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                          第十六号   2006/09/10
   「 物 語 解 析 」
    〜 要素による解析基礎 「決まり事(世界観)」ガイダンス〜

 「今号を要約!」 この「決まり事(世界観)」が書くということの核心?

  - - - -< 今号の中身をピックアップ! > - - - - - - - - - - - - - - - - -
 《 本文 》                          《ページ&
                                 落書き欄》
                                 (^_^;

   01:はじめに                       :[ 01 ]
     ──物語解析の概念の中でもっとも難しい部分ではないかと思える

   02:要素による解析ってなに???             :[ 02 ]
     ――簡単ではありますが、説明しています。

   03:解析術講座 「要素による解析「決まり事(世界観)」  :[ 03 ]
    03-01:「困ったちゃんが登場する一番分かり易い例」    :[ 03-01 ]
        ――かなり難産だった概念です・・・。
    03-02:「「決まり事(世界観)」は自由に使おう。」    :[ 03-02 ]
        ――実は問題の多出地点・・・。
    03-03:「「開示される決まり事(世界観)という概念の 
          簡単さと難しさ」」             :[ 03-03 ]
        ――『ゲド戦記』は世界観の開示のバランスが
            ちょっと悪すぎた
    03-04:「問題として再浮上する、「舞台の付帯的性質?」  :[ 03-04 ]
        ――隔離が本質。
    03-05:「「決まり事(世界観)」は与えた影響を追っていくと
          分かり易い」                :[ 03-05 ]
        ――首尾一貫が重要。

   04:おわりに                        :[ 04 ]
     ――自分がいいと思うことを書くのが一番。

 ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■    http://story-fact.com/mk_log.php ■


 ● 01 ● はじめに                      :[ 01 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
  こんにちは! hikaliです。
  えーと、ずいぶん間が空きました。
  日曜日の朝早くにせこせこと整形しながら、うーんなにやって
 んだろーかと思いつつ、何とか更新にたどり着くことができまし
 た。
  どーせ、実質3日ぐらいしかかかってないんだろーに、と思っ
 た方はかなり正解・・・。いかに書くペースに持っていくかが、
 けっこう勝負だったりします(^_^;

  今回は、「決まり事(世界観)」のガイダンス。
  物語解析の概念の中でもっとも難しい部分ではないかと思える
 パートなので、ちょっと用心が必要です。

  え? 「道具」の実践編じゃなかったのかって?
  あー、うーん、そうそう。
  そうだったのですが、個人的な環境の変化で法律を勉強するこ
 ととなり始めたとたん、脳が法律脳になってしまいつつあり、な
 かなか柔軟な思考ができにくくなってきてしまっているのですよ
 ね・・・。

  論理構成には向いた思考なのですが、クリエイティブな方向は、
 クリエイティブ職でなくなったとたん、かなり衰えてきました。
 (あー、クリエイティブな環境に移れば、また復帰すると思いま
  すが)

  というわけで、実践編をやる脳みそでなくなってきてしまった
 ため、「道具」実践編は飛ばして、「決まり事(世界観)」を
 お送りすることとしました。

  「決まり事(世界観)」も結構複雑ですので、まずはガイダン
 スから。少しずつ掘り下げていくことにしましょう。
  というわけで、物語解析、はじめてしまいましょう!!


 ● 02 ● 要素による解析ってなに???            :[ 02 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
  これまでの物語解析では、物語は「人物」「舞台」「道具」
 「決まり事(世界観)」の四つに分かれ、その四つの働きを調べる
 ことにより、物語をかなり正確に把握できるというお話をしてき
 ました。
  「人物」に関しては、第六号、第七号を通して、「舞台」に関
 しては第八号〜第十一号まで、「道具」に関しては第十二号〜
 第十五号まででお話したと思います。

  今回から、「決まり事(世界観)」のお話をしています。
  今号は「決まり事(世界観)」ガイダンス的なお話。
  ちょっとディープな世界観のお話を楽しんで頂ければ、
 嬉しいです。

  もし、前回以前の内容がお読みになりたいという方がいらっ
 しゃいましたら、物語解析ホームページにバックナンバーがあり
 ます。もしご興味がございましたら、ご覧いただければ幸いです。


 ● 03 ● 解析術講座  「要素による解析
  ̄ ̄ ̄ ̄        「決まり事(世界観)」ガイダンス」:[ 03 ]


  さて、今回から「決まり事(世界観)」に入るのですが、
 おおお・・・、なんかのっけから分かりにくいですねえ・・・。

  決まり事?
  世界観?
  なんのこっちゃ。
  そー、ですよね、これまで、「人物」とか、「舞台」とか、
 「道具」とか、非常に分かり易い、漢字たった2字だった物が、
 今回から9字(4.5倍!)の事柄について理解をしなければなり
 ません。なんで9字も覚えなきゃいけないの? という疑問は
 当然出てくるでしょう。

  でも、深く考えれ、考えるほど、この9字が必要な概念なのです。
  「多孔性の弾力材であって撥水性を伴わない接合部」なんて難
 解な言葉でないだけでもめっけもの! というのはかなり豪快な
 言い訳ですが(^_^; まあ、これ以上、意味を削ることが出来な
 い、逆に言えばそれほど広く希薄な概念が、
 この「決まり事(世界観)」なのです。

  むむ、困った概念です。
  まあ、あんまり概念的なところで留まっていてもわかりにくい
 だけですので、具体的な物語を使って説明をしましょう。


 ○ 03 ○ 「困ったちゃんが登場する一番分かり易い例」 ○ 01 ○ :[ 03-01 ]

  わたしが物語解析の根本となる理論を構築していた頃、どうし
 ても説明が出来ない作品に出会ってしまいました。

  当時の理論は、「人物」「舞台」「道具」の三つ独立要素のみ
 で構築されていたのですが、分析をすればするほど、この三つの
 みでは説明が出来ない。わたしは、うんうん悩んだのちに、これ
 は新たな独立要素であろうという結論に達しました。

  わたしが分析していたのは『ロミオとジュリエット』。
 (そもそもシェイクスピアの研究から生まれた理論なので、研究
 ・検証段階では、当然、シェイクスピア作品が出てくるのです。
 『ロミ・ジュリ』は何度解析したことか・・・)

  この中で、ティーボルトを殺してしまったロミオが、領主によって、
 「人殺しはこの街の法律によって追放刑」
  と言い渡されるのです。
  『ロミオとジュリエット』の中でも非常に重要なシーン。
  物語の展開に大きく影響を与えるシーンですが、なんとロミオ
 を致命的な破滅に向かわせたのは「法律」なのです。

  わたしは細かなシーン毎の人物関係図を追いながら、「領主」
 はどのような判断をするのだろうかという部分に注目していたの
 ですが、判断をしている余地もなく、「法律」により追放となり
 ます。

 「『法律』?! うーん、これは、「人物」だろうか、「道具」
  だろうか、「舞台」だろうか」

  はじめは「舞台」の付帯的性質と感じたのですが、物理法則と
 かどう? と考えると宇宙全体に問題が広がります。たとえば重
 力が通常宇宙の十億倍の宇宙とかどう?(これは、スティーブン
 ・バクスターが書いている) 魔法使いが魔法を使える国は? 
 物理法則を上手く使った解決法をしたときは?
  なんか、「舞台」で説明を付けるのは非常に困難です。

  この難問を解くのに非常に役に立ったのが、TRPG(テーブル・
 トーク・RPG)のシステムという概念と、その世界観という概
 念です。

  TRPGはドラゴンクエストのようなRPGを、コンピュータを使用
 せずに遊べるようにした(正確には逆なのだが)ゲームの一種
 で、日本ではあまり知られていませんが、本場米国では長い伝
 統といくつものエポックメイキングを持つ遊びです。
  その多くはルールブックとシナリオとエクスパンション(追
 加ルールや資料集)の形で販売され、数多くの名作と呼ばれる
 作品が波及しています。

  クトゥルフの呼び声は、禁酒法時代ホラー。
  ルーンクエストは、原始的ファンタジー。
  D&Dは、王道ファンタジー。
  トラベラーは、ハードSF。
  T&Tは、簡易ファンタジー。

  これらの作品はそれぞれ、独自のルール(その集まりがシス
 テム)と世界観を持っています。このそれぞれのゲームごとに
 設定されるルールと世界観が、この「決まり事(世界観)」に
 該当するだろう、そう考えたのです。

  シナリオ=物語と考えると、なんか、物語の外にありそうで
 すよね(^_^;
  しかし、物語だけが切り出されてしまうとどうしても考えな
 ければならないですよね。

  なんか、気持ち悪いなあ・・・、とわたしも感じるのですが、
 このような、物語の外に存在する世界観という物が、どうして
 も物語に影響を与えてしまうのだ、と考える以外に説明する方
 法がないのです。

  しかし、世界観というと、どうしても理解が困難です。
  また、世界観が問題になることは日常世界ではあまりありま
 せん。
  たとえば、『ロミオとジュリエット』の「人殺しはこの街で
 は追放刑」は世界観でしょうか。イヤですねえ、気持ち悪いで
 すねぇ・・・、というわけで、ここでは「決まり事」という言
 葉を使い、その補完をする意味で、世界観という説明を付加し
 ているのです。

  なので、
 「なんで、9字もあるんだ!」
  というのは正解です。
  でも、9字使わないと、説明できない概念なのですね・・・。


 ○ 03 ○「「決まり事(世界観)」は自由に使おう。」○ 02 ○ :[ 03-02 ]

  さて、なんか、困ったちゃんように説明をしてきた「決まり事
 (世界観)」ですが、実際のところ、この概念は、物語が現在、
 厳密には読み手にとっての現在にない限り、非常に重要な意味を
 持ちます。

  たとえば、あなたが今日の一日を物語にしたとします。
  あなたは、通勤・通学電車の苦痛を少し書く。
  しかし、考えてみてください。
  果たして、その物語は千年前の読み手に通じるでしょうか、逆
 に言えば千年後の読み手に通じるでしょうか。

  あなたがもし千年残る作品を書きたいと思うなら(そんな人は
 まれでしょうが)、千年後の人に上手く現在の事を説明しなけれ
 ばなりません。もし、あなたが現在の世界の空気感を普遍的な文
 章として残そうとすれば、それは非常に困難です。
  現在人にしか伝わらないネタで物語を組んでしまったら?
  現代人にしか通じない感情を描いてしまったら?
  残らないですよね?
 (いや、残す必要を感じていない人がほとんどですので、
  これは流しますが)

  これは反対の場合も該当します。
 (実際はこちらの方が重要です)
  単純に千年前の世界観で物語を描いたとき、現代人には全く通
 用しない常識で主人公たちは動いています。例えば中世ヨーロッ
 パは暗黒のキリスト教時代ですし(うーん、十字軍前ですか・・
 ・)、日本の1006年と言えば平安朝です。平安朝の貴族社会を調
 べれば、難解な王朝文化であったかは想像に難くない。
  ローマ帝国人の思想は現在に大きな影響を与えているので、ほ
 とんどの人が理解できるけれど、アステカ人の行動はほとんどの
 人が理解できない。

  これがサイバーパンク人であれば、アースシーの住民であった
 らと仮定の想像を巡らすと、同様に難しい。架空の世界観である
 場合は、その世界観内での登場人物たちの行動の整合性が問われ
 ます。

  いやだなあ、そんな世界観を綿密に考えなきゃいけないの?
  おそらくそう考えるのがほとんどの人のはず。
  いえいえ、そんなことは言っていません。
  「物語の中で」整合性が取れていれば、それだけで十分なの
 です。
  もちろん、「緻密な架空世界観」というのは、どんな物語表現
 媒体でも高評価を受けるポイントです。でも、物語解析の中で問
 われるのは、「決まり事(世界観)」が物語に重大な影響を与え
 たとき。ここさえ、上手く整合性がとれていれば何の問題もない
 のです。

  え? なんか消極的ですって?
  もちろん、積極的に物語に、「決まり事(世界観)」を使って
 働きかけていくことも出来ます。たとえば有名な魔法使いがいて、
 なんかこいつを苦しめたいなあ、と思ったとき、

 「魔法使いは行使する精霊の影響で不治の病に苦しむ」
 (すさまじくでたらめな世界観ですが)

  というのを勝手にでっち上げるのは、物語の独立要素ですので
 全く問題でありません。ただ、一度作ってしまった世界観ですか
 ら、それは物語のはじめから終わりまで貫徹しなければならなく
 なるのです。
  (これが「決まり事(世界観)」の強烈な縛りです)
  そのような世界観を勝手に付加した際、おそらくあなたは、物
 語の最初から最後まで見直し、おそらく致命的な不整合を見つけ
 るでしょう。たとえば、

 「っげ!! 魔法は超科学で生み出された摩訶不思議な力だって!?」

  とどう考えても精霊が出てきそうにない、適当な文章に出くわ
 すのです。
  よく読んだら、同じような記載が数十カ所に記載されていて、
 物語全体を包んでいたりします。困りますねえ・・・、全面修正
 です(というか致命的)。

  対処法はないのでしょうか。
  残念ながら存在しないのが、「決まり事(世界観)」の難しい
 ところです・・・。

  非常に分かり易い世界観であるのであれば、間違えることも少
 ないでしょうが、繊細な、特に筆致を使ってまで表現している世
 界観であれば、書き始めと書き終わりでだいぶ違っているのが普
 通です。それを読み直して、微調整して、するとまた別のところ
 で食い違いが起きて・・・(笑)。
  いやだなあ、どこかで見たことがあるなあ、と思ってしまうの
 ですが、この辺りが、架空物の傑作が生まれにくい理由なのかも
 知れません。
  フィリップ・K・ディックは数週間で長編一冊書いてしまうら
 しいので(それも異常ですが・・・)、破綻なくユニークな世界
 観を次々と作れるのですが、そうでない凡人にはなかなか難しい
 のが本当のところです。

  物語解析はそのような表現の部分にまで踏み込まず、物語構成
 だけを取り扱っているのであんまり重要でないのですが、実際に
 書くとなると、結構問題が発生する部分です。
  まあ、そんな難しいことはおいておいて、楽しい物語構成の話を。
  前置きはこんな感じにして、本題に入っていきましょう。


 ○ 03 ○  「開示される決まり事(世界観)という概念の
        簡単さと難しさ」     ○ 03 ○      :[ 03-03 ]

  さて、本格的なお話に入る前に、物語解析の定義について振り
 返ってみましょう。
  物語解析の定義では、

  動的な独立要素としての「人物」「舞台」「道具」。
  静的な独立要素としての「決まり事(世界観)」。
  この四つの要素で物語は出来ている。

  と説明してきました。
  よく見てみると、どうやらこれまでお話ししてきた「人物」
 「舞台」「道具」といったような要素とは、動的と静的という
 言葉で区別されています。また、この段まででも説明してきま
 したが、「あると言えばあることになる」という意味からも独
 立要素として同じ性質を持っているようです。
  この説明の中で、相違点があるとすれば、動的か静的かとい
 う観点です。
  これは、どういう意味なのでしょうか。
  ちょっと考えてみましょう。

  前段でお話しした中に、「決まり事(世界観)」の典型的な
 例として、「法律」が挙げられると書きました。また、説明の
 中で、ルールブック(システム)や世界観(ワールドガイド)
 であるとお話ししました。
  実際、この概念はこの二つの言葉でほぼ説明が出来てしまう
 物です。

  法律をお話の中で勝手に変えられてしまうと、かなりまずい
 ですよね。
  たとえば、『ロミ・ジュリ』において、「人殺しはこの街で
 は追放刑」でなくなってしまったらどうでしょうか。たとえば、
 途中で死刑になってしまったら? うーん、なんか、物語が成
 立しなくなりそうです。途中で、恩赦とかいう方向になっても
 まずそうです。

  『ロミ・ジュリ』の中において、この「法律」が有効な効力
 を発揮しているのは、物語全編においてそれが貫かれているか
 ら。

  ルネサンス期のイタリア都市国家の法律が「人殺しは追放刑」
 だったかどうかは、歴史的考証を経ないと解答が出ない問題で
 すが、現在のわたしたちが、それを受け入れ物語として成立し
 ていると感じているのは、物語全編においてどの人物もそれに
 対して疑問を抱くことなく受け入れ、それが首尾一貫している
 からです。現在に住んでいるわたしたちが、その法の判断を受
 け入れるのは(現在の法律に追放刑というのはないので、現在
 の常識とは乖離しているのですが)、それがその世界の決まり
 事であったと信じるに足るほど、安定した一貫性を保っている
 からです。

  これが、15世紀のイタリアが舞台であるのであれば、歴史
 考証は可能ですが、もしこれが「核戦争で崩壊し分裂した北米
 大陸」が舞台であればどうでしょう。
  どういう「決まり事(世界観)」なのだろうというのは非常
 に興味深いところですが、少なくとも考証が出来ないことは間
 違いありません。
  そして、物語というのは結構こういうその世界特有な「決ま
 り事(世界観)」に影響を受けているのです。たとえば、大正
 時代と現在の小説は当然常識が違う。現在を舞台とした小説で
 あっても、裁判系映画とエンターテイメント業界系映画では、
 その全編に貫かれる「決まり事(世界観)」は違います。

  え? 文章化しにくいですって?
  なるほど、非常にまっとうな意見です。
  それに対する回答は、んーと、ではハリウッド業界のどたば
 たをモチーフにした、TRPGのルールを作るほかないですねぇ・
 ・・、という何とも曖昧なものになります。

  さて、このように話を進めていくと、おそらく疑問に思うの
 は、ではどのように「決まり事(世界観)」を物語に反映して
 いけばいいのかという問題でしょう。

  たとえば、壮大なハードSF叙事詩を考えていて(注:ス
 ティーブン・バクスターのジーリー・クロニクルを想定して書
 いているので、参考にしたい方は該当書をお読みください)、
 地球人を主人公とし、圧倒的なオーバーテクノロジーを持った
 異星人を戦うのですが、実はその異星人は暗黒物質種族との宇
 宙を掛けた戦いをしていた(地球人は蚊のように異星人の邪魔
 をしていた)という壮大な世界観を作ってしまったとき、いっ
 たいどうやって物語に反映したらいいか、というのはかなり難
 しいですよね。
  時空を越え、別の宇宙に移動するだけのテクノロジーを持っ
 た異星人と、ちっぽけなワープ装置が常識の地球人とでは、常
 識が余りにも違います(ましてや、暗黒物質種族なんて・・・)。

  この際、実際の物語上では、「徐々に開示していく」という
 方法を採るのが一般的です。物語の冒頭で、いきなり、
 「実は、暗黒物質種族がいて、それが我々の物質世界を侵し始
  めていた」
  などと書くと、きちがいじゃないかと思われることは間違い
 ありません。
  段階を踏んで徐々に開示していくのが常套手段であって、
 たとえば

  地球人の天王星への惑星探査旅行、
  ワープ装置の開発過程、
  そのワープ装置を逆用した異星人の侵略を受ける、
  必死に抵抗する地球人、
  その過程で超文明種族がいることを知る、
  異星人を撃退、
  また別の異星人に侵略される、
  撃退してそのテクノロジーのお陰で大航行時代を迎える、
  その中であらゆる文明種族に出会う、
  しかし、その超文明種族が圧倒的であることを知る、
  宇宙第二の種族になるが、超文明種族には歯が立たない、
  次第に、何のために戦っているかが分からなくなり始める、
  実は、その超文明種族は暗黒物質種族と戦っていることが判明 <ここですか
  超文明種族は暗黒物質種族に敗北し、別の宇宙へ旅立つ、
  残された地球人は退廃の一途を遂げる・・・。

  な、長い・・・。
  非常に丁寧な世界観の開示が行われているのが分かるでしょ
 うか。
  一町村から始まって、都道府県、関東、本州、日本、アジア、
 環太平洋、世界、太陽系、オリオン腕、銀河系、乙女座銀河団
 と進展していく物語があったと仮定して(かなり壮大なストー
 リーですが・・・)、一つ上のカテゴリに上るたびに、常識が
 変わっていくというのはとても受け入れやすいのです。

  これがいきなり、一町村からオリオン腕へ飛躍してしまうと、
 とんでも無いことになってしまいます(まあ、それもありとい
 う話もありますが・・・)。
  子供の頃の近所のみを考えていた子供が、いきなり異星人に
 さらわれて、

 「君はオリオン統一連邦法第48分類第2034規則196条
 の324、52項13号に該当する。それは違法行為だ。君は
 オリオン統一連邦法をなんだと思っているのかね」

  と言われても、さすがに意味不明です(オリオン統一連邦っ
 てなんだ?? と思いながら。というかわたしも何に該当した
 のかはさすがに見当もつきません 笑)。
  こうなってしまうと、どんなに精緻にオリオン統一連邦法を
 書いていたとしても、読み手によっては意味が分からないので
 す。
  もっとつっこんな事を言えば、いきなりオリオン統一連邦か
 ら始まる物語であっても、その世界観は理解に困難が存在する
 のです。
  そう、どんなにオリオン統一連邦法を細かく書いていて、そ
 のあなたの連邦法がどんなに論理構成がすばらしく、完成され
 た法体系であっても、それは理解されないのです。
  これが難しいところです。

  うーん、このような部分が分かってくると、『ゲド戦記』は
 世界観の開示のバランスがちょっと悪すぎた、と一言で説明し
 ても、あー、そうか、なるほど、と納得がしやすいのではない
 でしょうか。


 ○ 03 ○「問題として再浮上する、「舞台の付帯的性質?」」○ 04 ○:[ 03-04 ]

  さて、こうやって話を進めてくると、
 「あれ、やっぱり「決まり事(世界観)」って、舞台に従属する
 んじゃないか?」
  という疑問を感じるんではないでしょうか。
  法律、風俗・習慣、宗教、文化、物理法則・・・。
  うむ、何か舞台に従属しそうです。

  そうそう、これがわたしも実は舞台の付帯的性質じゃないかと
 考えた原因なのですが、「舞台」の物語的性質を考えたとき、ま
 た「舞台」から隔離して「人物」自身のポリシーのような(たと
 えば、宗教的に豚は食べれないとか)場合、さらに「道具」を隔
 離したような(たとえば、硫酸を掛けると溶けるとか)場合、こ
 れは「決まり事(世界観)」として隔離した方が、実はよいので
 はないかという結論に至るのです。
  そしてまた、そうした方が有効であることが多いのです。
  いやー、なんか、気持ち悪い(^_^;
  いたって気持ち悪いのですが、何となくそうした方がよさげな
 事は分かるでしょうか。
  もし頭が混乱してきたのなら(笑)、例示したシステムと世界
 観の地点に戻るといいでしょう。結局なんなの? と言われたら、
 あー、うーん、いえ、その、うーん。システムと世界観を動的独
 立3要素と分けたってだけなんですよね・・・、と答えて逃げる
 以外はなさそうです。
  いや、苦しい・・・。

 (しかし、まぐまぐの600行制限がなくなると、無制限にいけ
 るから怖いですね・・・。何行目? おっととりあえず三十枚
 (一万二千字)は超えてるよう。もっと、コンパクトに切りつめ
 よう・・・)


 ○ 03 ○「「決まり事(世界観)」は与えた影響を追っていくと
      分かり易い」              ○ 05 ○:[ 03-05 ]

  さて、では「決まり事(世界観)」を記載する(設定する)場
 合には、システムや世界観を一から全て書き上げなければならな
 いのでしょうか。
  これはたぶん意見の分かれるところです。
  緻密な世界観をすべて構築し終わってから物語を書く人もあり
 ますし、微修正を繰り返しながら調整していく人もあります。

  ハリー・ポッター・シリーズのJ・K・ローリングは、世界に
 関する設定を一つ一つカードに書き留めるという事を10年続け
 た後に(ここで緻密に世界観を設定している)、第一作を書きま
 した。

  クーンツは自著の中で、物語の構成さえせずに、第一文の書き
 出しから思いついたままに書くと述べていたりします。

  フィリップ・K・ディックは、物語の中で論理破綻してしまい、
 後に自著を語ったインタビューの中で、あれはひどかったと述べ
 ていたりします(というか天然すぎ・・・) 。

  ラブクラフトはまず事実を詳細に連ねた原稿を緻密に書き、
 その後、読者の視点を考慮して実際の小説の原稿を書くと述べて
 います。

  ディック・フランシスはまずクライム(犯罪)から考え、どう
 も世界観(舞台となる国の緻密な描写)は奥さんのリサーチに
 頼っていたというのが通説です(実際に、どのようなチームプレ
 イであったかは不明)。ついでにいうと、ディック・フランシス
 は他の作家が、第一稿を書いた後、それを一切流用せずに第二稿、
 場合によっては第三稿を書くと言うことは信じがたいと述べてい
 ます(書き直してるらしいです)。

  水野良(あー、海外作家で統一できなかったか・・・)は、世
 界観や人物像を確定するために、それぞれの人物をまず短編とし
 て書き、その後、長編を書くとその創作方法を伝授してくれてい
 ます。ちなみにダン・シモンズも『ハイペリオン』シリーズでこ
 れと同じ方法を採っているようで、全く参考にはならないでしょ
 うが、わたしもこの方法で上手く行くことを確認しました(容易
 に深い世界観が描けるようになるんですね。書いたものも無駄に
 ならないし・・・)。

  また、シェアード・ワールド(共有世界観)という概念も、ラ
 ブクラフト以降に広がり、仕事として物語に関わる人のほとんど
 は、この概念の元に働いている事でしょう。実務としてこの共有
 世界観をまとめた内部資料を作ったことがあって、この際、もっ
 とも参考になったのは、ガンダムの設定資料でした。サンライズ
 系の設定資料集は、日本最高峰の架空世界観物語クリエイティブ
 集団ということもあって、かなり充実しており、読んで楽しく、
 無駄なく、想像力を刺激する内容になっています。

  と、並べてみるとかなり困難なことを要求してますよね(^_^;
  いやー、ドラえもんの大長編を分析するのに、いちいちそんな
 詳細な苦労はできないよ、とはもっともなことです。シェイクス
 ピアを分析するのに、ルネサンス期の時代考証をするのはあまり
 にも酷です。

  分かり易い例として、『恋に落ちたシェイクスピア』というア
 カデミー賞作品があって、おなじみの『ロミ・ジュリ』を題材に
 した作品があるのですが、冒頭でいきなりシェイクスピア好きを
 爆笑させるむちゃくちゃな設定に出会います。ナレーションで、
 シェイクスピアの芝居小屋の名前を言うのですが(史実は
 『グローブ座』)、ここで、『ローズ座』(薔薇座)と意味あり
 げにいうのです。「ザ・ローズ」です。

 「おい! ルネサンス期を根本的に間違って理解してるぞ!!」

  またラストが『十二夜』を『ロミ・ジュリ』の後に書いたこと
 になっているのですが、これも完全に執筆時期が違います。
  でも、わたしはそれでもいいと思うのです。
  映画としての『恋に落ちたシェイクスピア』に矛盾がなければ
 いい。
  世界観が正確であるかどうかは、物語の本質的な面白さとはま
 た別個のものなのです。

  シェイクスピア作品でも、『ロミ・ジュリ』はイタリアの実在
 の都市ヴェローナを舞台としていますが、当然シェイクスピアは
 イタリアなんか行ったことはないでしょうし、その原作も同じ英
 国人である詩人の物語詩をベースにしています(その物語詩は、
 イタリア・ルネサンス期の小説を参考にしており、その原典はギ
 リシャ系ローマであるとされています)。
  まあ、そうですね。
  つい最近の映画であるラスト・サムライ程度の信用性といった
 ところでしょうか。
  われらがシェイクスピアからして、リアリティはあまり重要視
 していないのです。
  かなり史実がしっかりとしている『ジュリアス・シーザー』に
 しても、塩野七海にブルタークだけ読んで書いた、めちゃくちゃ
 であると断罪されていますし(あー、いや、ブルターク読んだだ
 けで書けちゃう人が凄まじいのですが)、『ハムレット』も史実
 を元にしていますが歴史的にはめちゃくちゃで、第一、この作品
 は別の英国人劇作家が書いたものを書き直したものという研究結
 果が出ています。
  そうですねぇ。忠臣蔵とかって史実を結構無視しているって思
 わない? という言葉がもっとも適切なのでしょうか。

  もちろん、『恋に落ちたシェイクスピア』のスタッフが史実を
 知らないはずがない、調べないはずがない。だけど、ここではあ
 えて『ローズ座』にしたわけですし、『恋に落ちたシェイクスピ
 ア』もその宣言通り、ローズ色に染まっています(あー、薔薇族
 といういみではない)。
  結果はアカデミー賞。
  それでいいのではないでしょうか。

  物語の解析をする際、この世界観は、
 「他の三要素にどのような影響を与えたか」
 「それは首尾一貫しているか」
 「矛盾する世界設定は設定されていないか」
  といった観点から見ていくことになります。
  たとえば、『ロミ・ジュリ』における「殺人は追放刑」はロミ
 オをヴェローナにいることが出来なくしました。
  その影響は首尾一貫しています。
  矛盾する法律は登場しません。
  なるほど、問題ない、という結論になるのです。

  何かずいぶんと観念的な話になってしまいましたが、ガイダン
 スとして受け入れておくべき前提を提示したという意味で役割を
 果たしているのではないかと思います。

  次回以降は、世界観の具体例を分類しつつ挙げながら、その構
 造がどのようになっているのかを説明しながら話を進めていきた
 いと思います。
  「決まり事(世界観)」という概念はあまりにも希薄でとらえ
 どころがなく、結局のところケーススタディにならざる終えない
 と感じるからです。


 ● 04 ● おわりに                      :[ 04 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
  物語解析、最後までお読みいただきありがとうございました。
  最も難解なパートとしてお届けした「決まり事(世界観)」ガ
 イダンスですが、実作業をする際に、最も注意しなければならな
 いパートですので結構重要な事が大量に並ぶ形となりました。

  書く際にシェアード・ワールドの創始者であるラブクラフトの
 評論、「恐怖小説覚え書(原題:Notes on Writing Weird Fiction)」
 を読みながら(ちなみに、読んでいるのは『定本 ラブクラフト
 全集 7-1 国書刊行会』<おそらく絶版)、格調高い文章で、
 かなり難しいことを書いているなあと思いました。
(国会図書館にはあるはずなので、どうしても読みたかったらそこで)

  「決まり事(世界観)」は書き手の創作術にどうしても迫らな
 ければならず、迫れば迫るほど奥深さが見えてきます。昔の日本
 人の論評は青空文庫でごっそり手に入りますので、そちらを参考
 にしてください。

  「決まり事(世界観)」の問題から、わたしはローマ史を読む
 ようになり、各神話を読むようになり、膨大な書籍を読むように
 なりました。ただ難しいのは、ではその知識をいかにして使うの
 かという部分。問題を突き詰めていくと、創作術までたどる事に
 なります。

  本当のことを言うと、この「決まり事(世界観)」が書くとい
 うことの核心なのではと感じます。
  まあ、難しく考えない。
  自分がいいと思うことを書くのが一番です。

  というわけで、次回をお楽しみにしていただけると嬉しいです。

  それでは、また。

  (結局、600行強で収まったなあと思いつつ)

 ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■―― ■ ―― ■
                          第十六号   2006/09/10
   「 物 語 解 析 」
    〜 要素による解析基礎 「決まり事(世界観)」ガイダンス 〜

 発行者:hikali
   文:hikali

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