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                           第九号   2001/09/11 
   「 物 語 解 析 」 
    〜 要素による解析基礎 「舞台」 概念編(上) 〜 

 「今号を要約!」 舞台と決まり事(背景)を混同してはいけない! 

  動的独立要素と静的独立要素について。独立要素というこの要素による解析の 
 根本的な部分に踏み込んでいます。「独立要素であれば、何の説明もなく物語に 
 登場しても、誰も疑問に思わない」が一番重要な部分。 
  舞台の「内部にあるもの」について解説しています。 

  - - - -< 今号の中身をピックアップ! > - - - - - - - - - - - - - - - - - 
 《 本文 》                          《ページ& 
                                 落書き欄》 
                                 (^_^; 

   01:はじめに                       :[ 01 ] 
     ――アンケートの結果について 

   02:要素による解析ってなに???             :[ 02 ] 
     ――独立要素と、その分類「動的」「静的」について 

   03:解析術講座 「要素による解析 「舞台」概念編(上)」 :[ 03 ] 
    03-01:「内部にあるもの」                :[ 03-01 ] 
        ――内部にあるものの意味について 
    03-02:「痕跡と出現の可能性」              :[ 03-02 ] 
        ――痕跡と出現の可能性がある 
    03-03:「痕跡」                     :[ 03-03 ] 
        ――痕跡をどう使うかについて 
    03-04:「出現の可能性」                 :[ 03-04 ] 
        ――出現の可能性をどう使うかについて 
    03-05:「まとめ」                    :[ 03-05 ] 
        ――まとめです 

   04:諸所雑感 「この夏の映画!」             :[ 04 ] 
     ――あの三作品についてお話しています。 

   05:おわりに                       :[ 05 ] 
     ――今後について。 

 ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ http://www.seikou-toutei.com/nmk/index.html ■


 ● 01 ● はじめに                      :[ 01 ] 
  ̄ ̄ ̄ ̄ 
  こんばんわ! 物語解析のhikaliです。 
  台風ですね! みなさんのところも吹き荒れていますかぁ! 
  ……と、テンション高く始まりましたが、とくに台風に合わせて 
 の発刊というわけではありません(^^; どーも、遅れてすみませ 
 んでした。ようやっと「舞台編」がまとまりました。 

  そうそう、前回の「夏休み特別号!」では、多くの方々にご協力 
 頂き、本当にありがとうございました! どのようなジャンルの物 
 語を普段よく楽しむかというアンケート形式の物だったのですが、 
 続々と集まる一票をドキドキしながら見ていました。その結果、 

 1. ファンタジー   24% 
 2. SF       14% 
 3. ミステリ(日本) 13% 

 それ以外の結果の詳細はこちら  
 http://clickanketo.com/cgi-bin/a.cgi?q00006549a40 

  という結果になりました。メルマガの中身自体がなかなかマニ 
 アックなだけに、ハードボイルドとか、歴史物、神話・伝説が強い 
 かななどと思っていたのですが、ファンタジー・SF・ミステリ 
 (日本)と根強いファンがいるジャンルが上位に並びました。今、 
 ハリー・ポッターで勢いに乗っているファンタジーは全世界的な 
 ブームですよね。今年の冬にハリー・ポッターが映画化されますし、 
 それを前座にして来年春にはありとあらゆるファンタジーの大元締 
 め「指輪物語」がついに映画化されます。予告編を見たのですが、 
 「世界中で最も望まれていた映画」というコピーから入り、その後、 
 映画史上空前と思える壮大さで、いくつものシーンが描かれている 
 のを見て、気が早いのですが早く春がこないかな、その前にとりあ 
 えずハリーポッターでも見て、お祭り気分になっておこう、なんて 
 思ってしまいました(^^; 
  もう、これはファンタジーで行くしかないと(^^; 次々回の 
 「舞台」実践編の題材は、日本のファンタジーブームの火付け役と 
 なったあの作品を取り上げますよ! わかりますか? 「ロ」で始 
 まる題名の物語です。 

  さて、浮かれている場合ではありませんね。気を取り直して、久 
 しぶりの物語解析に戻りましょう。今回は、要素による解析の「舞 
 台編」なのですが、いつの間にこんなに長くなってしまったのだろ 
 う??? と首を傾げるほど長くなってしまいました(^^; 
  かなりの部分を無駄かなと、殺ぎ落としたのですが、まあ仕方あ 
 りません。とりあえず、第九回の今回を「舞台概念編(上)」、次 
 回の第十回を「舞台概念編(下)」、十一回の次々回を「舞台実践 
 編」としてお送りすることにしました。 
  ご容赦頂けると幸いです。 
  また何か分からない事等ありましたら、お気軽に声をかけて下さ 
 いませ。分かりにくいだろうなぁ、もっともっと分かりやすくした 
 いなといつも思っています。 
  それでは、なるべく多くの人のお役に立てることを願って、物語 
 解析、はじめちゃいましょう! 


 ● 02 ● 要素による解析ってなに???            :[ 02 ] 
  ̄ ̄ ̄ ̄ 
  これまでの物語解析では、物語は「人物」「舞台」「道具」「決 
 まり事(背景)」の四つに分かれ、その四つの働きを調べることに 
 より、物語をかなり正確に把握できるというお話をしてきました。 
  「人物」に関しては、第六号、第七号を通して、大雑把ではあり 
 ますが、お話ししました。今回は、「舞台」についてお話したいと 
 思います。 

 ○ 02 ○ 舞台は境界線が難しい ○ 01 ○            :[ 02-02 ] 

  「舞台」を理解するのはなかなか難しくあります。これは、「決 
 まり事(背景)」と混同しやすい事に起因しています。特に多いの 
 は「市の法」というものが物語に大きな影響を与えているというよ 
 うな時に、「それは市という舞台に存在する特徴だ」と思ってしま 
 うことです。 
  確かに地方色豊かな世界においては何となく理解できる考えでは 
 あるのですが、現実世界で「仲間内にだけある不文律」のような物 
 と比較して考えた場合、これは同類だと思えてきます。歴史などで 
 は普通、「ヴェニスにはこのような法律があった」と都市の名前を 
 主語にすることが多いため、誤解が生まれるのですが、物語のよう 
 にこれと言った分析の方法が確立していない全く別の世界でこの歴 
 史的な常識を考察してみると、どうもこれは舞台の特徴でない気が 
 してくるのです。 
  例えば、家の門限は11時という決まりがあったとします。です 
 が、これを決めるのは舞台でしょうか。とても「市の法」と似通った 
 「決まり事(背景)」ですが、実際にこれが関係しているのは、厳 
 格なお父さんとその娘のような気がしてきませんか? もし、この 
 「決まり事(背景)」を変えるために、大学生である娘さん働きか 
 ける要素は舞台でしょうか。お父さんなのです。家の特徴であるは 
 ずの門限を変えるには、お父さんに働きかけるとは、とてもおかし 
 な話です。意味が分からなくなってしまいます。 
  ですから、舞台の特徴として「市の法」があるのではなく、どう 
 やら全く別の要素で、だがしかし強い関係を結ぶ傾向にあるとした 
 方がどうやら良いようだという結論たどりつきます。 
  もっと分かりやすく言いましょう。 
  「舞台」と「決まり事(背景)」を混同してはならない。 
  分かりましたか(^^; 乱暴で、直感的には分かりにくいかも知 
 れませんが、ここをはっきりと区別して物語を眺めた方が、多くの 
 ことを物語より発見することができるように思うのです。 

  さて、では「舞台」とはどのような要素なのでしょうか。もっと 
 積極的に言えば、「決まり事(背景)」と「舞台」の境界線はどこ 
 なのでしょうか。これは「人物」と「道具」と他の「舞台」との関 
 係に秘密が隠れています。 
  例えば、 
  「霧のロンドンにやってきたのは間違えだったような気がする。 
 確かにレインコートは雨をしのぐのに役立つが、道行く人にちんち 
 くりんの東洋人と面白がられるをしのぐのには不充分なのだ」 
  という物語があったとき、ロンドンという「舞台」より「主人公」 
 「道具」に引かれる関係線を考えるとこれが割とよく分かります。 
  どこまでが「舞台」の領域なのでしょうか。 
  例で挙げた文章のうち、ロンドンに関係がありそうなのは「霧(雨)」 
 と「ちんちくりんの東洋人と面白がられる」の部分です。このうち 
 の片方は舞台に含まれ、もう一方は「決まり事(背景)になります。 
 どちらがどちらか分かりますか? 
  結論を言えば「霧(雨)」は舞台に含まれ、「ちんちくりんの東 
 洋人と面白がられる(といいますか、その頃のロンドンでは東洋人 
 が滑稽に見えた、でしょうか)」は決まり事(背景)に含まれます。 
  これをご説明するために、これまで難しすぎると思ってお話して 
 こなかった事をお話して行きたいと思います。これまでしばしば出 
 てきた言葉ですよ。 

 ○ 02 ○ 独立要素 ○ 02 ○                  :[ 02-02 ] 

  さて、実はこれまでお話ししてこなかった事に「人物」「道具」 
 「舞台」で物語を表すとき定義の深いお話と、「決まり事(背景)」 
 の特殊性があります。 
  定義はこうでした。 
 「物語の中において、他に従属せずに存在でき、動的に物語に影響 
 を与えることができる要素は、人物・舞台・道具の三つしかない。 
 静的に物語に影響を与える、独立した要素としてもう一つ、決まり 
 事(法律など)が存在する」 

  第五回でお話ししたのですが、覚えていらっしゃるでしょうか。 
 恐らく、とても堅苦しく感じたり、なにやらよく分からないけどそ 
 うらしいとお感じになったのではと思います。今、読み返してみる 
 とその難解さの原因が分かるかと思います。ご説明していない言葉 
 があるのです。つまり、 
  ──「他に従属せずに存在でき」「動的」「静的」「独立」 
  が、これまで意味をご説明してこなかった部分なのです。 

  この物語解析ではしばしば「独立している」「従属している」と 
 いう言葉を使っています。「鏡面世界の登場はザンダクロスに従属 
 している」というようなような使い方です。例に挙げた文章は第七 
 回の解説のものですが、この時の意は、「鏡面世界の登場というイ 
 ベントはザンダクロスを動かすためにの登場したのだから、これは 
 ザンダクロスとセットで考えられ、物語を新たに広げる「登場」で 
 はない」というものです。鏡面世界が強い独立性を持ち始めるのは、 
 所有がリルルに移ってからで……、と解説が続くのですが、本筋か 
 ら脱線してしまうので止めにしましょう(^^; 

  では、この独立とはどのような意味で使われているのでしょうか。 
  これは端的な言葉で言い表すことができます。 
  「独立した要素は単独で存在できる」 
  つまり、ある要素が物語に登場するということに、他の要素の手 
 助けを必要としないということです。 
  例えば、こんなストーリーを作ったとします。 

  「殺人事件が起こる」→「謎は深まるばかり」→「でも一筋の光 
 明が」→「真相が分かった」 

  このようなストーリーでは物語を構成することが出来ないことが 
 分かります。例えば「殺人事件」とはどのような事件なのでしょう 
 か。「誰々があの人に殺されて」と必ず他の要素の手助けが必要に 
 なってしまいます。では、独立要素でストーリーを組んで見ましょう。 

  「きみ子さんが殺された」→「殺された部屋は戸締まりがして 
 あった」→「でも部屋から血に濡れた凶器が」→「指紋から犯人が 
 ひろし君と分かった」 

  誰も、「殺された部屋は戸締まりがしてあった」という事実に対 
 して、存在に疑問を感じることはありませんよね。物語中に突然に 
 「ひろし君」という何の説明もない人物が登場しますが、なんの疑 
 問もなく「ひろし君」という人物が登場したことを受け入れる事が 
 できます。 
  分かりにくいでしょうか。では、「凶器」を「ブーメラン」にし 
 て見ましょう。違和感がありますか? もっと大胆に「凶器」を 
 「レーザー粒子砲」にして見ましょう。「ああ、SFなのかな?」 
 と思うぐらいかも知れません。SFが分かる人には、「れ、レーザー 
 粒子砲ってなんだ??? レーザーは粒子じゃない!」とやっとお 
 叱りを受けることが出来るのですが(^^; それでも「光が粒子であ 
 る架空世界の物語なのです」と苦しい言い訳をしてしまえば、なん 
 とか成り立ってしまうのです(かなり無理がありますケド…)。 
 もっと極端にするならば、「凶器」を「ブーンメラ」にしてみて下 
 さい。「ブーンメラ」は私が勝手に作ってしまった名前です。でも、 
 ブーンメラという何かがある事に疑問を抱くことはないのではない 
 でしょうか。不思議ですよね。 
  では、独立要素で組んでいない方の「殺人事件」を「観光旅行」 
 に変えてみましょう。さっぱり意味が通らなくなってしまいます。 
 「観光旅行」がいけないのでしょうか。では、より近い「交通違反」 
 に変えて見ましょう。法律を犯すという意味で同じなのですが、こ 
 れまたさっぱり意味が分かりません。本質的には全く同じ事をして 
 いるのですが、独立要素であるかどうかでこれだけの差が出てしま 
 うのです。 

  この「独立要素は単独で存在できる」という定義は、要素によって 
 物語を考える際に大きな自由度を保証してくれます。既存の物語を 
 要素自体と要素の関係によって把握できると、その関係を壊さずに 
 全く別の物に変換する事が出来るのです。かぐや姫の月から来た牛 
 車を宇宙船にしたり、浦島太郎の亀を潜水艇にするとどうでしょう。 
 昔話をSFにしたり、現代物にする事がとても容易であると分かる 
 のではないでしょうか。つまり、「ブーメラン」はいつでも簡単に 
 「レーザー粒子砲」になるのです。 

 ○ 02 ○ 動的独立要素と静的独立要素 ○ 03 ○         :[ 02-03 ] 

  さて、独立要素という言葉の意味が分かりました。 
  では、動的・静的の意味はどのような意味なのでしょうか。 
  これもとても端的な言葉でご説明する事ができます。 

 「ストーリーを自らの行動によって動かすか、他の要素の行動に 
  よって動かすか」 

  ちょっと難しいでしょうか。ですが、この部分はとても重要なの 
 です。 
  観客の立場になるとどうでもよい差のように感じるのですが、こ 
 れを使いこなせるかどうかが、腕の見せどころなのです。舞台はど 
 うしても静的に感じてしまいます。そのため、舞台の動的な部分を 
 生かせないという損をしてしまっているのです。例えばタイタニック号 
 は沈没します。これはとても動的なのです。道具も同様です。動的に 
 感じられないのですが、道具は壊れる事が出来ます。なぜあれほど 
 ハリウッド映画では色々な物が故障するのでしょうか。 
  これは単純に言ってそのような人たちが動的に動く可能性を秘め 
 たものを、物語に対して働きかけさせることに習熟しているからに 
 他なりません。ありとあらゆる「人物」が「舞台」が「道具」が全 
 力を持って物語をダイナミックに動かすのです。映画の世界では、 
 「人物」「舞台」「道具」の魅力を最大限まで生かし切らなければ、 
 なかなか面白い物を作ることが困難なのです。 

  さて、動的・静的の話に戻りましょう。 
  先に挙げた四つの独立要素の中で、「決まり事(背景)」だけは、 
 動的に物語に影響を与える事が出来ないことが分かると思います。 
 つまりこの部分が、「舞台」と「決まり事(背景)」を分けている 
 境界線なのです。 

  先ほどのロンドンの例を思い出してみて下さい。「霧(雨)」は 
 舞台の一部で、「ちんちくりんの東洋人と面白がられる」は決まり 
 事(背景)とお話しました。この境界線はここにあるのです。 

  「霧(雨)」はどうやって物語を動的に動かすのでしょうか。例 
 を挙げてみましょう。 

  「腹立ち紛れに街を歩くのも疲れ、もう今日は帰ろうかとひとみ 
 が踵を返すと、計ったように驟雨がアスファルトを叩き始めた。鞄 
 を傘にしながら悪態をつき、駆け込もうとしたカフェの軒下に、ひ 
 とみは思いがけない人の姿を見つけた。鞄が歩道に落ちて濡れるの 
 にも気付かず、ひとみは呆然と見つめた。そして視線が合わさった」 

 はい、動きました(^^; とても分かりやすいと思います。 

  一方、「ちんちくりんの東洋人と面白がられる」はもうお分かり 
 のように、人を介さなければ物語を動かす事が出来ません。例を挙 
 げれば、 

  「僕が入るとパブの親父はカウンターの向こうから好奇の視線を 
 投げた。手前の出来上がった老人がそれに気づき、「刀と頭のピス 
 トルは持ち込み禁止だ」とげらげら笑った。僕は本をカウンターに 
 置き、コートを脱いで隣に座った。「それと同じのを頼む……」僕 
 は老人のグラスを指した」 

  どうでしょうか。必ず媒介である何らかの要素が必要なのです。 
  舞台の特徴である以前に、人物の特徴のような気がしてきません 
 か。もっとはっきりと言えばロンドンの問題ではなく、当時のロン 
 ドン人の意識の問題とならないでしょうか。舞台以外の何かと強い 
 関係を結び、もちろん舞台にも関係している。何かゴーストのよう 
 に得体の知れない不気味さがありますよね。ですが、よく考えてみ 
 ると幽霊と違って自らの意志で何らかの行動をする事が出来ません。 
 つまり静的なのです。 

  お分かりでしょう。これが「決まり事(背景)」なのです。 
  第五回に、「どうしてもこれを分離しなければ説明しきれなく 
 なってしまう」とお話しした厄介者なのです。 


 ● 03 ● 解析術講座 「要素による解析 「舞台」概念編」   :[ 03 ] 
  ̄ ̄ ̄ ̄ 

  長々と話してきましたが、やっとここからが本題です。つまり舞 
 台という要素の特徴をお話をすることとなります。舞台には、比較 
 的多くの特徴があるのですが、とても全てをご説明しきれないと思 
 いますので、今回はごくごく基礎的な部分に止めておくことにしま 
 す。 

  舞台という要素を見るとき、このような点に注意してみると多く 
 の事が分かります。一つは、「内部にあるもの(可能性も含む)」、 
 二つ目が「外部との接点」、最後が「状況の変化」です。この三つ 
 をとりあえず駆け足でお話するのですが、、冒頭でお話しました通 
 り、今回は「内部にあるもの」をお話しし、次回に「外部との接点」 
 「状況の変化をお話する事に致します。 

 ○ 03 ○ 「内部にあるもの」 ○ 01 ○             :[ 03-01 ] 

  ある舞台の中に、どんな要素が存在しているかはとても重要です。 
  例えば、全く同じ三台の馬車があって、それぞれの馬車に一人、 
 計三人の旅人が夜露をしのぐために椅子の下で眠ってしまったとし 
 ます。気付かぬうちに朝になり、ふと目が覚めると、馬車が動き始 
 めています。そのとき、三人の旅人は気付くのです。一人の馬車に 
 はお姫様が乗っていました。もう一人の馬車には金銀財宝が積まれ 
 ていました。最後の馬車には鬼将軍が恐ろしげな顔つきで乗ってい 
 たのです。 
  この三人の旅人はそれぞれにどんな結末を迎えるでしょうか。彼 
 らは全く同じ条件で夜露をしのぐ馬車に入ったのです。ですが、朝 
 になって何が中にやってきたかで彼らの運命は大きく変わってしま 
 います。分かりやすいですよね。内部にある物(との関係線なので 
 すが)は舞台を大きく特徴付けます。 

 ○ 03 ○ 痕跡と出現の可能性 ○ 02 ○             :[ 03-02 ] 

  ですが、こんなにも理不尽に三人の旅人が運命に持て余されるの 
 はどうも観客からみると、面白くないことのようです。現実とは違 
 いますが、決して見ることの出来ない関係線を何とか三人の旅人た 
 ちに見せてやらないことには、観客は理不尽な物語だと憤慨してし 
 まうに違いありません。 
  ここで現れてくるのが、「痕跡」と「出現の可能性」という技術 
 です。この技術は伏線という言葉に置き換える事の出来る物です。 

 ○ 03 ○ 「痕跡」 ○ 03 ○                  :[ 03-03 ] 

  「痕跡」は比較的分かりやすい概念だと思います。他の要素と舞 
 台とが何らかの強い関係を持っていれば、その影響がその舞台にも 
 現れるという考え方です。NHKの番組に「誰もいない部屋」とい 
 う、誰かの部屋を撮影してその人の職業を当てる番組があったので 
 すが(今もあるのでしょうか?)、まさにそれです。この概念は、 
 コナン・ドイルによって限界まで酷使されるようになります。つま 
 り、シャーロック・ホームズはその痕跡を見ることによって、なん 
 とそこで何が起こったかまで分かってしまうのです!!(笑) 馬 
 車と三人の旅人の物語では、例えばこんな痕跡があります。 

  金銀財宝の馬車は床がたわみ、何か重い物を引きずったような跡 
 があります。それに気付いた旅人は、馬車で運ばれる重い物とは何 
 だろうと想像を巡らすことが出来ます。 
  鬼将軍の馬車は、腹立ち紛れにつけられた拳の跡があるかも知れ 
 ません。それに気付けばあなたはどうしますか? この旅人は短気 
 な人が乗ってくると想像出来ます。 
  お姫様の馬車は、深い悲しみによってこぼれた涙の跡を見るかも 
 知れません。旅人は椅子の下に残る新しい涙の跡を見ながらどんな 
 夜を過ごすのでしょうか。次の展開がどうなるのかわくわくして来 
 ますよね。 

  痕跡は、舞台にやってきた人物に次の行動のための準備と心構え 
 をさせる事が出来るのです。たとえ、観客があなたの物語を理不尽 
 だと思っていなくても、この技術を駆使することが、物語を面白く 
 すると思いませんか! 

 ○ 03 ○ 「出現の可能性」 ○ 04    ○           :[ 03-04 ]  

  「出現の可能性」は、実は前回の「夏休み特別号!」でお話しし 
 てきた概念です。ですので、あまり説明を必要としないかも知れま 
 せんが、一応しておきましょう。 

  この概念は、誰がそこに存在しえるかを想像させるチャンスを与 
 え、観客にある要素の登場を受け入れやすくする技術です。痕跡と 
 の違いは、それが舞台の内部に残っているのではなく、舞台と他の 
 舞台との関係線によって想像をさせるという部分にあります。地元 
 の高校生の開いたパーティーと大統領のパーティーとでは出席する 
 人物の顔ぶれが大きく変わってきます。また、ヒッチハイクをする 
 際にどんな人物に出会うかに例えれば、ビッツに乗った場合と、ス 
 カイラインに乗った場合と、ジャガーに乗った場合では、そこで出 
 会う持ち主は大きな差があるでしょう。もちろん、そこから続く物 
 語も大きく違ってくる事になります。通勤電車では、どのような駅 
 に停まるかが問題です。 

  馬車と三人の旅人の例ではどうでしょうか。これは少し説明が難 
 しいですので、もう一シーン付け足すことにします。 

  「戦乱吹き荒れる土地に、三人の旅人はそれぞれにやってきた。 
 王城に近づくにつれ荒廃の度が増して行く光景をみて、最近、戦火 
 がこの国を呑んだ事を知った。だが、手持ちの金も食料も乏しく、 
 旅人は夜露をしのぐ場所を確保する事すら厳しかったのだ。暗闇を 
 しばらく歩く後に、旅人は繋がれたままの馬車を見つけた。三つの 
 馬車が縦に並んでいる。それはまるで今にも出発をしようとしてい 
 るように見えた。だが背に腹は代えられない」 

  さて、ここから始めましょう。三人の旅人はどのような存在の可 
 能性をその馬車に見ることが出来るのでしょうか。ここで重要に 
 なってくるのは、この三人の旅人に与えられるのは、想像をする 
 チャンスという限定的なヒントのようなものであり決してそれによ 
 り答えに辿りつくという事ではないこと、そして、物語が先に進む 
 事によって登場する要素を、観客に受け入れやすくすると言うこと 
 なのです。分かるでしょうか。この技術は決して三人の旅人を救って 
 はくれないのです(^^; 

  まず、「その国に戦争があって負けたようだ」という事、「戦争 
 に負けたのは最近である」こと、「馬車は今にも出発しそう」な事 
 が分かります。これだけでしょうか。そう、これだけです。これだ 
 けでは、判断が付きませんよね。三人の旅人はあまり考えずに馬車 
 で夜露をしのぐと思います。 

  三人の旅人が眠りにつき、朝になると物語は無情に進みます。 

  「朝靄の中、未だ戦禍の傷が癒えない城から、一群が勇み脚で歩 
 いてくる。黒い軍馬に騎乗した兵が道を先導し、その後ろの厳めし 
 い表情をした銀鎧の男が、続く長槍の列を急がせた。戦利品だろう 
 か。いくつもの重厚な箱を兵たちが粛々と運ぶ。冷酷な眼でそれを 
 見ていた銀鎧の視線が、最も高価な戦利品に向いた。返り血の染み 
 着いた鎧に囲まれた白い寝装の少女は、一族を襲った悲しみに耐え 
 られないのか、泣いていた」 

  こうなると馬車にどのような順で乗るかは分かるのではないで 
 しょうか。つまり、一番前が将軍、二番目にお姫様、三番目が金銀 
 財宝です。 

  三人の旅人にはなんの恩恵も与えてくれないのですが、見ている 
 観客はなるほどと思うのではないでしょうか。これが「出現の可能 
 性」の技術なのです。 

 ○ 03 ○ まとめ ○ 05 ○                   :[ 03-05 ]  

  さて、とても尻切れとんぼで申し訳ないのですが、とりあえず、 
 内部にあるものについてお話しました。ほんとはここから面白く 
 なる部分であり、私としても、とても悔しいのですが、なるべく、 
 早く続きをお伝えしたいと思いますので、とりあえずここまで。 
  物語を舞台によって構築するという内容が、次回以降になって 
 しまうのです。もう完全に出来あがっている部分なので、それを、 
 お伝えするのが次回になってしまうのが残念です。次回をお楽しみ 
 に。次回は、「外部との接点」――積極的閉鎖と消極的閉鎖のお話、 
 「状況の変化」についてお話します。 

 ● 04 ● 諸所雑感 「この夏の映画!」            :[ 04 ] 
  ̄ ̄ ̄ ̄ 
  なんとも贅沢なタイトルになってしまったのですが、今を逃して、 
 この夏の空前絶後の大作ラッシュをお話する機会はない! という 
 事で、気になる今夏の大作についてお話したいと思います。 
  私が見たのは「A.I.」「パールハーバー」「ドリヴン」です。 
 何か、今年の夏の異常なまでの大作ラッシュを考えるとまだまだ見 
 るべき映画がたくさん! という気がしてしまうのですが(^^;  
 忙しかったという事にでもしておいて下さい。 

  私が声を大にして、一番のオススメ! と言いたいのは、「A.I.」 
 です。この映画を見た人には、あっ、やっぱり、この人ならなぁ……、 
 と言われてしまいそうなのですが、なかなかファンタジーなお話で 
 した(^^; 興行収入的にはあんまり成功しなかったのですが、そ 
 の原因は恐らくファンタジック過ぎるところと、物語が悲しすぎる 
 ところにあります。そして、難しすぎるのですね。実際にご覧にな 
 ると分かるのですが、この物語は見ている観客と主人公であるアン 
 ドロイドの男の子の視点は完全に解離してしまいます。ですから、 
 そのときに「違うの! あなたが信じているその純粋な気持ちはあ 
 なたに何もあなたの希望を叶えてくれないの!」と思えれば、とて 
 も物語を楽しむ事が出来るのですが、なかなかそこまで物語にのめ 
 り込めないのが現実です。そういう意味で、なかなか難しい物語で 
 す。でも、見た人はこの一言に納得がいくのではないでしょうか。 
 「人間の親友と議論があって、その子との別れがなければ完璧では 
 ないですよね」 
  勿論、それがなかったから深く悲しむ私のような人間がいるので 
 すが(^^; 

  次は、「パールハーバー」でしょうか。これも米国での興行収入 
 はコケてしまったのですが、これは誰もが頷けるほど単純に「勝利 
 する物語」ではないからです。CGのすごさと、戦争シーンの 
 「ピュン、ピュンという弾丸が通り抜ける音がとてつもなく怖く、 
 目を塞いでいたくなる」ほどの絶望的な怖さは、確かに感じるので 
 すが、でもその怖さをプロモーションしなかったですし、その怖さ 
 を乗り越えた所にあるはずの達成感のない映画でした。また、日本 
 軍に対するリサーチのお粗末さには、プロらしくないなという気持 
 ちを抱きました。日本で上映する事を前提としているのに、なぜだ 
 ろうと思うのですが、マーケティングという思想すらないのかもと 
 いう気持ちを抱く映画です。 
  ですが、ここで、力強く「ですが!」と言いたいのですが(^^; 
 主人公たち若者を描くセンスは抜群だと思います。少し年をとると 
 その青臭さが鼻につくかも知れませんが、なかなかどうして、どう 
 してここまで、イキイキと、もどかしくなってしまうほどの若さを 
 描けるのだろうと、感動してしまいました。きっと若い人向けの映 
 画ですよ。もし、イヤな評判を聞いてしまったとしても、きっと、 
 僕にはいい映画だ、なんて思って見てくだされば幸いです。 

 さて、最後になりますが、「ドリヴン」です。よい映画でした。物 
 語の技術的には申し分なく、そういう意味ではいいことばかり言う 
 ことになってしまうかも知れませんが、どうしてもこの物語に欠け 
 ている部分があります。分かりますか? 規模です。もしくは規模 
 を感じさせる技術です。 
  この物語はカートというF−1に次ぐ人気を誇るカーレースを扱 
 う物語で、その冒頭には「のべ20億人が注目して、時速400キ 
 ロで疾走し、20回のレースが行われ、チャンピオンは1人」と 
 いったような言葉があるのですが(ちょっと記憶が曖昧です……、 
 「時速400キロ」は自信がないです ^^;)、その規模を感じない 
 のです。まず第一に冒頭の言葉も、観衆、レーサー人口、カートに 
 出場できる人数、チャンピオンの方がいいと単純ではありますが思 
 いませんか? それをそのままスマートに利用して、観衆代表の人 
 物、レーサー人口代表の人物、下っ端カートレーサー、チャンピオ 
 ンと、四種類の人物に重要な役割を与えると、とっても簡単に規模 
 らしき物を感じさせることが出来るのですが、この物語は、レーサー 
 間の人間関係に始終します。勿論、それは世界観を狭く閉鎖するこ 
 とによって、とても中身の濃い物語に仕上がっているのですが、も 
 しこの物語にそれ以上があるならまさにそこが改善点のような気が 
 します。 
  ただ、この映画は興行的には成功したようです。かなり男性的と 
 いいますか、男臭い映画ですが、主人公であるロートルレーサーの 
 言葉には、ぐっと胸を打たれますし、人間関係の使い方もそれ以上 
 を提案することが困難なほどです(特に、ソフィアの使い方が上手 
 いですよ)。ですが、これまでにありがちなロートルレーサーが困 
 難を乗り越えて勝利するという形ではなく、歴史を背負った老いぼ 
 れが、何も知らない若者を育てるという形であれだけのエンターテ 
 イメントを創り上げたというのはいくら誉めても限りがないと感じ 
 ます。特に、冷酷な判断をするチームのオーナーとロートルレーサー 
 が、「俺もお前も幸せではない、本当は今すぐにでもレースがした 
 い」的な言い争いをするのですが、誰もが深い業を背負っていそう 
 な感じがする部分が、これまでにない深い物語だったような気がし 
 ます。ぜひ、面白そうだ思った方はご覧下さいね! ただ、それ以 
 外の部分には期待を抱きませんように(^^; それ以外の部分は、 
 どうしても準一級だと言わずにはいられないのです。 

 ● 05 ● おわりに                      :[ 05 ] 
  ̄ ̄ ̄ ̄ 
  ここ二三回、なかなか「おわりに」を書くことが出来ずに悔しい 
 思いをしておりました。台風の中をお伝えした(笑)物語解析いか 
 がでしたでしょうか。 
  舞台編、なかなか骨太なものになりそうです。書けば書くほど、 
 さまざまに書きたいことが出てきてしまい、その中から大切なこと 
 を探し出すのに、四苦八苦しました。今回、書き漏れたことは、 
 そのうち特集でも組んでお話したいなあと思っております。どうし 
 ても、ミステリー(海外)好きな者としては、舞台は書きたくて、 
 書きたくて仕方ない部分なのです(^^; また、この物語解析の 
 基礎であるシェイクスピアはどうも「舞台」に関してはあまり上手 
 くなく(舞台転換は天才的なのですが)、最近の物語を多く例に 
 出すことが多くなりました。もしかしたら、舞台に関する技術が使 
 われ始めたのは、推理小説が登場するここ最近なのではと思うので 
 すが、どうでしょうか(次回にお話する消極的閉鎖は、ゴシックロ 
 マンの小説そのままですし)。 

  最後になりますが、アンケートにご協力頂きました皆さん、 
 ありがとうございました! そっかー、へえ〜、なるほどなどと、 
 いろいろ勉強になりました。また、コメントお返しできなかった方、 
 本当に申し訳ありません。次回、また、何か折りを見つけてもう一 
 度、やってみたいななんて思います。そのときに。 

  というわけ、ここまで、お読みくださった方々、本当にありがと 
 うございました。次回の発刊は、来週(目標 ^^;)でお送りした 
 いと思います。 

 ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■―― ■ ―― ■ 
                       第九号   2001/09/11 
   「 物 語 解 析 」 
    〜 要素による解析基礎 「舞台」 概念編(上) 〜 

 発行者:hikali 
   文:hikali 

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