャビからリーズデルへ。
 航海に出るたびに、私は世界につながっていくのを感じ、喜びを感じました。
 儲けなどそっちのけです。
 海へ出て、世界中とつながっていき、儲けはそのあとについてくるものでした。
 しばらくするうちに、東にある大陸とのつながりも持ちたいと思うようになりました。
 未だに、シドの商船が達していないのは東の大陸だけ。
 ならばその偉業を成し遂げよう。私はそう誓ったのです。
 しかし、ご存じかも知れませんが、リーズデルより東の海域はたいへんに荒れる海域が続きます。嵐のような暴風雨が10日も続いたかと思えば、まったくの凪が20日も続く。名だたる船乗りが超えることのできなかった海域です。過酷な航海に夢中になりました。
 それもそのはずで、私のささやかな快速船には頼もしい仲間がいたのです。
 どんな大荒れの海も、仲間たちとならば乗り越えられると思いました。
 私たちはどんなときも、つながり、苦難をともにし、そのつながりは年を追うごとに強まっていきました。
 私はこれをどれほど誇らしく思ったか。
 私は海を通じて東岸諸国とつながり、海を通じて仲間とつながっていました。
 船乗りとして、商人として、東岸に生まれた人間としてこれほど誇らしく思ったことはありませんでした。
 これがひとつめのつながりです」

 広場中がディアマンテのスピーチにのめり込み、固唾を飲んで聞いている。
 サディスの人たちはそのディアマンテの物語がどうなったのか知っているのだ。
 イコウは、その異様な雰囲気に、生唾飲む。

「次に妻です。
 タリファの友人に自慢の妹がいて、彼の家に招待されたときにはじめて会いました。
 なにごとにもくすくすと笑う女性でした。またとても元気のよい女性でした。
 二言三言話しただけで、夢中になってしまったのを覚えています。
 妻はサディスの景色を見るのがたいへん好きでした。
 カフェのテラスの席に座り、一日中その景色を飽きずに見ていたものです。
 私は他にすることもないので、妻と一日中話してばかりでした。
 しかし、いまになって気付くのです。
 そうやって話しているうちに妻と私はつながってしまっていたのだと。
 妻がそれほどまでにサディスの景色に夢中にならなければ、私はそれほど妻と話してなかったかも知れない。
 そうであれば、妻と私をつなげたのはこのすばらしいサディスの街なのです。
 結婚をし、すばらしい家族を持てたのもこのサディスでした。
 息子が生まれ、家族のつながりが生まれました。
 私は航海ばかりでしたが、海にあり、絶望的な大波にたたきつけられているときも、私は家族とつながっていました。
 いつか、私は妻や息子とのつながりをなしに、航海へ出ることができるとは思えなくなっていきました。
 東岸諸国の船乗りたちは、商人たちは、いや、東岸に住むすべての人々はそういった、海や、仲間や、家族とのつながりを大切にし、その中で生き、そして大波にあらがうだけの勇気を貰っています。
 それはとても大切なつながりだと私は痛感しています。
 とても痛く思っています。
 そう忘れていました。
 これがふたつめのつながりです」

 イコウはシャリーがそわそわし出すのに気付く。
 シャリーはこの後の不幸を聞くのさえ怖いのだ。
 イコウはその手を握る。

「最後に、そのすべてが途切れてしまったのが今の私です。
 妻はミリーを生んだとき、その命を引き替えにしました。
 それで私から、妻と、そして海とのつながりが消えました。
 自然と仲間とのつながりも。
 これほどひどくつらいものだとは、まったく思わず、あれほどの大波さえ超えることができた私は、その一波に飲まれて、海底に漂う死体となったのです。
 その後の荒れた生活は今でも話せるものではありません。
 絶望と、絶望と、絶望と、むすうの絶望と私は暮らしていました。
 つながりを一切持たずに、ただ絶望していたのです。
 そのうちに息子は出て行きました。
 今でさえどこでなにをしているかさえ分かりません。
 息子とのつながりさえも失ってしまったと気付いたとき、私は立ち上がらなければと気付きました。
 ジョゼフを貰い、息子の代わりに育てようと決心しました。
 三歳になったミリーを育てるために商人家業を再開しました。
 しかし、打撃が大きすぎたのかも知れません。
 今でも私は、ミリーやジョゼフとうまくつながれている気がしてこないのです。
 今でも私は、自分がいびつだと思うのです。

 そうするうちにミリーが天気予報ができることに気付きました。
 うわさはあっという間に広がり、ミリーの天気予報は今や東岸中から商人たちが集まってくるほどになりました。
 ですが、いま、ミリーは元気がありません。
 昨日、トラン人の共感者がミリーを人為的に元気にしました。
 みなさんの中にもご迷惑をおかけしてしまった方もあったかも知れません。
 ですが、そのミリーを見て、私は悟ったのです。
 ミリーは元気がないのは、うまくつながれていないからだと。
 私がかつてできていたように、海とつながり、サディスとつながり、東岸の商人たちとつながり、私とつながり、ジョゼフとつながる、それができていないのだと。
 私ができなかったように、ミリーもうまくつながることができなかったのでしょう。
 だから、いま、私がたったひとつだけほしいものがあれば、それはチャンスなのです。
 ミリーが、私と、みんなと、東岸の商人たちとうまくつながれるためのチャンスが欲しいのです。
 だからみなさん、ご協力頂けないでしょうか?
 みなさんがこの東岸のあらゆるものとつながているように、
 ミリーにもつながって欲しいのです」

 ディアマンテが一礼をすると、広場はショックで静まりかえった。
 ざわめき。
 そして、ささやかな拍手。
 長い拍手は、やがてうねるように広場中に広まり、それは雷雨のとどろきのような大拍手となって鳴り響く。ディアマンテが壇上を降り、代わりに貴族が立っても、その拍手は鳴り止むどころから、足踏みや歓声さえも交えるようになった。
 鳴り止まない拍手の中、イコウたちはディアマンテに惜しみない拍手を送る。
 しばらくすると、イコウたちを見つけたジョゼフがやってくる。
「そろそろパーティーが始まります。その後の遊覧飛行、お願いしますね?」
 イコウは揚々と、頷いた。
 拍手は鳴り止まなかった。


  ■パーティーへ   169  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    
  ■パーティーへ  170  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag209*flag210
    



164


 サディスのメインストリートに楽団の演奏が響く。
 両側を埋めた人並みはいまかいまかと待ちながら、花束を解いて、いつでも投げられるように待機する。
 スークル神へと捧げる音楽が聖堂から、広場へと姿を現すと、だれもがその花を空へ投げる。カラフルな花々がサディス中で一斉に宙へ放り投げられ、街は花の香りと花びらでいっぱいになる。
 スークルのご神体が聖堂から姿を現すと、一転敬虔な信徒になる。
 スークルさまのご加護を、今日ぐらいは。
 楽団の音楽がじゃんとなると、うわぁあと歓声が沸いた。
 それからのことは、たえず投げられる花のベールに包まれて夢の中にいるよう。
 イコウは、困ったように頭をかく。
「どこ行っちゃったんだろ、ジョゼフくん」
 ご神体はゆっくりとメインストリートを練り歩き、その両側で花のシャワーが巻き上がる。イコウはロットを横目で見るが、その視線に気付いたロットは千里眼の珠を下ろして、首を横に振る。
「千里眼に期待しないでくれよ? それよりも上から見た方がいいんじゃないか?」
 ロットが上を見上げて指を指すが、大量に降ってくる花びらを浴びて、あわててそれを払う。シャリーはそれを見て、遠慮がちに笑った。
「わ、笑わないでよ、シャリー。真剣なんだから」
「ごめんね、ロット。でもおかしかったの」
 ロットは、腰に手をあてて困ったような表情で、よそ見をする。
「イコウ、スピーチ、あそこだな? ほら、貴族たちが出てきた。あのひな壇だ」
「もう始まる?」
「待って」
 ロットは千里眼の珠を前方に伸ばす。
「いた。あれだ。ディアマンテさんもいる。緊張しているみたいだ。待った。すぐ側にいた、ジョゼフくん、ミリーちゃんと一緒だ」
 ロットとイコウは頷いた。

 ひな壇の前にご神体が設置されると、広場はしんと静かになる。
 その周りにも、サディスの貴族階級の者たちが列席し、その周囲を来賓たちが埋める。商人たちの華美な姿に見馴れたイコウでさえ、その豪奢さは見たこともない王宮を想像させた。
「ジョゼフくん!」
 イコウが声を掛けると、ジョゼフはきょとんとする。
「どうされたんですか? もうスピーチが始まりますよ」
 話を切り出すわけにも行かず、イコウは黙ってそれが終わるのを待つ。
 ひな壇に老貴族が上ると、広場中が耳を澄ます。
 ぼそぼそとその老貴族はなにかを話し、ディアマンテを紹介すると広場にささやかな拍手が起こる。
「いよいよだね」
「しっ」
 イコウは、その男がなにを話すかに全身を研ぎ澄ます。
(ディアマンテさん、どうするのだろう?)
 その表情が遠目にも緊張しているように見えるのだ。
「みなさん。今日は父として、ミリーの代役を頼まれました。天気予報のミリーは私の娘です。ふがいなくはありますが、私はその父です」
 ディアマンテの声は、しんとした広場に、よく通る。
「本日は突然のお話を頂き、この壇上に上らせて頂くことになりました。このような事は初めての経験なのですが、今日はあることに関する3つのことを話したいと思います。キーワードは「つながり」です」
 ディアマンテはペーパーさえ持たず、淡々と話す。
「まずは、海です。
 私は、はるかむかし、海を駆ける商人でした。
 ご存じのように東岸諸国の商人たちはその大半が船乗りです。しかし、私はどうやら商人でもある船乗りだったようなのです。それほど、海へ出るのが好きでした。
 私は、海へ出ると、サディスから別の都市へつながるのを感じました。
 サディスからタリファへ、タリファからシャビへ、シャビからリーズデルへ。
 航海に出るたびに、私は世界につながっていくのを感じ、喜びを感じました。
 儲けなどそっちのけです。
 海へ出て、世界中とつながっていき、儲けはそのあとについてくるものでした。
 しばらくするうちに、東にある大陸とのつながりも持ちたいと思うようになりました。
 未だに、シドの商船が達していないのは東の大陸だけ。
 ならばその偉業を成し遂げよう。私はそう誓ったのです。
 しかし、ご存じかも知れませんが、リーズデルより東の海域はたいへんに荒れる海域が続きます。嵐のような暴風雨が10日も続いたかと思えば、まったくの凪が20日も続く。名だたる船乗りが超えることのできなかった海域です。過酷な航海に夢中になりました。
 それもそのはずで、私のささやかな快速船には頼もしい仲間がいたのです。
 どんな大荒れの海も、仲間たちとならば乗り越えられると思いました。
 私たちはどんなときも、つながり、苦難をともにし、そのつながりは年を追うごとに強まっていきました。
 私はこれをどれほど誇らしく思ったか。
 私は海を通じて東岸諸国とつながり、海を通じて仲間とつながっていました。
 船乗りとして、商人として、東岸に生まれた人間としてこれほど誇らしく思ったことはありませんでした。
 これがひとつめのつながりです」

 広場中がディアマンテのスピーチにのめり込み、固唾を飲んで聞いている。
 サディスの人たちはそのディアマンテの物語がどうなったのか知っているのだ。
 イコウは、その異様な雰囲気に、生唾飲む。

「次に妻です。
 タリファの友人に自慢の妹がいて、彼の家に招待されたときにはじめて会いました。
 なにごとにもくすくすと笑う女性でした。またとても元気のよい女性でした。
 二言三言話しただけで、夢中になってしまったのを覚えています。
 妻はサディスの景色を見るのがたいへん好きでした。
 カフェのテラスの席に座り、一日中その景色を飽きずに見ていたものです。
 私は他にすることもないので、妻と一日中話してばかりでした。
 しかし、いまになって気付くのです。
 そうやって話しているうちに妻と私はつながってしまっていたのだと。
 妻がそれほどまでにサディスの景色に夢中にならなければ、私はそれほど妻と話してなかったかも知れない。
 そうであれば、妻と私をつなげたのはこのすばらしいサディスの街なのです。
 結婚をし、すばらしい家族を持てたのもこのサディスでした。
 息子が生まれ、家族のつながりが生まれました。
 私は航海ばかりでしたが、海にあり、絶望的な大波にたたきつけられているときも、私は家族とつながっていました。
 いつか、私は妻や息子とのつながりをなしに、航海へ出ることができるとは思えなくなっていきました。
 東岸諸国の船乗りたちは、商人たちは、いや、東岸に住むすべての人々はそういった、海や、仲間や、家族とのつながりを大切にし、その中で生き、そして大波にあらがうだけの勇気を貰っています。
 それはとても大切なつながりだと私は痛感しています。
 とても痛く思っています。
 そう忘れていました。
 これがふたつめのつながりです」

 イコウはシャリーがそわそわし出すのに気付く。
 シャリーはこの後の不幸を聞くのさえ怖いのだ。
 イコウはその手を握る。

「最後に、そのすべてが途切れてしまったのが今の私です。
 妻はミリーを生んだとき、その命を引き替えにしました。
 それで私から、妻と、そして海とのつながりが消えました。
 自然と仲間とのつながりも。
 これほどひどくつらいものだとは、まったく思わず、あれほどの大波さえ超えることができた私は、その一波に飲まれて、海底に漂う死体となったのです。
 その後の荒れた生活は今でも話せるものではありません。
 絶望と、絶望と、絶望と、むすうの絶望と私は暮らしていました。
 つながりを一切持たずに、ただ絶望していたのです。
 そのうちに息子は出て行きました。
 今でさえどこでなにをしているかさえ分かりません。
 息子とのつながりさえも失ってしまったと気付いたとき、私は立ち上がらなければと気付きました。
 ジョゼフを貰い、息子の代わりに育てようと決心しました。
 三歳になったミリーを育てるために商人家業を再開しました。
 しかし、打撃が大きすぎたのかも知れません。
 今でも私は、ミリーやジョゼフとうまくつながれている気がしてこないのです。
 今でも私は、自分がいびつだと思うのです」

 イコウはジョゼフとミリーを見る。
 その表情は硬直し、ディアマンテの言葉を待っているように見えた。
 イコウは微笑む。
(あとはディアマンテさん次第だ)
 なにをしようとしていたかさえすっかり忘れ、その言葉を胸に刻み込もうと決めた。

「そうするうちにミリーが天気予報ができることに気付きました。
 うわさはあっという間に広がり、ミリーの天気予報は今や東岸中から商人たちが集まってくるほどになりました。
 ですが、いま、ミリーは元気がありません。
 昨日、トラン人の共感者がミリーを人為的に元気にしました。
 みなさんの中にもご迷惑をおかけしてしまった方もあったかも知れません。
 ですが、そのミリーを見て、私は悟ったのです。
 ミリーは元気がないのは、うまくつながれていないからだと。
 私がかつてできていたように、海とつながり、サディスとつながり、東岸の商人たちとつながり、私とつながり、ジョゼフとつながる、それができていないのだと。
 私ができなかったように、ミリーもうまくつながることができなかったのでしょう。
 だから、いま、私がたったひとつだけほしいものがあれば、それはチャンスなのです。
 ミリーが、私と、みんなと、東岸の商人たちとうまくつながれるためのチャンスが欲しいのです。
 だからみなさん、ご協力頂けないでしょうか?
 みなさんがこの東岸のあらゆるものとつながているように、
 ミリーにもつながって欲しいのです」

 ディアマンテが一礼をすると、広場はショックで静まりかえった。
 ざわめき。
 そして、ささやかな拍手。
 長い拍手は、やがてうねるように広場中に広まり、それは雷雨のとどろきのような大拍手となって鳴り響く。ディアマンテが壇上を降り、代わりに貴族が立っても、その拍手は鳴り止むどころから、足踏みや歓声さえも交えるようになった。
 鳴り止まない拍手の中、イコウたちはディアマンテの元へ行く。
 ディアマンテは、照れたように笑う。
 それから、その手をシャリーの小さな手に重ねる。
「ありがとう、シャリーさん。あなたのおかげで、分かることができた」
 シャリーが微笑むと、ディアマンテも笑顔になる。
 ミリーがよろよろと歩いて、ディアマンテの胸に抱きつく。
 ディアマンテはそれを必死に抱きしめ、ぼろぼろと涙を流した。
「ごめんな、ミリー、お父さん、うまくできてなかった。お父さん、頑張ってみる」
 ミリーが弱々しく微笑む。
 それを見ていたジョゼフが申し訳なさそうに言った。
「旦那様、そろそろパーティーの時間ですが」
 拍手は鳴り止まなかった。


  ■パーティーへ   169  【出現条件】:flag000*flag209*flag210  【消失条件】:
    
  ■パーティーへ  170  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag209*flag210
    



165


 サディスのメインストリートに楽団の演奏が響く。
 両側を埋めた人並みはいまかいまかと待ちながら、花束を解いて、いつでも投げられるように待機する。
 スークル神へと捧げる音楽が聖堂から、広場へと姿を現すと、だれもがその花を空へ投げる。カラフルな花々がサディス中で一斉に宙へ放り投げられ、街は花の香りと花びらでいっぱいになる。
 スークルのご神体が聖堂から姿を現すと、一転敬虔な信徒になる。
 スークルさまのご加護を、今日ぐらいは。
 楽団の音楽がじゃんとなると、うわぁあと歓声が沸いた。
 それからのことは、たえず投げられる花のベールに包まれて夢の中にいるよう。
 イコウは、困ったように頭をかく。
「どこ行っちゃったんだろ、ジョゼフくん」
 ご神体はゆっくりとメインストリートを練り歩き、その両側で花のシャワーが巻き上がる。イコウはロットを横目で見るが、その視線に気付いたロットは千里眼の珠を下ろして、首を横に振る。
「千里眼に期待しないでくれよ? それよりも上から見た方がいいんじゃないか?」
 ロットが上を見上げて指を指すが、大量に降ってくる花びらを浴びて、あわててそれを払う。シャリーはそれを見て、遠慮がちに笑った。
「わ、笑わないでよ、シャリー。真剣なんだから」
「ごめんね、ロット。でもおかしかったの」
 ロットは、腰に手をあてて困ったような表情で、よそ見をする。
「イコウ、スピーチ、あそこだな? ほら、貴族たちが出てきた。あのひな壇だ」
「もう始まる?」
「待って」
 ロットは千里眼の珠を前方に伸ばす。
「いた。あれだ。ディアマンテさんもいる。緊張しているみたいだ。待った。すぐ側にいた、ジョゼフくん、ミリーちゃんと一緒だ」
 ロットとイコウは頷いた。

 ひな壇の前にご神体が設置されると、広場はしんと静かになる。
 その周りにも、サディスの貴族階級の者たちが列席し、その周囲を来賓たちが埋める。商人たちの華美な姿に見馴れたイコウでさえ、その豪奢さは見たこともない王宮を想像させた。
「ジョゼフくん!」
 イコウが声を掛けると、ジョゼフはきょとんとする。
「どうされたんですか? もうスピーチが始まりますよ」
 イコウはロットと視線を合わせる。
 ロットはミリーの視線の高さまでしゃがみ込む。
「ジョゼフくん、ミリーちゃん、よく聞いてくれ。お兄ちゃんの居場所が分かった」
 それを聞いて、ジョゼフは愕然とする。
「な、なんで…」
 小刻みに震えるジョゼフを心配するように、ミリーが心配そうに見上げる。
 唐突にささやかな拍手が鳴った。ディアマンテのスピーチが始まる。

「みなさん。今日は父として、ミリーの代役を頼まれました。天気予報のミリーは私の娘です。ふがいなくはありますが、私はその父です」

 ディアマンテの声は、しんとした広場に、よく通る。

「本日は突然のお話を頂き、この壇上に上らせて頂くことになりました。このような事は初めての経験なのですが、今日はあることに関する3つのことを話したいと思います。キーワードは「つながり」です」

 ディアマンテはペーパーさえ持たず、淡々と話す。
 ロットはそれを振り返り、それからジョゼフの顔色をうかがい、ミリーとジョゼフの肩に手を置く。
「ディアマンテさんの言葉は聞いたね。たとえお兄ちゃんが見つかっても、ディアマンテさんはジョゼフくんを後継ぎにする。それは間違いないし、変わらない絶対に」

「まずは、海です。
 私は、はるかむかし、海を駆ける商人でした。
 ご存じのように東岸諸国の商人たちはその大半が船乗りです。しかし、私はどうやら商人でもある船乗りだったようなのです。それほど、海へ出るのが好きでした。
 私は、海へ出ると、サディスから別の都市へつながるのを感じました。
 サディスからタリファへ、タリファからシャビへ、シャビからリーズデルへ。
 航海に出るたびに、私は世界につながっていくのを感じ、喜びを感じました。
 儲けなどそっちのけです。
 海へ出て、世界中とつながっていき、儲けはそのあとについてくるものでした」

 躊躇するジョゼフをロットは必死になって励まし、周囲の目も気にせずに、その少年家令が振り切るのを待った。
「イコウ?」
 シャリーが不安そうに聞くのに、耳元でささやく。
「信じるんだ、シャリー。なにもかも」

「しばらくするうちに、東にある大陸とのつながりも持ちたいと思うようになりました。
 未だに、シドの商船が達していないのは東の大陸だけ。
 ならばその偉業を成し遂げよう。私はそう誓ったのです。
 しかし、ご存じかも知れませんが、リーズデルより東の海域はたいへんに荒れる海域が続きます。嵐のような暴風雨が10日も続いたかと思えば、まったくの凪が20日も続く。名だたる船乗りが超えることのできなかった海域です。過酷な航海に夢中になりました。
 それもそのはずで、私のささやかな快速船には頼もしい仲間がいたのです。
 どんな大荒れの海も、仲間たちとならば乗り越えられると思いました。
 私たちはどんなときも、つながり、苦難をともにし、そのつながりは年を追うごとに強まっていきました。
 私はこれをどれほど誇らしく思ったか。
 私は海を通じて東岸諸国とつながり、海を通じて仲間とつながっていました。
 船乗りとして、商人として、東岸に生まれた人間としてこれほど誇らしく思ったことはありませんでした。
 これがひとつめのつながりです」

「ディアマンテさんを信じられないのかい? これまで信じてきたのに」
 ロットはそのジョゼフの瞳に、耐え難いほどの怯えがあるのを感じ取る。
 その手をロットはジョゼフの胸に重ね、大丈夫、大丈夫と呟く。

「次に妻です。
 タリファの友人に自慢の妹がいて、彼の家に招待されたときにはじめて会いました。
 なにごとにもくすくすと笑う女性でした。またとても元気のよい女性でした。
 二言三言話しただけで、夢中になってしまったのを覚えています。
 妻はサディスの景色を見るのがたいへん好きでした。
 カフェのテラスの席に座り、一日中その景色を飽きずに見ていたものです。
 私は他にすることもないので、妻と一日中話してばかりでした。
 しかし、いまになって気付くのです。
 そうやって話しているうちに妻と私はつながってしまっていたのだと。
 妻がそれほどまでにサディスの景色に夢中にならなければ、私はそれほど妻と話してなかったかも知れない。
 そうであれば、妻と私をつなげたのはこのすばらしいサディスの街なのです。
 結婚をし、すばらしい家族を持てたのもこのサディスでした」

「信じるんだ、ジョゼフくん。ディアマンテさんを、きみたちの10年を」
 ミリーがその細い両手でジョゼフの手を握り、はかなく微笑む。
 それから背伸びをし、その頬にキスをする。
 ささやかなキス。
 ミリーが恥ずかしげに、笑うと、ジョゼフはゆっくりとなんとか頷いた。
「わたし……、お父さんがお兄ちゃんを後継ぎにするなら、ジョゼフと家を出る……」

「息子が生まれ、家族のつながりが生まれました。
 私は航海ばかりでしたが、海にあり、絶望的な大波にたたきつけられているときも、私は家族とつながっていました。
 いつか、私は妻や息子とのつながりをなしに、航海へ出ることができるとは思えなくなっていきました。
 東岸諸国の船乗りたちは、商人たちは、いや、東岸に住むすべての人々はそういった、海や、仲間や、家族とのつながりを大切にし、その中で生き、そして大波にあらがうだけの勇気を貰っています。
 それはとても大切なつながりだと私は痛感しています。
 とても痛く思っています。
 そう忘れていました。
 これがふたつめのつながりです」

「ミリーちゃんのお兄さんは、ディシュさんだ。これから説明する。聞いて欲しい」
 頷く二人を見て、ロットは笑う。
「よし、ちゃんと聞いてくれ」

「最後に、そのすべてが途切れてしまったのが今の私です。
 妻はミリーを生んだとき、その命を引き替えにしました。
 それで私から、妻と、そして海とのつながりが消えました。
 自然と仲間とのつながりも。
 これほどひどくつらいものだとは、まったく思わず、あれほどの大波さえ超えることができた私は、その一波に飲まれて、海底に漂う死体となったのです。
 その後の荒れた生活は今でも話せるものではありません。
 絶望と、絶望と、絶望と、むすうの絶望と私は暮らしていました。
 つながりを一切持たずに、ただ絶望していたのです。
 そのうちに息子は出て行きました。
 今でさえどこでなにをしているかさえ分かりません。
 息子とのつながりさえも失ってしまったと気付いたとき、私は立ち上がらなければと気付きました。
 ジョゼフを貰い、息子の代わりに育てようと決心しました。
 三歳になったミリーを育てるために商人家業を再開しました。
 しかし、打撃が大きすぎたのかも知れません。
 今でも私は、ミリーやジョゼフとうまくつながれている気がしてこないのです。
 今でも私は、自分がいびつだと思うのです」

 イコウはなにかが今日から始まる気がして、いま見たものが幸福というなにか見えない、すぐ逃げて行ってしまう、鳥のようななにかのそのしっぽを見たような気がした。
 それがなんなのか、どのように実現していくのかは分からない。
 いま起こっているのがキセキなのか、それを起こしたのはだれのか、そういうことはイコウにはどうでもいいようなことのように思えた。
 はじめてあったミリー、昨日の元気なミリー、今日ささやかな約束をしたミリー。
(いったいなにが始まるのだろう?)
 それは分からなかった。
 でも、自分はできることをした。
 シャリーのように、リオネのように、ミリーのように。
(そして、ディアマンテさんはなにをしようとしているのだろう?)
 イコウは、壇上でスピーチする真剣な男の姿を見つめる。
(きっと、できることをするんだ)
 そう信じることに、イコウはしたのだった。

「そうするうちにミリーが天気予報ができることに気付きました。
 うわさはあっという間に広がり、ミリーの天気予報は今や東岸中から商人たちが集まってくるほどになりました。
 ですが、いま、ミリーは元気がありません。
 昨日、トラン人の共感者がミリーを人為的に元気にしました。
 みなさんの中にもご迷惑をおかけしてしまった方もあったかも知れません。
 ですが、そのミリーを見て、私は悟ったのです。
 ミリーは元気がないのは、うまくつながれていないからだと。
 私がかつてできていたように、海とつながり、サディスとつながり、東岸の商人たちとつながり、私とつながり、ジョゼフとつながる、それができていないのだと。
 私ができなかったように、ミリーもうまくつながることができなかったのでしょう。
 だから、いま、私がたったひとつだけほしいものがあれば、それはチャンスなのです。
 ミリーが、私と、みんなと、東岸の商人たちとうまくつながれるためのチャンスが欲しいのです。
 だからみなさん、ご協力頂けないでしょうか?
 みなさんがこの東岸のあらゆるものとつながっているように、
 ミリーにもつながって欲しいのです」

 ディアマンテが一礼をすると、広場はショックで静まりかえった。
 ざわめき。
 そして、ささやかな拍手。
 長い拍手は、やがてうねるように広場中に広まり、それは雷雨のとどろきのような大拍手となって鳴り響く。ディアマンテが壇上を降り、代わりに貴族が立っても、その拍手は鳴り止むどころから、足踏みや歓声さえも交えるようになった。
「ジョゼフくん、ディシュさんに言えるね? 許すと。帰ってきて欲しいと」
「はい」
 鳴り止まない拍手の中、ディアマンテがミリーの元にやってくる。
 ディアマンテは、照れたように笑う。
 それから、その手をシャリーの小さな手に重ねる。
「ありがとう、シャリーさん。あなたのおかげで、分かることができた」
 シャリーが微笑むと、ディアマンテも笑顔になる。
 ミリーがよろよろと歩いて、ディアマンテの胸に抱きつく。
 ディアマンテはそれを必死に抱きしめ、ぼろぼろと涙を流した。
「ごめんな、ミリー、お父さん、うまくできてなかった。お父さん、頑張ってみる」
 ミリーが弱々しく微笑む。
「お父さん……、お兄ちゃんを許してあげて……」
 その言葉を聞き、ディアマンテは事態を悟る。
 ロットがディアマンテを見つめながら立ち上がると、ディアマンテは頷いた。

「ディシュ! ディシュ! どこにいる!」
「ディシュさん! あなたに話があるんです!」
「お兄ちゃん! どこにいるの!」
 ディアマンテたちは、もはや観衆の注目など目など気にせず、ディシュの名前を呼ぶ。騒然とする会場を背に、必死になってその姿を探す。
 ふいに観衆の一部がディシュに気付き、あわててそこから退いた。
「ディシュだ。こんな有名人が?」
「え? ミリーちゃんのお兄ちゃん? ディシュが? 東岸一の画家が?」
 興味本位の観衆さえ、邪魔せぬようにと、一斉引く。
 観衆に囲まれて、ディシュはぽつりと一人で立ち尽くした。
 ディアマンテは、ふっと微笑んで、その肩に手を置く。
「帰ってきて欲しい。ずっと待っていたんだ。おまえを」
 ジョゼフはすこし躊躇しながら近づいたが、おもいっきり胸を張る。
「10年もの旦那様への裏切り行為、ですがあなたが家を出たから、ぼくは旦那様に拾われ、お嬢様にお会いすることができたのです。感謝はしませんし、あなたになにもかもを渡すつもりはありませんが、」
 ジョゼフは微笑んだ。
「あなたが必要なのです。だから許します」
 ディシュは膝をつき、それから泣いた。


  ■パーティーへ   168  【出現条件】:  【消失条件】:
    



166


 サディスのメインストリートに楽団の演奏が響く。
 両側を埋めた人並みはいまかいまかと待ちながら、花束を解いて、いつでも投げられるように待機する。
 スークル神へと捧げる音楽が聖堂から、広場へと姿を現すと、だれもがその花を空へ投げる。カラフルな花々がサディス中で一斉に宙へ放り投げられ、街は花の香りと花びらでいっぱいになる。
 スークルのご神体が聖堂から姿を現すと、一転敬虔な信徒になる。
 スークルさまのご加護を、今日ぐらいは。
 楽団の音楽がじゃんとなると、うわぁあと歓声が沸いた。
 それからのことは、たえず投げられる花のベールに包まれて夢の中にいるよう。
 イコウは、困ったように頭をかく。
「どこ行っちゃったんだろ、ジョゼフくん」
 ご神体はゆっくりとメインストリートを練り歩き、その両側で花のシャワーが巻き上がる。イコウはロットを横目で見るが、その視線に気付いたロットは千里眼の珠を下ろして、首を横に振る。
「千里眼に期待しないでくれよ? それよりも上から見た方がいいんじゃないか?」
 ロットが上を見上げて指を指すが、大量に降ってくる花びらを浴びて、あわててそれを払う。シャリーはそれを見て、遠慮がちに笑った。
「わ、笑わないでよ、シャリー。真剣なんだから」
「ごめんね、ロット。でもおかしかったの」
 ロットは、腰に手をあてて困ったような表情で、よそ見をする。
「イコウ、スピーチ、あそこだな? ほら、貴族たちが出てきた。あのひな壇だ」
「もう始まる?」
「待って」
 ロットは千里眼の珠を前方に伸ばす。
「いた。あれだ。ディアマンテさんもいる。緊張しているみたいだ。待った。すぐ側にいた、ジョゼフくん、ミリーちゃんと一緒だ」
 ロットとイコウは頷いた。

 ひな壇の前にご神体が設置されると、広場はしんと静かになる。
 その周りにも、サディスの貴族階級の者たちが列席し、その周囲を来賓たちが埋める。商人たちの華美な姿に見馴れたイコウでさえ、その豪奢さは見たこともない王宮を想像させた。
「ジョゼフくん!」
 イコウが声を掛けると、ジョゼフはびっくりとする。
「ど、どうされたんですか? もうスピーチが始まりますけど……」
「ジョゼフくん、分かっているはずだ。大丈夫かな?」
 イコウの言葉にジョゼフは頷く。
 イコウはロットと視線を合わせた。
 ロットはミリーの視線の高さまでしゃがみ込む。
「ジョゼフくん、ミリーちゃん、よく聞いてくれ。お兄ちゃんの居場所が分かった」
 小刻みに震えるジョゼフを心配するように、ミリーが心配そうに見上げる。
 唐突にささやかな拍手が鳴った。ディアマンテのスピーチが始まる。

「みなさん。今日は父として、ミリーの代役を頼まれました。天気予報のミリーは私の娘です。ふがいなくはありますが、私はその父です」

 ディアマンテの声は、しんとした広場に、よく通る。

「本日は突然のお話を頂き、この壇上に上らせて頂くことになりました。このような事は初めての経験なのですが、今日はあることに関する3つのことを話したいと思います。キーワードは「つながり」です」

 ディアマンテはペーパーさえ持たず、淡々と話す。
 ロットはそれを振り返り、それからジョゼフの顔色をうかがい、ミリーとジョゼフの肩に手を置く。
「ディアマンテさんの言葉は聞いたね。たとえお兄ちゃんが見つかっても、ディアマンテさんはジョゼフくんを後継ぎにする。それは間違いないし、変わらない絶対に」

「まずは、海です。
 私は、はるかむかし、海を駆ける商人でした。
 ご存じのように東岸諸国の商人たちはその大半が船乗りです。しかし、私はどうやら商人でもある船乗りだったようなのです。それほど、海へ出るのが好きでした。
 私は、海へ出ると、サディスから別の都市へつながるのを感じました。
 サディスからタリファへ、タリファからシャビへ、シャビからリーズデルへ。
 航海に出るたびに、私は世界につながっていくのを感じ、喜びを感じました。
 儲けなどそっちのけです。
 海へ出て、世界中とつながっていき、儲けはそのあとについてくるものでした」

 躊躇するジョゼフをロットは必死になって励まし、周囲の目も気にせずに、その少年家令が振り切るのを待った。
「イコウ?」
 シャリーが不安そうに聞くのに、耳元でささやく。
「信じるんだ、シャリー。なにもかも」

「しばらくするうちに、東にある大陸とのつながりも持ちたいと思うようになりました。
 未だに、シドの商船が達していないのは東の大陸だけ。
 ならばその偉業を成し遂げよう。私はそう誓ったのです。
 しかし、ご存じかも知れませんが、リーズデルより東の海域はたいへんに荒れる海域が続きます。嵐のような暴風雨が10日も続いたかと思えば、まったくの凪が20日も続く。名だたる船乗りが超えることのできなかった海域です。過酷な航海に夢中になりました。
 それもそのはずで、私のささやかな快速船には頼もしい仲間がいたのです。
 どんな大荒れの海も、仲間たちとならば乗り越えられると思いました。
 私たちはどんなときも、つながり、苦難をともにし、そのつながりは年を追うごとに強まっていきました。
 私はこれをどれほど誇らしく思ったか。
 私は海を通じて東岸諸国とつながり、海を通じて仲間とつながっていました。
 船乗りとして、商人として、東岸に生まれた人間としてこれほど誇らしく思ったことはありませんでした。
 これがひとつめのつながりです」

「ディアマンテさんを信じられないのかい? これまで信じてきたのに」
 ロットはそのジョゼフの瞳に、耐え難いほどの怯えがあるのを感じ取る。
 その手をロットはジョゼフの胸に重ね、大丈夫、大丈夫と呟く。
「でも、ぼくはお嬢様なんかと……」

「次に妻です。
 タリファの友人に自慢の妹がいて、彼の家に招待されたときにはじめて会いました。
 なにごとにもくすくすと笑う女性でした。またとても元気のよい女性でした。
 二言三言話しただけで、夢中になってしまったのを覚えています。
 妻はサディスの景色を見るのがたいへん好きでした。
 カフェのテラスの席に座り、一日中その景色を飽きずに見ていたものです。
 私は他にすることもないので、妻と一日中話してばかりでした。
 しかし、いまになって気付くのです。
 そうやって話しているうちに妻と私はつながってしまっていたのだと。
 妻がそれほどまでにサディスの景色に夢中にならなければ、私はそれほど妻と話してなかったかも知れない。
 そうであれば、妻と私をつなげたのはこのすばらしいサディスの街なのです。
 結婚をし、すばらしい家族を持てたのもこのサディスでした」

「信じるんだ、ジョゼフくん。ディアマンテさんを、きみたちの10年を」
 ミリーがその細い両手でジョゼフの手を握り、はかなく微笑む。
 それから背伸びをし、その頬にキスをする。
 ささやかなキス。
 ミリーが恥ずかしげに、笑うと、ジョゼフはゆっくりとなんとか頷いた。
「わたし……、お父さんがお兄ちゃんを後継ぎにするなら、ジョゼフと家を出る……」

「息子が生まれ、家族のつながりが生まれました。
 私は航海ばかりでしたが、海にあり、絶望的な大波にたたきつけられているときも、私は家族とつながっていました。
 いつか、私は妻や息子とのつながりをなしに、航海へ出ることができるとは思えなくなっていきました。
 東岸諸国の船乗りたちは、商人たちは、いや、東岸に住むすべての人々はそういった、海や、仲間や、家族とのつながりを大切にし、その中で生き、そして大波にあらがうだけの勇気を貰っています。
 それはとても大切なつながりだと私は痛感しています。
 とても痛く思っています。
 そう忘れていました。
 これがふたつめのつながりです」

「ミリーちゃんのお兄さんは、ディシュさんだ。これから説明する。聞いて欲しい」
 頷く二人を見て、ロットは笑う。
「よし、ちゃんと聞いてくれ」

「最後に、そのすべてが途切れてしまったのが今の私です。
 妻はミリーを生んだとき、その命を引き替えにしました。
 それで私から、妻と、そして海とのつながりが消えました。
 自然と仲間とのつながりも。
 これほどひどくつらいものだとは、まったく思わず、あれほどの大波さえ超えることができた私は、その一波に飲まれて、海底に漂う死体となったのです。
 その後の荒れた生活は今でも話せるものではありません。
 絶望と、絶望と、絶望と、むすうの絶望と私は暮らしていました。
 つながりを一切持たずに、ただ絶望していたのです。
 そのうちに息子は出て行きました。
 今でさえどこでなにをしているかさえ分かりません。
 息子とのつながりさえも失ってしまったと気付いたとき、私は立ち上がらなければと気付きました。
 ジョゼフを貰い、息子の代わりに育てようと決心しました。
 三歳になったミリーを育てるために商人家業を再開しました。
 しかし、打撃が大きすぎたのかも知れません。
 今でも私は、ミリーやジョゼフとうまくつながれている気がしてこないのです。
 今でも私は、自分がいびつだと思うのです」

 イコウはなにかが今日から始まる気がして、いま見たものが幸福というなにか見えない、すぐ逃げて行ってしまう、鳥のようななにかのそのしっぽを見たような気がした。
 それがなんなのか、どのように実現していくのかは分からない。
 いま起こっているのがキセキなのか、それを起こしたのはだれのか、そういうことはイコウにはどうでもいいようなことのように思えた。
 はじめてあったミリー、昨日の元気なミリー、今日ささやかな約束をしたミリー。
(いったいなにが始まるのだろう?)
 それは分からなかった。
 でも、自分はできることをした。
 シャリーのように、リオネのように、ミリーのように。
(そして、ディアマンテさんはなにをしようとしているのだろう?)
 イコウは、壇上でスピーチする真剣な男の姿を見つめる。
(きっと、できることをするんだ)
 そう信じることに、イコウはしたのだった。

「そうするうちにミリーが天気予報ができることに気付きました。
 うわさはあっという間に広がり、ミリーの天気予報は今や東岸中から商人たちが集まってくるほどになりました。
 ですが、いま、ミリーは元気がありません。
 昨日、トラン人の共感者がミリーを人為的に元気にしました。
 みなさんの中にもご迷惑をおかけしてしまった方もあったかも知れません。
 ですが、そのミリーを見て、私は悟ったのです。
 ミリーは元気がないのは、うまくつながれていないからだと。
 私がかつてできていたように、海とつながり、サディスとつながり、東岸の商人たちとつながり、私とつながり、ジョゼフとつながる、それができていないのだと。
 私ができなかったように、ミリーもうまくつながることができなかったのでしょう。
 だから、いま、私がたったひとつだけほしいものがあれば、それはチャンスなのです。
 ミリーが、私と、みんなと、東岸の商人たちとうまくつながれるためのチャンスが欲しいのです。
 だからみなさん、ご協力頂けないでしょうか?
 みなさんがこの東岸のあらゆるものとつながっているように、
 ミリーにもつながって欲しいのです」

 ディアマンテが一礼をすると、広場はショックで静まりかえった。
 ざわめき。
 そして、ささやかな拍手。
 長い拍手は、やがてうねるように広場中に広まり、それは雷雨のとどろきのような大拍手となって鳴り響く。ディアマンテが壇上を降り、代わりに貴族が立っても、その拍手は鳴り止むどころから、足踏みや歓声さえも交えるようになった。
「ジョゼフくん、ディシュさんに言えるね? 許すと。帰ってきて欲しいと」
「はい」
 鳴り止まない拍手の中、ディアマンテがミリーの元にやってくる。
 ディアマンテは、照れたように笑う。
 それから、その手をシャリーの小さな手に重ねる。
「ありがとう、シャリーさん。あなたのおかげで、分かることができた」
 シャリーが微笑むと、ディアマンテも笑顔になる。
 ミリーがよろよろと歩いて、ディアマンテの胸に抱きつく。
 ディアマンテはそれを必死に抱きしめ、ぼろぼろと涙を流した。
「ごめんな、ミリー、お父さん、うまくできてなかった。お父さん、頑張ってみる」
 ミリーが弱々しく微笑む。
「お父さん……、お兄ちゃんを許してあげて……」
 その言葉を聞き、ディアマンテは事態を悟る。
 ロットがディアマンテを見つめながら立ち上がると、ディアマンテは頷いた。

「ディシュ! ディシュ! どこにいる!」
「ディシュさん! あなたに話があるんです!」
「お兄ちゃん! どこにいるの!」
 ディアマンテたちは、もはや観衆の注目など目など気にせず、ディシュの名前を呼ぶ。騒然とする会場を背に、必死になってその姿を探す。
 ふいに観衆の一部がディシュに気付き、あわててそこから退いた。
「ディシュだ。こんな有名人が?」
「え? ミリーちゃんのお兄ちゃん? ディシュが? 東岸一の画家が?」
 興味本位の観衆さえ、邪魔せぬようにと、一斉引く。
 観衆に囲まれて、ディシュはぽつりと一人で立ち尽くした。
 ディアマンテは、ふっと微笑んで、その肩に手を置く。
「帰ってきて欲しい。ずっと待っていたんだ。おまえを」
 ジョゼフはすこし躊躇しながら近づいたが、おもいっきり胸を張る。
「10年もの旦那様への裏切り行為、ですがあなたが家を出たから、ぼくは旦那様に拾われ、お嬢様にお会いすることができたのです。感謝はしませんし、あなたになにもかもを渡すつもりはありませんが、」
 ジョゼフは微笑んだ。
「あなたが必要なのです。だから許します」
 ディシュは膝をつき、それから泣いた。


  ■パーティーへ  167  【出現条件】:  【消失条件】:
    



167


 ミリーの肖像画のお披露目パーティーは、貴族の館を借り切って開かれ、数百人に及ぶ貴族や商人たちが招かれている。
 イコウは、ディアマンテと遊覧飛行の打ち合わせを済ませ、その広い庭を歩く。
 サディス中、いや東岸中の商人たちがミリーのためにはせ参じていたが、その表情は元気のないミリーを見てどれも一様に沈んでいた。
 その中で唯一明るく振る舞うのはディアマンテで、商人たちに笑顔を振りまく。
「いや、息子さんが戻ってきてよかったですなあ」
「しかし、まさか、あのディシュが息子さんだったとは」
「彼なら、東岸一、いや北方諸国でも相当名をはせる画家になるでしょう」
 ディアマンテはお世辞に笑顔を返す。
 その当人であるディシュは、芸術好きの商人に囲まれている。
「まさか、ディシュがミリーちゃんのお兄さんだったとは」
「しかし、よく戻る気になりましたな」
 ディシュはその質問に柔らかく笑い、一角で話をするロットやシャリー、そしてリオネの方を見る。
「あの人たちのおかげです」
「あのトラン人たち、たしかその中に共感者がいたとか」
 興味津々にする商人たちにディシュは言う。
「ええ。ふしぎな方たちです」
 イコウは、ミリーとジョゼフと歓談する3人に合流する。
「パオペラ、なんとかなりそうだよ。庭に下ろすことになりそう」
「あの商人たちに、縄ばしごは無理そうだもんねぇ」
 リオネが、おかしそうにけらけらと笑う。
「ミリーちゃんにもちょっと厳しそうだしね」
 イコウがミリーを見ると、にっこりと微笑む。
 側に立つジョゼフを嬉しそうに見上げて、その笑顔を向ける。
「しかし、一時はどうなるかと思ったよ」
 ため息をつくイコウを横目に、ロットは優しく言う。
「よく勇気を出したね、ジョゼフくん」
「ロットさんとミリーのおかげです」
 照れたようなジョゼフの言葉に4人は驚く。
「じょ、ジョゼフさん、い、いまなんて?」
「ははーん、そういうことだなぁ、この色男」
 リオネが節操なく茶化すのに、ジョゼフはよけいに照れた。
「あ、二人でいるときはミリーって呼ばないと、嫌いになるって、それで」
 ほほぅ、なかなかやるじゃないと、あきれるリオネの視線の先で、ミリーはすこしだけ得意げに微笑んだ。

 葡萄酒を片手に談笑を楽しむディシュの元に使用人がやって来て準備ができたと告げる。
 挨拶をしてディシュは覆いを掛けられた二枚の肖像画まで歩き、それを名残惜しそうに見つめる。
「自信作か? ディシュ、……いや、」
「いいですよ、ディシュで。まだ、ディシュで。ここには人がいます」
 ディアマンテは息子を見つめて懐かしげに言う。
「昔から、お前は絵を描くのが好きだった」
「お父さんだって、相当うまかったんでしょ? 今度見せてください」
 ディアマンテはその言葉にあわてるが、ディシュはいたずらっぽく笑う。
「屋根裏にまだあるはずですよ、お父さんのスケッチブック。見よう見まねで真似したんです。だから、ディシュの最初の師匠は、お父さん、あなたなんです。なくなったと思ってました?」
 ディアマンテは戸惑うが、それも笑顔に変わる。
「いや、なくなったと思っていたが、戻ってきた、なにもかも」
 ディシュはほほえんで、忘れてましたと、懐からパイプと鍵を取り出し、その手に返した。

 二枚の肖像画の前に商人たちが集まり、いよいよお披露目になる。
 ディアマンテが挨拶をしようとすると、最前列の老商人がよろよろと手を挙げる。
「なんでしょう? スコルさん?」
 老商人はよろよろと歩き出し、ディアマンテの側まで寄る。
「ディアマンテさんや、今日はめでたいスークルさまの大祭じゃ。わしにも挨拶をさせてくれんかのう?」
「しかし……」
 ディアマンテはあわてて商人たちを見るが、その視線が至極真剣なのに気付く。
 ディシュがディアマンテに素早くささやく。
「なにかあるようです」
「なにが?」
「分かりません」
 そうするうちに老商人は壇上に上がり、そこから東岸中の商人たちを見下ろす。
「みなを代表して、このスコルが評決を取らせてもらう」
 ディアマンテがとまどうのに、スコルがにこりと笑う。
「東岸の商人たちよ。
 今宵は、スークルさまの大祭じゃ。年に一度の故人が海より帰る日じゃ。
 今宵は、わしの父も母も、そして自慢の息子もわしの元に帰ってくる日じゃ。
 いや、きっともう戻ってきているじゃろう。
 じいさんのじいさんも、ばあさんのばあさんも。
 東岸に生きたすべての者たちが、わしたちを、スークルさまも、だれもがわしらを見ておる、なにもかもじゃ。
 我ら、海の子たちが立派な行いをしておるか、仲間を大切にしておるか」
 スコルはディアマンテを振り返る。
「ディアマンテさん、わしたちは、東岸の商人は話し合ったのじゃ。スークルの大祭にもかかわらず、真剣に。けんけんがくがくに。だから、今宵は評決を」
 とどめようとするディアマンテをディシュが制止する。
「東岸の商人すべてに問う。
 わしらは、明日からも、ちいさなか弱きひとりの少女を苦しめ、すがって生きるか?」
 庭はしんとした。
 だれひとりとして、手を挙げる者はなかった。
 それを見て、スコルは満足げに頷く。
「では、もう一方をすべての東岸の商人に問う。
 わしらは、明日からは、ちいさなか弱きひとりの少女を苦しめることなく、すがることなく生き、己の力で海に乗りだし、荒波を越え、嵐を越え、ミリーに笑顔が戻るまで、その天気予報を封印するか?」
 大歓声が庭にとどろく。
 商人たちは、だれもが両手を挙げ、互いに励ますように頷き会う。
「評決は下った。ミリーの天気予報は封印する」
 スコルが壇上から降りると、ディアマンテは震えを隠しきれなかった。
「スコルさん……」
「商人にとって評決は神聖じゃ。ディアマンテさん。今日のスピーチはすばらしかった」
 ぽんぽんと肩をたたくとディアマンテは頭を下げた。
「ありがとうございます」
 代わってディシュが壇上に上がる。
 興奮冷めやらぬ商人たちを見つめて、頬を紅潮させる。
「それでは、お披露目をさせて頂く」
 無造作にディシュは、二枚の肖像画にかけられた覆いを取り除く。
 おお、というどよめきと、得も言えぬためらいが庭を満たす。
 その一枚は、笑顔輝く昼のミリー。光彩豊かな庭を駆け回ってる。
 もう一枚は、悪夢にうめく夜のミリー。真っ暗な寝室で一匹の蛾に生気を吸われている。
 ディシュは、声をからした。
「みなさんが蛾ではないことは、明らかだ。
 しかし、幼い少女には蝶でさえ、ときに蛾に見えてしまう。
 悪夢とはそのようなもので、蛾などほんの一握りなのにすべてが蛾に見えてしまう。
 だからみなさん、どうか、兄としてお願いする。
 ミリーが、みなさんが蝶であると気づけるようになるまで。
 みなさんとうまくつながることができるようになるまで。
 どうか、ミリーが元気になれるよう、スークルさまに祈って欲しい!」
 歓声は沸かなかった。
 しかし、商人たちはそれを胸に刻み、だれもが無言で頷いた。

 浮遊船パオペラが浮上をはじめると、甲板の上客は歓声を上げた。
 だれもが、生まれてはじめてみる、サディスの上空からの夜景にうっとりと酔いしれる。
 聖堂に集う灯火と祈りの歌。
 大祭の空気ににぎやかな嬌声を響かせる、酒場の灯り。
 閑静に、ひそやかに神聖な日を家族と過ごす、家々の明かり。
 そういったスークルの大祭の夜が、だれもの目の前に広がる。
 パオペラが旋回をはじめると、サディスの野山に野火が放たれ、それが壮大なエレミア山脈の山麓を焼いていく。
 ゴーンと、聖堂の鐘がなると、スークルを称える声があちこちから聞こえ、そして、おそらく花束の最後の残りが宙を埋め尽くしたはずだ。
 そんな光景に、イコウは想いを巡らし、ただただ見つめるだけの常客たちを見る。
「ミリーちゃん?」
 ジョゼフと一緒にそれを眺めるミリーにイコウは声をかける。
「風が強くなってきたら、中に入らないか?」
 ジョゼフとミリーは顔を見合わす。
「お月様をみていたの」
 ミリーが上空の月を指す。見ると、流れの速い雲がその月を覆い隠そうとし、それを見るミリーの表情がかげっていく。
「みなさん! 船内に降りてください! ちょっと雲の上まで出ます! それに風が!」
 だれもがそのイコウの提案に従い、船内へと入る。
 最後の上客が甲板から消えたのを確認して、イコウは船内に戻ってくる。
 しかし、そこでもだれもが窓により、飽きずに景色を眺める。
 イコウは思わず笑ってしまう。
「はじめてだからよ」
 シャリーが、微笑ましげにそれを見つめる。
 イコウは、それならと張り切り、水晶玉に指示を出す。
「パオペラ上昇、雲の上に」

 上空の雲は思いがけなく高く、イコウはなかなか雲の上に出ないのにはらはらする。
 それでも、雲の層をつっきると、遮るもののない月が煌々と輝いた。
 ミリーははじめて見るその上空の光景におどろき、言葉もなく立ち尽くす。
「すごいね、ジョゼフ」
「おじょ、いえ、ミリー。すてきです」
 ジョゼフもそれを見つめる。
 とうとつにミリーが咳き込み、ジョゼフはあわてる。
 ミリーはごほごほと咳をし、それから床に両手をつく。
 ロットがあわてて、イコウにささやく。
「上昇しすぎだ。雲の上は空気が薄いんだ。慣れない者にこの空気を長く吸わせては」
 イコウはしまったと、水晶玉に指示を出しに走る。
「ミリー、大丈夫?」
 ジョゼフに背中をさすられながら、ミリーがまぶたを開くと、その手をついた床に、いっぴきの蛾が、弱っているのを見つける。
「ミリー?」
 ミリーがふしぎそうにそれを見つめ手の中に包み込む。
「蛾ですか? おじょ、いえ、ミリー?」
 ロットとシャリーがやって来て、ミリーの手の中を覗く。
「あー、イコウ、倉庫の掃除サボってたでしょう」
 シャリーは、水晶玉に指示をするイコウを怒る。
 なおもふしぎそうにするミリーにロットが言った。
「空気が薄いから弱っているんですよ。下に戻って正常な空気を吸えばすぐに元気になります」
 ミリーがきょとんとしてロットに聞く。
「それって、ミリーも一緒だね? 空気が吸えてなかったんだね?」
「え? ええ、ああ、まあ、おそらく」
 パオペラは下降をはじめ、そしてやがて元の庭に戻ってくる。
 上客は下船をはじめ、ミリーはジョゼフに支えられながら降りてくる。
 ミリーは、両手の中の蛾をそっと放す。
 蛾はふらふらと飛び、ふわふわと風をとらえようとする。
 ミリーはあわててそれを追いかけ、商人たちの間を、必死に走っていく。
「ミリー、どこへ行くんだ!」
 ディアマンテが叫ぶのを、ディシュが止めた。
「自由にさせてあげてください。ミリーをもっと」
 ミリーはまるで元気を取り戻したかのように、街路へ飛び出していく。
 ジョゼフとイコウたちはそれを見失わないように追いかける。
 イコウたちは、角を曲がったところで、ミリーが立ち尽くしているのを見つける。
「ミリーちゃん? どうしたの?」
 ミリーはただただ、街灯に群れる虫たちを見上げ茫然とした。
「燃えちゃった」


 - パーフェクト・エンディング -

 「ミリーの天気予報」

  writer -- hikali





168


 ミリーの肖像画のお披露目パーティーは、貴族の館を借り切って開かれ、数百人に及ぶ貴族や商人たちが招かれている。
 イコウは、ディアマンテと遊覧飛行の打ち合わせを済ませ、その広い庭を歩く。
 サディス中、いや東岸中の商人たちがミリーのためにはせ参じていたが、その表情は元気のないミリーを見てどれも一様に沈んでいた。
 その中で唯一明るく振る舞うのはディアマンテで、商人たちに笑顔を振りまく。
「いや、息子さんが戻ってきてよかったですなあ」
「しかし、まさか、あのディシュが息子さんだったとは」
「彼なら、東岸一、いや北方諸国でも相当名をはせる画家になるでしょう」
 ディアマンテはお世辞に笑顔を返す。
 その当人であるディシュは、芸術好きの商人に囲まれている。
「まさか、ディシュがミリーちゃんのお兄さんだったとは」
「しかし、よく戻る気になりましたな」
 ディシュはその質問に柔らかく笑い、一角で話をするロットやシャリー、そしてリオネの方を見る。
「あの人たちのおかげです」
「あのトラン人たち、たしかその中に共感者がいたとか」
 興味津々にする商人たちにディシュは言う。
「ええ。ふしぎな方たちです」
 イコウは、ミリーとジョゼフと歓談する3人に合流する。
「パオペラ、なんとかなりそうだよ。庭に下ろすことになりそう」
「あの商人たちに、縄ばしごは無理そうだもんねぇ」
 リオネが、おかしそうにけらけらと笑う。
「ミリーちゃんにもちょっと厳しそうだしね」
 イコウがミリーを見ると、にっこりと微笑む。
 側に立つジョゼフを嬉しそうに見上げて、その笑顔を向ける。
「しかし、一時はどうなるかと思ったよ」
 ため息をつくイコウを横目に、ロットは優しく言う。
「よく勇気を出したね、ジョゼフくん」
「ロットさんとミリーのおかげです」
 照れたようなジョゼフの言葉に4人は驚く。
「じょ、ジョゼフさん、い、いまなんて?」
「ははーん、そういうことだなぁ、この色男」
 リオネが節操なく茶化すのに、ジョゼフはよけいに照れた。
「あ、二人でいるときはミリーって呼ばないと、嫌いになるって、それで」
 ほほぅ、なかなかやるじゃないと、あきれるリオネの視線の先で、ミリーはすこしだけ得意げに微笑んだ。

 葡萄酒を片手に談笑を楽しむディシュの元に使用人がやって来て準備ができたと告げる。
 挨拶をしてディシュは覆いを掛けられた二枚の肖像画まで歩き、それを名残惜しそうに見つめる。
「自信作か? ディシュ、……いや、」
「いいですよ、ディシュで。まだ、ディシュで。ここには人がいます」
 ディアマンテは息子を見つめて懐かしげに言う。
「昔から、お前は絵を描くのが好きだった」
「お父さんだって、相当うまかったんでしょ? 今度見せてください」
 ディアマンテはその言葉にあわてるが、ディシュはいたずらっぽく笑う。
「屋根裏にまだあるはずですよ、お父さんのスケッチブック。見よう見まねで真似したんです。だから、ディシュの最初の師匠は、お父さん、あなたなんです。なくなったと思ってました?」
 ディアマンテは戸惑うが、それも笑顔に変わる。
「いや、なくなったと思っていたが、戻ってきた、なにもかも」
 ディシュはほほえんで、忘れてましたと、懐からパイプと鍵を取り出し、その手に返した。

 二枚の肖像画の前に商人たちが集まり、いよいよお披露目になる。
 ディアマンテが挨拶をしようとすると、最前列の老商人がよろよろと手を挙げる。
「なんでしょう? スコルさん?」
 老商人はよろよろと歩き出し、ディアマンテの側まで寄る。
「ディアマンテさんや、今日はめでたいスークルさまの大祭じゃ。わしにも挨拶をさせてくれんかのう?」
「しかし……」
 ディアマンテはあわてて商人たちを見るが、その視線が至極真剣なのに気付く。
 ディシュがディアマンテに素早くささやく。
「なにかあるようです」
「なにが?」
「分かりません」
 そうするうちに老商人は壇上に上がり、そこから東岸中の商人たちを見下ろす。
「みなを代表して、このスコルが評決を取らせてもらう」
 ディアマンテがとまどうのに、スコルがにこりと笑う。
「東岸の商人たちよ。
 今宵は、スークルさまの大祭じゃ。年に一度の故人が海より帰る日じゃ。
 今宵は、わしの父も母も、そして自慢の息子もわしの元に帰ってくる日じゃ。
 いや、きっともう戻ってきているじゃろう。
 じいさんのじいさんも、ばあさんのばあさんも。
 東岸に生きたすべての者たちが、わしたちを、スークルさまも、だれもがわしらを見ておる、なにもかもじゃ。
 我ら、海の子たちが立派な行いをしておるか、仲間を大切にしておるか」
 スコルはディアマンテを振り返る。
「ディアマンテさん、わしたちは、東岸の商人は話し合ったのじゃ。スークルの大祭にもかかわらず、真剣に。けんけんがくがくに。だから、今宵は評決を」
 とどめようとするディアマンテをディシュが制止する。
「東岸の商人すべてに問う。
 わしらは、明日からも、ちいさなか弱きひとりの少女を苦しめ、すがって生きるか?」
 庭はしんとした。
 だれひとりとして、手を挙げる者はなかった。
 それを見て、スコルは満足げに頷く。
「では、もう一方をすべての東岸の商人に問う。
 わしらは、明日からは、ちいさなか弱きひとりの少女を苦しめることなく、すがることなく生き、己の力で海に乗りだし、荒波を越え、嵐を越え、ミリーに笑顔が戻るまで、その天気予報を封印するか?」
 大歓声が庭にとどろく。
 商人たちは、だれもが両手を挙げ、互いに励ますように頷き会う。
「評決は下った。ミリーの天気予報は封印する」
 スコルが壇上から降りると、ディアマンテは震えを隠しきれなかった。
「スコルさん……」
「商人にとって評決は神聖じゃ。ディアマンテさん。今日のスピーチはすばらしかった」
 ぽんぽんと肩をたたくとディアマンテは頭を下げた。
「ありがとうございます」
 代わってディシュが壇上に上がる。
 興奮冷めやらぬ商人たちを見つめて、頬を紅潮させる。
「それでは、お披露目をさせて頂く」
 無造作にディシュは、二枚の肖像画にかけられた覆いを取り除く。
 おお、というどよめきと、得も言えぬためらいが庭を満たす。
 その一枚は、笑顔輝く昼のミリー。光彩豊かな庭を駆け回ってる。
 もう一枚は、悪夢にうめく夜のミリー。真っ暗な寝室で一匹の蛾に生気を吸われている。
 ディシュは、声をからした。
「みなさんが蛾ではないことは、明らかだ。
 しかし、幼い少女には蝶でさえ、ときに蛾に見えてしまう。
 悪夢とはそのようなもので、蛾などほんの一握りなのにすべてが蛾に見えてしまう。
 だからみなさん、どうか、兄としてお願いする。
 ミリーが、みなさんが蝶であると気づけるようになるまで。
 みなさんとうまくつながることができるようになるまで。
 どうか、ミリーが元気になれるよう、スークルさまに祈って欲しい!」
 歓声は沸かなかった。
 しかし、商人たちはそれを胸に刻み、だれもが無言で頷いた。

 浮遊船パオペラが浮上をはじめると、甲板の上客は歓声を上げた。
 だれもが、生まれてはじめてみる、サディスの上空からの夜景にうっとりと酔いしれる。
 聖堂に集う灯火と祈りの歌。
 大祭の空気ににぎやかな嬌声を響かせる、酒場の灯り。
 閑静に、ひそやかに神聖な日を家族と過ごす、家々の明かり。
 そういったスークルの大祭の夜が、だれもの目の前に広がる。
 パオペラが旋回をはじめると、サディスの野山に野火が放たれ、それが壮大なエレミア山脈の山麓を焼いていく。
 ゴーンと、聖堂の鐘がなると、スークルを称える声があちこちから聞こえ、そして、おそらく花束の最後の残りが宙を埋め尽くしたはずだ。
 そんな光景に、イコウは想いを巡らし、ただただ見つめるだけの常客たちを見る。
「ミリーちゃん?」
 ジョゼフと一緒にそれを眺めるミリーにイコウは声をかける。
「風が強くなってきたら、中に入らないか?」
 ジョゼフとミリーは顔を見合わす。
「お月様をみていたの」
 ミリーが上空の月を指す。見ると、流れの速い雲がその月を覆い隠そうとし、それを見るミリーの表情がかげっていく。
「みなさん! 船内に降りてください! ちょっと雲の上まで出ます! それに風が!」
 だれもがそのイコウの提案に従い、船内へと入る。
 最後の上客が甲板から消えたのを確認して、イコウは船内に戻ってくる。
 しかし、そこでもだれもが窓により、飽きずに景色を眺める。
 イコウは思わず笑ってしまう。
「はじめてだからよ」
 シャリーが、微笑ましげにそれを見つめる。
 イコウは、それならと張り切り、水晶玉に指示を出す。
「パオペラ上昇、雲の上に」

 上空の雲は思いがけなく高く、イコウはなかなか雲の上に出ないのにはらはらする。
 それでも、雲の層をつっきると、遮るもののない月が煌々と輝いた。
 ミリーははじめて見るその上空の光景におどろき、言葉もなく立ち尽くす。
「すごいね、ジョゼフ」
「おじょ、いえ、ミリー。すてきです」
 ジョゼフもそれを見つめる。
 とうとつにミリーが咳き込み、ジョゼフはあわてる。
 ミリーはごほごほと咳をし、それから床に両手をつく。
 ロットがあわてて、イコウにささやく。
「上昇しすぎだ。雲の上は空気が薄いんだ。慣れない者にこの空気を長く吸わせては」
 イコウはしまったと、水晶玉に指示を出しに走る。
「ミリー、大丈夫?」
 ジョゼフに背中をさすられながら、ミリーがまぶたを開くと、その手をついた床に、いっぴきの蛾が、弱っているのを見つける。
「ミリー?」
 ミリーがふしぎそうにそれを見つめ手の中に包み込む。
「蛾ですか? おじょ、いえ、ミリー?」
 ロットとシャリーがやって来て、ミリーの手の中を覗く。
「あー、イコウ、倉庫の掃除サボってたでしょう」
 シャリーは、水晶玉に指示をするイコウを怒る。
 なおもふしぎそうにするミリーにロットが言った。
「空気が薄いから弱っているんですよ。下に戻って正常な空気を吸えばすぐに元気になります」
 ミリーがきょとんとしてロットに聞く。
「それって、ミリーも一緒だね? 空気が吸えてなかったんだね?」
「え? ええ、ああ、まあ、おそらく」
 パオペラは下降をはじめ、そしてやがて元の庭に戻ってくる。
 上客は下船をはじめ、ミリーはジョゼフに支えられながら降りてくる。
 ミリーは、両手の中の蛾をそっと放す。
 蛾はふらふらと飛び、ふわふわと風をとらえようとする。
 ミリーはあわててそれを追いかけ、商人たちの間を、必死に走っていく。
「ミリー、どこへ行くんだ!」
 ディアマンテが叫ぶのを、ディシュが止めた。
「自由にさせてあげてください。ミリーをもっと」
 ミリーはまるで元気を取り戻したかのように、街路へ飛び出していく。
 ジョゼフとイコウたちはそれを見失わないように追いかける。
 イコウたちは、角を曲がったところで、ミリーが立ち尽くしているのを見つける。
「ミリーちゃん? どうしたの?」
 ミリーはただただ、街灯に群れる虫たちを見上げ茫然とした。
「燃えちゃった」


 - ハッピー・エンディング -

 「ミリーの天気予報」

  writer -- hikali





169


 ミリーの肖像画のお披露目パーティーは、貴族の館を借り切って開かれ、数百人に及ぶ貴族や商人たちが招かれている。
 イコウは、ディアマンテと遊覧飛行の打ち合わせを済ませ、その広い庭を歩く。
 サディス中、いや東岸中の商人たちがミリーのためにはせ参じていたが、その表情は元気のないミリーを見てどれも一様に沈んでいた。
 その中でディアマンテほっとしてくつろぎ、商人たちを歓待する。
「いや、よいスピーチでしたな」
「実はいろいろミリーの天気予報を考え直そうと思っているんですよ」
「あのスピーチは説得力がありました」
 ディアマンテはお世辞に笑顔を返す。
 ディシュは、芸術好きの商人に囲まれている。
「お披露目される肖像画楽しみにしていますよ」
「そういえば、次に描く絵はだれにしているんですか?」
 ディシュはその質問に柔らかく笑い、一角で話をするロットやシャリー、そしてリオネの方を見る。
「あの人たちをいつか描きたいと思っているんです」
「あのトラン人たち、たしかその中に共感者がいたとか」
 興味津々にする商人たちにディシュは言う。
「ええ。ふしぎな方たちです」
 イコウは、ミリーとジョゼフと歓談する3人に合流する。
「パオペラ、なんとかなりそうだよ。庭に下ろすことになりそう」
「あの商人たちに、縄ばしごは無理そうだもんねぇ」
 リオネが、おかしそうにけらけらと笑う。
「ミリーちゃんにもちょっと厳しそうだしね」
 イコウがミリーを見ると、にっこりと微笑む。
「旦那様はあんなスピーチをしてくれたのは、きっとイコウさんたちのおかげだと思うんです」
「よしてよ、ジョゼフくん。そんなことないって」
 照れるイコウに、ジョゼフは言う。
「シャリーさんが、お嬢様を元気にしてくれなかったら」
 シャリーは笑う。
「うん」

 葡萄酒を片手に談笑を楽しむディシュの元に使用人がやって来て準備ができたと告げる。
 挨拶をしてディシュは覆いを掛けられた二枚の肖像画まで歩き、それを名残惜しそうに見つめる。
「自信作ですか? ディシュさん、……いや、」
 ディシュはディアマンテがなにを言おうとしているのか、察知する。
「いえ、もう少し待ちませんか? 時間はあることだし、急ぐことでも」
 それで、ディアマンテはほっと胸をなで下ろす。
 ディシュは月を見上げ、感慨深そうに呟く。
「長かったんです。だから、そんなにあっという間にしてしまっても」
「そうかもな」

 二枚の肖像画の前に商人たちが集まり、いよいよお披露目になる。
 ディアマンテが挨拶をしようとすると、最前列の老商人がよろよろと手を挙げる。
「なんでしょう? スコルさん?」
 老商人はよろよろと歩き出し、ディアマンテの側まで寄る。
「ディアマンテさんや、今日はめでたいスークルさまの大祭じゃ。わしにも挨拶をさせてくれんかのう?」
「しかし……」
 ディアマンテはあわてて商人たちを見るが、その視線が至極真剣なのに気付く。
 ディシュがディアマンテに素早くささやく。
「なにかあるようです」
「なにが?」
「分かりません」
 そうするうちに老商人は壇上に上がり、そこから東岸中の商人たちを見下ろす。
「みなを代表して、このスコルが評決を取らせてもらう」
 ディアマンテがとまどうのに、スコルがにこりと笑う。
「東岸の商人たちよ。
 今宵は、スークルさまの大祭じゃ。年に一度の故人が海より帰る日じゃ。
 今宵は、わしの父も母も、そして自慢の息子もわしの元に帰ってくる日じゃ。
 いや、きっともう戻ってきているじゃろう。
 じいさんのじいさんも、ばあさんのばあさんも。
 東岸に生きたすべての者たちが、わしたちを、スークルさまも、だれもがわしらを見ておる、なにもかもじゃ。
 我ら、海の子たちが立派な行いをしておるか、仲間を大切にしておるか」
 スコルはディアマンテを振り返る。
「ディアマンテさん、わしたちは、東岸の商人は話し合ったのじゃ。スークルの大祭にもかかわらず、真剣に。けんけんがくがくに。だから、今宵は評決を」
 とどめようとするディアマンテをディシュが制止する。
「東岸の商人すべてに問う。
 わしらは、明日からも、ちいさなか弱きひとりの少女を苦しめ、すがって生きるか?」
 庭はしんとした。
 だれひとりとして、手を挙げる者はなかった。
 それを見て、スコルは満足げに頷く。
「では、もう一方をすべての東岸の商人に問う。
 わしらは、明日からは、ちいさなか弱きひとりの少女を苦しめることなく、すがることなく生き、己の力で海に乗りだし、荒波を越え、嵐を越え、ミリーに笑顔が戻るまで、その天気予報を封印するか?」
 大歓声が庭にとどろく。
 商人たちは、だれもが両手を挙げ、互いに励ますように頷き会う。
「評決は下った。ミリーの天気予報は封印する」
 スコルが壇上から降りると、ディアマンテは震えを隠しきれなかった。
「スコルさん……」
「商人にとって評決は神聖じゃ。ディアマンテさん。今日のスピーチはすばらしかった」
 ぽんぽんと肩をたたくとディアマンテは頭を下げた。
「ありがとうございます」
 代わってディシュが壇上に上がる。
 興奮冷めやらぬ商人たちを見つめて、頬を紅潮させる。
「それでは、お披露目をさせて頂く」
 無造作にディシュは、二枚の肖像画にかけられた覆いを取り除く。
 おお、というどよめきと、得も言えぬためらいが庭を満たす。
 その一枚は、笑顔輝く昼のミリー。光彩豊かな庭を駆け回ってる。
 もう一枚は、悪夢にうめく夜のミリー。真っ暗な寝室で一匹の蛾に生気を吸われている。
 ディシュは、声をからした。
「みなさんが蛾ではないことは、明らかだ。
 しかし、幼い少女には蝶でさえ、ときに蛾に見えてしまう。
 悪夢とはそのようなもので、蛾などほんの一握りなのにすべてが蛾に見えてしまう。
 だからみなさん、どうかお願いする。
 ミリーが、みなさんが蝶であると気づけるようになるまで。
 みなさんとうまくつながることができるようになるまで。
 どうか、ミリーが元気になれるよう、スークルさまに祈って欲しい!」
 歓声は沸かなかった。
 しかし、商人たちはそれを胸に刻み、だれもが無言で頷いた。

 浮遊船パオペラが浮上をはじめると、甲板の上客は歓声を上げた。
 だれもが、生まれてはじめてみる、サディスの上空からの夜景にうっとりと酔いしれる。
 聖堂に集う灯火と祈りの歌。
 大祭の空気ににぎやかな嬌声を響かせる、酒場の灯り。
 閑静に、ひそやかに神聖な日を家族と過ごす、家々の明かり。
 そういったスークルの大祭の夜が、だれもの目の前に広がる。
 パオペラが旋回をはじめると、サディスの野山に野火が放たれ、それが壮大なエレミア山脈の山麓を焼いていく。
 ゴーンと、聖堂の鐘がなると、スークルを称える声があちこちから聞こえ、そして、おそらく花束の最後の残りが宙を埋め尽くしたはずだ。
 そんな光景に、イコウは想いを巡らし、ただただ見つめるだけの常客たちを見る。
「ミリーちゃん?」
 ジョゼフと一緒にそれを眺めるミリーにイコウは声をかける。
「風が強くなってきたら、中に入らないか?」
 ジョゼフとミリーは顔を見合わす。
「お月様をみていたの」
 ミリーが上空の月を指す。見ると、流れの速い雲がその月を覆い隠そうとし、それを見るミリーの表情がかげっていく。
「みなさん! 船内に降りてください! ちょっと雲の上まで出ます! それに風が!」
 だれもがそのイコウの提案に従い、船内へと入る。
 最後の上客が甲板から消えたのを確認して、イコウは船内に戻ってくる。
 しかし、そこでもだれもが窓により、飽きずに景色を眺める。
 イコウは思わず笑ってしまう。
「はじめてだからよ」
 シャリーが、微笑ましげにそれを見つめる。
 イコウは、それならと張り切り、水晶玉に指示を出す。
「パオペラ上昇、雲の上に」

 上空の雲は思いがけなく高く、イコウはなかなか雲の上に出ないのにはらはらする。
 それでも、雲の層をつっきると、遮るもののない月が煌々と輝いた。
 ミリーははじめて見るその上空の光景におどろき、言葉もなく立ち尽くす。
「すごいね、ジョゼフ」
「お嬢様。すてきです」
 ジョゼフもそれを見つめる。
 とうとつにミリーが咳き込み、ジョゼフはあわてる。
 ミリーはごほごほと咳をし、それから床に両手をつく。
 ロットがあわてて、イコウにささやく。
「上昇しすぎだ。雲の上は空気が薄いんだ。慣れない者にこの空気を長く吸わせては」
 イコウはしまったと、水晶玉に指示を出しに走る。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
 ジョゼフに背中をさすられながら、ミリーがまぶたを開くと、その手をついた床に、いっぴきの蛾が、弱っているのを見つける。
「お嬢様?」
 ミリーがふしぎそうにそれを見つめ手の中に包み込む。
「蛾ですか? お嬢様?」
 ロットとシャリーがやって来て、ミリーの手の中を覗く。
「あー、イコウ、倉庫の掃除サボってたでしょう」
 シャリーは、水晶玉に指示をするイコウを怒る。
 なおもふしぎそうにするミリーにロットが言った。
「空気が薄いから弱っているんですよ。下に戻って正常な空気を吸えばすぐに元気になります」
 ミリーがきょとんとしてロットに聞く。
「それって、ミリーも一緒だね? 空気が吸えてなかったんだね?」
「え? ええ、ああ、まあ、おそらく」
 パオペラは下降をはじめ、そしてやがて元の庭に戻ってくる。
 上客は下船をはじめ、ミリーはジョゼフに支えられながら降りてくる。
 ミリーは、両手の中の蛾をそっと放す。
 蛾はふらふらと飛び、ふわふわと風をとらえようとする。
 ミリーはあわててそれを追いかけ、商人たちの間を、必死に走っていく。
「ミリー、どこへ行くんだ!」
 ディアマンテが叫び、駆けていって、その手首を掴む。
 ミリーは蛾が夜空に飛んでいくのを見上げ、ぽつりと呟いた。
「いっちゃった」

 - ノーマル・エンディング -

「ミリーの天気予報」

  writer -- hikali





170


 ミリーの肖像画のお披露目パーティーは、貴族の館を借り切って開かれ、数百人に及ぶ貴族や商人たちが招かれている。
 イコウは、ディアマンテと遊覧飛行の打ち合わせを済ませ、その広い庭を歩く。
 サディス中、いや東岸中の商人たちがミリーのためにはせ参じていたが、その表情は元気のないミリーを見てどれも一様に沈んでいた。
 その中でディアマンテほっとしてくつろぎ、商人たちを歓待する。
「いや、よいスピーチでしたな」
「実はいろいろミリーの天気予報を考え直そうと思っているんですよ」
「あのスピーチは説得力がありました」
 ディアマンテはお世辞に笑顔を返す。
 ディシュは、芸術好きの商人に囲まれている。
「お披露目される肖像画楽しみにしていますよ」
「そういえば、次に描く絵はだれにしているんですか?」
 ディシュはその質問に柔らかく笑う。
「まだ、決めてません」
 イコウは、ミリーとジョゼフと歓談する3人に合流する。
「パオペラ、なんとかなりそうだよ。庭に下ろすことになりそう」
「あの商人たちに、縄ばしごは無理そうだもんねぇ」
 リオネが、おかしそうにけらけらと笑う。
「ミリーちゃんにもちょっと厳しそうだしね」
 イコウがミリーを見ると、にっこりと微笑む。
「旦那様はあんなスピーチをしてくれたのは、きっとイコウさんたちのおかげだと思うんです」
「よしてよ、ジョゼフくん。そんなことないって」
 照れるイコウに、ジョゼフは言う。
「シャリーさんが、お嬢様を元気にしてくれなかったら」
 シャリーは笑う。
「うん」

 葡萄酒を片手に談笑を楽しむディシュの元に使用人がやって来て準備ができたと告げる。
 挨拶をしてディシュは覆いを掛けられた二枚の肖像画まで歩き、それを名残惜しそうに見つめる。
「自信作ですか? ディシュさん」
「え? ええ、きっと気に入ると思います。あのようなスピーチのあとなら」
 ディシュの自信に、ディアマンテはふしぎそうな顔をした。

 二枚の肖像画の前に商人たちが集まり、いよいよお披露目になる。
 ディアマンテが挨拶をしようとすると、最前列の老商人がよろよろと手を挙げる。
「なんでしょう? スコルさん?」
 老商人はよろよろと歩き出し、ディアマンテの側まで寄る。
「ディアマンテさんや、今日はめでたいスークルさまの大祭じゃ。わしにも挨拶をさせてくれんかのう?」
「しかし……」
 ディアマンテはあわてて商人たちを見るが、その視線が至極真剣なのに気付く。
 そうするうちに老商人は壇上に上がり、そこから東岸中の商人たちを見下ろす。
「みなを代表して、このスコルが評決を取らせてもらう」
 ディアマンテがとまどうのに、スコルがにこりと笑う。
「東岸の商人たちよ。
 今宵は、スークルさまの大祭じゃ。年に一度の故人が海より帰る日じゃ。
 今宵は、わしの父も母も、そして自慢の息子もわしの元に帰ってくる日じゃ。
 いや、きっともう戻ってきているじゃろう。
 じいさんのじいさんも、ばあさんのばあさんも。
 東岸に生きたすべての者たちが、わしたちを、スークルさまも、だれもがわしらを見ておる、なにもかもじゃ。
 我ら、海の子たちが立派な行いをしておるか、仲間を大切にしておるか」
 スコルはディアマンテを振り返る。
「ディアマンテさん、わしたちは、東岸の商人は話し合ったのじゃ。スークルの大祭にもかかわらず、真剣に。けんけんがくがくに。だから、今宵は評決を」
 とどめようとするディアマンテをディシュが制止する。
「東岸の商人すべてに問う。
 わしらは、明日からも、ちいさなか弱きひとりの少女を苦しめ、すがって生きるか?」
 庭はしんとした。
 だれひとりとして、手を挙げる者はなかった。
 それを見て、スコルは満足げに頷く。
「では、もう一方をすべての東岸の商人に問う。
 わしらは、明日からは、ちいさなか弱きひとりの少女を苦しめることなく、すがることなく生き、己の力で海に乗りだし、荒波を越え、嵐を越え、ミリーに笑顔が戻るまで、その天気予報を封印するか?」
 大歓声が庭にとどろく。
 商人たちは、だれもが両手を挙げ、互いに励ますように頷き会う。
「評決は下った。ミリーの天気予報は封印する」
 スコルが壇上から降りると、ディアマンテは震えを隠しきれなかった。
「スコルさん……」
「商人にとって評決は神聖じゃ。ディアマンテさん。今日のスピーチはすばらしかった」
 ぽんぽんと肩をたたくとディアマンテは頭を下げた。
「ありがとうございます」
 代わってディシュが壇上に上がる。
 興奮冷めやらぬ商人たちを見つめて、頬を紅潮させる。
「それでは、お披露目をさせて頂く」
 無造作にディシュは、二枚の肖像画にかけられた覆いを取り除く。
 おお、というどよめきと、得も言えぬためらいが庭を満たす。
 その一枚は、笑顔輝く昼のミリー。光彩豊かな庭を駆け回ってる。
 もう一枚は、悪夢にうめく夜のミリー。真っ暗な寝室で一匹の蛾に生気を吸われている。
 ディシュは、声をからした。
「みなさんが蛾ではないことは、明らかだ。
 しかし、幼い少女には蝶でさえ、ときに蛾に見えてしまう。
 悪夢とはそのようなもので、蛾などほんの一握りなのにすべてが蛾に見えてしまう。
 だからみなさん、どうかお願いする。
 ミリーが、みなさんが蝶であると気づけるようになるまで。
 みなさんとうまくつながることができるようになるまで。
 どうか、ミリーが元気になれるよう、スークルさまに祈って欲しい!」
 歓声は沸かなかった。
 しかし、商人たちはそれを胸に刻み、だれもが無言で頷いた。

 浮遊船パオペラが浮上をはじめると、甲板の上客は歓声を上げた。
 だれもが、生まれてはじめてみる、サディスの上空からの夜景にうっとりと酔いしれる。
 聖堂に集う灯火と祈りの歌。
 大祭の空気ににぎやかな嬌声を響かせる、酒場の灯り。
 閑静に、ひそやかに神聖な日を家族と過ごす、家々の明かり。
 そういったスークルの大祭の夜が、だれもの目の前に広がる。
 パオペラが旋回をはじめると、サディスの野山に野火が放たれ、それが壮大なエレミア山脈の山麓を焼いていく。
 ゴーンと、聖堂の鐘がなると、スークルを称える声があちこちから聞こえ、そして、おそらく花束の最後の残りが宙を埋め尽くしたはずだ。
 そんな光景に、イコウは想いを巡らし、ただただ見つめるだけの常客たちを見る。
「ミリーちゃん?」
 ジョゼフと一緒にそれを眺めるミリーにイコウは声をかける。
「風が強くなってきたら、中に入らないか?」
 ジョゼフとミリーは顔を見合わす。
「お月様をみていたの」
 ミリーが上空の月を指す。見ると、流れの速い雲がその月を覆い隠そうとし、それを見るミリーの表情がかげっていく。
「みなさん! 船内に降りてください! ちょっと雲の上まで出ます! それに風が!」
 だれもがそのイコウの提案に従い、船内へと入る。
 最後の上客が甲板から消えたのを確認して、イコウは船内に戻ってくる。
 しかし、そこでもだれもが窓により、飽きずに景色を眺める。
 イコウは思わず笑ってしまう。
「はじめてだからよ」
 シャリーが、微笑ましげにそれを見つめる。
 イコウは、それならと張り切り、水晶玉に指示を出す。
「パオペラ上昇、雲の上に」

 上空の雲は思いがけなく高く、イコウはなかなか雲の上に出ないのにはらはらする。
 それでも、雲の層をつっきると、遮るもののない月が煌々と輝いた。
 ミリーははじめて見るその上空の光景におどろき、言葉もなく立ち尽くす。
「すごいね、ジョゼフ」
「お嬢様。すてきです」
 ジョゼフもそれを見つめる。
 とうとつにミリーが咳き込み、ジョゼフはあわてる。
 ミリーはごほごほと咳をし、それから床に両手をつく。
 ロットがあわてて、イコウにささやく。
「上昇しすぎだ。雲の上は空気が薄いんだ。慣れない者にこの空気を長く吸わせては」
 イコウはしまったと、水晶玉に指示を出しに走る。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
 ジョゼフに背中をさすられながら、ミリーがまぶたを開くと、その手をついた床に、いっぴきの蛾が、弱っているのを見つける。
「お嬢様?」
 ミリーがふしぎそうにそれを見つめ手の中に包み込む。
「蛾ですか? お嬢様?」
 ロットとシャリーがやって来て、ミリーの手の中を覗く。
「あー、イコウ、倉庫の掃除サボってたでしょう」
 シャリーは、水晶玉に指示をするイコウを怒る。
 なおもふしぎそうにするミリーにロットが言った。
「空気が薄いから弱っているんですよ。下に戻って正常な空気を吸えばすぐに元気になります」
 ミリーがきょとんとしてロットに聞く。
「それって、ミリーも一緒だね? 空気が吸えてなかったんだね?」
「え? ええ、ああ、まあ、おそらく」
 パオペラは下降をはじめ、そしてやがて元の庭に戻ってくる。
 上客は下船をはじめ、ミリーはジョゼフに支えられながら降りてくる。
 ミリーは、両手の中の蛾をそっと放す。
 蛾はふらふらと飛び、ふわふわと風をとらえようとする。
 ミリーはあわててそれを追いかけ、商人たちの間を、必死に走っていく。
「ミリー、どこへ行くんだ!」
 ディアマンテが叫び、駆けていって、その手首を掴む。
 ミリーは蛾が夜空に飛んでいくのを見上げ、ぽつりと呟いた。
「いっちゃった」

 - バッド・エンディング -

「ミリーの天気予報」

  writer -- hikali





171


「ディシュさーん!」
 翌朝、元気いっぱいのイコウの声を聞いて、旅装のディシュは振り返る。
 イコウだけでなく、シャリー、ロット、リオネと、パオペラの面々が走ってくるのをみて、ディシュは微笑む。
「もうでちゃうの? ろくに話もしてないんじゃない? 家族と」
「ええ、でも、早く師匠に報告しないと」
 タリファの工房へ戻り、ディシュはしばらくサディスに滞在すると告げに行くという。
 そのしばらくがどれぐらいになるのか?
 数月なのか、半年なのか、数年なのか。
 しかし、イコウには分かる気がした。
 ディシュは、おそらくその後、旅立ち、世界中を旅する画家になる。
 その工房からの巣立ちの第一歩を踏み出す決意をしたことを、師匠に告げに行くのだと思う。
 イコウたちも、今日の昼にはサディスを旅立ち、念願のシャビへと向かう。
 次にあえるのは、いったいいつになるのか、それはまったく見当もつかないのだ。
「もうしばらく、あえないね? ディシュさん」
「いえいえ、それでは困ります。わたしはあなたたちを描く約束したのですから」
 え? と戸惑う面々を見ながら、ディシュはいたずらっぽく笑う。
「ひとつ聞きたいことがあるのですが?」
 ロットが切り出すのに、なるほど、とディシュは頷く。

「ぼくが不思議に思ったのは、なぜディシュさんの顔を見ても、ディアマンテさんはディシュさんを息子だと分からなかったのか、ということなのです。でも、分かりました」
 ディシュは、玄関ホールの家族の肖像画の前に立ち、踏み台の上で、その絵を見る。
 その油彩の細かな部分に見当をつけながら、ディシュは画材道具を握った。
「そうなんです。海の男は肖像画で息子の顔を覚えている。息子の方も同じように父の顔を肖像画で覚える。この絵は、私の師匠が、当時東岸一の肖像画家といわれた師匠の絵で、今の私が言うのもなんですが、なかなかのできばえの肖像画です」
 見当をつけたのか、ディシュは金属のへらを握る。
「しかし、ちょこっとだけへたくそな部分が」
 にっこりと笑うディシュにイコウは首を傾げるが、ロットははっとして言った。
「わかった! ディシュさんが描き換えたんだ!」
「ご名答。これでも、それなりにうまかったんですよ、わたし」
 ディシュはそのへらで丹念に油彩の絵の具をはがしていく。
「師匠のところへ転がり込んで、そのまま弟子にしてくれるほど、この世界は甘い世界ではありません。有名になったらすぐにばれるぞ、それでいいのか、そう師匠は言ったんです。私の答えはこうでした。肖像画の絵を描き換えた。だから父はぜったいにぼくのことに気付かないって」
 イコウは目の前でいたずらっぽく笑うディシュが少年のように見えてくる。
 徐々にはげていく絵を、いとおしく見つめながらディシュは述懐する。
「それで師匠が確かめに行ったんです。なんて言い訳したのかは知りませんが、帰ってきて私の両肩を掴んでいったんです。へたくそだけど、お前には見込みがあるって」
 楽しそうに笑う。
「まんまと、弟子入り試験に合格したのがこの絵で、もうはがしてしまいますが、思い出の一枚なのです」
 ディシュの手によって、徐々に偽りの息子の顔がはがれていき、少年の頃のディシュの顔が現れてくるのをだれもが魔法でも見るように見る。
 ディシュはそれをはがしきり、絵筆を握って、ちょんちょんと軽く修復をする。
 それからその顔を、感慨深そうに眺めて、おかしそうに笑った。
「おかえり、ディシュ」
 ディシュは、にっこりと笑って振り返る。
「そのうち気付くでしょう」

                    ※

「こら! プキット! おとなしくしなさい! こら、はは」
 イコウたちは、サンルーフに飛び込んできた子犬を見つめ、その冬の日差しにぽかぽかしながらしっぽを振るのを、あぜんとして見つめる。
「子犬、飼うことにしたんです」
 恥ずかしげに言うジョゼフに、イコウはああと生返事をし、それからまぶしい笑顔を浮かべる少女の姿を見つめた。
 遊覧飛行から、半年が経っていた。
 数多くの冒険を終え、報告にやって来たイコウは、そのまぶしさに見とれる。
 じぶんたちも一回りも二回りも大きくなった気がするのに、それさえもかすんでしまいそうなまぶしさ。
「元気になったでしょう? ミリー」
 ジョゼフの言葉に、リオネが呟く。
「まあねぇ、女の子ってあっという間に代わるからねぇ」
 庭をもういっぴきの子犬と駆け回っていたミリーがサンルーフへと飛び込んでくる。
 その嬉々とした表情がイコウたちを見つけて、まばゆく微笑む。
「あー、帰ってきたんだ。イコウさんたち!」
「ああ、帰ってきたよ」
 ミリーはスカートをたくし上げ、くつをぽいぽいと投げ捨て、どんと両足をついて、へへーと笑う。
 シャリーの手を握る。
「元気だった? シャリー。会いたかったよ。あのときだけだもん、シャリーとわたし元気だったの。ねえ、時間ある? すてきなお店を見つけたの。食事したら、一緒にみにいかない?」
「あ、う、うん」
 シャリーは照れたように笑う。
「元気になったね、ミリーちゃん」
「あー、シャリー、ちゃんはやめてよ。わたしこれでもレディーなんだから」
 ぷんと鼻をあげてミリーは生意気にそっぽを向く。
 それから、リオネをまじまじと見つめ、それからにっこりと笑う。
「すごいね、リオネって。あのときリオネが一喝したの、わたし聞いてたんだ」
「あ、ああ、そうなんだ」
 ミリーは、胸に手をあてて、両目をつぶる。
「あのときね、必死になって思っていたの。リオネ、ありがとう。わたしの味方してくれるんだ。ジョゼフだけじゃないんだって。それで心強かった」
「そう」
 きょとんとしていたリオネにも笑顔が広がる。
「ミリーの天気予報は、毎日30分だけ行うことにしたんです。それでぼくは、ミリーのお供をすることが多くなって」
「あー、ジョゼフ、お供なんて言わないで。デートよ、デート」
 むきになるミリーに、思わず4人に笑いが広がる。
 ミリーは最後にロットの笑顔をおそるおそる見て、ジョゼフの手を握る。
「ど、どうしたの?」
 ロットが首を傾げるのに、ミリーは言う。
「え、だって、こんなすてきな人みるのはじめてだから」
 あ、ああ、とことなげに呟くロットをイコウは肘でつつく。
「まったく、これでどれだけの女の子を泣かせてきたか」
「それはあっちが勝手に追いかけてくるんだよ」
「あー、それひどい! ロットがその気にさせちゃうんでしょ?」
 照れるロットに、だれもが笑う。
「でもね、お父さんやジョゼフに聞いた。ありがとうロット」
「ううん、当たり前のことをしただけだよ」
 ミリーはくすくすと笑う。
「そうやって、女の子を虜にするんだ。あ、そうだ、今日お兄ちゃん帰ってくるよ? お父さんも張り切ってたから、今日の夕食はきっと豪華だね、ね、ジョゼフ?」
 めまぐるしいミリーを見ながら、イコウはふっと微笑んだ。
「そうだミリーちゃん、報告する約束だったよね。たくさん話したいことがあるんだ」
 ミリーの笑顔が突然曇り、そしてぼろぼろと涙を流しはじめる。
 ミリーはそっと呟いた。
「ありがとう、イコウ。ありがとう、みんな」





172


「ディシュさーん!」
 翌朝、元気いっぱいのイコウの声を聞いて、旅装のディシュは振り返る。
 イコウだけでなく、シャリー、ロット、リオネと、パオペラの面々が走ってくるのをみて、ディシュは微笑む。
「もうでちゃうの? ろくに話もしてないんじゃない? 家族と」
「ええ、でも、早く師匠に報告しないと」
 タリファの工房へ戻り、ディシュはしばらくサディスに滞在すると告げに行くという。
 そのしばらくがどれぐらいになるのか?
 数月なのか、半年なのか、数年なのか。
 しかし、イコウには分かる気がした。
 ディシュは、おそらくその後、旅立ち、世界中を旅する画家になる。
 その工房からの巣立ちの第一歩を踏み出す決意をしたことを、師匠に告げに行くのだと思う。
 イコウたちも、今日の昼にはサディスを旅立ち、念願のシャビへと向かう。
 次にあえるのは、いったいいつになるのか、それはまったく見当もつかないのだ。
「もうしばらく、あえないね? ディシュさん」
「いえいえ、それでは困ります。わたしはあなたたちを描く約束したのですから」
 え? と戸惑う面々を見ながら、ディシュはいたずらっぽく笑う。
「ひとつ聞きたいことがあるのですが?」
 ロットが切り出すのに、なるほど、とディシュは頷く。

「ぼくが不思議に思ったのは、なぜディシュさんの顔を見ても、ディアマンテさんはディシュさんを息子だと分からなかったのか、ということなのです。でも、分かりました」
 ディシュは、玄関ホールの家族の肖像画の前に立ち、踏み台の上で、その絵を見る。
 その油彩の細かな部分に見当をつけながら、ディシュは画材道具を握った。
「そうなんです。海の男は肖像画で息子の顔を覚えている。息子の方も同じように父の顔を肖像画で覚える。この絵は、私の師匠が、当時東岸一の肖像画家といわれた師匠の絵で、今の私が言うのもなんですが、なかなかのできばえの肖像画です」
 見当をつけたのか、ディシュは金属のへらを握る。
「しかし、ちょこっとだけへたくそな部分が」
 にっこりと笑うディシュにイコウは首を傾げるが、ロットははっとして言った。
「わかった! ディシュさんが描き換えたんだ!」
「ご名答。これでも、それなりにうまかったんですよ、わたし」
 ディシュはそのへらで丹念に油彩の絵の具をはがしていく。
「師匠のところへ転がり込んで、そのまま弟子にしてくれるほど、この世界は甘い世界ではありません。有名になったらすぐにばれるぞ、それでいいのか、そう師匠は言ったんです。私の答えはこうでした。肖像画の絵を描き換えた。だから父はぜったいにぼくのことに気付かないって」
 イコウは目の前でいたずらっぽく笑うディシュが少年のように見えてくる。
 徐々にはげていく絵を、いとおしく見つめながらディシュは述懐する。
「それで師匠が確かめに行ったんです。なんて言い訳したのかは知りませんが、帰ってきて私の両肩を掴んでいったんです。へたくそだけど、お前には見込みがあるって」
 楽しそうに笑う。
「まんまと、弟子入り試験に合格したのがこの絵で、もうはがしてしまいますが、思い出の一枚なのです」
 ディシュの手によって、徐々に偽りの息子の顔がはがれていき、少年の頃のディシュの顔が現れてくるのをだれもが魔法でも見るように見る。
 ディシュはそれをはがしきり、絵筆を握って、ちょんちょんと軽く修復をする。
 それからその顔を、感慨深そうに眺めて、おかしそうに笑った。
「おかえり、ディシュ」
 ディシュは、にっこりと笑って振り返る。
「そのうち気付くでしょう」

                    ※

「こら! プキット! おとなしくしなさい! こら、はは」
 イコウたちは、サンルーフに飛び込んできた子犬を見つめ、その冬の日差しにぽかぽかしながらしっぽを振るのを、あぜんとして見つめる。
「子犬、飼うことにしたんです」
 恥ずかしげに言うジョゼフに、イコウはああと生返事をし、それからまぶしい笑顔を浮かべる少女の姿を見つめた。
 遊覧飛行から、半年が経っていた。
 数多くの冒険を終え、報告にやって来たイコウは、そのまぶしさに見とれる。
 じぶんたちも一回りも二回りも大きくなった気がするのに、それさえもかすんでしまいそうなまぶしさ。
「元気になったでしょう? ミリー」
 ジョゼフの言葉に、リオネが呟く。
「まあねぇ、女の子ってあっという間に代わるからねぇ」
 庭をもういっぴきの子犬と駆け回っていたミリーがサンルーフへと飛び込んでくる。
 その嬉々とした表情がイコウたちを見つけて、まばゆく微笑む。
「あー、帰ってきたんだ。イコウさんたち!」
「ああ、帰ってきたよ」
 ミリーはスカートをたくし上げ、くつをぽいぽいと投げ捨て、どんと両足をついて、へへーと笑う。
 シャリーの手を握る。
「元気だった? シャリー。会いたかったよ。あのときだけだもん、シャリーとわたし元気だったの。ねえ、時間ある? すてきなお店を見つけたの。食事したら、一緒にみにいかない?」
「あ、う、うん」
 シャリーは照れたように笑う。
「元気になったね、ミリーちゃん」
「あー、シャリー、ちゃんはやめてよ。わたしこれでもレディーなんだから」
 ぷんと鼻をあげてミリーは生意気にそっぽを向く。
 それから、リオネをまじまじと見つめ、それからにっこりと笑う。
「すごいね、リオネって。あのときリオネが一喝したの、わたし聞いてたんだ」
「あ、ああ、そうなんだ」
 ミリーは、胸に手をあてて、両目をつぶる。
「あのときね、必死になって思っていたの。リオネ、ありがとう。わたしの味方してくれるんだ。ジョゼフだけじゃないんだって。それで心強かった」
「そう」
 きょとんとしていたリオネにも笑顔が広がる。
「ミリーの天気予報は、毎日30分だけ行うことにしたんです。それでぼくは、ミリーのお供をすることが多くなって」
「あー、ジョゼフ、お供なんて言わないで。デートよ、デート」
 むきになるミリーに、思わず4人に笑いが広がる。
 ミリーは最後にロットの笑顔をおそるおそる見て、ジョゼフの手を握る。
「ど、どうしたの?」
 ロットが首を傾げるのに、ミリーは言う。
「え、だって、こんなすてきな人みるのはじめてだから」
 あ、ああ、とことなげに呟くロットをイコウは肘でつつく。
「まったく、これでどれだけの女の子を泣かせてきたか」
「それはあっちが勝手に追いかけてくるんだよ」
「あー、それひどい! ロットがその気にさせちゃうんでしょ?」
 照れるロットに、だれもが笑う。
「でもね、お父さんやジョゼフに聞いた。ありがとうロット」
「ううん、当たり前のことをしただけだよ」
 ミリーはくすくすと笑う。
「そうやって、女の子を虜にするんだ。あ、そうだ、今日お兄ちゃん帰ってくるよ? お父さんも張り切ってたから、今日の夕食はきっと豪華だね、ね、ジョゼフ?」
 めまぐるしいミリーを見ながら、イコウはふっと微笑んだ。
「そうだミリーちゃん、報告する約束だったよね。たくさん話したいことがあるんだ」
 ミリーの笑顔が突然曇り、そしてぼろぼろと涙を流しはじめる。
 ミリーはそっと呟いた。
「ありがとう、イコウ。ありがとう、みんな」





173


「ディシュさーん!」
 翌朝、元気いっぱいのイコウの声を聞いて、旅装のディシュは振り返る。
 イコウだけでなく、シャリー、ロット、リオネと、パオペラの面々が走ってくるのをみて、ディシュは微笑む。
「もうでちゃうの? ろくに話もしてないんじゃない?」
「ええ、でも、早く師匠に報告しないと」
 タリファの工房へ戻り、ディシュはしばらくサディスに滞在すると告げに行くという。
 そのしばらくがどれぐらいになるのか?
 数月なのか、半年なのか、数年なのか。
 しかし、イコウには分かる気がした。
 ディシュは、おそらくその後、旅立ち、世界中を旅する画家になる。
 その工房からの巣立ちの第一歩を踏み出す決意をしたことを、師匠に告げに行くのだと思う。
 イコウたちも、今日の昼にはサディスを旅立ち、念願のシャビへと向かう。
 次にあえるのは、いったいいつになるのか、それはまったく見当もつかないのだ。
「もうしばらく、あえないね? ディシュさん」
「いえいえ、それでは困ります。わたしはあなたたちを描く約束したのですから」
 え? と戸惑う面々を見ながら、ディシュはいたずらっぽく笑う。
「ひとつ聞きたいことがあるのですが?」
 ロットが切り出すのに、なるほど、とディシュは頷く。

「ぼくが不思議に思ったのは、なぜディシュさんの顔を見ても、ディアマンテさんはディシュさんを息子だと分からなかったのか、ということなのです。でも、分かりました」
 ディシュは、玄関ホールの家族の肖像画の前に立ち、踏み台の上で、その絵を見る。
 その油彩の細かな部分に見当をつけながら、ディシュは画材道具を握った。
「そうなんです。海の男は肖像画で息子の顔を覚えている。息子の方も同じように父の顔を肖像画で覚える。この絵は、私の師匠が、当時東岸一の肖像画家といわれた師匠の絵で、今の私が言うのもなんですが、なかなかのできばえの肖像画です」
 見当をつけたのか、ディシュは金属のへらを握る。
「しかし、ちょこっとだけへたくそな部分が」
 にっこりと笑うディシュにイコウは首を傾げるが、ロットははっとして言った。
「わかった! ディシュさんが描き換えたんだ!」
「ご名答。これでも、それなりにうまかったんですよ、わたし」
 ディシュはそのへらで丹念に油彩の絵の具をはがしていく。
「師匠のところへ転がり込んで、そのまま弟子にしてくれるほど、この世界は甘い世界ではありません。有名になったらすぐにばれるぞ、それでいいのか、そう師匠は言ったんです。私の答えはこうでした。肖像画の絵を描き換えた。だから父はぜったいにぼくのことに気付かないって」
 未だに気付いていないのかも知れませんが、と呟く。
 イコウは目の前でいたずらっぽく笑うディシュが少年のように見えてくる。
 徐々にはげていく絵を、いとおしく見つめながらディシュは述懐する。
「それで師匠が確かめに行ったんです。なんて言い訳したのかは知りませんが、帰ってきて私の両肩を掴んでいったんです。へたくそだけど、お前には見込みがあるって」
 楽しそうに笑う。
「まんまんと、弟子入り試験に合格したのがこの絵で、もうはがしてしまいますが、思い出の一枚なのです」
 ディシュの手によって、徐々に偽りの息子の顔がはがれていき、少年の頃のディシュの顔が現れてくるのをだれもが魔法でも見るように見る。
 ディシュはそれをはがしきり、絵筆を握って、ちょんちょんと軽く修復をする。
 それからその顔を、感慨深そうに眺めて、おかしそうに笑った。
「まだ、ここにいたんだ、ディシュ」
 ディシュは、にっこりと笑って振り返り、油彩の筆を握ってその上にまた別の顔を描き始める。
「ちょっとずつ似ていくようにしましょうか? どこで気付くか、楽しみなんです」

                    ※

 イコウはミリーの寝室に通されて、その笑顔を浮かべる少女を見つめる。
「イコウ! 来てくれたのね。ミリー、とても嬉しい」
 多少ぎこちない笑顔を浮かべ、ミリーはそれでもけなげに微笑む。
 遊覧飛行から、半年が経っていた。
 数多くの冒険を終え、報告にやって来たイコウは、その姿に安心する。
 じぶんたちも一回りも二回りも大きくなった気がするのだが、同じようにミリーがよくなっているのが分かって、ほっとするのだった。
「だいぶ元気になられました」
 ジョゼフが優しい視線をミリーに向ける。
 それにミリーは微笑み返す。
「シャリー、わたし、そろそろ、またサディスに出たいと思っているの。もしよかったら、一緒に来てくれないかな? ひとりだと不安で」
 シャリーは微笑んで頷く。
「もちろん」
 それから視線がリオネにむく。
「リオネさんってすごい方なんですね。あの怒鳴ったとき、わたし聞いていました」
「あ? ああ、あのとき」
 ミリーは、胸に手をあてて、両目をつぶる。
「あのときね、必死になって思っていたんです。リオネさん、ありがとう。わたしの味方してくれるんだ。ジョゼフだけじゃないんだって。それで心強かったんです」
「そう」
 きょとんとしていたリオネにも笑顔が広がる。
「ミリーの天気予報は、毎日30分だけ行うことにしたんです」
 ミリーは最後にロットの笑顔をおそるおそる見て、ジョゼフの手を握る。
「ど、どうしたの?」
 ロットが首を傾げるのに、ミリーは言う。
「ロットさんって、よくみるとすてきだから……」
 あ、ああ、とことなげに呟くロットをイコウは肘でつつく。
「まったく、これでどれだけの女の子を泣かせてきたか」
「それはあっちが勝手に追いかけてくるんだよ」
 ミリーは微笑む。
 照れるロットに、だれもが笑う。
「でもね、お父さんやジョゼフに聞きました。ありがとうロットさん」
「ううん、当たり前のことをしただけだよ」
 ミリーはくすくすと笑った。
「それで惚れてしまうんですね」
 イコウはふっと微笑んだ。
「そうだミリーちゃん、報告する約束だったよね。たくさん話したいことがあるんだ」
 ミリーの笑顔が突然曇り、そしてぼろぼろと涙を流しはじめる。
 ミリーはそっと呟いた。
「ありがとう、イコウ。ありがとう、みんな」





174


 イコウはミリーの寝室に通されて、すこし笑う少女を見つめる。
「イコウ」
 表情の少ない、ミリーはそれでもけなげに微笑む。
 遊覧飛行から、半年が経っていた。
 数多くの冒険を終え、報告にやって来たイコウは、その姿を心配そうに見つめる。
 じぶんたちは一回りも二回りも大きくなった気がするのだが、ミリーはそれほど変わっていない。深い深い傷が癒えるには、長い時間が必要なのだ。
「今日はお加減がよろしいですね」
 ジョゼフが優しい視線をミリーに向ける。
 それにミリーは微笑み返す。
「シャリー、わたしすこし元気になれた。それはシャリーのおかげ」
 シャリーは心配そうに頷く。
「うん」
 それから視線がリオネにむく。
「リオネさん、ありがとう。あの怒鳴ったとき、わたし聞いていました」
「あ? ああ、あのとき」
 ミリーは、胸に手をあてて、両目をつぶる。
「あのとき、必死になって思った。わたしの味方してくれるんだ。ジョゼフだけじゃないんだって。それで心強かったんです」
「そう」
 きょとんとしていたリオネにも心配さが広がる。
「ミリーの天気予報は、毎日30分だけ行うことにしたんです」
 ミリーは最後にロットの笑顔をおそるおそる見て、ジョゼフの手を握る。
「ど、どうしたの?」
 ロットが首を傾げるのに、ミリーは言う。
「ロットさんって、よくみるとすてきですね……」
 あ、ああ、とことなげに呟くロットをイコウは肘でつつく。
「まったく、これでどれだけの女の子を泣かせてきたか」
「それはあっちが勝手に追いかけてくるんだよ」
 ミリーは微笑む。
 照れるロットに、だれもが笑う。
「でお父さんやジョゼフに聞きました。ありがとうロットさん」
「ううん、当たり前のことをしただけだよ」
 ミリーはよわよわしく笑う。
「それで惚れてしまうんですね」
 イコウはふっと微笑んだ。
「そうだミリーちゃん、報告する約束だったよね。たくさん話したいことがあるんだ」
 ミリーの笑顔が突然曇り、そしてぼろぼろと涙を流しはじめる。
 ミリーはそっと呟いた。
「ありがとう、イコウ。ありがとう、みんな」





175


「こら! プキット! おとなしくしなさい! こら、はは」
 イコウたちは、サンルーフに飛び込んできた子犬を見つめ、その冬の日差しにぽかぽかしながらしっぽを振るのを、あぜんとして見つめる。
「子犬、飼うことにしたんです」
 恥ずかしげに言うジョゼフに、イコウはああと生返事をし、それからまぶしい笑顔を浮かべる少女の姿を見つめた。
 遊覧飛行から、半年が経っていた。
 数多くの冒険を終え、報告にやって来たイコウは、そのまぶしさに見とれる。
 じぶんたちも一回りも二回りも大きくなった気がするのに、それさえもかすんでしまいそうなまぶしさ。
「元気になったでしょう? ミリー」
 ジョゼフの言葉に、リオネが呟く。
「まあねぇ、女の子ってあっという間に代わるからねぇ」
 庭をもういっぴきの子犬と駆け回っていたミリーがサンルーフへと飛び込んでくる。
 その嬉々とした表情がイコウたちを見つけて、まばゆく微笑む。
「あー、帰ってきたんだ。イコウさんたち!」
「ああ、帰ってきたよ」
 ミリーはスカートをたくし上げ、くつをぽいぽいと投げ捨て、どんと両足をついて、へへーと笑う。
 シャリーの手を握る。
「元気だった? シャリー。会いたかったよ。あのときだけだもん、シャリーとわたし元気だったの。ねえ、時間ある? すてきなお店を見つけたの。食事したら、一緒にみにいかない?」
「あ、う、うん」
 シャリーは照れたように笑う。
「元気になったね、ミリーちゃん」
「あー、シャリー、ちゃんはやめてよ。わたしこれでもレディーなんだから」
 ぷんと鼻をあげてミリーは生意気にそっぽを向く。
 それから、リオネをまじまじと見つめ、それからにっこりと笑う。
「すごいね、リオネって。あのときリオネが一喝したの、わたし聞いてたんだ」
「あ、ああ、そうなんだ」
 ミリーは、胸に手をあてて、両目をつぶる。
「あのときね、必死になって思っていたの。リオネ、ありがとう。わたしの味方してくれるんだ。ジョゼフだけじゃないんだって。それで心強かった」
「そう」
 きょとんとしていたリオネにも笑顔が広がる。
「ミリーの天気予報は、毎日30分だけ行うことにしたんです。それでぼくは、ミリーのお供をすることが多くなって」
「あー、ジョゼフ、お供なんて言わないで。デートよ、デート」
 むきになるミリーに、思わず4人に笑いが広がる。
 ミリーは最後にロットの笑顔をおそるおそる見て、ジョゼフの手を握る。
「ど、どうしたの?」
 ロットが首を傾げるのに、ミリーは言う。
「え、だって、こんなすてきな人みるのはじめてだから」
 あ、ああ、とことなげに呟くロットをイコウは肘でつつく。
「まったく、これでどれだけの女の子を泣かせてきたか」
「それはあっちが勝手に追いかけてくるんだよ」
「あー、それひどい! ロットがその気にさせちゃうんでしょ?」
 照れるロットに、だれもが笑う。
「でもね、お父さんやジョゼフに聞いた。ありがとうロット」
「ううん、当たり前のことをしただけだよ」
 ミリーはくすくすと笑う。
「そうやって、女の子を虜にするんだ。あ、そうだ、今日お兄ちゃん帰ってくるよ? お父さんも張り切ってたから、今日の夕食はきっと豪華だね、ね、ジョゼフ?」
 めまぐるしいミリーを見ながら、イコウはふっと微笑んだ。
「そうだミリーちゃん、報告する約束だったよね。たくさん話したいことがあるんだ」
 ミリーの笑顔が突然曇り、そしてぼろぼろと涙を流しはじめる。
 ミリーはそっと呟いた。
「ありがとう、イコウ。ありがとう、みんな」





176


「こら! プキット! おとなしくしなさい! こら、はは」
 イコウたちは、サンルーフに飛び込んできた子犬を見つめ、その冬の日差しにぽかぽかしながらしっぽを振るのを、あぜんとして見つめる。
「子犬、飼うことにしたんです」
 恥ずかしげに言うジョゼフに、イコウはああと生返事をし、それからまぶしい笑顔を浮かべる少女の姿を見つめた。
 遊覧飛行から、半年が経っていた。
 数多くの冒険を終え、報告にやって来たイコウは、そのまぶしさに見とれる。
 じぶんたちも一回りも二回りも大きくなった気がするのに、それさえもかすんでしまいそうなまぶしさ。
「元気になったでしょう? ミリー」
 ジョゼフの言葉に、リオネが呟く。
「まあねぇ、女の子ってあっという間に代わるからねぇ」
 庭をもういっぴきの子犬と駆け回っていたミリーがサンルーフへと飛び込んでくる。
 その嬉々とした表情がイコウたちを見つけて、まばゆく微笑む。
「あー、帰ってきたんだ。イコウさんたち!」
「ああ、帰ってきたよ」
 ミリーはスカートをたくし上げ、くつをぽいぽいと投げ捨て、どんと両足をついて、へへーと笑う。
 シャリーの手を握る。
「元気だった? シャリー。会いたかったよ。あのときだけだもん、シャリーとわたし元気だったの。ねえ、時間ある? すてきなお店を見つけたの。食事したら、一緒にみにいかない?」
「あ、う、うん」
 シャリーは照れたように笑う。
「元気になったね、ミリーちゃん」
「あー、シャリー、ちゃんはやめてよ。わたしこれでもレディーなんだから」
 ぷんと鼻をあげてミリーは生意気にそっぽを向く。
 それから、リオネをまじまじと見つめ、それからにっこりと笑う。
「すごいね、リオネって。あのときリオネが一喝したの、わたし聞いてたんだ」
「あ、ああ、そうなんだ」
 ミリーは、胸に手をあてて、両目をつぶる。
「あのときね、必死になって思っていたの。リオネ、ありがとう。わたしの味方してくれるんだ。ジョゼフだけじゃないんだって。それで心強かった」
「そう」
 きょとんとしていたリオネにも笑顔が広がる。
「ミリーの天気予報は、毎日30分だけ行うことにしたんです。それでぼくは、ミリーのお供をすることが多くなって」
「あー、ジョゼフ、お供なんて言わないで。デートよ、デート」
 むきになるミリーに、思わず4人に笑いが広がる。
 ミリーは最後にロットの笑顔をおそるおそる見て、ジョゼフの手を握る。
「ど、どうしたの?」
 ロットが首を傾げるのに、ミリーは言う。
「え、だって、こんなすてきな人みるのはじめてだから」
 あ、ああ、とことなげに呟くロットをイコウは肘でつつく。
「まったく、これでどれだけの女の子を泣かせてきたか」
「それはあっちが勝手に追いかけてくるんだよ」
「あー、それひどい! ロットがその気にさせちゃうんでしょ?」
 照れるロットに、だれもが笑う。
「でもね、お父さんやジョゼフに聞いた。ありがとうロット」
「ううん、当たり前のことをしただけだよ」
 ミリーはくすくすと笑う。
「そうやって、女の子を虜にするんだ。あ、そうだ、今日お兄ちゃん帰ってくるよ? お父さんも張り切ってたから、今日の夕食はきっと豪華だね、ね、ジョゼフ?」
 めまぐるしいミリーを見ながら、イコウはふっと微笑んだ。
「そうだミリーちゃん、報告する約束だったよね。たくさん話したいことがあるんだ」
 ミリーの笑顔が突然曇り、そしてぼろぼろと涙を流しはじめる。
 ミリーはそっと呟いた。
「ありがとう、イコウ。ありがとう、みんな」





177


 イコウはミリーの寝室に通されて、その笑顔を浮かべる少女を見つめる。
「イコウ! 来てくれたのね。ミリー、とても嬉しい」
 多少ぎこちない笑顔を浮かべ、ミリーはそれでもけなげに微笑む。
 遊覧飛行から、半年が経っていた。
 数多くの冒険を終え、報告にやって来たイコウは、その姿に安心する。
 じぶんたちも一回りも二回りも大きくなった気がするのだが、同じようにミリーがよくなっているのが分かって、ほっとするのだった。
「だいぶ元気になられました」
 ジョゼフが優しい視線をミリーに向ける。
 それにミリーは微笑み返す。
「シャリー、わたし、そろそろ、またサディスに出たいと思っているの。もしよかったら、一緒に来てくれないかな? ひとりだと不安で」
 シャリーは微笑んで頷く。
「もちろん」
 それから視線がリオネにむく。
「リオネさんってすごい方なんですね。あの怒鳴ったとき、わたし聞いていました」
「あ? ああ、あのとき」
 ミリーは、胸に手をあてて、両目をつぶる。
「あのときね、必死になって思っていたんです。リオネさん、ありがとう。わたしの味方してくれるんだ。ジョゼフだけじゃないんだって。それで心強かったんです」
「そう」
 きょとんとしていたリオネにも笑顔が広がる。
「ミリーの天気予報は、毎日30分だけ行うことにしたんです」
 ミリーは最後にロットの笑顔をおそるおそる見て、ジョゼフの手を握る。
「ど、どうしたの?」
 ロットが首を傾げるのに、ミリーは言う。
「ロットさんって、よくみるとすてきだから……」
 あ、ああ、とことなげに呟くロットをイコウは肘でつつく。
「まったく、これでどれだけの女の子を泣かせてきたか」
「それはあっちが勝手に追いかけてくるんだよ」
 ミリーは微笑む。
 照れるロットに、だれもが笑う。
「でもね、お父さんやジョゼフに聞きました。ありがとうロットさん」
「ううん、当たり前のことをしただけだよ」
 ミリーはくすくすと笑った。
「それで惚れてしまうんですね」
 イコウはふっと微笑んだ。
「そうだミリーちゃん、報告する約束だったよね。たくさん話したいことがあるんだ」
 ミリーの笑顔が突然曇り、そしてぼろぼろと涙を流しはじめる。
 ミリーはそっと呟いた。
「ありがとう、イコウ。ありがとう、みんな」





178







179







180







181







182







183







184







185







186







187







188







189







190







191







192







193







194







195







196







197







198







199







200


「あちっ!」
「ば、ば、イコウったら!」
「いま、馬鹿って言おうとしただろ、シャリー」
「だって……」
 シャリーが揚げてきた小魚のフライに飛びついたイコウは、口に放り込んだフライの熱さに、思わず悲鳴を上げた。
「たく、イコウったら、馬鹿なんだから」
 あははとリオネが笑うのにむっとするが、ロットが落ち着いて柑橘の果汁を垂らすと、フライはジュッと音を立てる。
 ディアマンテの邸宅の3階に用意されたイコウとロットの部屋。
 浮遊船パオペラで旅する仲良し4人の水入らずで、すっかり誰もがいつもの4人に戻っていた。
 集まったのはリオネの持ってきた情報を元に、これからどうするかの作戦を立てるため。なにぶんミリーを取り巻く事情は、あまりにも立て込みすぎて、把握が難しい。
 頃合いをはかって、ロットが切り出す。
「リオネさん、そろそろ」
 小魚を口にくわえたリオネは、おっとそうかと、ベッドにどっと座る。
 それから、うんうん頷き、これから話そうとする事を確認する。
 リオネは、ぴんと指を立てた。
「パイプを持ってきたのはディシュ。いろいろ探ったけど、これは動かなそう」
 ロットはうーんと考え込む。
「じゃあ、ディシュさんがミリーちゃんの兄貴?」
「さあ?」
「さあって、リオネ聞いてきたんだろ?」
 イコウの言葉にリオネはむっとする。
「あたしは、パイプを持ち込んだのはディシュって、言っただけだ」
「そうだよ、イコウ。まだ決まった訳じゃない」
 冷静なロットに、イコウは考えを巡らす。
(パイプを持ち込んだのはディシュで、ディシュは兄ではない?)
 気付くと、ロットの視線がイコウを向いている。
「イコウ、今日いろいろあっただろう? それでなにか気付いたことはないかな?」
「あ、そうか。そうだな……」


  ■夕食のとき、シナモンが嫌いでディアマンテが反応してた。  201  【出現条件】:flag000*flag032  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんって、どこの出身なんですか? って聞いたらサディスだって。  202  【出現条件】:flag000*flag040  【消失条件】:
    
  ■「やめろ! ミリー!」って叫んだんだ。  203  【出現条件】:flag000*flag041*flag042*flag043  【消失条件】:
    
  ■「だって、お兄ちゃんみたいなんだもん! 優しくて!」ってミリーちゃんが。  204  【出現条件】:flag000*flag055  【消失条件】:
    
  ■「息子さんは、いまどこでなにをしているのでしょう?」って言ったら反応が。  205  【出現条件】:flag000*flag057  【消失条件】:
    
  ■「海の話に熱くなるとは。船乗りの血でも引いているのかね?」といわれたら反応が。  206  【出現条件】:flag000*flag061  【消失条件】:
    
  ■「わたしには、その資格がないのです。その資格があったのに、なにもかもわたしは捨て去ってしまったのですから」って言ってた  207  【出現条件】:flag000*flag090  【消失条件】:
    
  ■それぐらいかな  208  【出現条件】:  【消失条件】:
    



201


「そう言えば、ロットもリオネも見てたと思うけどさ、昨日の夕食で、ディアマンテさんが怪しい動きをしたじゃん」
「ああ、あのなんだっけ?」
 リオネが首を傾げるのに、ロットは言う。
「シナモンだね。シナモンはだめだっていったら、ディアマンテさんが取り乱した。たしかにあれは怪しかったかも」
「でも、わたしもシナモンだめかも……」
 シャリーが言うのに、イコウは言う。
「シャリーは感覚が鋭すぎるんだよ」
「うん……」
 リオネはその瞳を斜め上に向けながら考える。
「でもさ、その話、ディアマンテさんの裏、とらないと駄目だよね?」
「まあ、そうかな」
 ロットは考える。
「考慮しておこう。それよりも、イコウ? 他になにかなかったかな?」
「他にか……。うーん」


  ■ディシュさんって、どこの出身なんですか? って聞いたらサディスだって。  202  【出現条件】:flag000*flag040  【消失条件】:
    
  ■「わたしには、その資格がないのです。その資格があったのに、なにもかもわたしは捨て去ってしまったのですから」って言ってた  207  【出現条件】:flag000*flag090  【消失条件】:
    
  ■それぐらいかな  209  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag209  ディシュが兄かも



202


「あ、そうだ。ディシュさんって、出身サディスなんだよ。でも、ディシュさんって、ずっとサディスは初めてだって言ってただろ?」
 イコウの言葉に誰もがぽかんとする。
「え? なんか悪いこと言った?」
「あのさ、イコウ? 何でそれが分かるの?」
 リオネの言葉にきょとんとする。
「いや、ディシュさんがそう言ったから」
「イコウ、どうやって聞き出したの、それ?」
「どうって、普通に話していたら」
 くくくとロットが笑う。
「リオネさん。イコウはずっとこういう奴なんです。だからリオネさんもイコウを信頼しているのでしょう?」
「あ、あたしは、この船好きだから。イコウも、シャリーも、ロットも」
「じゃあ、信頼してください。仲間なんだから」
 リオネは顔を真っ赤にするが、その場にいることを許されている事は分かるようだった。
「分かったよ。慣れないんだ、こういうの」
「リオネさんが来てから楽しくなったの」
 心配そうにいうシャリーの頭をぐしゃぐしゃと掻き回して、リオネは笑う。
「分かってる。シャリー、がんばったよね」
「うん」
 イコウはぽかんとしていたが、咳払いをする。
「で、どうなんだ?」
「んー、それは確定的かも知れない」
 ロットの言葉にイコウは表情を輝かせる。
「そうか!」
「念のために他にないか、聞きたいんだけど」
「あ-、うーん……」


  ■「わたしには、その資格がないのです。その資格があったのに、なにもかもわたしは捨て去ってしまったのですから」って言ってた  207  【出現条件】:flag000*flag090  【消失条件】:
    
  ■それぐらいかな  210  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag210  ディシュが兄



203


「ミリーちゃんを喜ばせたときに、ミリーちゃんがはしゃいで、二階のテラスから飛び降りたんだ、飛べると思って、鳥の真似をして」
「ずいぶんにぎやかだねぇ」
「そうなんだよ。大変だったんだから。ミリーちゃん、ほんとは元気な子なんだよ、きっと。だからさ」
「イコウ、話がずれてる」
 ロットの言葉にイコウは慌てて続きを話す。
「それでさ、そのときにディシュさんが叫んだんだ。やめろ、ミリーって。なんかお兄さんような言い方だったんだよ」
「なるほど」
 ロットは腕を組んでうーんと悩む。
「でも、ずっと絵描いてたんでしょ? ディシュってさ。じゃあ、情も移るんじゃない?」
「そうかな?」
 いぶかしがるイコウに、ロットは言う。
「たしかにお兄さんっぽいと言うのは分かるけれど、決定打とは言い難いかな」
「たしかにね」
 イコウはうーんとなやむ。
「他にないかな? まだありそうだけど」
「そうだなぁ……」


  ■夕食のとき、シナモンが嫌いでディアマンテが反応してた。   201  【出現条件】:flag000*flag032  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんって、どこの出身なんですか? って聞いたらサディスだって。  202  【出現条件】:flag000*flag040  【消失条件】:
    
  ■「わたしには、その資格がないのです。その資格があったのに、なにもかもわたしは捨て去ってしまったのですから」って言ってた  207  【出現条件】:flag000*flag090  【消失条件】:
    
  ■それぐらいかな  209  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag209  ディシュが兄かも



204


「ミリーちゃんが言ってたな」
「なんて?」
 リオネが聞くのにイコウは答える。
「お兄ちゃんみたいなんだもん、優しくてって」
「あー、言ってた! イコウ、聞こえてたんだ」
 シャリーが目を丸くするのに、ロットはうーんと悩む。
「シャリーは見ていたのか?」
 シャリーはあごに指を当てて考える。
「あ、でも、あれは甘えていたんじゃないかなぁ。いないの。この邸宅に。ミリーちゃんが甘えられる人。それでディシュさんに」
「そ、そうなのか?」
「きっと、そう」
 確信を持って頷くシャリーを横目に見て、ロットは考える。
(シャリーの目はたしかだし)
「ミリーさんが兄と別れたのは3歳だ。記憶が残っていると思うか?」
「まあ、家庭の雰囲気が似てるってのはあるかもね」
 リオネが言うのに、ロットは言う。
「やはり、それは弱すぎる。イコウ、他になかったかな?」
「うーん……」


  ■「息子さんは、いまどこでなにをしているのでしょう?」って言ったら反応が。  205  【出現条件】:flag000*flag057  【消失条件】:
    
  ■「海の話に熱くなるとは。船乗りの血でも引いているのかね?」といわれたら反応が。   206  【出現条件】:flag000*flag061  【消失条件】:
    
  ■「やめろ! ミリー!」って叫んだんだ。  203  【出現条件】:flag000*flag041*flag042*flag043  【消失条件】:
    
  ■夕食のとき、シナモンが嫌いでディアマンテが反応してた。  201  【出現条件】:flag000*flag032  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんって、どこの出身なんですか? って聞いたらサディスだって。  202  【出現条件】:flag000*flag040  【消失条件】:
    
  ■「わたしには、その資格がないのです。その資格があったのに、なにもかもわたしは捨て去ってしまったのですから」って言ってた  207  【出現条件】:flag000*flag090  【消失条件】:
    
  ■それぐらいかな  208  【出現条件】:  【消失条件】:
    



205


「サンルーフでディアマンテさんの話になったんだ。ディシュさんと老人の商人と」
「へえ、それで?」
 リオネに促されてイコウは続ける。
「で、息子さんはどうしているんだろう? って聞いたら、ディシュさんが戸惑った」
 くくくとリオネは笑う。
「イコウ、それは弱いよ」
「まあ、たしかに気になる反応だけど……」
 ロットが考え込むのに、リオネはけらけらと笑う。
「言い方が唐突だったからだよ、たぶんさ」
「うーん、そうか」
 イコウがうなだれるのに、ロットは聞く。
「まだ他にはあるかい? 些細なことでいいんだ」
「うーん……」


  ■「海の話に熱くなるとは。船乗りの血でも引いているのかね?」といわれたら反応が。   206  【出現条件】:flag000*flag061  【消失条件】:
    
  ■「やめろ! ミリー!」って叫んだんだ。  203  【出現条件】:flag000*flag041*flag042*flag043  【消失条件】:
    
  ■夕食のとき、シナモンが嫌いでディアマンテが反応してた。   201  【出現条件】:flag000*flag032  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんって、どこの出身なんですか? って聞いたらサディスだって。   202  【出現条件】:flag000*flag040  【消失条件】:
    
  ■「わたしには、その資格がないのです。その資格があったのに、なにもかもわたしは捨て去ってしまったのですから」って言ってた  207  【出現条件】:flag000*flag090  【消失条件】:
    
  ■それぐらいかな  208  【出現条件】:  【消失条件】:
    



206


「サンルーフでディアマンテさんの話になったんだ。ディシュさんと老人の商人と。それでディシュさんが話の輪に加えてくれたんだよ」
「いいやつだね」
「ああ、ディシュさんは悪い人ではないと思うんだけど、続けていいか?」
「あ、ごめん。つづけて」
 リオネはぺろっと舌を出す。
「で、ディアマンテさんの若い頃の話になったんだ。なんでもリーズデルの東の海域は荒れる海らしくって、そこを渡れる航路はまだ開拓されていないんだ。で、ディアマンテさんはその航路を開こうとしてたらしい」
「あの海域はたしかに荒れるな」
 イコウはロットがなにやら真剣に聞いているのに気付く。
「なんだロット、聞きたかったのか?」
「え? ああ、うーん」
 唐突に言われ、ロットは恥ずかしがって、指で頬をかく。
「しまったなぁ。ディアマンテさんの邸宅は、ミリーの天気予報を聞きに東岸中から商人が集まってきているんだよね」
「そりゃそうだよねぇ」
 ロットは破顔する。
「それだったら、邸宅で話を聞いていた方がよかったかも」
 それを聞いて、シャリーがくすっと笑う。
「ロットも間違えるときがあるんだね」
「そりゃそうさ。あ、それよりもイコウ、続きを」
「ああ。で、その話を聞いて、ディシュさんが言ったんだ。渡ってみたくなりました、その海って。それで、ご老人に船乗りの血でも引いてるのかって。それでなんて答えたと思う?」
 ロットはうーんと考える。
「そうかもしれない、とか」
「いや、こう言ったんだ。東岸諸国に生まれれば誰しも船乗りの血を引いていますって」
 あははとリオネが笑い出す。
「それはキザだねぇ。ちょっとその切り返しはないかなぁ」
「だろ? あやしいだろう?」
「まあ、たしかに怪しいけれど、それで息子って言うのはどうかな?」
 冷静なロットの言葉に、リオネが同意する。
「たしかに、息子までは行かないか」
 うーんと悩むイコウに、ロットは聞く。
「他にあるかな? けっこういろいろ聞いてきたんだね」
「え? まあね」
 イコウはロットの言葉を聞いて、そう言えばいろいろあったと嬉しく思い出す。
「んー、他には……」


  ■「やめろ! ミリー!」って叫んだんだ。  203  【出現条件】:flag000*flag041*flag042*flag043  【消失条件】:
    
  ■夕食のとき、シナモンが嫌いでディアマンテが反応してた。  201  【出現条件】:flag000*flag032  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんって、どこの出身なんですか? って聞いたらサディスだって。  202  【出現条件】:flag000*flag040  【消失条件】:
    
  ■「わたしには、その資格がないのです。その資格があったのに、なにもかもわたしは捨て去ってしまったのですから」って言ってた  207  【出現条件】:flag000*flag090  【消失条件】:
    
  ■それぐらいかな  209  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag209  ディシュが兄かも



207


「言ったんだ、ディシュさん。わたしには、その資格がないのです。その資格があったのに、なにもかもわたしは捨て去ってしまったのですからって。ミリーちゃんがディシュさんがこの家が、幸せな家に戻る秘密を持っているって思っているって言ったら」
 それを聞いて、ロットが色めき立つ。。
「決まりだ」
「決まりだね。イコウ、すごいじゃん」
 リオネの言葉にイコウは照れる。
「他にはあるか?」
「え? うーん」


  ■それぐらいかな  210  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag210  ディシュが兄



208


「それぐらいかなぁ」
 イコウが言うのに、ロットは腕組みを組んだままその冷静な視線を向ける。
「難しいんじゃないかな? 兄と疑うのは」
「そうか」
「よし。じゃあ、兄ではないとして考えてみよう」
 ロットの言葉にリオネが口を開く。
「じゃあ? なんでディシュはパイプを持ってたんだろ?」
「預かっていたんじゃないか? 本当の兄貴から」
「イコウ、ディシュだぞ? そんな依頼を受けるわけないよ」
 リオネのあきれた声に、ロットは腕組みから視線を上げる。
「顧客の依頼だったのかも知れない」
「ミリーの絵を描いているのは?」
「……、偶然。ミリーさんは描かれてもおかしくない人だし」
「あーあ、ロットまで。まったくロットらしくないよ。それじゃあ、まったく筋が通らないね」
 ロットは静かに呟く。
「分かっているさ。筋がまったく通らない。パイプを持ち込んだのはディシュさんなんだから、その事情は聞く以外にない。そうなるね?」
「話さないかも知れないよ?」
 ロットがちらとだけシャリーを見るが、それに気付いたのはリオネだけだった。
「じゃあさ、じゃあ、その兄貴はどうしているんだ?」
 イコウが聞くのにリオネがむっとする。
「イコウも考えろ! いろいろ聞いたのはイコウなんだぞ? どう思う?」
「え? あ、ああ、どうって……」


  ■どこかで元気にしているんじゃないか?  211  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag211  お兄さんどうしているんだろう?
  ■食いっぱぐれて戻ってきているのかもしれない  212  【出現条件】:flag000*flag054  【消失条件】:
    
  ■パイプの線を追っていけばいいんじゃないか?  213  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag213  お兄さんどうしているんだろう?



209


「それぐらいかな」
 腕組みをしていたロットが顔を上げる。
「兄と疑ってもいいかも知れない。その価値はある。じゃあ、ディシュさんを兄と仮定してみよう。もし兄だとしたら、なぜパイプを持ってきたのだろう?」
「きっと和解に来たのよ!」
 嬉々とするシャリーに、リオネがあきれる。
「だったら、こんな回りくどいこと、しないよ」
 イコウはふと気付いて言う。
「挑戦状のつもりなんじゃないかな?」
「それが妥当だね。息子に関係があるなにかが起こるとディアマンテさんに知らせるにはこれ以上ないきっかけになる。それで注意を引く。そうすればディアマンテさんが息子をどう思っているかを、引き出すことができる、か」
 あごに手を当て、ロットが淡々と推理する。
 リオネが、明るい声で驚く。
「あ、パイプをもう一度盗んだのは、ディシュじゃん」
「そう。動揺を誘って、揺さぶるいい手だね。それを指摘したのもディシュ」
 シャリーの表情がかげる。
「家族を幸せにするパイプだものね」
「シャリー、大丈夫、上手くいくよ」
 イコウがその細い肩に手をあてるのを横目に、リオネが聞く。
「でもさ、こんなに攪乱してどうするつもりなんだろうねぇ、ディシュは。ミリーちゃんでも盗んでいくつもり?」
「きっと、ミリーちゃんに元気になってほしいのよ!」
「シャリー、いったいどうやって、ミリーちゃんを元気にするんだ?」
 わからないと呟いて肩を落とすシャリーを見ながら、誰もが考え込む。
 ロットが真剣な表情をして言う。
「今は絵を描いている。ただ近づくためだけに描いている訳ではないはずだよ」
「絵に秘密がある? のか?」
 首を傾げるイコウに、リオネが食ってかかる。
「イコウが一番たくさん話したんだぞ? イコウはどう思う?」
「え? ああ、そうか」


  ■あ、まった、兄貴の部屋にスケッチブックがあった!  214  【出現条件】:flag000*flag052  【消失条件】:
  flag214  スケッチブックに気付いた
  ■自由になってからミリーが選べばいいって言ってたな  215  【出現条件】:flag000*flag043  【消失条件】:
    
  ■ミリーちゃんの元気な姿を描けば、誰でも皮肉見える。  216  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ミリーちゃんを深刻に描けば、誰でもミリーに優しくしたくなる。  217  【出現条件】:  【消失条件】:
    



210


「ディシュが兄だと思ってもいいな」
 ロットの言葉に、誰もが表情を明るくする。
 不明だったのに、どうもこのディアマンテ家の幸せの秘密を握っているような人物が、ディシュだとほぼ特定できたからだ。
「しかし、まさか、家出した息子が東岸一の画家になっているなんて」
「思わないよねえ、普通」
 楽しそうにリオネは笑う。
「それにディシュってあの画家もただの画家じゃない。普通じゃない」
 それがリオネが笑った理由。
 腕組みをしていたロットが顔を上げる。
「ディシュさんが兄だとしたら、なぜパイプを持ってきたのだろう?」
「きっと和解に来たのよ!」
 嬉々とするシャリーに、リオネがあきれる。
「だったら、こんな回りくどいこと、しないよ」
 イコウはふと気付いて言う。
「挑戦状のつもりなんじゃないかな?」
「それが妥当だね。息子に関係があるなにかが起こるとディアマンテさんに知らせるにはこれ以上ないきっかけになる。それで注意を引く。そうすればディアマンテさんが息子をどう思っているかを、引き出すことができる、か」
 あごに手を当て、ロットが淡々と推理する。
 リオネが、明るい声で驚く。
「あ、パイプをもう一度盗んだのは、ディシュじゃん」
「そう。動揺を誘って、揺さぶるいい手だね。それを指摘したのもディシュ」
 シャリーの表情がかげる。
「家族を幸せにするパイプだものね」
「シャリー、大丈夫、上手くいくよ」
 イコウがその細い肩に手をあてるのを横目に、リオネが聞く。
「でもさ、こんなに攪乱してどうするつもりなんだろうねぇ、ディシュは。ミリーちゃんでも盗んでいくつもり?」
「きっと、ミリーちゃんに元気になってほしいのよ!」
「シャリー、いったいどうやって、ミリーちゃんを元気にするんだ?」
 わからないと呟いて肩を落とすシャリーを見ながら、誰もが考え込む。
 ロットが真剣な表情をして言う。
「今は絵を描いている。ただ近づくためだけに描いている訳ではないはずだよ」
「絵に秘密がある? のか?」
 首を傾げるイコウに、リオネが食ってかかる。
「イコウが一番たくさん話したんだぞ? イコウはどう思う?」
「え? ああ、そうか」


  ■あ、まった、兄貴の部屋にスケッチブックがあった!  214  【出現条件】:flag000*flag052  【消失条件】:
  flag214  スケッチブックに気付いた
  ■自由になってからミリーが選べばいいって言ってたな  215  【出現条件】:flag000*flag043  【消失条件】:
    
  ■ミリーちゃんの元気な姿を描けば、誰でも皮肉見える。  216  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ミリーちゃんを深刻に描けば、誰でもミリーに優しくしたくなる。  217  【出現条件】:  【消失条件】:
    



211


「どこかで元気にしているんじゃないか?」
 その部屋が凍り付いていくのをイコウは感じた。
 リオネが無言でフライを掴み三連投、それを三つとも口に入れ、むしゃむしゃと食べる。
「い、イコウ? それ、ぜんぜん答えになってない」
 シャリーまでぽかんとするが、ロットはそれでもくじけずに聞く。
「ディシュの顧客の関係者って事になるかな?」
「あー、うーん。そうなるのかなぁ」
「じゃあ、その兄はなぜディシュにパイプを渡すように依頼したのだろう?」
 イコウはしきりに考える。
「パイプを返したかったとか。和解の印に」
「なるほどね。ディシュなら故買屋のおっちゃんとパイプがあるか」
 ロットは眉根しかめて不満げだが、もともとロットはこの件に乗り気ではないのだ。
「なら、ディシュさんが息子さんからのメッセージを持っている可能性が高いって事になる。ならばこの問題はぼくらの手の中にはない」
 ロットが静かに言うのに、一同はおずおずと頷く。
「情報が足りない。ディシュさんについて推理できるのはこれぐらいか」
 リオネが落胆するのを横目に、シャリーがおずおずと口を開く。
「あの、どうしたらいいかな。ミリーちゃんを救うためには……」
 ロットとリオネの視線がイコウを向く。
「え? ああ、そうだな……」


  ■ディアマンテさんのとげとげしさがなくなれば  218  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag110*flag051*flag047*flag046
  flag218  ディアマンテさんのとげとげしさがなくなれば
  ■ディアマンテさんのとげとげしさがなくなれば  219  【出現条件】:flag000*flag110*flag051*flag047*flag046  【消失条件】:
  flag219  ディアマンテさんのとげとげしさがなくなれば
  ■ミリーちゃんが大人の世界に触れないようにすれば  220  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag220  ミリーちゃんが大人の世界に触れないようにすれば
  ■お兄さんが帰ってくれば  221  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag221  お兄さんが帰ってくれば



212


「食いっぱぐれて戻ってきているのかも知れない」
 イコウが言うのにロットは怪訝そうにする。
「根拠は?」
「あ、うーん、拾っただろ? ボタン」
「ああ、なるほど」
「あれ、息子のなんだよ」
 シャリーが気付く。
「あ、ディアマンテさん、言ってた。盗みに入るなんて、きっと食いっぱぐれて、戻ってくる気になったに違いなって」
「待ってくれ。それは違う。息子が盗んだのは返したパイプだよ。返して盗んだ」
 リオネが楽しそうにいししと笑う。
「挑発だわねぇ、普通に考えればさぁ」
「うーん、そうか。まあ、そうじゃなければ、わかるようにボタンなんか落としたりしないか……」
 ロットの瞳が明るくなる。
 なにかに気付いたようだった。
「それに、ディシュさんに依頼できるような顧客に動いてもらえる。けっして、食いっぱぐれるような人じゃない。そうだろ?」
「どれぐらいならば、ディシュに依頼できるんだ?」
 イコウが聞くと、リオネは瞳を上げて考える。
「そうだねぇ。上客だね。定期的に仕事をディシュに出せるぐらい、つまり相当上」
「そうか。それに、そんなお客に頼まれても、ディシュさんが盗みに入るなんて仕事を受けるわけがないか……」
 ロットを見ると、嬉しそうに笑う。
「つまり、ディシュさんが兄でないと考えるのは無理がある。そうだろ?」
 なるほど、と頷く。


  ■ほぼ兄と思っていいかも。  210  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag210  ディシュが兄



213


「パイプの線を追っていけばいいんじゃないかな?」
 イコウの言葉に、リオネがため息をつく。
「それはたしかに正攻法だけど、ぼくらで調べるわけにはいかない」
「え? 調べればいいじゃないか」
 きょとんとするイコウにリオネが突っ込む。
「それさ、数年がかりだよ? 分かる? 行方不明の息子捜査なんて、どれだけあちこちで行われていると思う? 見つかっても数年後だよ?」
「そ、そうなのか? さ、さすがにそれはなぁ……」
「でも、ミリーちゃんかわいそう……」
 シャリーの言葉に、誰もがうーんと悩む。
 ロットが視線を上げて、きっぱりと諦める。
「ディシュさんが話してくれなければ、そこで行き止まりだね、今回は」
「まあね、そこしか手近に情報源ないし」
 リオネが言うのに、一同はおずおずと頷く。
「情報が足りない。ディシュさんについて推理できるのはこれぐらいか」
「あの、どうしたらいいかな。ミリーちゃんを救うためには……」
 ロットとリオネの視線がイコウを向く。
「え? ああ、そうだな……」


  ■ディアマンテさんのとげとげしさがなくなれば  218  【出現条件】:  【消失条件】:flag000*flag110*flag051*flag047*flag046
  flag218  ディアマンテさんのとげとげしさがなくなれば
  ■ディアマンテさんのとげとげしさがなくなれば  219  【出現条件】:flag000*flag110*flag051*flag047*flag046  【消失条件】:
  flag219  ディアマンテさんのとげとげしさがなくなれば
  ■ミリーちゃんが大人の世界に触れないようにすれば  220  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag220  ミリーちゃんが大人の世界に触れないようにすれば
  ■お兄さんが帰ってくれば  221  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag221  お兄さんが帰ってくれば



214


 イコウはふと気付く。
「あ、まった、兄貴の部屋にスケッチブックがあった!」
「え? なに?」
 首を傾げるシャリーにイコウは言う。
「ミリーちゃんを追っかけて、家出した兄の部屋に行ったじゃないか。ほら、リオネもロットもいたじゃないか、タリファ行くぞとか、リオネが張り切っていたときだよ」
「ああ、あのとき。それよりもイコウ、タリファ行くからな」
「わかったわかった」
「いま約束したからな!」
 むきになるリオネにイコウはため息をつく。
(まったく子供じゃないんだから……)33
「それよりも、つづけて」
「あ、ああ。あのとき兄貴の部屋に入ったんだ。そうしたら、部屋の中にスケッチブックが立てかけてあったんだ。たぶん、出て行った時からずっとそのままになってる」
「中は見たかい?」
 ロットの冷静な視線を受けて、イコウは戸惑う。
「さすがにそこまでは。でも絵を描いていたんだ。小さい頃から」
「それは、いい線だねぇ。絵を描いていた息子と、絵描きのディシュ。つながるじゃん。きっと、小さい頃から上手かったんだろうねぇ」
「それは確認してみないと」
 ロットはなにかを考えるが、リオネは浮かれる。
「ねえねえ、思いつかない? ディシュがなにを考えているか」
「うーん、そうだな……」


  ■自由になってからミリーが選べばいいって言ってたな  215  【出現条件】:flag000*flag043  【消失条件】:
    
  ■ミリーちゃんの元気な姿を描けば、誰でも皮肉見える。  216  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ミリーちゃんを深刻に描けば、誰でもミリーに優しくしたくなる。  217  【出現条件】:  【消失条件】:
    



215


 イコウは、ディシュの言葉を反芻する。
「たしか、自由になってから……」
「なになに?」
「リオネさん、落ち着いて」
 ロットにたしなめられて、リオネは舌を出す。
「自由になってから、ミリーが選べばいいって、たしかディシュさんが」
「ぜんぜん意味分からないよ、イコウ」
「あ、ごめん」
 イコウはあわてて説明をする。
 海鳥のテラスで、ディシュのスケッチのモデルになりながら話したこと。ミリーが自由でないこと。ミリーの天気予報の価値。しかし、その天気予報のためにミリーが縛り付けられている事。ミリーがなぜ天気予報をつづけているのか分からない事。そして、ディシュの言葉。
「それで、自由になってからミリーが選べばいいんですよ、イコウさんって」
 イコウが話し終えると、部屋の中がしんとした。
「イコウ、たしかにそう言ったんだね?」
 頷くと、ロットはリオネと顔を見合わせた。
「あ、あたし不干渉だからね。この件、一抜けた。なにも聞いてないぞ!」
「なんだよ、リオネ、急にさ。まあ、今回はリオネの出番はなさそうだし」
 不穏な空気にシャリーが怯える。
「なに? ロット、どうしたの? なにがわかったの?」
 ロットの冷静な視線がシャリーを見る。
「ディシュさん、ミリーの天気予報をやめさせる気なんだ。少なくとも一時的に。ミリーさんが元気になるまで、ミリーの天気予報を封印するつもりなんだ」
「あ、あ、あ、あ、そ、そうか……」
「そして元気なって、ミリーさんがやりたいと言い出したら再開する」
 ロットの推理は、東岸諸国のあらゆる商船が頼りにする、ミリーの天気予報を、東岸諸国から奪い取ることを意味する。
「そんなことをする権利があるのは、兄であるディシュしかない」
「それだ。たしかにあれはよくなさそうだし」
 イコウはぽんと手を打つ。
「でもさ、いったいどうやる? イコウならどうする? ミリーちゃん、さらっちゃう?」
 どうもリオネはミリーをさらい出すのが一番手っ取り早いと思っている様子。
 イコウはうーんと考える。


  ■ミリーちゃんの元気な姿を描けば、誰でも皮肉見える。  216  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ミリーちゃんを深刻に描けば、誰でもミリーに優しくしたくなる。  217  【出現条件】:  【消失条件】:
    



216


「絵を描いているんだろう? ミリーちゃんの絵を」
 ロットが柔らかい表情で頷く。
「どんなミリーちゃんだろう?」
「あ!」
 ぱんとイコウが手を打った。
「元気なミリーちゃんだ。ミリーちゃんを元気な姿で描くんだ。それをミリーちゃんの寝室に飾る。そうしたら、どうなる? 元気じゃないミリーちゃんを見ると気が引けるじゃないか」
 ロットが笑う。
「それだ。そうすれば無思慮にミリーさんに誰も頼らなくなる。ディアマンテさんも怒れなくなるか。すごいじゃないか、イコウ」
 ディシュの得意は迫真の写実性のある肖像画。まさにディシュにしかできない、この北方諸国の全土を探しても、ディシュにしかできないやり方だった。
 シャリーがおずおずと聞く。
「そうしたら、ミリーちゃんも元気になるかな?」
「シャリー、それ、シャリーの専門……」
「あ、うん。でも初めてだし……」
 シャリーが恥ずかしそうにする。
「まあ、だいだいディシュの狙い、分かったじゃん。解決じゃない?」
 お気楽なリオネをちらと見て、ロットは聞く。
「もし、絵が完成したら、ディシュさんは名乗り出るかな? 兄だって」
「どーだろうね? あたしなら面倒だな、だってめんどくさいじゃん?」
 リオネの言葉に、イコウはあきれる。
「まあ、リオネなら絶対に名乗り出ないよなぁ、家出してるぐらいだし」
「うるさい! イコウ、それとこれとは別だぞ。あたしは、もっと世界を見て回りたいの。だってさ、あんな寒いところで、ちびちび商売やっても面白くも何ともないじゃん? イコウもそうだろう? 世界を見て回りたいんだろ? パオペラで? だから一緒にいるんだろ? あたしたち」
「そりゃそうだ」
 イコウたちの会話を尻目に、シャリーが言う。
「でも、ディシュさんは名乗り出ると思う。だってお兄さんだもん」
 誰もの瞳がイコウを見つめる。
「イコウはどう思う? 直接話をしているのはイコウだけだ」


  ■名乗り出るんじゃないかな。  227  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag227  ディシュは、名乗り出るんじゃないかな?
  ■名乗りでないかも知れない。  228  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag228  ディシュは、名乗り出ないんじゃないかな?



217


「絵を描いているんだろう? ミリーちゃんの絵を」
 ロットが柔らかい表情で頷く。
「どんなミリーちゃんだろう?」
「あ!」
 ぱんとイコウが手を打った。
「深刻なミリーちゃんだ。ミリーちゃんを深刻な姿で描くんだ。それをミリーちゃんの寝室に飾る。そうしたら、どうなる? ミリーちゃんに優しくしてあげなければって気にならないか?」
 ロットが笑う。
「それだ。そうすれば無思慮にミリーさんに誰も頼らなくなる。ディアマンテさんも怒れなくなるか。すごいじゃないか、イコウ」
 ディシュの得意は迫真の写実性のある肖像画。まさにディシュにしかできない、この北方諸国の全土を探しても、ディシュにしかできないやり方だった。
 シャリーがおずおずと聞く。
「そうしたら、ミリーちゃんも元気になるかな?」
「シャリー、それ、シャリーの専門……」
「あ、うん。でも初めてだし……」
 シャリーが恥ずかしそうにする。
「まあ、だいだいディシュの狙い、分かったじゃん。解決じゃない?」
 お気楽なリオネをちらと見て、ロットは聞く。
「もし、絵が完成したら、ディシュさんは名乗り出るかな? 兄だって」
「どーだろうね? あたしなら面倒だな、だってめんどくさいじゃん?」
 リオネの言葉に、イコウはあきれる。
「まあ、リオネなら絶対に名乗り出ないよなぁ、家出してるぐらいだし」
「うるさい! イコウ、それとこれとは別だぞ。あたしは、もっと世界を見て回りたいの。だってさ、あんな寒いところで、ちびちび商売やっても面白くも何ともないじゃん? イコウもそうだろう? 世界を見て回りたいんだろ? パオペラで? だから一緒にいるんだろ? あたしたち」
「そりゃそうだ」
 イコウたちの会話を尻目に、シャリーが言う。
「でも、ディシュさんは名乗り出ると思う。だってお兄さんだもん」
 誰もの瞳がイコウを見つめる。
「イコウはどう思う? 直接話をしているのはイコウだけだ」


  ■名乗り出るんじゃないかな。  227  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag227  ディシュは、名乗り出るんじゃないかな?
  ■名乗りでないかも知れない。  228  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag228  ディシュは、名乗り出ないんじゃないかな?



218


「ディアマンテさんのとげとげしさがなくなればなあ」
 イコウがぼやくのに、リオネが笑う。
「あれ、よくないよね」
「でも、ディアマンテさん、どうしたら、怒らないようになってくれるかなぁ?」
「そりゃ、ミリーちゃんが元気になればさ、すこしは……」
「でも、そのためには、ディアマンテさんが怒らないように」
 シャリーが言い返すのに、ロットがくっくと笑う。
「ぐるぐる回ってる」
 はっとして頬を真っ赤にするシャリーとをイコウを見ながら、ロットはおかしそうに肩を揺する。
「そうだね。なにかきっかけが必要かも」
 ロットが言うのに、リオネが聞いた。
「きっかけねえ。イコウ、なにか思いつく?」
「な、なにかっていってもさあ、うーん……」


  ■お兄さんが帰ってくれば  221  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag221  お兄さんが帰ってくれば
  ■ディアマンテさんと話をしようよ  222  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■遊覧飛行がきっかけにならないかなあ  223  【出現条件】:  【消失条件】:
    



219


「ディアマンテさんのとげとげしさがなくなればなあ」
 イコウがぼやくのに、リオネが笑う。
「あれ、よくないよね」
「でも、ディアマンテさん、もうとげとげしくしないって言ってた」
「ほんと?!」
 シャリーの言葉に、リオネはびっくりする。イコウはぼんやりという。
「でも、ほんとに大丈夫なのかなぁ?」
「まあねえ、心配になるわな。ああいうのは発作みたいなものだからねぇ」
 リオネが言い放つのに、ロットはうーんと悩む。
「そうだね、ほんとは根本的な原因を取り除きたいのだけど」
「根本的な原因?」
「そう、根本的な原因。ディアマンテさんを、苛立たせている原因」
「原因ねえ……」
 リオネが聞く。
「イコウ、なにか思いつかないの?」
「え? なんだろう?」


  ■奥さんが亡くなったこと原因だから、無理だよ。  224  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■奥さんが原因だけど、ミリーちゃんが元気になれば  225  【出現条件】:flag000*flag110  【消失条件】:
    
  ■やっぱり、息子が帰ってこないと  226  【出現条件】:flag000*flag054  【消失条件】:
  flag226  やっぱり、息子が帰ってこないと



220


「ミリーちゃんが大人の世界に触れないようにすればさ、すこしは」
 リオネがすこし驚く。
「でも、それって、天気予報しないって事だよねぇ?
「無理かな?」
 イコウの問いに、リオネはうーんと悩む。
「まあ、ジョゼフくんだけがミリーちゃんと接触することにして、天気予報を告げるようにするとか、そう言う方法はあるだろうけれど」
「でも、直接聞きたいろうねぇ。ミリーちゃんから」
「そうなるね、ふつう」
 ロットはため息混じりで笑う。
 それを見て、イコウは言う。
「とりあえず、ジョゼフくんに話してみようよ。それから」
 リオネもため息混じりで笑った。
「まあ、それしかないか」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



221


「お兄さんが帰ってくれば少しは」
 リオネがあきれたように肩を落とす。
「えー、でも、どこにいるかなんか分からないじゃん」
「そうなんだよな……」
 困り果てたイコウを見て、ロットは腕組みをする。
「まあ、じゃあ、こうしよう。そのお兄さんが帰ってきたら、和解するようにディアマンテさんを説得しておくんだ。いつ帰ってくるかは分からないけれど、帰ってくれば、ミリーちゃんは幸せになれるんだし」
「それしかないか」
 リオネが諦めたように言い放ち、リオネだけでなく誰もがイコウを見る。
「シャリー、それでいいかい?」
 シャリーは、こっくりと頷いた。


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



222


「やっぱり、ディアマンテさんと徹底的に話そうよ」
 イコウの言葉にリオネは頷く。
「それしかないかねぇ」
「まあ、それが現実的かも」
 ロットが頷くのを見て、イコウはシャリーを見る。
「シャリー……」
 すこし哀しげな表情をして、シャリーはこっくりと頷いた。
「わかった……」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



223


「遊覧飛行がきっかけにならないかなあ」
 イコウの言葉にリオネは首を傾げる。
「どーかな。まあ、気分転換にはなると思うけど」
「まあ、それが現実的かも」
 ロットが頷くのを見て、イコウはシャリーを見る。
「シャリー……」
 すこし哀しげな表情をして、シャリーはこっくりと頷いた。
「わかった……」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



224


「んー、でも、奥さんが亡くなったこと原因だから、無理だよ」
 イコウの言葉に、ロットは呟く。
「亡き人は帰らずか」
「打つ手なしか。あとはあの商人がなんとかするしかないか」
 リオネが瞳をくりくりさせるのに、ロットは頷く。
「やれることはやったのかも知れない」
「ただ、話しておこう。ディアマンテさんには」
 イコウは二人の結論を確認して、寂しげな表情のシャリーを見る。
「シャリー……、ごめん……」
 すこし哀しげな表情をして、シャリーはこっくりと頷いた。
「わかった……」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



225


「奥さんが原因なんだけど、ミリーちゃんが元気になれば、たぶん」
 イコウの言葉にリオネが眼をぱちくりする。
「なにそれ? どういうこと?」
「そっくりなんだって、ミリーちゃん、奥さんに」
 シャリーがにこにこというのに、リオネは感心する。
「へー、じゃあなんとかなるかも知れないね」
「それに賭けてみるか」
「ただ、話しておこう。ディアマンテさんには」
 イコウは二人の結論を確認して、嬉々とするシャリーを見る。
「シャリー、いいよな?」
 こっくりと頷いた。
「うん」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



226


「やっぱり、息子が帰ってこないと」
 イコウがうなだれるのに、シャリーはささやくように言う。
「そうだよね」
「なになに、どういうこと?」
 リオネがきょとんとするのに、シャリーが言葉を足す。
「ディアマンテさんの哀しみは、奥さんだけじゃないの。わたし、見たから」
 うなだれるシャリーを見て、イコウは呟く。
「やっぱり、息子が帰ってこないとだめか……」
「え? でもさ、どこにいるか分からないんじゃ?」
「そーなんだよな……」
 やりとりを見て腕組みをしていたロットが、口を開く。
「じゃあ、こうしよう。そのお兄さんが帰ってきたら、和解するようにディアマンテさんを説得しておくんだ。いつ帰ってくるかは分からないけれど、帰ってくれば、ミリーちゃんは幸せになれるんだし」
「それしかないか」
 リオネが諦めたように言い放ち、リオネだけでなく誰もがイコウを見る。
「シャリー、それでいいかい?」
 シャリーは、こっくりと頷いた。


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



227


「名乗り出るんじゃないかな?」
「なんで?」
 リオネが聞くの、イコウは答える。
「だってさ、挑戦しているんだしさ、絵を描いて、和解するにしても、和解しないにしても、正体を明かせば、実の兄の描いた絵ってことになるじゃないか」
 ロットがにこっと笑う。
「そうだね。しかも描いたのはディシュ。東岸一の肖像画家。名声ある兄のメッセージとして誰もむげにはできなくなるか」
「なるほどね。考えているね、ディシュ」
「じゃあ、ミリーちゃんは元気になるのね?」
 シャリーの言葉に、誰もがうーんと悩む。口を開いたのはイコウだった。
「ふたり次第だよ。そうだろう? むりやり和解なんて。ずっと離れていたんだからさ。おれたちにできる事って言ったらさ」


  ■ディシュさんにその辺を話しておくだけ。  229  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディシュさんに話しておくだけ。ディアマンテさんは分かってるから  230  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテさんにその辺を話しておくだけ。  231  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテさんにその辺を話しておくだけ。居場所ないとか言ってたし  232  【出現条件】:flag000*flag052  【消失条件】:
    



228


「名乗り、出ないんじゃないかって、なんとなく」
 自信なさげに言うイコウにリオネが聞く。
「なになに? なんか、出ないかもって、気がするの?」
「な、何となく」
 視線を上げると、ロットの澄んだ瞳が見つめているのにイコウは気付く。
「名乗りでないとしたら、なぜだろう?」
「イコウ、そんなことない。名乗り出るに決まってる」
「シャリー、ディシュさんと一番話したのはイコウなんだ」
 ロットにたしなめられて、シャリーはしゅんとする。
「イコウ?」
「あー、うーん、やっぱり面倒なことになりそうだし」
「それはない」
 ロットの断言に、誰もがその鋭い表情を見つめる。
「考えてみてくれ。ディシュさんはパイプを使ってこのディアマンテ家を散々に掻き回している。ディシュさんの意図は、息子に関するなにかがやってくることを意識させる事だよ。もう彼は充分に面倒な事をしているんだ。ディシュさんにとって、これは遊びじゃない。本気なんだ」
「じゃあ、名乗り出るじゃん? でないの? なんで?」
 リオネに促されて、イコウは口を開く。
「ディアマンテさんに許してもらえないかもと思っているとか」
「それもない」
 イコウは、ロットがひさびさに冴え渡っている事に気付く。
(こんなロットは久しぶりだ。すごい)
 思い起こしてみれば、ロットの切れる頭が必要になるのは久々だった気がする。
「正体を明かすのは、ディアマンテさんと和解するためじゃないだろう? ミリーさんの周りの問題を解決するためじゃないか。ディアマンテさんが許そうが、許すまいが、それはディシュさんにはまったく関係がないんだ」
「名乗り出るじゃん、それなら」
 きょとんとするリオネをちらと見てから、ロットはイコウを見つめる。
「ぼくはこう思う。ジョゼフくんに遠慮しているんじゃないかって」
「ん? ロット、意味が通じないぞ」
 首を傾げるイコウに、ロットはゆっくりと言葉を選ぶように話す。
「もし、ディシュさんが名乗り出たらどうなるだろう? ディアマンテ家の正統な跡継ぎが現れる、そうなると、ジョゼフくんは」
 シャリーの表情が音を立てて青ざめていく。
「一生家令!」
「そのとおり」
 あぜんとする面々を慣れた様子で放置して、イコウを見る。
「イコウ、ジョゼフくんはどう思っているのかな?」
「え? ああ」
 ロットの、その頭脳の鋭さが乗ったような視線が、イコウを見つめる。


  ■ひどい裏切り行為だと言ってたな  234  【出現条件】:flag000*flag011*flag026  【消失条件】:
    
  ■この家を継ぐつもりなのかな?  235  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■商人になってこの家を継ぐつもりだよね  236  【出現条件】:flag000*flag044*flag051*flag075*flag086*flag087  【消失条件】:
    
  ■もう邸内はジョゼフが継がないと困ると思ってる  233  【出現条件】:flag000*flag106  【消失条件】:
    



229


「ディシュさんにその辺を話しておくことぐらいじゃないか?」
「正体明かしたら、ディアマンテと和解するように?」
 リオネが言うのに、イコウは困る。
「うーん、どういえばいいんんだろう? すぐに和解なんて、そこまでは行かなくても、ちょくちょくミリーちゃんに会いに来るようにとか」
「ミリーちゃん、甘えられる人ができるね」
 シャリーがすこし笑う。
「そうなれば、和解できる可能性も増えるか」
 ロットはぽんと手をたたいた。
 その視線がシャリーを見ると、リオネも、イコウもそれを追う。
 小さな少女が、恥ずかしげにする。
「分かった」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



230


「ディシュさんにその辺を話しておくことぐらいじゃないか? ディアマンテさんは分かっているから」
「正体明かしたら、ディアマンテと和解するように?」
 リオネが言うのに、イコウは困る。
「うーん、どういえばいいんんだろう? すぐに和解なんて、そこまでは行かなくても、ちょくちょくミリーちゃんに会いに来るようにとか。ディアマンテさんはディシュさんが戻ってくれば、ミリーちゃんが元気になると信じているから、そっちは大丈夫だし」
「ミリーちゃん、甘えられる人ができるね」
 シャリーがすこし笑う。
「そうなれば、和解できる可能性も増えるか」
 ロットはぽんと手をたたいた。
 その視線がシャリーを見ると、リオネも、イコウもそれを追う。
 小さな少女が、恥ずかしげにする。
「うん」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



231


「ディアマンテさんにその辺を話しておくことぐらいじゃないか?」
「でも、聞くかな? あの人、強情そうだし」
 リオネが言うのに、イコウは困る。
「まあ、でも息子が立派な画家になっていたと分かれば、見直すかも」
 ロットの助け船に、イコウは頷く。
「それに賭けよう」
 ロットはぽんと手をたたいた。
 その視線がシャリーを見ると、リオネも、イコウもそれを追う。
 小さな少女が、恥ずかしげにする。
「分かった」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



232


「ディアマンテさんにその辺を話しておくことぐらいじゃないか? ディアマンテさん、もう息子の居場所はないって言っていたけど、もうディシュさんは充分に居場所を作ってしまっているし」
「でも、聞くかな? あの人、強情そうだし」
 リオネが言うのに、イコウは困る。
「まあ、でも息子が立派な画家になっていたと分かれば、見直すかも」
 ロットの助け船に、イコウは頷く。
「それに賭けよう」
 ロットはぽんと手をたたいた。
 その視線がシャリーを見ると、リオネも、イコウもそれを追う。
 小さな少女が、恥ずかしげにする。
「分かった」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



233


「あー、うん。ロットの言いたいことは分かった。でも、もう無理だよ。ディシュさんが名乗っても、ディアマンテさんがディシュを跡継ぎにすると言っても、そうならないと思う。ディアマンテ家の邸内の使用人たちは、ジョゼフくんが継がないと困ると思っているんだ」
 ぽかんとするロットを見て、イコウは話す。
 ディアマンテ家の使用人たちは、ジョゼフが家令をしているからこの家に勤めているようなもので、絶大な信頼がジョゼフにはあり、もう十年もの信頼があることを告げる。
「だって、すごいんだ。もうほんとジョゼフくんを跡継ぎにするためなら、なんだってやってみせるという気迫充分で……」
 とうとつに、くっくっくとロットが笑い出す。
 破顔し、おかしそうに腹を抱えて、笑う。
「そりゃあ、信頼を作った者の勝ちだわねぇ」
 おかしくなってリオネもけらけらと笑い出す。
 笑い転げるふたりに、イコウとシャリーはふしぎそうに見つめ合うが、イコウにはなにがおかしいのかさっぱり分からないのだった。
 その笑い声は深夜にさしかかった、4人水入らずの部屋を暖かく満たし、潮風に乗ってサディス中に届き、海を渡って世界中に届けられるようだった。
 イコウはそのすてきな青春の一瞬がすてきに過ぎているのに気付いていなかった。
 取り戻すことはできない過ぎ去る時間を、大切な時間を味わっている事を知らなかった。
 すてきな時間だったと、イコウは、いつか思い出すのだろうか?
 もっと味わえばよかったと思うのだろうか?
 ロットがようやっとその笑いの衝動から解き放たれて、話す。
「なら、もうその既定路線を変えることはできないと、思った方がいいね」
「そうそう、ディシュって、ずっと画家してたし。商人の修行をしてないんだろ? あの歳になってさあ。じゃあ、もう手遅れだよ。もし家を継いだら、この家、没落しちゃうって分かっていると思うし。だいたい、あんな名声をディシュが手放すわけないじゃん。絵を描くのも好きだろうし」
 リオネの言葉にロットは頷く。
「つまり、それはディシュさんの杞憂なんだ。ディシュさんがどう思おうと、この路線は変えられない。ディシュさんも家を継ぐ気はない。でも、ディシュさんには正体を明かしてほしい。こうなるね」
「どうしたらいいんだ?」
 理解がついて行かないイコウは首を傾げる。
「イコウも考えなよ。この件はシャリーとイコウの事件なんだから」
「え? そんなことを言っても……」


  ■ディシュに杞憂であることを告げる。  240  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag240  ディシュに杞憂であることを告げる。
  ■ディアマンテに、ディシュにそのように告げて貰う。  241  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag241  ディアマンテに、ディシュにそのように告げて貰う。
  ■ジョゼフにディシュに名乗り出てほしいと言うように説得する。  242  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag242  ジョゼフにディシュに名乗り出てほしいと言うように説得する



234


「ひどい裏切り行為だってさ、そう言ってただろう?」
「言ってたねぇ。そうそう、忘れてた。まあ息子に代わってこの邸宅を守ってきたんだしね」
 リオネの言葉にロットは頷く。
「その自負はあると見た方がいいな」
「じゃあ、ジョゼフさん、ディシュさんを許さないかなぁ?」
 シャリーのすがるような視線にロットは応える。
「なにをいまさら、ってかんじ。そんな感じかな。もし、ディシュさんが名乗らないことにしているのだったら、それはそのジョゼフくんの気持ちを汲んでいるんだよ」
「うん。そう。ディシュさん、やさしいんだ」
 シャリーは嬉々として言う。
「そう! じゃあ、ジョゼフさんに名乗り出てほしいって言えば解決! そうでしょ!」
「そうか、それでいいのか!」
 一緒に喜ぶイコウとシャリーを見て、リオネとロットは顔を見合わせてため息をつく。
「いや、そんなに簡単じゃない。そうしたら、ジョゼフくんは」
「あー!! 一生家令!」
 シャリーの表情が青ざめる。
「そのとおり」
「でもさ、ディシュって、ずっと画家してたし。商人の修行をしてないんだろ? あの歳になってさあ。じゃあ、もう手遅れだよ。もし家を継いだら、この家、没落しちゃうって分かっていると思うし。だいたい、あんな名声をディシュが手放すわけないじゃん。絵を描くのも好きだろうし」
 リオネの言葉にロットは頷く。
「ディアマンテさんの気持ち次第だな。イコウ、どう思う?」
「え?」


  ■わからない。  243  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag243  ジョゼフくんを跡継ぎにする? するならディシュに。
  ■ ジョゼフを跡継ぎにしたいと思っている。  244  【出現条件】:flag000*flag044*flag051*flag077  【消失条件】:
    
  ■息子に戻ってきてほしいと思っている  245  【出現条件】:flag000*flag016*flag019*flag020*flag052  【消失条件】:
    



235


「この家を継ぐつもりなんじゃないかな?」
「邸内の雰囲気はそうだけどねぇ。だけどねぇ」
 リオネが首を傾げるのに、シャリーが慌てる。
「なに? リオネ! だめなの?」
「孤児だよ? シャリー、よく考えてみなよ。孤児が商家を継いだだなんて聞いたことない」
「でも、ジョゼフさん、もう十年も一緒にいるの! 家族みたいなものよ!」
「それはそうなんだけどさぁ」
 だだをこねるようなシャリーに困り、リオネはロット1を見る。
「ディシュさんが、名乗り出れば、すべてがご破算だ。正統な後継者なんだから、誰も文句がつけようがない。そうしたら、ジョゼフくんは」
「一生家令……」
 しょげかえるシャリーを見てリオネが助け船を出す。
「でもさ、ディシュって、ずっと画家してたし。商人の修行をしてないんだろ? あの歳になってさあ。じゃあ、もう手遅れだよ。もし家を継いだら、この家、没落しちゃうって分かっていると思うし。だいたい、あんな名声をディシュが手放すわけないじゃん。絵を描くのも好きだろうし」
 沈黙がその部屋を満たす。
 どうやら、ディシュの思惑通りに、名乗らないままにしておく方がよいよいに思えてくるのだ。
 シャリーがおずおずと口を開く。
「あの、どうしたらいいかな。ミリーちゃんを救うためには……」
 ロットとリオネの視線がイコウを向く。
「え? ああ、そうだな……」


  ■ディアマンテさんのとげとげしさがなくなれば  237  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ディアマンテさんのとげとげしさがなくなれば  238  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■ミリーちゃんが大人の世界に触れないようにすれば  239  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag239  ミリーちゃんが大人の世界に触れないようにすれば



236


「この家を継ぐつもりなんじゃないかな?」
「ディアマンテさんも、もうずっとそのつもりみたいだし」
 シャリーの言葉に、ロットは頷く。
「なら、もうその既定路線は変えるつもりはないと見ていいかな?」
 ロットが視線を巡らすと、誰もが頷く。
「そうそう、ディシュって、ずっと画家してたし。商人の修行をしてないんだろ? あの歳になってさあ。じゃあ、もう手遅れだよ。もし家を継いだら、この家、没落しちゃうって分かっていると思うし。だいたい、あんな名声をディシュが手放すわけないじゃん。絵を描くのも好きだろうし」
 リオネの言葉にロットは頷く。
「つまり、それはディシュさんの杞憂なんだ。ディシュさんがどう思おうと、この路線は変えられない。ディシュさんも家を継ぐ気はない。でも、ディシュさんには正体を明かしてほしい。こうなるね」
「どうしたらいいんだ?」
 理解がついて行かないイコウは首を傾げる。
「イコウも考えなよ。この件はシャリーとイコウの事件なんだから」
「え? そんなことを言っても……」


  ■ディシュに杞憂であることを告げる。  240  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag240  ディシュに杞憂であることを告げる。
  ■ディアマンテに、ディシュにそのように告げて貰う。  241  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag241  ディアマンテに、ディシュにそのように告げて貰う。
  ■ジョゼフにディシュに名乗り出てほしいと言うように説得する。  242  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag242  ジョゼフにディシュに名乗り出てほしいと言うように説得する



237


「ディアマンテさんのとげとげしさがなくなればなあ」
 イコウがぼやくのに、リオネが笑う。
「あれ、よくないよね」
「でも、ディアマンテさん、どうしたら、怒らないようになってくれるかなぁ?」
「そりゃ、ミリーちゃんが元気になればさ、すこしは……」
「でも、そのためには、ディアマンテさんが怒らないように」
 シャリーが言い返すのに、ロットがくっくと笑う。
「ぐるぐる回ってる」
 はっとして頬を真っ赤にするシャリーとをイコウを見ながら、ロットはおかしそうに肩を揺する。
「そうだね。なにかきっかけが必要かも」
 ロットが言うのに、リオネが聞いた。
「きっかけねえ。イコウ、なにか思いつく?」
「な、なにかっていってもさあ、うーん……」


  ■ディアマンテさんと話をしようよ  222  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■遊覧飛行がきっかけにならないかなあ  223  【出現条件】:  【消失条件】:
    



238


「ディアマンテさんのとげとげしさがなくなればなあ」
 イコウがぼやくのに、リオネが笑う。
「あれ、よくないよね」
「でも、ディアマンテさん、もうとげとげしくしないって言ってた」
「ほんと?!」
 シャリーの言葉に、リオネはびっくりする。イコウはぼんやりという。
「でも、ほんとに大丈夫なのかなぁ?」
「まあねえ、心配になるわな。ああいうのは発作みたいなものだからねぇ」
 リオネが言い放つのに、ロットはうーんと悩む。
「そうだね、ほんとは根本的な原因を取り除きたいのだけど」
「根本的な原因?」
「そう、根本的な原因。ディアマンテさんを、苛立たせている原因」
「原因ねえ……」
 リオネが聞く。
「イコウ、なにか思いつかないの?」
「え? なんだろう?」


  ■奥さんが亡くなったこと原因だから、無理だよ。  224  【出現条件】:  【消失条件】:
    
  ■奥さんが原因だけど、ミリーちゃんが元気になれば  225  【出現条件】:flag000*flag110  【消失条件】:
    



239


「ミリーちゃんが大人の世界に触れないようにすればさ、すこしは」
 リオネがすこし驚く。
「でも、それって、天気予報しないって事だよねぇ?
「無理かな?」
 イコウの問いに、リオネはうーんと悩む。
「まあ、ジョゼフくんだけがミリーちゃんと接触することにして、天気予報を告げるようにするとか、そう言う方法はあるだろうけれど」
「でも、直接聞きたいろうねぇ。ミリーちゃんから」
「そうなるね、ふつう」
 ロットはため息混じりで笑う。
 それを見て、イコウは言う。
「とりあえず、ジョゼフくんに話してみようよ。それから」
 リオネもため息混じりで笑った。
「まあ、それしかないか」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



240


「ディシュさんに、杞憂であることを告げよう。ディシュさんなら分かってくれる」
 イコウの言葉に、ロットが頷く。
「それに賭けてみるか」
「おっし、決まり! 長かったねえ」
 リオネが思い出したように、小魚のフライに手を伸ばすが、すでに皿は空っぽで、リオネは瞳をぱちくりする。
 急に腹が空いた気がしたとたん、ぎゅるると、腹の虫が鳴いた。
 ロットの視線が、ゆっくりと一巡する。
 誰もが、心を決めたようで、あとはイコウが決断するだけだった。
 シャリーが心配そうにイコウを見上げる。
「イコウ?」
「そうしよう」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



241


「ディアマンテさんに、ジョゼフくんを跡継ぎにするつもりだと、ディシュさんに告げて貰おう。そうすれば、ディシュさん、安心して、兄を名乗れるよ」
 イコウの言葉に、ロットが頷く。
「それに賭けてみるか」
「おっし、決まり! 長かったねえ」
 リオネが思い出したように、小魚のフライに手を伸ばすが、すでに皿は空っぽで、リオネは瞳をぱちくりする。
 急に腹が空いた気がしたとたん、ぎゅるると、腹の虫が鳴いた。
 ロットの視線が、ゆっくりと一巡する。
 誰もが、心を決めたようで、あとはイコウが決断するだけだった。
 シャリーが心配そうにイコウを見上げる。
「イコウ?」
「そうしよう」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



242


「ジョゼフくんに、ディシュさんに名乗り出てほしいと言って貰おう。ミリーちゃんには、ジョゼフくんだけじゃなくて、ディシュさんも必要なんだって。そうすれば、ディシュさん、安心して、兄を名乗れるよ」
 イコウの言葉に、ロットが頷く。
「それに賭けてみるか」
「おっし、決まり! 長かったねえ」
 リオネが思い出したように、小魚のフライに手を伸ばすが、すでに皿は空っぽで、リオネは瞳をぱちくりする。
 急に腹が空いた気がしたとたん、ぎゅるると、腹の虫が鳴いた。
 ロットの視線が、ゆっくりと一巡する。
 誰もが、心を決めたようで、あとはイコウが決断するだけだった。
 シャリーが心配そうにイコウを見上げる。
「イコウ?」
「そうしよう」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



243


「わからない。分からないんだ、ロット」
 イコウが情けなく言うのに、ロットはやさしく頷く。
「じゃあ、こうしよう。まずディアマンテさんにどうしたいのかを直接聞く。もし、ジョゼフくんを跡継ぎにするつもりなら、ディシュさんが兄であると告げて、ディアマンテさんに、ジョゼフくんを跡継ぎにすると、ディシュさんに告げて貰う。これしかないか」
 ロットの視線が、一巡する。
 誰もが、心を決めたようで、決めていないのはイコウだけだった。
 シャリーが心配そうにイコウを見上げる。
「イコウ?」
「そうしよう」


  ■スークルの大祭の日を待つ  116  【出現条件】:  【消失条件】:
    



244


「うーん、ジョゼフくんを跡継ぎにしたいと思っていると思う。もう十年だろう? いくら何でもディシュさんを跡継ぎにしたいとは思わないと思う」
 イコウの言葉に、ロットが頷く。
「では、ディアマンテさんはこの問題とは関係ない」
 ロットがなにを言ったのか、リオネは気付いて、大げさに嬉しがる。
「おー、そうかぁ。さすがロットだね。もう問題はディシュとジョゼフの問題なんだ。気付かなかった」
「そのとおり」
 シャリーはなんとかそれを理解しようとするが、めげてしまう。
「む、むずしすぎて、理解できない……」
「どうしたらいいんだ?」
 理解がついて行かないイコウは首を傾げる。
「イコウも考えなよ。この件はシャリーとイコウの事件なんだから」
「え? そんなことを言っても……」
 ロットが慌てて助け船を出す。
「つまり残るは、どうやってこの三竦みを解くかなんだけど」


  ■ディシュに杞憂であることを告げる。  240  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag240  ディシュに杞憂であることを告げる。
  ■ジョゼフにディシュに名乗り出てほしいと言うように説得する。  242  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag242  ジョゼフにディシュに名乗り出てほしいと言うように説得する



245


「息子に戻ってきてほしいと思っていると思うな」
 イコウの言葉に、ロットは悩んだ。
「それはやっかいだな。ディシュさんはジョゼフくんに遠慮している」
「そう、そしてそれがネックで、ディアマンテの希望は叶わなくなっている」
 リオネが嬉しそうに続ける。
「でもそれをかなえるのは、ディシュにジョゼフを継がせると約束するってことになる」
「おー、そうだね。さすがロット。問題は、三竦みになっている事なんだね」
「そのとおり」
 シャリーはなんとかそれを理解しようとするが、めげてしまう。
「む、むずしすぎて、理解できない……」
「どうしたらいいんだ?」
 理解がついて行かないイコウは首を傾げる。
「イコウも考えなよ。この件はシャリーとイコウの事件なんだから」
「え? そんなことを言っても……」
 ロットが慌てて助け船を出す。
「つまり残るは、どうやってこの三竦みを解くかなんだけど」


  ■ディアマンテに、ディシュにそのように告げて貰う。  241  【出現条件】:  【消失条件】:
  flag241  ディアマンテに、ディシュにそのように告げて貰う。