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                           第一号   2004/06/06
   「 新 ・ 物 語 解 析 」
    〜 宮崎駿監督「魔法使いハウルと動く城」を原作からつくっちゃおう! 〜

 ● 01 ● しまった! 「ハウル」が売ってない!          :[ 01 ]
 ● 02 ● ハウルのプロットは映画には不向き            :[ 02 ]
 ● 03 ● ジョーンズ作品の特徴                  :[ 03 ]
 ● 04 ● イギリス独自の世界観の問題               :[ 04 ]
 ● 05 ● 「ハウル」の映画化は前途多難のよう           :[ 05 ]
 ● 06 ● 【おわりに】  仕事死にそうです(^_^;         :[ 06 ]

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 こんばんわ! 物語解析のhikaliです。
 新・物語解析にご登録頂きましてありがとうございます。

 本日より、新・物語解析「わたし流『ハウルの動く城』をつくっ
ちゃおう!」を開始します。このメールマガジンは、今年の秋にも
公開予定と言われる宮崎駿監督「ハウルの動く城」の公開に先駆け、
その映画版ストーリーを原作より作ってしまうという超早取り(<早取りすぎ……)な
メールマガジンです。原作となる「魔法使いハウルと火の悪魔」
を読破していないとついてこれないかもしれない、豪快な企画ですが、
みなさま最後までよろしくお願いいたします。

 ● 01 ● しまった! 「ハウル」が売ってない!          :[ 01 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 のっけからお詫びなのですが……、
 わたし、ちょっと間違った事を言ってしまったようです。
 実は「魔法使いハウルと火の悪魔」、レア本のようなのです。
 う、す、すみません……。

 前回、「どこにでもある」とかなんとか言ってしまったのですが、
その後、ハウルの続刊「アブダラと魔法の絨毯」を探しに新宿を彷徨
していたところ、新宿の某大手書店にさえ「ハウルは売ってない」
ことに気付いたのです!

 「地元の田舎書店には売ってるのに!」

 どうやら、ハウルフェアを催している書店でしか扱っていない様子。
 「ジブリの原作にでもならなければ、流通しない本」
 だったわけですね……。

 という訳で、このメールマガジンは、「そんなレア本を読破している」
超レアな方しか読めないという、近年まれにみるレア・メールマガジンです。
どうぞ絶滅危惧種を見るような暖かい視点でお読みいただければ幸いです。


 ● 02 ● ハウルのプロットは映画には不向き            :[ 02 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 さて、いきなりです。みなさん「魔法使いハウルと火の悪魔」を読んで
どんな印象を受けたでしょうか。
 面白い、子供っぽい(子供向きですし…)、意外性があった。
 様々なご感想を抱いたかも知れません。
 そんな中できっとみなさんに頷いていただけると思うのですが、
「ハウル」は解説にもある通り「めくるめくようなプロット」を持っています。

 三人姉妹の長女がヒロインで、90歳のお婆さんにされてしまう。
 次女と三女が魔法で入れ替る。
 ハウルが次女を狙っていて、実はハウルの弟子も次女を狙っている。
 あれ、でも次女と三女は入れ替っていて、ん? 結局最後は長女と結ばれる?

 なんか複雑ですね(^_^;
 まだあります。

 宮廷魔術師と王弟が行方不明になっていて、途中で長女が命を吹込んだ
かかしが、実は王弟の一部分で、犬と、えーと、次女の恋人も関係が
あったような……。

 極めてというには大袈裟かも知れませんが、「ハウル」は、少なくとも
「一度読んだだけでは把握しきれない」複雑さを持っています。
 しかし、よく考えて下さい。
 この原作は映画にしなければなりません。
 宮崎監督は映画にすると断言しており、声優に木村拓也を採用することを
決めてしまいました。つまり、キャンセルするにはキムタク・キャンセル代
を払わなければならず、とてもではないですが、あそこまで行ってしまえば
腹をくくるしかありません。

 しかしよく考えてみると、
「一度見ただけでは把握しきれない映画」
 って、映画として失格ですよね。
 だって、一度しか見ないのが普通なのですから。

 本なら良いです。苦もなく二度読めるので。
 でも映画は、もう一度入場料を払わなければ、見ることはできません。

 スタジオジブリは、とてもアナーキーな映画手法をとらない限りは、
この原作を「分りやすく」してくるはずです。しかし、この物語は「物語要素」
からして複雑で、この要素の繋がりを再構成しない限り「分りやすく」は
ならないのです。

 まず、その話からしましょう。


 ● 03 ● ジョーンズ作品の特徴                  :[ 03 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 「ハウル」の作者である、ジョーンズの作品を「要素による解析」で分析
すると、一つの特徴に出会います。

 それは、
 「新たな舞台が登場する度に、そこにその舞台の新たな人間関係が登場する」
 というものです。つまり、登場する舞台の数だけ人物関係が構成されている
のですが(これだけでも複雑です)、困ったことにジョーンズはその複雑さを
調整するため、
「何らかの魔法的手段を使って(人物を変身させて)」
「実はこいつは、あの人だった」
 という手法で人物を整理する方法を頻繁にとるのです。
 一人や二人ではありません。ほとんど全員が正体を隠しているとでも言えそ
うなぐらい変身をさせ、「めくるめくプロット」を実現しています。
 わかるでしょうか。
 これでは映画になりません。


 ■複雑さの原因

 では、何故、ジョーンズの作品はこんなに複雑なのでしょうか。
 恐らくジョーンズ自身がこのようなプロットが好きだと言うこともあるのですが、
物語解析的に分析を始めると、物語のゆるい整合性の問題にぶつかります。

 例えばかかし。
 このかかしが王弟の一部である必要はどこにも見あたりません。
 また、ウェールズの女教師が、荒野の魔女の火の悪魔である必要はあるでしょうか。
これもどうもなさそうな気がしてしまいます。
 物語の整合性がゆるめなのです。
 そのために物語に自由度がありすぎて(なんでもありになってしまうので)、
あちこちの人間関係を複雑怪奇な関係線で結びつけ蜘蛛の巣のようになって
しまっているのです。
 どうしてこうなってしまうのでしょうか。


 ■主人公の視点で楽しい物語

 ジョーンズの作品は、ハリウッド映画やスタジオジブリ作品のような大衆映画の
物語に比べて、「背景世界の展開」よりも「目の前の世界の展開」に重点を
置いています。

 この「魔法使いハウルと火の悪魔」はどうでしょうか。
 この物語も「背景世界で重要なこと」よりも「ソフィー周りで重要なこと」を
中心に物語が動いています。
 この物語の背景世界の中軸は「荒野の魔女」が「インガリー国を危機に貶めて
いること」です。しかし、物語はソフィーの恋愛騒ぎに始終します。あくまで
ソフィーの視点で物語が構成されているのです。

 ソフィーが開く扉一つ一つの向う側にそれなりの世界があります。
 そこに人間関係が結ばれていなければならないから、扉を開く度に(1章毎に)
新たな舞台が展開し、そこに楽しげな人間関係が構築されます。
 どうですか?
 ずいぶん、登場人物が増えそうな物語ですよね(^_^;

 これを回避する手段として、ジョーンズはこの別々の舞台の人物を、
 「実はこちらの世界で言うところのこの人」
 という手法を使って、登場人物を整理します。

 ものによっては、「最後の最後の帳尻あわせ」のように見えてしまうものも
あります。この手法がジョーンズのお得意技なのだとは思うのですが、物語の
整合性という視点からみると、ちょっと首を傾げたくなる部分もあります。
 厳密というよりは、かなりゆるめの整合性で物語を構築しているのです。
 それにより、ソフィーの視点で次々と楽しい事が起るプロットを実現してい
るのです。

 きっとジョーンズはキチッと精密機械のような作品を書く作家というよりは、
楽しさを重要視した作家なのでしょう。もちろん、シェイクスピアであっても
整合性に疑問符をつけたくなる作品もありますし、一部の隙もない作品はまれ
です。
 しかし映画にするには、すきっと整然とした、高度な整合性を持ったプロット
である必要があります。
 そうでなければ、分りにくいからです。


 明確な問題点が一つ浮び上がりました。

 「魔法使いハウルと火の悪魔」の人物関係を整理しなければならない。
 しかも、物語の楽しさを損わないように。

 難題です。これは次回考える事にしましょう。
 ようは物語の方針を決め、整理する基準を定め、要らないものをどんどん削り、
統合していき、人間関係を効率的に構築するのです。
 なんか、リストラみたいなやり口ですね(^_^;
 整理する対象が物語であるので、楽しくはあるのですが。



 ● 04 ● イギリス独自の世界観の問題               :[ 04 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 「魔法使いハウルと火の悪魔」には、
 日本人にはなじみのないものが多数出てきます。

 例えば、ウェールズ。
 例えば、予言となる詩。
 例えば、「長女は成功しない」という法則。
 例えば、ハッターという名字はありふれているということ。
 どれも日本人には、「なに?」と首を傾げてしまうぐらいなじみのない
ものであることは間違えがありません。
 7リーグ靴ぐらい分りやすいものであるのであれば構わないのですが、
さすがにウェールズは困ります(日本だったら、四国とでもすればいいの
でしょうか)。もし、地理が得意でない方でしたら、これも架空の世界と
勘違いしてしまうこと請合いです。

 こういった、その物語が描かれた社会文化に根ざした設定がでており、
それを外国で映画化しなければならない場合、どうしたらよいのでしょうか。
 独自の世界ということでそのまま採用する場合もあるでしょう。
 しかし、もし興行的成功をしたいのでしたら、分りやすくする必要があります。
 ハウルのケースを見ていて顕著なのは、そういった共通認識を前提で
書いているので、なんの説明も、伏線もなく、突然に「馴染ない設定」が
登場してしまうということがあります。
 これはどうしたらよいでしょうか。
 宮崎作品にそのヒントを探してみましょう。


 ■「ウェールズ」ではなく、「黒の扉の向うの世界」という翻訳

 宮崎作品に「紅の豚」という作品があるのをご存じかと思うのですが、
この作品は第一次大戦と第二次大戦の間のアドリア海を舞台にしています。
 しかし、「紅の豚」では、その社会背景である「ムッソリーニの台頭」と
いう事件をぼかして描き、それが社会的に与えている影響だけを描いています。
途中アドリア海という言葉が出てきはするのですが、特にそれに意味を
持たせてはいません。

 ここがポイントになってくるのですが、「紅の豚」のように、
広く多くの方々に理解しやすい物語を作る際には、出来るだけ固有の文化に
根ざした設定を、
 「ぼかす」
 必要が出てきます。
 つまり、「ハウル」でジョーンズがとった手法とは逆に、固有名詞を出来る
限り使わない、固有名詞を使わなければならない設定には出来るだけ直接的な
物語への関与は避け、間接的でしかもぼかしぎみに描く、という手法をとる
必要があります。

 例えば、ウェールズという舞台がこの「ハウル」には登場するのですが、
ジョーンズはこの単語を頻繁に使います。ウェールズは英国の中の一国
(一地方でもかまいませんが)であり、日本で言うところの「北海道」「九州」
というレベルの知名度のある地名なのです。
 しかし、英国では知名度があっても、英国人が北海道と言われてどこか
わからないのと同様に、日本人には「ウェールズ」はぴんと来ません。
 ではどうしたらいいでしょうか。
 宮崎監督がとりそうな手段は、誰にでも通用する言葉に置き換えることです。
 例えば、「黒の扉の向うの世界」のように。


 ■ハッターはありふれた名前と断言する(早めに)

 また、ヒロイン、ソフィーの名字「ハッター」は英国ではありふれた名前の
ようです。日本で言えば「鈴木」みたいな名前なのでしょうか。
 しかし残念なことに、日本人には「ハッター」がありふれた名前とは分らな
いのです。わたしなどは、ジョーンズの文面を読んで、「ハリー・ポッター」
というのはありふれた名前なのだと驚きを持って気付いたのですが、日本人に
はなかなかそういう部分は分らないものです。

 これに対処する方法は、アニメ「銀河鉄道の夜」に見ることが出来ます。
 物語の邪魔にならないタイミングで、「端役の雑音」として挿入するのです。

 「銀河鉄道の夜」は宮沢賢治の傑作ファンタジーですが、この作品のアニメ版
(映画版?)に良質な作品があります。YMOの細野晴臣がBGMを作っていたりする
のですが、わたしはこの作品がとても好きだったりします。
 「銀河鉄道の夜」は星座の神話に基づいた独特の世界観を持っていますが、
これを説明するときに、「とるに足らない端役に雑音のように話させる」という
方法をとっています。

 (ちなみにこの作品では、タイタニック号の事故の犠牲者と思われる三人が
登場するのですが、賢明にも賢治は「タイタニック」という固有名詞を
伏せています)

 「ハウル」に適応するとしたら、帽子屋でソフィーが働いている際にお客様を
怒らせてしまうシーンがあると思うのですが、その際にお客様に、
 「ハッターなんてありふれた名前の店にもう用はないわ」
 とでも言わせてみたらどうでしょうか。その雑音をしりめに、ソフィーは
お客様を怒らせてしまったことをうじうじと悩むのです。
 どうです? シーンが浮んできたでしょうか。


 ● 05 ● 「ハウル」の映画化は前途多難のよう           :[ 05 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 さて長々と書いてきましたが、いかがだったでしょうか。
 大きな問題となりそうな部分に対処する方策がおぼろげながら見えてきたの
ではと思います。次回以降、実際に物語を分析し、要素に解体し、物語の魅力
を失わないよう再構築をして行きますが、わたしが見落している部分やわかり
にくい部分もあるかと思います。
 もしそういう部分がありましたら、こっそり教えていただけたら幸いです。
 もちろん、公然とおっしゃっていただいても構いませんよ。


 ● 06 ● おわりに  仕事死にそうです(^_^;           :[ 06 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 新・物語解析の第一号ですが、約束していた日付より若干遅れての発刊と
なりました。
 原因は、わたくしの本業が残念なことに物語の解析ではなく(本当に残念
です)、Webサイトのプロデュース・運営であり、その立ち上げ時期と
重なってしまったためなのですが、これが死にそうな状況にあるのです。

 「わたし、駆出しなのに、事業計画立ててる。しかも日経に載るし……」

 と言えばなんとなく状況が分るのではないでしょうか。
 幸いにも通勤時間が長いので、その間にメールマガジンを書くことぐらい
は容易いのですが、状況が状況だけに、うーんな感じです。

 と言うわけで最後までお付合いいただきまして、まことにありがとうござ
いました。次回は、6月20日の発刊予定です。あくまでも予定となってし
まうのが申し訳ないのですが、事情が事情だけにご了承下さい。
 次回をお楽しみにしていただければ嬉しいです。

 あ、忘れてました…。
 宿題、まだ受け付けてますので、お答え下さいませ。
 http://www.seikou-toutei.com/nmk/form/shukudai1.php


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                           第一号   2004/06/06
   「 新 ・ 物 語 解 析 」
    〜 宮崎駿監督「魔法使いハウルと動く城」を原作からつくっちゃおう! 〜

 発行者:hikali
   文:hikali

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