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                             第8号   2004/12/29
   「 新 ・ 物 語 解 析 」
    〜 宮崎駿監督「魔法使いハウルと動く城」を原作からつくっちゃおう! 〜


 ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ http://www.seikou-toutei.com/nmk/index.html ■


 ● 01 ● はじめに                      :[ 01 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 みなさん、こんにちは。
 新・物語解析「わたし流『ハウルの動く城』をつくっちゃおう!」
をお読みいただいて本当にありがとうございます。

 このメールマガジンは、11月20日より公開されている、宮崎駿監督
「ハウルの動く城」の公開に先駆け、その映画版ストーリーを原作より
作ってしまったという超早取りなメールマガジンです。

 原作となる「魔法使いハウルと火の悪魔」を読破していないとついて
これないかもしれない、豪快な企画ですが、みなさま最後までよろしく
お願いいたします。

 本日は、とりあえず見ての感想です。
 本格的な解析等は、読者のほとんどの方が見られているであろうと
思われる時期を過ぎましてから、お送りいたしますので、お楽しみに
していただければ幸いです。

 もし、これまでの経緯を読んでいない、昔のメールを探すのがめんどく
さいという事がありましたら、物語解析のページを更新し、バックナン
バーをお読みいただけるようにしましたので、こちらをご利用下さい。

 ■新・物語解析ページ
 http://www.seikou-toutei.com/nmk/

 本当に更新がされないページでごめんなさい。
 うーん、コマッタ。



 ● 02 ● 「いま、会いに行きます」みてきました         :[ 02 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 「いま、会いに行きます」
 を見ました。ラスト30分は涙ぐんでしまいました。
 などとどうでもいいご報告はおいておきまして、実は、この「いま、
会いに行きます」近年まれにみるパーフェクトストーリーでした。プロ
モーションの割には異様な強さを誇っており、映画館の評価も最上だっ
たので、これは何かをしてくれるに違いないと思っていたのですが、ま
さかこんな完璧に近い出来だったとは……。
 ハウルと同じ東宝だけに「いま、会いに行きます」チームの人は大型
作品がバッティングするという状況にやりきれない想いをしているだろ
うなあと思いつつ、映画ファンとしては「全部の映画がこれぐらいの出
来だったらなあ」と思ってしまいます。
 誰にでも分るシンプルなストーリー。
 それでいて最後まで読み切らせない意外性。
 随所に光るシーン。
 ラストへ向けての数々の伏線。
 複雑な状況を分りやすく、しかしまとめ上げる構想力。
 「いま、会いにゆきます」というタイトルの意味が分った瞬間の感動。
 本当に丁寧に作られた映画だなぁと、感心することしきりでした。
 さすがにこのレベルになってくると、もう解説などしても野暮になる
だけで、観て下さい、損しませんと言うだけなのですが、日本の映画も
捨てたもんではないなと東宝の面目躍如といったところではないでしょ
うか。


 さて、話は変って困ったちゃった方。
 映画版のハウルだったのですが……。
 う、うーん、物語的にはかなり外しちゃったんじゃないかなぁ……。
 わたしの目から見てもストーリー展開がめちゃくちゃだし、Yahoo掲
示板でもストーリーに対する酷評がひどいものでした。これがたとえ
0.1%の人が怒り狂うだけでもやっていられない電気屋さんとかお客様商
売ならばとてもではないけれどやっていけないのですが、うーん、映画
で1800円取っておいてこれはないんじゃないの、と呟きたくもなります。
 ストーリーの構築なんて一週間もあれば出来るものですし、わたしな
んか5案ぐらい提出してあげたい気分になりました
(作り直してくれることが前提ですが)。

 と言うわけで、期待したあげくにがっかりと気も沈みそうになります
が、ここは一発奮起しまして、
 「宮崎監督に作れないなら、自分で作っちゃおう!」
 と方向転換する事にしました。
 題しまして、
 「納得できる映画版ハウルを、自分で作っちゃおう!」
 とりあえずジブリが選択した条件を加味しながら、3案ほど、ストー
リーを組んでみたいと思います。
 第一案が、「現行のジブリの用件を全て飲んだストーリー」
 第二案が、「一部飲んだストーリー」
 第三案は、「わたしがこれくらいは作ってよというストーリー」
 の予定です。
 これまでの展開に比べれば、かなりがさつなものになるという予測は
していますが、多少なりともお楽しみいただければ幸いです。わたしも
楽しんでやってみることにします。

 さて一にも、二にも、第三案から話したくなってしまうのですが、こ
こはこらえて、第一案から始めたいと思います。
 映画の考察から始めましょう。
 あれは……、と懐かしげに語っても仕方ありませんので、とりあえず
ジブリ版の意図を俯瞰して作り変えてみましょう。

 長かった。
 始めましょう。


 ● 03 ● プランA                       :[ 03 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 さて、ジブリの作った映画版を見て、あなたはジブリがどのような
選択をしたとお考えでしょうか。色々な意見はたくさんあります。し
かし、物語の分析屋として、あの映画版を見た際に、一目で見抜けた
のは、
「物語の超シンプル化」
 そして、
「映像と台詞による装飾」
 でした。

 波瀾万丈に満ちている、そして、深い物語であるという修飾語は、
あの映画版ハウルには相応しくありません。平坦でした。そこに動き
のある物語がなかったのです。
 共感できる人は、支持をするかも知れません。
 幅広く、ごく一部の支持を受けたと考えても、それが物語に対する
支持かと言えば、映画に対する支持ではないかと思えます。
 奥行の深い物語を作るのはそんなに難しい事なのでしょうか。
 いえそんなものは、1週間もあれば、その原型なんて簡単に作れて
しまうものなのです。
 バラバラに分解をして、パーツに分けて、物事を考えてみましょう。
 yahoo掲示板などでの評を読んでいてなぜ誰も物語を語らないのだろ
うと不思議に思わないでしょうか。なぜ台詞を語るのだろう、背景を
語るのだろう、思惑を語るのだろう、表現を語るのだろう、音楽を語
るのだろう、絵を語るのだろう、人を語るのだろう、会社を語るのだ
ろう、自分の想いを語るのだろう、体験を語るのだろうと思わなかっ
たでしょうか。
 なぜ、物語を直視しないのか。
 それが不思議でしかたありません。

 ■背景世界と人物の分離、人物関係の簡略化という戦略

 ジブリ版のハウルを見ていて、分析屋さん的に感じたことは、
 「あの複雑なストーリーを、大鉈でばっさりと手足を落すように、改変した」
 という事でした。
 両手を落し、足を落し、首を切って、頭をすげ替えたという印象を
与えるストーリーに改変がされていました。その結果はどうでしょう
か。活動的なストーリーと言うにはほど遠い内容になったのではと、
わたしは考えます。
 もう少し丁寧に物語を解体して欲しかった、と思えてなりません。

 ジブリが行った大きな改変は次の三つです。
「ハウルとソフィーに人物関係を絞る(しかも簡略化する)」
「舞台背景を一次大戦期にすげ替える」
「ハウルたちに背景世界の解決をさせない」
 原作においてハウルとソフィーがやっていた事を大幅に削減し、ソ
フィー自身、そしてハウル自身からも、大半の要素を削減しました。
一見すると非常に合理的なリストラが行われたように見えますが、少
なくとも物語の解析屋、そして映画を楽しみにしていた人から見れば、
「なんだ、そんなにやらないことにしてしまっていいのか」
 と思えるほど、あるべき要素、起すべき事態が失われた物語に変貌
しました。

 シェイクスピアや、藤子不二雄の作品を見ると常にゾッとするので
すが、非常に高い物語技術で、複雑な事態をいともシンプルに見せる
ため、アクロバティックな離れ業を次々と繰り出し、物語を巧みに進
展させています。
 観客から見た物語の複雑さと、物語要素の複雑さはイコールではな
く、優れた物語技術者はお手玉でもするように、物語展開を巧みにコ
ントロールします。
 ジブリ版ハウルは極めてシンプルな物語要素で構成されていますが、
実際の観客の印象はどうだったのでしょうか。
 謎解きをする声はよく聞くのですが、
「物語って、いつからパズルになったの?」
 と思ってしまうほど、バラバラに分断されたパーツをむりやり組合
わせる意見に出会います。
 なぜあれだけシンプルなのに、パズルをしなければいけないので
しょうか。
 そこに高い物語技術がなく、物事が物語として統合されていないからでは。

 ■世界背景と人物の分離

 ジブリ版ハウルで最も重要な点は、「主人公が物語背景の解決をし
ない」という部分です。原作においては、荒野の魔女とハウル・ソフ
ィーが対決しますが、ジブリ版では、主人公達はなんの解決もしてい
ません。これはよい、わるいの問題ではなく、していないということ
を認識することが大切です。
 ここで、ジブリの戦略の一つが伺えます。
 つまり、世界を改変するような主人公は書きたくない、という戦略
です。これは戦略なので、よい、わるいの話をしても意味がありませ
ん。なるほど、そういう戦略をとったのですね、と言って納得するし
かありません。
 ここまでくると、この戦略から、「背景世界の問題が、主人公ごと
き(強力な魔法使いハウル)に解決出来そうであってはならない」と
いう次の課題が生れてきます。そこで、世界背景を「魔法使いの国の
戦争」から「泥沼の近代戦争」に変更しました。これは非常に理にか
なった変更です。
 確かに現実世界に生きている私たちにとって、戦争は個人の力でな
んとかなるものではありません。だから、戦争をたった一人が解決す
るようなスーパーマンなストーリーは避けたかったというのが、この
戦略をとる理由ではないでしょうか。
 ここはあまり問題にはならなそうです。
 重要な選択でした。

 ■人間関係の簡略化という戦略

 続いてジブリは、原作ハウルの人間関係を大幅に削減しました。
 レティーは消え、マーサは無力化し、サマリン・ジャスティンはい
なくなり、荒野の魔女に想いはなくなり、ソフィーの両親もほとんど
意味がなく、ペンステモン夫人がサリバンという名前に変りました。
 ここまででも大きな改変ですが、ここからさらに進んで、マイケル
は主導権を失い、カルシファーは悪魔というよりはおどけたキャラク
ターに変りました。
 さてずいぶん減ってきました。ですが、ジブリ版はさらにリストラ
を続けるのです。もうどこに改変する所が残っているのだろうと探し
てしまいそうになりますが、重要な人物が抜けていました。
 ソフィーとハウルです。

 骨抜きという言葉は、あまり耳にしたくない言葉ですが、ずいぶん
骨が抜けたソフィーとハウルになったなと、原作を読んだ方は想った
のではないでしょうか。
 ソフィーとハウルの間にある関係線、これの変化を描いてこそ恋愛
物語という気もするのですが、映画が始ってたった30分ぐらいで、こ
の期待も裏切られた気持ちになりました。もうこの出会いで、この二
人のラストまでの道のりが読めてしまうのです。
 原作において、ソフィー──ハウル間で起っていた奔放な関わり方
の変化が、このジブリ版では失われてしまいました。そうしないと分
りにくいという判断があったのだと思いますが、ここが核だっただけ
にそれが失われてしまうことは非常に残念な事でした。
 残念などと言っていても仕方ありません。
 少なくともプランAでは、ジブリの提示した三つの用件を飲込まな
ければならないのです。
 さてこれは難題です。
 ちょっと解いてみることにしましょう。


 ● 04 ● 「好意」「好意」の関係線に波乱は生み出せるか    :[ 04 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 さて、いよいよ条件が抽出出来たようです。
「ハウルとソフィーに人物関係を絞る(しかも簡略化する)」
「舞台背景を一次大戦期にすげ替える」
「ハウルたちに背景世界の解決をさせない」
 の三つが大きな条件です。
 これを上手く解決するために、物語を構築する上で最も重要な所か
ら始めてみましょう。それは、ソフィー──ハウルが「好意」「好意」
の関係線から始るという部分です。

 「好意」「好意」の関係は、物語解析的には「あまりにも安定して
いて、波乱を生まない」と一般に分類される関係です。状況が複雑で
より所のない場合には、非常に効いてくる「安定線」なのですが(ハ
リウッド映画などではよく使う)、この「安定線を中心」に物語を構
築するのは、それなりの技量が必要です。
 O.ヘンリーなどの短編では、この「好意」「好意」の関係の二人
ですらすれ違ってしまうという、巧みな物語展開をするストーリーが
あったりします。
 過去の名作はどのようにこの問題を解決しているでしょうか。

 ちょっとだけ振り返ってシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」
のロミオ──ジュリエット関係線を思い返して見ます。藤子不二雄の
「のび太と鉄人兵団」ののび太──リルル関係線を思い出してみます。
 どう考えても好意と好意の関係線でしかないこの関係線が屈指の波
瀾万丈を生み出しているのは何故でしょうか。
 この問いの答えはジブリの用件であるソフィー──ハウルを「好意
と好意」の関係で始終物語を展開するという条件の上でも、この物語
が波瀾万丈にすることが出来るという事を意味します。

 ん? 何か見えてきましたか(^_^;
 ずいぶん早いですね。
 ジブリが致命的に消してしまった事があることに気付きましたか。
わたしは開始5分でこの映画が失敗であることに気付きましたが、み
なさんはこれに気付くことが出来たでしょうか。

 シェイクスピアも、藤子不二雄も、ジョーンズも、たった一つの条
件を加えて、この「好意」「好意」の関係を中心に物語を構築してい
ます。
 それは、「二人の所属する陣営が違う」という部分。
 つまり、敵同士(?)の二人が好意を持ち会うという部分が、実は
「好意」「好意」の関係線を中心に物語を構築する定跡なんです。

 原作ハウルの解析を始めるに当って書きましたが、原作の命は「男
の子の世界と女の子の世界のせめぎ合いと融合」とわたしは言いまし
た。
 「男の子の世界のハウル」と「女の子の世界のソフィー」
 の「好意」と「好意」の関係であれば、波乱に満ちたストーリーが
描けるはずなのです。なんたって、所属している陣営が違うので。
 そうそう、しっかり書けば恋愛はなんでも波瀾万丈のストーリーに
仕立て上げることが出来るはずなのです。そう思い返して見れば、な
んと恋愛物語があちこちに乱立している事でしょう。
 しかし、超一流のラブストーリーというと、なかなか見いだすこと
が出来ません。それを原作ハウルを手にしたジブリに期待したのは、
ちょっと見当違いだったのかも知れません。原作は80点、なのにジブ
リは40点もとれそうにありません。80点の答案を読めなかったと思う
以外にありません。
 (ちなみに、「いま、会いに行きます」は70点。これをパーフェク
トと言ってしまうのは、時代の力も加味して言っているのです。現時
点ではパーフェクト、でも100年残る映画ではない、で分るでしょうか)


 ■閑話休題 「男の子世界」と「女の子世界」

 さて、ちょっとここで一休みをして、「男の子世界」と「女の子世
界」について話しましょう。実は知人から、ここをもっと話して欲し
かったとリクエスト受けたからです。

 以前、触れたときはさらっと流しましたが、原作の命は「男の子の
世界と女の子の世界のせめぎ合いと融合」と書きました。これが分る
人は相当読み込んでいる人だと思うのですが、わたしがこれを発見し
たのは、「ロミオとジュリエット」の中でした。

 ロミオとジュリエットは題材としては、あまりにもレベルが高すぎ
てまるで紙面が足りないのですが、端的に言って「ロミオ周り」と
「ジュリエット周り」と「ロミオ──ジュリエット周り」では展開さ
れる世界がまるで違うという言葉で最終的には集約します。

 シェイクスピアの台本では凄まじい部分では二三行おきに世界が入
れ替るほどの目まぐるしさで、これにいちいち言及していたら、一冊
の本になるぐらいの文量になってしまうでしょう。シェイクスピアは
500年に一人の天才です。そんな人がさらっとやっていることを解説
することほど無意味なことはありません。

 ちょっとレベルを落して、あなたの周りで起っている事に目を向け
てみましょう。
 男の子のやっていることや考えている事、意地を張っているところ
って分りにくくないでしょうか。反対に女の子のやっていること、大
切にしていること、コミュニケーションの仕方って、男の子には理解
されがたいのではないでしょうか。

 現実的な物語を描きたいと思うとき、本来であれば「男の子」と
「女の子」の世界を描き分けるのが本当なのです。
 しかし、「少女漫画に出てくる男の子を、実際の男の子が分らない」
「少年漫画に出てくる女の子を、実際の女の子が分らない」という例
を上げれば明白なとおり、これを描き分ける技量のある人はなかなか
ないのです。少女漫画、少年漫画という世界の中でそれぞれが一緒く
たに描かれてしまうのです。

 しかし、ジョーンズはそれを描き分け、衝突させ、融合させました。
 日常的にさらっとやっていたシェイクスピアとはさすがにレベルが
違いますが、これがあの物語が名作たるゆえんです
(物語の辻褄は合っていないけど)。



 さて、少し遠回りをしましたが、この困難な第一の用件を突破して
みましょう。ソフィーとハウルを初めから好意同士の関係で始めるた
めには、「それぞれが違う陣営に属している」という解法がよいよう
です。
 そこで、それぞれの陣営をしっかりと組み上げてみる事にします。



 ● 05 ● ハウル陣営                      :[ 05 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 ハウルの陣営は主に言って、「ハウル」「マイケル」「カルシファー」
からなります。ジブリ版ではこのハウル陣営をはっきりと色彩付しない
ままに、物語を作ってしまい、この人たちはどういう人たちなのかよく
分らない作品になってしまいました。しかし、物語の構造を正確に把握
すれば、
 「本来であれば、サリバン(ペンステモン夫人)の部下であるが」
 「戦争がイヤで(そのくせ戦場に勝手に出ている)サボタージュをしている」
 という人物達であることが分ります。
 つまりハウル陣営は、サリバンを頂点とする魔法使い達の世界に刃向
う、レジスタンスな訳です。ずいぶん過激な言葉ですが、敵味方限らず
軍用と見えれば問答無用に攻撃を仕掛けるようなやり方が「過激でない」
とはわたしには思えません。
 なるほど、戦争に対する抵抗運動なのでしょう。
 しかし、それは「平和的でない」抵抗運動なのです。
 あれ? でも、なんでハウルはこんな事をしているのでしょうかねぇ。
 それと、マイケルとハウルの関係って、どうなっているのでしょうか。
 序盤の言葉ではずいぶん兵士に同情的だったのですが、いつの間にか
敵意に変っていますねぇ、なぜでしょうか。実はこの部分、途中から敵
対関係が「荒野の魔女」から「サリバン」に変ることで巧妙にすり抜け
ようとしているのですが、これはごまかしくさいやり方に感じます。こ
ういう質問にしてみると、ハウルの心理描写が(しかも重要な)完全に
抜け落ちていることに気付きます。

 説明するとこうなるのではないでしょうか。
 ハウル・マイケル・カルシファーが社会と関わっている関わり方が
「反射的行動では示されている」が「活動では示されていない」。その
くせ、行動はかなり過激な行動をとっている。
 こ、これって、一昔前のハッカーに似てませんか?
 そういえば、Netskyの作者もこんな無邪気な魔法使いだったような。
 うーん、どこでどうやってこんな人たちになってしまったのでしょうか。
 ねじれにねじれてこんな風になってしまったのだろうなあという推測
が立つのみです。

 さて、この辺から立て直してみることにしましょう。
 わたしたちは、背景世界を登場人物の行動を通してしか見ることが出
来ませんので、出来うる限り背景世界に関係ある(しかし、解決はしな
い)ようにしましょう。それよりもまず、ハウル陣営の活動を決めまし
ょう。
 そうだ忘れていました。
「ハウル陣営は男の子の世界である」
 という第一の縛りがあることを忘れていました。
 これも追加しておきましょう。

 ハウルと世界との関わり方を見ると(ジブリ版)、最も素直な解決方法は、
「ハウルの城が戦争に対するセーフハウスである」
 とするのがよいように見えます。
 戦争の被害者が次々と逃げ込んでくる場所で、荒野の魔女もその一人
に当るわけです。まあ簡単に言えば「戦争は二度とごめんだ」な人々の
集合で、その中に背景世界上の重要人物が逃込んできてしまったから、
大変な目に遭ってしまういう解釈で陣営を見ると、素直にまとまりそう
な気がします。
 マイケルも戦争したくなくて逃げてきたのでしょうか。
 うーん、なんかもう話す必要がないぐらいまとまってしまいました(^_^;
 もう、あとは誰にでも描けるのでは? という気分です。
 うーん……、このレベルか(絶望)……。

 ……と、
 放り出しても仕方ありませんので、若干、物語解析的に構造を作って
みましょう。また、この観点からストーリーラインを一部組上げてみま
しょう。
 しかし、うーん。
 こんな事もやってないのか……、と熱意もさすがに冷めてしまいます。
 プランAやプランBを話すのやめて、とりあえずプランCから始めた
くなる理由はこんなところです。

 ■ハウル周りを洗ってみる

 さてとりあえず、映画版でぐちゃぐちゃに放置してあるハウル周りを
きれいに洗浄してみることにしましょう。役割がはっきりし、関係線が
見えてくるはずです。
 手始めに行うべき事は登場人物を列挙する事です。
 これは誰にでも簡単に出来ます。


 ・序盤から登場している人々
 (ハウル周り)
 ハウル
 マイケル
 カルシファー

 (サリバン周り)
 サリバン(元ペンステモン夫人)
 王様

 ・途中から加わる人々
 カカシ(実は隣国の王子)
 老犬(実はサリバンの使い魔)
 荒野の魔女(しかし無力化されて見る影も無し)

 これでよいでしょうか。しかし、よく思い出してみると、カカシ・老犬
・荒野の魔女は全部ソフィーが連れてきます。なので、ソフィー陣営? 
と思えなくもないのですが、ハウル陣営は戦争へのレジスタンス陣営と決
めていますので、こちらに入れて考えた方が把握が容易になるでしょう。
 まず列挙だけしました。

 続いて、サリバン陣営とハウル陣営の関係線を確認します。
 1.ハウルはサリバンの弟子である。
 2.サリバンはハウルの才能を高く買っている。
 3.ハウルは魔法学園に入るときの契約で、王様の前に出るように約束
   している。
 4.ハウルは戦争が嫌いである。
 5.しかし隣国との戦争中なので、ハウルが戦争の役に立って欲しいと
   サリバンは思っている。
 6.そこでサリバンはハウルを捕まえて、戦争をさせたいと思っている。
 7.え? でも、ハウルにしたくないという意志があるのに、どうやっ
   て無理強いするの?

 えーと、うーんと。
 ……言いにくいことですが、サリバンの行動原則に矛盾がないでしょう
か。自分の後を次がせたいとか言っていますから、呪いを掛けて思い通り
にするとかいうのは危険そうですし、そのまま戦争させちゃうと、人に戻
れなくなってしまうらしいですし。
 ん?
 ちょっと、サリバンさん。
 その行動、おかしくないですか?
 ソフィーを捕まえて、ハウルに無理強いをさせたとしましょう。人に戻
れなくなります。困りまりませんか? というか、ハウルをどうしても使
わなければいけないのですか、たくさん部下はいらっしゃるようなのに?
 あとを継がせるのは戦争が終ってから、5年後とかじゃだめなんですか?
 まだまだ先生も長生きしそうですし(原作と違って)。
 あなたの意志は何ですか?
 なにがしたいのですか?
 さっきから重要かつ致命的な質問ばかりしているのに、お茶を濁すよう
な返答さえ返って来る気配さえありません。もしかしてハリボテですか?
 ハリボテのようです。
 人形に意図を聞くことほど意味のないことはありません。

 分るでしょうか。
 こんな重要な所から、もう破綻しているのです。

 ■サリバンを歴史上の人物に置換えてみる

 さて、ここまでのやりとりでサリバンが何の重みも持たない風船のよう
な人物になってしまっていることが分りました。これだけ物語に重要な影
響を与える人がこれであっては、ちょっと映画も腐るだろうと想像するの
はそれほど飛躍しているとは言えないでしょう。

 そこで、とりあえずサリバンに重みを持たせてみます。
 こういうときに役に立つのが、歴史上の人物をモデルにすることです。
 第一次世界大戦でモデルになりそうな人っているでしょうか。
ちょっとさらーっと洗ってみましたところ、どうやら、第一次大戦とい
うよりはその少し前、プロイセンの躍進が続く時期がよいようです。日本
史で言えばちょうど明治維新の頃。そういえば日本政府はプロイセンをお
手本に作ったなんてのを教科書で読んだのを思い出しますが、そのプロイ
センにぼこぼこに叩かれていた人々がどうやら、このサリバン(と言うか
インガリー国)のモデルとしてぴったり合いそうです。
 この名前は誰でも知っているはず。
 ハプスブルグ家のマリア・テレジアはさすがにご存じではないでしょうか。
 このマリア・テレジア、著名なだけに戦争でも連戦連勝というイメージ
がありますが、どうもぼこぼこのずたぼろだったよう。その代り内政の人
としては超偉人で、ハプスブルグ家亡き後のヨーロッパ(特に東欧)は文
化レベルの落込みが強く、その後ソ連体制に組込まれるなど、次々と独立
を失っていったそうです。
 重いです!
 マダムってだれ?
 と突っ込めます。
 とりあえず、この辺の重力を使ってみることにしましょう。

 ……などなど、偉そうにお話ししているわたしが手にしている資料は、
 「江村洋著 ハプスブルグ家史話 東洋書林」
 たった一冊。
 読物としては面白いのですがそれで歴史物語を作ろうだなんていうに
は、いくら何でも不十分。でも、ハプスブルグ家を俯瞰できますし、5
時間ほどで読めそうなので、突貫で物語を作る片手に持つには適した本
でしょう。
 これでやってみましょう。
 まず間違えなく資料不足ですので、歴史的解説の不備はご容赦を(^^;
 といいますか、この辺の歴史に限って、わたし弱いんですよね……。
 ちょっと読んで、
「おー、マリア・テレジアって、プロイセンにぼこぼこにされたんかぁ。
明治維新か、そんな時代かぁ。一次大戦も近いなあ(あれ、50年ぐらい
あるかな?)」
 とか思っている教科書レベルも分っていない人です(^_^;
 そんなお粗末な知識をばりばり活かして、ハウルをもうちょっとはま
しなものにしてみましょう。

 ■歴史背景を設定する

 さて、だいぶ素材がそろってきました。
 まず、マリア・テレジア時代をベースに世界背景を設定してみましょ
う。なんたってジブリ版ハウルは「なぜ戦争しているの?」という問い
にさえ答えてくれず、しかも最後はなんとも「???」な形で戦争が終
結してしまうのです。止められるぐらいならはじめからするなとは、ど
こかから聞えていた声ですが、マリア・テレジア時代はどうだったかを
振返ってみましょう。

 ・ハプスブルグ家にみる婚姻政策拡大

 膨大な版図を誇ったハプスブルグ家ですが、この王朝には戦争によっ
て勝得た領土はほとんどありません。他王家と婚姻し「相手が廃絶する
まで待つ」という凄まじい政略で版図を広げました。当時は医学が発達
しておらず、疫病は蔓延し、子供を産むことさえ命がけという状況でし
た。ハプスブルグ家を見る限りは、女性は「産むか、死ぬか」という二
者択一で、産み続けることイコール生延びることという世界だったよう
です。つまり、ハプスブルグ家の繁栄は、産み続け生残り続けた女性達
の上に築かれていたのです。

 こうして類い希な版図を誇る王朝が征服なしで成立するのですが、テ
レジアの前あたりより隣国のプロイセンが勢力を拡大します。言うまで
もなく、征服型の国家です。テレジア即位時には20歳のうら若き姫君が
跡を継いだことにつけ込んで、トルコ・フランス・プロイセンが一斉に
ハプスブルグの領土を攻め、プロイセンなどは領土を奪ってしまいます。
 その後、テレジアは巧妙な外交政策を採り、仇敵であったフランスと
同盟、さらにロシアとも結び、俗に「三枚のペチコートの作戦」と呼ば
れる、強力な三角同盟でプロイセンを押え込みました。しかしこの後、
フランスでフランス革命が勃発、戦時の英雄ナポレオンが登場し、また
また混乱の中に突入します。

 さてこうやって背景を洗ってみると、戦争をしている理由は、
 「そういう時代だから」「みんなしてるから」「領土を奪われたから」
 という理由のようです。それに対してハプスブルグ家は(戦争ではと
てもかなわないから)外交ないし婚姻政策で対抗し、領地向けには画期
的な教育整備など国力充実に努めます。
 なるほど、ハウルの背景としてぴったりではありませんか。

 ■簡単な手順さえ踏んでいないジブリ版ハウル

 そうやって世界背景を洗ってみると、インガリーに相当するハプス
ブルグ家は「新興プロイセンの台頭」により存亡の危機にあったよう
です。そして常に戦争状態であり、それを回避するために外交政策を
尽していたようです。

 さて、では、こういった世界背景(というか、勝手にテレジア時代
を引用しただけですが)を作り上げた上で、単刀直入に「マダム・サ
リバン」が本当に重要視すべきポイントは、どこにあるべきだったの
でしょうか。サリバン=テレジアで考えてみて下さい。
 ハウルでしょうか。
 個人の能力が戦争を左右できない世界という時点でもう矛盾しています。
 重要視すべきポイントは、隣国の王子、そしてセーフハウス化しつ
つあるハウルの城にこそあるはずです。
 サリバン → 隣国の王子 → ハウルの城 → ハウル・ソフィー
 の順でよかったはず。
 なぜ、この丁寧な手順を踏まずに、
 サリバン → ハウル・ソフィー
 となってしまうのか。
 まどろっこしかったのでしょうか。
 念のために言っておきますと、きちんと説明して物語を構築しないと
いう素人っぽい映画という時点でかなりまどろっこしい状況が発生して
います。こういういんちきはできれば見たくない。
 手抜きと言われても文句は言えない。
 あの映画にあるのは、簡単で難しくない手順さえ踏まないがさつさな
のです。

 なんだ、やっぱり、サリバンの行動には矛盾があったのか。
 隣国の王子の出し方はいくら何でも無理がありすぎたか。

 ここまで説明して、ようやっといかにあの物語がめちゃくちゃである
か、ほんのちょっとの修正でそれが回避できそうなことが、分っていた
だけると思うのですが、どうでしょうか。
 まあ、めちゃくちゃになって出てしまったものの事は置いておく事に
しまして、それを作り直す方に力を注ぐことにしましょう。

 ……っと、行きたいところだったのですが、ずいぶんこんなところで
枚数が込んできてしまいました(^^;
 とりあえず、今回はこの辺にしておきましょう。

 ● 06 ● 編集後記 「ううう、長い……」           :[ 06 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 えーと、ずいぶん紙面が込んでしまった第八回ですがいかがだったでしょうか。
 うーん、批判しかしていない……。
 定評のある書き手の、売り上げの上がっている作品を解剖し、その難点を解説
するのってかなり大変ですね(^^;
 ちょっと情報を出して、「そんな子供だましにはだまされないよ」とやるだけ
でもかなり大変だってことが、わたしも実感しました。

 次回は、本格的にジブリ版ハウルを立て直して見ることにします。
 もういくらなんでも膿は出ないでほしいなあと思いつつ、また次回をお楽しみ
にしていただければ幸いです。
 それでは、また!


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                           第8号   2004/12/29
   「 新 ・ 物 語 解 析 」
    〜 宮崎駿監督「魔法使いハウルと動く城」を原作からつくっちゃおう! 〜

 発行者:hikali
   文:hikali

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