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                             第9号    2005/2/9
   「 新 ・ 物 語 解 析 」
    〜 宮崎駿監督「魔法使いハウルと動く城」を原作からつくっちゃおう! 〜


 ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ http://www.seikou-toutei.com/nmk/index.html ■


 ● 01 ● はじめに                      :[ 01 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 みなさん、こんにちは。
 新・物語解析「わたし流『ハウルの動く城』をつくっちゃおう!」
をお読みいただいて本当にありがとうございます。

 このメールマガジンは、11月20日より公開されている、宮崎駿監督
「ハウルの動く城」の公開に先駆け、その映画版ストーリーを原作より
作ってしまったという超早取りなメールマガジンです。

 原作となる「魔法使いハウルと火の悪魔」を読破していないとついて
これないかもしれない、豪快な企画ですが、みなさま最後までよろしく
お願いいたします。

 もし、これまでの経緯を読んでいない、昔のメールを探すのがめんどく
さいという事がありましたら、物語解析のページを更新し、バックナン
バーをお読みいただけるようにしましたので、こちらをご利用下さい。

 ■新・物語解析ページ
 http://www.seikou-toutei.com/nmk/

 本当に更新がされないページでごめんなさい。
 うーん、コマッタ。


 ● 02 ● 朝日新聞の記事、読みました?             :[ 02 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 さて、今号はとりあえず破綻の見つかった(ほっとした ^_^;)、
映画版ハウルを、映画版の良さを壊さないよう修復してみたいと思い
ます。前号でお話ししたのでおおかたの方向性はもう分っているかと
思いますが、とりあえず具体的に物語のプロットが描けそうな前段階
あたりまで形にしてみたいと思います。

 と、その前に念のため。
 本メールマガジンは、宮崎アニメ「ハウルの動く城」が原作「魔法
使いハウルと火の悪魔」を下敷きに作られるという事を聞きつけ、映
画より早く「映画版ストーリーを作っちゃおう!」とかなり悪ノリ気
味に始めたメールマガジンです。
 わたしごときが考えた「映画版シナリオ」を「本家本元の映画」が
こてんぱんにしてくれることを当然のようにイメージを描いていたの
ですが、できあがってきた映画版が、
「そんなことを悠長にいってられるような状況になかった」
 ため、急遽、「修正しよう」という方針に転換しました。

 「ハウルの動く城」についてわたしが「映画として」感じているこ
とは、「よくできている」ということです。
 だからそれ自体が悪いわけではないのです。
 ですが、少しは物語について真剣に考えている人、映画好きの人か
らしてみれば、ちょっと現状がヤバイ方向に向っていることが、そこ
はかとなく感じられるのではないでしょうか。

 朝日新聞に記事が掲載されていました。
 「ハウルの動く城」がよく分らないから専門家に聞くという内容で
したが、その中でアニメ評論家の意見として、
 「つじつまは気にせず、スケールの大きなデタラメとして楽しめば
いいのでは」
 という評があるのですが、これがもっともな指摘です。
 (まあ、このレベルでも常識的にはありえない評ですが)
 しかし、新聞の見出しは、
 「つながりのなさ、逆に魅力」

 ……
 この状況、かなり怖くないですか?
 「魅力」はなにから計っているのでしょうか。
 出口調査をしたとでもいうのでしょうか……。
 うーん、映画の出口調査はビジネスになるかもなぁ、と思いつつ。

 というわけで前号は物語の致命的な欠陥について話し、確かに「ス
ケールの大きなデタラメ」である事を指摘してみたのですが、文句を
つけるだけでは何の進歩もありません。
 今号ではそのようなぐちゃぐちゃにこんがらがった物語を解きほぐ
し、映画版の魅力を失わないよう(「つながりのなさ」は直してしま
いますが ^_^;)、物語の整合性をとってみることにします。

 さて、始めてみることにしましょう。
 では、ハウルとペンステモン夫人(映画版ではマダムサリバン)周
りから再開します。


 ● 03 ● 「ハウル──ペンステモン」ラインを再構築する前に   :[ 03 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 前回、致命的な欠陥としてペンステモン夫人の行動が矛盾している
という指摘をしました。同様に、カカシ・犬の行動も意味不明と、矛
盾の山積がぐちゃぐちゃに潰れた宇宙船の残骸のように転がっている
のがこの「ハウル──ペンステモン」ラインなのですが、前回わたし
が提案した、
 「ハウルの城がセーフハウスと化していて、それが政治的にまずかった」
 という方向性で整理、統合することで問題なく解決しそうです。
 前号でリストアップした、「ハウル──ペンステモン」ラインの登
場人物を再掲してみることにしましょう。


 ・序盤から登場している人々
 (ハウル周り)
 ハウル
 マイケル
 カルシファー

 (サリバン周り)
 サリバン(旧ペンステモン夫人)
 王様

 ・途中から加わる人々
 カカシ(実は隣国の王子)
 老犬(実はサリバンの使い魔)
 荒野の魔女(しかし無力化されて見る影も無し)


 このうち、原作・映画版で代えなくても良さそうな人間関係は、
「ハウル──カルシファー」の関係ぐらいでしょうか。おっと、
「ハウル──王様」の関係も変えなくてもよいようです。これ以外
の人間関係は大胆にも代っています。特にペンステモン周辺部には
大きく手が加わっているにも関わらず、この辺りの設計変更はおざ
なりになっています。

 これが、多くの人々に疑問を与え、物語の構造を少しでも把握で
きる人物には、「スケールの大きなデタラメ」と悟らせる原因です。
このパートに対して整合性をとろうという努力が全くされていない
のです。

 ちょっと、整合性をとる努力をしてみることにしましょう。
 そんなに時間は掛らないはずです。

 ……と思ったら、組んでみると結構複雑なことが判明。
 あー、うーん。これは普通の人には投げ出したくなるかも……。

 という訳で、組み直してみたら発生した新たな問題を列挙し、整
合性をとる努力をしてみましょう。


 ■【膿1】「荒野の魔女が」ハウルの心臓をほしがっていた?

 さて一見するとなんの問題もなさそうなのですが、原作から解析
をし分析をしてみると、ここが大きな問題であることが分ります。
原作では、
 「荒野の魔女の火の悪魔が」
 ハウルの心臓をほしがっていたのです。
 おー、そうだったと思い返して、映画版を見ると、
 「あれ、荒野の魔女の火の悪魔がいない」
 ことに気付きます。

 魔法使い + 火の悪魔 = 超強力な魔法使い

 という非常に分りやすい設定があったのですが、荒野の魔女が火
の悪魔と組んでいる痕跡がありません。またついでに言うと、

 ハウル → (心臓) → カルシファー
 荒野の魔女 → (心臓) → 火の悪魔

 となっており、
「火の悪魔が、荒野の魔女の心臓が正味期限切れになったため、カ
ルシファーからハウルの心臓を奪おうとした」
 という設定だったですが、これが崩れています。
 ちょっとささいな指摘をするとすると、
「あ、あの、荒野の魔女さん。心臓って、別にハウルのでなくとも
いいのでは……? ソフィーのとかどうですか? ハウルよりは長
持ち保証付です。そういえば、ほとんど無力化しているレティーと
かの心臓だったら、それほど難なく手に入りそうです(ソフィーの
行動が縛られてしまうのが難ですが)。同じ魔法使いがいいのなら
マイケルとか」
 おっと。
 ハウルの心臓である必要がなくなってしまいました。

 うーん、かなり致命的ですね……。
 とりあえず、この致命的な状況を回避する方法を考えてみましょう。
 (そ、そんな都合の良い方法があるのでしょうか……)

 さて、再生機構のパワーを使う前に、なぜこのような致命的な状
況に陥ったのかを考えてみましょう。このような致命的欠陥を「原
作から映画版を作るときに」起さないための指針となるはずです。
 問題はどこにあったのでしょうか。
 おそらくこれは、原作の「わかりやすさ」に対する理解の欠如に
あります。少なくとも映画版は原作の「分りやすさを捨て去った」
にも関わらず、「説明を一切省き」、しかも「矛盾を放置」してい
るのです。
 作ったスタッフが矛盾に気付いていない恐れもあります。
 (しかも、この問題を指摘している人は見たことないなあ……)。
 これは物語の品質面において致命的な欠陥です。
 製品を出す側としては、もうちょっとでいいから、品質チェック
をお願いしたいところです。
 というか、ジブリに入りたてのペーペーのバイト以下の給料しか
貰っていない、はっきり言って下っ端でも、これが「駄目である」
ことぐらい分かりますよね。
 駄目なんです。
 そんな商品は出さないで。

 この問題はシンプルに、
 魔法使い + 火の悪魔 = 超強力な魔法使い
 という法則が非常にわかりやすいということに起因します。ジョ
ーンズの作り上げた原作はこの法則に従っていた為に破綻が少なく、
最後まで首尾一貫した構造を物語に与えていました。しかし、
「荒野の魔女を非人間的な火の悪魔の問題にしたくなかったため」
(うーん、かなり利己的な問題だ……)
「荒野の魔女の火の悪魔という存在自体を消し去った」
(うっ、これはかなりやばい状況ですね)
「にも関わらず、少なくとも原作には存在していた最低限の整合性
さえとろうとせず(とることが出来ずに)」
(おー、かなり無責任になってきました)
「放置して、説明はしないつもりだから原作を読んでくれと言った」
 うーん……、ため息で身動きも出来なくなります。
 言っていること分りますか?
 原作から重要な火の悪魔を消しているのですから、原作で説明が
付くわけがないんです。確信犯的に言っていることが矛盾している
のです。

 あ、あの、わたしかなり好意的な人です。
 ただ、論理的に分析をすると、どうしてもこのような事実が自明
の理になってしまうのです。反論できないですよねぇ……、わたし
もこの結論に対する反論を見つけようとしたのですが……。
 あ、あの……、そ、そんなんでいいのですか?
 あの、一応、わたし前回の「千と千尋の神隠し」は一部の不整合
は指摘しつつもよい部分に着目して分析をしてた人なんですが。期
待度満点で原作を読んでいて、分析までしてたりするんですが。
 と、とりあえず、再生機構に回すことにしましょう……。
 あまりに非生産的な作業でげんなりするのですが。


 ■【手術1】荒野の魔女はハウルの心臓を「当初は」
       ほしがっていないことにする。

 さてこの問題の分析には、人物と道具の関係を見る必要がありま
す。
 これまでは、「ハウル」「カルシファー」「荒野の魔女」「火の
悪魔」という四人の「人物」の特性の問題であり、「道具」である
ハウルの心臓は人物に従属するものとして取扱われていました。

 なんか本格的になってきましたねえ。
 この辺りの分析は「要素による解析」を用いないと説明が困難そ
うなのです。
 論理的に物語を解析するというかなり特殊なことをしていますが、
ちょっと我慢して読んで下さい。たぶん、なんの知識にもなくとも
おおよそはわかるのではないでしょうか。
 さて続けましょう。

 ジョーンズの原作の構造は、「ハウル」「カルシファー」と「荒
野の魔女」「火の悪魔」という対照的な人物関係のもと、前述の心
臓の奪い合いが発生していました。つまり2人の悪魔は「心臓がな
いと生きていけない」という「人物」の特殊性を持っていたため、
それを維持する「心臓」(と魔法使い)を必要としていました。

 ここで着目するべき点は、「これは人物の特殊性の問題であった」
という部分です。つまり、ハウルの心臓の奪い合いが発生していた
のは「火の悪魔」という存在の特殊性に起因していたのです。ハウ
ル側にも、荒野の魔女側にもメリットがあります。なんたって、超
魔法使いになれるし、いいように使えるので。
 このため、荒野の魔女には「ハウルの心臓が欲しい理由」がなく、
荒野の魔女がハウルの心臓をほしがるために矛盾が生じています。

 この状況で火の悪魔を消したら?
 残るのは、普通の人には永遠に解けない謎だけです。
 もうこれは解決しようがありません。
 この問題を「人物の特殊性」で扱っている限りは。

 さて、ここでこのパラドクスを解くために、まず諦めることから
はじめます。
 かなり屈辱的なあきらめではあるのですが、
「カルシファーとハウルの関係の秘密は、荒野の魔女の行動を説明
しないことにする」
 というかなりレベルの下がるあきらめをしなければならないので
す。
 えーと、これはかなり諦めがたい致命的なレベルダウンです。
 しかし、これを放置したままにするとさらにそれ以下のレベル、
どん底まで落ちてしまいますので、背に腹は代えられません。
 まず、これを飲んで下さい。
「物語が無意味に複雑になりますが、これ以外に解決方法はありません」
 いいですか。では進めましょう。

 「人物の特殊性」でこの問題が解決できないことが分りました。
 これは、理屈の一翼を担っていた「火の悪魔」がいなくなってし
まったからです。そこで、とりあえず「火の悪魔の問題にしたくな
い」らしいですので、これは飲んで、別の解決方法を探す方法にし
ます。つまり、もう一つの方向性、「道具の特殊性」で問題を解決
する、という方法です。

 ハウルの心臓という「道具」の持つ特殊性に、生命を与えるとい
う特殊性があったらどうでしょうか。つまりハウルはカルシファー
を助けたため、その心臓が「生命を与えると言う特殊性をもった」
ということにするのです。
 おっと、振り返らないで下さい。
 この解釈を映画版に適応することは出来ません。

 つまり、ハウルの心臓は「何にも関係ない人でも元気にする」訳
です。
 なるほど、それなら、ペンステモン夫人にやられて、命のろうそ
くが乏しくなった荒野の魔女もほしがる理由が分ります。しかし、
これは「ハウルの心臓」の特殊性ですので、荒野の魔女だけに適合
することではありません。つまり、マイケルでも、ソフィーでも、
ハウルの心臓のそばにいると元気になるのです。そうでなければ、
ハウルと荒野の魔女の間に「何らかの関連性」がなければいけませ
ん。
 ようはハウルの心臓のそばにいると元気なるシーンを差込んでお
けばこの説明が通ることになります。
 うーん、ちょろいものです。
 ソフィーは相手に生命を与えることが出来るようですので、大団
円に向けた伏線もばっちりです。
 お、解決しました。
 なんだ、あっという間ですね。

 実は、映画版にたいして、さらに進んだ解釈を与えることが出来
ます。
 ここまで進んできた人は、ある一つの疑問にぶち当るのではない
でしょうか。
 ──この問題は「特殊性などなかった」で解決できるのでは?
 つまり、人物にも、道具にも特殊性がなかったという解釈ですが、
うーん、実はこれでもいいのですよねぇ……。
 つまり、
 「荒野の魔女は単に『きれいだから』ハウルの心臓をほしがった」
 そして、
 「荒野の魔女がそれを手にしても『何の意味もない』」
 という解釈です。
 はいはい、荒野の魔女が老人で、若い命をほしがったとかいう、
なんとなくそれっぽいけど全く意味の分らない可能性を論じるのは
止めましょう。この場合の結論は、「手にしても何の意味もない。
深い解釈は存在できない」のです。
 これでいいのだったらよいのですが……。

 ■【膿2】かかし問題 〜どうする? 突然出てきた『隣国の王子』〜

 この問題を解決するにはかなりの物語構造への深い理解が必要に
なるかも知れません。そんなに物語の解析を得意としていない人に
対してはこの言葉を信用してもらう以外にありません。

「映画版の時点で、隣国の王子周りに有効な関係線は一つとして存
在していない」

 これはどういう事かというと、

「完全に物語から隔離された存在」

 だということです。つまり、

「これまで2000枚に渡って長々と書いてきた小説が、最後の1枚に
いきなり書き足された登場人物によって解決されてしまうというこ
とと、全く等しい」

 かなり穏当な性格であると思っているわたしですが、さすがに生
卵を投げてやりたくなりました。

 この問題についてぐちぐちいうのは止めましょう。
 様々な諸説がでっち上げられていますが、とりあえずがっくりと
肩を落したまま、この言葉をお送りしましょう。
 ──つまり騙されたと思いたくないんですね?
 このカカシ問題に関しては数多くの「物語を読込んでいる人」に
おいては、かなり一致した意見を持っていると思います。つまり、
 「あれは、最悪のご都合主義」
 これ以上無駄な労力を割いて勝手な解釈をでっち上げることはお
勧めしません。
 ないんです、真相なんて。


 ■とりあえず、再構築してみる。

 さて、この全く関係線が引かれていない人を物語上で整合性を取
ろうとすることはかなり困難な状況です。ちょっと組んでみたので
すが、かなりの複雑性をこの物語構造に投入しなければならないこ
とが分ったのです。

 元から整合性がとれているとは言い難いジョーンズの原作に、さ
らに利己的な理由で変更が加わっているのです。

 困難な状況にさらに輪をかけて困難な状況が上乗せされています。
 おそらく解決がなされてもストーリー的に理解できる人はかなり
少数でしょう。
 幸いな事に、ハリウッドの「ラストサムライ」においてこの状況
で興行的に成功させる方法があることが証明されました。つまり、
見た人の3%ぐらいにしかそれが理解できない真相だが、とりあえ
ず物語の骨格は構築したあと、説明しないことにする、という方法
です。
 映画版ハウルはどうでしょうか。
「構築してない」
 のです。
 ジョーンズ作品の再構築は、素人が手を出すべきでない仕事だっ
たのかも知れません。できないから「やらなかった」のも手かもし
れませんが……。


 ■「インガリー──隣国」の関係線の構築

 まず、ここを定義する必要があります。
 パッパとやってしまいましょう。
 関係線は四種類。
 「好意」「好意」か「好意」「敵意」か「敵意」「好意」か「敵
意」「敵意」。 どれがいいでしょうか。

 サイコロ振って決めても四つのタイプの物語が出来るだけですが、
わたしの物語的勘が正しければ、たぶん、「敵意」「好意」が最も上
手く行くはず。
 インガリーと隣国の力関係は、「インガリー<隣国」です。
 なので隣国が敵意を持っていたら致命的(これはこれでかなり面白
い戦争物にはなりそうですが)、つまり隣国は「好意」。これでイン
ガリーが「好意」だと、何で戦争しているかよく分らないので、
「敵意」。
 つまり、インガリーという国にアジられた国民が「隣国憎し」で戦
争している訳です。


 ■ペンステモンは何を考えているか?

 ペンステモンの基本的な思考は、

 「インガリーはこの戦争に勝てない」
 「だから外交的方法で解決できればそれに越したことはない」
 「しかし、王様は戦争大好きで、これまで領土を奪われたという事
もあるし、国民感情的には戦争を避けるという事は困難」
 「ハウルは、戦力になる。出来るだけ敵に回したくない。しかし、
それを理由に王様のために働かないことを許すのは筋が通らない」

 という辺りでしょうか。
 なるほど、ペンステモン夫人はかなり厳しい板挟み状況にあり、こ
れを解決する方法があればこれにひょこひょこ乗りたい訳です。映画
版では、「荒野の魔女」→「ペンステモン」という物語上の悪役がす
りかわるという芸当で、さまざまな不都合を誤魔化していますので、
表に現れてこないのですが、本当の意味ではこの人は賢者なわけです。
 そして板挟みにあっている。
 それを少しも滲ませずに話を進めてしまうので、わけが分らなく
なってしまうのですが、多少弱気な所も見せて上げれば、それでこの
人の立場が明確になります。

 例えば、
「ほんとうはこんな事、誰もしたくないのだけれど。どうしたらいい
のかしらね」

 と近習にぽろっと打明けるシーンがあれば、たった30秒で説明で
きます。

 ペンステモン夫人は絶望しているのです。
 マダムサリバンに共感する人は誰もいなそうに見えますが、このペ
ンステモン夫人はたった30秒で深い(いや、あんまり深くないのですが)
と言わせることができないでしょうか。


 ■隣国の王子に呪いをかけたのは誰か

 さて、なんか推理小説のようになってきましたが(^_^; このよう
な状況を見て、呪いをかける動機があった人、かつ呪いをかけること
の出来る人、かつ物語に登場している人を探してみましょう。

 明らかな魔法使いは5人います。
 ・ハウル
 ・ペンステモン
 ・荒野の魔女
 ・ソフィー
 ・マイケル

 さて、誰だったことにするのが一番いいのでしょうか。
 実の事を言うと、物語が最も面白そうになるのは、ハウルだったとい
う場合です。いやー、そんな高度な物語を作ることは出来ないよとは思
いはするのですが、このレベルの作品はいくらでもあります。しかしま
あ、そこまで高度にしても仕方ないですので、もっと順当な所を探して
みましょう。

 ペンステモン夫人は確かに行えそうなのですが、複雑な外交的な見通
し(しかも分りやすい)がなければ、矛盾が起ります。冒険をする価値
はないでしょう。

 ソフィーは、自分が魔法使いという自覚がありませんので能動的行動
はとれないということで除外。マイケルはごときがかけた呪いをハウル
が解けないはずがないので、除外。残ったのはたった一人です。

 荒野の魔女。
 これが一番妥当な訳です。


 ■荒野の魔女は何を考えていたか

 荒野の魔女はどんな企みを企てていたのでしょうか。
 これについては、映画版が明確な対案を、原作に対して提案しています。
 つまり、
「インガリーの王宮で、重用されることを望んでいた」
 という事です。
 素晴しい映像、素晴しい音楽、それなりの台詞、かなり小手先な物語
技術を取っ払って物語をむき出しにしてみるとえらくチープなのですが、
とりあえずこの部分においては「少なくとも矛盾は発生していない」の
で、これを通すことにします。
 かなり強烈で明確な動機ですよね。
 ここからいくらでも行動を説明することが出来そうです。
 つまり、荒野の魔女が隣国の王子をかかしにした理由も。

「ここまでちゃんと考えてる? 考えてないでしょ」
 とわたしでなくとも言いたくありませんか?
 もう、映画版を見ても仕方ありません。
 こんなレベルでさえクリアせずに、大勢の素人に「あほか」と言われ
ているのですから。論理的に致命的と断定できるレベルの問題なのです
から。シェイクスピアを褒め称える人、議論する人は大勢いますが、少
なくとも「レベルが低い」という人はありません。何ででしょうか? 
少なくとも素人よりはレベルが高いからでは。


 ■隣国の王子って、どんな人だった?

 さて、ここまで話を続けてくると、「隣国の王子ってどんなやつ?」
という事が気になります。
 あー、うーん。
 設定は「ない」ですから、作らなければならないのですが、とりあえ
ずこの作品はわたしの作品ではないので、これまでに用意されている状
況から導き出す以外にありません。

 まず、鉛筆(ボールペンでも、シャーペンでもいいのですが……)を
持って、「隣国の王子」と書いてみます。
 簡単ですね。
 次に、「王様」と書いてみます。
 さっきよりは文字数が少ないです。
 続いて「旧ペンステモン夫人」と書きます。
 ここは比較的難しいです。わたしでもマダムサリバンか、ペンステモ
ン夫人か、それに旧をつけるか、仮にマリア・テレジアとつけるか悩み
ます。でもまあ、あんまり物語の本質には関係ないですので、まあ一番
設計図面らしい言葉にしておきます。
 ついでに「ソフィー」と書きます。
 これが一番画数が少ないです。
 それから「荒野の魔女」と書きます。
 はい、できましたか? では、関係線を書入れてみましょう。
 唐突に、極めて困難になりました。
 たった一本の線を決めることがかなり困難なのです。
 この「隣国の王子」が「かかし」と書かれていない限りは。
 パズルの解法に従って、まず分るところから埋めることにしましょう。

 「ソフィー──隣国の王子」
 無関係。かかしとして知合い、隣国の王子はソフィーに惹かれる。
 問題ないでしょう。

 「荒野の魔女──隣国の王子」
 無関係。荒野の魔女が自分の野望のために利用。かかしにする。
 ここは若干考慮の余地があります。なんと言っても荒野の魔女が敵対
的な行動をとっているのですから、ひょっとすると、隣国の王子と荒野
の魔女の間に確執があったのかも知れません。
 しかし、よく考えてみれば荒野の魔女は、「斜陽のインガリーで重用
されたかった」というレベルのチープな魔女。国際テロリストというほ
どのレベルでないことを映画版は明言しています。つまり、荒野の魔女
の視野は隣国まで含めたワールドワイドではなく、インガリーという滅
亡寸前の極めてローカルな視野に立脚している人物なのです。イデオロ
ギーもなさそうです。そんなのが外交関係を寸断し、国際政治を操作し
ようと考えているとはさすがに無理のある飛躍ではないでしょうか。
 つまり荒野の魔女は隣国の王子とは無関係で、しかし、インガリーを
困らせるために、かかしにする必要があったと考えるのが妥当です。

 「王様──隣国の王子」

 さて、ここに来てどのような関係にするかがかなり問題になってきま
す。
 そもそもこの二人が関係を持ち、国際政治に影響を与える(戦争が終
る)ほどの影響力を持つとはなかなか考えにくいのです。単純にギリシ
ア・ローマ史を振り返っても、「ある特別な関係」を除いてはあまりな
く、日本の戦国史においても、「ある特別な関係」以外にはあまり例が
ありません。
 マダムサリバンのモデルかもしれないマリア・テレジアは、すさまじ
い外交戦略でペチコートの同盟という「女帝同盟」を結びますが、これ
は7年にも及ぶ地道な外交戦略のたまものでした。
 旧ペンステモン夫人がこれをしている形跡はありません。
 王様は戦争大好きです。
「ある特別な関係」以外にはありえないのではと感じます。
 つまり、「肉親である」という可能性です。

 さて、この結論に達すると30秒で問題が解決します。
 どっかのシーンで、「ご子息の嫁ぎ先なのに……」とか「親戚同士だ
って言うのにね」というせりふをねじ込めばいいのです。
 ちょろいものです。
 あきれるほど、簡単です。
 裏返して言えば、こんな簡単お気軽な保険さえかけてないのです。
 念のために言いますと、それでさえ「かなり無理がある、うーん、で
も筋は通っているか……」というレベルです。
 これ以下の行為は、2000枚の未解決の原稿用紙に、適当にでっち上げ
た一枚をふわりと乗せる以外にありません。
 ああぁ……、途中にねじ込んでおけばよかったのに……。
 少なくとも、90%ぐらいはこの程度でごまかせるんですよね……。

 っと、ここまで書いたところで、どうもこのメールマガジンが600行
を超えそうなことが分かりました……。
 これでも、言いたいことの3分の2は書いた後に破棄して、無意味な
過激さに陥らないよう努力していたのですが、ずいぶん紙面が込んでき
てしまいました。

 続きは次号とすることにしましょう。


 ● 04 ● 編集後記 「モンスターズインク見ました」        :[ 06 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 うーん、いまさらかと思いながら、モンスターズ・インクをDVDで見ました。
 あー、プロの仕事。
 こういうの見てたいよねえ、というのが実感です。

 文句を言うことほど、非生産的なことはないとは思います。
 ただ、文句を言わせる作品ほど、非生産的な物はないのでは、と逆に
思います。

 みんな、お金払っているんです。
 潰したいのですか? 映画界。

 ゲーム業界が致命的な状況に陥っているのを見て、映画も、音楽も、
ちゃんとしないと同じ局面に陥りますよと、心から警告したいです。

 ちゃんとしてください。
 ピクサーのような天才になってとは言いませんから、最低限の、
モラルぐらいは守ってね。そのうち天才出てきますから。今は、ちょっと、
あまりにもひどい状況が続いていますが。

 「今、会いに行きます」
 良かったですよ。
 でもなんでそこに、ハウルみたいな映画をぶつけたのですか?
 この損失は誰が償うんですか?

 もう、ジブリは見ることがないと思うのですが、
 それについてどう思いますか?
 たった、2分のカットを差し込めば問題なかったにも関わらず。

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                           第9号    2005/2/9
   「 新 ・ 物 語 解 析 」
    〜 宮崎駿監督「魔法使いハウルと動く城」を原作からつくっちゃおう! 〜

 発行者:hikali
   文:hikali

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