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                            第10号    2005/3/5
   「 新 ・ 物 語 解 析 」
    〜 宮崎駿監督「魔法使いハウルと動く城」を原作からつくっちゃおう! 〜


 ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■  http://www.seikou-toutei.com/nmk/index.html ■


 ● 01 ● はじめに                      :[ 01 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 みなさん、こんにちは。
 新・物語解析「わたし流『ハウルの動く城』をつくっちゃおう!」
をお読みいただいて本当にありがとうございます。

 このメールマガジンは、11月20日より公開されている、宮崎駿監督
「ハウルの動く城」の公開に先駆け、その映画版ストーリーを原作より
作ってしまったという超早取りなメールマガジンです。

 原作となる「魔法使いハウルと火の悪魔」を読破していないとついて
これないかもしれない、豪快な企画ですが、みなさま最後までよろしく
お願いいたします。

 もし、これまでの経緯を読んでいない、昔のメールを探すのがめんどく
さいという事がありましたら、物語解析のページを更新し、バックナン
バーをお読みいただけるようにしましたので、こちらをご利用下さい。

 ■新・物語解析ページ
 http://www.seikou-toutei.com/nmk/

 本当に更新がされないページでごめんなさい。
 うーん、コマッタ。


 ● 02 ● ジブリ独立おめでとうございます!           :[ 02 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 さて、前回はずいぶんと変なところで途切れてしまいました。
 あまりもあほらしくなってしまったというのが本音なのですが……、
 まあ、そんなわたしの事は放っておきまして、元気を取戻してもう
 ちょっとこの残骸とつきあってみる事にします。
 本質的には物語をいじくりまわす事はとても楽しい事です。
 あまりにも見事なジャンク品となれば、さすがにマニア心も揺れるの
ですが、今回は映画単体以外の部分の動きがあまりにも不自然で、あら
ゆるサービスの闇を見た気がして不愉快にならざる終えませんでした。

 ただ、あまり大きくは報道されていませんでしたが、スタジオジブリ
の徳間書店からの独立が決るというとても前向きな進展があったようで
す。これまで他事業部の損失を一手に引受けていたというらしい内部事
情を読む限りは、映画事業に集中でき、系列のしがらみから離れ、自由
な投資もできるという事で、かなり前向きといえるのではないでしょう
か。
 細かな憶測はいくらでも出来ますが、映画好きには嬉しいニュースです。
 今回のハウルは「内部調整に失敗した結果」ということにしてしまえ
ば、今後のジブリにも期待が持てることになり、明るい展望を見ること
が出来ます。ひそかに大失敗をした結果、最もよい展開になったと結論
出来るのではないでしょうか。

 うーん、でも、「紅の豚」がJALとの調整の結果生れた作品だと考える
と、そんなにジブリって調整が下手だとは思えないのですが、よっぽど
徳間書店の内部で起っていた「ねじれ」がひどくて「ハウル」が生れた
と考えると、うーん、出版業界……。そういえば出版系の仕事もしてい
たなあと思いだし、確かにしがらみきつかったなあ(というかそれで成
立っているような世界ですからね……)、と思う以外ありません。


 ● 03 ● 隣国の王子周りの整理                :[ 03 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 さて、そんな外野な話はおいておきまして(個人的には非常にすっと
腑に落ちましたが ^_^;)、楽しい物語をいじくり回す話をすることに
しましょう。
 うーん、こんな適当な文章でさえ時間が掛ってしまうわたし……、と
思いたくもなるのですが、一応、その文章のほとんどが通勤電車内で書
かれているという事に免じてご勘弁下さい。

 えーと、どこまで行ったのだったでしょうか。そういえば、「隣国の
王子」周りの人間関係の整理が出来ていませんでした。その辺から再開
してみることにしましょう。

 ■「隣国の王子──旧ペンステモン夫人」


 さて、この関係線は前回に引いた「王様──隣国の王子」にかなり依
存します。旧ペンステモン夫人はインガリーに属し、そこに忠誠を誓っ
ているからです。この人にとってはインガリーの国益が何より大事。こ
の関係線は両者が好きこのんで築いている関係ではなく、この関係線以
外の状況に左右される関係線です。

 もちろんこの関係線の上に個人的な関係を付加することが出来ますが、
あまり物語の中心におきたい関係でもありませんし、立場上の問題で片
づける方がスマートでしょう。外交官同士の関係がその二人の人間関係
とは別次元であるのと一緒。特に問題となる部分ではないですので、極
めて機能的に設計することにします。

 インガリーと隣国の関係は、「敵意」「好意」としました。なので、
基本的にはインガリー人は隣国に対して「敵意」を持っている事になる
のですが、旧ペンステモン夫人は国内でも屈指の「賢者」という特殊な
役割にありますので、せっかくなのでインガリー国の総意(というか王
様の考え)からはかなり独立させることにしましょう。

 つまり、旧ペンステモン夫人にとって隣国の王子は外交窓口になるか
も知れない駒という事になります。ハプスブルグ家をモデルとすると、
敵国の肉親は外交的解決に最も重要な駒だったと言えますし、領土を奪
われて引くに引けないインガリーとしても王子の仲介と言うことだった
ら受入れる可能性があります。
 旧ペンステモン夫人はそれが見えていて、しかし、板挟みのため動け
なかった事にしましょう。
 つまり旧ペンステモン夫人から見た王子への関係は「中立」、王子か
ら旧ペンステモン夫人への関係は、うーん、夫人を動かしやすくするた
めに「好意」という事にしましょう。過去、旧ペンステモン夫人が教師
代りだった時代があったということにでもしておきましょうか。

 あ、そうだ、忘れていました。
 王様と隣国の王子の関係は、「敵意」「敵意」(というか互いに不信)
です。肉親関係としては「年の離れたいとこ」辺りが適切でしょうか。

 これで全部の関係線を引けたことになります。
 全貌を俯瞰してみることにしましょう。

 ■隣国の王子周りの関係線(俯瞰した場合)

 インガリーは伝統的な国家で、隣国は最近力をつけた新興国である。
 隣国は過去、インガリーの名家の「箔」欲しさに、インガリー家の王
女を嫁にもらったりと友好的な時代もあった。当時のインガリーは魔法
国家(うーんふしぎな言葉だ……)として繁栄を極めたが、技術の進歩
によって魔法は時代遅れのものに次第になってきている。その頂点にい
たのが、旧ペンステモン夫人と荒野の魔女だった。当時は名を競ってい
たが、旧ペンステモン夫人が荒野の魔女を蹴り落し、現在の地位を手に
入れた。

 インガリー人は未だに魔法力が世界を支配すると考えている時代遅れ
で高慢な態度をしている古い人々。旧ペンステモン夫人は時代の変化に
気付きつつあったが、隣国との緊張関係(安易に領土問題のこじれとい
うことにしておく)の急変により、戦争状態に突入しなければならな
かった。
 しかし、魔法使いが主力だった古き日の戦争と近代的な戦争は、その
凄惨さ、市民に与えるダメージ、国家の荒廃において格段に過去とは
違っていた。
 まず、はじめにそれに気付いたのがハウルであった。旧ペンステモン
夫人は中立だが立場上の問題で身動きできず、荒野の魔女は自分が活躍
するチャンスだと考え、王様は変化が見えなかった。隣国の王子は名家
の出身ながらも新興国の発展を目撃し、インガリーの考えは古い考え方
だと思っていた。ここに各プレイヤーの認識の違いが鮮明に現れている。

 隣国とインガリーの緊張状態を利用し、旧ペンステモン夫人を蹴落そ
うとしたのが荒野の魔女である。緊張状態の解消に繋がる可能性のある
隣国の王子に呪いをかけたのを皮切りに、自分の対抗馬となりうる魔法
使いに次々と呪いをかけていった。ハウルはもとより自覚のないソフィー
にまで手を回すのだから、見事なまでの徹底ぶりである。妄執とはまさ
にこの事だ。
 この荒野の魔女の攻撃はインガリー王室を降伏させるかに思えた。事
実、王室は荒野の魔女を召還したが、荒野の魔女は時代が50年経ている
事に気付いていなかった。旧ペンステモン夫人は新技術と魔法を組合わ
せた装置の開発に成功しており、荒野の魔女は敗れ去ることとなる。

 隣国との戦争が始り、インガリーは(というか旧ペンステモン夫人は)、
この技術の力という物に気付いた。ハウルのようにその凄惨さに対して
過敏に反応する事はなかったが、戦争に負けそうなことは分っていた。
盟主インガリーの体面を保ちつつ休戦へと向う外交窓口は、インガリー
国王の肉親である王子しかない。旧ペンステモン夫人は、かかしとなっ
た王子が、ハウルの城にいることは分っていた。しかし、ハウルが危険
な(当時はそうだった。ん? 現代社会も?)反戦思想に染まりきって
いて王室に激しい不信感を抱いていたから、直接交渉は出来ず、陰湿な
圧力をかける以外なかった。
 この複雑な論理によってハウルに対する迫害が行われる。
 ハウルはここまで複雑な視野では物事が見えていない。
 (そして、この乖離を描くことが、映画の目的である)

 王様は魔法力が世界の盟主インガリーを成立していると思いこんでい
る。だから、新興国で技術の力に染まった王子を異端扱いし、敵意を
持っている。しかし、戦争で負けそうなことは気付いている。虚勢を保
ちつつも、どう体面を繕うかに腐心している。

 隣国の王子は古い伝統に対し激しい抵抗意識を持っていたが、ハウル
の城で魔法ライフを満喫し、伝統的な魔法も悪くないと認識を改める
(ソフィーの影響も多々あるが)。そのため、王様との和解も悪くない
と考えており、それより第一に近代の戦争が市民にダメージを与えすぎ
ることに気付く(隣国は直接被害を受けていないので、気付くきっかけ
がない)。

 以上。
 世界情勢を描いてみました。

 さすがに、あちこちいじくり回しただけあって、かなり強固ですね(^_^;
 あとはこの世界背景と各プレイヤーの動きを元に物語を描けばよいだ
けです。この設定を背景にあれこれつじつまを合わせればいいのです。
 なんとかきれいにまとまりました。
 こんなんで、どうでしょうか。


 ■未解決の問題 〜ハウルの城の位置づけ〜

 さてこれまでに、世界背景から見たハウルの位置づけがだいぶ決っ
てきました。この物語の主役は「インガリー」ではもちろんありませ
んので、この背景をもとに、ソフィー視点に書き換える必要がありま
す。

 世界情勢の中でちらりとソフィーが現れる部分もありますが(しか
し、こんななんてことない少女を世界を動かす少女にしてしまうんで
すから、いかにこの物語が豪快なダイナミックさを持っているか分る
でしょう)、ソフィーが本格的に物語に参加し始めるのは荒野の魔女
に呪いをかけられてからです。

 「呪いをかけられる」→「ハウルの城に乗込む」→
 「いろんなのを連れてくる」→「ハウルの城がセーフハウス化する」

 というのが無理なくレギュラーな物語の流れです。
 それ以前のソフィーは国際情勢とは無関係で、ハウルの城での活動(?)
が国際的なプレイヤーの一人となるきっかけとなります。いかに個人
的視点と物語世界の背景を結びつけることが困難か、両者の視点の違
いを俯瞰してみると違うか分るかと思います。

 さすがにここまできっちりと土台を組上げてから物語を構築すると、
論理的矛盾を起すこと自体がレアケースになってきます。逆に言えば
背景世界を検証さえせず、個人の勘で組み始めると、これだけ複雑な
状況ですからウルトラCの連発にならざる負えないことは確認できる
でしょう。
 難度の高い技を連発することを前提に物語を作っても仕方ありません。
 程度の大小はあるにせよ、人はかならずどこかでミスを犯しているものです。
 つまらなく高尚には見えない技術部分をしっかりと固めておくこと
が、高い目標をクリアする地盤ではないでしょうか。


 ・かかしをどうやって連れてくるか

 さて、ここから実際の物語に対してメスをいれておきましょう。
 映画版では大幅に物語の構造を変更したにも関わらず、かかしが
ハウルの城に連れてこられる重要なシーンが原作と同じになってい
ます。これはどうでしょうか。ちょっと検討する余地があるかも知
れません。

 このかかし、物語解析的に登場シーンを分析すると「道具だと
思ったら人物だった」という登場の仕方をしています。事実、呪い
によって極端に行動を制限された存在なのですから、その登場シー
ンでは「道具」として扱われるのがふさわしいかと思います(そし
て、ソフィーによって人物に昇格される)。
 道具と人物では物語上での扱われ方がかなり違ってきます。

 まず、成功事例である「千と千尋の神隠し」の顔なしと比較をし
てみましょう。顔なしはわたしの分析では、物語になにも影響を与
えておらず、これは後付けであり、かなり無理矢理挿入されたとい
うことになっていました(これは後のインタビューで事実であるこ
とが判明したらしい)。

 しかし、この顔なしについてはこのレベルで指摘ができる人がほ
とんど皆無であり、そういう意味では残りの1000万人以上の人々が
気付かなかったのですから、おそらく上手くごまかせた部類に入る
のでしょう。
 しかし、かかしについては10%ぐらいの人が、明らかにおかしい、
と言っている訳です、1/10と1/10000000ではかなり大きな差です
(大げさですが)。せめて、1/10000ぐらいの精度にしておきたい
ところです。何がいけなかったのでしょうか。端的な違いは「物語
に与える影響」、そして「育っていく必然」です。

 ・物語に与える影響が大きい存在の登場は、必然性を高くする

 さてちょっと濃度の高い話をしましょう。
 これまでの話で、かかしの登場シーンで、かかしは「道具」とし
て登場すると言いました。道具には人物と違って、能動的に行動す
ることが出来ません。ゆえに、人物とは違う法則性が働くこととな
ります。

 古の書物、物語解析を紐解いてみると、おお、ありましたね、道具編。
 それによれば道具には「存在・所有」「効果」「変化」の三つの
切口があり、さらに「存在・所有」には「携帯者」「所有者」「存
在場所」があると記載されています。このうち、登場するシーンに
おいては、「存在場所」が重要になりそうです。さらにその「存在
場所」に理屈を付けるために、以前の「携帯者」の行動が重要に
なってきます。

 うーん、結構しっかり書いてあるなぁ(^_^;
 つまり、これは「道具」のおかれていた「舞台」との関係線、
「携帯者──人物」との関係線が非常に重要になることを意味します。

 ん? 難しいですか?
 わたしもよくこんな難解なことを考えるなあと自分自身、あきれ
るのですが、まあぶっちゃけて言ってしまえば、「なぜ荒野の魔女
はあんなインガリーの田舎のがやがや町にかかしを捨てたのか」と
いう事が重要なのです。
 なんたって、以前持っていたのは、荒野の魔女なのですから。
 そして、かかしは極度に行動を制限されていますから、荒野の魔
女の行動が大切になります。では荒野の魔女の呪いをかける場合の
行動パターンを洗ってみることにしましょう。

 いい例があります。
 ソフィーです。
 荒野の魔女は呪いを掛けた後、どうしましたか?
 えーと……、とても言いにくいのですが、その場で放置しましたね……。
 荒野の魔女が呪いを掛けた後、その場で放置するという行動パ
ターンをとっている以上、隣国の王子にも同じようにしている可能
性が非常に高いのです。
 え、えーと、つまり、隣国の王子はたまたまがやがや町に来ていて、
山に登って、そこを襲われた?! 
 矛盾発生です。
 あり得ません。
 飛行機でがやがや町上空を通過中に襲われ、そこから落下した、
もあり得ません。
 まあ、ぶっちゃけていいますと、呪いを掛けられたかかしが、あ
の場所に存在することは出来ないのです。出来ないんですよね……、
困りましたねえ。

 ・二つの解決方法

 この場合、二つの解決方法があります。
 1.存在する舞台を変える。
 2.道具の特性を変える。
 この二つです。

 1.の場合は最も理解がしやすい方法なのですが、実はこの方法は
極めて効率が悪いのであまりお勧めしません。なぜかというと、元々
まるで関係のない隣国の王子とソフィーの行動の動線をどこかでクロ
スさせなければならないからです。

 以前、人物の動線をクロスさせる手段については、一本シナリオを
実際に作ってみて実践してみましたが、この物語解析一本分(600行
ぐらい……)は掛ったような気がします。全く縁のない人物を物語上
の必然でクロスさせるのは、極めて困難です。とても重要で楽しい
シーンであればよいのですが、このシーンは非常に地味なシーンです。
 そして、物語に与える影響が大きい要素は必然性を大きくする必要
があるというルールを守るためには、偶然性をなるべく持込むべきで
はありません。

 物語の開始30分で起る事件を、その以前を使って必然的な事件にする?
 出来ないことはないのですが、わざわざこんなところでそんな高等
テクニックを使うか? と考えてしまうのです。しかも、かなりやる
気ないわたしが、それをここで実践することほど意味がないことはあ
りません。
 まあ、無理をしても仕方ありません。
 効率的に行きましょう。


 2.道具の特性を変える

 さて、これはたった一言で問題を解決してしまいます。
 つまり、「かかしは動けた」と言ってしまうことです。
 ソフィーに拾われたときには、「行き倒れ」状態にあり、隣国の
どっかからはるばる長い距離を歩いて(ぴょんぴょん跳んでが適切か)、
インガリーの田舎町にたどり着いたという事にしてしまうのです。
 よく読んでみれば、原作もそんな風にごまかしてありますね。
 なるほど、これで、荒野の魔女が呪いを掛けた場所と発見場所が違
う理由が説明できます。

 しかし、ここで解決してしまったことにしては、疑問が残ります。
 単純にマニアックな人であれば、何故かかしはあんな田舎に用が
あったのだろう? どこへ行くつもりだったのだろう? と疑問に感
じるかも知れません。
 かかしを「動けることにした」のはいいのですが、そのために、何
故そんな行動をとったのかを今度は「かかし」について考えなければ
ならないのです。また、これにより新たに「長い距離を移動して来た」
という事実が付け加えられることも意識しなければなりません。
 隣国から、インガリーのがやがや町の郊外に移動するということは
とてもエネルギーがいることです。しかも、そのかかしが、戦争状態
にある「隣国の王子」であることを考えれば? 
 おや、なかなか簡単にはいかなそうですね。

 さて、ここで必要になってくるのは想像力です。
 極めて端的な指摘ですが、映画版のかかしについては想像力がまる
で足りません。自分がかかしになったつもりで考えてみましょう。難
しいですか? 難しいかも知れません。なんたってこんな事を言って
いるわたしでさえ、呪いを掛けられてかかしになった経験はまるでな
いのですから。

 例えば例を挙げてみましょう。
 あなたが東京に勤めていて(ついでに言えば、住居も東京)、そこ
で荒野の魔女に呪いを掛けられたとします。ここまではいいでしょう
(いいのか?)。そしてあなたはぴょんぴょんと苦労して跳ねていき、
長野県の須坂市で行倒れました。何ででしょうか。
 うーん、全く想像がつかないのではないでしょうか。
 ちなみに長野県の須坂市は極めてランダムに選んだ地名です。
 どうでもいいことですが、わたしの大学時代の部活仲間の故郷なの
でたまたま思い出したのですが、いまはほとんど連絡もありませんし、
少なくとも行ったことがありませんし、またそこで行だおれる理由を
何とか考え出すのは極めて困難です。そして多くの人にとっても全く
関係ない、もしくは知りさえしない土地名ではないでしょか。
 何であなたは須坂市で行倒れたのでしょうか。
 これはあなたの問題です。
 どうしてですか?

 わたしもわたしなりに考えてみましょう。
 うーん、どうせなら実家のある埼玉方面に帰りそうだし、もしかす
ると親友を頼って千葉県かなあ……、神奈川は通るかも知れないけれ
ど、え? 長野県の須坂? それどこ?
 降参です。
 どうやっても結びつけられません。

 さらに輪を掛けて条件を付け加えると、あなたは全く認識のない呪
いを掛けられてお婆さんになった高校生、金森みよ子ちゃんに命を吹
込まれます。そして、あなたの心の中に恋が芽生えるのです。
 おっと、忘れていました。
 そこが長野県の須坂市です。

 ……
 はっきりと断言できるでしょう。
 まるっきりのドリームランドです。幻想以外の何ものでもありません。
 必然性が全くないのです。

 さて、これまでは突然荒野の魔女にかかしにされた哀れなあなたと
わたしの話でしたが、ここから隣国の王子という人物について想像を
膨らませてみましょう。
 少なくとも、別荘ぐらい持っていてもおかしくはありません。
 それが須坂市だった可能性は、かなりいんちきくさいやりからです
が、もっとましな可能性を考えることも出来るはずです。

 おっと、荒野の魔女の呪いにはインガリーの王都に行き王様に会う
ように、というのろいが含まれていた、というような訳の分らないい
んちきじみた(そして、ジョーンズは使いそうだ……)理由をこねる
という無駄な努力は止めましょう。
 単純に、これまで描いた青写真内で収るはずです。
 とりあえず気楽にこれまで引いた関係線を眺めてみることにしましょう。

 これまでわたしは隣国の王子周りに5本しか線を引いていません。
 「王様」「ソフィー(ないに等しい)」「旧ペンステモン夫人」「荒野の魔女」
 ん? あれ、4本でした。
 恐ろしいことに、王子の父親にさえ引いていません。
 これで物語が成立するのかと思われてしまうかも知れませんが、今
回のハウルのようにそれ以下の作品にお金を出していることに、冷静
になれば気付くはずです。
 まあ、省力的に、このレベルで解決してしまいましょう。
 これは可能性の問題ですから、消去法の方がいいでしょう。

 まず、ソフィー。
 ……、それはドリームランドだなぁ……。愛が奇跡をとかよく訳の
分らないことを言う人がありますが、この場合はいくらなんでも酷す
ぎます。除外しましょう。

 続いて荒野の魔女。
 うーん、かかしにされた後も荒野の魔女に抵抗するために、かかし
の姿のまま立ち向った、というのは格好いいのですが……、その後行
だおれて、ソフィーに助けられて一目惚れして、使命も忘れてハウル
の城に居座ると、わ……。
 か、かっこわるすぎます!
 うわー、想像すると、あまりにも駄目すぎてわたしの方が恥ずかし
くなります。
 いいのか! 王子! そんなんで一国を継ごうなんて甘ったれた考
えを持つな!!!!
 ……と、架空の可能性に怒鳴ってもしかたないので、やめましょう。

 次は王様。
 うーん、この可能性はどうなんでしょうか。お互い不信なのですよ
ねえ。しかも戦争になりそうなのですよねぇ。
 王様に戦争を思いとどまるよう進言しようとしたが、行だおれてソ
フィーに助けられて一目惚れして……。う、うわ! 同じ展開! 
ちょっとこれも駄目でしょ。想像する事もおぞましく感じます。

 おっと、残ったのは旧ペンステモン夫人しかありません。
 とりあえず関係は「好意」。過去の家庭教師ということで、まあ助
けを求めることはありそうです。なんたって魔法で呪いを掛けられた
訳ですから、魔法立国であるインガリーにしかそれを解けそうな魔法
使いはいません。

 旧ペンステモン夫人のことはきっと頭によぎったでしょう。しかし、
現在の夫人と自分の立場を考えると、政治に利用されそうで腰が引け
ます。
 雨に打たれて途方に暮れるかかしの姿が浮んできます。
 そのとき、ふっと思い出したのではないでしょうか。
 ハウルという極めて優秀な弟子がいたことを。
 同い年ぐらいで、政治にも組込まれていない。しかも動く城を乗り
回して田舎を巡回している。……、いいですね。極めて魅力的な相談
相手です。ハウルの城はがやがや町の周辺を巡回しているよう、さす
がに途方に暮れたわたしもあなたも、ぴょんぴょん跳んでいきたくな
るでしょう。

 繋がったついでに、時間の偶然性も消しましょう。
 つまり、ハウルの城に行着く「寸前」で行だおれたというかなりの
ご都合主義ですが、これはみっともないので変えてしまいます。どう
すればいいでしょうか。
 うーん、そうですねえ、ハウルに、
「きみはずいぶん前から結界に干渉していたね」
「結界?」←ソフィーの台詞
「こいつは魔法が強すぎるんだ。だから城に近づけないようにしてい
たんだ。しかし、来てしまったからには仕方ない。そうそう、言い忘
れていた。きみも魔法が強すぎる」
 とでも言わせましょうか。
(うーん、30秒の変更……)
 まあつまり、ソフィーと王子は「呪いを掛けられてハウルに解いて
欲しい」というモチベーションを共有している仲間なのです。それが、
なんでかソフィーは面倒に巻込まれたくないハウルの城に入れてし
まった訳です。

 まあこれはソフィーという人物の特性で解決しなければならない問
題なので、ソフィーが優れた魔法使いだったからとかなんとか、もう
このレベルもやだなあと思うような適当な解決方法しかないのですが、
この辺でやけくそ気味にてきとうに解決しておけばいいでしょう。

 うん、恥ずかしくなるぐらいかなりレベルが低いです。
 ゴミみたいな適当な解決をしています。
 物語的にもう少し見るべき部分があればさすがに褒めたくもなるの
ですが、このレベルで満足しているようでは、さすがに才能を疑いま
す。
 おっと、言い忘れていました。
 このレベルもクリアしていないんです、映画版。

  さすがにこの辺で終りにしたくなります。まあ、毒食わば皿までと
いう格言もあることだし、このスクラップを再処理してしまいま
しょう。

 ・セーフハウスと化す動く城

 ようやっとソフィーのおかげでハウルの城に近づけたかかしですが、
直には関われないまでも、周辺をうろちょろすることが出来るように
なりました。彼は、ハウルの城の魔法ライフwithソフィーを満喫しま
す(どっちに比重が置かれたかはなぞということに……)。それをみ
た同じような戦争で惨めな目にあった人々が、ハウルの城いいなあと
いう事で集ってくるわけです。それを積極的に受入れるのはソフィー
婆さんです。これは問題がないでしょう。

 これによって荒野の魔女と、旧ペンステモン夫人の使い魔がやって
きます。
 この辺、かなりおかしいように感じるかも知れませんが、荒野の魔
女は旧ペンステモン夫人と対決に破れて、使い魔は王宮に飛火する戦
争の悲惨な状況に悲観して、それぞれうんざりしていた事にしましょ
う。

 使い魔は特に、物語になんの影響も与えないので、さすがにもうそ
れはやばいんじゃないのと感じはするのですが、これはもう少年マン
ガに出てくる女の子のスカートがことごとく短いのと同じような理屈
(うーん、ジブリはもはやそのレベルか……)、とりあえずあまり意
味はないので、放っておくことにしましょう。
 (やる気がないのではなく本当に意味がないのですが)

 これでやっとハウルファミリーが、政治的に意味を持つようになりました。
 このまま行くと、戦争反対の一大勢力が出来てしまうのです。
 「ハウル」「荒野の魔女」「隣国の王子」「夫人の使い魔」
 いやなんて強力なメンツなのでしょうか。しかもハウルは戦争をし
ている船を敵味方構わず攻撃しています。無視できないレジスタンス
活動です。もしせっかくアジられている国民や前線の兵士にこれが知
れ渡ったら、どうなるでしょうか。
 ハウルの城が広報活動を始めたら?
 やばいなあ。
 さすがに旧ペンステモン夫人もあわてます。
 王様に大目玉を食らいそうなことは非常に想像がしやすいです。

 さて、これを描くために、また30秒のシーンをちょろっと差込みま
しょう。
 旧ペンステモン夫人とハウルの対決シーンが映画にもあったかと思
うのですが、この中にハウルとペンステモンの立場の違いを鮮明にす
るせりふをいれます。

「もう魔法使いが戦争していた時代ではないんです、戦場を見て下さい」
「ハウル……、政治というのはそんなに簡単ではないのですよ。あな
たはインガリーに被害を与えています。城を明渡しなさい」
(ちょっと弱々しく)
「あなたは爆弾がどれほど国を焼くかを知らないんだ」
 おお、鮮明になりました。


 ■とりあえずの第一案終了

 うーん、かなり広範囲に渡って物語の見直しをし、おおかたの矛盾
は取除いたつもりなのですがいかがでしょう。とりあえず、合計3分
ぐらいのシーンを差込んでおけばとりあえずは誤魔化せそうですが、
他に、これよくわかんないというシーンはあったでしょうか。

「レベル低すぎ!」
 という部分は結構思いつくのですが矛盾ではないのでいいでしょう。
 鮮明な人間模様が描けたのではないでしょうか。

 さて、実はわたし、ここまでの状態で「ハウル陣営」について解決
をしてきました。以前お話しした「ソフィー陣営」にいっさいの手が
加わっていないのです。ただ、これまで解決をしてきた致命的な矛盾
に比べれば、ソフィー陣営が成立していないという部分は単なる魅力
の欠如と言えるレベルです。なので、とりあえず、この時点で第一案
を完了としてしまい、第二案以降でこのソフィー陣営を取上げたいと
思います。

 まあ、簡単に言ってしまえば、「レティーとマーサを復帰させる」
という書いているだけでも血が沸立ってくる大手術を行うのですが、
これは大規模な手術となりますので、ここで一応の区切りといたしま
す。

 お疲れさまでした(ぐったりと疲労しました ^_^;)。

 ■次号以降 「レティーとマーサを映画版に組込めるか」

 原作と映画版の最も大きな違いはこのレティー・マーサの存在の欠
如ではないでしょうか。わたしの原作分析では『魔法使いハウルと火
の悪魔』の心臓部、ですのでこの二人が欠如して流れてしまった血を
映画版に輸血して移植もしてしまおう、というのが第二案で展開され
る流れです。

 やっと後ろ向きな不良債権処理が完了し、ここから積極的に物語を
魅力的に組み直していくという、エキサイティングな展開になってき
ました。
 次号以降もお楽しみにいただければ嬉しいです。

 (なんかいろいろな部分を放置して終った気がしないでもないですが)


 ● 04 ● 編集後記 「ショーシャンクの空にを見ました。」    :[ 06 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 さて有名な、アカデミーを独占した作品ですが、この作品スティー
ブン・キングの「刑務所のリタ・ヘイワース」という作品を原作にし
ていることをご存じでしょうか。ショーシャンクを観た後、衝撃を受
けて原作を読んだのですが、その原作のエッセンスをひろいながら見
事にハリウッド映画化している事実にぶつかり、なんとすごいのだろ
うと、びっくりしました。
 まあぶっちゃけいって50%ぐらい改変しているんです。
 物語解析的にその脚本化の流れを追ってみたくも思いましたが、と
りあえずは今、ハウルをやっているので、放っておきましょう。

 しかし、よくハリウッド映画を馬鹿にする人がいるんです。
 でも千と千尋の神隠しの良さ、アカデミーでも評価されましたよね。
 それ以前の問題を放置したまま、ハリウッドを馬鹿にしても仕方な
いと思うのですがどうでしょう。
 アカデミー賞の長編アニメーション賞はピクサーのためにあるよう
なものと言われて久しいですが、日本のアニメーション映画もとりあ
えずアカデミー獲るぐらいの意気込みで作ってもらいたい物です。
 日本だけで通用しても仕方ないですし。

 ハリウッドの底力、堪能しました。
 日本映画にもそれぐらいの底力、期待しています。

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                           第10号    2005/3/5
   「 新 ・ 物 語 解 析 」
    〜 宮崎駿監督「魔法使いハウルと動く城」を原作からつくっちゃおう! 〜

 発行者:hikali
   文:hikali

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